鶴見岳に散る

    作者:ライ麦

     紅い火の粉を散らしながら、大型の猫型イフリートは地を駆ける。
    (「ヤット、ヤットアエル」)
     歓喜に震える、その金色の瞳は爛々と光り輝いていて。足取りは軽く、一切の迷いもない。それはさながら――少々、喩えとしては可笑しいかもしれないが――恋する乙女が愛する人の元へ駆けていく様にも、どこか似ていた。いいや、それよりももっと強い感情だろうか。まるで、本能に突き動かされるような。
     やがて、山頂に辿りついたそれは大地を踏みしめ、ニャァァアアと低い咆哮をあげる。
    (「ヤット、ヒトツニナレル」)
     足元の大地を見つめ、イフリートはむしろ嬉々として自らの体に鋭い爪を突きたてた。
    「イマコソ、ガイオウガノミモトニ!」
     纏う炎がよりいっそう大きくなる。否、炎の塊そのものと化す。そのままどうと倒れ伏すと、地に吸い込まれて消えていった。

    「サイキック・リベレイターによるガイオウガの復活を感じ取ったイフリート達が、鶴見岳に向かっている……ということは、皆さんお聞き及びかと思います」
     なんだか久しぶりなエクスブレイン、桜田・美葉(桜花のエクスブレイン・dn0148)が教室で淡々と語る。
    「そのイフリート達は、鶴見岳山頂で自死し、ガイオウガの力と合体しようとしているようです。それを繰り返せば、ガイオウガの力は急速に回復し、完全な状態で復活してしまうかもしれません……。それを阻止する為には、鶴見岳でイフリートを迎撃し、ガイオウガへの合体を防がなければ……なんて、もう耳タコかもしれませんけれど」
     それでも、今回お願いしたいのはそういうことなのだ、と彼女は言う。つまりは、例によって鶴見岳に現れるイフリートへの個別対処。
    「今回皆さんに対処していただきたいイフリートは、『サクラ』という名を持つ、猫型イフリート……といっても体長2メートルぐらいありますけど」
     しなやかな体躯を持つ、そのイフリートが紅い火の粉を散らしながら駆ける姿は、名前とも相まって、紅い桜花が散る様にもどこか似ているという。今は、ガイオウガのためにその命をも散らそうとしているということだ。
    「対応として一番手っ取り早いのは、山頂近くで待ち構えて迎撃、そして灼滅することでしょうね。サクラは夕方頃山頂近くに現れるようですから。そこで迎え撃てば、撤退することなく最後まで戦います」
     サクラの使うサイキックは、ファイアブラッドと同等のもの。それに加えてシャウトも使うという。それから。
    「合体してガイオウガの一部となるイフリートは、その経験や知識をガイオウガに伝える役割もあるようなので……あえて融合を阻止せずに、友好的に接触して、ガイオウガへの伝言を頼むといった選択肢もあります、ね」
     この場合は、迎撃ポイントで接触した後、イフリートとの友好を深めたり、伝えたい内容を確実に理解してもらうといった準備が必要になる。
    「……強い絆を持つ人がいれば、説得することで合体を諦めさせられる可能性もありますが。サクラに関しては、今回が初対面なので……この方法は現実的ではないでしょうね。実質、灼滅か、伝言を頼んで融合させるかの二択だと思います。どちらを選ぶかは、お任せします」
     大まかな説明を終え、美葉はひとつ、息を吐いた。
    「……リベレイターのこととか、イフリートのこととか。各々思うところはある、と思いますが。どうか、悔いのない選択を。お願いします」


    参加者
    セリル・メルトース(ブリザードアクトレス・d00671)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    羽柴・陽桜(波紋の道・d01490)
    神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)
    ジンザ・オールドマン(オウルド・d06183)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    旗幟・睦月(ブリリアントブルー・d26819)
    穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442)

    ■リプレイ


    (「散る桜、残る桜も、散る桜……でしたっけ。理解する気は無いですけどそういうの、嫌いじゃないです」)
     今回接触するイフリートの名を思い浮かべ、ジンザ・オールドマン(オウルド・d06183)は思う。想いのために命を散らす桜。ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)はポツリ呟いた。
    「イフリートでも恋に生きる、なんて。ま、今回の子はいろんな想いがごっちゃになってそうっすけど」
     そう、サクラの感情が恋と呼べるものかは分からない。イフリートの本能的なものかもしれない。それでも。文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)は思う。
    (「誰かを好きになる気持ちは、ダークネスも人もそんなに変わらないのかな?」)
     脳裏に過るのは、相棒の顔。相手が誰でも、「好き」という純粋な感情は応援したい。それは、セリル・メルトース(ブリザードアクトレス・d00671)も同じ。
    (「大好きなヒトの許へ。其れはきっと、とても素敵な感情だ」)
     目を閉じて思う。想い焦がれ、想い馳せて。出逢えると、そう確信したのなら。
    (「止めるのは野暮と言うもの。今はただ、見送ろう……たとえ、その先に避け得ぬ闘いが待っていようとも」)
     決意を込めて、瞳を開く。
    「ガイオウガに心酔するイフリートか。彼らのルーツに関わる問題に口を挟むのも無粋だが、イフリートという種族と完全敵対せずにすむのであれば、誠意は尽くしたい」
     風に漆黒の髪を靡かせながら、神崎・摩耶(断崖の白百合・d05262)も凛と言う。イフリート全般に好感を持つ彼女らしい。一方、穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442)の心には様々な感情が渦巻いていた。それはサクラに対する羨望と、嫉妬。
    (「好きな人と一緒になること、それは私には叶わないことだから」)
     その一方で、サクラに憧れ切なく思う。
    (「好きな人と一緒になるために死ぬこと、それは私の願いと同じだから」)
     じっと山道を見据える白雪の目に、紅の猫が炎の花弁を散らしながら駆けてくる姿が映った。あれが、サクラ。山頂付近に灼滅者の姿を認めると立ち止り、警戒するように毛を逆立てた。
    「オマエタチ、ナニモノダ」
    「ちはっす。毎度お馴染み、武蔵坂学園の灼滅者っすよ。ああ、別に戦うつもりじゃないんで、毛を逆立たせないでくださいな。その証拠に、自分が命を預けるこの剣を、ここへ突き立てておくっすよ。これで、近づいてもいいっすか?」
     ギィが無敵斬艦刀『剥守割砕』を地に突き立て、一歩前に進み出る。サクラが目を丸くした。武器は出さずに、セリルも一歩踏み出す。
    「そう、僕らに敵意はない……よければキミの名前を教えてくれないかな?」
     エクスブレインから聞いてはいるけれど。敢えて名を問えば、逡巡の後ぼそりと
    「……サクラ」
     と呟いた。
    「サクラ、良い名前だね。僕はセリル・メルトース」
    「俺は文月直哉、初めましてだぜ」
     直哉も続けて自己紹介する。無論、武器は出さずに。学園から来たこと、戦意はないことを繰り返し伝えた。
    「はじめまして。俺は穂村白雪だ。俺たちに戦う意思はない」
     同じように自己紹介しつつも、白雪の頭にはチラリと兄を殺した宿敵の姿が過る。胸に抱くのは怒りではなく、喪失感と、またイフリートによって誰かが命を落とすのでは、という恐れ。
    「ええ、私たちの誰も、武器を持ってないでしょう?」
     今回が初依頼である旗幟・睦月(ブリリアントブルー・d26819)は、相対するダークネスに緊張しつつ、精一杯の笑顔で手のひらを広げて見せる。
    「貴方の事情は知っています。ここから居なくなるのでしょう? なら、こっちも喧嘩で怪我するだけ損ですよ」
     愛用の拳銃は腰に隠し、ジンザも説得に当たる。
    「ナゼシッテル? ……ダガ、タタカウキナイのは、ホントウのヨウダナ」
     サクラも毛を逆立てるのをやめた。なら、と摩耶は
    「念のため、一般人を近づけないようにしたいが、良いか?」
     と確認する。
    「ジャマモノはスクナイホウがイイ」
     サクラの返事に、安堵して摩耶は殺界を形成した。しかし、サクラの瞳には未だ警戒の色が見える。
    「デ。スレイヤー、ナゼココニイル。ジジョウシッテルならトオセ」
     低く唸るサクラに、羽柴・陽桜(波紋の道・d01490)は笑顔で声をかけながら近づいた。警戒心を解せるように。
    「ね、サクラちゃん。サクラちゃんは、ガイオウガさんの事、大好きですか?」
    「……? アア、ソウ、ダガ」
     突然の質問にサクラはきょとんとし、警戒の色も一瞬緩む。陽桜は微笑んで続けた。
    「あたしは、ガイオウガさんがどんなひとなのかはわかりません、けど、サクラちゃんが一緒になりたいくらい大好きって想うひとだったら、きっと素敵なひとなんだろうなって思います。そういうひとなら、いつかお会いしてみたいなぁって思いました」
    「……ソレデ?」
     怪訝そうなサクラに、陽桜はだから、と言葉を重ねる。
    「サクラちゃん。あたし達に、あなたを応援させてくれませんか? 邪魔なんてしません。あなたの気持ちをガイオウガさんに伝えるためのお手伝いをしたいんです」
    「そうだ、ガイオウガの元へ向かうなら、大好きというその想い、俺達にも応援させてくれないかな?」
     直哉も一緒になって申し出る。だが。
    「ナラバ、マズはソコをドケ」
     返事はつれない。そうじゃなくて、ともどかしく言いかけた言葉を、ジンザが引き継ぐ。
    「僕等は見送りに来ただけです、でも。何ですその泥まみれな姿! 大切な方の所へ行くのに、イフリート的にそれでいいのですか? 少しだけ、お洒落してみません?」
     サクラは自分の姿を見た。確かにここまで山道疾走してきたのだから、泥や土で汚れている。
    「……ヒトツニナルのに、ミタメはカンケイナイとオモウガ」
     それでも一応毛繕いはするサクラに、
    「あっ、それなら……」
     と睦月はクリーニングを施した。
    「フム。キレイにナッタ。ジャ、モウイイカ」
     颯爽と駈け出そうとするサクラを、白雪が引き留める。
    「待て。もう一つ、おまえに頼みと……せっかく好きな人と一緒になるんだから、着飾る手伝いくらいしてやりたい」
    「キカザル? ヒツヨウナイ。サクラ、キエルンダカラ」
     予想以上にキッパリした返答。でもそう言わずに、とセリルはなおも説得を試みる。
    「サクラは今のままでも可愛いけれど、もっと可愛くなれる。それでガイオウガに喜んでもらえたら、きっともっと深くひとつになれるよ」
    「ガイオウガ、カワイイヨリ、ツヨイホウが、ヨロコブ、オモウ」
     灼滅者達は顔を見合わせた。誤算だった。恋する乙女のよう。そう聞いていたから、おしゃれと恋バナで友好を深め、送り出すつもりだった。けれど。サクラが慕うガイオウガはまだ復活していない。その為にサクラは身を捧げるのだから。どんなに着飾って綺麗になったところで、ガイオウガがその姿を見ることはない。ならば、わざわざおしゃれしようとは思わないかもしれない。力を捧げるのに、見た目はあまり関係ないだろうから。


    「ソレで、タノミはナンダ」
     サクラはいらいらと尻尾を振っている。内心焦りつつ、直哉は努めてクールに持参したお茶菓子を並べた。
    「ま、まぁ、そう急がずにさ。お茶にフルーツにお菓子を用意してきたから、食べながら話さないか?」
     一押し衣装の着ぐるみを着てもらえそうにないのは残念だが、せめて場の雰囲気だけでも女子会っぽく華やかにしたい。そう。
    (「こうなったら女子会で恋バナ作戦、ですね」)
     陽桜も手伝いながら頷く。残念だけど、対応は臨機応変に。
    「僕も御飯や御菓子、用意してきたよ」
     セリルも食事を並べる。と、サクラがピクリと反応した。
    「……ゴハン」
     ……イフリートには、こういう単純な手の方が効くのかもしれない。どうぞ、と勧めつつ、
    (「せめて、食を楽しめれば良いのだけれどね」)
     セリルは思う。尤も、その心配は杞憂のようだ。サクラは美味しそうに食べている。
    (「今なら、ガイオウガへの想い等、聞けるかもしれませんね」)
     ジンザの目配せ。なら、と摩耶は身を乗り出した。
    「サクラは美しいな。走る姿も、紅桜の毛並みも、纏う炎も、全てが美しく、力強い」
     まずは褒め、ソウカ? と戸惑うサクラにそうとも、と力強く頷く。
    「知り合いのイフリートは、『強そう』『カッコイイ』に非常に弱かった。サクラが良ければ、ガイオウガのカッコ良さについて、思う存分語ってもらいたい」
     そのトークに、サクラはお茶でお菓子を飲み込んで答えた。
    「ガイオウガは、ダイチソノモノだ」
     ……そう言われてもよく分からない。
    「そうじゃなくてな、どんな獣なのだ? 毛並みは? 色は? 炎の温度は?」
     ワクワクと尋ねる摩耶だが、帰ってくる返答は同じだった。諦めて、伝言を先に伝えることにする。
    「我らは、ガイオウガと、絆を結びたいと思っている。宜しく伝えてくれないだろうか?」
    「キズナ?」
    「そう、絆……そうだな、ガイオウガと、仲良くしたいんだ」
     分かりやすいように言い直す。スレイヤーなのに変わってるな、とサクラは首を傾げつつ、
    「オマエタチ、サクラにブキ、ムケナカッタ。ゴハン、クレタ。ガイオウガにテキイないコトは、シンジル。ツタエテオク」
     と言ってくれた。摩耶はほっと胸を撫で下ろす。それなら、と白雪も声をかけた。
    「さっき言ってた頼みってのはちょっとした伝言だ。ガイオウガの力を狙ってる奴らがいる」
     サクラの目の色が変わった。
    「ソノヨウナモノがイルのカ!? ドコのドイツダ!」
     いきり立つサクラをまぁ落ち着け、と制し、
    「そいつらと戦うつもりなら、俺たちも協力したいってことだ」
     と伝える。
    「ワカッタ、カナラズツタエル。ハヤク……」
     そわそわと、今にも駈け出しそうなサクラに、待ってくれ、と白雪は手を伸ばした。
    「個人的には伝言もついでなんだ、俺はおまえ自身に会いたかったんだ」
    「……サクラ、ニ?」
    「ああ……おまえは俺に似てるから」
     頷き、目線を合わせて。
    「なぁ、好きな人と一緒になるために死ぬのって怖くないか?」
     思い切って尋ねた。大切な人の元へと逝きたいと願う、強烈な死への渇望。誰かを守りたいという願いと、死んで兄さんの元へ逝きたいという望み。どちらが本当の思いで、なんのために自分は戦っているのか、自分でもわからない。
    (「でも、彼女に聞けばきっと答えに近づける。彼女は私に似てるのだから 」)
     果たして、サクラは大きく頷いた。
    「モチロン」
    「そうか、それを聞きたかったんだ」
     白雪は嬉しそうに笑って、サクラの頭をくしゃりと撫でた。
    「……綺麗な眼の色っすね。迷いが無い」
     そのやりとりを見ていたギィが進み出る。
    「でも、このままガイオウガと一つになっていいんすか? そうなると、サクラさんの存在はガイオウガの一部になっちゃいやすよ?」
    「カマワナイ。ガイオウガのチカラにナレルノナラ、ホンモウだ」
    「そうっすか。でも、愛し愛されは、二人いるからできる事っす。相手の一部になったら、もうそういう思いを向けられる事もありやせん」
     言いながら、そっと恋人である睦月を抱き寄せる。これが愛し愛されの実例だと言うように。睦月は頬を染めた。
    「どうっすかね。このままガイオウガが復活するまで待って、傍に侍るのじゃダメっすか?」
    「サクラ、イッパイマッタ。モウ、マテナイ」
     その一言に、サクラの想いが溢れていた。ああ、と直哉も納得する。
    「大好きなガイオウガと一緒になれるから、サクラは今、幸せなのかな?」
    「ソウダ」
     頷くサクラに、なら、と直哉は続けた。
    「その幸せな気持ちを伝えたら、ガイオウガもきっと幸せになると思う。その温かな気持ちを大切にしてほしいんだ」
    「サクラ、キエルノニ?」
    「それでも、です。あたしは、サクラちゃんみたいに、大好きなひとへ強く想うこと、できなかったから……」
     俯く陽桜が彼女だけにそっと紡ぐは、終わってしまった恋の話。
    「もうね、誰かが誰かを想う……そういうのを応援できないかもって。誰かを傷つけることしかできないんだろうなって……」
     嘆息して、でも、と面を上げる。
    「サクラちゃん見てたら、やっぱりそういうのいいなぁって思ったの。ねぇ、あたしもまた、誰かを好きになること、できるかな? サクラちゃんみたいに、強く誰かを想うこと、できるかな? 」
    「ズイブン、ムズカシクカンガエルンダナ。スキならスキ、ソレデいいンジャナイカ」
     サクラは不思議そうに首を傾げた。悩まなくていいよ、と言うように。


    「モウイイカ。サクラ、ハヤクイキタイ」
     サクラが立ち上がる。
    「行かれやすか。じゃあ、お気をつけて。気が変わったら、いつでも戻ってきてくださいな」
    「サクラのキハ、カワラナイ」
     ギィの言葉にはそう返し、サクラは身を翻す。紅い毛並みに、夕陽が映えている。人化してもきっと可愛いんだろうな、とは思いつつ、今ここで言うのも野暮かと口には出さないでおく。代わりに、伝言を。
    「ガイオウガには、人は愛し合う生き物だと伝えてくださいな。たとえ相手がダークネスでも」
    「僕からもお願いします。同じ伝言を、ガイオウガさんに伝えてください」
     ギィに寄り添い、睦月も声を上げる。振り向くサクラが目を瞬かせた。重ねて、セリルも語り掛ける。
    「サクラ。キミのガイオウガを好きって気持ちを、忘れないで。其れはとても素敵なものだから」
     そっと胸に手を当て、
    「キミと同じで、僕らにも大好きなヒトが居る。同じなんだ。大好きって言う同じ心を持っている」
     ――だから、きっと友達になれる。一緒に居られる。
    「キミがガイオウガとひとつに成っても。どうか、この時間を憶えていてほしい。キミと僕たちが、一緒に居たと言う事を、忘れないで」
    「ああ、『誰かを愛する』という事は会えない間の寂しさとか切なさとか、苦しい事も色々あるけど……それでもやっぱり温かくて幸せな事なんだって、その気持ちを覚えていてほしい」
     直哉も語る。サクラは眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
    「サクラ、よくワカラナイ……ケド、ツタエテオク」
     ポツリと呟いたその言葉に、ありがとうございます、と返し、
    「それじゃぁ、いってらっしゃい!」
     と陽桜は笑顔で見送る。
    「サクラさんのガイオウガさんを思う気持ち、伝わるといいですね!」
     睦月も笑ってエールを送り、
    「では、いってらっしゃい。よい逢瀬を」
     とジンザが締める。
    「アア」
     それだけいうと、サクラは山頂に駆け上がった。炎柱が立ち上る。紅い火の粉が舞う。まるで、時季外れの桜が散るように。それを見届けると、ジンザは
    「それじゃ、僕等も行きましょうか」
     と拳銃の安全装置を戻し、撤収にかかった。頷き、山を降りる前に、ギィは山頂を振り返る。
    (「ガイオウガが目覚めた時に、あの言葉を少しでも覚えてくれてれば幸いっす」)
     そう、一つの祈りを残して。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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