麗鱗は清らに踊る

     木漏れ日の中、夏風が踊る。
     立秋を過ぎてなお熱を含む空気に、額ににじむ汗を無造作で手で拭った。
     どこか遠くを流れるせせらぎの音が聞こえ顔をめぐらせる暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)に、白嶺・遥凪(ホワイトリッジ・dn0107)がネクタイを緩めながら問うた。
    「この辺りに?」
    「ん……恐らく」
     それは、ひとつの噂だった。
     山の奥深く、人知れず流れる清流を泳ぐという美しい魚。
     身の丈は人間ほどかそれ以上あると言われ、故に深い水瓶のある山奥から出ることがかなわず、たった一匹だけで過ごしているという。
     ただそれだけの噂だが、いずれそれが人に危害を加える噂へと変化していけば看過することはできなくなるだろう。
     或いは、噂につられて人が訪れ何らかのトラブルが起きるかもしれない。
     そうなる前に手を打たなければ。
     ただ、と続ける。
    「現れるのは、巨大な魚……ということしか分からない」
    「せめてもう少し情報はないのか」
    「……ない」
     彼が知るのは、『清流で泳ぐ美しい巨大魚の都市伝説の噂』だ。
     その魚は、清らかで充分に深さと幅のある大きな流れの中に現れるという。
     ただ、それがどのように過ごしているかも、どのような能力を持っているかも分からない。
     遥凪は陽射しを遮る木々を見上げ、
    「……まあ、行ってみれば分かるだろう。ただ、油断はしないようにしなければ」
     ネクタイを外して息を吐く。
     さらさらと風が渡り、笑うような葉擦れが聞こえた。
    「……水遊びも、いいかも」
    「ん」
     ぽつりとサズヤがこぼした言葉に彼を見る。
     まだ夏の暑さは続いている。せっかくだから、水遊びをしても悪くはないだろう。
     遠くに聞こえるせせらぎの音に、灼滅者はかすかに目を伏せた。


    参加者
    暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    桜田・紋次郎(懶・d04712)
    若草・みかん(スィートネーブル・d13977)
    大鷹・メロ(メロウビート・d21564)
    夜伽・夜音(トギカセ・d22134)
    椿本・呼石(御伽の欠片探し・d33743)
    四戸・志途(しとしと・d33823)

    ■リプレイ

    「おっきなお魚が見れると聞いて!」
     深緑に映える鮮やかな色彩の堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)が楽しそうな声を上げる。
    「……臨海学校で見たようなのとは違うんよな?」
     しっかり遊ぶ気満々で用意したビーチボールを手に首を傾げる彼女にくすりとし、若草・みかん(スィートネーブル・d13977)はオレンジ色のリボンをつけたナノナノ・だいだいに微笑む。
    「どんなおさかなさんに会えるのか、たのしみね、だいだいちゃん」
    「山奥の清流にたった一匹で過ごしてるなんて、きっと淋しいと思いますの」
     座り心地の良さそうな椅子……ではなくライドキャリバーのプリンセスチェアー、略してプリンチェに乗って、椿本・呼石(御伽の欠片探し・d33743)がくるり周囲を見回して口にした。
     私も、お屋敷に一人で居る時はとっても淋しいですもの。
     その言葉に、白嶺・遥凪(ホワイトリッジ・dn0107)がふいと視線を落とす。姉妹の長女である彼女にも思うところがあったのだろう。
     立秋を過ぎてなお熱を含む空気を払いさわと吹いた風に涼を感じ、どこか遠くを流れるせせらぎの音が聞こえ暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)は顔をめぐらせる。
     ここに来るまでに人影はなかったが、出会わなかっただけで近くにいるかもしれない。
     でっぷり太ったぽっちゃりもこもこのウイングキャットの晴をそばに、四戸・志途(しとしと・d33823)が殺界形成を放つ。
     と。
     ぱしゃりと。どこかで水が跳ねる音がした。
     もう一度聞こえないかと耳をすませば聞こえる穏やかな水音に足を向け、すぐに辿り着く。
     木々の足元に育つ草がふつりと途切れるように下り、大きな清流が静かに流れていた。碧とも翠とも見える水色は覗き込めば水底まで見えそうなのにどこまでも深く、飲み込まれそうだ。
     素敵な景色にみかんは思わずきょろきょろ。暑気を払う川風に撫でられ、ひんやりしてて、気持ちがいいの。と笑う。
    「わ、わ……清流さんってとっても涼しくてご気分も爽やかさんだねぇ。とっても素敵な麗魚さん、見るの楽しみさんなの」
     さらさらと風が渡り、柔らかく揺れた白桃色の髪を押さえて夜伽・夜音(トギカセ・d22134)は嬉しげに笑う。
    「まあ、本当に水が綺麗ですの。冷たくって気持ちいいですわ!」
     プリンチェから降りて川に手を差し入れ、呼石がくすぐったそうに声を上げた。
     踊るような足取りで足先だけ川に入り、大鷹・メロ(メロウビート・d21564)が霊犬・フラムと共に覗き込むと。
    「わ……」
     ちらちら煌めくのは小さな魚たちだ。そう数は多くないが、すいすいと泳ぐ様は揺れる宝石のようで。
     確かに川は深いが、入った途端に流されるということはなさそうだ。
     水面で陽射しを反射した輝きに目を細めた桜田・紋次郎(懶・d04712)は、その中に異質の輝きを見つける。
     じっと目を凝らしたその時。
     ざあっ…………!
     不意に川面が持ちあがり、巨大な何かが姿を見せた。
     『それ』は水しぶきをまき散らしながら大きく飛び上がり、陽の光を浴びてきらきらと輝くその姿はどの色にも見えどの色でもない。
     ばっしゃんと再び水中に身を投じたその勢いに川が波打ち、はじけた水を灼滅者たちは盛大に浴びることになってしまった。
     犯人は揺れ動く水面の向こうで、不意打ちに成功したのを喜ぶようにくるり輪を描いて泳ぐ。
    「きらきらゆらゆら、色が変わって……あの子が噂のおさかなさん?」
     みかんの言葉が届いたのか或いは偶然か、『それ』はすいと川の奥へと姿を消す。
     誘うようなその動きに灼滅者たちは顔を見合わせた。
     
     人見知りがちで彼らに続くのをためらう志途にみかんが声をかける。
    「ねえ、お水、とっても冷たくて気持ちいいのよ。一緒に遊びましょ?」
     誘いにも少しだけためらって、そっと頷きゆっくりと水に入る。
     ひんやりした感覚に小さく息を吐き、晴が力付けるように泳いで見せた。
    「足がつかない所は……四戸も椿本も、気をつけて」
     言いかけ、サズヤは気付いた。川べりから少しも離れればすぐに彼の身長よりも深くなっている。
     仲間たちにそれを伝え、
    「……俺も気をつける」
     そわそわと告げた。
    「はーい。堀瀬シューナ、もっぐりまーす!」
     ゴーグルを着け、すらりとした身体を黒いスポーティなビキニに包んだ朱那が、明朗な声を上げて川の深みへと潜る。
     より深い場所へと身を滑らせると、ぽこんと空気の球が浮かんでくる。それを目印に追えば、鈍いきらめきがちらりと見えた。
     くるり、ゆらりと水中で身を躍らせる巨大な影は、追ってきた存在をどう思ったか一定の距離を保ったまま彼女の周りをゆったりと泳ぐ。
     驚かせないようにそっと近付いても逃げる様子はない。輪郭の色を刻々と変える姿に暫しその美しさに見惚れたままの少女へと、触れられそうなほどに近付いてくる。
     はっと我に返り害意がなさそうなことを確認して、或いは水面から、或いは水中に潜りやや遠巻きに様子を窺っていた仲間たちへと伝えた。
     一度水中から顔を出そうと川面へと上がろうとする朱那の後をゆるり追う。
    「ひゃ、お水冷たいさんだねぇ……気持ち良いさんなの」
     夏の熱を残す空気に包まれていた肌が濡れ心地よい冷たさにふるりと身を震わせ、夜音はゆっくりと水の中に入って、そっと目を開けて。
     いろんな色、きらきらの姿、目奪われるようにぼうっと見つめ、サマードレスの裾をなびかせ静かに沈む彼女を、身の丈よりも大きな魚はそばを泳ぎ深く沈みすぎないように支えた。
     ひらひらと流れに弄ばれる黄昏色の裾の陰で数多に色を変え、水に沈みゆくステンドグラスのように彩られた姿にサズヤが息を呑む。
     遥凪の問いかける視線に、そっと溜息をついた。
    「……とても、綺麗」
     水は澄んでいるし、魚は……くるくる、違う色に変わる。
     いるのはある程度深いところのはずなのに、まるで手を伸ばせば触れられそうなほどに鮮明で。
     静かに身を沈めれば、おっかなびっくり近付いてきては弾かれたように距離を取る。
    「大きいが……怖いとは、感じられない」
     図体は大きいがその振る舞いは何だか子どものようだ。
     きらきら光る、鱗。反射して揺れる長い尾びれ。
    「ひとりぼっちでは……寂しくない?」
     少しだけでも俺達に付き合ってほしい。
     応えるかは分からないが呼びかけると。
    「……!」
     ぱしゃりと水飛沫に瞬き、その瞳に映す感情を変える。
    「……問題ない? なら、良かった」
     みかんがすうっと巨大魚に近付いて手を伸ばすと、恥じらうかに少し離れた。
    「あなたを傷つけるつもりはないのよ」
     一人はとってもさみしいの。あなたはずっとひとりだったの?
     問う声にちらちらと輝きが応える。
    「あ、あのね、皆と一緒に、ここで遊んでもいいかしら? もちろん、あなたとも、みんなともお友達になれたら、良いなぁ……って」
     そう思うのよ。
     優しく語りかけると、魚はすいと深いところへと潜ってしまう。
     拒否されたのだろうか。寂し気な色を瞳に浮かべて姿を消した向こうを見つめると。
    「嫌われているわけではないようだな」
     その大きさと、色の変わる様子を綺麗だなと思いつつ、同じように見つめていた紋次郎が懸念を否定した。
     どうやら交戦の意思もなさそうだ。
     川の中へと歩を進め、サーフパンツと上着を着用する精悍な青年の姿がふいと白い毛並みに虎模様のサイベリアンに変わる。
     猫変身の姿のまま魚に近付くと、じゃれるようにつつこうとする素振りを見せた。
    「恥ずかしがっているのかなっ?」
     こっくり首を傾げてメロがその後を追って潜っていく。
    「ね、綺麗だね。あたしたちと一緒に遊ぼうっ?」
     ちらりきらり、尾を引くきらめきへ声をかける。
     浮き輪に掴まりながら呼石は、水中に姿を消したメロと魚を目で追った。
     そお、っと覗き込むが揺れる水面にかき消されて見えない。
     川で泳ぐのは初めてだからどきどきするけれど、思いきって潜ってみると、ツァボライトの波の向こうにふたつの影。
     透き通るその奥をよく見ようとして、こぷり息がこぼれた。
     あ。と思った瞬間ざばんとプリンチェが飛び込み小柄な主の身体を支え、溺れそうになった彼女をフォローしながらゆっくりと浮上する。
    「はう、びっくりしましたの。ありがとうですのプリンチェ。今度はゆっくり潜ってみますわ」
     労わってプリンチェを撫でる呼石の足に、不意に何かが触れた。
     小さく声を上げて見てみれば深く沈んでいったはずの巨大魚が彼女のそばに近付き、つんつんと触れている。
    「ん……心配している、みたい?」
     不思議そうなサズヤの言葉に恐る恐る手を伸ばして触れようとすると、つんっと手先に触れた。
     そのたびに色彩が揺れ、浮き輪に縋り志途もそっと溜息をつく。
     印象は悪くはないようだ。だが、どこか抵抗があるような素振りでもあった。
    「楽しく遊んでたら何か変化あるかな?」
     浅瀬に上がって朱那がビーチボールを手に提案すると幾人かが賛成し、それじゃあさっそくと軽く跳ね上げた。
     陽射しに透ける球を受け止めてメロが再び宙に放つと飛沫も飛び散り、虹の欠片が降るかの如く。
    「ビーチボール! 私とプリンチェも混ぜて下さいまし!」
     元気よく呼石も手を上げ、えーい! と思いっきり跳ねさせたビーチボールは勢い余って見当違いに飛んで。
    「あわ、明後日の方向に……プリンチェ、任せましたの!」
     慌てて指示を出すとプリンチェは狙い違わずボールの着地点で受け止めるが、しかし特徴的な形状が災いしてか当たり所が悪くぽぉんと飛んでいってしまった。
     あらぬ方向へと飛んでいったボールは水を波立たせ、紋次郎が拾って返してやる。
     とん、ぽーん、ぱっしゃん。飛び跳ねるビーチボールとそれを追う仲間たち。
     彼らから少し離れ、ちょっとおっかなびっくりだけれど晴と一緒にのんびり泳ぐ志途。
     綺麗な水や自然を楽しみつつ静かにぷかぷか浮かび、でもビーチボールとかできゃっきゃしてるみんなもちょっと羨ましいな……とチラ見する彼女に朱那が声をかけ、挙動不審ながらも頷き参加する、
    「行くよ!」
     回転しながら高く跳ね上がったビーチボールは、ゆるやかな弧を描いて落ちてくる。
     最初はみんなの動きを見ながらだけれど、見てるうちになんとなく、コツがわかってきたと、みかんがボールをキャッチした。
    「だいだいちゃんも一緒に……えいっ、なのよ」
     掛け声と共にだいだいと一緒に投げたボールの軌跡は志途へと向かい、しかし運動オンチが災いして顔面で受け止めそうになりきゅっと目をつぶった瞬間、巨体に似合わず素早い動きで晴がぱいんとはじいて助ける。
    「ナイス!」
     称賛に当然とばかりに尻尾を振るその姿が愛らしく笑いがはじけた。
     運動は苦手、でもみんなでビーチバレーボールするのは楽しそうと興味津々に眺め、
    「……うっかり水の所にいっちゃったボールを、お魚さんが返してくれたりとか……しないかなぁ?」
     ゆらゆら揺れる水面を覗き込み夜音は首を傾げる。巨大魚は灼滅者たちの足元、そう遠くはないが近くもない位置をゆるゆると泳いでいた。
     とっても……綺麗さん。すっごいさんだねぇ……
    「(それでも、おひとりさんが寂しいさんなら、今、僕達が居るよって)」
     一緒に遊べたらいいなぁ……
     物思う彼女の上を越え、浅い水面にぱしゃんとビーチボールが落ちる。
     ボールを拾って、ついつい本気になっちゃいそうだよっ、とメロが打ち返した。
    「おぉ、大鷹……ナイスレシーブ」
     見事な動きにサズヤが感嘆する。拾えないところはフラムがしっかりとカバーして、ずるーい! と冗談交じりのブーイング。
    「ずる? 気のせいだよっ!」
     とんっ!
     勢いよく跳ねたビーチボールはあらぬところへ飛んでしまい、紋次郎のフォローも間に合わない。
     流れの速いところへと落ちそうになったその時、巨大魚がすうっと水面に姿を見せてボールをはじいた。
     綺麗な弧を描いたボールはちょうど夜音の手元に落ちてきて、ありがとさんって大きく手を振ると、川面にぱぁんと波が立った。
    「皆でたくさん笑って遊んだら、あの子も寂しくないかしら?」
    「……かもな」
     みかんの問いにくすりと遥凪が笑う。
    「やっぱりみんなで一緒に遊ぶのが一番だよっ! あたしも一人より皆で遊ぶ方が大好きっ」
     言ってメロの放ったビーチボールは川へと向けられ、きらり輝き水面から打ち返された。

     時折魚も交えてのボール遊びを楽しみ、ちょっと休憩。
    「……飲み物を、持ってきた」
     お茶と、オレンジジュースとサイダーと……サズヤが並べる傍で、夜音も冷たいハーブティの入った水筒を置く。
    「多めに持ってきたから皆もどうぞ、だよぉ」
     配る用に紙コップと、ゴミを入れるゴミ袋も。
     モンジロ、おやつ~! とおねだりする朱那にヒトの姿に戻った紋次郎は、
    「ん。」
     と、一口サイズのフロランタンやチョコクランチを手渡し、
    「……食うか?」
     他の皆へも、良けりゃどーぞと差し出す。冷たい物が良さそうであれば凍らせた一口ゼリーをと、こちらも差し出して。
    「ガチガチに凍らせて来たんで、まだ冷たいかと」
     もちろん断る理由はない。みかんも喜んでいただきますと受け取った。
    「はぁ~、体動かした後のおやつは最高やね!」
     心から嬉しそうに言う朱那に笑みがこぼれ、飲み物の注がれた紙コップを差し出され志途は晴を抱えながら受け取った。
     夏休みの、最後の思い出。皆と遊べて、とてもうれしいと口にするサズヤに笑みが返る。
    「涼しくてのんびりさん……ちょっぴりうとうとさんだねぇ」
     ほんわり日陰で涼む夜音の視線の先でぱしゃんと水が跳ねた。
    「一緒に遊びたいのかなっ?」
     川面を覗き込むメロの言葉に、呼石が古書を開く。
    「ほら巨大魚さんと同じ、都市伝説さん達ですわ」
     紡ぎ出されたのはこの世ならざるもの。 
    「歩き回る朝顔先輩、青くて大きなハムスターさん……皆一人だったけど、今は私の大切なお友達ですの」
     巨大魚さんも私達のお友達になって下さいまし。
     優しく声をかけると、聞こえたのかどうか、もう一度水が跳ねた。
     けれどそれは、別れを告げる。

    「もう一度潜るけど、まだ見てない人いる?」
     浅瀬に足を浸し朱那が誘う。巨大魚はちらちらと姿を見せてはいるが、じっくりと見ていない者が何人かいた。
    「志途、行きたいです」
     ためらいがちに手を上げる志途は、良ければ手ぇ貸そか? と差し出された手をそっと取る。
    「あの綺麗な色を、この目に焼き付けておきたいんだ」
     笑う彼女にいざなわれ、そわと川へ身を沈めた。
     くるりゆらりと泳ぐ巨大魚は、再び水中に現れた灼滅者を喜ぶように傍へ寄ってくる。
     一瞬ごとにそのきらめきを変える様を愛おしむように、そっと撫で。
    「大丈夫、もう寂しくないよ」
     告げた時、不意にきらめきの加減が変わる。
     水中で輝く宝石のようだったのが、どこか幻めいた輝きに。
     灼滅者たちは、その意味を理解した。
     メロはその輝きを見つめ、やっぱり一緒に遊んだ友達が居なくなるのは少し寂しいから……
    「また遊ぼうね」
     かけた言葉にゆったりと泳いで応える。
     どこか未練を残す素振りに見え、遥凪が目線だけで促した。
     ゆっくりと川に身を沈めてサズヤは魚へと近付く。間をおいて紋次郎が後に続いた。
     おぼろげなその体に触れ、そっと撫でる。撫で返すようにふるり身を震わせ、
    「!」
     ざあっ!!
     巨体が跳ね上がり、瞬きする間にさあっと形を失い日差しを反射して輝きが散る。
     静かに降り来るそれは言葉なき挨拶にも、礼にも思え。
    「……皆も、楽しいだろうか」
     サズヤが口にし、ふいと視線を移す。
    「んん……あの魚も……楽しかっただろうか」
    「楽しかったですの! 忘れませんわ」
     プリンチェに腰かけふわり微笑み呼石は応える。
    「きっと、おさかなさんも楽しかったと思うの」
     ねえ、サズさん。みかんも笑って頷いた。
    「お魚さん、さよならさんだねぇ」
     顔の前に手をかざし、夜音が別れを告げる。
     孤独に過ごした魚の姿が消えても、その輝きを溶かした清流は、深く穏やかに流れていた。

    作者:鈴木リョウジ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年9月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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