マグマを呼び起こすモノ

■リプレイ

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　――炎が、眼前を埋め尽くす。
「さながら自然の調伏か」
　目の前の光景に、月叢・諒二（月魎・d20397）はそう呼ぶしかなかった。炎が生み出す地獄がごとき光景、その中心に座するのは体長は六メートルほど黒い羊のような巻き角を持つ熊がごとき獣だ。
「オオ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ！！」
　地響きがごとき、怒りの咆哮が大気を震わせる。それを目の前に、神坂・鈴音（魔弾の射手は追い風を受ける・d01042）は言い捨てた。
「ガイオウガに力を与えたいとか一体化したいとか、まぁそれは種族的な自然な願望だからほうっておいてもいいんだけど」
「ええ、火山を噴火させられるのは困るんですよ。なので、ここで灼滅されてくださいね？」
　小鳥遊・優雨（優しい雨・d05156）もまた真っ直ぐに、そう告げる。イフリートにとって、現れた灼滅者達は邪魔者だ。そして、それはこちらにとっても同じ事。
「流石に火山噴火など企まれては止める以外ないな」
　峰・清香（高校生ファイアブラッド・d01705）が言い放つ間に、イフリートがズン……と一歩前へと出る。周囲の炎による熱気よりもなお濃い、威圧感――チリチリとうなじを焦がすような感覚に、撫桐・娑婆蔵（鷹の目・d10859）が笑って言った。
「こいつァ四の五の言わずにシメてよろしい手合いでござんすね？　分かり易くってよござんす！」
「学園に帰属したイフリートもいるけれど冗談じゃない。火山を噴火させようがガイオウガと一体化しようが私の価値観はただ一つ――灼滅されるイフリートだけが良いイフリートよ」
　近衛・朱海（煉驤・d04234）の真っ直ぐな言葉に、イフリートが一歩、また一歩と近づいてくる。その圧力は、文字通り獣の形をした災害だ。神経を鑢で削るような緊張感――しかし、それを踏み潰すように、梅澤・大文字（枷鎖の番長・d02284）がガキン！　と鉄下駄で灼熱の地面を踏み締めた。
「炎濡れの戦場か、ふさわしい舞台じゃねぇの。来いよ、ひとつだけ確かな事――貴様の凶刃に斃れぬ事のみが、おれの存在意義だ！！」
「我々のコンビネーション、見せつけちゃいましょう番長！」
　大文字と並び立つ椎葉・花色（グッデイトゥダイ・d03099）がそう言った間に、イフリートは徐々に加速していく。その姿に、諒二は言ってのけた。
「力を尽くそう、生半をする気は無いよ。もっとも、徳のある坊主とか霊験あらたかな行者ではないから恰好はつかないかもしれないけどね。
　人で、鬼。"月魎"月叢諒二――参る」
「ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！」
　その咆哮自体が名乗りだ――そう言いたげに、イフリートは炎を翼のように広げ、灼滅者達を薙ぎ払った。

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　ゴウン！　と地面が砕け、炎が舞う。炎濡れの戦場が更に加熱する中、鈴音が空飛ぶ箒で空へと舞い上がった。
「先手をとるわ！」
　空へと駆け上がり――直後、その名のごとく星を見上げたイフリートへと鈴音は急降下した。
「６千の守り手たちよ、集いきたりて私とともに彼のものを捕らえる楔となりなさい！」
　ドン！　と鈴音のスターゲイザーがイフリートを直撃。その重圧が、地面に亀裂を走らせた。そこへ、砕けた宙を舞う地面の欠片を足場に娑婆蔵が駆ける！
「姓は撫桐名は娑婆蔵、人呼んで撫斬組長！　侠・撫桐たァあっしのことでござんす！」
　空中で豪快に横回転、娑婆蔵のマルチスイングの一撃がイフリートの顔面を強打した。しかし、ガクンと娑婆蔵の回転が急停止する。
「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ！！」
　顔面を強打したはずの鉄槌が、ビクともしないのだ。獣の背骨――特に首の骨は人間のそれとは違う、屈強なのだ。それを差し引いたとしても、強靭すぎる首だ。
　だが、その光景を見ても――否、見たからこそ娑婆蔵は笑う。
「ヘヘ、それでこそでさぁ！　月叢の兄貴！」
「あぁ、退くのはどっちか教えてあげないとね」
　答え、諒二が一気に踏み込む。螺旋を描き繰り出された螺穿槍、その一撃がイフリートへと突き刺さり、肉を抉る。吹き出した炎、そこに朱海が跳んだ。
「こいつらと戦っているところ、あまり見られたくないんだけどね」
　よく見知った顔がいる、大事な人の目の前で――朱海は、イフリートへの敵意、憤怒、憎悪をぶつけるように燃え盛る回し蹴りを叩き込む。
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！」
　獣がごとき気合と共に、朱海の蹴り足がミシリと軋む。いかなる感情も、物理という圧倒的現実の前には無意味なのだろうか？　――否、決して否だ！
　霊犬の無銘が、イフリートの前足を斬魔刀で切り裂く。体勢を崩したイフリートが、大きくのけぞった。
「そこです」
　のけぞった間隙に、優雨のFragarachⅡが射出される。ズシャ！　と右前足を貫かれたイフリートが、更に揺らいだ。
「ファイアブラッドの矜持を見せつけに参りました！　炎を扱えるのはお前たちだけじゃあないんですよデカいイフリート！　アツアツなわたしたちの炎を喰らえ！」
　アツアツの前に、色々な意味で、と心の中で加えて花色が炎をタレイアパンチャーへ宿して振りかぶる。その隣で、大文字は黒いマントをカラスの翼のように広げて疾走――！
「――ッ！！」
　まるで、金属の激突音のような重い音と共に、イフリートの巨体が地面を転がった。花色と大文字、二人のレーヴァテインがイフリートを吹き飛ばしたのだ。
「おれは灼滅者だ。ダークネスをころす者で、被食者でありながら捕食者で、ヒトである為にそれを続けねばならない生き物で――」
　何事も無かったかのように立ち上がるイフリートへ、大文字は告げる。いや、もしかしたら本人も気付いていない内に、それは『イフリート』へと聞かせていたのかもしれない。
「――躊躇って歩みを止めれば闇に足を取られる。血を焦がす炎の爆ぜる音が、おれを光の在る場所に繋ぎ留めている……おれは所詮その程度の灼滅者だ」
　イフリートは、答えない。言葉が通じていないのか、あるいは答えを求めていないとわかっているからか――。
「来るぞ」
　ブラッディクルセイドソードを振るい、セイクリッドウインドを吹かせて清香が言う。風とは炎を更に燃え上がらせるものだ――風に背を押され、灼滅者達はイフリートへと迫る。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ！！」
　イフリートは、炎の渦を巻き起こし灼滅者達を飲み込んだ。

●
　戦いとは、総量と総量の削り合いだ。物理的なものだけではない。それは命であったり、生きてきた時間であったり、抱いた想いであったり――互いが持つ己であるすべてをぶつけ合うのが戦いなのだ。
　だからこそ灼滅者達が届く、届くのだ。単純な物理の力では届かなくても、全員が力を合わせてそこへ届かせる――。
「――ふっ」
　鋭い呼気と共に、諒二がオーラを宿した拳を連打する。イフリートの緋色の毛並み、その下の分厚い筋肉が殴打されていく――構わず立ち上がったイフリートは前脚を振り下ろそうとするが、諒二は構わない。
「させないわ」
　捩れた炎を爪とする朱漆の手甲を強引に朱海が叩き込み、前脚の軌道を逸らした。そこへ、追い打ちするように無銘が六文銭を射撃していく。
「さすが『定礎割り』と音に聞こえた『斬新殺し』」
　半ばからかい、半ば賞賛を持って娑婆蔵は地を蹴った。ズドン！　と構えたバベルブレイカーのジェット噴射による加速、娑婆蔵はそのまま突貫した。
「後詰めは任せやしたぜ鈴音ェ！」
「続くわね、娑婆蔵！」
　ガゴン！　と娑婆蔵の蹂躙のバベルインパクトが突き刺さった直後、鈴音が魔砲使いの碑から砲口が展開される。
「少しは頭を冷やしなさい！」
　ドン！　と鈴音の打ち込んだ黙示録砲が、ビキビキビキ！　とイフリートの緋色の毛並みを純白に染めていく――だが、その背後へ大量の炎が浮かび上がり、銃弾を形成していく！
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ！」
　ガガガガガガガガガガガガガガガガガガン！　とバレットストームが降り注ぐ。その前に立ち塞がったのは、大文字と花色だ。
「どっちが活躍出来るか勝負だ、撫桐娑婆蔵！」
「ようござんしょ」
　花色の言葉に、娑婆蔵は笑う。そして、花色は畏れをまとった後ろ回し蹴りでイフリートを大きく斬り裂いた。
「格好いいとこ見せないとね」
　花色がそう言い捨てるのと同時、大文字が豪快な前蹴りをイフリートに叩き込む！　ズガン、と轟音を立ててスターゲイザーの重圧がイフリートの足元に亀裂を走らせた。
「3組のカップルのせいで熱いですね――さっさとイフリートを倒して撤収しましょう」
　そう言い捨て、優雨の銀色の車輪による蹴撃が更に重ねられる。それに合わせ、清香はセイクリッドウインドを吹かせた。
「イフリートに引き摺られているようであまり好ましくないな」
　呼吸を整えて、清香はこぼす。イフリートとの決戦が近いせいか、戦闘で傷つくのも傷つけるのも楽しい嗜好が顔を見せている。しかし、同時にこの傾向がよくないと思う自分もいるのだ。
　獣と人の境目は、どこにあるのか？　それは、そういう話なのだろう。それはある者にとっては心であり、大切な誰かの存在であったり、様々なのだ。
　戦場は、すべてを飲み込み加熱されていく。戦う意味を、殺す意味を、残らずくべて――その終わりは、だからこそ唐突に訪れるのだ。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！」
　炎をまとっての突進、その直線状にいたのは優雨だ。Cocytusを構え、優雨は紙一重でそのレーヴァテインの一撃をかいくぐった。
「今です！」
「そうさせてもらう」
　止まれないイフリートへ、非実体化した剣撃を清香が放つ。肉ではなく魂を断つ一撃が、確かに巨獣を捉えた。
　そこへ、大きく跳躍した鈴音が迫る！
「過ぎ行くものたち３千！軽やかなる身を示し、その証を鎖となしなさい！」
　ゴォ！　と暴風が縛鎖のようにイフリートの巨体を飲み込む。蹴りを叩き込みながら、鈴音が言った。
「娑婆蔵、やっちゃえ！」
「十万億土の彼方まで根こそぎ撫で斬りにしてやりまさァ！」
　そこへ、娑婆蔵が出る。鍛え上げた拳ひとつをぶらさげて、真っ直ぐと――その鋼鉄拳が、イフリートを空中へと跳ね上げた。
　身構えた諒二に、ふと花色が声をかける。
「おややァ？　月業くん、ジョノカーと一緒で張り切っちゃってんですかァ？」
　諒二は答えない、答えないまま地面を蹴って杖を全体重を乗せてイフリートへと振り下ろした。ドン！　と衝撃がイフリートを打ち、地面を叩き伏せる。バゴン、と亀裂が入ったそこに、朱海と無銘が迫った。
「――――」
　イフリートへと投げかけられた朱海の言葉は、誰にも届かない。髻清洸海によるスターゲイザーの一撃が更に地面を砕き、無銘が獣へ刃を突き立てる――そこへ、大文字と花色が続く。
　それを、イフリートは炎の銃弾によって迎撃した。しかし、二人の疾走は止まらない！
「闇の炎など、漢の炎で燃やし尽してくれるッ！」
「わたしだって炎に矜持があるんですよ、イフリート」
　炎の雨を走り抜け、大文字の炎を宿した鉄下駄の蹴りと花色の燃える跳び蹴りが同時にイフリートを焼き切った。それでもなおあがくイフリートに、ズドン！　と上空から氷柱が突き刺さる――優雨の妖冷弾だ。
　バキバキバキ！　と氷の花が、イフリートを包んでいく。大木の枝から降り立った優雨が、いっそ優しく囁いた。
「氷の花はあなたへの手向けの花。氷の花へ包まれて逝きなさい」
　バキン！　と亀裂が走った刹那、氷の花園は砕け散る。咲いた花は散るが運命――それが、イフリートの最期となった……。

●
「終わったな」
　清香の言葉に、仲間達からの返答はない。それは、戦いで燃え尽きたからか？　否、この程度では燃え尽きないからこそ、だ。
「なんにせよ、ガイオウガとの決戦が近い、ということよね……」
　鈴音の言葉が、そのくすぶりをより自覚させる。そう、この戦いは終わりではない。始めるための戦いなのだ。
　しかし、その自覚はまたイフリートへの憎しみを持つ者にとって己の闇を直視するのに等しい。
「……諒二君、もし私がこうなってしまったら、きっちり始末をつけてね」
　だからこそ、朱海のその願いは重く尊い。憎むために、憎んだ相手と同じにならないように――そう思わずには、いられなかった……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年7月28日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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