臨海学校2016～海は大きな温泉だ！

■リプレイ

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「なんでこう、抱き合わせるんだろ……？」
　大分空港。山田・霞（オッサン系マッチョファイター・d25173）が呟いた。
「ま、やる事はちゃちゃっと終わらして、いっぱい遊んでかえろーぜ」
　霞の荷物についている、メロンと熊が合体したようなマスコットのキーホルダーを、指で弾いて雨宮・音（夜明けのプリズム・d25283）が笑う。ピンクの縁無し眼鏡にホワイトアッシュの髪。髪をかけた側の耳には霞が贈った黒瑪瑙をあしらった小さなピアス。光の加減で蜘蛛のような模様が薄らと浮き出ては沈む。
「それでも、珍しく戦わずに済みそうな臨海学校だよね」
　ミルドレッド・ウェルズ（吸血殲姫・d01019）が言った。傍らにぴったりと寄り添っているのは、大切な恋人の日野森・翠（緩瀬の守り巫女・d03366）。
「もちろんボクも無駄に戦うつもりはないよ。今回はのんびりデートのつもりだしね」
　といったミルドレッドの言葉をきいて翠は、
「ミリーさんとデートなのです♪」
　ミルドレッドに抱きつく。と、
「こら、翠。みんながいる前だよ」
「あ、あぅ……ごめんなさいです……」
　翠の素直な愛情表現は内心とても嬉しいものの、どうしても照れてしまう。そんなミルドレッドの耳に翠は唇を近づけ、
「お宿にかえりましたら、ぎゅーってしてくださいですね？」
「ん、あとでね♪」
　ミルドレッドも翠の耳に唇が触れそうな位置で、内緒話で返事。
　一方、
（「イフリートなあ、うーんうーん……」）
　犬の耳のように左右が跳ねた赤い髪。ポンパドール・ガレット（火翼の王・d00268）は考える。
（「わるいコトしてないなら、ヘンにもめたりしないでおわらせたいよなあ」）
　と、
「ガイオウガの力って温泉も沸いちゃうんですね。すごいです」
　ポンパドールの隣にひょこっと顔を出し、見上げる緑の瞳は真咲・りね（花簪・d14861）。
「ホントだね！　あっ、タマゴ浮かべといたら、温泉タマゴになるのかな？」
　ポンパドールとりねの間、ほんわり優しい空気と笑顔がキャッチボール。
「ガイオウガ……イフリート……」
　こちらも何やら、の百合ヶ丘・リィザ（水面の月に手を伸ばし・d27789）。
「あれ、リィザは残念？」
　ミルドレッドが声をかければ、
「ええ、どうせなら戦ってみたい気も……」
　長い金の髪、お淑やかな帰国子女風お嬢様。はただのキャラ作りとは本人の談。その実態は、趣味にカチコミが入っているほどのバトルマニアゆえ、
「あ〜……だ〜よね」
　やっぱり……の空気を醸し出す音に、
「なる」
　同じストリートファイター同士、興味深いと霞。が、
「……こほん。ちょっと皆様？」
　と、リィザ。
「冗談ですわよ冗談。今回はデート優先で。ね、恭輔くん？」
「おー、まずは別府観光だな」
　観光ガイドをめくっていた恋人の街風・恭輔（翠月・d27472）が顔を上げ、リィザの方を見て、言った。

●
「さて」
　浜辺にて。おもむろに一息吐き、体を軽く捻ると、
「じゃーん」
　濃い灰色に黒いトライバル模様の入ったサーフパンツ姿で、霞がサイドリラックス的なポージングを無駄に決めた。
「うんうん、オトコマエじゃんっ」
　音がパチパチ手を叩く。無駄じゃなかった。
「まー流石私のセンスっつーか！」
　霞の水着は音チョイス。
「ほんと、なかなか良いよねコレ、うん」
　霞も満足気。それはセンスが良いからというだけではなくて、何より大事な存在の音が選んだものだから、ということもあるのかもしれない。
「ホントは、金のトラと龍のやつと迷ってたんだけど」
　音が言う。思わぬところにヤンキーの罠。
「虎とかよりもコレのほうが好きだな私！　……で、雨宮君はと」
「……ど、どーよ」
　音は胸の中央をゴールドのリングで留めたチューブトップのビキニの上に、ウォーターデニムのホットパンツという出で立ち。ボディピアスなどアクセサリーもゴールドで合わせている。
「……な、なんか…改めて見せるのって、なんか……」
（「照れんな……」）
　音の頬にうっすら色が差したような。
「ん、びゅーてぃほー！」
　霞は再び満足気。音の水着は霞が選んだものである。
「水着もさることながら、やっぱり素材がいいしねぇ」
「！」
「……なーんて？」
「！？」
「あ、別に嘘じゃないよ」
「……るっせ」
　霞にほめられると、ドキッとしたりぎくしゃくしたり、なんだか乙女になってしまう音だった。と、
「あ、あれ。百合ヶ丘さんじゃね？」
　照れ隠しも兼ねて、音は通りがかったリィザと恭輔を指す。
「わ、海、綺麗ー！」
　リィザが赤茶の瞳を輝かせて言った。恭輔はトランクス型の水着にパーカという姿。リィザはシャーリングとフリルをあしらったホルターネックの黒いビキニにマゼンタピンクのパーカを羽織っている。大人っぽい格好だが、もちろん勇気を出して、のことだ。
「でも日射しもすご……ね、恭輔くん」
　リィザは恭輔を呼び止めると、
「サンオイル、塗ってくれませんか？」
　いたずらっぽい表情で、パーカをずらして背中を見せる。
「サンオイル？」
　恭輔が言った。リィザは内心、
（「ふふっ、もちろん冗談ですけど♪」）
　ところが恭輔、
「わかったよ。変に焼けると大変だしね。あ、あのパラソルの下で塗る？」
　と特に気にした風もなくさらっと返す。
「……って、えぇっ！？　じょ、じょ、冗談に決まって……！」
　面食らってしまったのはリィザの方。その上、
「……はーん、ほーお……」
「……ほほう、これは。なるほどねぇ……」
　ニヤニヤと見つめる高身長カップルが。
「音様！　霞様！」
　気づいて真っ赤になるリィザに、音はさらにニヤニヤを増し、
「ひゃ～熱い熱いっ。若さですなぁ～山田殿～～」
「いや～セイシュンですな～。素晴らしいですぞ～雨宮殿～～」
　謎のノリで冷やかしつつ、霞が親指を立てる。リィザはぼんっと耳まで真っ赤になり、
「きょ、恭輔くん、行きますわよっ！」
　恭輔の手をつかむと、ずんずん海のほうへ引っ張って、というより引きずって行った。音と霞は、すごい勢いで引きずられながら手を振る恭輔に手を振り返し、
「よし、私らも遊ぶぜ！　っとその前に場所の確認か」
「確認がてら遊べばいいよね」
　いよいよ海へ。
「うわ……夏の海なのにぬるい……っつか熱いのはどーなんだマジで」
　40度の海水に浸かり、音が言う。
「地球温暖化心配しちゃうよ私」
「しかもこんだけ温度上げるって、凄ぇエネルギーなんだろうけど……」
　霞も海水に足をいれ、
「ま、ココでやり合うつもりもないんだ。今は楽しんでおこう」
「だねェ」
　
●
「干し海月になりそうな勢いの暑さだね……」
　ぷかぷかと揺蕩うビーチボートの上で恭輔が言った。力の場所の確認を先に終え、リィザと向い合って2人きり、そこだけ額縁に切り取られたような、静かな時間が流れている。
（「地元は涼しかったからな……」）
　育った家を思い出しながら、恭輔はやる気なさげにボートを漕ぐ。自分を人間だと思って生きてきた。それでもいつか自分の白炎を好きになれるようにとは思う。けれど。
　気づけばリィザが自分の顔を見つめていた。恭輔は軽く笑って、気持ちを入れ替えるように姿勢を直す。
　日常の隙間に最期の笑顔が混じるかもしれない。自分たちの日常はそういう日常。だからこそ、
（「マイナス思考に時を費やすのは勿体ないな」）
　と、その瞬間、
「楽しいですね、恭輔くんっ」
　えいっ！　とリィザが正面から恭輔に抱きついた。彼の顔を見たら、何だか遠い目をしていたから。恭輔は、
「え、どうしたの！？　っていうか自分の格好とかバランスとか考えて抱きついてます！？」
　抱きつくと素肌が触れ合って恥ずかしい。でも、
（「暖かくて幸せ……なんて」）
　リィザは格好もバランスもかまわずぎゅーと恭輔を抱きしめる。さすがの恭輔もこれには照れる。が、それでも頑張って抱きかえそうとした途端、
　ざっぱーん！
　ボートが思い切りひっくり返り、2人は海へ放り出された。
「また転落オチ！？」
　呆れたようにいいながらも、リィザのことを抱きかかえた腕は離さなかった恭輔だった。

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「綺麗だね」
　花火を見上げながらミルドレッドが言った。ミルドレッドが着ているのは、黒地にアイリスの花の柄の浴衣。その腕には、『愛情』という意味の込められた緑の地に朝顔柄の浴衣を着た、翠がぎゅっと抱きついている。
　また1つ花火が打ち上がり、その光にミルドレッドの横顔が照らされた。花火が弾けるたび、ミルドレッドの赤い瞳にも光が瞬く。花火よりもついついそちらに見惚れてしまう翠。
　と、ミルドレッドが翠の視線に気がついた。ミルドレッドはくすっと微笑むと、
「……花火もだけど、翠も綺麗」
「！」
　その一言に我慢できなくなった翠。次の花火が打ち上がるまでの一瞬の暗闇に、えいっとミルドレッドの唇にキス。そして首に手を回し、ぴとっとミルドレッドにくっつく。
（「あ、何か翠のスイッチ入れちゃったかも？」）
　人前なら照れてしまう翠の甘えぐせも、素直に嬉しいミルドレッド。翠をぎゅっと抱きしめ、
（「お返しだよ」）
　小声で囁いて、今度はミルドレッドからキス。
　そして、その少し前方。
「昼間は温泉と海水浴が一度に楽しめてお得だったな！」
　たっぷり遊んでなお、元気いっぱいなスミケイこと、慧樹に、
「ふわー、温泉海って初めてだったのだわ」
　少々遊びつかれた様子の恋人の羽衣。
「はしゃぎすぎてのぼせたかもしれない……」
「足元、大丈夫か？　暗いから気をつけろよ。ホラ俺の腕にしっかり掴まって」
　心配して慧樹が腕を差し出す。その手首には、羽衣が贈ったバングルタイプのブラックシルバーの腕時計。羽衣は素直に、慧樹の腕につかまった。
「この辺がいいかな……あ、お前の場所から見える？　なんなら肩車してやろーか！」
「流石に肩車はいらないよ！　てゆか、ういの身長でもちゃんとみーえーまーす！」
　プンと頬をふくらませた羽衣に慧樹はごめんごめんと謝り、改めて手をつないで花火を見る。
「たーまやー！　海に映り込んで倍キレイ！」
　慧樹が言った。羽衣も視線は花火へ向いているものの、
（「……手が大きい、な」）
　意識は繋がれている手の方へ。
（「最初は同じぐらいだったのに。もうずっと、大きい、な」）
　変わっていくことや成長は、すごいこと。だけど、変わらずにいることも、きっと尊いこと、とういは思うよ」）
　それから、一緒にいたいなって、想い続けてることとか。
　また花火が打ち上がった。慧樹は花火に照らされた羽衣の顔を見つめ、
（「この学校がもし分裂とかしちゃったら、羽衣は俺についてきてくれるかな」）
　ふと想像する。が、
（「柄にもないな」）
　苦笑した慧樹を振り返り、羽衣がどうしたの？　と顔を覗き込む。
「んー？　なんでもない！　お前の乳、育ったなーって思って見てただけー！」
「って！　変なとこ見るんじゃないの！　はずかしいでしょっ」
　思わず前を隠そうとした羽衣の頭を、慧樹が自分の胸に引き寄せた。
「……スミケイ？」
　慧樹は羽衣の茶色い髪を撫で、
「………ずっと一緒にいようなっ！」
　羽衣も胸の中で頷き、
「……一緒にいるのよ。ういは、ずっと」
　と、そんな2人を見て、
「わたしたちがいちばんらぶらぶなのです！」
　負けじと翠の抱きつきパワーがMAXになったのは言うまでもない。

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「おかしくないでしょうか？」
　夏らしいピンクのワンピース姿でりねが言った。
「ぜんっぜんおかしくないよ、にあってる！」
　ポンパドールの心からの言葉。
「浴衣はまたお祭りで着ればいいですよね」
「うん、ユカタは着付けとかたいへんだしネ、また次のおたのしみにしようネ」
　２人は花火を見る場所を探しに歩く。
「おれ、打ち上げ花火とかちゃんと見るのはじめてなんだよネ」
　ポンパドールが言った。
「だからつきあってくれてありがとう！　一度ちゃんと見てみたかったんだ」
「わたしはパパとママに連れていってもらった事がありますけど、近くで見ると、おっきな音がしてびっくりしちゃいますよ、きっと」
　りねが言う。クマのぬいぐるみと同じように、両親との思い出も宝物だろう。
「それでね、とっても綺麗な一瞬で消えてしまう儚いお花だけど、とってもキラキラして綺麗ですよ」
「うわー楽しみだナ！」
　そしてりねの身長でも見える場所を見つけ、2人で空を見上げると、花火が始まった。
「すっごいネ！　音がズシンってクる！！」
　初めて見る打ち上げ花火に目を丸くするポンパドール。
「まさかこんなでっかくってすごいなんておもわなかったあー！！　ほわー、すっごいキレイ。よくできてる。ほわあー」
　と、はっと我に帰り、
（「……アッなんかヤバい、口があいたままになっちゃうカッコわるい」）
　ポンパドールは1度きゅっと口元をひきしめると、
「りねゴメンね、りねもちゃんとたのしめてる？　ホントくりかえしになるケド、今日はつきあってくれてありがとネ！！」
　花火を見たいと言い出したのは自分な手前、ついつい気を使うポンパドール。が、りねは、
「謝っちゃダメですよ。わたしとっても楽しいから、おにいさんも楽しいならそれが一番です」
　花火の光の欠片が海へ流れ星と降り注ぐ。そう、りねにとってポンパドールは、眩しくなりすぎず、ほんのり進む道を照らしてくれる、星のような存在。
「夏はまだあと少しあります。だから今度は自分達で買ってきた花火で遊びたいです」
「うん！　そうしようネ！」
　その時はきっと、今日はカードでお留守番のウイングキャット、チャルダッシュも一緒に。

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「本もんのイクラだったら、丼にして食っちまうんだけどなァ」
　深夜の浜辺。残念そうに音が言う。
「ま、十分気をつけて……だね」
「水中呼吸使って効率よくいこう。念の為周囲の警戒もして、万が一の場合は撤退も考えてね」
　霞が言った。
「オッケー、効率よく、だネ」
　ポンパドールは水中用のヘッドライトを着用。
「ちゃんとガイオウガさんに吸収してもらって、明日も楽しんで帰りましょう。サイキックなんて当てたりしたら大変です」
　りねが言い、
「そうですね。慎重にやりましょう」
　リィザは早速、恭輔を連れて颯爽と海へ潜っていく。
「このほかほか感がなくなってしまうのだけは、寂しいですね」
　少々温泉気分で翠が言う。着ているのは、『翠』色のフリルビキニ。
「ほんと温泉みたい」
　ミルドレッドも足をつける。ミルドレッドは今年新調した水着。胸は本人の言うとおり永遠の膨らみかけではあるが、細い紐のようなリボンとリングがあしらわれた黒ビキニはセクシーとキュートが共演中。首元にもチョーカー風に、銀髪ツインテールにもリボンが飾られ、浜辺に脱いだサンダルも揃いのデザインだ。
「ちょっともったいないけど仕方ないね。温泉はまた別に行こう？」
　肩までつかって微笑み合い、ミルドレッドと翠も一緒に潜っていった。

作者：森下映	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年8月23日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 2
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