学園祭2016~フェスティバル祭アフターステージ!

    作者:黒柴好人

     7月17日から18日の2日間にわたって開催された武蔵坂学園の学園祭。
     今年も大々的にクラブ企画や水着コンテストが開催され、学園は熱く盛り上がった。
     楽しい時間は瞬く間に過ぎ、明日からまた日常が戻って……くる、の……だ…………。
     いいや、我々はここで屈するわけにはいかない。
     時の流れに、祭の終焉に抗うべく立ち向かうのだ。
     この野外特設ステージこそ橋頭堡である!
     学園祭はまだまだ終わらないと知らしめてやろうぞ!
    「といったフライヤーがいつの間にやらあちこちに散見されるんだけど」
    「毎年のお約束ってやつだ、ルーキー」
    「いや別にルーキーじゃないけど」
    「要は、学園祭の打ち上げや後夜祭のような位置付けがされている『フリーエントリー式音楽イベント』が開催されるわけだな、ルーキー」
    「ルーキー言いたいだけじゃないの?」
    「とにかく行くぞ、ルーキー!」
    「ルーキーじゃないけど、そうしようかな」
     
     そんな学園生の声が聞こえるのも風物詩だな、と観澄・りんね(高校生サウンドソルジャー・dn0007)は足を止める。
    「今年も来たね。この時が!」
     風に運ばれ飛んできたフライヤーを中空で掴んだりんねは、それに軽く目を通す。
     ポップな字体で『フェスティバル祭アフターステージ!』と銘打たれたイベントは、誰でも出演可能な超フリーダムライブイベント。
     楽器の演奏や歌、ダンスなどなど。
     何人であろうとそのステージは開放されている。
    「さあ、はじめよう!」
     フライヤーをスカートのポケットにねじ込むとりんねはギターケースを担ぎ直し、特設ステージへと向かうのだった。
    「――どう? クールだった?」
    「……チラシキャッチを8回もやり直ししなければクールでしたね」
    「空中で紙って掴みにくいんだよっ!?」
     高見堂・みなぎ(高校生エクスブレイン・dn0172)のツッコミに若干顔を赤くしながら、りんねは今度こそステージへ。
     学園祭を音楽で締めくくりたいならば、どうだろう。
     ステージはキミを待っている!


    ■リプレイ

    ●ON STAGE!
    「祭りはまだまだ終わらないっ」
    「今日も全身全霊込めて歌いますよっ♪」
     双子ユニット『ダブルいちご』の先制攻撃に会場の熱気も急上昇!
     ひらひらしていながらも動きやすそうな可愛らしいお揃いの衣装に身を包んだ2人のいちごは、がっつりテンションの上がるアイドルソングを真正面からブチ当ててきた。
     ツインボーカル、そして息の合ったダンスは観衆の目や耳を虜にするまで一瞬と掛からない。
     とにかくハイボルテージな1曲目が終わると。
    「幻の3人目りんねさん! 一緒にどうです?」
    「おっけー、やっちゃうよー!」
     次の曲は馴染みも深くなった学園のイベント限定、りんねが共演!
     そして今回はさらに。
    「あ! 由希奈ちゃーん、こっちおいでー♪」
     ステージの最前列で応援していた由希奈を発見したいちごは手を伸ばし、そのままぐいっとステージに引き込んだ。
    「えっ? えっ!?」
    「あはは……強引ですみません」
     もう一方のいちごが苦笑しながら出迎える。
    「りんねちゃん、この子は由希奈ちゃん!」
    「よろしくねっ!」
    「あ、こちらこそ」
    「由希奈ちゃんはいちごちゃんの百合彼女で、百合百合ラブラブなんだよ?」
    「ゆりらぶなんだー」
    「百合……って、何言ってるの!?」
     りんねに何か吹き込んでいるいちごに詰め寄る由希奈と、
    「えと、せっかくですし由希奈さんも一緒に歌いま――」
     これ以上混乱が広がる前に話を変えようと近づいてきたいちご。
     2つの事象が交わる時。
    「あ、あの、いちごくんは、おと――」
    「にゃぁっ!?」
    「え?」
     いちごは瞬時に回り込み、いちごの背中を突き飛ばしたのだ!
     前のめりに転びそうになるいちごを咄嗟に抱き留めんとした由希奈だが、バランスを失い両者床へ。
     つまりいちごマウントの押し倒しキスの形となる!
     何故そうなるのか、これぞラッキースケベの真骨頂!
     観衆から百合コールやら「百合最高ォ!」やらの声が。
    「それじゃ、次の曲いってみよー♪」
     それから約2名が吹っ切れたライブは、それは大変盛り上がった。

    「ライさんっ、今日は盛り上がっていきますよ!」
    「そうだね。どーんと盛り上げていっちゃおう」
    「行くぜっ! 『プロミネンス』!」
     4人で登場の『ミルキーウェイ』。まずは陽司とライが挨拶代わりにロックを一発。
     紅炎の名の通り、熱く暴れるようなリードギターを陽司が、そして小学生ながらも重くしっかりしたベースに陽司のサウンドに負けじと張り上げるボーカルをライが。
     そして2人の背後で火の粉が舞う様に踊るのはシャオ。
     サウンド、ダンス。それらは観る者に太陽を喰らい尽くさんとする炎の龍を幻視させんばかりの迫力だった。
     ハイタッチを交わして演奏を終えた3人に続き、前に出る聖香。
    「次は私達の番だ。曲名は『星下の約束』。シャオの美声とキーボードとの響きをどうぞ!」
     聖香の紹介にシャオがぺこりと頭を下げる。
     程なく流れ出した先程とは対照的にバラード調の落ち着いたメロディ。
     キーボードの穏やかな流れにふわりと浮くように、高い音域の歌声を披露するシャオ。
    (「シャオの歌声、綺麗だな」)
     このような雰囲気を重視したい曲には最も適役だろうと、聖香は鍵盤を弾きながら思いふける。
     奏者がうっとりしてしまう。それは勿論聴き手も同様だろう。
     熱い曲からのチルアウト効果もあるのか、会場中で「ほう」という息が漏れている。
     一面の星空の下、願うのは――。
     終わりの余韻に浸る観衆は、
    「皆さんっ、まだまだ行けますよね!?」
     陽司のMCにはっと顔を上げる。
    「まだこの時間を終わらせたくない! 皆盛り上がっていくよ!」
    「さあ最後まで全力ゴーゴーだ。最後まで楽しんでいくよっ!」
    「後夜祭は始まったばかりっす! もっともっと楽しみますよっ!」
    「僕の、僕たちの歌が、声が、想いが……みんなの心に、綺麗な流星となって、響けばいいな……」
     思いの丈を込めながら拳を突き出すミルキーウェイの4人に、皆雄叫びのような声を上げながら拳を突き上げた。
    「私達の最後の曲は!」
    「「「ミルキーウェイ!」」」
     それぞれの楽器と共に歌う4人。
     またも一転する曲調はポップで楽しいリズム。
    「陽司、私の思いつきに乗っかってくれてありがとう。皆と後夜祭で演奏出来てよかった」
     そんな聖香の言葉に陽司は楽しそうな笑顔を返して。
     彼らのステージは観衆を巻き込みながら終演まで全力を振り絞るのだった。

    「さぁ、女の子カップルによるスペシャルライブの始まりなのです!」
    「いぇ~い♪ 今夜だけはトクベツ!! ココロも女の子のつもりで、歌っていくよ~!!」
     エクルと望が可愛らしいアイドルの衣装に身を包み登場した。
    「聞いてください、CROSS×MIND-ココロ重ねて-!」
     フクザツな想いを2人のアイドルは見事なまでのデュエットで表現する。
     時折背中合わせに、しかし手はぎゅっと繋いで……くるくると乱れのないダンスの途中に互いの顔を近付けてにっこり笑って――。
     特に望は普段から目隠しをしており今日も例外ではないけれど、よほどエクルを信頼し、ココロを通わせているのだろう。
     動きの多い振り付けにも関わらず、全く危なげなく一曲を演じ切った。
    「ありがと~!!」
     2人のキュートな声や振る舞いに観衆は魅了され、惜しみない歓声や拍手が贈られた。

     リュシールが一に少し変わった事をやってみないかと持ちかけたのは少し前の事。
     聖歌隊をやろうと提案したら一は苦い顔をしたものだ。
     そこは彼の扱いに長けているリュシール。「後でお礼するから」と褒美をぶら下げ、実現に漕ぎ着けたのだった。
    「なんか息詰まりそうだなー、この服」
    「ふふっ、結構似合ってるじゃない。たまに、位があなたにはいいんだろうけどね」
     モノトーンのカットソー型のスーツの襟を引っ張る一に、髪を結い上げて純白のドレスを着たリュシールがくすりと笑いかける。
    「お前も似合ってるじゃんその服。まごにもいしょーって奴?」
    「馬子にもって……言ってくれるじゃない」
    「2人とも服も気合入ってるよねー。リュシールちゃんなんかすっごく可愛いし!」
     呼ばれたりんねも大人し目の格好で2人に合わせている。
     リュシールはドレスの裾を軽くつまみ、お辞儀してみせる。
    「一着きりのとっておきなんです。りんねさんも準備はいいですか?」
    「あんまり歌ったことないジャンルだけど、きっと大丈夫!」
    「オレはまだびみょーだなぁ……」
    「大丈夫、私がリードするから」
     腕を掴み、まだ見ぬ世界に誘うように聖歌を歌い出すリュシール。
     どうにか声を合わせようとする一だが、どうにも覚束ない。
     が、隣で楽しげに歌う少女を見ていると――どうだろう、肩の力が抜けていく。
     不意に目が合ったその時には……一はリュシールと同じ世界を自然に歩んでいた。

    「僕らのライブは一期一会、今日だけのライブです! 同じライブは二度とありません!」
     『SWEET SOUNDZ』の瑠璃が叫ぶと、亮太郎がドラムで相槌を打つ。
    「だからこそ、二度と無い今日を精一杯楽しんで! また次のライブ、次の次のライブへと繋いでいけるように!」
    「はっはっはー! 今回も全力での演奏を見せマスヨ! みんなも全力で楽しんで欲しいデス!」
     ギターを一掻き、ライブを満喫している代表格といったあきらが観衆に向かって大きくてを振る。
     間髪置かずに瑠璃のベースが、亮太郎のドラム(と、不足する音を補うためのシーケンス管理)が、あきらのギターが曲を形作っていく。
     そしてステージ中央、スタンドマイクをがっちり掴む見桜。
     見桜は前奏が終わると息を吸い込み、真正面を見据えながら歌い出す。
    『何度でも笑い合えるよ』
    『君がそう思うなら』
    『夏の記憶は褪せないままだ』
    『夜空もきっと明るいまま』
     視線も真っ直ぐなら歌声も真っ直ぐ観衆を射抜くハスキーボイス。
     時折入るあきらのコーラスがいいアクセントだ。
     しかし見桜が歌う一句一句の何と重く力強い事か!
     間奏では手に収まる小さなハーモニカ、ブルースハープを披露したりとマルチな才能も魅せる。
     すっかり馴染み深い亮太郎のツインペダル打法もまた観る者を唸らせる。
     ダブルベースドラム、通称ツーバスに比べて音を殺してしまいがちだが、亮太郎はそれを物ともせずしっかり確実に連打を決めてみせる。
     今回のキーボードパートはシーケンサーを使い、ミキサーから流している。
     亮太郎はそのちょっとした調整なども行ったりするので普段より少し忙しない。
     一方のあきらも仲間たちとのセッションは久しぶりという事もあり、わくわく感がギターを通じてよくわかる。
     その時々で変化を付けられないシーケンサーを使っている事もあり若干アドリブは効かせにくいが、その程度であきらの個性が無力化されるわけがない。
     譜面を堅実に弾くが、隙あらばポーズを決めたり音を弾ませたり。
     個性といえば瑠璃にも注目したい。
     中性的な顔立ちな彼にはよく似合う、いかにもヴィジュアル系ファー付きレザーコートを素肌の上に直接羽織り、長い髪をそのままに振り乱す。
     飛び散り光る汗と照明に反射する艶やかな髪が瑠璃の魅力をより引き立てる。
     そしてこの、ヘドバン!
    「最後まで熱く熱く、迸っていきましょう!」
     ますますヒートアップする会場に、更に対抗するように彼らは惜しむ力を捨て去り演じ続ける。
    「今、なんかいろいろ悩むような出来事とかあって、どうしていいかわからなくなったりするけど……」
     曲間、マイクを握っていた力をふっと抜く見桜。
    「でも、次の一歩を思い切り踏み出し続ければいいんだって思って」
     その表情は、
    「間違っても、笑ってもう1回!」
     どこまでもどこまでも、一直線だった。

     今回の参加者の中では登場から群を抜いて注目されていたのは『夢の里』による和楽器ライブだろう。
     小鼓や鼓、釣太鼓など、大小様々な和太鼓をドラムセットのように配置し、その中央に陣取る聖也など特に目立っていた。
     巫女鈴はハイハットポジションだろうか。
     いざ演奏が始まれば篠笛を吹く飛鳥に、観衆は息を呑んだ。
     ビキニにフリルを多用したペプラムをあしらったビスチェ風の水着の上に黒を基調とした金糸が入った羽織姿という、ちょっとドキドキな和洋の融合もそうだが、何よりも篠笛が奏でる音……。
     和の幻想を彷彿とさせる音色は、全身が痺れるような衝撃をもたらす。
     イントロが終わると今度は尺八に持ち替え、10年の祓魔師修行で培ったという腕を存分に振るって主旋律を吹き進んでいく。
     飛鳥を追いかけるようにリズムを刻むのは和ドラムスの聖也。
     座るのではなく、なんと立って踊りながら太鼓を叩くというパフォーマンスがまた観る者を楽しませる。
     肝心の腕前はというと、まだ叩き始めなのだろうと思わせる。
     だが、何故だろう。
     小気味良く「らんららんららん!」と楽しそうなダンス、そしてそこから生まれる太鼓のリズム……それらは実に尺八とマッチするではないか。
     お楽しみはそれだけではない。
     無邪気な笑顔が愛らしい、カーリーが紡ぎだす歌。
     それは和の世界観を何倍にも広げ、観衆に1つの物語を思い描かせた。
     古き光景に楽しそうに駆けまわる少年と少女。どこまでも夢想的で、しかし手を伸ばせばそこにありそうで、誰しも笑顔になれるような――そんな物語。
     一時の和の世界に、会場は彼らを讃える声と拍手が長い時間響くのだった。

     舞台袖で休憩していたりんねに、翡翠が「お疲れ様です♪」と飲み物を差し出した。
    「ありがとう、翡翠さん! 楽しんでる?」
    「はい♪ りんねさんや皆さんの演奏素敵でした!」
     ところで、と空になったコップに再び注ぎながら翡翠が尋ねる。
    「りんねさんは学園祭、どんなことが思い出に残ってます?」
    「クラブ企画はどこも楽しかったなぁ。翡翠さんのところもすごく凝ってて面白かったし、音楽系の企画もやっぱり思い出深いし。うん、全部かな!?」
     色々ありすぎて記憶が整理し切れないようだ。
    「とにかく、次はもっと色んな企画に参加したいなぁ」
    「気が早いかもしれませんが、来年のライブの事も色々と考えてみると楽しいかもしれないですね♪」
     ライブといえばと碧が声をかける。
    「りんね。この後はどんな曲にするんだ?」
    「やっぱりテンションが上がる楽しい曲がいいかな! 碧さんも何か演奏するの?」
    「ああ。でもまだ秘密だ」
    「そっかー。楽しみにしてるね!」
     そこへ、胸元に赤ん坊を抱えたアリスがやって来た。
    「こんばんは、りんねさん」
    「アリスさん! 最近どう?」
    「ええ、実は出産で入院してて」
    「へー、しゅっさ……出産っ!?」
     アリスは自分の子、アレックスをりんねに紹介する。
    「そういうわけでステージには立てないけれど、一曲、ムーディーなバラードかブルースを頼めないかしら」
    「もちろんいいよ! お祝い代わりになればいいな!」
    「ありがとう。ステージが終わったらアイスレモンティーを用意しておくわ。ガムシロップ多めで、ね」
     約束し、客席の方へと向かうアリスを見送るりんねの肩をぽんと周が叩く。
    「調子はどうだ、りんね!」
    「バッチリだよ! って、周さんその格好は」
    「似合うだろ? 妹から借りてきたんだぜ!」
     豪華な装飾が施されたアイドル衣装を派手な動きで披露する周。
    「で、だ。今回はこれを演ろうと思うんだが」
    「お、新曲?」
     楽譜を受け取り、ざっと目を通す。
    「何だかすんごい感じだね。うん、任せて!」
    「よっし! じゃあ、また後でな!」

     歌う事の珍しい、落ち着いたバラードを披露し終えたたりんねの目の前に『挑戦者』が現れた。
    「ふふふ、とうとう、とうとうこの時が来た」
     全身に力を漲らせたその男、樹彦!
    「苦節7ヶ月、あの日、歌で頂点に立つと決めてから僕は君を倒すことだけを考えて切磋琢磨してきた」
     指を突き付け今、倒すべき目標に宣戦を布告する!
    「さあ、勝負だ、観澄・りんね! どっちが武蔵野坂学園一のサウンドソルジャーか、はっきりさせてやる!」
    「へ?」
     突然の事に間の抜けた返事しかできなかったりんねだが、勝負は受諾した。
     勝負といっても攻撃系サイキックは危ないので、純粋なギターテクやダンスで雌雄を決する事に。
    「おお、やるね!」
    「ゲリラライブで日々鍛えているからな!」
     実戦経験というものだろうか。
     とにかく互いに全力でギターバトルをした結果――。
    「んー、楽しかったね! 別にこれ勝敗決めなくても」
    「ふ、今回は引き分けにしておこう! だが次こそは勝つ!」
    「あ、うん。またねー?」
     続けざまに参上の周は、最初からフラメンコギターを全力で挑む。
    「日ごろの三割以上増しでハジケて、この日を歴史に刻もうぜ!」
    「おっけー! いっくよー!」
     疾走していく内に全身がバーニングするくらいの破茶目茶なノリのセッション。
     そんなもの楽しくないわけがない!
    「ヘーイ、りんねさん! いえーい!」
    「悠花さん! いえーいっ!」
     ノリを継承し、さらに高めんと突撃してくる悠花。
     のっけからりんねとハイタッチを決め、トップギアを貫徹する構えだ!
    「音を楽しむと書いて、音楽だー!」
    「悠花さんの言う通り! みんなもついてきてねっ!」
     この時のためにまたも練習してきた悠花は、バッチリとりんねに追従、はたまた追い越していく。
     全てを巻き込む嵐のように、音は楽しげに飛び出していく。
     お互い背中を合わせギターを弾き合い、笑いあう。
     このライブ感、充足感は何者にも代え難い最高の時間。
     奏者が何度でも見たい光り輝く世界がここにある!
     そうして、いよいよ碧がステージに立つ時。
    「聴いて下さい」
     若干緊張気味にタイトルを宣言してベースを爪弾く碧。
    「『あしたを歌う、きょうだから』」
     1人で参加のため、ベースラインのみのはずだが……いつの間にやらリードギターのサウンドが重なってきた。
    「もう、その曲やるなら言ってよ、碧さん!」
     りんねだ!
     そして、同じく彼女の誕生日ライブに居合わせこの曲を知っているメンバーも加わって。
    「それと、タイトルはそれっぽい英訳してって言ったのにー!」
     結局、碧のソロパートは派手で愉快なセッションになったとさ。
     
     ――残暑はステージで一礼すると、
    「今年の学園祭も色々ありました。楽しかった思い出を全力で歌いますわね」
     アカペラを、それもこの2日間を振り返りながら滔々と唄っていく。
     ダムの水を汲んだこと、カタパルトで飛んだこと、箒でエアレースをしたり山葵を釣ったり、壁も叩いたし足湯も堪能も。はたまたナノナノを投げたり!?
     武蔵坂学園の学園祭は謎と未知の好奇心に満ちていると、改めて思わされる。
     詩に出てきた企画に参加した観衆は笑ったり懐かしんだり、そうでない者も「そんなものがあったのか!」と驚いたり次回もやるのかなと来年を楽しみに思ったり……。
    「また来年も皆様と一緒に過ごせますように、ありがとうございますわ」
     この夢のような一時が終わってしまうのは、わかっていても寂しい。
     けれど、それ以上の思い出を腕いっぱいに抱えているではないか。
     名残惜しく思う者も、現実への回帰を望まぬ者もそれに気付かされた。
     そうと解れば最早怖いものなどない。
     参加者たちは、時間の許す限り全てを出しきるまで音楽を、後夜祭を楽しむのだった。

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月2日
    難度:簡単
    参加:25人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 2
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