学園祭2016~光の波紋と星の雫

    作者:中川沙智

    ●ending
     楽しい時間ほど過ぎるのが速い。
     鮮やかな水着コンテストの晴れ姿。話し合って工夫を凝らしたクラブ企画。きみと一緒に賑わいを分かち合った、瞬間。
     学園祭終了後の夜に。
     水飛沫を上げ天に翳せば、終わらぬ夏がそこにいる。
     
    ●everlasting
     祭りの後と言えば自然と寂寥感に襲われるもの。けれどまだ、想い出を紡ぐ夜は終わらない。
    「プールが解放されるのか?」
     偶然出くわした鴻崎・翔(高校生殺人鬼・dn0006)が眼鏡越しの瞳を瞬けば、小鳥居・鞠花(大学生エクスブレイン・dn0083)がどこか得意げに首肯する。
    「そう! ほら、うちの学校って人数多い分プールもとびきり大きいでしょ、だから大人数で打ち上げするのにももってこいって話!」
     学園の屋内プールは設備も整えられている。学園祭の花形といえば水着コンテストだ、折角の水着をコンテストだけで終わらせるのは勿体ない。勿論コンテストに出場していない人たちも水着の持ち込みは可能だし、もし水に多少濡れる可能性を理解していれば、水着姿でなくてもプールで軽い水遊びは出来るだろう。
    「いいかもしれないな、それも。皆の晴れ姿は見ているだけでも華やかそうだ」
    「でしょ。私も防水加工のデジカメを持ち込んで記念撮影用カメラマンになろうかと思って。当然写真撮影は許可を取ってからにするから」
     しんみり静かに想い出語りをするのもよし、誰かの水着をそっと褒めてみるのもよし。学園のほうで水鉄砲の類も用意してくれているというから、仲間達と大騒ぎするのも格別だろう。
     最後の最後まで、味わい尽くす学園祭のひと時を大切に出来たなら。
     きっと幾年たっても胸裏に浮かび上がる、色鮮やかな記憶達。
    「どうせなら最後の最後まで楽しめたら、それに越したことはないよな」
    「うん。……鴻崎、ちょっとだけ前向きに楽しむようになったじゃない」
     からかわれていると理解した時に、翔が戸惑っていたのはここだけの話だ。

     一人で、大切な誰かと、気心知れた仲間達と、水際と夜空に彩られたフィナーレを味わおう。
     水飛沫を上げ天に翳せば、終わらぬ夏がそこにいる。


    ■リプレイ

    ●飛沫
     火照った体には、プールの清涼感が心地よい。腕の傷や体型故に水着姿に自信がない安寿に対し、彼女へ視線を向けられない陽己は己の不明を恥じた。
     賛辞と想いは浮かぶのに、『綺麗だ』としか言えない語彙力に頭を抱える。けれど二人に共通する、今一緒にいられるだけで幸せという想い。
     あのね――顔を覗き込む声が聞こえ、顔を上げれば眼前に水飛沫が舞う。
     ありがとうが届けば尚更、彼女には心底、敵わない。
     プールサイドで見上げれば輝くお星様。一緒に学園祭を楽しめたから、足先は冷たく心地よい。
     歳の近い友達とお祭りを回るのが憧れだったと夜深が告げれば、彼女への呼び方に頬を染めた歌護女が笑う。
     思い出の共有にくすぐったい気持ちになりながら、ひとつの提案を。
    「私もやみちゃんと呼んでいるのですし『様付け』はやめませんか?」
     一本取られた。ならば、宝物のように告げよう。
    「……かごめちゃん。で宜しいですか?」
     真琴の水着姿に心臓が跳ねるも、二人で仲良くプールサイドでいちご味のかき氷を楽しむ。足と口を冷やす感覚は気持ちいい。
    「普通のはやっぱり美味しいね」
     学園祭でカレー味のかき氷を食べる羽目になった七波は苦笑い。色が変わるかもと真琴が舌を出せば仄かな赤が滲む。
     二人の申し出を小鳥居・鞠花(大学生エクスブレイン・dn0083)が快諾すれば、記念写真の花が咲く。
     差し出されたかき氷は、同じで同じじゃない味だ。
     昼間は会えなかったから、先に待つ恭輔に水着をお披露目。
     リィザは黒のビキニにピンクのパーカーを羽織った姿。胸元を強調したデザインと覗き込むようなポーズは、彼をときめかせたかったから。
    「……どうか、しました?」
    「とても胸が気になります。指を入れたくなる」
     率直過ぎる感想の後、文句のつけどころがないと賛辞を贈る。
     照れ隠しにプールに落とされたなんて逸話は、二人だけのもの。
     陽司がノインに告げたのはただ一人へ捧ぐ特別の話だ。
    「ノインさん、……自分はあなたの事が、好きです。とても」
     付き合ってほしい。ノインは戸惑うものの、語られる真摯な想いに、抱えていた憧れの本当の名前に気が付いた。
     緩む頬、熱が宿る瞳。満ちた気持ちは、本物。
    「……あ、ありがとう……嬉しい」
     繋いだ手から溢れる光は、夜空さえ照らす。
     折角の水着、コンテストだけでは勿体ない。いつしか互いの水着姿を褒め合うように。
    「結構冒険しましたね」
    「そういわれると恥ずかしいのですけどー!?」
     翡翠は白黒のバイカラーの三角ビキニを腕で隠す。でも互いの艶姿が綺麗なのは本当。彩歌もスポーティーな白の競泳水着姿が眩しい。海やプールでより多くを振り返らせるのはどちらだろう。
     喋ったなら泳ごう。飛び切りの心地よさを、あなたと。
     学園祭を思い返す、大切な相手と分かち合うそれがとても嬉しい。
     だから。
    「最後のシメ、ちゃんとやらなきゃな?」
    「っ!?」
     低く和葉の名を呼んだ刹那、雅輝は水鉄砲を一気に掃射。だが水に足を取られたのを見逃さない。
    「隙ありだ!」
    「おおぉぉお!?」
     全身で遊んだなら水鉄砲も関係ない。水を掛け合い笑顔弾けて、合間に一瞬和葉は雅輝に抱きつく。
     ――告白された返事はまだだけど、今は。
     アイスの冷たい甘さは夏の風物詩。高級にも思えるから不思議だと、ヴァルケは味わいながら考える。
     隣で艶やかな仕草で味わっていた夜宵は、ヴァルケの頬にアイスがついているのを見つける。
    「あら、ほっぺについているわよぉ?」
     躊躇なく舌で舐め取られたら、顔が真っ赤になるのは必定。
    「ちゃんと食べないともったいないゾ?」
     からかわれてるとわかっていても敵わない。来年こそはと決意するが、さて。
     夜は秘密が支配する。渡る二人は共犯者。手を伸べ伸べられ、取り合ってプールサイドへ。
     今年の学園祭。咲桜は雰囲気で満足してしまった気がすると水面を蹴る。
     繭子は語る。すれ違う顔、賑わい、出し物の話。どれも楽しかったけれど、誘ってくれた彼が傍にいないのは。
    「……少々寂しかったですわね?」
    「じゃあ、来年はそのお詫びもするよ」
     拗ねた声音に双方驚けば、小指を絡め約束紡ぐ。
     夏は、終わらぬと。

    ●潮騒
     結衣奈の鮮やかなピンクの水着姿は何度見ても、眩い。
    「思わず見惚れるなぁ」
    「こんなところで言わないで……」
     そんな二人が興じるのは水中鬼ごっこ、はしゃいで遊ぶのが何より楽しい。
     いつしか彼女は明彦の腕の中。
    「もう結衣奈を離したくないな」
     しばらくはこのままでいてあげるよと、囁く。
     熱を帯びる吐息。触れる体温。体を預け、今は大切な君の傍で。
     楽しい学園祭はあっという間。優希那は巫女風で赤が差し色の白ビキニ、マッキは青緑色のバミューダタイプだ。格段に女の子らしく綺麗になったという感想が零れ出て、優希那はつい顔が真っ赤に染まる。
     けれど互いが一番なのはお互い様。マッキは右手で彼女の頭を撫で、左手で彼女の手を取り口づける。
     いつだって、君のために素敵になる。
    「私、泳げるようになったよ」
    「そうか、なら安心だな」
     梓が明に習ったのは三年前。確かな思い出として積み重なる君との今日が、いとおしい。
     だからプールから出る時に梓が試みる。明の背に抱きついて、
    「水中って、慣れてなくって」
     嘘を交えて囁いた。
    「……落ち着くまで、このままで構わないぞ」
     君の顔が見えないのが、少しだけ残念。
     これは打ち上げだったはずだ。
     なのに様々な水鉄砲掲げて男女で紅白戦。本気だ。
     何せガトリングやガンナイフ(刃はゴム製)まで取り揃える凝りよう、開戦前に円理の眉間に届いたのはイコの初撃。先輩達を守る覚悟は万全だ。
     が。
    「お覚悟!」
     次の手が円蔵に向かうも、慌てた反撃で相打ちに。イコの手を引きプールへ沈む。速攻だ。
    「仇は取る……!」
     円理が言いかけ、相手の完全武装に躊躇で足が止まる。手数は敵のほうが多い。特に千花のガトリング。多勢に無勢だと冬崖は胸中で汗をかく。
    「そんな卑怯な子は筋肉の刑だ」
     冬崖と円理が女性陣に見せつけるのは鍛え抜かれた胸筋。ポーズも確かに決まっている――が、円蔵が声を飛ばす。
    「筋肉じゃなくてちゃんと水鉄砲の腕を見せてくださいなぁ!」
     重要な指摘は、惜しくも届かず。怒りのガトリング連射で動きを阻まれ、とどめはラバーナイフで一刺し。
     冬崖が水に沈む瞬間脳裏が光る。
     ドンマイ、俺。
    「あくはほろびた」
     千花が笑みを湛えれば、成海も陽の色宿す唇の端を上げた。圧勝だ。
    「これで平和は取り戻せました」
    「女性に花を持たせるという接待です」
     ヒヒ、と円蔵が負け惜しみ交じりに常の笑いを漏らす。勝利を手にした千花が残りを打ち上げる。夜空に咲く飛沫の花火に、成海が零した吐息は夏の色。
     水に始まり水に消える。
     イコは瞳を細める。騒がしい時間すら、愉しい夏の一幕だ。
     黒の三角紐ビキニ姿の括は少しだけ大人っぽくて、いつも通り可愛い。脚だけプールに浸していた遊太郎は淡い笑顔。
    「……ゆうちゃん、お膝の間にいれてっ」
     彼を他の女の子に見せたくなくて懐に滑り込む。こんな独占欲はいやかなと表情を伺う括に、遊太郎は緩やかに目を細める。
     なんだろう。
    「――今、君がすごく可愛いです」
     パーカーを彼女に被せ頬を寄せ合えば、いとしい体温にほっとする。くすぐったさすら、君との繋がりなのだから。
     パンダモチーフのパーカーと黒のミニスカ水着姿の燈はとても可愛くて、だからこそ胸の高鳴りは内緒のまま。
    「身体が冷えちゃった」
     言い訳して、理央は彼女を引き寄せた。肩を抱いたら燈も微笑みを融かす。
     幸せと幸せを重ねて、一緒に過ごす思い出を沢山作っていこう。新しい一面を手繰って、優しさで包んでいられるように。
     記念に写真を一枚撮ろう。大好きな人の、隣で。
     同じ制服は一つの境界線だ。
     水辺で失われる熱を惜しむ時、切なさも共に押し寄せる。制服を共にするのももうすぐ終わり。明確な目標はある、大丈夫と支えたい。
     頬を寄せるのは、言わずとも気持ちが知れたから。
     少年の右手首で、牡鹿と萩宿す文字盤が時を紡ぐ。赤い糸が環を成す。共に歩む誓いを重ねた互いの環。
     そのために頑張ると決めたから。
    「寂しいのは今だけ。少しだけ……このままで、いさせて」
     左手薬指の萩の花咲く白金の環に触れる、希沙の声は掠れた。
     小太郎は決意を固める。沢山逢いに行こう、応援しながら追い駆けよう。ただそれは、後で。
     今は傍に。
     余韻が思い出に変わるまで。

    ●水面
     雪肌晒し、手にするは企画の硝子の自鳴琴。
     烏芥が永き迷いに決断を告ぐ。傍らで揺籃が聞く。
    「……キミに名を付けようと思う」
     捜しても届かぬ過去に、不慣れながら意味を捧げよう。
     私が、キミを呼ぶ。
     囁く。己に呪いがもう一つ。
     鴻崎・翔(高校生殺人鬼・dn0006)が雪の君から礼を受け取れば、淡く微笑みを返した。
     樹の今年の水着は花嫁風の白いビキニ。
     月光に晒され幻想的で、可憐かつ清楚なそれに拓馬は瞳を細める。まるで――もう一度結婚式をしているような、そんな。
    「……やっぱり恥ずかしいのよ」
    「いや、もっと見てたいな。俺だけのお嫁さんの姿をね」
     拗ねた彼女の頬に伸びる優しい手。喜んでもらえるなら、そう思えば樹にも小さく笑みが零れた。
     夜だからピンク色の水着の上にパーカーを羽織ったはいいものの。
     凍路の硬さにさくらは身が強張るのを感じる。凍路本人は彼女の眩しい水着姿にぎくしゃくしただけなのだが、自然に接するのは難しい。
     切欠はさくらから。水鉄砲を放てば彼の顔面に直撃した。慌てるも、お返しにと水がかけられ夜にきらめく。
     好きな人を思うのは同じ。
     互いの緊張が解れて、明るい笑顔が咲いた。
     麒麟が披露したのは、少し露出の高いビキニ姿。
     勿論司に見てもらうためだ。彼は大胆な不意打ちに直視出来ず、けれど一番の褒め言葉を。
     そしてプールに入れば、麒麟が手で水鉄砲を作る。司の顔面に一発。こちらも予想外だ。
    「ん、ぼんやりしてちゃダメだよ?」
    「よーし、きりんさんがそのつもりなら受けて立つ!」
     お祭りはまだ終わってないんだから。その言葉に破顔した。
    「わー恵理綺麗!」
     夕陽色グラデのビキニ姿で鞠花が賛辞を送る。恵理は銀星添えた黒のビキニにパレオ、薄く覆うガウンを纏えば清楚かつ妖艶。
     祖母のお叱りを思えば躊躇もあれど、友達と見せ合うくらいは許されるはず。
    「貴女も一緒に如何です?」
     差し出したのは果汁が層になったゼリー。虹色のおいしい魔法を共に、頂きます。
     絢爛たる少女達が掲げるは、展示&体験学習部門でのクラブ企画二年連続優勝の祝い。
    「花園迷宮、皆さんのおかげで連覇できました♪ ありがとうございます♪」
    「来年、も……出来たら……いいです、ね」
    「はい! 来年もやりましょうね!」
     緋頼とお揃いの赤いビキニ姿のりんごは満面の笑顔。黒ビキニの扶桑も柔らかく微笑んだ。りんごは一人ずつハグでお礼を伝えていく。緋頼は親愛のキスを捧げ、セクハラを阻止。水色ストライプ入りスカート付きのタンキニ纏った華琳も、あらぬ方向に手を伸ばされたら軽く叱った。
     でも。
    「素敵な思い出を作る事ができたのが何より嬉しいですね……そ、そこはお胸……です……」
     巫女服模したビキニ着たセカイが微笑むも、違うところに悪戯されれば動揺と赤面と。豊か過ぎる胸は、誘惑の渦。対して、ショルダーブラの緑ビキニで揉み返すのは悠花だ。
     過剰過ぎるスキンシップを経て水かけ遊びが始まれば、声が飛び交い水に引きずり込んだりも。緋頼が目を細めて問う。
    「どうです? 気持ちいいですか?」
    「気持ちいい……です、ね」
    「十倍返しだ」
     純粋に水飛沫を楽しむ扶桑、本気でやり返す華琳の傍らで。
    「はわっ、はうんっ、はわわわわ~」
     水着を取られた一美の視界で、青薔薇咲く白ビキニが揺れている。
     一方コセイはお魚クッション咥えたり、短いあんよで犬かきしたり。癒しを求めて一美と扶桑がもふもふ。りんごが片目を瞑った。
    「悪戯もトラブルもここからが本番。魔王無双の始まりですよー?」
     彼女達の夏は、まだ終わらない。
     その祝いの輪から少し外れて、ミルドレッドと翠はまったりデート。
     翠の水着姿はとても綺麗だ。見つめていたら翠ははにかむ。
    「わたしの水着姿はミリーさんだけのものなのですよ?」
     コンテストさながらにポーズをリクエストすれば、恋人だけに見せる姿を披露。逆にポーズの要求はあるか尋ねたら、照れてぼつり。
    「ふ、ふたりきりのときでないと……」
    「……どんな格好させる気!?」
     当たり前過ぎて、言えない。
    「依子、その……今年もすごくかわい……そおい!」
    「もう……狡い。聞こえなかった!」
     篠介の誤魔化しは水飛沫、今年の水着に籠めた想いは依子の胸の奥。君に攫ってもらえるような、お姫様になりたかった。
     今この瞬間は二度と訪れない。世界を見る場所が一緒であればいい。季節は確かに巡り往く。
     好き、可愛い、綺麗、格好いい。
     すべてのこころを集めて、隣の君に伝わればいいのに。

    ●清逸
    「ふふ、今年の水着はどうですか? いちごさん?」
    「とてもよくお似合いですよ。スタイルいいから、水着も映えますよね」
     抱きつき明らかに当てている桐香に対し、素直で無難な感想を伝えるいちご。柔らかい感触は意識の外に追い出す。
     そこで怒ったアリカがいちごに逆方向から抱きつく。ビキニが似合うけど、そういう問題じゃない。
     どちらを選ぶ?
     引き剥がす際のトラブルは、また別の話。
     学園祭に思いを馳せ、思い出に思いを寄せれば、倭の記憶にはましろがいる。彼が東京に出てきて三年半。もう随分経つけれど。
    「わたしの幸せな時間の殆どに、倭くんが一緒に居てくれた気がする」
    「……そうだな。こっちでの時間はほぼ、お前の隣に居られた時間なんだよな」
     これからも楽しい思い出を作ろう。課題も、と零せばまひろが苦笑いした。
     水着を褒め合うも、だいだいも着たかっただろうかと問えば笑みが咲く。
     折角のプールだから楽しもう。水を掛け合えば思い出もきらめく。
    「ふふ、あたしだって少しづつ大人になってるのよ」
     身長は彼には追い付けそうにないけれど、サズおにいさんが、みかんが嬉しいと、自分も嬉しい。名もなき感情の行方はどこだろう。
     ふわふわした気持ちは今は、水の中に沈めて。
    「ライブ大成功を祝して、カンパァァイ!」
     景気よく錠が音頭を取れば、次々とグラスの音と歓声が上がる。滴の彩が舞う。
    「ライブ&ゲーム部門三位入賞おめでとう!」
    「えらいこっちゃ、入賞やで、入賞! ほんに、おめでたい話やで!」
     葉月やまり花の顔にも歓喜が滲む。例年クラブ企画には出展しているものの、武蔵坂軽音部の入賞は初。認められれば感激もひとしおだと奈那は思う。綿密な準備とチームワークの結果だろう。
    「……音楽の楽しさ、教えてくれてありがと」
     錠に聴こえないよう小さな声で、夜奈が呟く。皆と一緒なら心強かったし、素敵だったし、楽しかった。観客に感謝を捧げるも『あのひと』に聴いてもらえたらと思い、ふと瞼を伏せた。
     初のボーカルで緊張した者、観客のありがたさを実感した者、観客としてライブに参加した者。各々のピースを合わせれば、本番の熱気が今にも蘇るよう。
     皆の頑張りあってこそ最高なステージになった、そんな確信が時生の心をいっぱいに満たす。いまだ耳に残る音が心地よい、ハーモニーの美しさに感銘を受けた理利は薄く微笑む。サイコーなステージだったと時生の笑顔も満開だ。
     他方でぐったりとしているのは葉。温度の違いを実感しつつ、かつて大口を叩いた錠を未だに投げ飛ばしたい。音楽というのが、よくわからないままだ。
    「ライブの緊張感や一体感も好きだがこのわいわい加減も素晴らしいな」
     翔琉は璃依を皮切りに、空いたグラスを次々満たす。毎年カケルと楽しみにさせてもらってるぞと、璃依は彼の隣で幸せ溶かしたふんわり笑顔を向ける。
     まだ慣れないけれど演奏は楽しい。皆のおかげ、そして大切な仲間は心の支え――イチは口にしてから頬を染めた。奈那は嬉しいと瞳を細める。
     メッセージボードを提案したのは千波耶だ。No Life, No Music 聴いてくれてありがとう――そう書いたのを皮切りに、次々と言葉が重なっていく。時折ナノナノや歌うさぎも交じり、書き癖で誰の言葉かすぐわかるのが面白い。
    「皆の歌を聴かせてくれて、わたしの歌を聴いてくれてありがとう」
    「錠さん、みなさん、ほんとにお疲れ様でしたのです」
     それは奏者共通の想いに違いない。千波耶に続き朋恵も感激を届ける。
    「なァ、翔」
     三年前の後夜祭から俺は成長できたかな?
     錠の問いに翔は小さく頷いて、答える。
    「ここにいる沢山の仲間が何よりの証じゃないかな」
     葉月の記念撮影の提案に否などない。まり花が皆を手招く。端っこ確保戦争が勃発するが、結果は写真のみぞ知る。
    「はーい撮りまーす!」
    「はい、けいおん!」
     撮影役の鞠花が号令をかければ、部長とボーカル陣を前に出してポーズ。メッセージボードもしっかり見えるように。時生の掛け声でひと夏の笑顔が切り取られる。

     終わりが寂しいのは、それだけ楽しかったから。
     こころに鮮やかに咲き誇る、水夢の花。

    作者:中川沙智 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月2日
    難度:簡単
    参加:74人
    結果:成功!
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