朱寅岬より 望郷音色

    作者:空白革命

    ●イフリート『アカトラミサキ』
     虎である。炎を纏った虎である。
     地面を焼くように歩き、時折咆哮をあげながら、虎は山の頂へとたどり着いた。
     やがて虎は炎の柱に包まれた。
     柱は渦巻くようにねじれ、その直径を狭め、狭め、更に狭め、やがて破裂するように消失した。
     中から現われたのは虎、ではない。
     刃渡り二メートルはくだらない、長い長い刀と、それをゆうゆうと担ぐ小柄な少女である。
     少女とわかったのは体つきからで、神は赤く、ざくざくと、もしくはぼさぼさとしており、顔には中国にあるような虎の面をつけていた。
    『ぐるる、がう……いまこそ、みもとに』
     虎の少女はそう呟くと、自らの首を巨大な刀で切り落とした。
     途端、少女は炎となり、地面に吸い込まれていく。
     
    ●虎は死して語る
    「……というのが、未来に起きるであろう出来事だ」
     大爆寺・ニトロ(大学生エクスブレイン・dn0028)は教卓に腰掛け、話をつづけた。
    「サイキック・リベレイターを使ってガイオウガを復活させたことで、それを感じ取ったイフリートたちが鶴見岳に向かっている。ここで自死して、ガイオウガと合体することが目的のようだが……」
     合体が繰り返されれば、ガイオウガは急速に回復する。完全な状態での復活もありえるだろう。
    「これを阻止するためにイフリートを迎撃。合体を防ごうってのが今回の依頼だ」
     
     肝心となるイフリートの名は『アカトラミサキ』。
    「こいつとは過去に交戦経験がある。あれから多少強くなってはいるだろうが、細かい癖まで知っている奴もいるくらいだろう」
     虎タイプのイフリートで、人形態では巨大な刀を持った少女となる。
    「設定した迎撃ポイントは、『敵が撤退せずに最後まで戦う』ラインだ。場所もハッキリしているから、捜索も必要ない。キッチリとケリをつけてくれ」

     さて、イフリートを灼滅すればガイオウガの増強を阻止できる。
     ただ合体したイフリートがガイオウガの一部となる際、その知識や経験をガイオウガに伝える役割も持っているそうだ。もし友好的なイフリートなら、あえて合体をさせてガイオウガに伝言を託すこともできるだろう。その場合は交友を深めたり伝えたい内容を確実に理解させるといった準備を必要とするはずだ。
     また可能性こそ低いものの、絆がある者が説得することで、ガイオウガとの合体を諦めさせることもできるかもしれない。勿論、説得とは相手を納得させること。一段階難しい作戦になるはずだ。
    「どのみち、相手はガチの武闘派だ。戦ってからじゃなきゃなんにもならん。けどそういうの、俺たちは得意だろ」


    参加者
    神虎・闇沙耶(鬼と獣の狭間にいる虎・d01766)
    久織・想司(錆い蛇・d03466)
    城・漣香(焔心リプルス・d03598)
    椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)
    中川・唯(高校生炎血娘・d13688)
    迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)
    赤暮・心愛(赤の剣士・d25898)
    月影・黒(八つの席を束ねる涙絆の軍帥・d33567)

    ■リプレイ

    ●朱寅岬
     死ぬことを恐れるのは生命の本能だという。
     逃げるのを恐れるのは人間の理性だという。
     人間であることを捨て、生命からも逸脱したイフイリートには、死と逃避にどんな意味があろうか。
    「獣にも、総意ってやつがあるんですかね……」
     久織・想司(錆い蛇・d03466)は山道を歩くさなかに、そんなことを呟いた。
     視線だけで彼を見る月影・黒(八つの席を束ねる涙絆の軍帥・d33567)。
     黒が口を僅かに開いた所で、椎葉・武流(ファイアフォージャー・d08137)が声を張った。
    「イフリートがガイオウガと合体するってことは、個人が消えるってことなんだろ? 知らない相手でも、そんなの寂しいだろ」
    「寂しい、ね」
     迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)が武流の言葉尻を捉えて何かを言おうとして、それをやめた。
     イフリートにまつわる話がおこるたび、学園灼滅者の間でいくつかの対立が発生する。
     そのひとつがイフリートというレッテルについてだ。
     各自に異なる意志をもったイフリートという個体に目を瞑り、巨大なイフリート群という総体として自らとの接点を観測している。それはイフリートに限らず、世界人類のあらゆる場所のあらゆる集団が同じように行なってきた人類的修正であり、思考の最適化処理である。
     もしかしたら、一個人にまで尺度を絞ったとしても起こりうることだ。ある人物から見れば死んで欲しい敵であり、ある人物から見れば愛しい友であり、ある人物から見れば尊敬すべき相手であり、ある人物から見れば視界に入れたくない汚物となる。おそらく、あらゆる人間がそうだ。
     特に、人間的な情動から外れやすいイフリートは、こういった対立が起きやすい。
     その全てが平等に尊重され、平等に対立し、平等に折衝している。現在の方針はその小規模的結果と言ってさしつかえない。
    「あいつには話し合いによる解決など無意味だ」
     神虎・闇沙耶(鬼と獣の狭間にいる虎・d01766)は剣を握り、目的地をにらむ。
     手をぐーぱーして頷く中川・唯(高校生炎血娘・d13688)。
    「戦って伝える、だよねっ」
    「そう考えれば簡単だ。殴って分かってもらう」
     同じく拳を握り込む城・漣香(焔心リプルス・d03598)。
     動物がお互いの意志を確認する際、それが互いにとって対立する内容であった場合、一度戦ってその決着をつけるという。
     そういった意味では、イフリート『アカトラミサキ』の性質はきわめて動物的なものだと言えるだろう。
     そして、人間とて動物だ。
     刀の柄をトントンと叩く赤暮・心愛(赤の剣士・d25898)。
    「要は全力で戦えってことでしょ。得意分野! ううん、専門分野だよ!」
     先頭の想司が足を止め、手を上げた。
     ふと懐中時計を見る。
    「時間だ」
     懐に時計をしまい、代わりにカードを取り出す。
     解除は一瞬。
     開戦も一瞬。
     茂みと木々を突き破り、炎の虎が現われるまでにもまた、一瞬だった。

    ●『いつか  で、みんなが  合える日が  ように』
     大樹をへし折って跳躍した虎、アカトラミサキ。
     中空を焼きながら陽光の十倍の熱量をもった爪を振りかざす。
     対する漣香は一瞬で縛霊手を装着。
     その横で想司もまた縛霊手を装着。
     きらびやかな水晶細工のような腕を引き絞る漣香。
     おぞましい血晶細工のような腕を引き絞る想司。
     飛びかかるアカトラミサキに対して、二人は同時にとびかかった。
    「やあ、あそぼうぜ!」
    「――!」
     爪が激突。
     爆発的衝撃が生まれ、周囲の木々が外周方向に靡き、すぐ後に中心方向へと引き戻される。
     二人の治癒力と防御力、総合するところの防衛力が、アカトラミサキの攻撃力と拮抗する。
     そのまま押しつぶされないようにと霊犬ミナカタとビハインド・煉が牽制射撃と援護ヒールを開始。
     反動を使って飛び退いた漣香たちと入れ替わるように心愛と武流が着地直後のアカトラミサキに連続攻撃をしかけた。
     武流は高い跳躍から樹枝をバネにして三角飛びをしかけ、アカトラミサキの胴体右側面から浴びせ蹴りを繰り出す。
     同じ方向からスライディングで腹の下をくぐりぬけた心愛が突き上げるようなパンチを腹部に叩き込む。
     身体を揺さぶられたアカトラミサキはそれ以上の追撃をさけるためにか走り出す。
    「大人しくせえや」
     炎次郎がそんなアカトラミサキに狙いを定めて制約の弾丸を連射。
     ダーツのように突き刺さった魔力結晶がアカトラミサキの肉体に神経毒にも似た作用を引き起こしていく。
     相手は超常の生物。確実に動きを止められるものではないとはいえ、こちらも超常の魔術である。
     前足の動きを鈍らせたアカトラミサキはその場で転倒。
     樹幹に大きく身体をぶつけた。
     ここぞとばかりに影業を放ち、アカトラミサキを飲み込みにかかる。
    「お前、戦いは好きか。ならまだ楽しみたいんやないのか。俺たちとの戦いは物足りんか。違うならわかるやろ。個として自由に生きるほうが楽しいって!」
     刀に炎を纏わせ、斬りかかる炎次郎。
     まるで一方的だが、これで油断できる彼らでは無い。経験者であるところの闇沙耶には尚のことだ。
     魔術や影を振り切って高く吠えるアカトラミサキ。
     闇沙耶は炎次郎を庇うように飛び込むと、牙による食らいつきを剣で受け止めた。
    「久しぶりだな。俺の腕の味を覚えているか?」
    「……」
     踵が地面をおおきくえぐる。パワーで負けているのだ。
     虎と人でも負けるのだ。イフリートと灼滅者なら尚のこと。
    「相変わらず話を聞く気はないか。お前らしい!」
     オーラと影業を同時に練り上げ、至近距離で爆発させる。
     反動で飛び退き、唯と黒にバトンタッチした。
    「いっ――くよ!」
     唯は剣をまるで野球バットのように構えると、炎のようなオーラを纏わせ、つよく光らせた。
     一方で闇のようなオーラを鎌に纏わせて反対側へ回り込む黒。
     闇沙耶とのスイッチングがうまくいった。突撃からのフルスイングで唯の剣がアカトラミサキの横腹を激しく切り裂き、痛みに身をよじった瞬間を狙って黒が高速ですれ違っていく。
     一瞬遅れて十字に開かれた傷口から、大量の血が炎となって吹き出した。
     どこか怒りを感じる声で吠えるアカトラミサキ。
    「もういっぱつ!」
     追撃をはかろうとした唯だが、その肩をいつのまにか背後に立っていた黒が掴んで止めた。
     なぜなら、アカトラミサキを激しい炎の柱が包み始めたからだ。
     血によって生まれた炎が柱となり、アカトラミサキを覆う。
     その径が縮まるのを見ながら、闇沙耶はため息のように言った。
    「始まるぞ」

    ●『じゃまをするな は のところに   んだ』
    「ぐるる、がう」
     少女だった。
     この少女を知っている。
     寅の仮面に僅かな布衣。虎の牙よりも鋭く大きく凶悪な野太刀を担ぎ、裸足の少女が歯をガチリと慣らした。
    「がう」
    「ハーフタイム終了、後半戦ってわけ!?」
     唯は剣をチャンバラ風に担ぐと、アカトラミサキへ突撃。
     中間の間合いで踏み込むと、両手で握ってフルスイング。よりまばゆい輝きを纏った剣が横一文字の斬撃軌道を描き、同時にアカトラミサキも横一文字斬りを繰り出した。
     アカトラミサキの髪が数センチほど切れて飛び、唯の腕が切れて飛ぶ。
     唯は歯を食いしばり、腕のくっついたままの剣を片手で握って一回転。
    「ぐ、ぐっ……!」
     踏み込みからのリスイング。斜めに走った斬撃軌道を潜って突っ込んでくるアカトラミサキ。頬に走った斬撃跡。
     咄嗟に逆手持ちにした剣でガード姿勢をとった唯に刀があてられ、強烈なスイングで吹き飛ばされた。
     回転しながら木の上を飛んでいく唯を横目に、体勢を低くして突撃する黒。
     途中で鎌を前方にスロー。踏み台にして駆け上がり、返す刀で放たれた炎の斬撃を飛び越える。懐に飛び込みつつ脇差しを抜刀。
     アカトラミサキは抜刀速度より早くバックスウェー。血色の刃が空を斬る。
     上段に構えた黒と水平に構えたアカトラミサキが必殺の間合いを奪い合うようにすり足で円周移動を開始。
     30秒という長く短い時間の中で、黒の頬を汗が伝う。滴になって落ちた瞬間。滴が地面につくより早く彼の影業がアカトラミサキの背後から展開。
     背中を切り裂いたかと思うと超高速の踏み込みによって切りつける。
     が、アカトラミサキは痛みで構えを解かなかった。
     すれ違い、ブレーキをかける黒。彼の胸が大きく切り裂かれ、血が吹き上がる。
     一方のアカトラミサキは背を切り裂かれていたが、炎がだくだくと零れるばかりだ。姿勢のひとつもぶれてはいない。
     黒の回復を霊犬たちに任せ、心愛が黒と入れ替わった。
     握り拳で刀の柄を叩くと、腰紐を解いて眼前水平に翳し上げる。
     鞘部分を勢いよく引き抜くと、その勢いのまま自転。刀身が全て抜けきるまでに一回転を要するその刀は心愛の全長を超えている。刀身は美しい波紋で陽光を照り返した。
    「ふう……」
     細く長く息を吐く心愛。
    「がう……」
     ゆっくりときびすを返し、刀を方に担いで構えるアカトラミサキ。
     はらりと落ちた木の葉が二人の間を横切り、血だまりに触れ波紋が生まれるその刹那。二人は同時に踏み込んだ。
     数メートルの距離を挟んで刀がぶつかり合い、反発を起こす。
     金属音と暴風だけが二人を挟んではじけ、一秒一拍を挟んで再び反発。半秒二拍を挟んで更に反発。
     四半秒三拍を挟んで二人は水平方向へ駆け出し、互いの間に十二個の火花を散らしながら木々と草花を散らし始める。
     進行方向に大樹。
     すれ違うと同時に二十四本の線が走り、大樹が複雑に崩れ落ちる。
     舞い上がった粉塵。
     その中を突き抜けて現われたのは炎次郎と武流だった。
     拳にオーラを纏わせて殴りかかる炎次郎。
    「残念やけど、ここにはお前とわかり合いたいっていうお人好しが沢山おるんや。お前も観念して想いに応えたらどうや!」
     アカトラミサキは刀に纏わせた炎でもって薙ぎ払いにかかる。
     炎次郎はガード姿勢と共にバックジャンプ。
     衝撃をギリギリ殺すと、ビハインドの牽制射撃に紛れつつ樹幹へと身を隠した。
     一方でその場に残った武流は大炎刀薙ぎ払いをスライディングでくぐり抜けると、至近距離から顔面を殴りつけた。仮面越しとはいえ凄まじい威力だ。バランスを崩したアカトラミサキに絶え間ないラッシュを叩き込む。
     充分にラッシュで翻弄したところで、武流は強烈な正拳突きを繰り出した。
     人体構造の全てを使った突きは時として油圧バンカーのそれを上回る。凄まじい衝撃によってアカトラミサキの胸部骨格が粉砕。内部から破裂するかのように血の炎がはじけ飛ぶ。
     が、同時に武流の胸にもアカトラミサキの腕が突き込まれていた。否、貫通して背中から手刀が露出していた。
     引き抜き動作。身を反転。翳した手に翳した刀が武流を斬る一瞬前、横から飛び込んだ漣香が武流を掴んで抱きながら転がった。
     斬撃は割り込んだ想司の縛霊手で止められる。否、止まらずに八割方斬られていた。
     ばしゅんと吹き出す鮮血が想司の顔半分を染めるが、染まらぬもう半分まで手のひらでもって塗りたくると、想司は片目を見開いて笑った。
     血とオーラが混ざり合い、周囲に激しく飛び散っていく。
     樹幹や地面に突き刺さる血と闇の結晶。乱暴に割ったガラス片のようなそれを掴み取り、想司はアカトラミサキへ飛びかかった。
     飛びかかり際に手首が切り取られ、飛んでいく。
     散った血が影と交わり剣となり、アカトラミサキの腕を切り裂いていく。
     次の瞬間には想司の脇腹に刀が添えられ、アカトラミサキは自転によって胴体を切断。
     ――と同時に、漣香が縛霊手を最大発光。切断された肉体組織を切断とほぼ同時に接着していく。
     まるで霧や霞の巨像を斬ったかのように、想司の肉体は一瞬のブレだけをおこして再稼働した。
     樹幹に刺さった数枚の影ナイフを引き抜き、投擲する想司。
     跳躍によって回避したアカトラミサキは樹枝をバネにして三角飛び。想司の背後に着地すると、刀をあろうことか投擲した。
     槍のように胴体を貫き、樹幹に突き刺さる。
     貫通部位は心臓の中心――だが、刀身を握り込んだ漣香が刀身に振動を与え、心拍を強制稼働。
     体勢すらかえることのできない想司はぎらりと笑った。
     今度は首だと言わんばかりに手刀を水平に構えて走るアカトラミサキ。
     その間に割り込む闇沙耶。
     構わず繰り出された手刀を剣で遮るが、遮ったそばから剣がヒビ入り、闇沙耶の手元からはじけ飛んでいった。
     手刀による突きに切り替えるアカトラミサキ。
     拳にオーラを纏わせる闇沙耶。
     手刀と拳が正面衝突。
     アカトラミサキの手の骨は複雑に拉げ、闇沙耶は腕の骨が外部へ開放露出した。
     もう一方の手刀を繰り出すアカトラミサキ。
     空いた腕に影業を纏わせる闇沙耶。
     再び手刀と拳が激突。
     今度は指先から手首から肘から肩から全ての箇所が爆発し、闇沙耶とアカトラミサキの腕が文字通り吹き飛んだ。
     よたよたと後じさりするアカトラミサキ。
     同じく後じさりする闇沙耶。
     二人は歯を食いしばり、荒い息をしながらお互いをにらんでいた。
     にらみ合い。
     にらみ合い。
     にらみ合って。
     アカトラミサキはその場にぺたりと座り込んだ。

     たいして話し合いがなされたわけではない。
     きわめて直感的な、もしくは動物的な意志疎通によってアカトラミサキは彼らと合流した。
     その後、彼らとアカトラミサキがどう付き合っていくかを決めるのは、彼ら自身に他ならない。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年7月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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