●鶴見岳の山頂
「ようやく、この時が来た。この日をどんなに待っていた事か。長かった。実に……長かった。今こそ、ガイオウガの御許に!」
まるで闇を纏ったような負のオーラを漂わせたイフリートが鶴見岳の山頂で自ら命を絶った。
自死したイフリートは瞬く間に炎の塊のようになり、そのまま地面に吸い込まれていった。
●エクスブレインからの依頼
「サイキック・リベレイターによるガイオウガの復活を感じ取ったイフリート達が、鶴見岳に向かっています。姿を消したイフリートは、鶴見岳に向かっており、鶴見岳山頂で自死し、ガイオウガの力と合体しようとしているようです。イフリート達が、ガイオウガと合体を繰り返せば、ガイオウガの力は急速に回復し、完全な状態で復活してしまうかもしれません。それを阻止する為には、鶴見岳でイフリートを迎撃し、ガイオウガへの合体を防がなければなりません」
落ち着いた感じの女性エクスブレインが、教室ほどの大きさがある部屋に灼滅者達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「鶴見岳に向かっているイフリートは、黒みがかった赤色の毛並みが特徴で、人間形態の時はライダージャケットに身を包んだクールガイと言った感じです。鶴見岳まではバイクで移動しているようですが、行く手を阻む相手がいた場合は逃げずに戦うようなので、難しく考える必要はありません。また、イフリートは鶴見岳に向かうため、最短ルートを進んでいくので、昼頃に人気の少ない道路で待ち伏せしておくといいでしょう。ここでイフリートを灼滅する事ができれば、ガイオウガの力が増す事を阻止する事ができます。ただ、合体してガイオウガの一部となるイフリートは、その経験や知識をガイオウガに伝える役割もあるようなので、学園に友好的なイフリートであった場合は、ガイオウガへの伝言を伝えるため、敢えて阻止せずにガイオウガとの合体を行わせるという選択肢もあるかもしれません。この場合は、迎撃ポイントで接触した後、イフリートとの友好を深めたり、伝えたい内容を確実に理解してもらうといった準備が必要となります。また、可能性は低いですが、強い絆を持つものが説得する事で、ガイオウガの一部となる事を諦めさせる事もできるかもしれません。この場合も、ガイオウガの影響が強い場合は不可能なので、手加減攻撃などでダメージを与え続けて、イフリートとしての力を弱める事が必須になるでしょう」
そう言ってエクスブレインが、鶴見岳までの地図を配っていく。
「多くのイフリートが語っていた、ガイオウガと一つになるという事は、このことだったのですね。多少なりとも縁があったイフリートを灼滅するのは気が進みませんが、ガイオウガの力の一部となるのならば阻止せざるを得ないでしょう」
そう言ってエクスブレインが悲しげな表情を浮かべ、イフリートの灼滅を依頼するのであった。
参加者 | |
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垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897) |
居木・久良(ロケットハート・d18214) |
鳳仙・刀真(一振りの刀・d19247) |
赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118) |
井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659) |
●鶴見岳付近の公道
「ガイオウガの復活のため、己を捧げるイフリートの気持ちも分からなくはないけど……伝えられるなら、ガイオウガに学園の事知ってもらいたいよね」
垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)がイフリートの着ぐるみ姿で、複雑な気持ちになった。
おそらく、イフリートにとってはガイオウガと合体する事は、自らの命を捧げるだけの価値があるのだろう。
そうでなければ、そこまでの危険を冒して、ガイオウガの一部になろうとは思わない。
「俺にも友達だと思っているイフリートがいるんだよね。なんだか憎めないやつも多いし、仲良く出来るなら、そうしたいけど……。戦わなくて済むなら、仲良くできるなら、そのためになら、命懸けでがんばろうって思う」
居木・久良(ロケットハート・d18214)が真剣な表情を浮かべ、自らの考えを述べた。
イフリートがどんな生活をしているのか分からないが、事前に配られた資料を見る限り、あまり友好的ではなさそうだ。
それが分かっていても、出来る限りの事をしたいというのが本音だろう。
「……そう言っている間に現れたようだな」
佐藤・誠十郎(大学生ファイアブラッド・dn0182)がイフリートの姿に気づき、警戒した様子で身構える。
イフリートは黒みがかった赤のバイクに乗っており、鶴見岳に向けて迷う事無く爆走していた。
「おーい」
それに気づいた久良が明るい笑顔で元気よく手を振りながら、イフリートに対して大声を上げる。
だが、イフリートは久良を完全に無視したまま、横を素通りしようとした。
「ストーップ! ちょっと止まってほしい!」
すぐさま、井之原・雄一(怪物喰いの怪物・d23659)が、バイクに乗ったイフリートの行く手を阻む。
それでも、イフリートはバイクに乗ったまま、雄一を轢き殺そうとしたが、誠十郎がイフリート形態になって、バイクめがけて体当たり!
バランスを崩したイフリートがバイクから投げ出され、アスファルトの地面を転がるようにして滑っていく。
イフリートが乗っていたバイクもガードレールに激突すると、派手な爆発音を響かせて、あっという間に炎上した。
「き、貴様らァ!」
それを目の当たりにしたイフリートが、被っていたヘルメットを地面に叩きつけ、恨めしそうな表情を浮かべて誠十郎をジロリと睨む。
かなり気に入っていたバイクなのか、誠十郎の胸倉を掴んで肩を震わせていた。
「仕方がないだろうが! あのまま放っておいたら、大切な仲間がミンチになっちまうところだったんだから。それとも、何か? どうなるのか分かっていながら、スルーしておくべきだったか? そうじゃないだろ? ま、安心しろ。……修理代は何とかする」
誠十郎が逆ギレ気味に説教をした後、『……やり過ぎた!』とばかりに汗を流す。
どうやら、軽く体当たりをしたつもりが、予想に反して力が入っていたらしく、バイクが大破してしまったため、嫌な汗が止まらないようである。
この状況では修理と言うよりも、買い替えた方が早いだろう。
「……高いぞ」
イフリートが誠十郎に冷たい視線を送り、吐き捨てるようにして呟いた。
「ああ、もちろんさ。それに、俺には力強い仲間達がいるからな!」
誠十郎が無駄に爽やかな笑みを浮かべ、雄一達に期待の眼差しを送る。
そこには『た、頼む! 金を貸してくれ。出来れば、無利子で! 無期限で!』と言う熱いメッセージが込められていた。
「何というか……、俺達から毟り取る気満々だな」
雄一が誠十郎と目が合い、気まずい様子で汗を流す。
一応、命を助けてもらっているので無下には出来ないが、かなりの金額が吹っ飛びそうである。
それに加えて誠十郎の悪意を感じるほどの純真無垢な笑顔で、『NO』とは言わせない状況を作り出していた。
(「イフリートがもつ負の情念が灼滅者に対するものなら……先ずは信頼を勝ち取らんとな」)
赤城・碧(強さを求むその根源は・d23118)がイフリートを見つめて、険しい表情を浮かべる。
その間もイフリートは不機嫌な表情を浮かべ、碧達に対して負のオーラを放っていた。
「初めまして、イフリートさん。アタシ達は武蔵坂学園の灼滅者だよ」
そんな空気を打ち砕く勢いで、毬衣が自己紹介をする。
「……で、何の用だ? ここで殺し合うのか?」
イフリートが殺気立った様子で、素早く身構えた。
それ以外に足止めをされる理由が浮かばなかったらしく、早めに片付けてしまった方が得策であると判断したようである。
「ま、待ってくれ。俺達は戦いに来たわけじゃない。貴方と話をしたいだけだ。俺の名は、赤城・碧。貴方の名前をお聞かせ願いたい」
碧がイフリートに対して、敵意がない事を示す。
「信用できんな。そんな事を言って、俺を殺る気だろ?」
それでも、イフリートはまったく信用しておらず、いつでも攻撃を仕掛ける事が出来るように間合いを取っていた。
「それならば、ご安心を。そちらと戦う気はありません。お忙しいところすいませんが、ガイオウガ殿に迫る危機について、話をさせて頂きたいのです」
鳳仙・刀真(一振りの刀・d19247)がイフリートに詫びた後、本題に入ろうとする。
「ガイオウガに迫る危機……だと!? やはり、あの噂は本当だったのか。ならば、お前達は敵だ!」
その途端、イフリートの表情が険しくなり、今にも襲い掛かっていきそうな勢いで叫ぶ。
「だから、落ち着け。戦う意思はないといっただろ」
そう言って雄一が、興奮気味のイフリートを宥めるのであった。
●説得
「だったら、なぜ足止めをする。これだけでも、俺からすれば、敵対行為に値する事だが……」
イフリートが殺気立った様子で叫ぶ。
予想外に時間がかかっているためか、心に余裕がないようである。
「とりあえず、これだけはハッキリさせておくが、俺達は別にイフリート達……もちろん、ガイオウガと争い合うつもりはない」
そう言って雄一が学園について詳しく、イフリートに説明し始めた。
「つまり、お前達はその学園から派遣された刺客って訳か」
イフリートが妙な誤解をしたまま、雄一達を敵として認識する。
それだけ余裕がないのだろう。
自分以外は敵と言った感じである。
「だから落ち着けって! とりあえず、俺達の話を聞いてくれ。俺もこいつらと敵対していた事もあったが、今は仲間だしな!」
誠十郎が慌てた様子で、フォローを入れた。
「そんなモノ、聞くまでもない。いや、その価値もない。どうせ、女か、金で心を売ったんだろ!」
イフリートが嫌悪感をあらわにしながら、誠十郎を口汚く罵っていく。
「い、いや、女なんかで俺の心が動くわけがないだろ! ま、まあ、金と言えば、金だが……」
誠十郎が気まずい様子で視線を逸らす。
完全には否定する事が出来ないため、激しく目が泳いでいた。
それでも、雄一達がイフリートにとって敵ではない事を強調したかったようだが、心にやましい事があるせいか、説得力は皆無だった。
「た、頼むから黙っていてくれ」
これには雄一も頭を抱え、誠十郎の肩をぽんと叩く。
「とにかく、俺の邪魔はしないでくれ。邪魔をするなら、殺す。ただ、それだけだ」
イフリートが深い溜息を漏らして、誠十郎達に背を向ける。
このまま話を聞いても、時間の無駄だと判断したらしく、徒歩でも鶴見岳に向かうつもりでいるようだ。
「ガイオウガとの合体、止めないんだよ。ガイオウガは力を奪われてる。それを補うのは必要だし……。でも、いろんな勢力が、ガイオウガの力を狙ってる。これ以上、いろんなダークネスに狙われるのは、嫌なんだよ」
毬衣が真剣な表情を浮かべ、イフリートの行く手を阻む。
「いろんな勢力……だと!? 一体、何の話をしているんだ! それと、お前にどんな関係があるんだ! とにかく、俺は急いでいる! お前達に構っている暇はない!」
イフリートが混乱した様子で、叫び声を響かせた。
「だったら、同行させてくれ。俺にもイフリートの友達がいるんだ。だからじゃないけど、イフリートには良くしたいと思っている」
久良がまっすぐイフリートを見つめ、自らの本心を語っていく。
そこに嘘偽りがない事は、その瞳を見れば分かる事。
「……好きにしろ。だが、途中で邪魔をするような真似をすれば、容赦はしない」
イフリート自身も、その事に気づいたのか、やれやれと言わんばかりに溜息をもらす。
「どちらにしても、先代クロキバとの縁も理由に含め、ガイオウガ勢と事を構える気は無い。もちろん、アフリカンパンサーから力を取り戻すなら助力する」
碧がイフリートの後を追い、自らの考えを述べる。
「……考えておこう。それに、まだお前達を信用した訳ではない」
イフリートが頭を抱え、イラついた様子で答えを返す。
好きにしろと言った手前、文句をいう事が出来なくなってしまったため、もどかしい気持ちで、頭の中がいっぱいになっているようである。
「何かのために、自分の命すら捨てる。簡単にできることではないはずです。……正直、それができるあなた方が羨ましい。できることならば、盃を交わしながら語り合ってみたかったものです。現在、ガイオウガ殿の力を狙ってソロモンの悪魔、ご当地怪人が動いてます。我々はそれを阻止するために、それらと戦ってますが、止め切れていないのが現状です。できればあなた方と手を組み、やつらを撃退したいのです。そしてあなた方が人間に手を出さないなら、友好状態をそのまま続けたい。それと、これを持って行って下さい。俺なりの餞別です」
刀真が詳しい事情を説明した後、イフリートにお握りとジュースを渡す。
「もちろん、そっちが別のダークネス組織に狙われたとき俺達に頼ってもいい。……それじゃダメかな?」
雄一が再びイフリートに問いかけた。
「……」
だが、イフリートは何も答えない。
雄一達の顔を見つめたまま、何やら考え込んでいるようだった。
●迷い
「ガイオウガ勢力のイフリートとは、これまでに何度も協力・共闘をしてきたんだよ。だからガイオウガの力を狙う勢力が、力を狙って動き出したら、協力したいと思っているんだよ。出来る事ならガイオウガとも仲良くしたいから」
毬衣がイフリートのまわりを歩きながら、自らの思いを語っていく。
「仲良くしたい……、か。だが、俺にその気はない」
イフリートが自らの感情を押し殺して軽く流す。
「おいおい、ツレねーな。ひょっとして、人間達に何か酷い事でもされたのか?」
誠十郎が能天気な笑みを浮かべ、イフリートに問いかけた。
「ああ、反吐が出るほどな。まあ、お前達とはまったく関係ない奴らだが、俺には同じようなモノ……。ただ、それだけだ」
イフリートがイラついた様子で誠十郎を睨む。
「ガイオウガ派、クロキバさん達とは一緒に戦ったこともある。できれば仲良くしたい。それが本音だから」
久良が真剣な表情を浮かべ、イフリートに語り掛けていく。
「まあ、ガイオウガには……伝えておこう」
イフリートが色々と察した様子で答えを返す。
「ところで、モフったら、ダメ……かな?」
碧が申し訳なさそうにしながら、モジモジとした様子でイフリートに視線を送る。
「……ん、その手があったか」
イフリートがハッとした表情を浮かべ、ケモノ形態になった。
そこですかさず碧が、ダイブ。
その途端、高級羽毛布団にも等しい感触が全身を包む。
やはり、モフモフ。モフモフは正義である。
それとは対照的にイフリートは、クール。
心の中で『最初からこの姿になって移動すればよかった』と思いつつ、その気持ちを誤魔化した。
「ひょっとして、気づいていなかったんですか? その姿になれば、もっと早く鶴見岳に行ける事に……」
刀真が驚いた様子で、大声を上げる。
「……!」
その言葉を聞いたイフリートがぷいっとそっぽを向き、ダラダラと脂汗を流す。
一瞬、『何故、バレたんだ!』と思ったようだが、ここでバレる訳には行かないようだ。
「あなたがいなくなってしまうのは寂しいけど、ガイオウガにはよろしくと言っておいて。それじゃ、また」
久良がイフリートの頭を撫で、寂しそうに別れを告げる。
イフリートは『べ、別に気づいていなかったわけじゃないからな! お前達の話を聞いてやっていただけだ!』と言わんばかりの勢いで地面を蹴りつけ、鶴見岳にむかう。
ただ前を見て、迷う事無く、まっすぐに……!
「ところで誠十郎はガイオウガの元に行ったりしないよな?」
そんな中、雄一が不安げな表情を浮かべる。
「ああ、別に行く理由がないしな。それに、散々世話になっておいて、いきなりいなくなることはねーよ。それに、俺はアイツとは違うからな」
そう言って誠十郎が、だんだん遠ざかっていくイフリートの背中を見つめるのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年7月14日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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