鶴見岳に集うイフリート

■リプレイ

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「ふむ、さて鬼が出るか蛇が出るか……獣ではあるが」
　登山道のあるポイント。
　レティシア・ホワイトローズ（白薔薇の君・d29874）は、威風堂々とした佇まいでアサガケが現れるのを待つ。
「これまでイフリート達が起こそうとしている事件を防ぐため、彼らを灼滅してきました。でも今回は、ガイオウガと合体するために移動してるだけだし、戦う意味はないんですよね。正直、困りました……」
　四刻・悠花（高校生ダンピール・d24781）は、一般人に見られると面倒なので、サウンドシャッターを発動させておく。その胸の内は少し複雑だ。
（「死してガイオウガと一体になる、か。いつぞや、クロキバが言ってたガイオウガに伝えるも実現したら同じ事をする形になってたのかな？」）
　待機している間に、無堂・理央（鉄砕拳姫・d01858）は今回のことに思いを巡らせていた。
　静かな夜の月が、灼滅者達を淡く照らす。
　やがて、薄暗い道の向こうから光が差し。周囲の温度が、じわじわと上がり始めるのを肌で感じる。
「……そこに、いるのは、灼滅者……か？」
　炎の虎のイフリート。
　アサカゲは、悠然と山道を進み。こちらを見やった。
「俺達は、武蔵坂学園の灼滅者だ。敵対の意思はないよ」
　九湖・奏（たぬたん戦士・d00804）は、自己紹介しながら「ガイオウガが他勢力に狙われていること」「ガイオウガと友好を結びたいこと」を率直に伝える。
　兎に角聞く態勢になってもらうことが肝要だ。
　現在はソロモンの大悪魔、アフリカンパンサーがガイオウガの力を狙っててスサノオの姫・ナミダは何か作戦まで用意している。彼らが力をつけるのは俺達にとっても好ましくないから……撃退の際には協力したいと思っている。
「我ら武蔵坂学園は対話の構え有。必要ならば共闘、情報交換も行おう。我らが望むは一般人を守る事、其れ故にな」
　卜部・泰孝（大正浪漫・d03626）は、平素はより難解な言い回しだが、相手がイフリートの為に比較的分かりやすい言葉を選択していた。結果、冷や汗が包帯ににじみ出てたりする。
　そんな仲間の様子を、ジュリアン・レダ（鮮血の詩人・d28156）はじっと見守る。
（「ここでアサガケを逃しても。ガイオウガが他勢力と協調しない状況さえ作れば、きっと今後に活きてくる。そんな時間にしたい」）
　明確な敵意と攻撃行動を感じた場合は灼滅もやむなしだが。目的を達成するためにもカードを解放するまでは武装は見せない。
「……」
　アサカゲは。
　じっと、灼滅者達を睨んだ後。その横を通り過ぎて、黙ってまた道を登り始めた。戦意はあれど、いまのところ敵意までは感じられない。
「同行しても？」
　守咲・神楽（地獄の番犬・d09482）が、その背を追う。別府出身の為、登山道は庭みたいなものだ。修行にも使ったものだ。
「好きに、しろ……」
　ぶっきらぼうに、イフリートは答える。
　灼滅者達は、ダークネスと歩みをともにし。一橋・智巳（強き魂に誓いし者・d01340）は堂々と、相手の横についた。
「ガイオウガはイフリートにとってどんな存在なんだ？」
「……なぜ、そんなことを、キク？」
「イフリートにそこまでさせる「ガイオウガ」……どれほどのものか、俺は知りてぇのさ」
　アサカゲは智巳を一瞥してから、その瞳をぎらつかせた。
　それは危険でありながら、誇り高き光がともった眼光であった。
「ガイオウガ……は、我が全て……すくなくとも、俺は、そう思っている……」
「……そうか」
　否定はせず、その誇り高さを尊重し、理解を示す。
　灼滅者達とダークネスの奇妙な呉越同舟は、いつ弾けるかわからない爆薬のような緊張感を漂わせていた。

●
「まずは落ち着いて話を聞いてもらいたいな。余たちは何も貴公の邪魔をしにきたわけではない」
　レティシアは手を上げて戦意がないことをアピールしながら話す。自分達、武蔵坂学園の灼滅者は、ガイオウガ復活の邪魔をする気はない――道すがらそう説く。
「……ならば、何をしにきた、灼滅者」
　イフリートの声は不機嫌とは言わぬまでも。
　到底上機嫌とは言えぬものだった。脚を止めることは決してない。
「ご当地怪人、ソロモンの大悪魔、スサノオがガイオウガを狙っている。ガイオウガ復活のための邪魔が入らぬようにここへ来た」
　矢継ぎ早に話しかけないことを徹底し、レティシアはこちらの伝えたいことを理解してもらえるよう努める。
　こちらからの伝言を、ガイオウガへと伝えてもらうのが目的なのだから。　
「汝らイフリートへの敵対勢力あり。ガイオウガの力を吸い上げた事あるアフリカンパンサー、更なる吸収狙う動き見せ。スサノオのナミダ姫、スサノオの力を妨害するガイオウガに対し詳細見えぬが策弄し。ソロモンの悪魔が大規模召喚の糧とガイオウガを狙っておる。これら３勢力との衝突、避けられまい」
「……」
　泰孝も言葉を重ねる。
　その弁を聞いているのかいないのか。アサカゲは、鼻を鳴らした。
「敵対者の事、ガイオウガに伝えるのが真の役目ではないか？　火のように散るではなく主の為に命捧げるが本懐であろう。此方は灼滅の構え無し、先の３勢力襲撃もあり得る為道中護衛できれば幸いだが？」
「……フン」
　と、そこで。
　イフリートは頭を振って、炎のため息を吐く。
「灼滅者……よ」
　ダークネスの口調は、どこか呆れているような。
　それでいて、何か辟易しているかのようだった。
「自慢ではないが、俺は頭が悪い……いや、違うな……物凄く悪い」
　言いたいことは、分かるな？
　そう言外に言われた気分の泰孝であった。
「あーもう、わっかりにくいか。ガイオウガを狙う奴らが居る、学園はそいつらを止めるためなら協力はする、アンタはただ力を捧げるだけじゃなく今の話を伝える必要があるんじゃないのか？」
　包帯捨てて、微妙にダークネスが交じり合った少々乱暴な口調で話す……話してから泰孝は自分でハッとした顔になる。
「むう。何か、必死なことだけは、伝わったが……」
　ここまでしても。
　アサカゲは、今一つ事態を理解しかねているようだった。
「えっと、だからね」
　理央はあらかじめ用意しておいた絵と、ノート、色鉛筆などを取り出す。伝言の説明用の絵に加えて、その場で簡単に自ら絵を描いて内容を伝える。
「ボク等はガイオウガと戦わず、出来ればクロキバが考えてた位には仲良くしたい」
　難しい言い回しは極力避けた。
　ソロモンの悪魔達とアフリカンパンサーがガイオウガの力を狙ってる事。スサノオ陣営のナミダ姫がそれとは別にガイオウガにちょっかいを掛けようとしてる事。
　頼むべき伝言を、図にして。
　イフリートやソロモンの悪魔、スサノオなどを描いてみせる。
「ふむ」
　先程よりダークネスの反応が少し良くなる。
　神楽は「様々な勢力が狙ってる。武蔵坂は友好の道を探したい」と刻んだ木の板を渡す。
「なんだ、これは？」
「最期にもう一度見直して貰えればと思って」
　説得は真摯に。
　脅しや恐喝の類は絶対に行わない。
「僕らは敵対の意志はない。ガイオウガにそう伝えて欲しいだけなんやわ。だから、キミの邪魔をするつもりはないんよ」
　地元が好きで故にガイオウガに協力したいって気持ちが伝わればいいなっち思う。
　それが、神楽の本心だ。
「僕は別府が好き。キミはガイオウガ様が好き。それでええんやないかな。唐揚げ、喰う？」
　そう言って、自分の分を毒味代わりに食す。
　前もって人数分の唐揚げを準備していたのだ。
「俺も獣形態でも食べやすいように、おにぎりに色々具を入れて持って来たんだ。後は、シュークリームもあるよ！」
　手土産に食べ物も持ってきたけど、興味持ってくれるかな？
　と、奏も持って来たものを出してみせた。食べ物と認識してもらえるように、これらも先ず自分が食べてみせてから勧めてみる。
「ガイオウガへのお土産に出来るように耐火袋も用意してあるよ！」
　ぽんと、袋を叩く。
　その辺りも抜かりはない。
（「自分の中に眠るイフリートは、大事な人を傷つけたし、正直怖いんだけど……クロキバやアカハガネ達は、俺、結構好きだから。ガイオウガとも良い関係が結べたら嬉しいなって思う」）
　アサカゲとも、少しの間でも……仲良く出来たら嬉しい。
　そんなことを思って、食べ物を差し出す灼滅者たちに。イフリートは不可解なものを、見るような眼を向けた。
「……」
　くんくんと、鼻をひくつかせ。
　匂いを確かめてから。ぱくりと、最初に唐揚げを喰らう。もぐもぐと人を丸呑みできそうな口で、ゆっくりと咀嚼して――一気に飲み込む。
「……最後の晩餐、か」
　どうやら気に入ったらしい。
　それからアサカゲは、一気におにぎりを喰らい。シュークリームを平らげた。
「敵に、馳走を見舞う、とは、妙な連中だな……」
「特に戦う意味はありませんし」
　悠花はとりあえず、１発殴られるまでは何もしないつもりだった。あとは、どちらにせよアサカゲが目指した場所に行ってみたい。
「そうか……戦いと破壊で、締めくくるのも、悪くないと、思っていたが……」
　ペロリと、口元についたクリームをダークネスは舐める。
　妙に満ち足りた様子であり。これはチャンスと智巳は、絵や石版などで灼滅者のことを伝える。学園は実際に淫魔の一部と共存している事も伝え、共に並ぶ意思があると示した。
「多分、俺の思いはこの血潮の炎に詰まってるだろうからさ。ガイオウガに届けて欲しいんだ」
　クリエイトファイアで炎を出す。
　アサカゲはそれを避ける気配を見せず。智巳の炎が、イフリートの炎と混じり合い。
　溶け込んでいく。
　不思議な輝きが、辺りを照らしだす。
「届けて欲しい。オレ達のコトバを」
　ジュリアンがそっと言い添える。彼にとって「他勢力と協調しないことを望む」という意思表示を伝えられた時が和解ラインだ。届かぬのなら、斬るしかない。
「……」
　それきり、イフリートは黙ってしまい。
　灼滅者達も口を閉ざして、追従した。
　鮮やかなダークネスの炎が夜道を先導し、やがてその場所に辿り着く。アサカゲが果てる場所――鶴見岳の山頂。
「大切な物に殉ずる事が出来るってのは凄い事だと思うよ。僕も大切な存在があるから判るわ」
　信頼になるなら。
　神楽が闇堕ちをしてみせようとする。
　内心では、地元に伝わる温泉を生む山の女神様の事がガイオウガでないか疑っていた。そうであれば全てを投げ出しても良いと思う。
「……待て、灼滅者」
　そんな神楽をアサカゲが制止する。
　振り返ったその顔は――穏やかな表情だった。
「お前達の、言いたいことは……だいたい分かった」
　渡した木の板を、イフリートは覗きこみ。
　やがてそれは、炎の虎が纏う火に呑み込まれて燃え尽きた。山頂に風が吹き、ダークネスの炎が揺らめき煌めく。
「俺は頭が悪いから、上手く伝えられるか、分からないが……伝える努力くらいはして、おこう」
　アサカゲの身体を包む炎が、次第に大きく燃え盛る。
　まるで、自分自身の身心を燃やし尽くすかのように。巨大な炎が生まれる。
「今こそ、ガイオウガの御許に！」
　空高く叫びをあげ。
　最後にイフリートは、灼滅者達に視線を向けた。
「……余計な者達もいるが、最後が一人でなかったことに……まあ、感謝を……」
　看取られて。
　アサカゲの姿が灼熱の業火そのものへと変わる。死したイフリートの身体は、炎の塊のようになり。その火は地面に吸い込まれる。
　それは、まるで炎を大地が吸収しているかのようで。
　おぞましくも。
　美しい光景であった。
　光の粒が舞い、弾ける。
　目を離すことができず。いつまでも、克明に瞳に焼きつく。
「お疲れ様です。いつかまた、戦場にて」
　ジュリアンの言葉を皮切りにして、灼滅者達はその場を後にして解散する。芯から滾るような炎の熱さを、感じながら――。

作者：彩乃鳩	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年7月20日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 1／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 5
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