●舞踏会は赤き炎が見守る中で
月の綺麗な夜のこと。山の麓で涼しやかな風に吹かれながら、シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)は中腹の辺りに視線を向けていく。
「噂を聞きましたの。この山を登った先、中腹にある洋館に関する噂ですわ」
――蝋人形達の舞踏会。
その昔、たくさんの蝋人形をコレクションしていた金持ちが別荘にしていたという山中の洋館。金持ちの死後、誰に引き取られることもなく放棄され、今となっては手入れを行う者もおらず無残な姿を晒している場所。
だからだろう。いつしか、残された蝋人形たちは思い込んだ。
この洋館の主が、自分たちなのだと。
それからだ、舞踏会が開かれるようになったのは。
蝋人形たちは暖炉の炎に照らされながら、手を取り合って踊っていく。夜が明けるその時まで、暖炉の炎が消えるその時まで、熱い時間を過ごしていく。
けれど、決して近付いてはならない。入り込んではならない。
もしも入り込んでしまったなら、蝋人形にされてしまうだろうから。
蝋人形として、舞踏会に参加する事になってしまうだろうから……。
「調べた所、都市伝説であることが分かりましたの」
故に、これから赴き舞踏会に参加する。その上で打ち倒す。それが、おおまかな流れとなる。
「どういった戦い方をしてくるかは不明ですわ。ですが、こちらを蝋人形にしようとしてくる技はあるはずですわね」
また、噂の内容を考えると、暖炉の炎を消せば舞踏会は終わると思われる。しかし、そうした場合は蝋人形たちも消えて倒せなくなってしまう可能性が高いため、もしもの時の備え程度に考えておくといいだろう。
「後は……舞踏会を行っている蝋人形の数は六体のようですので、相手取るのも恐らく六体だと思われますわ」
以上で分かっていることは全てだと、シェナは締めくくる。
「危険な相手でもあると思います。ですが、不用意に近付いた方が犠牲になってしまうのは避けなければなりません。ですので、頑張りましょう」
参加者 | |
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六合・薫(この囚われない者を捕らえよ・d00602) |
七音・奏(小学生サウンドソルジャー・d03328) |
ヘルミ・サブラック(小学生魔法使い・d05618) |
彼岸花・深未(石化系男子・d09593) |
シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905) |
河本・由香里(中学生魔法使い・d36413) |
神山・美佳(芝刈り機は待ってくれない・d36739) |
十六夜・朋萌(これでも巫女なんです・d36806) |
●暖炉は赤く揺らめいて
月明かりに導かれ、暖炉に火はくべられる。春夏秋冬変わりなく、一日として途切れることなく。
山の中腹、大きな洋館に住まう蝋人形たちに仮初の命を与えるため。夜の舞踏会を開くため。
仄かな明かりが漏れる窓の外枠から、神山・美佳(芝刈り機は待ってくれない・d36739)は洋館内を伺っていた。華麗なリズムが刻まれていくのを感じながら、小さく首を傾げて行く。
「いや~、最近はダンスが流行ってるみたいだね~。あたしはあまり踊れないけどね!」
「なんだか楽しそうというか、しっかりしている……?」
六合・薫(この囚われない者を捕らえよ・d00602)は暖炉の灯りを頼りに内部を探り、手を取り合い踊る蝋人形たちの姿を見て目を細めた。
彼らが、都市伝説であることは知っている。
放置すれば、被害者が出てしまうかもしれないことも知っている。
解決の糸口を探るため、シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)は、ライドキャリバーのヴァグノに取り付けた即席の馬車に乗りながら玄関扉を押し開く。
出迎えなどない廊下を歩き、大広間へと突撃した。
突然の闖入者たる彼女たちが現れても、蝋人形たちに変化はない。ただただ楽しげに踊っているだけだったから、シエナは馬車から降りていく。
ドレスの裾をつまみ、一礼した。
「わたし達も参加しますの!」
快く、蝋人形たちは出迎えた。
三体の男性が華麗なしぐさで手を伸ばし、シエナはためらいながらも真ん中の手を取っていく。
「えっと、あなたの足を踏んじゃうかもしれませんよ?」
構わない、と真ん中の蝋人形は口を動かしながら、シエナをリードする形で舞踏を刻み始めた。
演奏するものがいたならば、それはきっと弦楽器を中心としたクラシカルな音楽だろうか。
もっとも、音色として聞こえるのはシエナと蝋人形たちが刻む華麗な舞踏、暖炉の薪が爆ぜる音。
舞踏曲が奏でられていると錯覚しながら、シエナは蝋人形たちとの舞踏を続けていく。華麗なリズムを、洋館の大広間に刻んでいく。
そうしているうちに、成長しドレスに袖を通したヘルミ・サブラック(小学生魔法使い・d05618)は大広間のサイズ、蝋人形たちの配置や構成……男女各三体合計六体であることを確認した。また、今のところシエナが害なされた様子はないが、仮に蝋人形たちが攻撃を行うとするならば踊りや蝋に関するものだろう。
もっとも、戦いに関しては全て実際に相対してからになる……と、仲間たちに合図を送り、玄関口に向かって歩き出した。
開かれていた扉の中へと飛び込んで、向かう先は大広間。
暖炉の前……最も明るい場所に立ちながら、ヘルミもまたドレスの裾をつまんで一礼する。
「皆様、申し訳ありませんが舞踏会は今日で閉幕になりますの。覚悟してくださいまし」
戦いの始まりを、告げるため……。
●蝋人形たちの舞踏会
場の雰囲気に合わせたか、はたまた別の狙いがあったのか……彼岸花・深未(石化系男子・d09593)も同様にドレス姿へと武装しつつ、蝋人形たちの周囲に魔力を送る。
拳を握ると共に魔力を氷結させ、柔らかくなっていた蝋を固めようと試みた。
冷気は蝋人形たちの動きを鈍らせるも、動きを止めさせるにはいたらない、
問題ない、重ねていけばいつか通じるはずだから……と、七音・奏(小学生サウンドソルジャー・d03328)は歌う高らかに。
蝋人形たちを惑わせるため、少しでも多く反撃の勢いを削ぐために。
歌声に揺さぶられながらも、蝋人形たちは舞踏を続けていく。
さなかには、シエナが蝋人形たちの群れから見を離した。
後を追うように放たれた蝋を、滑り込んできたヴァグノが受け止めていく。
「貴方がたとの舞踏、中々でした。ですが、燃えている蝋は勘弁ですの!」
シエナはヴァグノを一瞥しながら帯を伸ばし、先頭に位置していた男性型の肩を斬り裂いた。
後に続けと、十六夜・朋萌(これでも巫女なんです・d36806)は虚空に幾つもの刃を生み出していく。
蝋人形達全体へ差し向けると共にヴァグノへと視線を移し、振りほどいてなお残る蝋にはっと目を開いた。
「自爆技ですかっ!?」
違うだろうことは、蝋を飛ばしてなお姿の変わっていない様子から伺えた。
ならば、燃やすのはどうだろう? 河本・由香里(中学生魔法使い・d36413)は暖炉を背負える位置に移動しつつ、断罪の輪に炎を走らせた。
「蝋人形ですし……ただでさえ、溶けているのでしょうし」
でなければ、複雑な動きなどできないはず。
蝋を飛ばすこともできないはず。
一跳躍で距離を詰め、断罪の輪を付き出した。
先頭に位置していた男性型の腹部へと突き刺さり、その体を炎上させていく。
美佳は暖炉に負けず劣らず鮮やかな炎に抱かれながらも踊り続ける男性型を見つめながら、頬に手を当てていく。
「あの人形、なかなかいい体をお持ちで……」
楽しげな笑みを浮かべながら魔力を送り込み、大気を氷点下まで引き下げる。
蝋人形たちが若干動きを鈍らせていくさまを見つめながら、駆動する刃を握りしめた。
「さて、それでは……」
一気に畳みかけるため、刃を駆動させながら走りだす。
半ばにて、ドレスの裾に足を取られてつんのめった。
「と、っとと……」
ドレス姿は慣れていない。
踊ることすらままならなそうだったのだから、戦いもまた同様だろう。
それでも成し遂げなくてはならないから、刃を駆動させながら先頭に位置する男性型へと斬りかかる。
肩へ食い込ませると共に散っていく蝋を見つめながら、静かなほほ笑みを交わしていく……。
蝋人形たちが、その微笑みを絶やすことはない。
舞踏を止めることはない、強引に灼滅者たちを誘うこともない。
ただ楽しげなダンスが、軽やかなリズムが、しかける隙を伺っていた薫の心を奪った。
「なんだか楽しそう……」
目を回しながら、ふらふらと蝋人形たちの輪の中へ。
「私も、この舞踏会をずっとやりたい……」
左側の男性型が頷いた。
薫を導き、穏やかな舞踏を刻み始めた。
一つ、二つと逢瀬を重ねるたび、ほほ笑みはより深くなる。
二度、三度と体を重ねるたび、薫の体は艶やかなものへと変わっていった。
薫の色合いを細かに再現する蝋に抱かれていった。
奏もまた、燃え盛る蝋を浴びせかけられ意識を朦朧とさせていた。
足元をふらつかせながらたどり着いた先、右側に位置していた女性型に抱きとめられる。
流れるままに舞踏会へと導かれ……其の瞳から、光は消え去った。
舞踏会を飾るため、刻むは朗々たる歌声。
届けるは、仲間であったはずの者たちへ。
少女の歌声が舞踏会場を飾る中、影を刃に変えていたヘルミは気がついた。
体の一部が、熱いことに。
少しずつ動きづらくなっていることに。
「……」
はっ窓に体を移せば、全身があるべきではない艶やかさに抱かれていた。
肉体の柔らかさドレスの軽やかさはそのままに、蝋に包まれていた。
……舞踏会へと誘われた者、熱き蝋に蝕まれている者、柔らかな蝋に抱かれている者……事情は様々なれど、救い出さなければならないことに違いはない。
自分にはその力はないから、せめて治療まで意識を失うことがないように……と、深未は光を集め始め――、。
「むぐっ」
――半ばにて光は霧散した。
真ん中に位置していた女性型に抱きしめられ。
熱か、はたまた別の感情か……深未の頬が赤くなる。瞳をうるませ、女性型に身を任せ始めていく。
女性型は深未を舞踏会へといざないながら、その体を蝋で染めていった。
一滴、二滴と体を満たすたび、深未の頬は赤みを増す。吐息もまた、湿ったものへと変わっていき……。
「……」
形は違えど、蝋人形たちの舞踏会へと誘われた仲間たち。その光景が、とてもうらやましい物に思えたのだろう。
由香里は得物をしまい、飛び込んだ。
炎に抱かれている男性型の手を取って、華麗なダンスを描き始めた。
口元には笑みを浮かべ、ほほ笑みを男性型と交わし合い。時に身を寄せ合い熱を伝え合い……情熱的なリズムを刻んでいく。
戦いを忘れてしまったかのように、仲間たちを忘れてしまったかのように。
時には相手を交換し、新鮮な舞踏を楽しんだ。
その間にも、体は蝋に染まっていく。
暖炉の炎が消えれば固まってしまうだろう蝋に包まれていく。
夢の中へ誘い込まれたかのような彼女たち。
自力では、抜け出すことができないかもしれない仲間たち。
救うための力を高めながら、朋萌は拳を握りしめる。
纏わりつく蝋に気を取られ、力が中々まとまらない。けれども救わなければならないから、精一杯の力で風を招き……。
●終演
風に抱かれ、蝋は剥がれる。
意識もまた少しずつ清浄なものへと戻り始める。
リズムが崩れた気配を感じ取り、即座にヴァグノは機銃を唸らせた。
弾丸に晒された蝋人形たちが仲間たちを手放していくさまを見つめながら、シエナは朋萌を優しい光で照らしていく。
「まずはあなたが万全でなくてはいけませんの」
「……そうですね、ありがとうございます!」
朋萌は動きの自由を完全に取り戻し、優しい風を招き入れた。
風に抱かれ、蝋は剥がれる。
心に植え付けられた感情も、雫がこぼれ落ちるようにして消えていく。
「……ありがとう、おかげで……」
薫は語る高らかに。
蝋人形たちを討つための物語を、仲間を導くための物語を。
揺さぶられていく蝋人形たちの一体、炎に抱かれていた男性型が形を失っていくさまを見つめながら、ヘルミは魔力を送っていく。
「だいぶ重ねてきましたし、そろそろ……」
大気を氷結させ、蝋人形たちを硬化させていく。
同様に凍てつかせ打ち砕かんと、奏もまた世界を氷点下へと塗り替えた。
「……」
細めた瞳で見つめる先、蝋人形たちが動きを止める。
ピシリ、と小さな音を奏で出す。
それでもなお、蝋人形たちは踊ろうとした。
踊れなくても仲間へ誘うと、灼滅者たちに向かって蝋を飛ばした、
美佳は駆動する刃を振り回し、飛来する蝋を叩き落とす。
反撃が止んだタイミングで跳躍し、刃を大上段に振り上げた。
「人生は、むつかしく解釈するから、分からなくなる」
だから、単純明快な一撃を。
全身の力を載せた一斬で、一体の女性型を両断した。
動きの自由を取り戻した仲間たちの手によって、次々と崩れ落ちていく蝋人形たち。反撃の勢いも徐々に弱まり、やがて意味をなさぬ者へと変わっていた。
治療も必要ないだろうと、朋萌は大鎌を横に振りかぶる。
虚空を斬り裂き、黒き風を巻き起こす。
「……」
静かな眼差しを向ける中、黒き風を浴びた男性型は壁際へと吹き飛ばされた。
座り込むようにして崩れていくさまを見つめながら、静かな言葉を投げかけていく。
「主の居なくなった屋敷で踊る蝋人形。……おとぎ話だったら綺麗なのでしょうけれど」
現実は、そうではなかった。
おとぎ話が、現実のものとなってしまっていた。
けれど、それももう、おしまい。
崩れ落ちた男性型が塵とかして消えた時、暖炉の炎も音を立てて潰えていく。
静寂を勝利の証として、朋萌は仲間たちへと向き直り……。
七不思議使いをルーツとしていれば……と薫が肩を落とす中、各々の治療や後片付けといった事後処理が始まった。
幸い、傷の深い者はいない。蝋も、都市伝説と共に消え去った。
だから細かな傷の治療に重点を置きながら、深未は安堵の息を吐いていく。
「相手が相手だったのでちょっと苦戦しましたですぅね……でもこれ以上蝋人形が増えることはないですぅね……」
「念のため探したけど、残っている蝋人形はいないみたいね」
あるいは、本物はとうの昔に運び去られていたのかもしれない……と、由香里は肩をすくめていく。
ならば、憂いはもう何もない。
灼滅者たちは蝋人形の供養を行った後、舞踏会の場と化していた洋館から脱出した。
見送るものなど、存在しない。
持ち主を失った洋館が、何かを語ることはない。
代わりに、木々のざわめきが出迎えてくれた。まるで、この地に訪れた平和を喜んでくれているかのように……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年7月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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