炎の雨が降る時

    作者:夏雨

    ●休火山のイフリート
     関東には栃木の那須岳から群馬の浅間山まで複数の火山が列を成す火山帯がある。群馬県の北部に存在するその一部の山に、雄々しいクロヒョウの姿があった。山頂を目指すクロヒョウが踏み締めた道は、すすけた焦げ臭い獣道となっていく。
     イフリートであるクロヒョウのしっぽには、オレンジサファイアのリングがきらめき、周囲に炎から形作られた蝶が舞い踊る。
     山頂の岩場に座したイフリートの漆黒の毛皮は、烈火となって全身を煌々と燃え上がらせる。
     炎よりも爛々と輝く双眼を見開き、イフリートは山中に響き渡る咆哮を発した。
    「……大地の力よ、ガイオウガに復活の時を告げるのだ!」
     イフリートは周囲に発生させたうずまく炎からいくつも炎の分身を生み出し、炎によって像を描かれた密林がイフリートを囲む。
     燃え盛る外皮に覆われたイフリートを祭るように、複数の炎の戦士たちが円を作り踊り狂った。

    ●噴火を阻止せよ
    「サイキック・リベレイターを使用した影響で、イフリートたちがガイオウガ復活のために動き出したんよ」
     暮森・結人(未来と光を結ぶエクスブレイン・dn0226)の予知により、クロヒョウの姿をしたイフリートが群馬県北部に位置する休火山の1つに現れることが判明した。
     山頂に陣取ったイフリートは炎の力を使用し、休火山に眠る大地の力を活性化させようとしている。それによりガイオウガの復活が早まると同時に、火山の噴火が促進される。複数のイフリートが休火山に現れている今、イフリートたちによる大規模な火山活動が発生する恐れがある。
     「決して大袈裟な話じゃない」と、結人は深刻な状況を強調する。
    「全国の火山に向かったイフリート共のせいで、日本が分断される勢いのクソまずい状況になるかもしれんよ」
     休火山に現れるイフリートは、しっぽに炎の刃を宿らせ、炎の槍を雨のように降らせるなど、ファイアブラッドと同様に炎による攻撃を得意とする。また、しっぽのリングから放たれるエナジーの弾丸には、相手をマヒさせる効果がある。
     イフリートの邪魔をしようとすれば、相手は全力で立ち向かう覚悟を見せるだろう。
    「イフリートのいる山の頂上まで行かなきゃならん訳だけど……ちゃんと対策は考えてるの?」
     結人は真剣な表情で尋ね、「熱中症をなめるなよ!」と塩飴の詰まった袋を押し付けた。
    「暑苦しいイフリートを相手にする前にばてられちゃ困るんよ……ガイオウガを利用しようと企んでる奴らのことも気になるけど、今は噴火を引き起こそうとしてるイフリートを止めてほしい」


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715)
    逆島・映(高校生シャドウハンター・d18706)
    巳葦・智寛(蒼の射手・d20556)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    午傍・猛(黄の闘士・d25499)
    未崎・巧(緑の疾走者・d29742)
    穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442)

    ■リプレイ

    ●頂上
     鼻息荒く山中の道なき道を駆け上がるクロヒョウの姿をしたイフリート。火の粉の鱗粉をまき散らしながら、数匹の炎の蝶がイフリートに付き従う。
    「モウスグ……もうすぐガイオウガの復活が叶うときだ」
     木々の間から飛び出したイフリートは、頂上の地表をゆっくりと踏み締めながら岩場の方へ向かう。
    「いた! 戦闘準備!」
     そこへ背後から迫る複数の足音と辰峯・飛鳥(紅の剣士・d04715)の声が聞えてきた。
     「着装!」という4人の声が一斉に響き、イフリートが振り向く間もなく強化装甲服に身を包んだ巳葦・智寛(蒼の射手・d20556)、午傍・猛(黄の闘士・d25499)、未崎・巧(緑の疾走者・d29742)、飛鳥たちが行く手をさえぎる。
     イフリートは反射的に牙をむき出して威嚇し、臨戦態勢を取る。
    「来たか、灼滅者……!」
     低くうなるイフリートは、その一言と共に炎の毛並みをまとう。4色の装甲を前にして、イフリートは燃え盛る毛並みを逆立てて飛びかかった。
     それぞれ赤、青、黄、緑の装甲を身にまとった4人はイフリートをかわして散開する。
     赤の装甲服の飛鳥は武器を抜き放ち、
    「システム異常なし! みんなはどう?」
     青の装甲服の智寛は飛鳥を援護しようと照準を合わせ、
    「システム正常。こちらも問題ない」
    「いつでも行けるぜ!」
    「こっちもオッケー!」
     猛と巧も攻撃態勢を整えたところで、飛鳥は号令をかける。
    「D.D.D.(トライデルタ)、状況開始!」
     4人に気を取られるイフリートは、背後に迫る影に対し反応が遅れた。イフリートが相手の線上から体をそらそうと動いた瞬間、脇腹に鋭い裂傷が刻まれる。爛々と見開かれたイフリートの双眸が、不敵な笑みを浮かべてすれ違う月姫・舞(炊事場の主・d20689)を捉えた。
     イフリートの獣道をたどって回り込んできた面々が、続々と猛攻を浴びせる。
     ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)は黒炎に包まれた斬艦刀をイフリートに向け、
    「ちぃす。毎度おなじみ灼滅者っすよ」
     炎の外皮ごと弾き飛ばされたイフリートは、ギィを見据えて反撃に転じようとする。
     口の中で溶け切ろうとしている結人からもらった塩飴を噛み砕き、逆島・映(高校生シャドウハンター・d18706)はナノナノのふわりんと共にイフリートの懐へと切り込む。ふわりんは次々としゃぼん玉を飛ばして陽動を試みるが、全身から炎を燃え上がらせるイフリートによって焼き払われた。剣を構える映は炎の熱にも耐え、イフリートに狙いを定めて刃を振るう。映の刃が炎の外皮の下を深くなぞるとイフリートは瞬時に飛び退き、射撃を開始するライドキャリバーのクトゥグァと共に突っ込んでくる穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442)に狙いを合わせる。
     イフリートは白雪に向けて槍をかたどった炎を投てきするが、全く避けるつもりがない白雪は笑みすら浮かべて炎に見入る。かつてイフリートによって焼き殺された家族に近づけると思うと、その笑みは一層狂気に染まった。
     飛鳥は一見不可解な行動を取る白雪の前に割り込み、炎の槍を自らの装甲で受け止めた。
     劫火の衝撃を受けても踏み止まった飛鳥にイフリートは向かっていこうとするが、智寛らは隙のない連携でイフリートをけん制する。
     智寛の機関銃から連続で撃ち出される攻撃から逃げ回るイフリートだが、
    「こちとら人類の存亡ってもんがかかってるんでな! 一思いに行くぜ!」
     黄色の装甲に身を包んだ猛はそういい放つと、巨大なハンマーで地面を叩き割り、イフリートの足元まで崩すほどの衝撃を行き渡らせる。
    「どうした? オレはここだよん!」
     緑の装甲服の巧はイフリートの注意を引き付けながら、揺らめく白炎を足元に這わせ、白炎の力を攻勢に出る飛鳥らに浸透させる。巧の能力に後押しされ、飛鳥に宿る炎は更に勢いを増していく。燃え盛る刃を構えて突き進む飛鳥は、その勢いのままにイフリートを斬り上げた。

    ●妨害
     不意を突かれたイフリートは宙で体をひねり、しっぽにはまったリングのオレンジサファイアから、まばゆい輝きを発散させる。四散してしまった炎の外皮の下の傷は、サファイアの輝きに包まれると共に治り始めていく。
     しっかりとした姿勢でスタッと地面に着地したイフリートの表情は涼しげだが、さんさんと照りつける太陽と炎の熱気で汗ばむギィはぼやいた。
    「あんまりやんちゃしないでくださいな。おかげでこの暑いのにお勤めに駆り出されるんすから」
     イフリートはまったく聞く耳を持たずにギィへと飛びかかっていくが、智寛の狙撃によって阻まれる。
    「火山を噴火させる訳にはいかない。ガイオウガの復活はあきらめてもらおうか」
     地面を転がるイフリートに、智寛の一言に耳を傾けている合間はなく、
    「濡れ燕のサビにして差し上げます」
     舞の愛刀・濡れ燕が閃き、上段の構えを見せる舞の視線はイフリートとかち合う。イフリートの俊敏な動きは未だ衰えず、体を丸めるようにして切り落とされそうになるしっぽをかばった。
    「かわいそうですが……復活を促すというのなら――」
     そうつぶやいた映は更に踏み込み、シャドウハンターの影の力を宿した剣で続け様に斬りかかる。イフリートは映の攻撃から逃れるため、負傷した者に癒しの力を込めたハートを飛ばしていたふわりんを蹴飛ばして道を切り開いた。
     「邪魔をするな……!」と息巻くイフリートは何度も低いうなり声を発し、興奮極まる様子で片言交じりに言い募る。
    「我ヲ、憐れむカ? 灼滅者……オ前ラノ同情、浅ハカ。それで首がしまるのはお前らだ」
    「同情なんざいらねえってか? それなら心置きなく――」
     猛は相手を仕留められる瞬間を逃さないように構えながら言った。
    「命のやりとりと行こうじゃねぇか!」
     特殊仕様の巨大なハンマーを軽々と振るう猛に対し、イフリートも徹底的に相手の動きを見切り、攻撃を回避し続ける。
     隙のない動きを見せる両者の攻防はしばらく続いたが、イフリートはしっぽのリングから光弾を射出し続け、猛を防戦一方の状態に追い込む。
    「浅はかだろうが何だろうが――」
     巧の銃撃がイフリートに命中し、戦況は大きく傾く。引き金を引いた巧は言った。
    「お前らみたいに加減を知らない連中は止めなきゃだろ」
     よろけるイフリートは更にハンマーの直撃を食らい、大きくはね上げられる肢体にここぞとばかりに攻撃が集中した。
     イフリートは炎の毛並みを一層逆立て、無数の火の粉を舞い上げながら怒りの形相を露わにして吠える。
    「お前らの1人でも多く、焼き尽クシテヤル!」

    ●払拭
     負傷した者の回復支援に集中する白雪は自身の怪我を顧みずにいたが、心配そうにハートを飛ばしてくるふわりんに気づいた。
     「ナノ?」と白雪を見つめるふわりんに対し、白雪はもの憂げな笑みを向け、
    「ごめんな……お前が頑張っても俺には無駄だよ」
     その時、上空が真っ赤に照らされたかと思うと、イフリートが生み出した炎の槍がいくつも弧を描いて向かってくる。次々と地面に突き刺さった炎は花火のように爆発四散し、ふわりんはその衝撃で吹き飛んでいく。
     白雪は炎の槍が振り注ぐ様をただ立ち尽くして見ていた。喉が焼けるようなむせ返る熱気に襲われ、目の前に飛び込んできた炎のかたまりに耐えかね、両腕で顔を覆う白雪。
     降り注ぐ烈火にも耐え、舞は防御から反撃に転じる。舞い上がる火の粉を斬り払い、舞は冷徹にイフリートに向かっていく。イフリートは舞を迎え撃とうと飛びかかる姿勢を見せるが、斬艦刀を振り下ろしたギィによって進路を遮られる。舞は瞬時にギィの斬艦刀を跳び越え、後退しようとしていたイフリートに迫る。わずかに一挙一動が勝った舞の刀は、イフリートの背中を斬りつけた。
     白雪は浄化の風を操りながら傷口から滴る血をぬぐい、
    「こんなんじゃまだまだだぜ……さあ、俺を殺して見せてくれ」
     ぬぐった血をエサのようにクトゥグァに向けてまき散らす。クトゥグァは白雪の行動に反応するようにエンジンを吹かし、勢いよくイフリートへの突撃を開始した。
     イフリートから「浅はかな同情」と嘲られ、やるせない気持ちに襲われた飛鳥。その挙動を見た智寛は、
    「迷いは死を招くぞ、辰峯」
     積極的に飛鳥の援護に回り背中を押す。
    「お前にも、いや、お前ならばこそわかっているはずだ。イフリートを易々と止めることなどできないと。大災害は何としても阻止する……奴を倒すことに何を躊躇うことがある」
     ――そう、迷っている場合じゃない。
     智寛の言葉を聞き入れた飛鳥は、
    「わたしたちは退けない! 大勢の人たちの命がかかっているから!」
     ただ目の前の目標に集中しようと刀の柄を握り直す。
     すでに消耗著しいイフリートは飛鳥からの気合いのこもった一太刀により、充分な痛手を負った。すぐには起き上がることができず、よろけながらも必死に態勢を立て直そうとする。
    「綺麗に炎花と散らして差し上げやしょう。――覚悟」
     刃を降ろしたギィは黒いエナジーのオーラを右手に集中させ、逆十字のオーラをイフリートに向けて放つ。
     黒炎に包まれたイフリートは、地面に伏せたままの姿で動きを止めた。イフリートの表面は黒炭のようにひび割れて崩れ始め、赤々と燃えて弾けた背中から無数の蝶の形をした炎が一斉に空へと吹き上がる。しかし、蝶たちはどれもぼろぼろに崩れ始め、風に舞う火の粉となって消え去った。

    作者:夏雨 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年7月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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