山の頂に熱は迸る

■リプレイ

●眠る山に
　山梨県は三つ峠。
　体中を燃え上がらせる、虎の一回り、二回りと大きくなった体躯のイフリート。
　炎を纏い、動かず、継続的に咆哮を上げて、暴れ廻るイフリートは、休火山に眠る大地の力を活性化させ、ガイオウガの復活に向けて蠢く。
「……炎獣の悲願の為に……大災害を引き替えにさせる訳にはいきませんね」
「ええ。日本中の火山を噴火させる訳にはいきませんね。止めさせていただきましょうか」
　灯屋・フォルケ（Hound unnötige・d02085）に、月影・木乃葉（人狼生まれ人育ち・d34599）がこくり、と頷く。
　とは言え今回のイフリート……休火山の拠点の上で力を溜めているというその動きは、今迄には無いタイプでもある。
　どれだけの力を持っているか、正直解らない……そんな強力と思しきイフリートを倒す事が、今回の依頼。
「……我が太刀で焔を斬れるか否か」
　と刀を構え、静かに闘志を燃やす刃渡・刀（伽藍洞の刀・d25866）に、穂村・白雪（無人屋敷に眠る紅犬・d36442）、清水・美景（高校生ファイアブラッド・d27120）らも。
「そうだな……イフリートとの戦いは好きだ。正義も悪も無い暴力の世界。死が近いところにある程、俺は兄さんに近づける。この戦いで死ぬ事が出来れば、兄さんと同じところに行けるんだ」
「そうですか……だからと言って、敢て死を選ぶようにはしないで下さいね？　まぁ私も、出来る限り皆さんの足を引っ張らないように頑張ります」
　そして……矢崎・愛梨（中学生人狼・d34160）が皆を纏めるように。
「何にしても、私達がイフリートを確実に仕留めなくてはいけませんね……皆さんで力を合わせ、必ずやイフリートを倒すとしましょう。では……行きますよ」
　と一端目を瞑り、そして最度目を開き覚悟を決めるのであった。

●峠の長に
　そして、灼滅者達は三つ峠の山の一つの山頂へと到着。
　……視線の先に居るのは、炎に包まれた体のイフリート。
　ただただじっと……山の上で唸り続けるイフリートは、じっとその時を待っている様でもある。
　……そんなイフリートの居場所の周囲に居る一般人を排除する為に、まずは白雪が殺界形成で人払いを行い、木乃葉がサウンドシャッターで音を遮断。
　少し待ち……人が来ない事を確認してから、更にイフリートへと接近。
　気付かれる、ギリギリの距離まで到達すると、フォルケが。
「contact……Coverお願いします」
　と短く柘植、ナイフをライフルに着剣。
　そして一つ、二つ……呼吸を整えた後、イフリートの周りにライフルの銃撃を放つ。
　突如の攻撃に、イフリートは一瞬、驚いたかのような反応を取るが、すぐに身を翻し、その牽制攻撃を回避。
　しかし、すぐさま他の灼滅者達が次々と姿を現わし、イフリートを取り囲んで行く。
　……周囲を取り囲まれたイフリートが。
『グウゥウ……』
　と唸り声を上げる。
　それに対し、愛梨、美景が。
「あんたには何の恨みもないけれど、このまま大災害の引きがねになっては困るんでね。消えて貰うよ」
「そうです。休火山を噴火させる訳にはいきません。止めさせて貰います！」
　と、二人の宣言。
　イフリートは、そんな二人の言葉に。
『グゥゥ……ゥグウウ！！』
　と更なる唸り声を上げて、そして灼滅者達に接近、その爪で斬りかかってくる。
　その鋭い爪を一撃、二撃と避けつつ……そして反撃の刻。
「五刀流、刃渡・刀……参ります」
　と、力強く宣言し、刃がビハインド含め、五つの刀で以て斬りかかる。
　左から、右からと……次々に刃が落とされ、イフリートの肩口を斬りつける。
　そして更に、白雪とクトゥグアが。
「行くぜ、相棒。今日もフルスロットルだ！」
　と、武器で己に傷をつけ、その血をクトゥグアに吸わせる……そしてクトゥグアは、激しくエンジン音を高鳴らせて猛る。
　そして猛ったクトゥグアの横で、蒼白な白雪が。
「さぁ、俺を殺して見せてくれ」
　と言いながら、接近、そしてクルセイドスラッシュの一閃と、クトゥグアの機銃掃射。
　更に愛梨がオーラキャノンを後方から放ち、美景もレイザースラスト。
　猛攻、連打の応酬に、イフリートはかなり傷ついていく。
　しかしその気概は全く以て萎えることアー無い……寧ろ、その牙を更に剥いてくる。
　そんなイフリートの攻撃、ディフェンダーの刀、白雪が交互にカバーリング。
　そして木乃葉が、二人にすぐ。
「お願いしますよ光の戦輪達！」
　と、シールドリングで盾アップを付与していく。
　そして……次のターン。
　フォルケ、美景のクラッシャー二人がイフリートに更に接近し、イフリートの動きを制限しつつ、フォルケはティアーズリッパー、美景がクルセイドスラッシュを両側面から叩き込んで行く。
　そして、スナイパーの愛梨が光刃放出で、イフリートの防御を削った後、刀、千鳥がスターゲイザー、霊障波の連携を取ると、白雪とクトゥグアの二人もチェーンソー斬りとキャリバー突撃の連携打。
　……そして、イフリートから喰らったダメージを、木乃葉が。
「弓は苦手ですが……四の五の言ってられませんね！」
　と、せっせと癒しの矢で回復を飛ばし続ける。
　……そんなイフリートとの一進一退の攻防は、続く事十数分。
　８対１の人数差を、その強力な力でほぼ互角には進めていたのだが……次第に、イフリートは押されてきてしまう。
　上げる咆哮は、イフリートとしての矜持……しかし、灼滅者も決して退くことは無い。
　そんな緊迫した戦いの均衡……しかし。
『グ……ゥアアアア！！』
　と、イフリートの咆哮が、突如高く響く。
　……その声の理由は、美景の放ったクルセイドスラッシュ。
　その一閃が、イフリートの足に決まり、吹き飛んでしまう。
　片足を失ったイフリートは、痛烈な痛みを咆哮に乗せて、更に暴れ廻る。
　でも……そんなイフリートに生じた隙を見逃さず、フォルケがステップを踏み、イフリートの背後に回り込む。
　そして、無言でもう片方の足へと、至近距離からのジグザグスラッシュ。
　倍加されたバッドステータスが、更にイフリートを苦しめ、悶えさせる。
　そして……。
「どうした？　私はまだまだ動けるぜ？」
　と、そんなイフリートに向けて、挑発する白雪。
　くい、くいっ、と手招きし、イフリートの敵対心を煽る。
　苦しむも、その挑発に乗って、イフリートは更に咆哮を上げて、牙を剥く。
　……そんなイフリートに、更に木乃葉が。
「動きを……止めますっ！」
　と、不意の方向から飛ばす影縛り。
　不意打ちに捕縛をくらったイフリートは、その上半身をも地面に臥せてしまう。
　そして……。
「そろそろ、頃合いの様だな」
　と、刀は最後通牒を突きつける。そして……千鳥と、生み出した影と共に、五つの刃で前後左右、そして背後から無差別に斬り裂かれる。
　五つの刃が、イフリートの身体に大量の傷痕を遺し……そして。
「これで……トドメよ！」
　と愛梨の渾身のオーラキャノンが、イフリートに叩き込まれ……イフリートは、断末魔の咆哮を上げて、そのまま崩れ墜ちて行くのであった。

●沈む熱
　そして……。
「……Tango down……」
　と、フォルケは呟くと共に、念のため、周囲を確認。
　何も無い事を確認した上で。
「Clear……」
　と、静かに銃を下ろす。
　……無事、イフリートを倒した灼滅者達。イフリートの焔も消え、やっと、ほっと一息をつく事が出来る。
　そして、フォルケの横で木乃葉は、そのイフリートの亡骸に向けて。
「そっちが譲れないようにこちらも譲れない……お互いに引けないものがあった、それだけです……」
　と、目礼を捧げる木乃葉。
　そして……イフリートへの黙祷を捧げた上で……周囲で燻る火を、一つ一つしっかりと消化したり、燃え広がらない様に木をなぎ倒していく。
　一通り対処完了した後で……ボロボロの白雪に、そっと寄り添うはクトゥグア。
「……クトゥグア。また生き残っちまったな。まだ走れるか、相棒？」
　と言うと、クトゥグアはエンジン音を鳴らし、応える。
　そして……イフリートを退治した灼滅者達は、汗を拭いながら、噴火を未然に止めたことに対する少しの安堵を覚えつつ、帰路につくのであった。

作者：幾夜緋琉	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年7月21日 難度：普通 参加：6人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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