臨海学校2016~ザ・ぬるま湯戦線、火宝を求めて

    作者:長野聖夜

    ●それは、何処となく不安の種で
     ――8月某日
     別府湾沖合にて。
    「お……おい、こき、海の様子がおかしくねぇか?」
    「なえ。海の温度もポクとぬきいなったしなあ……」
     互いに確認する様に呟き、地元の漁師がふぅ、と小さく溜息をつく。
     此処最近の別府湾の温度は確かに異常だった。
     夏場の海の温度にしても、明らかに生暖かい温度にまで上がってしまったのだ。
     そう……まるで、温泉の様な湯加減に。
     その影響か、元気になった魚が激しく泳いでいたり、大型化した魚が海から飛び出し、凄まじい波飛沫を立てて再び海に潜ったりなどの、奇妙な現象が起きている。
    「一体何が起きとるのかでぇ……」
     小さく溜息をつきながら、漁師の1人が不安げに別府湾を見つめた。

     
    ●今年の臨海学校の行き先は
    「月の正位置、か。確かに今の状況はあまりにも不安定、だよな」
     机の前に並べたタロットが示した月の正位置に頷いた北条・優希斗(思索するエクスブレイン・dn0230)がポツリ、と小さく呟いている。
     そんな優希斗の様子に関心を持ったのか、何人かの灼滅者が優希斗が広げていたタロットを覗いていた。
    「やあ、皆。実は今、最近のことと、今度の臨海学校がどんな感じになるのかなと思って占いをしていた所なんだ」
     優希斗の言葉に、其々に頷く灼滅者達。
    「今回の臨海学校先は、九州の大分県別府湾にある糸ヶ浜海浜公園になったよ」
     実は、ガイオウガの力の塊が、別府湾の海底に出現したらしい。
     それが原因で、別府湾の海水が温泉みたいになっていて、海洋生物が活性化してしまっているとのことだそうだ。
    「そこで皆には、このガイオウガの力の塊の引き揚げ作業を行って欲しいんだ。ガイオウガの力の塊は鶴見岳に運び込めば、ガイオウガに吸収されて消滅するらしいからね。まあ、サイキックで塊を攻撃してしまうと、イフリート化して襲い掛かってくるので注意が必要だけど」
     因みに、深夜までは作戦は行われない。
     日中は海水浴などをしつつ、海底の探索などを行うことになるそうだ。
    「海洋生物の中には巨大化してしまったものもいるようでね。皆にとっては敵ではないんだけれども、一般人には危険かもしれないから、出来ることなら駆除して欲しいんだ」
     因みに活性化した海洋生物は総じて、脂が乗っていて美味しいらしい。
    「だから、もしかしたら深夜前のキャンプの夕食にはもってこいかも知れないね」
     優希斗の言葉に、灼滅者達が其々の表情で頷いた。

    ●臨海学校で行われること
    「今回、皆に頼むのはあくまでも深夜にガイオウガの力の引き揚げを行う事だ。其れまでは普通に臨海学校を楽しんでくればいい」
     スケジュールは、8月22日に、別府観光をしてからキャンプ地である糸ヶ浜海浜公園に向かう。
     その後、ガイオウガの力の場所の確認。
     それから夕食を取り、その後花火をして、深夜にガイオウガの力の引き揚げを行う。
    「後、ガイオウガの力の塊の輸送だけど、これは希望者だけで行くことになるらしい。午前中は、朝食の後は、危険そうな海産物の捜索を行って場合によってはそれを駆除してから、武蔵坂学園に帰還ということになるそうだ」
     尚、糸ヶ浜海浜公園は貸切であり、移動は飛行機で行うことになる。
     任務半分、旅行半分、といった所だろうか。
    「最も、その辺りの考え方は人其々だと思うけれどね」
     優希斗の呟きに、灼滅者達は其々の表情で返事を返した。
    「どう行動するにせよ、君達が最終的にやるべきことは、ガイオウガの力の塊に対する処置だ。鶴見岳に運ぶのは有志に任せることになるけれど、その点は気を付けて欲しい」
     そこまで話をした所で、優希斗が一つ息をつく。
    「……ガイオウガについては、皆其々に思う所があると思う。鶴見岳で融合したイフリートの件、武蔵坂学園で保護しているイフリートの件、休火山を活性化させるイフリートの件、そして……スサノオとの協力によるイフリート殲滅作戦の件など色々と……」
     何処か遠くを見るような眼差しをしつつ、優希斗が一つ頷き、続けた。
    「……今回はガイオウガの戦力を減らす為に敢えて塊をイフリート化させて灼滅するという方法もある。最も、それをやるかどうかは君達の判断に任せるけれど、ね。……皆、十分気を付けて」
     優希斗の祈りの籠められた呟きに背を押され、灼滅者達は静かにその場を後にした。


    参加者
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    一・威司(鉛時雨・d08891)
    セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)
    狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053)
    獅子鳳・天摩(ゴーグルガンナー・d25098)
    柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)
    白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)
    荒谷・耀(一耀・d31795)

    ■リプレイ


    「それにしてもさぁ、顔見知りが集まったよね」
     白石・明日香(教団広報室長補佐・d31470)が塩をかけて丸焼きにした魚を齧りながら、柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)がしみじみと呟く。
    「そうだな。……おっ、いい焼き加減」
    「オレも、知り合いが一緒だと気楽っすね。何度か共闘した皆さんと臨海学校で飯を食うのもオツですし」
    「ふふ、そうですね」
     豪快に焼き魚を食べる明日香に微笑を零したのは、狂舞・刑(その背に背負うは六六零・d18053)と荒谷・耀(一耀・d31795)。
    (「やはり、耀は綺麗だ……。ただ……」)
     その微笑にぎこちなさを感じる、一・威司(鉛時雨・d08891)。
    「耀とは安土城怪人との戦い、刑や明日香、セレスティとはメイヨールの襲撃の時以来か。天摩とは海の時以来か?」
    「そうですね。今回は、無事に終わればいいんですけれど」
    「そうっすね。それにしても、ニライカナイ上陸作戦、軍艦島追跡調査、海将、文月センパイと一緒に説得したあの羅刹僧の名……なんでこうも海と縁があるのか……嫌いではないっすけど」
     文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)の問いに、その時のことを思い出して複雑な表情を見せるセレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)が小さく頷き、何処か遠くを見るような眼差しで獅子鳳・天摩(ゴーグルガンナー・d25098)も同意する。
    (「アスカっち。また来たっすよ」)
     隣で焼魚を食べているセレスティと共に鶴見岳で見送った炎獣の少女を思い出し、天摩の胸を感傷が過る。
     ふと周囲を見渡せば、何時の間にか耀と威司の姿が見えなくなっていた。
    「恋っていいねぇ」
    「そうか? オレは魚の方がいいけどな」
     玲奈の呟きに、何匹目かの焼魚を齧りながら明日香が呟く。
    「なにはともあれ、耀と威司は結婚おめでとうだぜ!」
    「そうですね。おめでとうございます」
     咲哉とセレスティが姿を消した2人を祝福するのを耳にしながら、天摩は思う。
    (「目の前で悲劇的な結末を迎えた灼滅者の夫婦がいた」)
     あの時のことを思い出し、Oath of Thornsを撫でる。
    (「それは、灼滅者である以上覚悟はしなければいけないことっすよね。それでも、叶うならば」)
    「末永く、幸せに。一センパイ、荒谷っち」
     誰にも聞こえぬ位の小声で、祈る様に天摩が呟いた。


    「……何か、夜に抜け出すと、こっそり逢引きしているような気分になるな」
    「そうですね」
     地面に置いた筒花火から噴き出す炎を楽しそうに、でも何処か寂しそうに眺める耀の横顔を威司がそっと見る。
    (「やはり、花火を楽しむ耀も綺麗だな……」)
     けれどもその美しさは、何処か硝子の様な膜に覆われている様にも思えた。
    「次はこれにしましょう威司さん」
     ねずみ花火を取り出す耀に頷く威司。
    (「威司さん、気付いていますよね……」)
     火を点ければどちらへと向かうか分からない、ねずみ花火の様に。
     あの時の戦いを切っ掛けに、『悪い心に従い悪事をするから倒す』という内なる誓いに罅が入ってしまった私の迷いに。
     ねずみ花火が走り回る様が、自分の心の鏡写しの様にも見えて、一筋の涙が瞳から零れた。
    「耀」
    「あっ、すみません。これで最後ですね」
     慌てて軽く毀れた涙を拭い、威司から線香花火を受け取り火を点ける。
     ――パチパチ、パチパチ。
     か細い音を立て、儚く消えゆく炎達。
     その様が、ユエや、昭和新山のイフリート達……自らが殺めた者達の命の嘆きにも感じられて、堪え切れずに嗚咽が漏れた。
     ぽろぽろと溢れ出る涙を抑えられない。
    「耀、どうした? 何か思い悩んでいることでもあるのか?」
     威司が優しく問いかける。
     それに顔を上げる耀。
    「愛故に戦った子がいました……人を守るために戦った子達もいました……みんな、悪い子じゃなかった。けど、みんな、殺してしまった……」
    「……」
     優しく相槌を打ち、続きを促す威司。
    「校長先生は、ダークネスは本質的に邪悪な存在って言っていたけれど……」
     ――ダークネスの間で育まれる『愛』
     ――自分達の大切な者への『忠誠』
     ……それらの感情は、人が持つ『心』と同質のもの。だから……。
    「ダークネスと人間、何が違うのか、もう私、分からないよ……っ!」
     嗚咽と共に、耀の口から零れ落ちる、感情。
     抱き寄せ、その頭をあやす様に優しく撫でる威司。
    「先ずは……よく頑張ったな……」
     ――フワリ、とした毛布の様な温もり。
    「威司……さん……」
     直に伝わる最愛の人の温もりが。
     耀の彷徨う心を繋ぎ止める糸の様に。
     自分の心に深く染み込む。
    「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
     呻きながら、まるで生まれ落ちたばかりの赤子の様に大きな声を上げて泣く。
     そんな耀を強く抱きしめ、背中を優しく叩く威司。
     敵は本質的に『邪悪』と言われる存在だ。
     だが、『心』が無いわけではない。
     そもそも、『邪悪』自体が、心の在り方の一つ。
     故に、戦いの末に迷いや葛藤が生じるのは必然だろう。
    「辛かったんだな……今まで気づけずにすまない」
    「う……ワァァァァァ!」
     自らの迷いを洗い流す様に、耀はただ泣き続けた。
     ――それから、暫く。
    「……落ち着いたか?」
    「うん。私こそ、一人で抱えて……ごめんなさい」
     威司の言葉に頷く耀。
     目を真っ赤に腫らながらも少しだけ晴れやかな表情の耀に囁く威司。
    「もう、大丈夫だな?」
    「もう、大丈夫……私には、あなたがいるから」
    「……あぁ。俺はずっと一緒に居る。だから、悩みは、難しい問題は、2人で一緒に考えて行こう」
     静かに告げる威司に頷き、耀は差し出された彼の唇に自分の唇を重ね合わせた。


    「耀ちゃん、ボードの方はよろしくね」
    「分かりました」
     玲奈の願いに耀が頷いたのを確認し、緋色の水着を着用し、パレオを巻いた明日香がドボン、と先行して飛び込み、続けてヘッドライトを装着した威司や玲奈、網を装着した刑、セレスティ、咲哉、天摩と続く。
    (「シュノーケルも持ってくればよかったですかね」)
     直ぐに息が切れることもないだろうと思いつつ、力強く水を蹴って潜っていくセレスティ。
     水中呼吸を用意していた明日香や玲奈、威司が潜水し、巨大なイクラを思わせる大きな塊を発見する。
    「こっちだ」
     明日香が周囲を警戒しながら合図を出し、玲奈が複数ある力の塊に触れた。
    (「……結構、重いねこれ」)
     ずっしりとした重量感を感じさせるそれに溜息をつきつつ、網で塊を包んでいく。
    (「……ちょっとアイテムポケットに入れるのは無理そうっすね」)
     天摩が状況を確認する間に咲哉が力の塊が傷つかない様に、丁寧に網をつけていく。
    (「海底噴火の様に沁みだした大地の力。まるで、炎獣の卵みたいだよな。これも、ガイオウガの一部なのか」)
     塊が発している熱に額から出る汗を水中で拭いながら咲哉は思う。
     先日鶴見岳で出会い言葉を交わし、友として永遠の眠りを見届けた嬉々のことを思い出しながら。
    (「……必ず、無事に還そう」)
    (「しかし、こいつは何で海に出てきたのかな?」)
     網をつけつつ周囲を見回す咲哉に頷きながら、明日香が威司と共に巡回を続ける。
     その間に、玲奈達がこの周囲に散らばっている力の塊に網を取りつけた。
    (「ちょっと重いから、セレスティさん達に任せた方がいいかもね」)
     玲奈が上の方で待機しているセレスティと刑に合図を送る。
     合図に従い、2人が呼吸を堪える様にしながら、水底へとやって来た。
    「頼めるか?」
     明日香に問われて刑が頷き、網の掛かったガイオウガの力の塊を複数まとめて怪力無双で持ち上げて、水を蹴って上に上がる。
     セレスティも力の塊をまとめて持って水を蹴った。
     それから玲奈が用意しておいたボートで見張りをしていた耀に塊を渡し、何往復かして、力の塊を海辺へと運ぶ。
    (「……温かい、ですね」)
     先程感じたのとは違う温もりを感じ、ふと思う。
     もし、ユエが休火山の活性化ではなく、ガイオウガとの融合を望んでいれば……『愛』という温もりをガイオウガに届けることが出来たのだろうか。
     無事に塊の引き揚げを終え、他班が用意していたリヤカーに塊を載せて運んで貰い、刑達は護送の為に鶴見岳へと向かった。


    「ふぅ、星空が綺麗だぜ……」
     傷つかない様に大切に塊を扱いながら、咲哉が水筒に入れた冷たいお茶を飲む。
     乾いた喉にお茶が染み入り、全身の活力が取り戻されるような、そんな感じだ。
    「狂舞センパイは、大丈夫っすか? ……リードっちのこと」
     一緒に護送に来ている灼滅者達に紛れているであろう夫婦を思い出しながら天摩が問いかけると、複数の力の塊を載せた背負子を背負い直しながら、刑が頷く。
    「ああ。大丈夫だ。正直難しいと思っていたイフリートとの共存が、少しだけ現実味を帯びて来た訳だしな。あまり、彼女のことで落ち込んでばかりもいられないだろう」
     そうっすか、と返す天摩だったが、刑は、その心の裡に痛みを感じて胸に手を置く。
    (「あの時、オレは……」)
     自分の無力さを感じさせられた。目の前で彼女が堕ちる姿を、彼女に『死』が訪れる瞬間を、ただ、見届けることしか出来なかった。
     その時の心の痛みを完全に忘れ去ることは出来ない。
    「でも、オレ達は前に進まなきゃいけないっすよね」
    「ああ。そうだな」
     さりげない天摩の呟きに、頷く刑。
    (「そうだな。少なくとも、ヒイロカミは止めることが出来たんだ」)
     自分が得た僅かな『縁』ももう、手放したくない。
     迷いが晴れることはないだろうが、その想いだけは消すことは出来ないと刑は思う。
    「こちら咲哉班、異常なし」
    「こちら蜂、異常なしじゃ」
     悪魔の気配を感じられず、特に儀式などが行われた様子もないのを確認した咲哉が護送班の、蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)に連絡を入れるのを横目にしながら、念のために、と天使の様な白翼を展開したセレスティが周囲への警戒を続けている。
     ――灼滅者からの襲撃を。
    (「全て思い通りに行くとは思っていないのですが……中々上手く行かないですね。大体逆の結果になってしまうことが多いですし」)
     本当に自分が望んだ結果とは逆の結末になってしまうことは、数多い。
    (「特に最近だと……」)
     ナミダ姫との共闘。
     ガイオウガへと好印象を与える行動を取っていた筈の自分達。
     けれども、あの共闘はそれとは真逆のものだ。
     もし、イフリート達がそれを知ればどう思う事だろう。
    (「出来ることなら、イフリートとの敵対は避けたいのですが……」)
     彼等と友好的な関係を築ければ、永遠の課題の気がしないでもない、灼滅者とダークネスの共存は出来るのかという問いに対する一つの答えを得ることが出来る。
     その為に、共にこの道を歩いたイフリート、アスカの融合を止めなかった。
    「そうっすね、クリスフィードっち」
     セレスティの想いに気が付いたか、天摩が塊を抱えたまま小さく頷いた。
    (「アスカっち……あの時、君に伝えた想い、今でも変わってないっすよ、オレは」)
     灼滅者とダークネス。大事な隣人として共に歩いていきたいという想いは。
     そして……。
    「着いたな」
     咲哉が安堵の表情を浮かべた。
     そこは、頂上。
     ――刑達其々にとっての、思い出の場所。
    「今回は、無事に終わりそうで良かったです」
     セレスティの安堵の籠められた呟き。
    「アスカっち。キミの仲間を連れて来たっす。……受け取ってもらえるっすか?」
     天摩が運んできた塊を地面に置くとほぼ同時に。
     まるでその言葉に答える様に、塊が地面に溶けて消えていく。
    「アスカさん……私達の声、届いているんですね」
     自分達がやったことは決して無駄ではなかった。
     そう思い、セレスティがまとめて背負子に載せていた塊を置くと、同じ様にそれらも吸収されていく。
    「無事に還したぜ、嬉々」 
    「咲哉さん、セレスティさん、天摩さん、ちょっと向こう見てみるっすよ」
     咲哉が友の名を呟く内に刑がある事に気が付き呼びかける。
     セレスティ達がそちらに向かうと……。
    「ご来光、か……」
     咲哉がじっとその朝日を見つめた。
     ――穏やかで温かいそれは、灼滅者とダークネスの共存という自分達の希望を、まるで代弁してくれているかのようにも思えた。


    「塊は回収したし、もうこれ以上増えないだろうけど……キチンと駆除していくよ!」
     ゴムボートをもう一度借りた玲奈が呟き、水中呼吸を使ってドボン、と水に飛び込む。
     明日香もそれに続けて水の中に飛び込み、周囲への警戒を強化した。
    「もし鮫とかが巨大化とか狂暴化してたら危ないからねぇ、頑張ろう!」
    「ああ、そうだな」
     目線で互いに頷き合い、それから暫し水中を泳ぐ。
     程なくして、巨大な鮫の様な生物に遭遇。
     鮫は玲奈達を餌と思ったか、こちらを見付けるや否や大きな口を開けて襲い掛かって来た。
    「そんな動き、丸見えだぜ!」
     威勢よく明日香が水中で呻き、体当たりを軽々と避け、不死者殺しクルースニクで急所に当たる部分を死角から斬り裂く。
     一瞬でその身を引き裂かれた鮫に向けて玲奈が黒い刀身の刀『怨京鬼』で神霊剣。
     非物質化された刃が易々とその分厚い皮を貫通し、真っ二つに鮫を斬り裂き、止めを刺した。
    「こいつら、食えるのかな?」
     周囲に他にもいた危険生物を駆除してから、明日香が鮫に近づき、その体を解体する為にその体を持ち上げて水面から顔を出す。
     そのままボートに乗り込み解体を始める明日香に玲奈が思わず微笑を零した。
    「色気より食い気って感じだね~、明日香さんは」
    「んっ? ああ、あいつらのことか。玲奈はどう思っているんだよ?」
     解体を続けながら問う明日香に玲奈が笑う。
    「正直、結婚してたって聞いた時は、ちょっとビックリしたよねぇ。まあ、16になれば、親御さんの許可があれば結婚できるけれどさ。私の方は彼氏も居ない状況だから、正直羨ましくはあるんだよね」
    「ふ~ん、そうなのか。……食えるのかな、これ?」
     解体したはいいが実際に食べれるか分からず首を傾げる明日香に玲奈が少しだけ肩を落としつつ微笑する。
    「うん、まあ色々あったみたいだけど幸せになってくれるといいよね」
    「そうだな。……色々、あったもんな」
     目を細める明日香の様子に、『あの時』のことを思い出し、そうだね、と頷く玲奈。
    「あの時みたいに、また何処かで一緒に戦うこともあるかも知れないよね、私達」
    「……そうだな」
     ――『彼女』の最期を見届けられて多少は平静になっているとはいえ、あの時の事は今でも心のしこりとなっている。
     きっと、玲奈の中でもそうなのだろう。
    「もし、その時が来たら、またよろしくね、明日香さん」
    「ああ。オレの方こそよろしく頼むぜ、玲奈」
     どちらからともなく手を差し出し、互いにその手を握りしめた。
     

    作者:長野聖夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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