爆獣の地響き

■リプレイ

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　白山火山帯、岐阜県の片隅にある山――そこに陣取っていたのは、牛がごとき双角を持つ熊にも似た体長六メートルの巨獣だった。まさに災厄を獣の形に押し込めたような存在に、空月・陽太（魔弾の悪魔の弟子・d25198）が呟いた。
「本当、イフリート達はあちこちで活動しているね。そこまでして復活させたいガイオウガ……」
　今更だけど、一体どんなダークネスなんだろうか？　その答えは――きっと、そう遠くない未来にわかるはずだ。
　イフリートの視線が、灼滅者達へと向けられる。その圧力を受け止め、遠夜・葉織（儚む夜・d25856）が言い捨てた。
「……なるほど、これは強敵そうだ……だが、灼滅することにかわりはない」
「このいかにも決戦って雰囲気……たまりませんねっ」
　ーClose with Talesーを手に、佐倉・結希（は斬艦刀しか愛せない・d21733）は言い放つ。灼熱の大地に、痛いほど空気が張り詰めていく――それは、イフリートが灼滅者達を排除すべき存在だと強く認識しているからだ。
「難しい事を考えなくていいのはいいですね、やはり。イフリートと対峙するならこうでないと」
　ディートリッヒ・オステンゴート（狂焔の戦場信仰・d26431）の言葉に、気負いはない。戦場に立てば、自分のすべき事は決まっている――ただ、それを成すだけだ。
「来るぞ」
　黒守・燦太（影追い・d01462）の言葉と同時、イフリートが血を蹴った。熱せられた大気が動く、爆音にも似た足音を響かせて迫るイフリートに、華宮・紅緋（クリムゾンハートビート・d01389）がこぼす。
「こちらのイフリートとは、対話の余地なしですか。でも仕方ないですね。すべてのダークネスと分かりあえないように、すべてのイフリートと分かりあえるわけではありませんから」
「そうだね、あれは倒さなくてはいけない敵だ」
　ルーチェ・ペンドリーノ（流れ星を見つけた・d32717）の言葉に、紅緋はうなずきを返した。迷いは動きを鈍らせる、その刹那が勝敗を分けてしまうのが戦いだ。
「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
「悪いが、おまえの思うとおりにさせてやるわけにはいかねぇ。どうしてもというなら、俺に死に場所をくれ」
　迫る巨獣へ、いっそ願うように穂村・白雪（無人屋敷に眠る紅犬・d36442）が告げる。その言葉が聞き届けられたかは、わからない――しかし、イフリートの双角が地面を穿ち、命を奪わんばかりの勢いで衝撃を撒き散らした。

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　ズン――！　と、高々と砂柱が立ち昇る。イフリートの衝撃のグランドシェイカーが地面を砕き、熱風を巻き上げた。
「仲間を守るのが騎士の努めです」
　掲げたサバモンボールをしまい、ディートリッヒはライドキャリバーのファルケと共に前へ出た。ガガガガガガガガガガガガガガガガガガン！　と砂柱へ、ファルケの機銃が掃射される。柱を穿つように撃ち込まれた、銃弾の雨。その中を、構わずイフリートは前へ出た。
　そこへディートリッヒは黄金剣・エッケザックスに破邪の白光を宿し、振り下ろす。ザンッ！　とディートリッヒのクルセイドスラッシュがイフルートを切り裂いた瞬間、陽太はガンナイフを構え魔弾を撃ち込んだ。
「頼む」
「了解」
　突き刺さる魔弾に、イフリートの動きが鈍る。陽太の要請に応じて、燦太は咎人の大鎌を振りかぶり――その場で、薙ぎ払った。
　ズガン！　と燦太のブラックウェイブが轟音を立てて、イフリートを中心に爆発を起こす。黒い衝撃が、砕けていた地面により亀裂を走らせた。
「続くよ」
　そこへヒュオン、と交通標識を手にルーチェが駆け込む。ガシャン、と赤色標識にスタイルチェンジした交通標識を、ルーチェはする振り下ろした。
「もうひとつ、です！」
　結希が、手に巻いたバンテージ代わりのダイダロスベルトを突き出し、レイザースラストを射出する。ズサン、と突き刺さったレイザースラスト、それに合わせてライドキャリバーのクトゥグァが突撃した。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！」
　イフリートが、吼える。クトゥグァとイフリートの力比べは、イフリートが強引に前に出る事で終わる――そう、誰もが思った時だ。
「クトゥグァ！」
　猟犬ロイガーで切り裂いた掌から、白雪の血がクトゥグァへと注がれる。ヴォン！　とエグゾースト音を鳴り響かせ、クトゥグァが踏ん張り――合わせるように、白雪が唸りを上げる狂犬ツァールをイフリートへ斬りつけた。
　イフリートから、炎が吹き上がる。しかし、怯む事無くイフリートは振り上げた前脚を地面へと乱暴に叩き付けた。
　ゴォ！　と、再び砂柱が巻き上がる。牽制、それを理解したからこそ葉織はあえて前へと出た。
「そうはさせない」
　生じた死角から一気に懐へ滑り込んでの、居合い一閃。葉織の黒い刀身による抜刀の斬撃が、イフリートの足を切り裂く。
　グラリ、とイフリートの巨体が揺れた。牽制は、次の行動を即座に行なうからこそ意味がある――ましてや、このレベルの戦いでは刹那の遅れが戦術を躓かせる、それを葉織はよく理解していた。
「行きます」
　そこへ真っ直ぐに、赤い軌跡を描いて紅緋が右腕を振りかぶる。放たれるのは、鬼神変――確かな手応えがあった。だが、拳は巨躯によって止められ、振り抜く事は叶わない。
「これは持久戦にならざるをえませんかねぇ？」
　止まらず、紅緋が間合いをあける。紅緋にとっては、『ザ・ダイヤ』を別にすれば戦ってきた中でも屈指の巨体の持ち主だ。だからこそ、死角は大きいはずだ――勝負を焦らず、一撃離脱を心掛けて削っていけばいい。それが、紅緋の判断だった。
「ぐる、あああああああああああああああああああああああああああ！！」
　だが、相手はそれを補ってあまりある膂力を持つ獣だ。イフリートは、生み出した爆炎を手裏剣状にして灼滅者達へと放った。

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　ズガン！　と、地面がめくれ上がり、それをイフリートの前脚が粉砕する。熱気によって水気を失った大地は、あまりにも脆い――この巨獣の重量に、耐えられるはずもなく。
　しかし、ルーチェの視線はイフリートにない。その暴れ回るイフリートに、つかず離れず動き回る陽太へと向けられていた。
「こう立ち回るんだよ」
　予言者の瞳により、イフリートの動きを先読みして陽太はガンナイフから魔眼を撃ち込んでいく。一発、二発、三発――しかし、イフリートの肉は厚く穿っても貫けない。
「が、あああああああああああああああああああああああああああああ！！」
　イフリートが放つのは、炎に包まれた前脚――レーヴァテインの一撃だ。しかし、陽太はガンナイフを構えたまま動かない。
「おっと」
　イフリートのレーヴァテインから陽太を庇ったのは、ファルケだ。より正確には、笑顔のディートリッヒに蹴飛ばされて庇ったのだが。
「うわぁ……」
「これが一番なんですよ」
　その光景に引いたルーチェへ、ディートリッヒは答える。陽太の魔弾が、正確にイフリートの眉間に着弾する――が、のけぞるだけだ。
「回復を」
　タン、と事件に刀の切っ先を突き立て、葉織の影が伸びる。影に捕らわれたイフリートを、ファルケが真っ直ぐに突撃――ディートリッヒが炎に包まれた後ろ回し蹴りをのけぞったイフリートへと叩き込んだ。
「グ、ガ……」
「おっと」
　後ろ脚で立ったイフリートが、一歩二歩とよろける。その間隙に、ルーチェはファルケをラビリンスアーマーで回復させた。
「がら空きですよ」
　タン、と軽い調子で踏み込んで、紅緋の赤い影を宿した拳が真っ直ぐにイフリートへと打ち込まれる。ズン、という重い打撃音。イフリートは、お返しとばかり紅緋の頭上へその前脚を振り下ろした。
「させるか！」
　その振り下ろしを受け止めたのは、白雪だ。頭部に迫る爪を、両腕で受け止める。体中が軋みを上げ、悲鳴じみた音を立てた。それでも、白雪は強引にイフリートの爪を振り払う。
　ガガガガガガガガガガガガガガガガガン！　とクトゥグァの機銃が掃射された。吼えるイフリートへ、白雪は炎に包まれた腕で手招きして挑発する。
「どうした？　私はまだまだ動けるぜ？　狂犬の戦いはこれからだ。どちらかが死ぬまで楽しもうぜ」
「無茶しすぎですよ」
　結希が割って入るように、イフリートを契約の指輪つけた拳で殴りつける。その瞬間、ズガン！　と零距離で制約の弾丸が炸裂した。そして、ヒュオン！　と風切り音と共に燦太の影の刃がイフリートを襲う。
「死にもの狂いかなんか知らないけどな、こっちは、この後も色々ありそうなんだよ――ここで負けるわけにもいかねえだろ」
「オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！！」
　双方に譲れない理由がある、これは決して特別な事ではない。あるいは、戦いとは根本からそういうものなのかもしれないが……。
「あなた達と戦うの本当に楽しいです！　負けるつもりは全然無いですけどね！」
　結希が、笑う。その理由がシンプルであればあるほど、ただ直情的に競り合うしかない。イフリートにとってはガイオウガのために、灼滅者達は人々を守るため――いや、ここまでに至ればそんな譲れない理由さえ枝葉かもしれない。
「負けられない、それが理由で十二分だ」
　燦太は、言い捨てる。その、たった一つのシンプルな理由を背負い、灼滅者達とイフリートは鎬を削り――その時が、訪れようとしていた。
「オ、オ――ッ」
　イフリートの突進、双角に込められた魔力の高鳴りに結希がーClose with Talesーが頭上へと掲げた。
「――真っ向勝負です！」
　地面を踏み砕きながらの結希の戦艦斬りと、イフリートの双角によるフォースブレイクが激突する！　大気が爆ぜ、暴風が荒れ狂う――それでも、一歩も退かずに相殺し切ったのは、結希の矜持がなせる技だ。
「ハハ――ッ！」
　そこへ、クトゥグァを駆って白雪が迫った。ギュガ！　と狂犬ツァールが突き刺さり、ソーチェーンがイフリートの肉を削いでいく。そして、クトゥグァの突撃が、イフリートを宙へと浮かせた。
「行くぞ」
「はい」
　陽太とルーチェが、同時に地面を蹴った。死角から迫る陽太のガンナイフの一閃と、ルーチェの炎をまとった右回し蹴りがイフリートを×字に切り裂く。
「合わせます――！」
　そして、燃え盛る炎熱を両の拳へと宿したディートリッヒの連打とファルケの銃弾の雨が、イフリートを更に高く跳ね上げた。打撃音と銃声のユニゾン、吹き飛ばされたイフリートを空中で待ち構えていたのは葉織と燦太だ。
「繋ぎますよ」
「おう」
　八相の構えから忘却を振り下ろす葉織の雲耀剣と咎人の大鎌を横回転の遠心力で加速させた燦太のデスサイズが、イフリートを地面へと切り伏せた。落下するイフリートの巨体、その真下で待ち受けていたのは紅緋だ。
「――勝利を、この手に！」
　突き上げられる鬼神変の拳、紅緋の渾身の一打がイフリートを捉えた。その一撃が、止めとなる。ドン！　という、鈍い衝撃。イフリートは、輪郭を失うように内側から爆ぜて、炎となって掻き消えていった……。

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　ヒュオ――と風が、吹き抜けていく。しかし、灼熱の大地にこもっていた熱い風ではない。涼しささえ感じさせる、山の風だ。
「集められた大地の力、散っていけばいいのですが」
　熱が去っていく周囲を見回して、紅緋がこぼす。これで、一先ずの危機は去っただろう。しかし、原理はもちろんの事、他のガイオウガ復活を目指すイフリート達の事もある。決して、事態が好転している訳ではないのだ。
「また生き残っちまったな。まだ走れるか、相棒？」
　近づいてくるクトゥグァを、ズタボロなまま白雪は撫でた。勝ったのか、死に損ねたのか、白雪にとっての答えは彼女にしかわからないだろう。
「ハンドガンはやっぱり苦手だなぁ。スナイパーライフルほどは上手く使えないや」
「いえ、お見事でした」
　ガンナイフをしまいながら言う陽太に、ルーチェは笑みを見せて言った。確かに、参考になった――ルーチェからすれば、確かな手応えだ。
「まだまだ、戦いは続きますからね」
　試す機会は、いくらでもあります、とディートリッヒ。そんな時だ、ふと思いついたように結希が言った。
「ヘリでお迎えとか無いんやかー……」
　もちろん、そんなものはあるはずもなく。あの激しい戦いを終えて、来た道を帰らなければならないのだ。
　――こうして、一つの戦いが終わった。しかし、ガイオウガに関連する戦いは、まだ幕を開けたばかりだ。これからも、彼等の戦いは続くのだ……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年8月4日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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