パンツはかぶるもの

    作者:空白革命

    ●パンツは食い物?
    「私の知ってる限りだと、パンツはめんつゆにつけたり油で揚げたりして食べるものだったんですよ」
     仲間と一緒に遠出中。黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)が急にそんな話をし出して、この子ついに頭が真夏の太陽に焼かれちゃったのかしらと思ったが、どうやら真剣なお話のようだ。
    「けどパンツは被るものだって主張する人たちがいて……というか、いるという噂がたっていて」
     いややっぱり焼かれちゃってるかもしれない。脳みそメロンパンかもしれない。
     はいはい病院に行きましょーねと言いかけたその時、いちごが核心を述べた。
    「それが、都市伝説として実体化しまして」
     
     いちごが語るのは『パンツを被る会』という都市伝説である。
     彼らが掲げるパンツかぶりの極意とは、さっきまで美少女が穿いていたおぱんつを被ることこそパンツの還るべき姿であり、最も相応しいパンツの終着点であるということだ。
     もう何言ってんだかわかんないが、そもそもが都市伝説なので理屈の通じる人たちではないことは確かだ。
     彼らは夜中突然現われ、パンツを見事なまでの手際で奪いとると頭に被ってエンジョイアンドエキサイティングするという。
     人数は大体5人だか8人だかで、どこからともなく現われるとか。
     
    「このままでは罪も無い皆さんのパンツが被られてしまいます。私たちの手で、なんとしても止めないと! とめないとですよ!」


    参加者
    墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)
    姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)
    銀・ゆのか(銀屋の若女将・d04387)
    緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    刑部・みさき(蒼星の夜凪を揺蕩うマーメイド・d20440)
    天原・京香(マッチ売りだった少女・d24476)

    ■リプレイ

    ●布面積は乙女心と反比例
     ナウ・オン・サマー!
     シティに悪戯なウィンドが吹いた。
     その瞬間、スカートを手のひらでガードする天原・京香(マッチ売りだった少女・d24476)。
    「おっと! 今スカートのめくれた描写をしておいて、後からパンツが無かったって言うんでしょ。二度とその手はくわないわよ!」
     おずおずと京香の姿を眺める墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)。
    「あの……京香ちゃん、熱中症は取り返しが付かないから、その、水分補給とか……」
    「頭がどうかしちゃったわけじゃないわよ!」
     歯をギザギザにしてキシャーする京香。
     最近シリアスばかりで疲れてるのかなと思って、由希奈はそっと距離をとった。
    「夏場だからかな。いちごくんの言うことも、話だけだと正気を疑うよね。パンツは食べ物じゃないんだよ?」
    「普段から食べてるみたいに言わないでくださいっ!」
     両腕を上下にぶんぶんして抗議する黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)。
    「都市伝説の話ですっ! 私はパンツを食べたことなんて……ハッ」
     あった気がする。
     気がするが、忘れることにした。
     色んな意味で健康によろしくない。
    「ムキになることありませんよ。もしかして、お腹がすいてるんじゃありませんか?」
     姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)がニッコリと首を傾げてランチバスケットを持ち上げた。
    「サンドイッチを作ってきました。よかったら依頼の前に」
     刑部・みさき(蒼星の夜凪を揺蕩うマーメイド・d20440)はセカイからサンドイッチを受け取って大胆にかじりついた。
     『おいしいです』のスケッチブックを掲げるみさき。
     同じくサンドイッチを受け取って、緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)はムフーと鼻でため息をついた。
    「まあ、私のパンツでよければいちごさんに食べられても構いませんわ。なんなら被って頂いても……ハッ」
     背後から殺気を感じて振り返る。が、そこにはセカイしかいなかった。
     なんだ気のせいかと思ってサンドイッチを囓る作業に戻る桐香。
    「はい、ゆのかさんもどうぞ。いちごさんも」
    「これはどうも。お言葉に甘えて」
     銀・ゆのか(銀屋の若女将・d04387)は和服の裾を整えると、サンドイッチを受け取った。
    「私思ったんです。パンツが奪われるなら、水着にしておけばいいんじゃないかって」
     一方でなぜかサンドイッチの先端を舌でもてあそぶフィヒティミト・メーベルナッハ(媚熱煽姫・d16950)。
    「和服の下に水着きてるの? なあにそのマニアックな水着ピンナップ」
    「ちっ、違いますよ! 対策です!」
    「興奮するかも」
    「違いますって! 裾をめくろうとしないでくださいっ! やめてやめてっ!」
     早くも挿絵用ピンナップに大人票が入りそうな展開になってきたが、見るべきはそこではない。
    「いただきまーす」
     サンドイッチを握って笑顔であーんしているいちごちゃん……の後ろでぐるぐるした目を限界まで開いて荒い呼吸をしているセカイである。
     彼女の回想を見るべく頭からもやもや浮かぶ回想雲をご覧頂きたい。
    『都市伝説なんかに下着を被られるだなんて、む、ムリです……どうすればどうすればどう……ハッ! 木を隠すなら森の中。いちごパンツを隠すならサンドイッチの中ですね!』
     このとき、近くに常識的な人が一人でも居れば『パンツはサンドイッチに挟まない』と言ってくれた筈だが、夏の暑さと不眠のせいでクラついたセカイはいそいそとサンドイッチを人数分つくり、その一つに自分がさっきまではいていたパンツを挟むという奇行に出ていた。
     それがいま、いちごちゃんの口の中に入ろうとしていた。
    「あんな笑顔でわたくしのサ……サ……あああああそうじゃないですダメですううう!」 サンドイッチをダイビングキャッチ。
     地面をごろごろと転がっていき、うずくまって腹に抱えたサンドイッチを庇った。
    「あのセカイさん」
    「だめです! これは私のものなんです!」
    「そこまでお腹すいてたなんて……」
    「なによ、じゃあ私の半分あげるから」
     京香は自分のサンドイッチを二つに割った。
     割ったら、中からイチゴ柄のパンツが出てきた。
    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「…………」
    「マニアックだね」
    「い゛や゛あ゛ああああああああああああああああああ!!」
     シン・セカイ。この夏、劇場公開。

    ●女の子に許されし絶対圏なるぞ
    「フーハハハハー! 貴様のおパンツを頂戴する! そして被ってエンジョイしてやるのダァー! フーハハハハハハハ……ハ……ハハ……」
     両手を振り上げて一斉に飛び出した『パンツを被る会』の皆さんは、現場の空気に一度黙った。
     うずくまってすんすん泣いているセカイと、どうしていいかわかんなくて立ち尽くす一同という図である。
    「あの、出直した方がいいですか?」
    「おきにならさずっ!」
     ポン刀を振り上げて叫ぶセカイ。本人が言うんだからいいかなって具合に改めて彼女たちを取り囲むパン会の皆さん。
     対して、ゆのかは不敵に笑って身構えた。
    「大丈夫ですよ。パンツを奪われなければいいんです」
    「そうです、一人ずつ奪われるとしても、全員分が奪われる前に倒しきればいいんですよ! ね、みさきさん!」
    「ひっ……?」
     いちごちゃんに話を振られて、みさきはスケッチブックに手をかけ――た姿勢で停止した。
    「ひぃっ……!」
     スカートを押さえてうずくまるみさき。
     ハッとして振り向くと、パン会の皆さんは全員パンツを被っていた。
    「出てきてからパンツを奪うと……いつから錯覚していた?」
    「かっこよく言うなー!」
     顔面をグーで殴る京香。
     鼻血をふいてぶっ倒れるパン会の人。
    「ぐあああああ我らパンツファイブの弱点が顔面だと気づいたあああああ!」
    「どうでもいいわ! このっこのっ!」
     零距離からガトリングガンをばかすか撃ちまくる京香。
    「京香さん落ち着い――わあっ!」
     なだめようと走ったいちごちゃんがうずくまっていたセカイにつまづいた。
     ゆのかを押し倒したかと思うとなんか奇跡が起きてゆのかの和服の裾の中に頭を突っ込んでイテテとか言い出した。
    「あれっ、暗い! ここはどこですか、みんなどこに」
    「やめてやめて動かないで! 手探りしないでくださいそこで!」
     股の辺りを押さえてじたばたするゆのか。
     おおっと大丈夫かなこの展開。公開停止にならないかな!?
    「見てないで手伝ってください!」
     助けを求めて振り向くゆのか。
     フィヒティミトが顔にパンツを被ってフーフーしていた。
     下半身に装備するものを全部頭に被って高速で深呼吸していた。
     間違ってもこのシーンを挿絵申請しないであげてほしい。色んな人がしぬ。
    「こ、これじゃあ恥ずかしいよ……見えちゃうから……」
     手で股の辺りを隠しているが、もっと隠すべきものがあるんじゃないかなって自分の現状を忘れてゆのかは思った。
    「そ、それになんだか……身体が、暑くなってぇ……ハァハァ!」
     ああこれもう手遅れなやつだなあって自分の裾の中身を忘れてゆのかは思った。
    「いちごくん! だめだよ女の子の和服の裾に入ったら!」
     斬新な叱り方をしつつ、いちごちゃんの両足を掴んで引っこ抜く由希奈。
     背中にマウントとって後頭部をがしがし殴るアリカさん。
    「そんな、ごめんなさい! わざとじゃ無いんです!」
    「まあ、わざとじゃないなら……」
     和服の裾をくいくい直すゆのか。
    「いちごさん!」
     うつ伏せで足をずるずるされてるいちごちゃんに、桐香が駆け寄っていった。
     顔の前で片膝立ち姿勢になると、スカートの中に手を入れる。
    「そんなにパンツが欲しいなら、私のを差し上げます!」
    「言ってません!」
    「いちごくん……」
    「言ってませんから!」
    「安心してください。念のためにパンツを二枚履いていたんです。こっちが本当の脱ぎたてですから!」
    「欲してません!」
    「いちごくん……」
    「欲してませんからああああ!」
     前と後ろを交互に見ながら弁明を繰り返すいちごちゃんである。
     とかやってるうちにパンツをするっと脱いだ桐香は、いちごちゃんの頭にそっとかぶせてやった。
    「あの……好きにしてくれて、かまいませんので」
    「話を聞いてください」
    「いちご……くん……?」
    「話を聞いてくださいいいいいいいいい!」
     垂れ下がった髪を唇に咥えて目を見開く由希奈にガチでおびえるいちごちゃんである。
     その間ずっと地面にチョークで○×陣取りゲームをしていたパン会の皆さんがちらりと振り返った。
    「あのー、出直しましょうか?」
    「『けっこうです!』」
     スケッチブックを掲げるみさき。
    「『つづけてください』」
    「あ、はいでは皆せーの――」
     パン会の皆さんは膝でリズムと勢いをつけると、がに股で一斉にジャンプした。
    「「ケケーッ! パンツをもっとよこせええええ!」」
    「やっかましい!」
     ライフルを乱射して全員跳ね飛ばす京香。
     乱射つっても眉間に一発ずつ入れているので全員『アウッ』とか言って転倒した。
    「貴様、人の眉間を撃つんじゃない! パンツに穴が空いただろうが!」
    「そんな怒られ方したのは初めてよ! 頭にパンツなんか被るのが悪いんでしょ! 正気の沙汰じゃないわよ!」
     しねしねーと言いながら制圧射撃をしかける京香。
     それに乗じてスケブでばしばし殴るみさき。
     セカイやゆのかたちもそれに乗じてこうサイキックをアレしてパン会たちを華麗に灼滅(シャク)った。
     彼らの被っていたパンツがはらはらと地面に落ちる。
     全部見事に穴が空いているのでもうはけないが、回収だけはしておく由希奈である。
    「うう……スカートの中がスースーする……」
    「人数分ありますか?」
    「ひーふーみー」
     穴の空いたパンツは六枚。
     それを翳して、ゆのかはため息をついた。
    「はい、一応全部ありますよ。残りのパンツは味方が被っているので」
    「被っ……? あっ、ついうっかり」
     フィヒティミトはそれまでしていた荒い呼吸をやめて、顔に被っていたパンツを脱いだ。
     タグのところを凝視すると、『いちご』と書いてあった。
    「ああ、どうりで」
    「納得しないでっ!」
     ばしっともぎ取る由希奈。
     財布を取り出した桐香がそっと近寄った。唇をぎゅっと噛みながらゆきちを握りしめる。
    「いくらでなら……売って貰えますか……!」
    「うりませんよっ!」
     わーわーいいながらパンツを回収するいちごちゃん。
     その一部始終を観察してから、いちごちゃんってあんなギャルの塊みたいなパンツ吐いてるんだなあと自分の現状を忘れて考えるゆのかであった。
    「ふう、他人のパンツを被ったまま我を忘れるなんてどういう思考してるのよ」
     腰に手を当てて、京香がやれやれという風に首を振った。
     その肩をぽんぽん叩くみさき。
    「ん?」
    「『わたしの』」
     スケッチブックを掲げ、一枚ずつめくっていくみさき。
    「『ぱんつ』『かえして』」
    「…………」
     京香はそっと自らの頭に手を当て、そして自分の被っていたであろうパンツを脱いだ。
    「…………いつ、から?」
    「『さいしょから』」
    「そっちかああああああああああああああああああ!」
     京香の絶叫が夏の夜を駆け巡った。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 9/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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