全てを捧げし炎の獣

    作者:のらむ


     ズン、ズン、と。鈍い足音を響かせながら、一匹の巨大な熊の様な獣が鶴見岳の山頂を目指し、宵闇の中ゆっくりと歩を進めていた。
     全身を包む炎の体毛がパチパチと爆ぜて辺りを照らし、赤熱した足が踏みしめた土は固く焼き焦げる。
     着実に焦る事無く山頂を目指すその獣の瞳からは、どこまでも揺らぐ事ない堅い決意が感じ取れた。
     目の前に立ち塞がる敵がいれば、この獣は強い執念を持って、鋭い爪と牙、そして猛る炎を振るい闘い抜くだろう。
    「…………到着シタカ。ヨウヤク、コノ時ガ来タ……」
     ついに山頂に到着した獣は一瞬空を見上げ、どこか穏やかな声で呟くと、大きく息を吸い込んだ。
    「今コソ……今コソ、ガイオウガノ御許ニ!!」
     獣は山中に轟くような叫びを上げると、獣の全身は一気に燃え盛り、巨大な炎の塊と化した。
    「グルァアアアアアアアア!!!!」
     炎の塊は徐々に地面に吸い込まれていき、その全てが完全に吸収されるまで、そう長い時間はかからなかった。
     鶴見岳の闇から1つの光が消え、静寂が取り戻される。
     獣には、微かな後悔さえありはしなかっただろう。


    「2度目の投票を終え、イフリートを対象に発射されたサイキック・リベレイター。どうやらその影響を受け、ガイオウガの復活を感じ取ったイフリート達が、鶴見岳へと向かってる様です」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開くと、事件の説明を始める。
    「鶴見岳へ向かったイフリート達は山頂付近で自死し、ガイオウガの力と合体しているようですね。何の迷いも無く」
     もしもイフリート達がガイオウガと合体を繰り返せば、ガイオウガの力は予想以上のスピードで回復し、ついには完全な状態で復活してしまうかもしれないとウィラは言う。
    「それを阻止するには、鶴見岳でイフリートを迎撃し、ガイオウガへの合体を防がなければなりません」
     そう言ってウィラはファイルをめくり、今回予知した戦場とイフリートのデータを引っ張り出す。
    「迎撃ポイントは鶴見岳の山頂手前。時間は午前2時。この場所と時間で待ち構えればイフリートは確実に姿を表し、接触する事が出来ます」
     つまり、イフリートの捜索等は不要。灼滅者達はイフリートへの対応へ力を割く事が出来る。
    「今回皆さんが対峙するイフリートの名は、ディグマ。巨大な熊型のイフリートです。予知で見た感じ、全長5メートル位はあるんじゃないですかね。彼は戦闘になればその巨大で屈強な肉体と、全身から放つ炎で荒々しく攻撃してくるでしょう」
     戦闘力はかなり高く油断できる相手では無いと説明した上で、ウィラは更に続ける。
    「ディグマを灼滅する事が出来れば、ガイオウガの力が増す事を阻止できるでしょう。ですが合体してガイオウガの一部となるイフリートは、その経験や知識をガイオウガへ伝える役割もあるそうです」
     つまり、もしもディグマが学園に友好的なイフリートであるならばガイオウガへの伝言を伝え、敢えて阻止せずガイオウガとの合体を行わせるという選択肢もあるという事である。
    「その場合は、先程の迎撃ポイントでディグマと接触後、イフリートとの友好を深めたり、伝えたい内容を確実に理解してもらう、といった準備が必要になるでしょう」
     そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。ディグマはこれまで予知にかからず、学園との縁がなかったイフリートの1体。どうするかは皆さんに任せますが、ガイオウガの力の一部にさせるか否かというのは、重要な決断の1つとなるでしょう。……皆さんが後悔の残らない結果を得られる事を祈っています。お気をつけて」


    参加者
    椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    近衛・朱海(煉驤・d04234)
    リーファ・エア(夢追い人・d07755)
    栗原・嘉哉(陽炎に幻獣は還る・d08263)
    中川・唯(高校生炎血娘・d13688)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)
    雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195)

    ■リプレイ


     鶴見岳の闇の中、激しい炎を携えたイフリート、ディグマがゆっくりと歩を進めていた。
     ガイオウガに身を捧げ、1つになる事。その目的を果たす為。
    「…………?」
     と、ここでディグマの動きが不意に止まる。自らの進むその先に、いくつもの人影が見えたからである。
    「タダノ人間デハナイ……!! ソコヲ退ケ!!」
     ディグマは全身に纏う炎を強め一気に飛び掛かると、剛腕を振り降ろす。
     次の瞬間、仲間を庇い前に跳びだした近衛・朱海(煉驤・d04234)が鋭い爪を左腕で受け止めた。
    「…………」
     爪が深々と突き刺さり、腕から大量の血が流れだしているが、朱海は一言も発さない。
     口で語らずとも、ディグマを睨み付ける朱海の瞳は、隠しきれない圧倒的な憎しみ、憤怒の念を表していた。
    「どうどう、落ち着きなさいな。お疲れの所いきなり出てきて悪いけど、アタシらは別にアンタの邪魔するワケじゃないわよ~?」
     張りつめた空気の中、明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)は普段と変わらぬ語り口で、ディグマに呼びかける。
    「そうそう、ウチラはガイオウガさんとこ行く前にちょっと話がしたいだけなんよぉ。あ、お肉食べはります?」
    「果物もあげるよー!! リンゴ、バナナ、梨、葡萄に柿でしょー、エトセトラエトセトラ……やっぱり熊だから蜂蜜の方が好みなのかな?」
     雲・丹(てくてくにーどるうにのあし・d27195)がウニ姿で踊りまくり、中川・唯(高校生炎血娘・d13688)は大量の果物を掲げアピールする。
    「ナンナノダ、貴様ラハ……」
     灼滅者達に戦闘の意思は無いとようやく理解し始めたのか、ディグマの殺気が徐々に和らいでいく。
     そこに畳み掛ける様に、北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)がディグマに訴えかける。
    「本能に従ってここまで来たんだろうけれど、山頂で死ぬ前にちょっと話を聞いていかねぇか。ガイオウガにとっても悪い話じゃねえし、それ位の時間は残されている筈だぜ」
    「本当ニ、邪魔をシニ来タ訳デハナイノカ……?」
     ディグマはまだ僅かに判断を迷っている様であったが、
    「オレ達は決してお前の邪魔をしない。少しだけで良い。話を聞いてくれないか」
    「…………イイダロウ」
     栗原・嘉哉(陽炎に幻獣は還る・d08263)の説得に押されたのか、ディグマはゆっくりと後ろに退がった。
    「丁度1分。ひとまずは、上手くいったみたいですね。もう少し気性が荒ければ、結果は違っていたかもしれませんけど」
     戦闘と会話のボーダーラインを見定めていたリーファ・エア(夢追い人・d07755)は呟くと、手にしていたスレイヤーカードを懐に納めた。
    「それにしても。初っ端から中々手痛い一撃を受けてしまいましたね……」
     椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)が朱海が受けた傷を癒しの闘気で癒すと、灼滅者達は改めてディグマと相対する。 
    「…………サテ。マズハ、サイゴノバンサンヲ喰ラウトシヨウカ」
     

    「ほーら、この……えーと、アカシアだっけ? それともトチ? ローヤルゼリーだったかな? ……まぁいいや、とにかく高級蜂蜜をたっぷり用意したから、たーんとお食べ」
    「モラオウ」
    「リンゴと蜂蜜って結構相性いいらしいよ! という訳ではいパス!!」
    「ソレモモラオウ」
     瑞穂が差し出した蜂蜜を受け取ったディグマは、唯から投げ渡されたリンゴに蜂蜜をベットリかけ、一気に一口で飲みこんだ。
    「そろそろ肉も焼ける頃やぁ。熱いから気をつけ……って、よぅ考えたら最初から炎まみれやったなぁ」
    「モラオウ」
     ディグマは丹が焼き上げた牛肉『太郎ちゃん』に蜂蜜を滅茶苦茶かけると、これもやはり一口で喰らい尽くした。
     最初と比べかなりディグマの機嫌が良くなってきたと判断した丹は、ディグマに1つ質問を投げかける。
    「ウチらはガイオウガさんに伝言があるんやけどなぁ、その前にウチから個人的に1つ聞きたいことがあるんよぉ」
    「ナンダ」
    「そもそも、ディグマさんがガイオウガさんとこに行く理由って何なんー? 本能だけやなくて、ガイオウガさんに憧れた始まり? みたいなぁ」
    「私ハ、イフリートトシテ当然ノ事ヲ、ソシテ私ノシタイ事ヲシテイルダケダ…………アマリ、難シイ事ハ分カラナイ」
    「んー、そうなんかぁ。やっぱり本能ゆー言葉で片付けるしかないんかなぁ? ……ガイオウガと強い絆で結ばれてる、って言い方も出来るかもしれんけどなぁ」
     丹はウニ姿なりの難しい顔を浮かべながら、ディグマが蜂蜜を舐める様を眺めていた。
    「……そろそろ腹も膨れた頃だろ? そろそろ本題に入らせて貰うぜ。出来ればこれから話す内容を、ガイオウガに伝えて欲しい」
     ひとまず区切りがついたと判断した葉月は、木に寄りかかりながら話を始める。
    「お前も既に知ってるかもしれないが……今、ガイオウガの力を色んな勢力が狙っている。前にも鶴見岳に着たご当地怪人にソロモンの悪魔、それからスサノオ……あー、ここまでは大丈夫か?」
    「アア」
     ガイオウガが内容を理解している事をしっかりと確認した上で、葉月は話を続ける。
    「それで、だ。俺達はガイオウガが強いという事に異論は全くないが、それでも限界はあるだろ? ガイオウガが復活した暁にには、そんな連中を警戒して欲しいんだ」
    「まあ要するにね、『ガイオウガ様の力、吸い取る奴たくさんいる。ソロモン、スサノオ、怪人』。とりあえずこれだけは覚えていて欲しいんだよ!」
     葉月が伝言内容を説明し、唯がその内容を簡単に整理すると、ディグマは難しい顔をしながらも頷いた。
    「伝言トヤラハ、ソレデ全部カ?」
    「ああ、ごめんまだあるんだ。えーっと……」
     唯は頭の中で伝えたい内容を簡略化し、ディグマにビシッと指を突き付ける。
    「『普通の人に危害加える、ダメ。その場合武蔵坂、敵になる』……これも、ガイオウガさんに伝えておいてね!!」
    「敵ニナル?」
    「普通の人に危害を加えた場合は、ね。それさえしなければ、武蔵坂はガイオウガの味方に成り得るわよ。敵の敵は味方。さっきも言った通り、ガイオウガには敵が多いしね~」
     唯の言葉に僅かに剣呑な雰囲気を発したディグマだったが、すかさず瑞穂が補足すると、更に難しい顔をしつつディグマは頷いた。
    「長々とすまないな。だけど最後に、オレからも伝言を伝えたい」
    「……仕方アルマイ……ナンダ」
     嘉哉の言葉にディグマは疲弊した様子で蜂蜜を舐め、言葉を促した。
    「これから、学園に保護されるイフリートのこと。どうか、責めないで欲しい」
    「保護ダト?」
    「ああ。それはオレ達がオレ達の勝手でしてることで、そのイフリートには悪気があったわけじゃないんだ……頼む。これも、ガイオウガに伝えてくれないか」
    「………………」
     長い沈黙が流れた。そして、ディグマが再び口を開く。
    「貴様等ノ言イタイ事ハ、何トカ分カッタ。ダガ……」
    「だが……何だ」
     場の空気に再び緊張感が張りつめた事を、嘉哉は感じ取った。
     事の流れを見ていたリーファと朱海も、密かにスレイヤーカードに手を伸ばした。
    「ダガ……貴様等ノ話デハ、武蔵坂ハガイオウガノ敵ニモ味方ニモ成リ得ル。ソウダッタナ?」
    「ああ、確かにそう言ったな。だけど俺達は……」
     嘉哉の言葉を遮り、ディグマは続ける。
    「ドウヤラ身ヲ捧ゲル前ニ、ヤラネバナラヌ事ガ出来タ様ダ」
     ディグマは身を起こし、ゆっくりと灼滅者達との距離を取る。
    「……伝言は、伝えてくれないんですか?」
     なつみが問うと、ディグマは首を振る。
    「伝言ハ、伝エヨウ。ソシテ私ハ、今此処デ貴様等ヲ屠ル気モナイ」
     ならどうして、と誰かが言うよりも早くディグマは言葉を重ねた。
    「武蔵坂ガ敵ニモ味方ニモ成リ得ルナラバ、私ハ知リ、ガイオウガニ伝エナケレバナラナイ。武蔵坂ノ灼滅者ノ強サヲ。ソレハドチラニセヨ、ガイオウガノ役ニ立ツ情報トナルダロウ」
     ディグマの全身の炎が荒々しく強まっていく。
    「武器ヲ取レ。アレダケ多クノ伝言ヲ押シツケタノダ。コチラノ頼ミモ聞イテ貰オウカ」
     例えこちらが武器を取らなくても、ディグマの方から攻撃してくる。それは間違いないと誰もが分かった。
    「結局こうなるのね。殺さず、死なない程度に戦えなんて、無茶言ってくれるわ」
    「『風よ此処に』……まあ、事故ったら事故ったでしょうがなかったと割り切りましょう。こちらも黙って殺される筋合いは無いですしね」
     朱海とリーファは即座に殲術道具を構え、戦闘の構えを取る。
    「力ヲ見セロ、灼滅者…………グァアアアア!!」


     ディグマは獰猛な雄叫びを上げると、その口から膨大な炎が放出され、灼滅者達に迫りくる。
    「あっちいなオイ……この炎を消すには足りねぇだろうけど、ちったあ頭冷やしな!!」
     灼熱に腕を焼かれた葉月は後ろへ退き、長柄の槍『Belief』を突きだす。
     妖気によって創り上げられた巨大な氷のつららがディグマの足に突き刺さり、その一部を凍り付かせる。
    「余り多くの知識を得られるのは好ましい事ではないかもしれませんが……こうなってしまっては仕方ないですね」
     なつみは全身に闘気を漲らせ拳にシールドを張ると、真正面からディグマに突撃する。
    「その巨体はあなたにとって最大の武器になるでしょうが……こちらから見れば、大きな的とも取れるのですよ」
     シールドを駆使したなつみの鋭いアッパーがディグマの腹に突き刺さり、その巨体が打ち上げられた。
    「中々ヤルナ……グォォオオオオ!!」
     ディグマは雄叫びを上げると、眼下のなつみ目掛け急降下し、燃え盛る爪を振り降ろす。
    「…………今です」
     ギリギリまで攻撃を引きつけたなつみは一瞬でその場を離れ、ディグマの爪は唯地面が抉ったのみであった。
     ディグマが攻撃を行ったその隙を計り、遠方に控えていた瑞穂がポンプアクション式バスターライフルの引き金に指をかける。
    「気分は猟師って奴ね……こっちだって頑張ったんだから、そう簡単に死なないで欲しいわね」
     重い銃声と共に放たれた弾丸が、ディグマの肩に突き刺さる。
     銃撃の最中、ディグマの側方に回り込んでいた嘉哉が、獣人の影を巨大な大剣へと変形させ、その刀身に炎を纏わせる。
    「これは結構痛いぞ……恨むなよ!!」
     影の連撃がディグマの全身を斬り、炎が肉を焦がした。
    「ガァアアアアアア!!」
     一旦灼滅者達との距離を取ったディグマは全身の炎の勢いを強めると、物凄い勢いで灼滅者達に突進を仕掛ける。
    「話が出来るといっても、やっぱり根は獣なんですかね。まあ何にせよ……」
     リーファは地を蹴り軽やかに飛跳びあがって突進を避け、、リーファのライドキャリバーはディグマと正面衝突する形でぶつかり合い、大きなダメージを負った。
    「そんなやたらと痛そうな攻撃を、易々と喰らう訳にはいきませんよ」
     そしてリーファはディグマの背に着地すると縛霊手を突き立て、勢いよく引き裂いた。
     同時に放出した霊力の網がディグマの全身に絡み付き、その動きを大きく封じる。
    「方や自身の身を捧げ、また一方で火山を噴火させようとする者も居る……貴方と彼等の違いとは一体何なんですかね、ディグマ?」
     リーファが放った追撃の蹴りがディグマの巨体に突き刺さり、ディグマは木を薙ぎ倒しながら地面を転がった。
    「ドチラモ、ガイオウガ復活ノ為動イテイル事ニ変ワリハナイ……」
     呻くように言いながら身を起こすディグマに、丹と唯が息を合わせ飛び込んでいく。
    「まずはウチからやぁ。中川さん、合わせてもろぉてええですー?」
    「もちろん! まず丹ちゃんがガツンとやって、そこに私がズバシャーッてやる感じで!!」
     丹は、かつてとある狂信者が用いていた焚刑の十字架を振るい、ディグマの両足を叩き動きを鈍らせた。
     すかさずディグマに接近した唯は眩い斬撃の嵐を放ち、ディグマの全身を一気に切り刻んだ。
    「グォオオオオオ…………灼滅者。コノ目デ見ルノハ始メテダガ、今トナッテハコレホドノ力ヲ持ツカ……」
    「ええ。だけどその力を何のために使うかは、各々で違うらしいわね」
     純粋に感嘆するディグマ。そして『刀纏旭光』の名を冠す剣を構えた朱海が、ディグマとの間合いを徐々に詰めていく。
     敵を殺す為の闘いではない。そう分かってはいても、朱海の目にはディグマは復讐の対象にしか見えず、下手に殺意を隠す気すら起こらなかった。
    「行くわよ、無銘」
     自らの霊犬に向け小さく呟き、朱海はディグマへ向け一気に駆け出した。
    「ココマデノ殺意ヲ向ケラレタノハ久ブリダ。コイ……!! ガァァアアアアアアアアア!!」
     朱海の霊犬『無明』の射撃を全身に浴びながらも、ディグマは怯まず朱海に飛び掛かった。
     そして再び爪が朱海目掛けて振り下ろされるが……。
    「何度も大人しく攻撃を受ける程、私は人が良くはないわ」
     朱海はディグマの爪を朱漆の手甲で受け止めると、そのまま腕を掴み上げ、ディグマの巨体を無理やり地面に引き倒す。
     そのまま流れる様に放たれた殺意の刃が、ディグマの左腕を貫いた。
    「グオオ……!!」
     そして刃を引き抜いた朱海は、そのまま剣先をディグマの首筋へ突きつけた。
    「これは伝言じゃない。けど、覚えておいて。武蔵坂の人間全てが、あなた達に友好的という訳じゃない」
    「…………」
     ディグマからの返答は無いが、更なる攻撃を行う気配もない。勝敗は決した。
    「皆に感謝することね。気が変わらないうちにさっさと行きなさい」
     剣を鞘に納めた朱海は、自らを抑え、絞り出すような声でそう呟いた。
    「……あのまま本当に事故っちゃうかと思いましたよ」
    「その場合は、事故というか最早事件ですね!」
     戦闘が終わった事を理解し、リーファと唯もまた殲術道具を封印した。
    「……ガイオウガガ貴様等ヲ敵ニ回ス事ガ無イ様、今カラ願ッテオクトシヨウ」
     全く恐ろしいものだ、と。ディグマは身を起こしながら口を零した。


    「ほんなら、さようならやねぇ」
    「アンタが一応聞く耳を持つ奴で助かったわ。伝言、忘れてないわよね?」
    「……アア、多分大丈夫ダ。ソレデハ、サラバダ」
     結構な傷を負ったディグマがその場を去り、丹と瑞穂がそれを見送っていた。
    「これから自分の命を捧げる奴とは思えない、あっさりとした去り際だったな」
     同じくディグマの背を見送っていた嘉哉が、誰に言うでもなく呟いた。
    「さて、これが吉と出るか凶と出るか……まぁ、結果が分かってから考えるか」
    「そうですね……これ以上、ここで私達に出来る事はありません」
     葉月となつみがそう言ってその場を後にし、一同もそれに続く。
     ガイオウガを中心とするイフリート達と、ガイオウガの力を狙う他のダークネス勢力。そして、武蔵坂学園。
     一連の事件に決着がつくのは、そう遠くない未来かもしれない。
     灼滅者達は今後の自分達の行動に考えを巡らせつつ、学園に帰還するのだった。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年7月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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