美しい山の焔に

    作者:幾夜緋琉

    ●美しい山の焔に
     昼下がりの、新潟県妙高市に立つ、妙高山。
     その妙高山の山頂に。
    『ウウゥ……グゥゥゥ……』
     と、炎に体を包んだイフリートが猛々しく吼えながら、立ち止り力を溜める。
     虎が一回りも、二回りも巨大化したような姿をして……炎の勢いを纏いながら、ただただ、唸り続ける。
     そして……唸り続けたイフリートの周りは、更なる炎が燃え上がる。
     次々と木々が焼け焦げ、それを己が力にするが如く、更に炎を纏う……その繰り返し。
     力を溜めしイフリートは、人が来る事も無い山頂で、ただただ、力を溜めていくのであった。
     
    「良し。みんな集まってくれた様だな! それじゃ早速だが、説明させて貰うな!」
     と、神崎・ヤマトは、集まった灼滅者に軽く挨拶すると、早速説明を始める。
    「みんなの決断した、サイキック・リベレイターの使用。結果、イフリート達の動きが活発化している様だ。そして今回皆に集まって貰ったのは、その一つ……日本全国に存在する休火山。その一部において、イフリートの出現が次々と予知されているんだ」
    「これらイフリートは、休火山に眠る大地の力を活性化させ、その力をガイオウガの復活へ使用しようとしてる。イフリート達は、それぞれ山の山頂付近で炎の力を使用しているんだ」
    「これをこのまま放置すれば、ガイオウガの復活が早まるだけでなく、活性化された大地の力によって、日本全国の火山が一斉噴火する事態に陥る可能性もある。その前に、皆には休火山に出現したイフリートを灼滅為てきて欲しいんだ!」
     そして、更にヤマトが。
    「イフリートの現れたのは、新潟県の妙高山だ。このイフリートは山頂から動く事は無いので、一般人への被害を及ぼすような事は無い」
    「とはいえ、大地の力を集めているイフリート達は、その力の収集を邪魔しようとする者は決して許さない意気込みの様だ。つまり、皆が邪魔する様ならば、全力で以て牙を剥いてくる事だろう」
    「イフリート自信、炎に包まれた体から繰り出される一撃一撃、とても高い攻撃力を持った致命的な一撃を仕掛けてくる。勿論、炎のバッドステータスも付与される、危険な攻撃だ」
    「又、四肢はしなやか、かつ筋肉質な獣の風体で、とても素早い身のこなしが可能だ。攻撃は中々当らない事が予想されるので、その辺り注意しておいてくれな!」
     そして、最後にヤマトは。
    「このままでは、日本全国の火山が連鎖爆発してしまうやもしれん。そうならない様、皆、イフリートを今の内に退治してきてくれ。宜しく頼むな!」
     と、肩を叩き送り出すのであった。


    参加者
    クリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977)
    新月・灯(誰がために・d17537)
    大和・蒼侍(炎を司る蒼き侍・d18704)
    穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442)

    ■リプレイ

    ●山の陰には
     新潟県は妙高市にそびえ立つ、2000メートル級の火山、妙高山。
     周囲には冬ともなればスキー場、夏にはトレッキングを楽しむ人あり、周囲には温泉もあり、訪れる人は中々多い。
     そんな妙高山に出現した、とヤマトが言うのは、イフリート。
     周囲の木々を焦がし、それを己が力に昇華させるという、力を溜めしイフリート……人の来る事が無い、山頂にて唸り続けているという。
    「ええと、休火山を噴火させようとするイフリートさんですか。ガイオウガさんの復活の為の行動でも、一般人の方の迷惑になるのでしたら、止めないといけませんね」
     と、新月・灯(誰がために・d17537)に、クリミネル・イェーガー(肉体言語で語るオンナ・d14977)も。
    「そやなぁ。全く今回のイフリート達って、やってる事全てガイオウガ復活のためやしな」
    「ええ……そういえば、日本にある休火山はいくつあったでしょうか? 全部の休火山にイフリートさんが居るとなると、これは大変な事ですよね」
    「ああ。ま、何や。ともかくイフリートは倒さへんとな!」
     ぐっ、と拳を握りしめるクリミネル、そしてそれに穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442)と、大和・蒼侍(炎を司る蒼き侍・d18704)も。
    「イフリートとの戦いは好きだ。正義も悪もない暴力の世界……死が近い所にあるほど、俺は兄さんに近づける。この戦いで死ぬ事が出来れば、兄さんと同じところに行けるんだしな」
    「そうだな……」
    (「イフリートの活動が活発化している今ならば……仇も見つかるかも知れない。今日出てくる奴は、果たしてどちらだろうな……」)
     ……と、淡く抱く願いにも煮た、思いを呟く蒼侍。
     ただ、その言葉は誰かが聞いているという訳でも無く……蒼侍は、自分自身へと小さく頷く。
     そして灼滅者達は、それぞれの掛ける願い、気合いと共に、妙高山の山頂へと急ぎ向かって行くのであった。

    ●妙なる高さに
     そして灼滅者達は、イフリートの居る山頂へと到着。
     ……イフリートは炎の身体を燃やしながら、山頂のある場所に、ぴたりと立ち止っており、グルルルゥウ……と唸り声を上げながら、力を溜めている。
     そんなイフリートを発見した灼滅者達……すぐさま、灯がサウンドシャッターを発動し、戦域内の音を外部に漏らさぬよう遮断。
     そして、イフリートの姿形を観て、蒼侍が。
    (「……また違ったか……」)
     と、仇のイフリートで無い事に対し、内心落胆。
     しかし、すぐにその落胆を振り払い、武器を抜き、イフリートに向けて構えてから。
    「……これ以上、悲しむ人を増やす訳には行かない……ここで、必ず倒す」
     と、蒼侍は睨み付ける……それにイフリートは。
    『グゥゥ……』
     と、足を掻き、対峙体制を取る。
     そのしなやかかつ、筋肉質な獣の風体は、何処か美しさをも感じる。
     ……ともあれ、そんなイフリートに圧倒されない様、白雪も、己の腕に傷を付け、その血をクトゥグアに吸わせる。
     白雪の顔は蒼白になり、クトゥグアは逆に猛り、エンジン音を大きく猛々しくならす。
    「さあ、俺を殺して見せてくれ」
     と、白雪も自分を追い込むことで、気合いを込める。
     ……そんな灼滅者達の対峙に、イフリートは再度、もう一度唸り声を上げた後、次の瞬間、灼滅者達に接近、そして鋭い爪のついた腕を振り払ってくる。
     かなり強力な一撃……しかし、その攻撃をカバーリングするは灯。
    「っ……中々、痛い一撃ですね」
     と、唇を噛みしめながら、その攻撃に耐える灯……そして、次には、白雪が。
    「行くぜ、相棒。今日もフルスロットルだ」
     とクトゥグアに騎乗すると共に、そのままクトゥグアと共に突撃。
     イフリートにぶつかり、そのまま車体から転げ落ちる白雪……その身体が更に傷つくも、不屈の闘志で立ち上がる白雪。
     そして、続く蒼侍、クリミネルは、連続して黒死斬に幻狼銀爪撃で攻撃し、イフリートの身体を傷付ける。
     しかし、炎の勢いは決して弱まる事は無い。
     そして、次のターン。
     イフリートは、まるで怒りを見せるかの如く、咆哮を上げて動き回り、暴れ廻る。
     そんなイフリートの攻撃を、灯、そしてクトゥグアが代わる代わるカバーリングに入り、攻撃を分散。
     そして、白雪が傷ついた仲間にラビリンスアーマーなどで回復を飛ばし、クリミネル、蒼侍の二人が十字架戦闘術と、ティアーズリッパーで更に猛攻と、バッドステータスと、大ダメージを積み重ねていく。
     流石、力を溜め行くイフリート……灼滅者達も、中々上手く追い込む事は出来ない。
     そんな一進一退の攻防、イフリートは焔を迸らせながら、近づく灼滅者達に体当たりを喰らわせ、炎を大量に付与。
     灼滅者の体が炎に包まれる中、更に鋭い爪先で斬りかかり、更にダメージを蓄積。
     炎でジリジリ削られ、斬撃で更に削られる……その多重ダメージに、灼滅者達は血を流していく。
     ……しかし、そんな血に濡れた中であっても。
    「どうした? これで終わりか? 私はまだまだ動けるぜ?」
     と、更なる炎の闘志を燃やす事で、炎に包まれた腕で手招き……イフリートを挑発していく白雪。
     其の挑発行動に、更に猛々しく唸るイフリートは、素早く、鋭く、戦場を駆け回り続ける。
     その動きを、クトゥグアと連携しながらカバーリングし、引き付ける白雪は、更に血を流し、その血をクトゥグアが浴びて、更に猛々しく唸る。
     ……そして。
    「狂犬の戦いはこれからだ。どちらかが死ぬまで楽しもうぜ?」
     と、更に挑発を放つ白雪。
     イフリートはその挑発に乗り、白雪にのし掛かり、腕に齧りついての攻撃を嗾ける。
     剥かれた牙が、血肉を抉り、左から、右からと。
     その猛攻に、更に白雪は傷ついていく……でも、決して挫けたりはしない。
     不敵に、そして狂気の笑みを浮かべつつ、自分にラビリンスアーマーで回復を行い、盾アップ。呼応する様にクトゥグアも機銃掃射。
     イフリートの足元を無差別掃射し、穴だらけにする。
     その穴に、勢いそのまま突っ込んできたイフリート……僅かに体勢を崩す。
    「今や!」
     と、その隙を突き、一気にクリミネルがイフリートに接近。
     炎をものともせず、その炎の身体へと掴みかかり、駆け寄りし勢いと共に、背面へと地獄投げ。
     強く、地面へと叩きつけられるイフリート。炎の勢いが、僅かに弱まり、その疲弊状況が見て取れる。
     そして、そのイフリートの身体にのし掛かる蒼侍。
     ……腰より抜いた刀を、空高く掲げた上で。
    「イフリートは……全て斬る!」
     最大限の気合いと共に、イフリートの身体の正中に、刀を深々と突き刺す蒼侍。
    『グ、グゥォオオオオオ……!!』
     胸元を貫いたその一閃一撃、心臓の所を深々と貫く。
     その一撃に、イフリートは……耳を、鼓膜を劈くような叫びを上げながら、其の場に崩れ墜ち、崩壊していくのであった。

    ●紅蓮に
     そして……イフリートをどうにか無事に倒した灼滅者達。
    「……終わったか……」
     と、静かに呟き、蒼侍はそのイフリートの消失した場所を見つめる。
     ……その内心に去就するは、複雑な思い。
     その複雑な思いを抱きながら……軽く、息をついて、空を見上げる。
    (「……近い内に目的を果たして見せる……」)
     と、拳を握りしめる蒼侍。
     そんな蒼侍の横では、かなりの傷だらけになってしまった白雪の姿。
    「っ……」
     と、立つのでもかなり精一杯な白雪に、エンジン音を鳴らしながら近づいていくクトゥグア。
    「……ああ。また生き残っちまったな。でも、まだ走れるか、相棒?」
     と言うと、それにエンジン音を更に吹かし、応える。
     白雪に寄り添うようにして、彼女を支えるクトゥグア。
     そんな、クトゥグアの身体を優しく撫でる白雪。それを見ながら、灯が。
    「しかし、これが普通の登山でしたら、頂上でお弁当が食べられるのですけれど……ね」
     と小さく笑いながら言うと、それにクリミネルも。
    「そやねぇ。ま、無事に終わった訳やし、この辺りの名物でも食べて、買って帰るとしようや」
     にかっと笑うクリミネル。
    「新潟県か……と、何が有名なんやったっけ、ここ?」
    「へぎそば、イタリアン焼きそば、とかでしたっけ? ……まぁ、町まで降りればいろいろ有りそうですね」
    「そかそか。んじゃ、皆で行くとしようか!」
     それに白雪が。
    「ああ……そうだな。折角新潟まで来たんだ。ちゃんと楽しんで帰らねえとな」
    「そうですね……と、あれ、蒼侍くんは?」
     周りを見渡すと、既に姿の無い蒼侍。
     一人、早々に帰ってしまった彼。
     イフリートに対し、強い復讐心を抱く彼の状況に、ちょっと心配を抱きながら……灼滅者達は妙高山を下り、新潟の町へと向かうのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年7月28日
    難度:普通
    参加:4人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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