眠れる山と火焔猪

     栃木県某所、身を寄せ合うように隆起した山々の中のひとつ。
     長き眠りの中にある休火山の山頂に、炎を宿した獣の姿があった。
    「今コソ、ガイオウガに……」
     燃え盛る炎に身を包んだ大猪。
     隆々とした巨体はただでさえ見る者を圧倒するというのに、
     いつもにも増して気迫に満ちた表情を見せていた。
    「コノチカラヲ届ケルノダ!!」
     括目し、纏った炎は一段と大きく。足元の高山植物が、燃えて灰に還ってゆく……。
     山の中に眠りしエネルギーが、イフリートの働きにより目覚めつつあるのだった。

    ●教室にて
    「栃木の休火山で、イフリートの出現を予知したぜ。日本中の休火山の一部でこういう事が起こっているようだな。
     サイキック・リベレイターを使用した影響で、イフリート達の活動が活発化されている訳だ」
     神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)の予知によれば、
     出現したイフリートは休火山に眠る大地の力を活性化させ、その力でガイオウガを復活させようとしているようだ。
    「放っておけばガイオウガの復活が早まる上に、日本全国の火山が一斉に噴火する事態にもなりかねない。
     そんな事になっちまう前に、イフリートを灼滅して来て欲しいんだ」
     そして、イフリートの戦闘能力はといえば。
    「基本、ファイアブラッドと同じような技を使ってくるようだぜ。
     それに加えて、猪突猛進! キッツい頭突きを繰り出してくるようだな。猪らしい奴だぜ。」
     イフリートの頭の中は、ガイオウガの為に大地の力を集める事だけでいっぱいだ。
     それを邪魔するものは絶対に許さない、強固な意志で攻撃してくる事だろう。
    「闘志でみなぎっている上に、戦闘力も高めな油断ならねぇ相手だ。でも、キッチリ倒してきてくれるだろう? お前達の事信じてるぜ!」
     と、イフリートに影響されたかのような熱さで、灼滅者達に激励を送るヤマトだった。


    参加者
    八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863)
    高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)
    犬良・明(中学生人狼・d27428)
    土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)

    ■リプレイ

    ●山頂を目指し
    「今回は探検隊のノリでは駄目そうですね、高沢先輩」
    「犬良くんとはツチノコ探検隊ぶりだねぇ。また探検行こうなーって思ってたら登山だった!」
     犬良・明(中学生人狼・d27428)と高沢・麦(とちのきゆるヒーロー・d20857)は依頼での再会を喜びつつ、灼滅者達4人は登山に励んでいた。
    「それにしても猪の姿をしたイフリートさんですか。本当に色々な姿をしたイフリートさんがいますね」
     各地の休火山を目覚めさせようと、あらゆる猛獣型イフリートが暗躍する今日この頃。
    「あちらにも事情があるのでしょうけど……火山の噴火とか、困りますしね」
     土屋・筆一(つくしんぼう・d35020)の言葉に八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863)は頷いて、
    「このあたりの火山が活性化したらあらゆる面でよくない! 栃木のピンチは私たちが守るっ!」
     宇都宮餃子のご当地ヒーローとして、今回の事態は見過ごせない。
    「幅にして大体50メートルくらいしかない岐阜の密林(仮称)から栃木の休火山まで、本当にいろいろな場所にいきますね。これが依頼ではなくて旅行だったらいいのですけど」
     晴れ渡る空の下、なんとなく行楽気分。
    「運転免許の講習でさぁ、後続車がいる時に動物が飛び出したら躊躇無く轢けってね、教えられるんだよねー」
     山を登る途中でふと思い出した事が口をつく。
    「悪いと思ってた事を推奨されて衝撃だった」
     罪のない野生動物ーーイフリートとはいえ猪を倒す事に罪悪感を持ちつつも、
    「猪さんに恨みはないけれど。今俺らの後ろにあるのは14市11町200万の栃木県民の生活。それを守る! 絶対引けない!」
     地元の平和を脅かすダークネスを野放しにはできないのだ。
     青々と茂っていた木々は標高が高くなるにつれ減っていき、周囲は高原植物がまばらに生えた程度の岩山に変貌していた。
     山道を登り切れば、出迎えるのは360度視界の開けた山頂の景色。
    「見つけた……!」
     岩場の陰に、隠れようもない灼熱の炎。あきは、気迫に満ちた大猪イフリートが佇んで居るのを発見した。
     意識を集中させているその足元には、マグマのエネルギーが満ちつつあった。
     イフリートに気付かれぬよう素早く立ち回る。
     明がサウンドシャッターを展開し、後は一気に仕掛けるだけ。息をひそめてタイミングを見計らいーー。
    「……いくよ!」
     あきのゴーサインと共に、岩陰から一番に飛び出したのは麦だった。

    ●いざ開戦!
    「ちょーっと待ったぁ!」
     声高らかに、ばばーんと登場! イフリートはその場から動かず、視線だけギロリと向けた 。
    「大地の力を操る土地の獣……ご当地ヒーローとして正直尊敬申し上げるけど! でも噴火させるわけにはいかないぜ!」
    「邪魔ヲスルナ!」
     警告と共に凄んでくるイフリートだが、こちらも引けない!
    「お前を止める!」
     足元から伸びた影が勢いよくイフリートを絡めとった。
    「私は宇都宮餃子ヒーローの八重葎あき! 栃木県の平和のため、噴火は阻止させてもらうよ!」
     間髪入れず、あきも岩陰から登場だ。正々堂々名乗りを上げて、
    「貴方に強い意志があるなら、私はそれ以上の強い栃木愛で挑ませてもらうよっ!」
     エアシューズに流星の煌めきと重力、そして宇都宮餃子のパワーを込めて!
    「とりゃー!」
     飛び蹴りがイフリートの横っ腹に直撃。
    「よそ見は禁物ですよ!」
     逆サイドから、火花散る明の飛び蹴りも炸裂! イフリートに体勢を立て直す間も与えない。
     足場の悪い岩場も何のその、明の後に続いて飛び出したライドキャリバーの鋼鉄の狼が機銃掃射をまき散らす。
     煙幕やら砂埃やらが舞う中に、
    「邪魔モノ、許サヌ」
     纏った炎を激しく燃やす、大猪のシルエットが。ゴウッ……と強い山風が煙を消し去れば、
     イフリートは目の前の麦へ、力強く炎を叩きつけた!
    「ぐっ……」
     見る見るうちに体中に延焼していく炎。それを見た筆一は、激しく動揺していた。
    「た、高沢さん! しっかりしてください!!」
     闇堕ちから戻って来たばかりとあって、傷ついた仲間を目の前にすると情緒が揺らいでしまう。――それでも。
    (「僕が戻ってこられたのは、まだできることがあるから。
     そう考えることにしたんです。
     だから、もっとちゃんと、皆さんを支えるって、決めたんです……!」)
     気を持ち直して、癒しの力を込めた矢を弓に込める。放たれた矢は弧を描いて負傷した麦の元に届いた。
     傷が癒えていき気力も満ちていく感覚。
    「土屋くんサンキュ!」
     初対面ながらに、闇堕ちから無事帰還した筆一が動いてるだけでもほっこり嬉しい気持ちになる麦だった。
     そして灼滅者達は連携のとれた動きで攻め続ける。
    「わたしが相手だよ!」
     あきが構えたのは大谷石で創られた素朴だが美しい『宮島十文字』。聖歌と共に銃口が開き、イフリートをロックオン。
     大猪の巨体が凍てつく砲弾の光に包まれた。
    「オマエタチノ相手ナド、シテイル暇ハナイノダ」
     その眼中には、心には、ガイオウガ復活のために尽くす事しかないのだ。苛立ちを隠そうともせず、
     ザッ……ザッ……勢いよく後ろ足で地面をかくと足元の植物に炎が燃え広がる。
    「危ないです!」
     明の声にハッとする麦。その時には既に、
     ドドドドド! 地響きがする程の勢いで、イフリートは走り出していた。
     身を挺して麦の前に進み出る明。受け身をとるがそれでも、真っ向から渾身の頭突きを受けてしまえばひとたまりもない。
    「犬良くんサンキュ! このっ……!」
     明の影から、麦が構えた妖の槍の先端から冷気のつららが撃ち出される。
    「グギィイ!」
     突如つき刺さったつららに驚き、大猪はその巨体を捻って退いた。
     無我夢中で猪突猛進していたイフリートには、目の前に飛び込んできた明しか見えていなかったのだ。
    「はぁっ……はぁっ……」
     イフリートから解放された明は、よろけながらもセイクリッドウインドを吹かせて自分と仲間の傷を癒してゆく。
     それでもまだ本調子でないのを察知して、
    「無理は禁物ですよ」
     筆一のダイダロスベルトの帯が護るように包み込んだ。
     敵の一撃一撃が重く、灼滅者達の体力を奪うからこそ、こまめな回復を交えて再び敵に向かうのだ。

    ●その命、燃え尽きるまで……
     そうしているうちに日が傾き始め、戦場はオレンジ色に染め上げられた。
     度重なる攻撃を受け、じわじわと体力を削られてきたイフリート。
     心なしか纏った炎の威力も弱まっている様だった。
     しかし気持ちは弱るどころか、殺気染みた気迫が増してゆく。
    「マダダ……コノ命ガイオウガト共二!」
     仕切り直しとばかりに、背中を切り裂くように現れた炎の翼が傷を癒した。
     体表の炎は再び大きく燃え上がり、揺らめく炎が周囲の岩場に影を落とす。
    「使命ヲ果タス。邪魔ハ許サン!」
    「こちらも譲れないんです、イフリートさん!」
     明は片腕を半獣化させて振りかぶる。同時に鋼鉄の狼もエンジンを唸らせ突撃だ。
     ドンッと鈍い音を立ててライドキャリバーの体当たりによろめき、額には明の放つ鋭い銀爪が深い傷を刻んだ。
    「グゥゥ」
     弱々しく呻き声を上げて、イフリートから噴き出した鮮血が地表に血だまり模様を付けていく。
    「あともう少し……」
     ふらつくイフリートのあとを追随するように筆一の放ったダイダロスベルトが貫けば、
     あんなに勇ましかった大猪も弱り切っている様だった。
     そこへあきと麦がにじり寄る。
    「麦先輩! ご当地栃木の底力、見せてあげようよ!」
    「もちろんっ! 大恩人のあきちゃんと一緒の依頼すげー嬉しい、俺はりきっちゃうよ!」
     2人揃って声高らかに!
    「宇都宮餃子」
    「パリパリ揚げ餃子」
    「「ダイナミック!!」」
     両者から、がしっと高く持ち上げられ、
    「ヤ、ヤメロ!」
     狼狽するイフリートだがお構いなし。
     全力で思い切り地面に叩きつけられ、締めは派手に大爆発だ!
     爆炎が収まると、地面にめり込んで黒こげで横たわったイフリートの姿があった。
     纏った炎は一瞬激しく燃え、弱々しく消えてゆく。。
    「ココマデカ……アア、ガイオウガ二栄光アレ……」
     最期までガイオウガへの忠誠を胸に、夕日に赤く染め上げられながら静かに息絶えたのだった。
     
    「栃木を守れて安心したけど、ガイオウガはいずれ復活する……。その時に何があっても大丈夫なように、もっと強くならなくちゃ」
     決意を新たにするあき。その横でイフリートの消えた跡を見つめながら、
    「俺も栃木を守れてすっげー嬉しい! けど、猪さんごめんな。悪い事したって記憶と一緒に生きていくよ」
      忘れないでいようという気持ちも、麦なりの供養なのだろう。
     筆一は重傷者が出なかったことに安堵して、スケッチブックを広げた。
     イフリートの事、印象深かった光景、いつもそうしているように絵にしたためて。
     敵の力強さを物語るような戦いの跡をてきぱきと片付ける明。ぐるりと周囲を見渡して、
    「綺麗になりましたね。さて、暗くなる前に帰りましょうか」
    「ええ、丁度絵も描き終えました」
     筆一はスケッチブックを閉じ、立ち上がった。

     灼滅者達は帰路につき、今日も夜の帳が下りる。
     噴火の危機を退けて、山は再び静かな眠りにつくのだった。

    作者:koguma 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年7月27日
    難度:普通
    参加:4人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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