燃え滾る炎を蓄えて

■リプレイ

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　熱風が吹き降ろす山を険しい表情で大和・蒼侍（炎を司る蒼き侍・d18704）は登っていく。
（「最近、イフリートの活動が活発になっている。立て続けにイフリート討伐を繰り返しているが、未だ仇に会えず――」）
「またイフリートかよ、しかもこんな真夏に火の海で遊んでけってか？」
　切羽・村正（唯一つ残った刀・d29963）は、文字通り火の海となったそこでイフリートを発見した。蒼侍は、小さく視線を伏せる。
（「また外れか……」）
　蒼侍の落胆――それに気付く事無く、もぐもぐと持参していた栄養補給用羊羹を食べ切って九条・御調（宝石のように煌く奇跡・d20996）が呟いた。
「とにかく人が来ない場所っていうことだけはありがたいです」
　灼滅者達の気配に気付いたのだろう、イフリートが視線を動かす。体長は六メートルほどの狼にも似た巨獣だ。それは、まさに暴虐に獣の形を与えたような存在だ。その圧力を前に、ニアラ・ラヴクラフト（宇宙的恐怖崇拝者・d35780）が不気味な笑みを浮かべる。
「魔の獣。炎の獣。本能の獣。戦闘を好む獣。素敵な存在だ。鋭角の猟犬を越えて魅せよ。既知とは時に未知を孕むもの。盲目的な牙を磨け」
　ゆりり、とイフリートが一歩前に出る。あまりの熱によるものか、景色が歪む。一歩、また一歩と近づいてくるイフリートに雲無・夜々（ハートフルハートフル・d29589）は言い捨てた。
「天国への一歩前、洒落た演出じゃないか。手ずから送った連中も見ているかもしれないね。お前らを手に掛けた事は後悔しておらず、経験はあたしの力になっていると――自己弁護でしかないが、そういう戦いぶりを心掛けよう」
　煉獄、そう呼ぶのに相応しい光景に夜々はそう言い切る。奪った命に、その先を見せるかのように――身構える。
「白昼堂々のエントリーだ、逃がす気はない。火山なんかに爆発されるとスマホのガラスが灰で傷つくし、夏山で生物観察してる余裕もなくなる――ようは、邪魔だよ」
　熱を帯びて駄目になった冷却材をしまい、ルーパス・ヒラリエス（塔の者・d02159）が告げる。イフリートの速度が、増していく――むき出しの闘争心を前に、アリス・バークリー（ホワイトウィッシュ・d00814）がスレイヤーカードを手に言った。
「こんにちは、炎の幻獣種。そしてすぐにさようならよ――Slayer Card,Awaken!」
　駆け込んできたイフリートの返答は、単純で明快だ。揺らぐ炎で生み出した幻の狼の群れ、百鬼夜行を操って灼滅者達へと襲い掛かった。

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　狼の群れが、その牙を灼滅者達へと突き立てていく。すかさず、ルーパスは黄色標識にスタイルチェンジした交通標識を振り払った。
「自分のものならざる炎と狂気に焼かれるのはよろしくはなさそうだ」
　ルーパスのイエローサイン、それに続いて御調が清めの風を吹かせる。
「お願いしますね」
　御調の言葉を受けて、『0』と書かれたプラカードを掲げたナノナノのぜろがふわふわハートを発動させた。一撃で、相手にペースを握らせる訳にはいかない――こちらへと真っ直ぐに駆けてくるイフリートへ、ニアラは己の背後に黒に染まった二枚貝の形をした影を起立させる。
「開幕せよ。俺に悦を齎せ。生死を賭けた戦闘を」
　音もなく伸びたのは、影の触手。ニアラの影縛りが、イフリートの足へと絡み付く。イフリートは構わずに進もうとして、アリスが右手をかざした。
「交渉の余地なし。いいじゃない。相手になるわよ」
　バキン！　とアリスのフリージングデスが、イフリートの眼前に荒れ狂う氷嵐を巻き起こす。ビキビキビキ、と緋色の毛並みが純白に蝕まれる、それでも構わず加速するイフリートへ、夜々は一歩前へと出た。
　直後、夜々の外套がひとりでに動き、ヒュガン！　とレイザースラストを射出する。不意打ちにも近いその一撃が、イフリートの両前脚へと突き刺さった。
「ここが煉獄ならお前はケルベロスと言った所かい、叩き返してやるよ、地獄の釜で煮られるがいいさ！」
　イフリートの動きが、鈍る。その刹那を見切って死角から迫った蒼侍の居合いが、イフリートの足を切り裂いた。そして、ズサァ！　と地面を大きく蹴って、イフリートは方向転換。灼滅者達から間合いを離し、警戒するように回り込んだ。
「次が、来るぜ」
　村正は眼前にWOKシールドを展開、前衛をワイドガードが覆った。六メートルという巨体を感じさせない、軽やかな疾走。その動きを視線で追って、村正は言った。
「そっちだ！」
「鋭角の猟犬と比べ、見切るに問題なしと解く」
　ニアラが、そう言い捨てる。あの巨体だ、どんなに敏捷であろうとこの灼熱の大地で見逃してしまうはずがない。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ！」
　イフリートの周囲に、無数の炎が生み出される。その炎は、無数の矢となって灼滅者達へと降り注いだ。

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　ガゴン！　と大地が砕け散り、その中をルーパスは瓦礫を足場に高く跳躍した。
「厄介な……」
　眼下には、イフリートがある。獣の形をした暴虐、生きた災害――それが暴れているのだ、荒れ狂う川面を漂う木の葉のような気分だ。一瞬の気の緩みが、致命的なミスに繋がる。義務感と熱意はなく、その戦意だけでルーパスは正確に判断する。
「無茶苦茶やな」
　思わず大阪弁で呟いて、御調は呟く。最後衛、回復役として戦場を全体から見ているからわかるものが、そこにはあった。
「……気をつけてください。段々とこちらの動きに対応してきています」
「そのようだね、邪魔になるように動くだけだけど。ジャマーだけに」
　真顔で言った夜々に、御調が思わず吹き出しかける。いけない、緊張感からか笑いのツボがおかしなところに言っている――しかし、その笑いも長続きはしてくれない。
「ガ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！」
　動く度に、イフリートが破壊を振りまくのだ。それに巻き込まれただけでもただではすまない――着地と同時、横へと回り込んだルーパスはオーラを砲弾にして、投擲した。
　ドン！　とイフリートの顔面を爆発が包んだ。イフリートが頭を振り、噴煙を払う。これが二足歩行であったなら、腕で払えばよかっただけ――四速歩行の獣だから生まれた、一瞬のタイムラグ。
「隙有りよ」
　アリスが両腕を振り下ろした瞬間、ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ！　と魔法の矢がイフリートへと殺到した。アリスのマジックミサイルが、次々と突き刺さっていく。そこへ、真っ直ぐに駆け込んだ蒼侍が大上段の剣閃を放った。
「――ッ」
　切り裂かれ、イフリートが血を炎にして吹き出させる――その直後、蒼侍が横へ跳ぶ。ヒュオン！　と風切り音を響かせ、炎の刃が周囲を蹂躙した。
「フォロー、お願いします！」
「任せろ！」
　要請の言葉に、村正は御調と合わせて清めの風を戦場に吹かせる。熱を払う清浄の風が、火の粉を流していく――その風に乗って、夜々がイフリートの頭上へ。炎に包まれた踵を、落とした。
「っと！」
　ズザン、とイフリートの額を焼き切りながら、その顔を足場に夜々はイフリートを跳び越える。それを追おうとイフリートは牙を剥くが、蟹じみた冥王鋏『菌忌』を手に、ニアラが踏み込んでいた。
「凶行、させじ。炎の獣。その牙、空を切ると成す」
　ザクリ、とニアラの蒐執鋏が、切断したイフリートの一部を食い散らかしていく。それと同時、ぜろがふわふわハートで回復へと回った。
「タフだな、さすがに」
「ええ、でもそろそろ限界じゃない？」
　呼吸を整え、村正が言い捨てる。その言葉に、アリスはそう冷静に付け足した。
（「イフリートがそこで大地の力を集めているってことは、きっとそこが地脈の要。彼らが言うところの『大地の楔』なんでしょうね」）
　ここに来るまでに、アリスは地図で山の位置を確認している。その予想が当たっているか外れているかは、確かめる術はない。例え、当たっていたとしても地脈を断ってから戦闘を仕掛けるなんて、大呪術は使えないけど――それでも、敵の目的とその要を知るのは重要だ。
　戦況は、一進一退。イフリートの激しい攻撃を、夜々を中心にぜろがサポート。足りなくなれば、村正とルーパスが回復へ回るというサイクルで凌いでいた。
　だが、それはこちらも同じだ。連携によって重ねた攻撃は、その耐久力によって耐え抜かれていた。互いに決め手が欠ける、そんな硬直状態が長く続く。
「でも、それでも――」
　御調は、待つ。戦いにおいての膠着状態とは、変化が目に見えていないだけの事なのだ。だからこそ、その変化が表に現れた時、何が起こるのかを知っていた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！！」
　イフリートが、地を蹴って駆ける。繰り出されるのは、炎の牙――それを待ち構えていたのは、村正だ。頭上から襲いかかってくるレーヴァテインの牙、それに向かって村正がした事は蹴り上げる――それだけだった。
「ぐ、が！？」
　牙が食い込むより早く、暴風が爆ぜた。村正のレガリアスサイクロンによる、相殺だ。大きくのけぞったイフリートの顔を、更に逆の脚での回し蹴りで村正は蹴り飛ばした。
　一進一退の均衡が崩れた時――それは、一気に決着が着く時だけだ。
「今だぜ！」
「好機。時の流れは、逆さまには戻らぬと説く」
　のけぞったイフリートへ、虹色の触手をまとう玉虫色の粘液を滴らせた槍でニアラは突き刺した。ぜろのしゃぼん玉がぱちんぱちんと弾け、苦痛にイフリートが大きく後方へと退こうとする。
「押し切るよ――！」
　そこへ、ルーパスの炎に包まれた回し蹴りが炸裂した。イフリートの四肢が、地面から引き剥がされるように浮く。その間隙に夜々がイフリートの背に降り立ち、ガシャン！　と変形したナイフを突き立てた。
「行くぞ」
　ズシャッ！　と夜々のジグザグスラッシュが、イフリートを引き裂いていく。吹き上がる燃える血、煉獄と呼ぶふさわしいその光景。イフリートの体が硬直し、そのまま地面に倒れ転がった。
　そのイフリートの巨体を、ゴォ！　と旋風が飲み込む。御調の神薙刃だ。
「お願いします」
　イフリートを抑え込み切り刻む風の刃――そこへ駆け込んだのは、蒼侍とアリスだ。
「イフリートは……全て斬る！！」
　蒼侍の居合い斬りの一閃と、アリスの光剣『白夜光』の斬撃が、イフリートを十字に断ち切った。ゴォ！　と火柱になり燃え上がるイフリート、その最期の光景を見やりニアラが哄笑した。
「貴様は炎の愚物。既知。残念だ」

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（「今回も違ったが、生きてる限り探すことは諦めない。仇討ちを果たすまでは生きることを許してくれ」）
　瞑目し、黙祷を捧げた蒼侍が踵を返した。ここにはもう、用はない――そう語る背中を見送り、夜々がハっと気付いたように言った。
「水筒の氷全部溶けとる」
「本当に、熱いですからね」
　暑いではなく熱い、そう言って御調は周囲を見回す。この煉獄も、主さえ消えてしまえば自然と消失するだろう。自然は、どれだけの歳月をかけてもこの痕跡を消してしまう……それこそが自然の驚異であり、懐の大きさだった。
「帰ったらかき氷でも食べようか。干からびそうだ」
「そうね」
　ルーパスの言葉に、アリスが答える。周囲に注意を向けても、何かの気配はない――。
（「ガイオウガの力を狙うダークネスが近くで見てたりしないかしら？」）
　そんな警戒も、杞憂で終わった。それこそ、幸いだろう。少なくとも、もう一戦ダークネス相手に戦う余力など、残っていないのだ。
　こうして、灼滅者達はその場を後にする。これからも続くだろう、戦いの一幕に過ぎない――しかし、確かに未来へと続く貴重な一勝を勝ち取って……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年8月3日 難度：普通 参加：7人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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