山間部の川を渡る橋の上で、二人のご当地怪人が激闘を繰り広げていた。
「博多に麺怪人は二人もいらん! 博多バリカタ殺法! 結界麺!」
博多の麺怪人のひとり、博多とんこつ怪人が、手にした硬い麺を操り結界を張り巡らせば、
「勝つんはこっちたい! 博多ごぼ天ストーム!」
相手となっている博多うどん怪人が、ごぼ天を嵐のように撃ち込んでそれに応じる。
数多の技の応酬の後、そこに立っていたのは博多うどん怪人だった。倒れ伏している博多とんこつ怪人から、博多うどん怪人がご当地パワーを吸収していく。
「博多とんこつうどん怪人……それが俺の、新しい名前か!」
こうして、新たな合体ダブルご当地怪人が誕生した。
教室に揃った灼滅者達に一礼してから、五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)が話し始めた。
「ガイオウガ復活に向けたイフリート達の行動が活発化していますが、もう一つ、見過ごすことのできない動きが起きています」
日本に潜むご当地幹部、緑の王・アフリカンパンサーが、所有していたガイオウガの体の一部を自らの力とし、合体怪人を生み出せるようになったのだという。
「今回、皆さんには、この合体怪人への対応をお願いしたいのです」
手にしたガイオウガの力をアフリカンパンサーが使ったことで、ライバル関係にあるご当地怪人が決闘し、その勝者が敗者のガイアパワーを奪う事で合体怪人は誕生する。
「本来であれば、ガイオウガが得ていた力を、アフリカンパンサーが奪った事で、ガイオウガ勢力の拡大阻止につながりました。でも、ご当地怪人の勢力が力をつけてしまっては、本末転倒です」
ですから、合体怪人の灼滅も、大切な任務なんです、と姫子が付け加えた。
「誕生する合体怪人は、博多うどん怪人と博多とんこつ怪人が合体した、博多とんこつうどん怪人になります。食材を武器とした攻撃をしてくるという点では、合体前と変わりませんが、合体したことで戦闘能力は二倍になっています。ただ、決闘のダメージが残っているので、勝機は十分にあります」
もし、合体前に攻撃を仕掛けた場合は、ライバル同士、手を組んで対抗してくる。どちらか一方が灼滅された時点で、かつてのライバルに自身の力を託すため、結局、合体怪人と戦うことになってしまう。
怪人を同時に灼滅できれば合体怪人と戦わずに済みますが、灼滅者達が戦闘を仕掛けるタイミングとしては、決闘の直後が最良でしょう、と姫子が言葉を続けた。
「合体怪人は強敵ですが、皆さんも、戦いの経験を積んで多くのものを得ているはずです。それを信じて立ち向かえば、必ず勝つことができます」
そう言うと、姫子は灼滅者達に向かって微笑んだ。
参加者 | |
---|---|
緒方・宗一郎(月影の魔術師・d00117) |
色射・緋頼(生者を護る者・d01617) |
新堂・辰人(影刃の魔法つかい・d07100) |
御剣・菖蒲(殺戮の福音・d24357) |
ヒノエ・シルヴィアーナ(忠魂義胆・d28602) |
●誕生!
川沿いに立ち並ぶ木々が、バス停に集まっている灼滅者達の視界を格子のように遮っている。その隙間から見える怪人同士の戦いは、いよいよ佳境を迎え、死力を尽くした最後の一撃を放つべく、両者が身構えたのが全員に分かった。頭を飾る大きなどんぶりから湯気が立ち、とんこつスープとうどん出汁の匂いが混ざり、川面を渡る風に乗って灼滅者達の元に、届いたからだ。
「美味しそうな匂い……」
「ではないと思いますよ。混ざってしまっていますし」
流れてくる匂いに釣られ、川の方へと足を踏み出しかけた御剣・菖蒲(殺戮の福音・d24357)を、ヒノエ・シルヴィアーナ(忠魂義胆・d28602)が抱きとめるようにして留めた。
「そろそろでしょうか」
「まぁ、もう少し待とう。邪魔するのは、なんか悪いしね」
自身の手を振り払った菖蒲に苦笑いしながら尋ねたヒノエに、新堂・辰人(影刃の魔法つかい・d07100)がそう返す。
「準備はしておいた方がよさそうだけど。周りはどうかな。人はいそう?」
「いえ。先程から注意して見ていますが、人や車が来る気配はありません」
隙のない様子で周囲に目を配っている色射・緋頼(生者を護る者・d01617)が答える。
「そっか。大丈夫そうだね」
「はい。……あの」
「何だろう?」
「どうなるんでしょうね。その、味とか、麺とか」
橋上に閃光が走る。それを見た全員が、スレイヤーカードの封印を解き、殲術道具を身に帯びた。
「……気になるよね。それ。明らかに、方向性が逆のもの同士だし」
緒方・宗一郎(月影の魔術師・d00117)が頷く。
「仕方がないんでしょうが、何というか、何でも混ぜればいいってものでも、ないと思うんですよねぇ」
閃光が晴れた後、立っていたのは博多うどん怪人だった。倒れている博多とんこつ怪人のどんぶりから、球状になったとんこつスープと細麺が浮かび上がり、博多うどん怪人のどんぶりの中へと吸い込まれていく。
「って、足しましたね。そのまま」
「聞いてみるのが、一番早いかな。行こうか」
辰人の言葉に全員が頷き、橋へと駆け出していく。後方についた菖蒲が、隣を走るヒノエを横目で見た。
「俺は、美味しいんじゃないかと思うんだけど」
「でしたら、このあとにでも……いや、この話は、戦いが終わってからにしましょう。急ぎますよ」
「分かってる!」
川沿いの通りを走ること数十秒で、灼滅者達は、博多とんこつうどん怪人のいる橋に到着した。
●開戦!
「なんや、お前ら」
車二台が行きあえる幅の橋いっぱいに、五人の灼滅者達が立ち並んでいる。橋の欄干に寄りかかっていた博多とんこつうどん怪人が、身体を起こした。
「君に、少し聞きたいことがあるんだ」
辰人が右隣に立つ緋頼の顔を見て促した。
「あの……とんこつうどんって、どんな味なんですか?」
「そりゃあ、博多のうどんに博多のとんこつラーメンば入れた味たい」
「入れたっていうのは」辰人が、緋頼の後を継いで問いかけた。
「どんなバランスなんだい? スープとか、麺とか、具とか、色々あるよね?」
「うどんの出汁に、とんこつのスープば入れる。麺は、うどんと、ラーメンの細麺が両方、一食分ずつ入っとる。一杯で二食分。博多もんは働きもんやから、腹がふくれるのが一番や。具は、好きに天ぷら入れたらよか」
言葉を失っている辰人にかわり、宗一郎が今度は尋ねた。
「それは、つまり、うどんにとんこつラーメンを、そのま何もせずに入れるということですか?」
「さっからそう、言いよろうが! なんか文句あるんか? 腹ふくれるもんは、ありがたいやろう」
宗一郎が黙った。
「お腹いっぱいになるのは、いいよなぁ」
菖蒲がひとりごとのようにつぶやく。
「君は黙っていなさい」
ヒノエが菖蒲の袖を引く。しばらく沈黙が続いたが、不意に、殺気が辺りを満たした。博多とんこつうどん怪人もそれに気づき、橋の中央へと警戒しながら歩みを進めていく。
「なんや。やるとか」
殺気の主である辰人を、博多とんこつうどん怪人が睨みつけた時、緋頼がサウンドシャッターを使い、戦いの音をこの場に封じた。
「これは、色々と駄目だ。倒そう」
辰人のこの言葉が、戦いの合図となった。
●激戦!
灼滅者達が行動を起こす数瞬前に、博多とんこつうどん怪人が動いた。頭のどんぶりに両手を突っ込み、引き出した細麺を左右の指に絡めて縦横に振り回す。麺が橋の路面に突き立ち、後衛の三人を封じる結界となって、さらに斬撃を加えた。
「すごいな。これが合体怪人か」
菖蒲がそう言って、どこか楽しそうに笑う。
灼滅者達の中で最初に動いたのは、緋頼だった。欄干に沿って走り、橋の中央にいる怪人に肉薄し放った、銀の輝きが、相手の身体を捕える。
「似たようなことしてきよる、小娘が!」
間髪入れず、辰人も動き出す。
「後ろの三人!」
緋頼に向き合う怪人の逆を突き、距離を取る辰人から染み出すように広がる霧が、菖蒲、ヒノエ、宗一郎の傷を癒した。
「男やったら、真正面からかかってこんかい!」
「次は、お前を切り裂くよ」
手にしている解体ナイフを突きつけ、辰人が次の一手のために踏み込み始めた時、
「助かったぜ、辰人さん! そっちの二人は大丈夫か!?」
クロスグレイブを構えている菖蒲から、声が飛んだ。
「私のことは気にしないで!」
ヒノエは、前に立つ緋頼をかわす射線を求めながら、既に魔法の矢を放つ呪文の詠唱に集中し始めていた。
「こちらもなんとか!」
宗一郎が、束ねられた護符の中から一枚を抜き出し、秘める力を解放すべく集中する。全員が橋の上を所狭しと動きながら、サイキックを放つ一瞬の機会を待ち構えていた。菖蒲は、その好機を逃さなかった。
クロスグレイブの銃口が開き、聖歌が聴こえてきたその瞬間、光の砲弾が、怪人に直撃した。一瞬、その動きが止まる。
「前来い! 前!」
「あー、考えとく」
「どいつもこいつも、ちょろちょろと!」
「よそ見は駄目ですね」
魔法の矢が、怪人に突き刺さった。怒りの形相で怪人が見据えたのは、ヒノエだ。
「さすが、というべきですか。合体怪人の、合体は伊達ではない、と。これは、綱渡りのような戦いになりそうですね」
優雅な仕草で、マジックミサイルを放った右手をそのまま胸に当てて見せる。
「全くです。忙しくなりそうだ」
宗一郎の手にしていた護符が、燐光に包まれ、砕けるように消えていく。自らに向けた防護符の力は、長引く戦いへの備えだった。癒し手として、自身が真っ先に討たれるようなことがあってはならない。
「……舐められとるなぁ」
放つ素振りも見せず、怪人がごぼ天、かぼちゃ天、丸天に、チャーシューまで加えた弾丸を暴風のようにばら撒いた。
「何度も、同じ手は食わんよ」
狙われたのは、疾風のような踏み込みを再び見せていた、緋頼だった。
●決着!
怪人の全身に裂傷が刻まれている。どんぶりにもひびが入り、満身創痍と言うに相応しい状態だったが、それは灼滅者達も変わらない。ただ、辰人が刻んだ刃のあとが、戦局を灼滅者側の優位に傾けつつあった。
「これだけ切っても、まだ倒れないとはね。たいしたもんだよ」
でも、まぁ、と、肩で息をしている辰人が、解体ナイフを逆手に構えた。
「同じことを繰り返すだけだ。君が倒れるまでね」
刃が、稲妻に似たいびつな形に姿を変え、間合いを瞬く間に詰めた勢いそのままに振り抜かれた。怪人に身体に刻まれている裂傷が、数を増やしていく。
「博多とんこつの命ばもろうて、俺はここにおる。負けるわけには、いかん」
「あのさ」
「なんや」
菖蒲の問いかけに、振り向くことなく怪人が応じた。
「博多とんこつって、ライバルだったんだろ? あんたにとって、ライバルって、なんだ?」
「……倒すべき相手。信頼に足る相手」
「そうか」
クロスグレイブによる横殴りの一撃が、怪人の脇腹を襲う。そのまま突き上げ、そして武具そのものの重さを利用した、振り下ろしの一撃を受けても、怪人は笑っていた。
「前に来たか。ようやくやな」
「強ぇな、あんた」
「二人分やからな」
「菖蒲、離れて!」
怪人の前に立っていた菖蒲が、ヒノエの声に背を向けたまま、身体をそらす。菖蒲の身体があったその場所を、制約の魔力を帯びた弾丸が通過し、怪人を捉えた。
「これが信頼ってことだよな」
「いい度胸や」
膝を突きかけた怪人の頭上を一枚の護符が飛翔し、やがて燃え尽きたその場で降らせた淡い光は、緋頼に向けられていた。
「囲まれとるか……」
背中側で身構えている緋頼に向き直ると、怪人が不敵に笑った。
「緋頼君! 退いて!」
辰人の呼びかける声に、
「遅いわ!」
怪人の声が重なった。頭上のどんぶりが回転し、ご当地パワーが凄まじい勢いで充填されていく。緋頼が身を低くし、一呼吸のうちに前進したのと、怪人が合体・博多とんこつうどんビームを放ったのは、ほぼ同時だった。
閃光が炸裂し、轟音が響く。桁違いのその威力に、男たちが足を止めたその刹那、エネルギーの奔流を突っ切り、現れた緋頼の手から、銀糸が一筋、怪人へと伸びた。
舞うように身体を返す緋頼の動きに合わせ、銀糸が怪人の身体に刻まれた裂傷一つひとつをなぞっていく。傷口を深く広げながら怪人の身体を伝い、そしてどんぶりに届いた。
「たいしたもんだ……小娘呼ばわりして、悪かった……な」
怪人の声が小さくなっていく。
「あなたは……あなた達は、いったい、何をしようとしていたんですか」
緋頼の声は、もう、届かない。どんぶりが砕けると同時に、合体ダブルご当地怪人、博多とんこつうどん怪人の姿も、同じように砕け、砂となって消えた。
「……終わった」
菖蒲が、路上で大の字になり天を仰ぐ。それに倣うように、全員がその場に座り込んだ。
「勝ったね……さすがに疲れた」
「全くです」
癒しを一手に引き受けていた宗一郎は、辰人と並んで欄干にもたれかかっている。
「落ちないでよ?」
「その時は、箒で飛びますから」
「少し、お休みしてから帰りましょうか」
博多とんこつうどん怪人の姿が消えた近くに、足を崩して座っている緋頼が提案すると、
「それがいいでしょうね」
声に疲労を滲ませたヒノエが、大きく頷いた。
「あ。思い出した」
菖蒲がごろごろとヒノエの方に転がりながら近づき、そのそばでぴたりと止まった。
「戦う前さ。なんか、話したよな。このあと、とか、なんとか」
「何の話ですか?」
宗一郎が首を傾げると、「あぁ、さっきの話ですか」とヒノエが前置いてから、説明し始めた。
「いや、菖蒲が、とんこつうどんは美味しいのではないか、と言うんでね。だったら、帰りに探してみましょうか、と言おうと思った、という、まぁ、それだけの話でして」
「みんなでとんこつうどん、食いに行こうぜ!」
ヒノエが苦笑いし、辰人が咳払いした。
「うん、とんこつうどんは、まぁ、置いておくとして。せっかく福岡まで来たんだし、博多うどんと、とんこつラーメンを食べて帰るのも、いいかもね」
そう言って、辰人が立ち上がった。
「ここから、バスですかね」宗一郎が続いて立ち上がる。
「走った方が早いんじゃね?」
「運動の後の食事は、おいしいでしょうしね」
空が、いつのまにか赤らんでいる。緋頼がまぶしげに見上げた太陽が、橋の上に並ぶ灼滅者達の影を、長く伸ばしていた。
作者:文相重邑 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年8月2日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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