昭和新山決戦~イフリート殲滅戦!

    ●ナミダ姫との約定
     橙焔を透かすショールが僅かにあがりナミダが掌を翳す。ただそれだけで猛るスサノオ達は身を慎みむように熱を収めた。
    「先程も言うたが、この戦いで力を得る事は儂にとっての悲願」
     本来この場に相応しい静けさの中で、華奢な少女思わせる横顔のナミダだがその口調は誰にも阻めぬとでも言いたげに画然としている。その声を思惑を抱き言葉を尽くしきった灼滅者達はそれぞれの心でじっと聞いた。
    「汝等の協力の申し出には感謝する」
     スサノオ殖やし生かす――その一点を為してくれた者達へ己の身上に基づき義理にて返し続けてきたナミダ姫。彼女は、真っ直ぐに灼滅者達へ身を向けると唇の端を小さく持ち上げ言った。
    「無事、スサノオ大神の力を得られたならば、1度だけ、汝等の為にその力を使うことを約束しよう」
     ――これは確かなるもの、彼女から示された約定。
     斯くしてスサノオの姫ナミダと武蔵坂の間に、ガイオウガを守護するイフリートの軍勢を打ち破る『協定』が結ばれた。
    ●エクスブレインの説明
    「昭和新山にある大地の楔の一つを襲撃しようとしていた、スサノオの姫ナミダと、スサノオの軍勢と接触した灼滅者が、交渉を終えて無事に戻ってきた。彼らの交渉のおかげで、スサノオが無謀な攻撃を仕掛け、周辺地域が焔に包まれるような事は回避する事が出来たようだ。ただ、スサノオは昭和新山への攻撃を諦めていない為、一般市民への被害を避ける為、スサノオの軍勢と連携して、昭和新山から現れるイフリートを撃退する事となった。ダークネス組織同士の抗争である為、どちらに味方するのが正しいという事は無いが、一般人への被害を減らす事を優先すれば、この方針は正しいと思う。イフリートとの戦いは、スサノオの軍勢が主力だが、勝利の為には、灼滅者の協力が不可欠となるので、皆の活躍を期待する」
     青年風のエクスブレインが、灼滅者達を前にして、ゆっくりと口を開く。
    「まず、昭和新山から現れるイフリートは、100体に迫る数である。イフリート100体は強力な戦力ですが、スサノオも主力といえる戦力が揃っている為、まともに戦えば最終的にスサノオが勝利するだろう。だが、ダメージを負ったイフリートは『昭和新山に戻って休息する事で、数分程度でダメージが回復する』為、継戦能力の差でスサノオが敗北してしまう可能性も捨てきれない。これを阻止する為、灼滅者は、戦闘開始後に昭和新山に移動し、大ダメージを負って撤退してくるイフリートを撃破していくのが今回の目的だ。ただし、昭和新山に戻ってくるイフリートは、大ダメージを負っていますが、戦闘力を失ったわけではない。素早く撃破しなければ、新たに撤退してくるイフリートが増援となってしまう事だろう。また、灼滅者の存在を知ったイフリートが、前線に戻ってそのことを伝えてしまうと、イフリート達が、昭和新山の灼滅者を駆逐する為に、イフリートの部隊を送り込んでくる可能性もある為、確実に撃破する必要がありそうだ。少なくとも我々は5~8体のイフリートを撃破する必要がある為、敵がダメージを負っていたとしても、かなり厳しい戦いになるだろう」
     そう言ってエクスブレインが、灼滅者達に資料を配っていく。
    「スサノオと灼滅者が破れれば、周辺の市街地に大きな被害がでてしまうので、確実に撃破できるように全力を尽くしてくれ。現時点で、ガイオウガとナミダ姫のどちらに味方するかという事には異論もあるかもしれないが、今は目の前の事件を解決する事に集中してほしい」
     そして、エクスブレインが、灼滅者達に厳しい視線を送るのだった。


    参加者
    古室・智以子(花笑う・d01029)
    外法院・ウツロギ(百機夜行・d01207)
    氷上・鈴音(緋涙伝いし決別の刃・d04638)
    山田・菜々(家出娘・d12340)
    琶咲・輝乃(紡ぎし絆を宝と想いし者・d24803)
    大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988)
    篠崎・伊織(鬼太鼓・d36261)
    神無月・優(殺意に彩られたラファエル・d36383)

    ■リプレイ

    ●Aルート
    「………何だか複雑なことに成って来たな。まぁ、いい。……この場に来れない義妹に変わって来ただけだ」
     神無月・優(殺意に彩られたラファエル・d36383)は仲間達と共に、昭和新山からやってきたイフリート達を迎え撃つため、Aルートに向かう事になった。
     事前に得た情報では、イフリートの数は百体ほど。
     そのうちの何十体かを相手にする事になるのだが、この場にいる灼滅者達だけで、何体のイフートを倒す事が現時点では未知数であった。
     それでも、可能な限りこの場で仕留めておかねば、周辺の市街地に被害が出る事は確実だろう。
    「この事件を解決しないと、先に進めないような気がするんだ」
     篠崎・伊織(鬼太鼓・d36261)が隠された森の小路を使い、目標の地点を目指して山道を突き進む。
     この選択が正しい事なのか、それとも間違った事なのか、現時点では分からない。
     だが、ここで行動しなければ、結果が出る事もないだろう。
    「思っていたよりも……早い……」
     琶咲・輝乃(紡ぎし絆を宝と想いし者・d24803)が双眼鏡を覗き込み、イフリートの存在に気づく。
     イフリート達の数は数十体ほどで、おそらく楔での回復を諦め、前線に引き返すつもりでいるのだろう。
     少しでも時間を短縮するため、最短ルートを進んでいた。
    「イフリートに恨みがあるわけじゃないっすけど。一般人への被害をださないためにはやるしかないんすね」
     それに気づいた山田・菜々(家出娘・d12340)がスーパーGPSで敵の撤退ルートを確認した後、木々を掻き分けてイフリートに近づいていく。
     戦う事に躊躇いがないと言ったら嘘になるが、ここで迷えばそれは間違いなく死に直結する行為であると言えるだろう。
     それが分かっているため、なるべく考えないようにしているのだが、『本当にこれが正しいのか?』と言う気持ちが、頭の中でチラついた。
    「いろいろと難しい問題を抱えた現状だけど、いまはそれを考えないで、目前で起ころうとしている被害を阻止することだけに専念するの」
     古室・智以子(花笑う・d01029)も考える事を止め、イフリートと戦う事だけを考えた。
     自分達がどこまで戦えるか分からないが、同じように別のグループがこのルートを守っているため、全滅させる事が出来なかったとしても、ある程度の数を減らす事なら出来るはずである。
    「イフリートと話し合える余地があればよかったんだけど、そういう状況でも無いしね……。でも、絶対に被害を出させたりしないよ!」
     大夏・彩(皆の笑顔を護れるならば・d25988)が、イフリート達をジロリと睨む。
     その視線に気づいた先頭のイフリートが、仲間達に警告するようにして咆哮を上げる。
     イフリート達はここに来るまでの戦いで傷ついていたものの、まったく戦意を失っておらず、その目はギラギラと輝いていた。
    「それじゃ、一匹残さず殲滅じゃー。ナミダちゃんにしっかり貸しを作っておこー」
     すぐさま、外法院・ウツロギ(百機夜行・d01207)が、イフリート達の行く手を阻む。
    「スサノオの考えに思う所もあるけど、人々の安全守るのが最優先、全力で!」
     氷上・鈴音(緋涙伝いし決別の刃・d04638)も無理やり自分自身を納得させ、イフリートの前に陣取った。
     おそらく、この状況で完全に納得する事は不可能だろう。
     それが違和感となって心の中で渦巻いている自覚はあるのだが、ここで迷っている暇はない。
    「グルウウウウウウウウウ!」
     それと同時にイフリート達が全身の毛を逆立て、灼滅者達を威嚇するようにして地面を蹴った。
     おそらく、イフリート達の大半が目的を果たすためなら、どんな危険も覚悟の上なのだろう。
     他のイフリート達も一斉に身構え、牙を剥き出しにして唸り声を響かせた。

    ●イフリート
    「ナミダ姫達スサノオの考え……。そして、ガイオウガ派のイフリートの思い、すべてを理解する事は難しいしできないと思う。それでもこの戦は一つの通過点だと思うの。どちらかが倒れる、双方とも潰える未来だけじゃなく、理解しあえる選択肢を見つけられるかどうか、それはこの戦の先に答えがあると信じてるし、叶うかは私達次第だと思う。スサノオの考えに思う所もあるけど、人々の安全守るのが最優先、全力で!」
     鈴音がイフリート達を迎え撃つようにして、その場で素早く身構える。
     それでも、イフリート達は怯む事なく、ジリジリと間合いを詰めてきた。
    「天槻君は今頃どうしてるんすかねぇ」
     そんな中、菜々が闇堕ちしたままのクラスメイトを思い出す。
     そのクラスメイトが今どうしているのか、菜々にはまったく分からない。
     ただ、何となく……クライメイトの顔が脳裏に過った。
    「とにかく、今はやるべき事をやらないと……! 目の前の敵はこの手で滅する!」
     そう言って伊織が覚悟を決めた様子で、赤鬼のお面を顔に装着する。
     イフリート達も完全に灼滅者達を敵であると認識したらしく、躊躇う事無く襲い掛かってきた。
    「手負いの獣を、確実に灼滅するの。咲け、初烏」
     それを迎え撃ちようにして、智以子がスレイヤーカードを解除する。
     その間にイフリート達が灼滅者達の腕や足に噛みつき、鋭い牙を容赦なく突き立てた。
    「まずは硬くなる」
     すぐさま、ウツロギがドラゴンパワーを使い、イフリート達に対抗をする。
     そのおかげで致命傷を避ける事が出来たものの、イフリート達はまったく諦めていないようだった。
    「そんな攻撃、通さない……! ここから先へは進ませないよ!」
     彩がイフリートの攻撃を受け止め、グッと唇を噛み締める。
     だが、イフリートの勢いは止まらず、そのまま押し倒す勢いで迫ってきた。
    「貴方たちに恨みがあるわけじゃないけど……。ゴメンね。ちゃんと、背負っていくから……」
     輝乃が右腕を龍の腕に変化させ、イフリートに鬼神変を叩き込む。
     その一撃を食らったイフリートが岩に激突したものの、怯む事無く再び飛び掛かってきた。
    「どうやら、命を捨てる覚悟が出来ているようだな。まあ、それはお互い様か。もっとも、ここで死ぬつもりはないが……」
     優がクールに眼鏡を外して、預言者の瞳を使う。
     それでも、イフリート達が躊躇う事なく飛び掛かってきたため、改めて灼滅する事を決意した。
     おそらく、ここで情けを掛けたところで、お互いのためにはならないだろう。
     もう少し別の選択肢が存在していたのかも知れないが、こうなってしまっては今更である。
     そんな中、鈴音が胸元のロザリオに触れ、共に戦う仲間達の無事を祈るのだった。

    ●命懸けの戦い
    「いくら手負いとは言え、相手はイフリート。みんな気を抜いたら、駄目だよ」
     ウツロギがイフリートと対峙しながら、ドラゴンパワーを使う。
     イフリートは鋭い牙を剥き出し、何度も体当たりを仕掛けてきた。
     その中には、可能な限り体力を温存しようとしていたイフリートもいたが、ウツロギ同様に気を抜けば殺られると判断したらしく、途中から本気を出して戦っていた。
     そんな事をすれば、次の戦いに影響する事は確実であったが、その事を考えながら戦っていられるほどの余裕はなかった。
     イフリート達もそれが嫌と言うほど分かっているのか、傷つく事にも躊躇いがなく、相手を倒す事しか頭にないようだった。
    「やるしかないんだよね、本当に……」
     彩がイフリートを眺めて、サウンドシャッターを使う。
     自分なりに覚悟はしているつもりであったが、いざ戦う事になってみると躊躇いがあった。
     それでも、向かってくるイフリートの攻撃を避けながら、仲間達の回復に専念したものの、ほんの一瞬が隙を作ってしまい、右腕に鋭い牙を突き立てられた。
     それに気づいた優がジャッジメントレイでイフリートを牽制したものの、思ったよりも傷は深く、大量の血がポタポタと足元に落ちた。
    「……これも必要な事なの」
     智以子もモヤモヤとした気持ちのまま、バベルブレイカー【貪欲の黒】を手に、真正面からイフリートに勝負を挑む。
     イフリートの方もそう言った戦いが嫌いではないのか、迷う事無く突っ込んできた。
    「本当にどうしてこんな事になったのかしら」
     鈴音も彩を守るようにして、イフリートにレイザースラストを放つ。
     本来ならば、こんな事になるはずでは……いや、もっと別の未来もあったはずだ。
     互いに理解し、分かり合える未来が……。
     だが、この状況では夢物語……。
     迷いを捨て去り、イフリートを全滅する事でしか、先に進む事は出来なかった。
    「まだマシだよ、イフリートが手負いな分……」
     伊織がイフリートに視線を送り、鏖殺領域を展開する。
     ここに来るまで、だいぶダメージを受けていたのか、イフリート達は実力の半分以下しか出せていないようだった。
     それでも、伊織達とほぼ互角に戦っているのだから、この状況でなければ考えただけでも血の気が引くような状況に陥っていた事だろう。
    「こっちの炎も負けてないっすよ」
     その間に菜々が弱っているイフリートを優先的に狙い、グラインドファイアでトドメをさす。
     中には炎に包まれながら飛び掛かってきたイフリートもいたが、多少のダメージは気にせず、攻撃を仕掛けていった。
     そのおかげで何とか数体のイフリートを仕留める事が出来たものの、こちらも無傷という訳にはいかなかった。
    「……他の班は撤退したようね」
     そんな中、鈴音がハンドフォンを使用し、別の場所で戦っている穂村白雪(d36442)と、彩瑠さくらえ(d02131)に連絡を取り合った。
     どうやら、白雪班の撤退に合わせて、さくらえ班も撤退を決めたらしく、残っているのは、自分達の班だけのようである。
     それだけ、他の班と比べてイフリートの数が少なく、かつ手負いのイフリートが多かったのかも知れない。
    「とりあえず、これで全部かな……。それじゃ、ボク達も撤退しようか」
     輝乃がゲシュタルトバスターでイフリートを倒し、まわりを警戒しながら撤退を開始する。
     大量の返り血を浴びているせいでハッキリとはわからないが、仲間達の大半が傷つき疲れ果てていた。
    「ばたばたと慌ただしいな、最近は……。のんびりできる時間もありはするが……。まぁ、平和の為の戦闘とすれば……仕方がないか」
     優も複雑な気持ちになりながら、ゆっくりと眼鏡を掛け直す。
     何とか被害を最小限に抑える事が出来たものの、それがこちらが強かったわけではなく、ただ単に運が良かっただけだと言えた。
     おそらく、イフリート達が手負いでなければ……弱っているイフリートを優先的に倒していなければ、もっと苦戦していた事だろう。
    「やっぱり、ダークネス同士だと仲良くできないのかな……」
     そう言って彩が悲しげな表情を浮かべ、肉の塊と化したイフリート達を眺めるのであった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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