臨海学校2016~別府湾が、温泉

    作者:草薙戒音

    「ここんとこの海はどうしたんだろうな……」
     別府湾に面したとある漁港。見た目だけは常と変わらない港内の海面を見遣りながら男が呟く。
    「びっくりするぐらいあったかいんだよなぁ。夏場にしたっておかしいよな」
    「どっかに温泉が沸いてたりして」
     もう一人の男が応じ、別の若い男が茶化すような口調で言う。彼らは漁師だった。海の異変には敏感だ。
    「だったら温かいのはその部分だけだろうよ。湾全体が温泉みたいになってるんだぞ?」
    「でも魚は元気だぜ? むしろ前より元気だし大きくなってる。いいことじゃないか」
     楽観的な若い男に年長の二人が顔を顰める。
    「馬鹿いうな、余計におかしいじゃないか。これだけ水温が上がったらここらの魚なんて弱るのが普通だ」
    「そうそう。それにもっと上がるかもしれない」
     言われて、若い男も少々不安げな顔になる。
     海面で、大きな魚が勢いよく跳ねた。
    「……なんか悪いことの前触れじゃなきゃいいが」
    「大分県の別府湾が温泉のようになってしまったそうだ」
     集まった灼滅者を前に一之瀬・巽(大学生エクスブレイン・dn0038)が切り出した。
     原因は別府湾の海底に現れた直径一メートルほどの『ガイオウガの力の塊』。一つ二つならばまだしも、かなりの数が別府湾の海底を漂っている。
    「海の生物なんか真っ先にダメージを受けそうなんだけれど、ガイオウガの力は生命を活性化させるから……魚がやたら元気になったり巨大化したりし始めている」
     放っておけば近隣住民や漁師に被害が及ぶかもしれない。
    「それで、だな。別府湾にある『糸ヶ浜海浜公園』で臨海学校を行うことになった」
     臨海学校のついでにこの問題を解決してしまおう、というわけだ。
     具体的には『ガイオウガの力の塊』を海底から回収し、鶴見岳まで護送する。回収には全員であたり、護送には有志を募ることになるだろう。
    「ガイオウガの力の塊は鶴見岳に運び込めばガイオウガに吸収されて消滅する」
     ただし、サイキックを使用して攻撃するとイフリート化して襲い掛かってくる、注意が必要だ。
    「ガイオウガの力の塊の回収作業は深夜に行うことになる。日中は海水浴をしたりしながら海底の探索を行ってほしい」
     海中には活性化の影響で巨大になりすぎてしまった海洋生物もいる。
    「灼滅者ならなんの問題もなく倒せる敵とすら呼べないような相手だ。でも一般人にとってはそうじゃない……そいつらも駆除してくれ」
     活性化した海洋生物はその影響からか脂が乗り非常に美味なんだとか。キャンプの夕食にいいかもしれない。
    「今年の臨海学校は、別府湾の海底に沈んでいるガイオウガの力の塊を探し出して回収して、処理をするのが第一目的」
     ちなみに、臨海学校のスケジュールは以下の通り。

     8月22日(月)、午前。羽田空港から大分空港へ、別府観光をしてからキャンプ地である糸ヶ浜海浜公園に向かう。
     同日、午後。糸ヶ浜海浜公園到着後、別府湾で海水浴(ガイオウガの力の場所確認)。
     同日、夕食。飯盒炊爨(別府湾の生命力の強い海産物を食べよう)。
     同日、夜。花火。
     同日、深夜:ガイオウガの力の塊の回収(引き上げ)作業。

     8月23日(火)、未明。ガイオウガの力を鶴見岳へ輸送(有志)。
     同日、朝。朝食および後片付け。
     同日、午前。別府湾で海水浴(危険そうな海産物の捜索と駆除)。
     同日、昼。大分空港から武蔵坂に帰還。

    「もっとも、ガイオウガの力の塊をわざと攻撃したりしなければ戦いにはならないし……例年の臨海学校に比べれば安全だと思う」
     言いながら、巽は臨海学校のスケジュールを印刷した紙を灼滅者に手渡す。
     海浜公園内は武蔵坂学園の貸切で、公園内施設は自由に使用できることになっているようだ。
    「ガイオウガの力の塊の護送は有志に任せることになる。特に問題は起こらないと思うけれど、こっちに行く人は念のために気をつけて」
     基本はガイオウガの力の塊の回収だけれど、と巽は続ける。
    「ガイオウガの戦力を減らすためにあえてイフリート化させて灼滅する、という手もある。そのあたりは皆の判断に任せるよ」
     伝えるべきことは伝えた、ということだろうか。巽は軽く頷くと改めて灼滅者たちを見回した。
    「事件の解決も大事だけれど、折角の臨海学校だ。どうか楽しんできてほしい」


    参加者
    香祭・悠花(ファルセット・d01386)
    橘・清十郎(不鳴蛍・d04169)
    伊勢・雪緒(待雪想・d06823)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    琶咲・輝乃(紡ぎし絆を宝と想いし者・d24803)
    水無月・カティア(仮初のハーフムーン・d30825)
    神御名・詩音(神降ろしの音色・d32515)
    サーシャ・ニコラエヴィチ(小学生サウンドソルジャー・d32725)

    ■リプレイ


    「学園祭での水着姿は記憶に鮮明に残っているけれど」
     眩しそうに目を細める橘・清十郎(不鳴蛍・d04169)。けれどそれは、夏の日差しゆえではなかった。
    「この開放感の中で見る雪緒の水着姿、改めてとても可愛いよ!」
     彼の目の前には、水着に着替えた伊勢・雪緒(待雪想・d06823)の姿が。
     満面の笑みを浮かべて彼女を賞賛する清十郎。実際、中華風の青いセパレート水着は浜辺でよく映えて見えた。
    「あ、ありがとうございますです」
     どぎまぎと少し照れながら雪緒が答える。
    「せ、清十郎も素敵なのですよ!」
     やはり中華風の、翠色ベースのサーフパンツ姿の清十郎。とてもよく似合っているのだが……ほんの少しだけ頬を赤らめ、雪緒は清十郎から僅かに視線を逸らす。
    (「やっぱりドキドキします」)
     理由は単純、彼が最愛の人だから。好きな人の半裸姿となれば、心臓が高鳴るのも仕方がない。
    「さて、探索にしゅっぱーつ!」
     浜辺に集う男たちの視線にさり気なく気を配りながら、清十郎は雪緒を波打ち際へと誘う。
    「どれくらい泳げるようになったか確認だー」
    「プールや入り江で練習した成果を発揮するときですね!」
     ぐ、と握り拳を作りやる気を見せる雪緒。はてさて、その結果はいかに――?

     ガイオウガの力の塊の探索を兼ねて入った海は温かく、普通の人間が長時間使っていようものならのぼせてしまうのではないかと思うほど。
     その馬鹿げた力に、神御名・詩音(神降ろしの音色・d32515)は半ば呆れ顔。
    「漏れただけでこれですか。ガイオウガさんは眠ってても元気なんですね」
    「そうですね。でも、刺激しなければ大人しいみたいですし」
     答えるのは水無月・カティア(仮初のハーフムーン・d30825)。二人から少し離れたところには、清十郎に伴泳されながら泳ぐ雪緒の姿がある。
    「おー、大分上達したなー! もうそれだけ泳げれば十分だー」
     最初こそ少し心配そうに付き添っていた清十郎だったが、雪緒の泳ぎはかなり上達していた。スピードこそゆっくりだが小さな入り江などではなくそれなりに広い湾での遠泳ができるようになったのだ、十分すぎる成果といえるだろう。
    「先生の教え方が上手いのですよー!」
     彼と一緒に泳げようになったことがよほど嬉しいのだろうか、雪緒はニコニコとご機嫌だった。
    「自由に泳げるようになると更に楽しいですね……!」
     それぞれに海を泳ぎながら、ガイオウガの力の塊を探す。
    (「――あれ?」)
     最初にそれに気付いたのは、潜水していた詩音だった。海から顔を出すなり、周囲を探索する仲間に声をかける。
    「あれじゃないですか?」
     海中を指差す彼女。その先にはうっすらと赤く光る何かがあった。
     実際に海底近くまで潜りその光へと近づいてみれば、聞いていたとおりの巨大なイクラ状の塊が。
    「とりあえず目印つけとくな」
     先端に浮きをつけたロープを雪緒から受け取り、再び海に潜る清十郎。
    「引き揚げは夜、ですね」
     カティアの言葉に詩音が頷く。
    「もう少し探しましょうか。沢山あるみたいですし、他にも見つかるかも」


     ガイオウガの力の塊の探索を終えた灼滅者たちは、各々自由な時間を過ごしていた。
    「詩音さん、こっちです」
     カティアが詩音の手を引く。
    「最近忙しいですし、たまには夏らしいこともしないと……!」
     手を引かれるまま歩く詩音。
    (「ここのところ時間も取れなかったですし」)
     思い切り甘えてしまいましょう――そう、思っているのだが。
    (「この水着は似合っているでしょうか……」)
     カティアに見せるために新調した、赤いホルタービキニ。勿論、女性として自身を磨く努力は怠っていないしスタイルにも自信がある。とはいうものの……。
    「ふふ、詩音さん赤のビキニもよく似合ってますね」
     カティアはそう言ってくれるが初のホルタービキニで布面積も少なめとなると、やはり多少心配なわけで。
     なかなか晴れない詩音の心配に、カティアが困ったように笑う。
    「そんなに心配しなくても……」
     笑いながら、振り向こうとして。
    「……って、きゃあ?!」
     小さな窪みに足を取られるカティア。水着が似合うか否か、割と真剣に悩んでいた詩音も巻き添えにして、二人して砂浜に倒れこむ。
    「……あら? 押し倒されてしまいました」
    「す、すみません、転んじゃって……」
     詩音を見下ろす格好になったカティアが謝る。
    「あの、押し倒したかったわけではなく……」
     焦るカティアに、詩音がくすっと小さく笑ってみせる。
    「私は大丈夫ですよ。考え事していたら反応できませんでした」
     微笑む詩音の姿に一安心したところで、カティアは自分の手が何か柔らかいものを掴んでいることに気がついた。
    (「あ、カティアさんの手が……」)
     同時に、詩音も気がついた。
     つまり、カティアが掴んでいるのは詩音の……。
    「わーわーわー!! わ、わざとじゃないです! 本当です!」
     慌てて手を離し、カティアは訴える。
    (「胸を触られてしまいました」)
     動揺しつつも懸命に釈明するカティアを見上げながら、詩音は考える。
    (「少し恥ずかしいですが、誰も見てませんし」)
     周囲を見回し、人目がないことを改めて確認する。動揺しすぎて自分の上に乗っかったままのカティアの頭に手をやって、そのまま自分の顔へと引き寄せて――。
    「……ん……」
     重ねた唇を離して、小さく笑う。
    「お怪我がなくてよかったです」
    「詩音さんも、怪我無くてよかった……」

     ボール遊びをして砂遊びをして。疲れたら海の家で焼そばやカキ氷を食べつつ休憩して……夏の浜辺を満喫したらもう一度海の中へ。
     今度は足のつかないような沖ではない。水を掛け合ったりして一通りはしゃいだ後、清十郎は雪緒に背を向けた。
    「さて、もう一泳ぎするかー」
    「とー! なのです!」
     泳ぎだそうとした清十郎の背中に思い切り抱きつく雪緒。その背中の広さに、雪緒の心臓が大きく跳ねる。
    「おおう?! だがそれくらいでは止まらないぞー」
     ざぶざぶざぶざぶ。雪緒を背中に背負ったまま泳ぎ始める清十郎。雪緒の肌の感触に、早くなる鼓動――泳いでいればきっと気付かれないで済むはず。
    「雪緒と来れて良かったー」
    「ふふー、清十郎との新しい想い出のいちぺーじなのです!」
    「また一緒に大事な思い出が出来たなー」
     夏の海に、楽しそうな笑い声が響く。


    「大きな仕事の前にはしっかり遊ばないと!」
     夕食後。片手にバケツ、片手に市販の花火セットを持った香祭・悠花(ファルセット・d01386)がサーシャ・ニコラエヴィチ(小学生サウンドソルジャー・d32725)に声をかける。
    「サーシャ君花火やりますよー花火!」
     彼女が地面に広げた花火を覗き込んだサーシャが選んだのは、オーソドックスな手持ち花火。
     花火の先端に火をつければ、シャワワ……と音を立てながら色鮮やかな炎の花が咲く。
     悠花が手に持ったのは、ねずみ花火。
    「よーし、コセイにねずみ花火でアタックです!」
     着火するなり自らの霊犬「コセイ」に向けてねずみ花火をポイ!
     シュルシュルと音を立ててくるくる回るねずみ花火に追い立てられて、コセイは慌てたように逃げ回る。
     その姿を見てふふ、と不敵に笑う悠花。
    「人に向けてはいけないとあっても霊犬に向け……にぎゃー!?」
     コセイの反撃を受け、悠花の言葉は途中で途切れた。
    「お姉ちゃん、コセイに向けてもダメだって」
     苦笑を浮かべるサーシャ。悠花が何か言おうとしたその時、ドーン! と大きな音がした。
     空を見上げれば、そこには大輪の花を咲かせる大きな打ち上げ花火が。
    「たーまやー!」
     打ち上がる花火にお決まりの掛け声。
    「やっぱり夏は花火ですねぇ」
     しみじみと言いながら花火を見上げる悠花に、サーシャが「お姉ちゃん」と呼びかける。
    「ん? サーシャ君、何……んっぅ?!」
     振り返りざまに重なる唇。
    「へへ、ごちそうさま♪」
    「……むー、お姉さんをからかうとは……」
     笑顔のサーシャに、頬を膨らませる悠花。
    「悪い子供はお仕置き!」
     サーシャの体をしっかりとホールドして、悠花は彼の顔に自らの顔を近づける。
    「ふふ、お姉さんが大人のキスを教えてあげましょう……?」
     小さく笑って、口づけを。
    「お姉ちゃん、大好きだよ」
    「私も大好きですよ」


     夜更け――灼滅者たちの姿は海上にあった。臨海学校のメインイベント「ガイオウガの力の魂の回収」を行うためである。
    「輝乃、大丈夫か?」
     白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が琶咲・輝乃(紡ぎし絆を宝と想いし者・d24803)に問いかける。
     実は、彼女はカナヅチで……昼間の探索中はずっとジュンにくっついていた。
    「無理はするなよ?」
     引き揚げ作業が始まれば、ぴったりとくっついているわけにはいかない。自分を気遣うジュンの言葉に、輝乃は頭を縦に振ってみせる。
    「うん、大丈夫。一応、水中呼吸も用意したし」
     そう言う彼女の体には、一本のロープが括り付けられていた。そのロープに一定間隔で付けられたサイリウムが、戻る際に向かうべき方向を教えてくれるはずだ。
    (「九州はただでさえ暑いのに」)
     後方を振り返り、海面に転々と浮かぶサイリウムの光を確認しながら輝乃は考える。
     ガイオウガの力の塊の影響を受けた海は、深夜になっても温泉のような温かさのまま――昼の暑さを思えば正に灼熱地獄、海で涼を求めるどころの話ではない。
     昼間につけておいた目印代わりの浮きを確認し、灼滅者たちは顔を見合わせた。
    「それじゃサーシャ君、灼滅者のお仕事といきましょー!」
     半人半蛇の姿になったサーシャに声をかけ、悠花が潜水を開始する。
    「雪緒はロープ掴んでてくれよな」
    「輝乃もそれ持って待っててくれ」
     言い置いて、清十郎とジュンも海の中へ。
    「慎重にやりましょう」
    「そっと、そっと、ですね」
     海上に残る二人に周囲の警戒を頼み、カティアと詩音も後に続く。
     海底で赤く光るガイオウガの力の塊。完全に着底しているわけではないらしく、潮の流れに合わせて微かに移動しているように見える。
     清十郎が用意した大きな網をガイオウガの力の塊に被せ、その上からロープを回す。
    (「そっとですよそっと」)
     目で合図を送る悠花に頷き、ロープを受け取ろうとするサーシャ。
     慎重に、でも出来るだけ急いで――。
    (「あ」)
     するり、とサーシャの手から逃げるロープ。慌てて手を伸ばした彼の指先が、悠花の水着を引っ掛ける。
    (「ちょっとサーシャ君、何してますかー?!」)
     ゴボゴボと悠花の口からあふれる大きな泡。
    (「ご、ごめんなさい?!」)
     やっぱり大きな泡を口から出しながらぺこぺこと頭を下げるサーシャ。
    (「はいはい、二人とも落ち着いてくださいね」)
     二人の肩をぽんぽんと叩き、手早く作業を済ませる詩音とカティア。
     ロープがしっかりと固定されたことを確認すると、ジュンは頭上へと繋がれたロープを軽く引っ張り海上で待つ二人に合図を送る。
    「あ、終わったみたい」
    「引っ張ってみましょうか」
     海上の輝乃と雪緒も手伝って、ガイオウガの力の塊を引き揚げる。
     やがて海面に顔を出したガイオウガの力の塊は、赤く透き通るような輝き放ち……本当に巨大なイクラのようだったと、誰かが言ったとか言わないとか――。


     海中から引き揚げられたガイオウガの力の塊は有志によって鶴見岳に運ばれる手筈になっていた。
    (「ほんと、毎年変なオプションが付くよなー臨海学校って」)
     塊を荷台に乗せる手伝いをしながら、ジュンは思う。
     今年はレクリエーション(海底からの塊サルベージ)とバーベキュー(という名の危険物処理)、それでも戦闘がないだけ例年よりも臨海学校らしいとかなんとか……。
     荷台に乗せた塊にシートを被せたり、ロープで固定したり。移動の準備が完了すると、護送集団は鶴見岳目指して移動を開始する。
     荷台に乗らなかったガイオウガの力の塊を直接手で抱えて運ぶ者もいる。護衛の灼滅者も徒歩で周囲を警戒しつつ進んでいることもあって、移動の速度はさほど早くはない。
    「ガイオウガの力って、スゴイね」
     移動を始めてまもなく、輝乃がポツリと呟いた。
    「力が滲み出ただけで、別府の海をあんなふうに変えるのだから」
    「そうですね」
     おかげで水中にいる時は気が楽だったけど――そう言う輝乃に同意しながら、ジュンは周囲を慎重に見回す。
    「何事もなければいいのですけど……」
     ジュンは魔法少女を思わせる戦闘用コスチューム姿。それに合わせて口調も女性らしく変わっているが、そういうものだと知っているらしい輝乃はあまり気にしていなかった。
    「これだけの力の塊、イフリート化したりしたら大変だもんね」
     彼の言葉に同意して、彼女は望遠鏡を左目に当てて索敵を繰り返す。
    「他のダークネスに奪われても面倒になりそうですから。それに――」
     ジュンがほんの少しだけ遠い目をする。脳裏に浮かぶのは、学園に保護されたとあるイフリートの少女の姿。
    「何としてもガイオウガの力を無事に鶴見岳まで運びたいですね」
    「うん。頑張ろうね」
     ジュンの顔を見上げ、輝乃がにぱ、と笑った。

     どれくらいの時間がかかったのだろうか。ガイオウガの力の塊の護送集団は、何事もなく無事鶴見岳に到着した。
     車両が入れない山中へと、自分たちの手で抱えてガイオウガの力の塊を運び込む。
     山中をある程度歩いたところでジュンと輝乃はお互いの顔を見合わせ、それぞれが抱えていたガイオウガの力の塊を地面に置いた。
     地面に触れた塊は、まるで氷が溶けるかのように溶けてだんだんと小さくなり……やがて完全に消滅した。


     夜が明けて、日が昇る。
     ガイオウガの力の塊への対応が終わっても、今度は「巨大海産物の駆除を兼ねた海水浴」という武蔵坂学園らしいレクリエーションが待っている。
     ――臨海学校が終わるまで、もう少し。

    作者:草薙戒音 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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