不退の山は使命に燃える

    作者:魂蛙

    ●使命に燃える
     日本国内に数ある休火山の1つ、その山頂付近。緑に覆われていた筈の山肌は、渦巻く焦熱に焼き尽くされている。焦土と化したその中心に、それは聳え立っていた。
     巨木の様な四肢で大地を踏み締める。小山の様な体を炎で包む。塔の様な首をもたげて空を仰ぐ。天を貫くそれは、炎の幻獣イフリート。
    「マダ、モットダ……!」
     内圧に耐えかねたかの様に噴き出す炎に巨体が揺らぐが、尚もイフリートは根を張る様に地面を踏み締める。
    「私ノ身ガ如何ナロウトモ、引キ出セル力ノ全テヲ……!」

    ●不退の山
    「サイキック・リベレイターの影響で、各地のイフリートの動きが活発化している。ガイオウガの復活を目論むイフリートが休火山に現れ、大地に眠る力を集めてガイオウガ復活に利用しようとしているようだ」
     教室に集まった灼滅者達に、神崎・ヤマト(高校生エクスブレイン・dn0002)が説明を始める。
    「放置すればガイオウガの復活が早まるだけでなく、火山の噴火のような大災害が起きかねない。そうなる前に、休火山に現れたイフリートを灼滅してほしい」
     いよいよイフリート達との決戦が始まる。

    「山頂付近イフリートに接触、そのまま戦闘に移行する事になる。ガイオウガ復活を至上命題とするイフリートは邪魔する者に容赦はなく、目的を達成するまでは絶対に退くこともない」
     文字通り灼熱デスマッチといったところか。少なくとも、説得の余地は皆無だ。
    「一帯が焼け野原になっているが、これはイフリートの炎によるもので、それ以上広範囲に延焼することはない。山火事の心配はいらないから、戦闘に集中してくれ」
     イフリートが倒れれば、自然と鎮火するだろう。また、一般人が戦場に寄り付く事もない。
    「イフリートの戦闘時のポジションはクラッシャー、使用サイキックはファイアブラッドのバベルブレイカーのレーヴァテインとフェニックスドライブ、ガトリングガンのガトリング連射、衝撃のグランドシェイカー、魔導書のゲシュタルトバスターに相当する5種だ」
     イフリートは長い四肢と首を持つ馬やキリンに近い骨格だが、四肢の逞しさと獰猛な顔つきは寧ろ首長竜の様な印象を受ける。胴体は乗用車程度と他のイフリートと大差ないが、その骨格故に体高はずば抜けて高い。常に上を取って頭上から炎の雨を降らせる戦い方を得意とするイフリートだ。
    「戦場はやや傾斜があり、さっきも言ったように遮蔽物の類は焼き尽くされている。奇襲を含めて、地の利を活かした戦い方をするのは難しいかもしれないな」
     高い戦闘力を持つ相手と正面からぶつかる事になる。油断すれば、火傷では済まないだろう。

    「イフリートとの決戦は始まっている。気を引き締めてかかってくれ」
     教室を後にする灼滅者達を、ヤマトは激励で送り出す。


    参加者
    峰・清香(高校生ファイアブラッド・d01705)
    近衛・朱海(煉驤・d04234)
    雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369)
    レイチェル・ベルベット(火煙シスター・d25278)
    荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)
    ヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)
    楯無・聖羅(鮮血の銃刀・d33961)
    穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442)

    ■リプレイ


     焼け乾いた砂塵。焦げ崩れた樹木。それらを熱風が巻き上げる。
     山頂は灼熱していた。
    「休火山ですか。最近は活火山ではない、活火山以外の火山とか言われているみたいですね。長い歴史からみると、ダークネスと私達の戦いはどれくらいの割合なのでしょうか?」
     雷電・憂奈(高校生ご当地ヒーロー・d18369)は呟き、吹き付ける熱風から顔を庇う。
     休火山の定義は2万年以上活動のない火山。悠久の時の中にあっては、ダークネスと灼滅者の戦いも些細な物に過ぎないのかもしれない。
     その些細な物に、命さえ懸ける獣が山頂に居た。
    「待った待った待ったーーー!」
     それに待ったをかけたのはレイチェル・ベルベット(火煙シスター・d25278)だ。
    「邪魔させてもらうぜ!」
     紅蓮の城砦と見紛うイフリートは、現れた灼滅者達を前にすると大地への干渉を止めて身構える。
    「よろしければ、名前を教えていただけますか? 私は、雷電憂奈です」
    「……アカギ、ダ」
     今にも襲い掛からんばかりのイフリートだったが、意外にも素直に名乗った。
    「貴様ラト共ニ燃エ尽キル名ダ。私ノ炎ト共ニ、ガイオウガ様ヘ捧ゲテヤロウ」
     鼻を鳴らしたレイチェルは親指で背後を指す。
    「一応、聞いておくんだがよ、確実に被害が出ない、私たちの指定する山に行かねえ?」
     長い首をもたげて開いた口腔より撃ち下ろす火炎弾が、アカギの返答であった。
    「ああ、そうだろうな!」
     予測していたレイチェルは横っ飛びで躱す。
    「お前が人間なんて知らねえって、我を通そうってんなら――」
     レイチェルは転がりながらスレイヤーカードを解放、起き上がると同時に構えたガトリングガンの銃口をアカギへ向けた。
    「――止めるぜイフリート。……お前の事情は、知らねえな」
    「突っ込みます!」
     レイチェルの射撃と同時に、妖刀「雷華禍月」を鞘から抜き放ったヘイズ・フォルク(青空のツバメ・d31821)が宣言通りに突進する。
     ヘイズは火玉と弾丸の飛び交う中を駆け抜けアカギを間合いに捉え、膝頭目掛けて刃を振り下ろす。一撃は脚に纏う炎を散らすも、ゴルフスイングで首を振ったアカギの一撃がヘイズを弾き飛ばした。
     そのまま首を振り上げたアカギは、眼下の灼滅者達目掛けて火炎弾を撒き散らす。
    「狩ったり狩られたりしようか」
     ウロボロスブレイド・運命裂きを抜いてアカギの前に立ちはだかった峰・清香(高校生ファイアブラッド・d01705)が、連結を解いた運命裂きを鋭く振りぬく。うねりながら伸びた鞭剣が、迫る火玉を叩き落とした。
    「先に進みたいならこの燃える血を全て大地にぶち撒けさせてからでなければ通さんぞ、炎の塊」
     円を描く鞭剣が弾ける炎の残滓を払ったその向こうで、清香が不敵な笑みを浮かべていた。
    「疫病神にはさっさと地獄に堕ちてもらおうか!」
     楯無・聖羅(鮮血の銃刀・d33961)は死角へ回りつつ、対物ライフルに匹敵する12.7mmの口径を持つSSR-30A “アルバトロス”をぶっ放す。鋭く伸びる烈光が、アカギの横っ腹に直撃した。
     踏ん張り堪えたアカギが炎弾を放つと、荒吹・千鳥(祝福ノ風ハ此処ニ在リ・d29636)が殲術玉串『塞之神』を回転させながら頭上へ掲げ、地面に突き立てた。
    「させへんよ!」
     大きく揺れた榊の葉が発した黄色の閃光は、アカギの炎弾を悉く撃ち落とす。
     憂奈のダイダロスベルトが弾ける炎を掻い潜り、アカギに纏わりつく。幾度も折り返し襲撃するベルトにもアカギは構わず、憂奈に突進を仕掛けた。
     そこに、ライドキャリバーのクトゥグァに騎乗した穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442)が割り入った。炎熱を纏って突き上げるアカギの角が、白雪の腕を切れ味鈍い刃物の如く破る様に裂くと、噴き出す鮮血は炎に昇華する。
    「さあ、俺を殺して見せてくれ」
     口角を吊り上げ犬歯を見せた白雪はクトゥグァのシートを蹴って垂直に跳び上がり、炎血を吸って赤熱するクルセイドソードの猟犬ロイガーをアカギの額に叩き込んだ。
     僅かに後退ったアカギが、再び首を下ろす。炎の鬣が激しく燃え上がった直後、垂直発射式のミサイルよろしく首の付け根から頭へ立て続けに火炎弾が飛び出し、アカギの周囲に着弾して無差別に焼き払った。
     首を上げたアカギの眼前、爆煙を熱風が払ったその向こうに、縛霊手の開闢明王を盾の様に構えた近衛・朱海(煉驤・d04234)が立っていた。


     表情もなくアカギと対峙する朱海の心情は、傍らで獰猛に牙を剥いて唸る霊犬の無銘が代弁する。
     アカギが吐き出す火玉を受け凌いだ開闢明王が炎の爪を伸ばした直後、朱海が地を蹴り飛び出した。
     エアシューズの髻清洸海の車輪が地を割り、轍に炎を残して加速する。迎え撃つアカギが頭を地面に叩き付け、撒き散らす瓦礫と炎に押し返されようとも朱海は再突入、弓なりに反らした体勢から開闢明王の炎爪を振り下ろした。
     深く入った一撃に乗じ、四方から灼滅者達が一斉に襲い掛かる。
     正面から突っ込んだ清香がブラッディクルセイドソードで斬り上げた直後、死角に回り込んだヘイズが雷華禍月を打ち込み、間髪入れずに飛び込んだ憂奈の蹴りが体側に突き刺さる。
     咆哮と共に後脚で立ち上がったアカギが、振り上げた前足を地面に叩き付ける。踏み割られた地面の亀裂を炎が走り、次いで来る炸裂が足元に張り付く灼滅者達を纏めて吹き飛ばした。
     飛び上がったウイングキャットのミケランジェロのリングが光り、灼滅者達を癒す。
    「いいぞ、ミケ!」
     声を上げたレイチェルが伸ばした影業でアカギを捕え、不敵に笑う。
    「テメエの炎と私達、どっちが熱いか試してみようぜ!」
     クトゥグァで突撃する白雪を、アカギは首を捩って吐き出す火炎弾で迎え撃った。白雪は火玉を躱す事さえせずに加速して突っ込み、強引に突破する。白雪は炎に塗れながらアカギに肉迫、突き出した猟犬ロイガーでアカギの脚を抉った。
     すかさず黒桜の銘を持つ槍を抜いた聖羅が追撃を掛ける。
    「頭を冷やせ。夏だというのに傍迷惑だ!」
     頭部に聖羅が狙いを定めて突き出した黒桜の穂先が、巨大な氷柱を生成して撃ち出す。
     直撃した妖冷弾がアカギの顔面を氷漬けにするも、炎の鬣が瞬時にそれを溶かし尽くす。勢いを増して体表を焼く紅炎が戒める影業を焼き切り、首を振り上げたアカギは炎弾を乱れ撃った。
    「その身を犠牲にする精神、立派とだけ言っておこう」
     ヘイズは所かまわずの爆撃を掻い潜り、敵までの最短距離を駆け抜ける。迎え撃つ炎弾に正面から突っ込んだヘイズは、振り上げる雷華禍月で炎弾を一閃した。
    「敵の血肉、その炎すら喰いつくせ……禍月!」
     両断されて背後に着弾する炎の炸裂すら利用してヘイズは跳躍、アカギの頭上を取って大上段からの唐竹割りを叩き込んだ!
     闘争心で痛みを凌駕したアカギは、着地際のヘイズを見据える。開いたアカギの顎から、圧縮された炎が溢れ出そうとしていた。
    「出番やよ、くま太郎!」
     すかさず千鳥がダイダロスベルト製の熊のぬいぐるみを放り投げる。一直線に飛びアカギの顎下に潜り込んだくま太郎のアッパーは、見かけに反した威力でもって顎をカチ上げ、直後に放たれた火炎弾があらぬ方向へ飛んで行った。
     アカギは身震いで灼滅者達を追い払うと、咆哮しつつ地を踏み鳴らし全身が燃え上がらせる。
     拡がる熱波が、灼滅者達の肌を焦がした。


    「燃え尽きたいなら、燃えるがいい。ただし――」
     清香は運命裂きを振り回し、飛来する炎弾を叩き落としながら前進する。そのまま勢いをつけて伸ばした運命裂きをアカギの首に巻き付け、引き寄せながら跳躍した。
    「――お前1匹で、だ!」
     炎弾を跳び越えた清香はもう片方の手に持ったブラッディクルセイドソードで、アカギの喉元を突く!
     炎血と苦悶の声を漏らしたアカギは、首を振り回し清香ごと地面に叩き付けた。
     千鳥とアイコンタクトを取った憂奈がヴァンパイアミストを展開し、併せて千鳥は妖刀・夜哭の柄を握りながらアカギの前に躍り出る。
     不快な高音と火花を散らしながら抜刀された夜哭が、怨嗟の声を上げて震える。
     重心を落として駆け出した千鳥は、上から降り来る火玉をスラロームステップで躱し足元に潜り込む。アカギのストンピングのカウンターは読んでいた千鳥は一歩下がって凌ぎ、眼前を踏み抜いた脚目掛けて夜哭を袈裟懸けに振り下ろした。
     夜哭の毀れた刃がアカギの食い込み、そして怨嗟の震動で引き裂く!
     アカギは敢えて斬られた脚で地を掻き、飛び散る炎血で火勢を増して駆け出す。暴走じみたアカギの豪脚は、灼滅者達を文字通りに蹴散らした。
     吹き飛ばされた白雪はクトゥグァから落ちて転がるも、地面にかじりつくような受け身で立ち上がる。白雪は炎血で燃え上がらせた傷塗れの腕をアカギに突き出して掌を返し、手招きで挑発した。
    「どうした? 私はまだまだ動けるぜ?」
     反転して突っ込んでくるアカギを、白雪は右手に猟犬ロイガーを、左手にチェーンソー剣の狂犬ツァールを握って迎え撃つ。
     交差した剣でアカギの蹴りを受けた白雪が、その衝撃を利用して跳び上がる。アカギが振り上げる角に白雪は振り下ろした猟犬ロイガーをぶつけ、弾み上がりながら旋転で反動を受け流し、遠心力を乗せた狂犬ツァールで追撃、額の肉を抉られたアカギの炎血を浴びて気炎を吐く。
    「まだまだァ!」
     白雪は狂犬ツァールを傷口に食い込ませ、チェーンソーの巻き込む力を回転力に変換して前宙に繋げる。
     両者の炎血で爆ぜる寸前のねずみ花火と化した白雪の斬撃が、深くアカギを斬り裂いた!
     たたらを踏んだアカギは、ダメージを誤魔化すように炎弾を吐き散らす。
    「HAHAHA!! ごっきげんだぜ!」
     付近に着弾する炎弾に動じないレイチェルは緩んだグローブの端を咥えて引っ張り、構え直したガトリングガンをぶっ放す。アカギの反撃でレイチェルの周囲の爆撃は激化した。
    「喰らえばーにんぐ!」
     頑として、足を止めての撃ち合い。
     焼け付く寸前の銃身が吐き出すそれは炎の濁流と化して、火玉を撃ち砕いてアカギを直撃した。
     天を衝くアカギの咆哮。
     その背中を一対の炎が伸び、アカギの全身を覆う程の巨大な翼を形作った。
     羽叩く炎翼の熱風を切り裂いて、朱海が真っ向から突っ込む。下げた右手に握るクルセイドソードの刀纏旭光、その切先が小石を撥ね、散らした火花で点火した炎を刀身に纏った。
     炎弾を刀纏旭光で斬り裂き、開闢明王で叩き落とし、愚直なまでの直進を貫き通して眼下に至った朱海に対し、アカギは口腔に溜め込んだままの炎で焼いた牙を剥き、首を突き下ろすように噛み付きかかった。
     襲い掛かるアカギの牙を、朱海は突き出す開闢明王で迎え撃つ。
     朱海は足を地面にめり込ませながらも、開闢明王でアカギの鼻先を抑え込む。アカギを見据えるその瞳の奥で、炎が揺れた。
    「捕まえたわ……!」
     純粋に燃え尽きる為のアカギの炎に対し、朱海の混沌としたそれは焼き尽くす炎。
     伸びる開闢明王の炎爪がアカギの顔面に食い込む。同時に振りかざされた刀纏旭光が逆巻きの炎で半円を描き、切先を地面に向ける。朱海は逆手に握り変えた刀纏旭光でアカギの角と打ち合い、繋ぐ旋転で髻清洸海が地面を擦って着火、そのまま廻し蹴りを側頭に叩き込んだ。
     脚を開いて踏ん張ったアカギは朱海を睨んだまま。至近距離から火炎弾をぶち込まんと開口する。
     瞬間、飛び出した無銘がアカギの体側を駆け上がり、斬魔刀でアカギの炎翼を叩き斬った!
     バランスを崩したアカギの炎弾は狙いが外れ、朱海は直撃を免れる。しかし、その被弾や回避に関わらず、既に朱海は踏み込んでいた。
     逆手に握った刀纏旭光の柄頭に手を添え、踏ん張る事で下りてきたアカギの胸に刃を突き立てる。朱海は抉り込む刀纏旭光でアカギの横っ腹を斬り裂き――、
    「はァあああああっ!」
     ――駆け抜けた!
    「狙わせてもらう!」
     既にスナイプポジションを確保していた聖羅が腰を落とし様、バイポッドで地面を半ば叩き割りながらアルバトロスを構える。的は大きく外しようがない。だが狙うは急所一点、超ピンポイント狙撃だ。
    「そこだ!」
     銃身を跳ね上げ聖羅を後退らせる強烈なリコイルから放たれる極太の光条。それは串刺しにするが如く、アカギの体ブチ貫いた!
     炎血の制御すらままならず、火達磨のアカギはそれでも倒れる事だけは断固拒絶する。不倒の獣の炎は臨界に達し、踏み抜く地表を融解させながら突進する。
     その進路上に立ちはだかった憂奈が、破城槌が如く首を水平に伸ばして突き出す角を受け止めた。
     衝撃と熱波に煽られた憂奈の長髪は炎よりも赤く、アカギの角を掴む掌は焼けるよりも熱く。
    「ご当地ィ……――」
    「手伝うよ!」
     アカギの腹下に潜り込んだ千鳥は倒立したまま屈伸、溜め込んだ力を解放しつつ両腕で強く地を突いて跳ね、土手っ腹を蹴り上げる!
    「今や、憂奈ちゃん!」
     合わせて憂奈は持ち上げたアカギを渾身の力でブン投げ、背後の地面目掛けて叩き付けた!!
    「――ダァアアイナミック!!」
     溶岩混じりの土砂を巻き上げ作られるクレーターが、その破壊力を雄弁に語る。
     が、しかし。
     立ち上がったアカギの炎混じりの息遣いは、より雄弁であった。
     直後、灼滅者達の足を取るほどに地面が大きく揺れ出した。
    「させるか!」
     それが最期の力を振り絞ったアカギの本来の使命である大地への干渉だと悟ったヘイズが飛び出した。いつ燃え尽きるともしれない炎と化したアカギの中に、迷わずヘイズは飛び込む。
    「熱いのは……苦手なんだよっ!」
     炎の中核に突き立てた解体ナイフのブラック・ナイヴスを足掛かりに、ヘイズは炎の海を突き破って跳び上がった。
     既に雷華禍月の納刀は完了している。
     眼下に炎を見据えて鯉口を切ったヘイズは、構えたままの落下を踏み込みに代える。刹那、鞘から解き放たれた雷華禍月が炎を――、
    「これで……っ!」
     ――一閃した。


    「残念だったな、今回は俺達の勝ちだ」
     燃え崩れたアカギを一瞥し、ヘイズは血糊を拭った雷華禍月を鞘に納めた。
     へたり込んだ白雪は、気遣うように寄り添うクトゥグァを傷塗れの手で撫でる。
    「また生き残っちまったな。まだ走れるか、相棒?」
     その様子を見ていた千鳥が1つ息をついた。
    「みんな無事やね。ほんならうちは、巻き込まれた動物とか居るかもしれへんさかい、ちょっと見てくるわ」
    「あ、私も手伝います」
     名乗り出た憂奈が千鳥を追いかける。
     一方、朱海は天を仰ぎながら目を閉じていた。
     灼熱が過ぎ去った山に、不安定な大地の拍動はもう感じられない。
     目を開いた朱海は、煙を燻らせる燃え跡を見据える。
    「ガイオウガとは後で冥府で会わせてやるわ」
     朱海は言い放ってから、刀纏旭光を振り抜き残り火を払うのだった。

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年7月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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