激震、『メテオスウォーム』

    作者:空白革命

    ●メテオスウォーム
     大地を揺るがすほどの巨大な獣が、背の高い木々をなぎ倒して進む。
     一歩で地面がえぐれ、岩が砕け、大樹が傾いた。
     この巨体はダークネス。幻獣種とも呼ばれることのある、イフリートのものである。
     それも、かなり強力な個体であるようだ。
     イフリートはある山頂に留まり、全身を激しい炎で包み込む。
     背中に空いたいくつもの穴から岩のように硬い高熱物体をはき出し、天空を赤く染めていく。
     

    「サイキックリベレイターの効果によって、イフリートたちが活発化しているようだ。それも、日本全国の休火山でな」
     大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)の話によれば、イフリートは休火山に眠る大地の力を活性化させ、その力をガイオウガ復活に使用するべく炎の力を行使しているという。
    「このまま放置すれば、ガイオウガの復活は勿論、活性化した大地の力で日本中の火山が一斉に噴火するなんて事態も起こりうる。そうなればタダじゃ済まない。こいつを灼滅して、活性化を阻止して欲しい」
     
     今回標的となるイフリートは『メテオスウォーム』と呼ばれる個体である。
     恐ろしく巨大なボディと背中の穴から放つメテオアタックという二つの武器を駆使して戦うだろう。
    「こいつらの目的はガイオウガ復活。そのために大地の力を集めることだ。その邪魔をする俺たちを絶対に許さないだろう……撤退することなく、命がけでこちらを殺しに来るはずだ。激しい戦いを覚悟しておいてくれ」
     とはいえ。
     と、ニトロは付け加えた。
    「世界の行く末が戦いの強さで決まるなんてのは……案外、シンプルでいいかもしれねえよな」


    参加者
    神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)
    夏雲・士元(雲烟過眼・d02206)
    槌屋・透流(トールハンマー・d06177)
    アトシュ・スカーレット(護るモノを知った死神・d20193)
    踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)
    柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)
    幡谷・功徳(人殺し・d31096)
    サイレン・エイティーン(嘘月トリックスター・d33414)

    ■リプレイ

    ●彩雲の空、ねじれて。
     神楽・三成(新世紀焼却者・d01741)は制服のネクタイをぐいぐいと緩めた。
     横目でそれを見るアトシュ・スカーレット(護るモノを知った死神・d20193)。
    「やる気を出してるみたいだね」
    「宿敵とのガチバトルは久々ですからね、燃えない方が嘘というものでしょう」
    「それも、随分と大物のようだ」
     踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)も夏服シャツの胸元を開けて、戦闘のムードを高めていく。
     彼らが向かうのはイフリート迎撃の指定ポイントである。今この時点でも大気が陽炎にゆらめく姿が観測できた。例のイフリートが近づいてきているのだ。
    「強そうな敵だねえ」
     頭の後ろで手を組んで歩くサイレン・エイティーン(嘘月トリックスター・d33414)。
    「もはや怪獣だもんね。さて、どうなるか……」
     その横をリュックサックを背負って歩く夏雲・士元(雲烟過眼・d02206)。
     槌屋・透流(トールハンマー・d06177)は陽炎に目を細めた。
    「あれらが火山のエネルギーをすい続ければ全国の休火山が噴火する、か……恨みがあるってわけじゃないが、止めないわけにもいかないな」
    「もうちょい山を大事にしろよって。環境保全精神のねえイフリートだな」
    「ご近所迷惑、どころじゃないもんね」
     先頭を歩いていた幡谷・功徳(人殺し・d31096)と柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)が足を止め、目的の迎撃ポイントに到着したことを確認した。
     ふりかえると、イフリートはこちらへとまっすぐに向かってきている。
     飛び出したい衝動を理性で抑え、彼らはスレイヤーカードを取り出した。


     木々を割り、焼いて倒して現われる、イフリート『メテオスウォーム』。
     その頃には透流たちは解除を終え、完全戦闘態勢で待ち構えていた。
     早速背中の発射口から大量の高熱物体をはき出すメテオスウォーム。
     対して三成やアトシュたちは突撃を開始。
    「貴様を、狩りに来た。ぶち抜いてやる」
     透流もまたポールウェポンを装備。イフリートへに突撃を開始する。
     一拍おいて、頭上から降り注ぐ大量の高熱物体。
     砕ける姿から焼けた石炭にも見えたが、透流はそれらをジグザグにかわしながらメテオスウォームの足下へと滑り込む。
     踏みつけようと繰り出した相手の足を帽子を押さえつつスライディングでかわすと、インパクト直後の足にポールウェポンを叩き付けた。
     当たり前の話だが、遠い昔の怪獣映画のごとく巨大な対象がひどくゆっくりと動いてくれるわけではない。
     地面の震動と絶えず動く足の衝撃でクリーンヒットを与えられない。なんとか動きを制限する必要がある。
     一方でアトシュと玲奈はメテオスウォームの両側面を走っていた。眼鏡を外したアトシュが黒死斬を連続で繰り出す傍ら、玲奈は速度をアップ。
     鎧めいたエアシューズを真っ赤になるまで加熱し、地面を砕く勢いで加速を続ける。
     身体を地面すれすれまで傾けてターン。
     イフリートの顔面に狙いを定め、盛り上がった岩を踏み台にして大ジャンプ。
    「いくよ――」
     空中で抜刀。突きの構えをとると、切っ先から螺旋状のエネルギーを展開させた。
     やがて玲奈は巨大な一本の矢となり、イフリートの顔面へと突き刺さる。
     噴出した蒸気や煙が噴き上がり、玲奈たちを包んでいく。
     そんな中で、三成はイフリートめがけて正面突撃を敢行した。
    「ヒャッハー! その無駄にでかい図体、綺麗さっぱり斬って燃やして潰してやるよ!」
     玲奈に負けじと大ジャンプ煙がはれ、イフリートが姿を現わす。
     玲奈の突撃をまともに受けたはずなのに、イフリートの顔面にはろくな損傷が見られなかった。それだけの堅さを誇る敵だということだ。
     完全に地の利を与えた形だが、三成はひるむこと無くむしろギラリと笑った。
    「これだこれ、これが戦いってもんよ!」
    「神楽くんっ!」
     側面に回り込んだ士元が影業を大量展開。影の剣を作り出すと、次々にイフリートへと繰り出し始めた。
     顔側面からの攻撃によって三成への迎撃が遅れるイフリート。
     そのタイミングをつくように、三成は思い切りイフリートの顔面を殴りつけた。
     くるくる回って着地。
    「イッテエ! なんて硬い顔してやがる!」
    「おっと、いつまでもそこに居ると危ないよ」
     アルレッキーノがヒールを開始。
     一方で後ろを駆け抜けながらサイレンがスカートの裾を伸ばし、スピンジャンプと共に発射した。
     鋭い鞭のようにイフリートを打ち払うサイレン。
     そこへ迎撃とばかりに大量の高熱物体が降り注ぐが、サイレンを庇うように突き飛ばした劒が、高熱物体をハイキックで破壊した。
    「いい戦いとなりそうだ――むっ!」
     直後大量に降り注ぐ高熱物体で地面がはじけ飛んでいく。
     まるで爆発だ。劒はそんな爆発の中からジャンプで離脱すると、さらなる高熱物体を蹴り飛ばし、イフリートへと叩き付ける。
     着地した劒に、岩陰から功徳が手招きした。頭上のナノナノさんも羽招きしている。
    「これとっとけ! どっかに巻いとけ!」
     功徳の投げてきたメタルテープが劒の腕や足に巻き付き、防御力を上げていく。
     彼の全身にはしったサイキック性の炎も、これとナノナノさんの回復ビームによって沈下した。
    「すまない」
    「いいって。行け行け」
     居場所がさっそくバレた功徳はナノナノさんを抱えその場からダッシュで離脱。
    「俺とナノナノさんだけで大丈夫かな。なあナノナノさん、回復おっつかなかったらお前のせいにしていい?」
    「ナノッ」
     羽でぺちぺち叩かれながら、功徳は苦笑した。そんな彼の後方1メートルの位置に高熱物体が落下。
    「おいおい、山で投げ落とすのはマナー違反だっつーの!」


     多くの対ダークネス戦闘が、たびたび巨人と人間の戦いに例えられることがある。
     その中でもかなり直接的にその比喩が使われるのが対イフリート戦闘だろう。
     相手にとってこちらは踏みつぶせば死ぬほどの存在。
     一方こちらは巨大が故に広い死角に身を隠しながら、時に飛び出し時に散らし、着実にダメージを重ねていくのだ。
     それを相手の体力が尽きるまで延々と繰り返す集中力と忍耐力が、イフリート戦の基本となる。
     功徳は樹幹の影に身を隠しながら、頬を流れる汗をぬぐった。
    「集中が途切れればこっちはペチャンコだ。功を焦っても潰される。楽な裏技なんてない。いつものことだが、しんどい仕事だ」
     身体の端々を炭や焦げあとだらけにした玲奈とサイレンが、同じ木陰に潜んでいる。
     イフリートはこちらを探して樹幹をうろついている所だ。
     勿論、隠れて回復し続けるなんて裏技は使えない。そうなればイフリートはこちらを見捨てて山頂へ行くだけだ。
    「いっせーのせでいくぞ」
    「『せ』で飛び出せばいいんだね」
    「それじゃあいっせーの――」
     三人は同時に飛び出した。
     こちらに意識を向けるイフリート。
     背部発射口がごりごりと動き、こちらへ照準を合わせた。
    「これは聞いてない!」
    「くそっ!」
     功徳、エネルギーシールドを最大展開。
     一斉発射される高熱物体を僅かに空中で破壊。ナノナノも回復ビームでカウンターヒールをはかるが、それでも高熱物体のシャワーを消すには至らない。
     飛び込んできたアルレッキーノがサイレンに浴びせられるはずの高熱物体を引き受け、その間にサイレンたちはイフリートへとダッシュ。
     樹幹を足場にジグザグなジャンプを続け、枝をジャンプ台代わりにイフリートの側面をとった。
    「いいねいいね、炎はパフォーマンスの華だよ!」
     ロッドを思い切り叩き付けるサイレン。一方で玲奈は加熱したエアシューズでもって蹴りつける。
     二人の打撃によってイフリートの身体が僅かに傾いた。
    「今だ――ぶっ壊す」
     透流がタイミングを見計らって突撃。
     樹幹の間を器用に駆け抜けると、イフリートの足を狙って強烈なスイングアタックを叩き込んだ。
     二足歩行の人間ならまだしも、バランスのとれた四足歩行動物の足を一本ズラした程度では転倒しない。しかし身体が傾きバランスをとろうとしたその瞬間、軸足を弾けば転倒してしまうこともある。
     今がそのタイミングだ。
     思わず転倒し、木々をへし折り大地をはじけさせるイフリート。
     ここぞとばかりにアトシュと士元が襲いかかった。
     神霊剣の乱れ斬りを放つアトシュ。その一方で士元は剣を大上段に構えてジャンプした。
    「そこだ」
     顔側面についた傷の集合体。
     そこへ、剣の狙いを定める。
     と同時に士元の裾から影業が伸び、剣に大量にまとわりついていく。やがて士元の剣は巨大なブレードと化し、イフリートの顔側面に叩き込まれた。
     傷が開き、炎の血が吹き上がる。
    「水滴でも当て続ければ岩をも穿つ、ってね」
    「ならば乗じさせてもらうまで」
    「大技いくぜ!」
     劒は起き上がろうとするイフリートへダッシュ。
     その間三成はバベルブレイカーの薬莢をリロード。空薬莢を排出すると、アフターバーナーを放ちながら突撃した。
     対するイフリートは高熱物体を無数に束ねた集中砲火を開始。
     常人であれば骨すら残さず焼き殺されるような攻撃を、劒は刀身を喪った鞘だけの刀を翳して防御。
     ひるむこと無く踏み込み、イフリートめがけて飛びかかった。
     タイミングはほぼ同じ。三成がジェットの勢いで飛びかかり、バベルブレイカーに自らのオーラを大量に纏わせた。同じく鞘にオーラを纏わせる劒。
     ダブルのインパクトがイフリートの顔面に炸裂。
     吹き上がった血は炎となり、かれらを包んで爆発のごとく広がった。

     そして……。

     イフリートは焼けたクレーターの中心に倒れていた。
    「コレホド……マデノ……」
     目をわずかに開き、そして瞑る。
    「ジダイガ……カワルカ……」
     イフリートの身体はやがてただの炎となり、サイキックエナジーの粒子に散って消えていく。
     その姿を、灼滅者たちはしばらくの間眺めていた。
     振り向けば、周囲の木々は倒れ、土はめくれかえり、岩は砕けて散っている。
     大変な地形破壊だ。
     しかし、そんな森のそこかしこから小さな動物が顔を出していることも、彼らは気づいていた。
     いずれまた、このクレーターも森となるだろう。
     戦いのことなど、まるで知らぬように。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年7月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ