●ガイオウガの力の塊。略してガイ塊。
「親方ァ! 別府湾が温泉にー!」
別府湾に指を突っ込んだ若造が、近くで吊りをしていた親方さんへと振り返った。
「ばっかお前別府湾が温泉になるわけ……うわあっつ! なんだこれあっつ!」
驚いた親方たちはじたじたと後退。
そんな彼らに追い打ちをかけるかの如く、水面から巨大化した魚がざっぷーんした。
「天変地異じゃあ……天変地異が起こったんじゃあ……!」
全然関係ないじいさんが急に現われてプルプル震えると、そのまま帰って行った。
●
「別府湾は温泉街に囲まれた海だ。別府温泉は言わずもがな有名だよな。まあ最近は景気の変化で旅館経営も難しいらしいが、それはそれでこれはこれ……俺たちが話しに出したのは、ガイオウガに関係しているからだ」
現在、別府湾は温泉のように高温化(いい湯加減)しているらしい。
しかもその原因が海底に出現したガイオウガの力の塊であるということが分かったのだ。
「このガイオウガの力の塊略して『ガイ塊』を鶴見岳に運び込めば、ガイオウガに吸収されて消滅する。ただ逆に、サイキックで攻撃するとイフリート化して襲いかかってくるようだ。そこだけは注意して扱ってくれ」
ガイ塊の引き上げ作業は深夜に行なう。
ちなみにそれまでは……。
「毎年おなじみ、臨海学校だ!」
今回の臨海学校はガイ塊の引き上げとのセットだ。
あえて攻撃しない限り戦闘は発生しないので、安全な臨海学校になるだろう。
「ちなみに別府湾に発生している巨大化魚は一応一般人にとって危険な生物だ。できれば駆除して欲しいし……油がのっていて美味しいらしい。意味はわかるな?」
当日のスケジュールを大まかに並べるとこうだ。
まず現地到着。別府湾に潜ってガイ塊の場所を調べる。ついでに巨大魚をヤる。
次に飯盒でキャンプ。ついでに巨大魚をヤく。
花火をひととーり見てから、深夜にガイ塊を引き上げる。
翌日には有志による鶴見岳運搬。残ったメンバーはキャンプの後片付けと海水浴だ。
「事件を解決しつつ楽しむ。どっちもやってこその武蔵坂学園だ。めいっぱい、楽しんで来てくれ!」
参加者 | |
---|---|
犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139) |
アトシュ・スカーレット(平凡を望む死神・d20193) |
高坂・透(だいたい寝てる・d24957) |
空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198) |
可罰・恣欠(リシャッフル・d25421) |
カルム・オリオル(グランシャリオ・d32368) |
貴夏・葉月(紫縁は原初と終末と月華のイヴ・d34472) |
紫乃・美夜古(アダムとリリスの二重奏・d34887) |
●別府で遊ぼう
空月・陽太(魔弾の悪魔の弟子・d25198)は岩の上にあぐらをかき、別府湾の海に釣り糸を垂らしていた。
ぐいんと竿が曲がるほどに引く糸。
「フィーッシュ!」
陽太は立ち上がり、リールをぐるぐるやりながらエキサイティングした。
「ヒャッハー! 海釣りだァー! 今日のご飯は魚だ! って痛!?」
糸がぷっつんと切れ、陽太は仰向けにひっくり返った。
「……何やってんだ、お前」
アトシュ・スカーレット(平凡を望む死神・d20193)が頭をかきながらやってきた。
たんこぶ膨らませて起き上がる陽太。
「フィッシング詐欺かな」
「近いようで全然遠い言葉をもってきたな、おい」
「いいよ、自分で獲ってくるから!」
陽太はシャツを空中で脱ぎ捨てると、海へ飛び込んでいった。
「最初からその予定だよ」
同じく海へと飛び込……もうとして、アトシュははたと気づいた。
(「しまった、今は……」)
シャツの下は水着だが、うっかりネタ用の女性用水着を着てきてしまった。
なにをどううっかりしたらそうなるのか本人ですら分からないが、よもや全裸で泳ぐわけにもいかない。
(「背に腹は代えられない……かっ」)
アトシュは目を瞑り、なるようになれとばかりに水着姿(女性用)になって海へ飛び込んだ。
すると、早速先程糸を食いちぎったであろう巨大魚が突っ込んできた。
なんか知らないけどカッパの人形を加えている。餌かな。
「この程度なら」
アトシュにとって巨大魚など飛んでるハエを殺すよりも容易である。
すれ違いざまに刀を走らせ、魚を切り裂くアトシュ。
その一方で……。
「なっ――なのおおおおおおおおおおおおお!?」
可愛い黒パーカー(夏仕様バージョン)を着込んだナノナノがめっちゃ巨大魚に襲われていた。
ほっぺのあたりとはむはむされまくっていた。
必死に逃げようとするなのちゃんだが、身体に巻き付いたロープがそれを許さない。
ロープは上へ上へとのびていて……。
「ふぃーっしゅ」
岩の上にあぐらをかいた高坂・透(だいたい寝てる・d24957)が竿の先につけていた。
ザ・デジャビュー。
「なの、がんばれー。美味しいエサ……じゃなくて囮になるんだよ」
「よーしいいよー! そのままそのまま!」
なのちゃんに群がった魚群をアイアンサイト越しに見つめ、陽太はライフルを構えた。
にこにこした表情が一瞬だけ凍り付き、心臓から髪の先まで全てが機械のように精密に動いた。
「――そこだ」
ライフルから魔弾が放たれる。ナノナノのパーカーに穴を開けた弾は炸裂。周囲の巨大魚たちを一斉に瞬間冷却していく。
ここぞとばかりに飛び込むアトシュ。
巨大魚を次々に串刺しにしていくと、それらを陸めがけて放り出した。
そうして海面からぽんぽこ飛び出してくるフリージング巨大魚。
透はすっくと立ち上がり、こきこきと首をならすと、ついでにぐいーと背伸びをしてからサバイバルナイフを取り出した。
取り出してからは一瞬だ。
透がかき消え、空中をジグザグな閃光が走ったかと思うと離れた岩場にハンドポケット姿勢で停止した。
地面にどさどさと落ちていく巨大魚の肉。それらは全て加工しやすいサイズにまでカットされ、籠の上に積み上げられていった。
「ま、殺人鬼だしね。このくらいできないと……ん?」
手の中に、カッパの人形が残っていた。
そういえば。
「可罰くん、もうアレを見つけたのかな」
所変わって海の底。
可罰・恣欠(リシャッフル・d25421)はシュノーケルをくわえて深く深く潜っていた。
(「まずは心配事をなくすべく、昼間の内にガイオウガの力の塊を探索しておくべきでございましょう」)
きょろきょろと見回す恣欠。
岩や魚しか見当たらないが……。
(「おや」)
岩場の隙間に淡い光を放つ塊のようなものを発見した。
近くまで寄ってみる。
間違いない。これがガイオウガの力の塊のようだ。
(「では、後で見つけやすいように……と」)
恣欠は塊を網で包むと、ロープをくくって海上へと上がっていった。
水面から顔を出し、ついでにビーチボール大の空気袋も取り出す。
息を吹き込んで膨らませ、ロープの先端に金具を使って固定した。
「これで、引き上げる際も楽になるでしょう」
流されないかどうか軽くつついて確かめてから、恣欠は皆の所へと戻っていく。
「いますかねえ、カッパにサメ……」
お遊びパートは一人一シーンのお約束なのでここまでだが、漁獲パートでは色々あったんだろうなあと想像してお楽しみ頂きたい。
塊も見つけ、魚もとり、なんやかんや遊んだ後はご飯タイムである。
犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)はたき火をおこし、こまの持ってきた鍋を受け取った。
「巨大魚ってどんなお魚か分からないけど……アジやサバみたいだと嬉しいんだよ! ね、こま!」
こくり頷くこま(ここぞとばかりに水着)。
ふと見ると、カルム・オリオル(グランシャリオ・d32368)がバーベキューセットの火をおこしていた。
「美紗緒が料理してくれるんなら、僕は姿焼きに挑戦しとこか」
とってきた魚に大きな鉄串を差し込み、くるくる回しながら豪快に火で炙る。
魚の表面がぷつぷつと焦げ付き、油がしたたり落ちては炎を煽っていく。
「なかなかええなあ。我ながら美味くできとんで、喰う?」
「一口だけもらうんだよっ!」
お皿を出してきた美紗緒に笑いかけ、カルムはナイフで魚肉を切り落とした。
ほこほこの、こってりと油ののった魚肉である。
一口頬張ってみるとそれはもはやチキンの歯ごたえとジューシーさ。
ご飯が近くにないのが残念でならないほどのガッツリとしたお肉である。
「丼ものを用意しておいて正解だったんだよ……あっ」
こまに様子をみさせていた鍋が煮立っていた。中身は水ではなく油。つまり、魚を放り込んで揚げるつもりなのだ。
「素揚げも唐揚げも天ぷらも美味しそうなんだよ。でも最初は……素揚げなんだよ!」
ほいやーとか言いながらブロック状にカットされた魚肉をぽんぽこ放り込んでいく美紗緒。
わきたつ油が既に美味しそうな香りを発していた。
「この調子でお刺身もやるんだよ」
「ほんなら僕も」
包丁を持って美味しい部分の魚肉を一口サイズにスライスしていくカルムと美紗緒。
「ボクがやるのはただのお刺身じゃないんだよ。『りゅうきゅう』を作っちゃうんだよ!」
説明しよう。
りゅうきゅうとは刺身を醤油と砂糖と酒で大雑把に味付けしてご飯に乗っけてがつがつ喰うという海の男の料理である。琉球地方とは全く関係ない。
その味わいは凄まじく、取れたての刺身というだけで既に抜群のおいしさをもつ食材に醤油や砂糖によるほどよい味付けとご飯の満足感をプラスするという食の喜びまっしぐらな料理なのだ。
横で同じ刺身を使ったカルパッチョを作り、ほっこりと微笑むカルム。
「これなら、皆喜んでくれるやろな」
ご飯を終えた皆は、それぞれ好きなように遊びに出て行った。
そんな中でも、貴夏・葉月(紫縁は原初と終末と月華のイヴ・d34472)と紫乃・美夜古(アダムとリリスの二重奏・d34887)は花火大会があるからということでよく見える岩場へとやってきていた。
夜の夜景をバックに綺麗に咲く花火を眺めながら、葉月と美夜古は寄り添っている。
「今はどんな風なの」
「そうだな。柳の葉のように、ゆるやかに散って落ちている」
「柳の?」
「垂れ下がる髪を想像してくれ」
「そう……」
「散った火がまたたいて、夜闇にとけていく。どうだ?」
二人は手を握りあい、花火に顔を向けた。
「美夜古が『視』せてくれているから、私は幸せよ。じゅうぶんなくらい」
「……そうか」
花火が落ちていく。
夜闇の中に吸い込まれるように消えていく。
「お前の足りない所は俺が補う。これからも」
「ええ……私も、あなたの足りない所は補うわ」
見つめ合う。正確には、心の目でお互いを見つめ合っていた。
「ずっと一緒よ」
「ああ……」
それからも暫くの間、二人は花火を見つめ続けていた。二人の目で。
●ガイ塊引き上げ作業
夜。
恣欠たちのつけた目印にそって、彼らは引き上げ作業を開始した。
陸では葉月や美夜古、美紗緒たちが待機している。
ロープを持ってきて陸から引っ張り上げる係だ。
「暫くは待ってることになるから、アイス食べるんだよ」
美紗緒からアイスを貰って一緒に食べ始める美夜古たち。……の中でひとりキュウリをぽりぽりする葉月。
その一方で、アトシュたちは夜の海へと泳いでいた。
気になってるかも知れないから解説すると、アトシュみたく男性なのに女性用の服を着る人がちょっとわかんないくらい多い武蔵坂学園なので、みんな『ああそういうモンなのかな』くらいの接し方をしていた。つまりアトシュ一人が恥ずかしい状態である。
さておき。
恣欠が浮き袋の前で止まり、仲間に合図を送った。
「ここです。この下にございますよ、ガイオウガの力の塊が」
「よし。じゃあ僕が怪力無双で岩の間から引っこ抜くから、その調子で引っ張っていってね」
潜水を始める透。陽太は頷いて、海中ライトを手に潜り始めた。
ライトで照らし出された海底は昼間のそれとは打って変わって不気味だ。
目を細めるカルム。
(「魚食いまくった目にはうまそうなイクラにしか見えへんな……」)
カルムは気分と食欲を振り払い、『自分も怪力無双でサポートする』という合図を送った。
透と頷き合い、いっせーのせで引っこ抜く。
そこからは簡単だ。
固定したロープを引っ張って数人がかりで引っ張っていくのだ。
陽太が水中呼吸でもって海底でなにかに引っかからないかライトで照らして確かめつつ、他のメンバーがすいすい泳いでいくという具合で進んでいく。
「あっ、来た来た! こっちなんだよー!」
引き上げ地点を間違えないようにとライトを振る美紗緒。
恣欠やアトシュたちはそちらに向かって泳いでいき、ロープを先に手渡した。
「それじゃあ今度はボクたちの番なんだよっ」
葉月や美夜古にロープを託し、いっせーのせで引っ張り始める美紗緒たち。
すると、ごろんと海底からガイオウガの力の塊が転がり出てきた。
ぐいっと背伸びする透。
「いろんな道具を用意して置いてよかったね」
「これが……」
かがんで見つめる美紗緒。
「ガイオウガの力が強くなれば、スサノオの力は阻害されるんだよね。でも倒されちゃうと、スサノオの復活が近づくって……」
「ただ返すっていうのが気にくわないけれど、今回は仕方ない」
腕組みする陽太。
恣欠が塊をそっと持ち上げ、いつもの笑みで言った。
「ではヒッソリと、鶴見岳へ運ぶといたしましょうか」
こうして、ガイオウガの力の塊は鶴見岳へと運搬された。
注ぎ込まれた力はガイオウガのものとなり、次なる歴史のページを開くだろう。
どんな歴史が紡がれていくかは……灼滅者たち次第だ。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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