愛しき者へのツェローサメンテ

    作者:長野聖夜

    ●イトシキモノヘ
     丹沢山脈にある休火山の一つ。
     その休火山の山頂付近で、獅子の姿を取り、『激情』を思わせる炎を鬣の姿に模して纏った炎の獣。
     獣がズン、ズン、と音を立てて歩くだけで大地は揺らぎ、その度に周囲の木々に火が燃え移り、パラパラと灰と化して零れ落ちていく。
    「アア……ガイオウガ……」
     ――やっと……やっとお目覚めになる。
     これ以上に喜ばしい事は、ユエにはもうないでしょう。
     今までも……そして、これからも。
    「イマコソ、ガイオウガ二ワタクシノオモイヲトドケルトキ」
     深い愛おしさを籠めた呟きと共に、ユエが全身を燃え上がらせて咆哮する。その度に、周囲の大地から光の粒子が空中へと現れ、ユエの足音とは違う地響きが鳴った。
    「サア、ガイオウガ。オウケトリクダサイ。ワタクシノ、オモイヲ」
     ユエの瞳には、狂おしいまでに熱の籠められた、愛の光が灯火の様に輝いていた。

    ●愛に狂いし炎の獣
    「……女帝の逆位置、か。行き過ぎた想いは、時に人を狂わせるっていうけれど……このイフリートも、そういうことになるのかな」
     机の上に並べていたタロットが示した答えをそう解釈し、北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)が小さく溜息を一つ。
     そんな優希斗の様子に関心を持ったか、何人かの灼滅者達が彼の周囲に集まって来る。
    「やあ、皆か。丹沢山脈の休火山に、ユエと言う名のイフリートが現れることが予知されたよ」
     サイキック・リベレイター使用後、既に類似した事件は何件か起きようとしていることは予知されている。
     恐らくこれも、その内の一つであろう。
    「ユエはその休火山に眠る大地の力を活性化させて、ガイオウガに捧げようとしている。その為に、山頂辺りで炎の力を利用してるようだね。それをもし、このまま放置しておけば……」
     ガイオウガの復活は早まるだけでなく、日本全国の火山が一斉に噴火する事態になりかねない。
    「皆、頼む。そんな事態を事前に防ぐ為にも、休火山に出現したユエを灼滅して欲しい」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々の表情で頷いた。

    ●戦力分析
    「ユエが現れるのは、夕方頃だ。頂上付近とは言え、登山者が来る可能性はあるから念の為に最低限の人払いだけはしておいたほうがいいだろう」
     尚、ポジションはクラッシャー。
     ファイアブラッドと無敵斬艦刀に類似したサイキックの他に、2つの特殊な力を使いこなすらしい。
    「1つ目は、『愛しき者へのチェローサメンテ』と言う歌声に似た咆哮らしい。威力もそれなりだが、その叫びを聞いた者は、籠められているあまりの想いの強さに体の動きを一瞬だけど阻害されてしまうことがある様だ。2つ目は、大地の力をマグマへと変え、それで相手を焼き払おうとする攻撃だ。威力は高いのは間違いないから、注意してほしい」
     尚、ユエは、ガイオウガの為に大地の力を集めることを第一としている。なので、決して撤退することは無い。
    「……ユエにとってそれは愛に殉じるって事になるのかも知れないけれど、ね。とにかくユエを放置しておけば、日本中が危機に陥る可能性があることだけは、忘れないで欲しい」
     優希斗の言葉に、灼滅者達は其々の表情で返事を返した。
     
    「……少しだけ、疑問がある。自らの愛を貫く為にユエは大地の力を集めてガイオウガに送ろうとしている。でも、一方で鶴見岳でガイオウガと1つになろうとしているイフリート達もいる」
     その愛を届けるのであれば、合体する選択を選ぶのではないか。
    「もしかしたら、ユエのことが皆が何かを感じたり、或いはガイオウガとは何かについて考えることが出来る切欠になるかも知れないね。……いずれにせよ、ユエは決して弱い相手じゃない。どうか、気を付けて」
     祈りの籠められた優希斗の言葉に見送られ、灼滅者達は静かにその場を後にした。
     


    参加者
    各務・樹(カンパニュラ・d02313)
    聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)
    戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)
    立花・銀二(黒沈む白・d08733)
    ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)
    合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)
    荒谷・耀(一耀・d31795)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)

    ■リプレイ


     ――某月某日。丹沢山脈休火山。
     燃え盛る鬣の獅子型の獣が、頂上を踏みしめる。
     振動が起き、大地から星の様に瞬く光が浮かんだ。
     その光が現れる度に獣が咆哮すると、光は西に向かって飛び去って行く。
    「イマコソ、ガイオウガ二ワタクシノオモイヲトドケルトキ」
     恍惚とした表情の獣。
     その獣の周囲を殺気が覆った。
    「コレハ……?!」
    「愛に生き、愛に死ぬ、良いですね! でも寝てる火山を起こそうなんてトンでも迷惑、このスーパーアイドルの僕が見逃すわけがありません!」
     そう言って現れたのは、立花・銀二(黒沈む白・d08733)。
     銀二と共に現れた8人の灼滅者達を睨み付けるユエ。
    「オマエタチ、ユエノジャマヲシニキタノカ? ユエハタダ、イトシキアノオカタノタメニユエニデキルコトヲシテイルダケナノニ」
    「キミは悪意もなく純粋なんだろうが、それで齎される被害は悪いけど、許容出来ないからね」
     ユエに軽く肩を竦めて答えたのは、合瀬・鏡花(鏡に映る虚構・d31209)。
    「……貴女の愛を否定するつもりはありません。けれど、この手段を使わせることだけはできないの」
     自分の左薬指に嵌められた指輪に視線を落として悲しげに呟くは、荒谷・耀(一耀・d31795)。
    「ユエノガイオウガヘノアイヲコウテイシツツ、ナゼオマエハユエノコトヲヒテイスル?」
    「そう言えば、アカハガネはガイオウガの分け身と呼ばれていたな」
     独り言の様に呟くのは、ルフィア・エリアル(廻り廻る・d23671)。
    「ソレガドウシタ?」
    「鶴見岳で融合していくイフリートもいる中で、お前はわざわざこの様な騒ぎを起こしている。何かしらの役割分担があるのか?」
    「ソレヲオマエタチガシルヒツヨウガドコニアル? ユエハ、ガイオウガヲオモイ、ユエトシテサイゼンヲツクス。タダソレダケノコト」
    「君の、ガイオウガへの愛、確かに感じたよ」
     それまで様子を伺っていたクレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)が口を開いた。
     プリューヌが人形でハートマークを作っている。
    「ユエノオモイヲ、リカイシテクレルカ」
    「ああ。だから、君に頼みたい。もし、彼の為を思うのならば、彼が甦った時、彼を襲いに来る周りの敵に対処する必要がある」
    「ソレデ?」
     首を傾げるユエに、クレンドが頷いた。
    「ガイオウガが甦った時に備えて、一度退いて貰えないか?」
    「デキナイ。ソレハ、ソレダケガイオウガガヨミガエルノヲオクラセルコトニナル。ユエニハ……ソンナノタエラレナイ」
     呟きと同時に足を踏み鳴らすユエ。
     瞬間、地表に地割れが生じ、地下からマグマが隆起する音が耳に入る。
    「行き過ぎた愛か。笑けるぜ」
    「良くも悪くも、誠実で、献身的過ぎるのですね」
     聖刀・凛凛虎(不死身の暴君・d02654)が口の端に笑みを浮かべながら一息にユエとの距離を詰めて抗雷撃。
     凛凛虎からの攻撃を躱そうとするユエだったが、その時には、軽く頭を振った戒道・蔵乃祐(プラクシス・d06549)が蛇を模した攻性使い魔を呼び出しユエの身を締め上げている。
     締め付けられ身動きの取れないユエの顔に、凛凛虎の拳が直撃。
     瞬間生まれたユエの死角から鏡花が黒死斬でその右前脚を斬り裂いた。
    「恨みはないが、キミのことを灼滅させてもらうよ」
    「……ごめんなさい」
     柄に美しい黒曜石の嵌められた、羅刹によって鍛えられたとされる刀『暁』を用いて斬り裂きながらの耀の謝罪。
     暁を持つ左手の薬指に嵌った輪廻の輝きに、胸を痛めて。
    「ジャマヲスルナオマエタチ!」
     咆哮と同時に、燃え盛る溶岩が地面に着地した鏡花や、続けて攻撃を仕掛けようとしていたルフィア達を襲う。
    「! そう来たか!」
     クレンドが各務・樹(カンパニュラ・d02313)を庇って地面に不死贄を翳し、プリューヌが、鏡花の霊犬モラルを守る為の盾になる。
     銀二は鏡花を庇って体を焦がしていた。
    「さっさと行きなさい!」
    「ナノ~!?」
     銀二に蹴り飛ばされ、涙目になりながら溶岩で火傷したナノナノがシャボン玉をユエに叩きつけ、プリューヌが接近してユエの牙を叩いた。
    「……出来れば戦いたくなかったが」
     苦々しげにクレンドが呟き不死贄を掲げて、緋色の結界を展開。
     モラルが浄霊眼でプリューヌを癒す間に、樹が黄色の結界を重ね、凛凛虎達を炎から守る加護を生み出す。
     それからそっと溜息を一つついた。
    (「復活したガイオウガに認められたい、その隣に在りたい、彼への熱狂、愛情……絶対的な強者への従属ではなく、共に在れるものとして愛されたい。そういうことなのかしらね」)
     であれば、決して退くことはないだろう。
     此処で逃げれば、ガイオウガと共に在れる時が遠のいてしまう。
    「ふむ、厄介な獣だね、イフリートというのは」
     火傷に苛まれながらも、Ventus Secundusを地面に突き刺し炎弾を撃ち出すルフィア。
     炎弾が耀によって罅の入っていた左前脚の骨を貫く。
     ルフィアが杭を引き抜くと同時に銀二の祭霊光がルフィアを癒した。
    「ヤハリキサマラ……イカシテオケン……!」
     片足を砕かれたユエが狂おしいまでの愛を籠めた咆哮をあげた。


    「くっ……?!」
     全身が痺れかねない咆哮に鼓膜を叩かれながら、耀が上段から暁を振り下ろし袈裟懸けにユエを斬り裂く。
     だが、先程の咆哮の衝撃からか、耀の脳裏に迷いが生じた。
    (「ユエ……貴女が抱いているガイオウガへの愛情と、私があの人に抱いている想いは……」)
     何がどう、違うと言うの?
    「よおおし! 行けぎんじろー! 前衛はまかせたぞ! O(お前が)・N(肉壁に)・N(なるんだよ)シーーールド!」
    「きええ蔵乃祐君は僕ばかり盾にするのやめてください!」
     銀二を肉壁にして咆哮による衝撃を回避した蔵乃祐が耀の脇を駆け抜け、ユエの懐に飛び込み、縛霊撃。
     網状の結界がユエを覆い、その体を締め上げていく。
     蔵乃祐達のやり取りに呆気に取られた耀だったが、悲鳴を上げる銀二の祭霊光を受けて気を取り直した。
    (「迷うのも、悲しむのも、戦いながらでも出来るから……」)
     鏡花が割れたガラス片を繋ぎ合わせた様なウロボロスブレイドでユエの死角から彼女を守る毛皮を斬り払い、ルフィアがユエに詰め寄り、マテリアルロッドに嵌め込まれた宝玉からフォースブレイクを放ちつつ問いかける。
    「お前は、お前の命が惜しいと考えているのか、それとも生き残るべき個体として定められているのか、どっちなんだ?」
    「ガイオウガノタメナラバコノイノチオシクハナイ……!」
    「じゃあ、どうして貴女は鶴見岳に行って、自分をガイオウガに捧げなかったの?」
     ユエに問いかけつつ、樹がラビリンスアーマーで銀二の傷を癒す。
    「ガイオウガトノユウゴウハユエタチノホンカイダガ、ユエハユエトシテガイオウガノオソバニイタイ! ソノタメナラバ、ユエトシテナスベキコトヲナセバイイ!」
    「ガイオウガってのは、良い男なんだろうな。これ程までに愛されているんだからよ」
    『Tyrant』――暴君の名を持つ深紅の大剣の大振りでユエを斬り裂きながら、凛凛虎が呟く。
    「そしてユエ、お前は良い女だな?」
    「ユエハユエダ。ヨイ、ヨクナイトイウキジュンハナイ」
     鍵爪を振るいながらのユエの答えに、Tyrantでそれを受け止めた凛凛虎が笑う。
    「そうかい。だったらよ、お前の全てを、総てを俺にくれよ!!」
     凛凛虎が鍵爪を受け止める間に、クレンドが不死贄をユエの背に叩きつけ、更にプリューヌが霊障波。
    「キサマ……!」
     怒りでユエの気をクレンドに逸らさせ、モラルが浄霊眼で銀二を回復。
    「ナ、ナノ~!」
     ナノナノがふわふわハートでクレンドを癒した。
    「ソノケッカイ……ジャマダ……!」
     苛立たしげにユエが呻き、口から全てを焼き払う炎を噴く。
    「!」
     クレンドがプリューヌを守り、銀二が凛凛虎を庇うと同時に、彼等を守っていた緋色の結界が音を立てて崩れ去った。
    「うっひゃぁ~、やりますね!」
     焼け焦げている銀二を見て、蔵乃祐が驚愕の表情になる。
    「ああっ、ぎんじろーが潰れたナノナノみたいな姿に!」
    「潰れてませんよ、蔵乃祐君~!」
    「大丈夫か、回復するぞ!? っんんん?!」
     思わずツッコミを入れる銀二に構わず蔵乃祐がその手に蛇の様な黒い影を呼び出しつつ。
    「しまった集気法は別列には届かないんだった! 俺としたことがッ」
     などとぼやきながら放った影の攻性使い魔で、ユエの身を締め上げる。
    「……分かってやっているね、あれは」
     苦笑を零しつつ、クレンドが妄葬鋏。
     狂気に蝕まれ、暴れるユエ。
    「チガモエルヨウニアツイ……!」
    「はははは! 俺の血もアツいぜ!」
     振り回された尾をTyrantで絡め取り、ユエの力を利用して隣接、抗雷撃を放つ凛凛虎。
     強烈なカウンターをユエに叩きつけ、ナノナノのシャボン玉が追撃。
    「やっぱり、愛故に私達の言葉程度で止まらないね。なら、キミの愛が勝つか私達の使命が勝つか、だね」
    「誰かを愛することは悪い事ではない。だが、行きすぎた愛は己の身を滅ぼすだけだ」
     鏡花が鏡の様な刀身のクルセイドソードで夕陽を反射させてユエの視覚を一瞬奪い黒死斬。
     立て続けにルフィアが尖烈のドグマスパイク。
     炎弾と共に撃ち出された巨大な杭に貫かれ喘ぐユエに耀が接敵。
    (「イフリートとしての本懐と対等な程にまで深い愛情……それを叶える為にこれしか手段がなかったのだとしたら……」)
     輪廻を見て『彼』のことを思い出しながら、暁の対となる短刀『黄昏』で、ユエの欠けた牙を斬り裂く。
     牙の一本を砕かれたユエが絶叫を上げた。
    「この叫びに籠められた愛が、彼女のツェローサメンテなのね……」
     絶叫を受け止める為、クレンドの作り出した緋色の結界を修復する形で黄色い結界を張り直しながら、樹が目を細める。
     銀二がリバイブメロディで前衛を、モラルが浄霊眼で銀二を癒すのに頷きつつ樹はそっと溜息をついた。
    「納得はしたわ。でも、あなたのツェローサメンテは、ダ・カーポではなく、フィーネにしましょう」
     呟きは、どこか寂しげだった。


     ――それから、数分。
     万全を期した攻守整えた陣形と戦術は列攻撃を軸としたユエには良手。
     マグマによる殺傷ダメージの高さにより、銀二達護り手の消耗は相当だったが、それでも誰一人倒れずその場に立っていた。
    「キエロ……!」
     傷だらけのユエの咆哮。
     その咆哮は、凛凛虎を庇ったクレンド、銀二を庇ったプリューヌに膝をつかせたが、耀達の重ねたバッドステータスの累積により、戦闘不能まで追い込めない。
    「王のために死ぬ。それが生き方か?」
     凛凛虎がクレンドの影から飛び出し、接近して魔弾【~Vernicter Devil~】――彼自身の破壊と殺戮の使命が具現化した闘気による閃光百裂拳。
     破壊と殺戮の力の乱打から生まれた嵐にユエが飲まれながらも叫ぶ。
    「ココデキサマラ二セヲミセテハ……アノオカタノマエニユエハタテヌ……!」
    「だったら、貴女の信ずるものの為に逝け」
     凛凛虎の言葉と共に銀二がスターゲイザーを放ち、蔵乃祐が彼の脇を駆け抜け縛霊撃。
    「全てを破壊し、全てを燃やし尽くす。そんな願いの形もあるのかも知れません。あなたが起こしたこの事件も、あなたの元となった人の絶望を受け止め、その願いを託すに値する幻獣の王を蘇らせるという意味では、鶴見岳での融合と本質的には同じものなのでしょう」
    「なるほど。本質的には同じ、か」
     蔵乃祐の推測にルフィアが頷きながら尖烈のドグマスパイク。
    「ソコマデカンガエナガラナゼ……」
     ルフィアに貫かれながらのユエの問いに頭を振る蔵乃祐。
    「だからこそ。人の側として、灼滅者として。貴女の元となった人の絶望と存在を受け止めて、それでも戦い抜いていくつもりです。僕は、それが必要な事だと思うから」
    「そろそろ、終わりだね」
     呟き、鏡花がグラインドファイアを叩き込み。
     モラルが斬魔刀でユエを斬り裂き。
    「これで終わりだ」
     クレンドが不死贄に応じて回転力を増した靴の踵に取り付けたローラーで流星の如き蹴りを放ち。
     プリューヌが人形でユエを殴りつけた。
    「グ……グゥ……?!」
     鏡花達の連携に四本の足を砕かれたユエを、ナノナノのシャボン玉が追撃し。
    「貴女のツェローサメンテもこれで終わりよ」
     樹がフォースブレイクを放つ。
    「ガァ……!」
    「ごめん……なさい……!」
     痛みに苦しむユエに。
     音も無く耀が接近、暁と黄昏の二刀で死角から十文字に斬り裂いた。
    「……ガイオウガ……ユエハ……サキニ……」
    「お前たちの王は、俺の兄貴分が何とかするだろう。迷わずに逝きな」
     ユエが最期に耳にしたのは、そんな凛凛虎の手向けの言葉。
     最期に見たのは、クレンドの悲しげな表情だった。


    「愛が、重いな……」
     ユエの光を見送りながら、溜息をつく凛凛虎。
     ――カラン。
     何かが落ちる乾いた音が樹達の耳に響いた。
    「これは……」
     耀が見つけたのは一本の牙。
     ――ユエが生きた証。
    「……」
     耀が拾い上げながら、その様子を見ていた樹を見る。
    「各務先輩……」
    「どうしたの?」
     樹が続きを促すと、耀がゆっくりと話し始めた。
    「各務先輩は、ユエに聞いていましたね。命が惜しくないのに、どうしてユエはその身をガイオウガに捧げなかったのか、と。そして……ユエの答えに、納得していました」
    「ええ。愛する人と共に在りたい、という気持ちは、私も分かるからね。でも、それがどうかしたの?」
     樹が軽く首を傾げると、耀は顔を俯けながら呟く。
    「私は、最近結婚しました。その人の為だったらどんなことでもしてあげたい。そう思っています。だから、もし、私がユエと同じ立場になっていたら、どうしていただろうって……」
    「私は、あの人と一緒に居て、支えてあげられればと思って先生を目指しているわ。……そう言う意味では、ユエと同じね」
    「そう、ですか……」
    (「でも、私は……」)
     左薬指に嵌められている輪廻を見て、顔を再び俯ける耀。
     そこに浮かぶのは迷いと逡巡。
    「……耀」
     ふと顔を上げれば、クレンドが彼女を、続いて隣で手持ちの人形を弄り、ユエを追悼しているプリューヌを見た。
    「もし、君がユエと同じ立場になった時君がどうするのか……きっとそれは誰にも分からないと思う。俺もプリューヌが死んだ時、プリューヌの魂を……」
    「シュヴァリエ先輩……」
     思い悩む彼女に寂しげに微笑む青年。
    「だから、答えを今すぐ出す必要はないと思うよ。それに幾ら考えても、実際にその時にならなければ、自分がどうするか分からないこともあるからね」
    「……そうですね。ありがとうございます、シュヴァリエ先輩」
     彼に礼を述べ、耀は拾った角を優しく握る。

     ――形だけでも、想いだけでも。

     ユエのことを、ガイオウガへと届ける為に。
     

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年7月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ