もももっちあ

    作者:聖山葵

    「何だかしっくりくるもちぃな……」
     その時、東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)の思考は停止した。桃尻の女の子が頭にパンツを被って目を閉じていたのだから、無理もない。
    「桃とパンツの親和性……今ならパンツだって食べられそうな気がするもちぃ」
    「えっ」
     常軌を逸した発言で桜花が我に返れたのは、猛烈に嫌な予感が脳裏をよぎったからかも知れない。これまで割とロクでもない目にもけっこう遭ってきたのだ。
    「と言うか、なんであたしまたこんな変な人に遭っちゃったんだろ……」
     よく見れば女の子だと思ったパンツを被った人はご当地怪人であり、やたら聞き覚えのある語尾からお餅系のご当地怪人だろうと頭の冷静な部分で推測しつつ桜花はここではない遠くを見る。
    「あ、ちょうど良いところに!」
     そんな桜花にご当地怪人が気づいたのは、次の瞬間。
    「そこのキ、わもちゃぁっ」
     呼びかけつつ近寄ろうとしたご当地怪人は何故か何もないところに足を取られつんのめり。
    「ちょ、みゃああああっ!」
     哀れ桜花はそのまま押し倒されたのだった。

    「……と言うことがあってね」
     若干虚ろな目をした桜花は這々の体で逃げ出してきたのだとか。
    「桃餅のモッチアですか」
    「……うん。それと、女の子だと思ったけど男の娘だったみたい」
     押し倒された時、触っちゃったんだとカミングアウトした桜花は、なんやかんやあって結局パンツも取られたのだとか。
    「……災難でしたね」
     体質的な宿命かも知れないが同情する倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)に今度は頷きだけで桜花は応じ、君達を見回して言う。
    「流石にあのままにはしておけないから、力を貸して貰えないかな?」
     このままでは第二第三の犠牲者と書いておうかと読む存在が出てしまうかも知れない。頭を下げる桜花へ君達は協力することにしたのだった。
    「ありがとう。問題のご当地怪人はまだあたしが遭遇した辺りにいると思うから――」
     急行すればさして探すことなく見つかるんじゃないかなとは桜花の談。見つからなかったとしても、パンツか桃餅を置いておけばそれでおびき出せる気もする。
    「……それで、戦闘になった場合、どのような攻撃手段をとってくるかは分かりますか?」
    「うーん、あたしは殆どセクハラされただけだったからなぁ……まぁ、ご当地怪人だし、ご当地ヒーローのサイキックに似たものを使ってくるかも」
     これに加えて、おそらくだがラッキースケベ体質の持ち主であることも予想される。桜花がアクシデントを引き起こす体質なので断言は出来ないが。
    「時間帯が時間帯だし、周囲に人気は無かったけど……」
     人避けしなくて済む理由にはなっても、アクシデントに見舞われて良いという理由にはならない。
    「うん、あたしもそうは思うよ」
     桜花も出来れば避けたくはあるのだろう。
    「ところで、その怪人が闇堕ち仕掛けという可能性はありますか?」
    「えっ? それはちょっとわからないけど……」
     ちなみに、闇堕ちしかけの一般人だった場合も救出するには戦ってKOする必要がある。どのみち戦わないと行けないと言う点には変わりなく。
    「あ、現場周辺は街灯もあるから、明かりを持ち込む必要もないよ」
     だから、と付け加えた桜花は君達へ向き直る。
    「お願い、もう犠牲者を出さない為にも――」
     それ以上、言葉は必要ない。
    「……では、行きましょうか」
     緋那へ頷きを返すと君達は歩き出したのだった。
     


    参加者
    香祭・悠花(ファルセット・d01386)
    東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)
    白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)
    白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)
    一条・京(爽涼雅遊・d27844)
    エリカ・ブリントン(とある悪魔の養い児・d32559)
    持戸・千代(大正浪漫チヨコレヰトモツチア・d33060)
    安倍川・きなこ(中学生ご当地ヒーロー・d36896)

    ■リプレイ

    ●いろんな意味でたぶん仕様
    「桜花お姉さまのおぱんつが奪われたですの?! そ、それはわたくしのものですのーっ!! 絶対に奪還ですの!」
     星空の下、白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)は荒ぶって居た。
    「ちょっ、黒子ぉ?!」
     よく考えたらパンツとられたままなんだよね、とか東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)が遠い目をする余裕もない。自分のおぱんつがどうのこうのと言い出した黒子の口を慌てて塞ぎに行こうとしても無理はない。
    「桜花お姉さまはわたくしのもの……手出しする方には容赦しませんの! ただ、緋那さんのパンツに少し興んぐっ?!」
     実際、何か不穏な事を言いかけたところで黒子の口は塞がれ。
    「ふぅ、危ないとっ、うみゃぁぁっ?!」
    「ンン゛ーッ」
     安堵しての油断が引き金になりよろけ、そのまま縺れ合って倒れ込むまではもうこの二人の組み合わせなら仕様であった。
    (「やっぱりもっちあって進化してるんですねぇ」)
     それが縺れ合う元モッチア二人を見ての発言だったらツッコミが入ったかもしれない。だが、霊犬のコセイの毛並みをモフモフしつつ香祭・悠花(ファルセット・d01386)が思考を傾けるは、話にあった桃餅のモッチアであり。
    「ま、それはそれとしてチャンスですね」
    「わふっ」
     主の毛並みを撫でる手つきが変わってコセイが鳴く。多分、脳内では触ってるモノが霊犬の毛ではなくもっとモッチアとしたものになってしまっているのだろう。
    「では――」
    「そこまでです」
     コセイを手放し、セクハラすべく、縺れ合う二人の方にそそくさと向かおうとした悠花の行く手を遮る者が居た。
    「……何やってるんです、セカイさん?」
     おそらくは、倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)の応援という形で駆けつけたのであろう白いマフラーを目深に巻いたミニ巫女服の人は即座に正体を見破られた。
    「せ、セカイ? ど、どなたですか?」
     声に滲む同様は、きっとバレないと思って居たのだろう。
    「いや、どなたかと言われても……ではあなたは?」」
    「えっ、えぇと……そう、ましゅまろ仮面参上です!」
     必死にとぼけようとした、その人は悠花の追求にそう名乗り。
    「これ以上桜花さんを破廉恥な目に遭わせるわけには……」
    「じゃあ、それで良いので揉みますね?」
    「え、どう、っ、きゃあぁぁぁッ!?」
     あっさり犠牲となったのだった。
    「ていうか何やってるのセカイ……」
     起きあがりつつ割と冷静に突っ込んだのはノーパンの人。
    「ぬおっ!? 猛烈に嫌な予感がして居ったが早くも犠牲が――」
     そして、これを凝視したのは、持戸・千代(大正浪漫チヨコレヰトモツチア・d33060)。
    「いかん、もっちあだけでなく味方にも潜在的な危険が含まれておったとは……これでは、わしのような大人しい引っ込み思案さんは良い獲物じゃぁぁ」
     がっと両手で頭を抑えるように抱え、ぶおんぶおん頭を振る様はどの辺りが引っ込み思案さんとツッコミ択なるような光景だったが、誰かが言及するよりも早く。
    「……桃餅の香りがするもちぃ」
     そもそもの元凶は姿を現す。
    「ももも、もももちも、もものうち……じゃなくて、パンツ、絶対取られないようにしないと……!」
    「パンツが好きな怪人、それもラキスケ餅……いや、持ち」
     後ろ手に白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)は自分のお尻を押さえ、一条・京(爽涼雅遊・d27844)は現れたご当地怪人が被ったパンツに目をやる。
    「脱がされて変な所見られたら……」
     不慣れな下着に違和感を覚えつつも、何か想像したのか赤面したのは、きっと縺れ合いつつ転んで既に下着を着けてないお尻を丸出しにしちゃった誰かの存在があったからだと思う。
    「桃餅……はともかくとして、どうしてそこから桃尻と下着に目覚めてしまったのでしょうか。それに加えて男の娘というところ、性別的には十分犯罪チックです」
     一方で、エリカ・ブリントン(とある悪魔の養い児・d32559)は真剣な顔をしたまま、早く何とかしなくてはと呟いたが、無理もない。
    「ようやく姿を現したっぽい」
     様々な思惑が交差する中、ただ純粋に以前闇もちぃから救われた安倍川・きなこ(中学生ご当地ヒーロー・d36896)は今度は私が助ける番っぽいと熱意の籠もった視線を前に向けたのだった。

    ●説得されて
    (「桃餅というか桃尻餅か、それとも尻餅か……」)
     我に返った千代が見つめる中、ご当地怪人桃モッチアは足を止める。おそらくは灼滅者達に気づいたのだろう。
    「キミ達はいったい……何か用もちぃか?」
    「うん、とりあえずあたしのパンツ返して」
     誰何の声へ真っ先に応じたのは、桜花。割と切実な願いだった。
    「パンツをもちぃ?」
    「ええ。パンツの生食はお勧めしませんの……消化不良や付着物による感染症の恐れがありますの」
     首を傾げたところで、援護に加わったのは、緋那のパンツを握り締めた、黒子。
    「と言うか、どさくさに紛れて何握ってるの黒子ぉ?」
    「桜花お姉さまがわたくしのストッキング、直穿きを遠慮なされたから予備のおぱんつを譲って頂きましたの」
     故に不正はなかったと言いたいのだろう、が。
    「その割には桜花さんに渡すそぶり無かったっぽい」
    「じゃのう、握り締める必要もない気がするぞい」
     周囲は誤魔化されなかったっぽくて。
    「……結局どういう事もちぃ?」
    「…………えっと……? あなたのお餅はどこですか!?」
     置いてきぼりをくらった感のあるモッチアへ問いを投げかけたのは、悠花だった。
    「胸じゃないならお尻? パンツはお尻を守るモノ! つまり着用している部分がお尻だ!」
     そして答えも待たず指を突きつけた先は、怪人の頭部。
    「なっ」
    「それでいいのか! そこがお尻でいいのか、桃モッチア!」
    「そ、その状態でどう桃餅を喰うのじゃ? ほれ、せめて口が開かんと入らんぞい! それにその、ぱんつも汚れてしまうしっ」
     理論についていけてない桃モッチアへの追求に続いたのは千代。
    「パンツを被るものじゃないよ。安心して生活するためよ」
     京も仲間に幾人かノーパン主義者が居るのに目をつぶりつつ、説得へ加わる。
    「も、もちぃ……被っちゃ駄目もちぃか?」
    「うん。パンツ被ってる変態仮面的な人の言うこと、普通の人はまともに聞いてくれないと思うよ? 桃尻じゃなくて、桃餅を広めたいんだよね?」
     流石に数人に言われれば自分が間違ってると思い始めたのか、迫力に押されながらも尋ねたご当地怪人に、桜花は頷き、確認し。
    「桃餅の美味しさを伝えるためには、人に話を聞いてもらわなくてはいけません。他人のパンツをかぶった怪人の話を、誰が聞くでしょう? 人間が伝えるからこそ、その美味しさは真に伝わるのではないでしょうか?」
     エリカもまた持参した桃餅を手に訴えると一口食べ、こんなに美味しいのにもったいないですと続ける。
    「っ」
    「自分の好きな物を食べてもらって伝えるのはいいことっぽい! でも、変な事をしながらは誰も聞いてもらえないっぽい! だからまず変な事はやめるっぽい!」
    「へんな、こと……変なこともちぃか」
     きなこの言葉に桃モッチアはゆっくりと手を頭へ持って行き。
    「桃餅を味わう際にも安心しないとゆっくり味わえないでしょ。だからさ、パンツは穿かなきゃだめだぞ、男の子!」
     京の言葉がきっかけだった。
    「ちょっ、京――」
    「わかったもちぃ」
     嫌な予感を感じた誰かが声を上げたのとほぼ同時であった。
    「穿くもちぃ!」
     諭されたご当地怪人は、どこからか取り出した桜色のパンツに足を通すと装着して見せたのだった。
    「うみゃあぁぁ、あたしのお気に入りぃぃぃぃ」
    「さ、次はこっちもちぃ」
     そして誰かの悲鳴が響く中、頭のパンツを脱いだ桃モッチアは、誰かのお気に入りの上にそれを穿いた。
    「これで問題は無くなったもちぃな?」
    「その……ある意味では……正しい、けど……」
     早苗は目はご当地怪人と合わせられなかったが、説得するつもりだった。だが、この時、目を合わせられなかったのは、全く別の理由であり。
    「ドーモ。桃モッチア=サン、白牛黒子ですの」
     慈悲のなくなった黒子がまずアイサツした。
    「あたしのパンツ……」
     ゆらりと幽鬼の様に揺れながら、奪われたモノは奪ったモノを見た。
    「な、何もちぃ? どうして怒ってるもちぃ? ちょ、待」
     説得の途中ですが、ここで腰の退けるご当地怪人に復讐着めいた二人が襲いかかったのは、むりなき事、インガオホー。
    「桜花お姉さまはわたくしのもの……手出しする方には容赦しませんの! ハイクを読め桃モッチア=サンですの」
    「も、もぢゃぁぁぁっ」
     こうしてパンツ剥ぎバトルが始まったとか、始まらなかったとか。

    ●修正力的な何か
    「おもちの柔らかさの中から、桃がじゅわって、……いいよね。でも、餅をパンツに見立てるのは、その、えっと、違うと思う!」
     なんやかんやあって、とりあえず悪が一応の罰は受けた後のこと。顔を赤くし、じりじりと立ち位置を変えながら、早苗は早口で桃モッチアにまくし立てた。
    「餅とパンツは違う、もちぃか」
    「第一モッチアの本分は餅でしょう! パンツ被ってハイパー化するイカサマに頼ってる場合じゃないですの!」
     反芻するご当地怪人へ、正々堂々と桃餅に真摯に向き合いなさいと他の灼滅者が桃餅を突きつければ。
    「い、言われてみれば」
     桃モッチアは愕然としつつ立ちつくす。
    「ところで、なんで怪人になったのか、きっかけとかは覚えてない? 桃餅バカにされたとか、桃尻扱いされたとか?」
     だが、それならば何故パンツをかぶり、罪を重ねるに至ったのか。灼滅者達の中から質問が投げかけられたのは、無理もないことであり。
    「それで、下着を……」
    「そうもちぃよ」
     どことなく醒めた感じに相づちを打つエリカに頷いた桃モッチアが語ったのは一つの悲劇。
    「『屋外で桃餅を食べようとしたら降ってきたパンツがライドオン事件』……ですか」
    「うむ、まさに酷い事件だったもちぃ」
    「っ」
     おおよその事情がわかりそうな事件名を一気に言い切った早苗は反応したご当地怪人から思わず距離をとった。
    「使用済みのものが被害にあったなら、被害も大きいですね」
     エリカの脳内に浮かび上がったのは、落ちた洗濯物を回収しに行ったら、頭にパンツを載せた見知らぬ人がお餅と一緒に自分のパンツを載せて口に運ぼうとしている光景。
    「変態の濡れ衣を着せられるだけなら耐えられたもちぃ、だけどっ、だけどっ」
    「下着と一緒にお餅をはもはもしてたなら仕方ないっぽい」
    「仕方なかったもち、あっとっと」
     やるせなさを堪えるように握った拳を震わせる桃モッチアは、きなこの言葉に弁解すべく前のめりになると、そのまま前へ。
    「わわった」
    「え」
     崩れたバランスを何とかしようと振り回した手ががっしときなこの豊かな何かを鷲掴みにしたのは、体質からすれば必然だった。
    「馬鹿ぁ、何するっぽいぃ!」
    「もぢゃばっ」
     きなこの容赦ない右拳の一撃がセクハラ現行犯を殴り飛ばし。
    「だっ、ぶっ」
     倒れ込みつつも支えを求めた桃モッチアは、両手に触れた物を握り締め、引き下ろしながら倒れ伏した。
    「えっ」
    「なっ」
     声を上げたのは早苗と千代。きっと、下半身に涼しさを感じたのだろう。
    「わしの一張羅があぁ!?」
     袴を引き落とされた千代の悲鳴が周囲に響いた。早苗の方は声を上げられなかったのだろう。スパッツごと掴んだパンツを引き落とされ半ば脱がされていたのだから。
    「ひょぇえええぇっ!? 何するんですか!」
    「もぢばっ」
     怒りが引っ込み思案さを凌駕したのか、あまりの自体に引っ込み思案だったことを忘れたのか、激昂した千代に蹴られたご当地怪人はサッカーボールのように飛んだ。
    「おっと、ピンチですね」
    「へっ?」
     そして、怪人が飛んで行く先にいた悠花はためらいなく近くにいた元モッチアを引き寄せて盾にし。
    「パンツが無い? そこにお餅があるから大丈夫!」
    「ちょっと待って? 一美」
     盾その一も緋那を守るべく側にいた応援の灼滅者を引き寄せる、が遅かった。
    「はわわ~、何す」
    「もちゃぁぁ」
     手をかけて引っ張られた事への抗議が終わる前にモッチアは到着したのだ。
    「うみゃぁぁ」
    「ひゃうぅぅ~」
     一塊になって倒れ込む三人。
    「ふぅ、危ないところでした。ですがこれで私は助け起こすフリをしてもっちあもっちあ……って、コセーイ? どうしてそんな冷めた目で見」
     ただ、悪い笑みをした誰かも霊犬に気をとられた直後に、言葉を失った。主に下半身がすーすーして。
    「はわ~、どこ触ってるんですか!?」
    「ご、ごめんもちぃ」
    「謝るなら上からどいて?!」
     絡まりもがく三人の内、一人の手にそれは握られていた。
    「It'sショータイム♪」
     だから、スレイヤーカードの封印を解き。
    「ヤりましょうか、コセイ」
    「わう」
     その後行われたのは、きっと戦闘じゃないっぽい。そう、言うならば、制裁だった。

    ●やりました
    「早く終わらせて、助けないとね」
     ちらりと桃モッチアを見た京は地を蹴り死角へ回り込む。その視線がやや下、重ね履きしたパンツをちょっぴり食い込ませた怪人のお尻に向いていたのは、きっと気のせいだろう、清純派っぽいし。
    「わっ」
     だから、回り込む過程で足を取られて転倒したとしてもそれはただの事故。
    「京さん、大丈きゃああっ」
     ましゅまろ仮面という犠牲者を代わりに出し。
    「何だかよくわからないけど助かったも――」
    「下着ごと断ち切りましょうか」
     むくりとおきあがった怪人へ転輪の如く身体を回転させつつエリカが襲いかかるが、そのパンツって誰かの奪われたぱんつと重ねられてませんでしたっけ。
    「スペアは用意してきてますし、今回の事件にあたって、新品を下ろしてきましたから」
     問われたなら、そう答えていただろう。
    「っ、この程もぢゃあっ?!」
     怪人が回避行動をとったことで斬撃はかろうじて下着からはずれ。
    「わしも行くぞい! とっりゃ……のわっ!?」
     日本刀を納刀したまま、肉迫し連係攻撃を見舞おうとした千代はずり落ちた袴の裾を踏んづけてつんのめる。引き下ろされた時に紐が千切れてしまっていたのだろう。
    「もちゃばっ」
    「ひゃぶっ」
     肩からぶつかっていった元モッチアは現モッチアに豊かな胸を乗っけるような形で押し倒す。
    「これはいけませんね。揉み……助けに行きましょう!」
     すぐさま駆けつけようとした悠花が微妙に不穏な言葉を漏らしかけたのは気のせいか。
    「助けるにしても、ご当地怪人の気を惹いた方が良さそうですね」
    「そ、それに……パンツは絶対奪還しなきゃ……!」
     呟く緋那の隣で早苗は顔を真っ赤にしたまま拳をぎゅっと握り漆黒の弾丸を形成する。射出するタイミングは悠花から逃れようと身じろぎして桃モッチアの何かを握ってしまった千代が下になったご当地怪人から離れた時。
    「もぢゃばっ、べもぢやっ」
     攻撃のタイミングは他者も狙っていたのだろう。ライドキャリバーのサクラサイクロンが解放され起きあがろうとしていた怪人を容赦なくはね飛ばし、緋那の出現させた逆十字に引き裂かれた桃モッチアは地に落ちてはねた。
    「私が救ってあげる、さあ戻ってくるっぽい!」
     クロスグレイブの銃口を落下地点に固定していたきなこは口元を綻ばせ、トリガーを引き。
    「も、もちゃ――」
     発射された光の砲弾は悲鳴の後半すら呑み込み炸裂し。
    「黒子」
     本日一人目の犠牲者は言った。
    「はい、桜花お姉様」
     黒子は応じ、二人は駆け出す。おそらくご当地キックでフィニッシュを決めるつもりなのだろう。
    「たぁっ! ……って、あ」
     そして高く飛び上がった直後だった。ミニスカートは空気抵抗でめくれ上がり、ノーパンのまま桜花は足から桃モッチアへ突込んで行く、注意が逸れたことで微かに軌道を逸らして。
    「ちょっ、お姉さ、ンアーッ!」
    「うみゃああっ」
    「もちゃあああっ」
     空中衝突からの錐もみボディアタックとでも言おうか。
    「さすがというか、何というか……」
    「ほ、ほれ。もっちあじゃからのぅ」
     お約束をやり抜いた二人に何とも言えない視線を送った誰かの言に千代は視線を逸らし。
    「慣れないけど、ああ言うことになるよりはマシだったのかな」
     未だに慣れぬ下着の感触にちょっともじもじしつつ京は言う。
    「とりあえず、お二人を助けましょうか。それと、あちらの方は穿ち冷やします」
     そして、作り出した氷柱のように、エリカの反応はクールというか醒めており。
    「すみませんでした」
     数分後きっちり救出された少年は、一同の前で土下座していた。
    「散々だったね」
     一枚のぱんつをひったくるように回収し去っていった早苗を欠く中、苦笑した京が周囲を見回すと、桜花は泣いていた。
    「はうぅ……見られたぁ……」
    「うぅ、もうお嫁にいけん……兄者ぁ……」
     そして、隣では千代もうおーんうおーんと号泣中。責任はとりますとか少年が思い詰めた顔をしているが、被害からすれば無理もない、二人だが、騒ぎはこれで終わらない。
    「これは、早苗さんの……これで失礼しますの」
     パンツの取り違えに気づいた黒子が挨拶もそこそこに走り出す。理由は言わずもがなだが、この結果、黒子が早苗を襲ってぱんつを奪ったという噂が広まったとか広まらないとか。ともあれ、事件は幕を閉じたのだ。


    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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