お蚕サマ

    ●埼玉県某所
     かつて養蚕業で栄えていた村があった。
     この村では、蚕はなくてはならない存在であり、お蚕サマと呼ばれる銅像が神のように崇められていたようである。
     お蚕サマは村の危機に必ず現れると言われており、飢饉や大洪水、厳しい年貢の取り立てなどの時、姿を現して村人達を助けてくれたらしい。
     実際には、彼らがお蚕様の存在を信じて努力したおかげで、どんな困難にも乗り越えられただけなのだが、そういった思いが形となり、都市伝説が生まれたようである。

    「ちなみに絹を取った後の蚕は、村人達が美味しく戴いていたらしい。まさに神喰らい。……というか、食っていいのか、自分達の崇めている存在を……。それとも、蚕とお蚕サマは違うのか……?」
     まるで心の迷宮に囚われたかのような錯覚を受けつつ、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明した。

     今回、倒すべき相手は巨大な蚕の姿をした都市伝説。
     コイツは村人達に崇められていて、村に災いとなるモノを食らっている。
     もちろん、その中には人間も含まれているのだが……。
     そう言った意味でコイツを放っておくわけにはいかない。
     ただし、都市伝説を倒そうとすれば、村人達が全力で襲ってくるだろう。
     特に村の実質的支配者である双子の老婆、コイツらがヤバイ。
     かつては美人姉妹として持て囃された事もあったようだが、それは遠い昔の事。
     ……今では面影すら残っていない。
     コイツらが村人達を煽って、邪魔者を排除しようとするから、とても厄介。
     だからと言って殺すわけにもいかない。
     都市伝説は、都市伝説で、鉄のように固くて丈夫な糸を吐いて襲ってくるから、くれぐれも気を付けてくれ。


    参加者
    蒼月・杏(蒼い月の下、気高き獣は跳躍す・d00820)
    喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)
    ツェツィーリア・マカロワ(舞い裂くツングースカの銀龍鱗・d03888)
    彩城・海松(虹彩珊瑚・d04505)
    大條・修太郎(紅鳶インドレンス・d06271)
    月雲・螢(とても残念な眼鏡姉・d06312)
    昼夜・のかか(あいるびーべあはっぐ・d06985)
    汐崎・和泉(翠の焔・d09685)

    ■リプレイ

    ●お蚕サマ
    「自分勝手でバッカみたい! ……頑張ればちゃんと危機を乗り切れるのに、子供じゃないんだから……、神様に甘えないでよ!」
     不機嫌な表情を浮かべながら、喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)が都市伝説の確認された村にむかう。
     都市伝説が確認されたのは、人里離れた山奥。
     外部との接触がほとんどないためか、考え方も閉鎖的。
     そのため、村はお蚕サマの言葉を聞く事が出来ると言われている年老いた姉妹が、実質的に支配しているようだった。
    「……とは言え、皆がひとつになる象徴は必要だろう。心をひとつにして行う事は必ずしも悪じゃねーだろうし。けど、その象徴による風習が村人達に害を齎すのであれば、見直すか象徴ごと断ち切るしかねぇが……」
     険しい表情を浮かべながら、汐崎・和泉(翠の焔・d09685)が答えを返す。
     村人達にとって、お蚕サマは村の象徴であり、心に支え。
     故に、それを否定する者は、例え同じ村人達であっても、容赦はしない。
     そう言った考えが都市伝説にも伝わり、村人達の考えに否定的な人間を食らうようになったのだろう。
    「話を聞く限りじゃ、そんなにタチが悪い都市伝説でも無くないか、と思ったけど……。まあ、人を手にかけるんじゃアウトだよなあ」
     しみじみとした表情を浮かべ、大條・修太郎(紅鳶インドレンス・d06271)が溜息を漏らす。
     今回に関しては、都市伝説よりも、歪んだ考えを持っている村人達の方が悪く思えた。
     だからと言って、否定的な意見を持てば、村では生きいけないのだが……。
    「でも、蚕ってどんな味なんだろう? 甘かったら食べてみたいなぁ」
     蚕の味を想像しつつ、昼夜・のかか(あいるびーべあはっぐ・d06985)が口を開く。
     ちなみに蚕の味は……、微妙。
     村人達にとっては、子供の頃から食べていたため、スナック感覚であるのだが、普通の人が食べると、明らかに虫の味。それは幼少時代の苦い思い出を蘇らせるには、十分な破壊力を持っていた。
     そうしているうちに、だんだん村が見えてきた。
     そこには都市伝説を崇める村人達と、双子の老婆が経っていた。
    「ここは危険だ! 助かりたければ、離れろ! 逃げろ!」
     村人達に対して警告しつつ、彩城・海松(虹彩珊瑚・d04505)が駆け寄っていく。
     その途端、村人達が一斉にクワを構えて、『……何者だっ!』と叫び声を響かせた。
    「別に怪しいものじゃないわ。……と言っても、信じてくれないでしょうけど。何を信じるかは人其々だけど、その信じる対象を食したりするのは、どうなの? お蚕サマを崇めるなら、近しい存在も大切にしたらどう?」
     警戒した様子で間合いを取りつつ、月雲・螢(とても残念な眼鏡姉・d06312)が村人達に視線を送る。
    「……ふん。お前達に何が分かる! 蚕を食らう事でわしらはお蚕サマに近づく事が出来るんじゃ。お蚕サマに近づいたわしらは特別な力を得る事が出来る。それは村にとって喜ばしい事なんじゃ!」
     村人達が胸を張って反論した。
     だが、言っている意味が分からない。
     反論する物がいないせいか、みんなそれで納得しているのだろう。
     何となく、こんな事が言いたいのだろう、と言う事が分かっただけで、納得できるだけの理由ではない。
    「ちょいと厄介な事情もあるようだが、こっちも大人しく帰る訳にはいかねぇな」
     ライドキャリバーに飛び乗り、ツェツィーリア・マカロワ(舞い裂くツングースカの銀龍鱗・d03888)がスレイヤーカードを構えた。
    「……ふん。ならば、覚悟が出来ていると言う訳じゃな」
     双子の老婆が村人達に合図を送る。
     それと同時に村人達がクワを振り上げて一斉に襲いかかってきた。
    「狂信的でかつ閉鎖的な場所の場合仲間を裏切るような説得は厳しいはずだ。申し訳ないが、力技を使わせてもらう。……すまない」
     村人達に謝りながら、蒼月・杏(蒼い月の下、気高き獣は跳躍す・d00820)がパニックテレパスを使う。
     その途端、村人達がパニックに陥り、蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出したため、都市伝説が片っ端から食らっていった。

    ●双子の老婆
    「ほれ、見たか。こやつ等は村にとって、災いの種。放っておけば、村が滅びるぞ」
     双子の老婆が鬼の首を取ったような勢いで、まわりにいた村人達を煽っていく。
     ……村人達もこの状況で後には退けない。
     逃げれば……、都市伝説に食われてしまう。
     全身を包み込むほどの恐怖心に襲われつつ、杏達の命を奪うべく、一歩……、また一歩と前に進んでいた。
     村人達も本当は怖くて怖くて逃げ出したいが、ここで杏達に背を向ければ、待っているのは……絶望のみ。
     例え、運良く生き残ったとしても、その後で村人達に何をされるか分からない。
    (「どうやら、恐怖に支配されているようだね」)
     物陰に隠れて旅人の外套を使いつつ、波琉那が村人達の様子を窺った。
     村人達の中には迷っている者もいるようだが、双子の老婆に嗾けられている上、逆らえば都市伝説の餌になってしまう。
     それを理解しているせいで、杏達を攻撃するしか選択肢が無くなっているようである。
    「あんた達はお蚕サマに頼らなくたって、自分達の力だけでどんな困難だって乗り越えられてきたんだ! つらい時、苦しい時、何か大きなものにすがりたいのは分かる。でも、それに盲信的に従ってちゃ駄目だ。大切な何かを失ってしまうから、あんた達なら、また立ちあがれる」
     村人達に語りかけながら、杏が一気に間合いを詰めていく。
     しかし、村人達は『うるさい、黙れ!』と反論し、狂ったようにクワを振り回す。
     それを煽るようにして、双子の老婆が『殺れ! 殺ってしまえ! お前達の手で災いの種を根絶やしにするのじゃ』と叫ぶ。
    (「年取っても、似てるもんだなー。人間性が似てるからか? もう引退して後は若い人に任せなよって感じだね」)
     闇纏いを使って気配を消しつつ、修太郎がげんなりとした。
     双子の老婆は村人達を煽って、煽って、煽りまくっている。
     それこそ、後先考えず、というよりも、後がない分、怖いものがないのかも知れない。
    「村に災いとなるモノや人まで食らっているそうだけど、妄信すると物事の良し悪しも判断つかなくなるのかしら? 無意味に年を重ねても得られたのは、経験や知識ではなく、顔の皺だけみたいね」
     皮肉混じりに呟きながら、螢が村人達の攻撃を避けていく。
     村人達は一心不乱にクワを振り回しているものの、心の中に恐怖と躊躇いがあるせいか、攻撃が命中する寸前で外しているようだった。
    「やめろ! ここから離れるんだ!」
     なるべく手加減しながら、和泉が村人達に当て身を食らわせていく。
     傍にいた霊犬ハルも村人達に体当たりを浴びせて、次々と気絶させている、
    「悪いが眠ってもらうぜ」
     双子の老婆めがけて、海松が当て身を食らわせた。
     その途端、老婆達が『ぐげろごぼぁ』と奇声を上げ、その場にガックリと崩れ落ちる。
    「サイタマビ――――ム!!!!」
     すぐさまご当地ビームを放ち、ののかが都市伝説の体を撃ち抜いた。
     それと同時に都市伝説がぶわっと息を吐きかけ、ののかの体をがんじがらめに縛りあげる。
    「蚕ならそうだな、演奏ついでにグリルパーティといこうぜ!」
     都市伝説の死角に回り込み、ツェツィーリアがブレイジングバーストを使う。
     それでも、都市伝説は怯む事なく、辺りに咆哮を響かせた。

    ●都市伝説
    「……お蚕サマ、か。村人が信仰している神様だろうとなんだろうと、大人しく倒されてもらわないといけねーんだよ。まあ、村人達にとっては神殺しだろうけど、やり遂げさせてもらうぜ」
     都市伝説に対して言い放ち、海松が一気に間合いを詰めて、黒死斬を叩き込む。
     それでも、都市伝説は怯む事無く糸を吐きかけ、海松の動きを完全に封じ込めた。
     都市伝説の糸はとても固く、粘着性があって、なかなか取れない。
     しかも、伸びる。まるでトルコアイス。
    「さぁ、てめぇら! オレと楽しいこと、しようぜ!」
     都市伝説の気を引くようにして、和泉がレーヴァテインで斬りつける。
     それに合わせて、霊犬ハルも都市伝説に噛みつき、波琉那が都市伝説の近くで、パッショネイトダンスを使う。
     だが、都市伝説は物凄い勢いで飛び跳ね、和泉達に迫っていく。
    「うわ、でっかいな。潰されんのはゴメンだぞ」
     すぐさまその場から飛び退き、修太郎が反撃を仕掛けるタイミングを窺った。
    「おらぁ! これでも食らいやがれ!」
     都市伝説の背後に回り込み、ツェツィーリアがライドキャリパーで突撃する。
     その一撃を食らって都市伝説がバランスを崩し、吐き出した糸が明後日の方向に舞う。
    「私って嫌いなモノには容赦できないのよね」
     淫魔の様に唇を舐め、螢が影縛りを発動させる。
     次の瞬間、都市伝説の動きが封じられ、吐きかけの糸が地面に落ちた。
    「お前を生みだしたのはヒトだ。こっちの勝手な想いが生み出した。だから俺達ヒトが責任を持ってお前を始末する! 炎に焼かれ、滅べ! この炎はそう簡単には消えない。じっくりとお前の体を焼き尽くすさ」
     一気に間合いを詰めながら、杏がレーヴァテインを叩き込む。
     それと同時に都市伝説が業火に焼かれ、断末魔を上げて消滅した。
    「ヒトの勝手で受肉させちゃってごめんね。……ゆっくり眠るといいよ」
     都市伝説が消滅した場所を眺め、波琉那がゆっくりと両手を合わす。
    「うう……、甘いものが食べたい」
     その間にののかが自分の体に絡まった糸を解き、魂の抜けた表情を浮かべて溜息をもらす。
    「早く引き上げようぜ。こいつらが目を覚ましたら、面倒な事になる」
     仲間達に声をかけた後、海松が双子の老婆を一瞥する。
     ……双子の老婆は未だに気絶したまま。
     だが、その表情は鬼そのもの。
     怖い、むっちゃ怖い。
     道ですれ違ったら、明らかに関わりたくないタイプ。
     おそらく、ここで目が覚めるような事があれば、両目を見開いて山姥の如く怒り狂い、どこまでも追いかけてくる事だろう。
     その光景をほんのりと脳裏に浮かべつつ、海松達はその場を後にするのであった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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