●海底の太陽
太陽が海に沈む様を、人はありがちな光景と知る。
それが本当に海の中へと沈んでいないことも、常識として。
けれど、熱を放つ赤色の塊が美しい海の中を漂う様を見たなら、小さな子供なら太陽が落ちていると勘違いするのではないだろうか。
熱を発し、冷たい水温すら飲み込んでゆく、その塊を見たならば――。
●臨海学校
「今年の臨海学校、大分県の別府湾に決まったよ。糸ヶ浜海浜公園を学園で貸し切って、キャンプだって。別府観光、飯盒炊事、花火もできるし」
ひらりと、案内書を取り出す仙景・沙汰(大学生エクスブレイン・dn0101)の表情が、どことなく作り笑顔っぽいと思ったら。
「で、ついでに鶴見岳に行く有志も求む、ってことで――」
ですよねー。っていう、言葉なき言葉を、レキ・アヌン(冥府の髭・dn0073)はそこはかとなく漂わせた。
「毎年のことだからということで、どうか手を貸してもらえるなら助かるよ。まぁ鶴見岳云々というのはお察しの通り、ガイオウガがらみなんだよね」
沙汰の話によると、大分県の別府湾の海水が温泉のようになっているらしい。
その原因が、海底に出現した、ガイオウガの力の塊なのである。
「この、ガイオウガの力の塊が、別府湾に一つや二つじゃなく、それなりの数が揃っているみたいだよ」
正式な数は、現地に行ってみないとわからない部分があるが、その力の影響から、温泉のようになっているというだけでなく、魚が巨大化しているなど、地元の漁師さんの生活にも、少しずつ影響が出はじめているようだ。
「ガイオウガの力の塊を引き上げ、鶴見岳に運び込めば、ガイオウガに吸収されて消滅するみたいだから、臨海学校の傍ら、その調査、引き上げをお願いしたいんだ」
ただし、サイキックで攻撃するとイフリート化して襲い掛かってくる。ガイオウガの力を少しでも削ぐ、というならば攻撃を仕掛け、灼滅させる事も一つの解決方法だろう。
「ガイオウガの力の塊の引き揚げ作業は深夜に行ってね。日中は海水浴などをしつつ、海底の探索などを行ってほしいんだ」
日の光を強く浴びてしまうと、その影響でそのままイフリート化してしまう。海上という不安定な戦場、逃がす要因にもなりかねない。周囲の危険を考えるとそれが最善らしい。
「で、海洋生物が力の塊の影響で活性化し、中には巨大化してしまったものもいるみたい。灼滅者の敵では無いけれど、一般人には危険かもしれないので、出来れば駆除してほしいんだ。活性化した海洋生物は、総じて、脂が乗っていて美味しいようなので、キャンプの夕食にもってこいかも」
「え!? もしかしたら超巨大なマグロがいて、大トロたくさん食べれるよ! っていうことですか!?」
目をきらきらさせているレキに、沙汰は頷きながら。
「うん。もしかしたらいるかも? 或は巨大ホタテとか、巨大ヒラメとか、巨大シャコとか」
「うっ、巨大なシャコ……」
いえ美味しいんでしょうけどね、戦う際の見た目的意味で、とレキ。
「あ……ごめんね?」
あーゆーの駄目なのねと沙汰。
ともあれ。
「で、タイムスケジュールはこれね」
手にしていたパンフレットを、一人一人に。
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・8月22日(月)
午前:羽田空港から大分空港へ、別府観光をしてからキャンプ地である糸ヶ浜海浜公園に向かう
午後:糸ヶ浜海浜公園到着
午後:別府湾で海水浴(要・ガイオウガの力の場所確認)
夕食:飯盒炊爨
夜 :花火
深夜:ガイオウガの力の引き上げ
・8月23日(火)
未明:ガイオウガの力を鶴見岳へ輸送(有志)
朝 :朝食、後片付け
午前:別府湾で海水浴(危険そうな海産物があった場合、駆除)
昼 :大分空港から武蔵坂に帰還
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場合によっては戦闘がない臨海学校。引き上げなどの力作業はあるものの、海の掃除のボランティアくらいに思えば、わりとフツーの臨海学校になるはずだから。
折角の臨海学校だから是非、楽しんでこよう!
参加者 | |
---|---|
十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576) |
迫水・優志(秋霜烈日・d01249) |
羽柴・陽桜(ココロアワセ・d01490) |
夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486) |
諫早・伊織(灯包む狐影・d13509) |
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788) |
葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789) |
フリル・インレアン(小学生人狼・d32564) |
●ウミイロ遊び
真夏の光を浴びて、きらきら輝く海原。
フリル・インレアン(小学生人狼・d32564)とレキ・アヌン(冥府の髭・dn0073)は、準備を兼ねて、マリンブルーの世界の大冒険。
勢いよく飛び込んだ温水の中、しばし目を閉じ海流の成すがままに身を任せていたフリル。
ゆっくり目を開いたなら、天へ帰ってゆく泡の数が次第に消えてゆく向こうに見えた色彩は、黄色や青の流線美。
綺麗――という溜息は、気泡と共に海へ溶けて。
「あ、おっきいお魚さん」
巨大なコブダイに、フリルは圧巻。寄ってきた黄色い魚にくすぐったそうに目を細め。
「まるで僕達が小さくなった気分っ」
クマノミもいるよーと、はしゃぐレキ。
「レキお姉さん、あのお魚さんのあとを追いかけてみませんか?」
勿論頷くレキと一緒に、美しい青をきらめかせる魚群を追いかけて。
透明度の高い世界、酸素ボンベさえあればどこまでもいけそうな気がして――360度、生き物が飛びまわる世界の雄大さに、フリルは感激しながらついつい仕事も忘れて。
けれど戒める様に、海底からやってくる、不気味な気配はお約束。そして仲良く悲鳴を上げる女子二人!
食べられちゃうーと、駆除っていう方法も忘れ、鮫と鬼ごっこ。
「海底の岩などにしがみついてやり過ごすといいと聞いたことがあります」
入り組んだ奇岩の迷路の中をくぐっていたら。熱を放つ、珠一つ。
「はっ、これはもしかしてガイオウガさんの力の塊、でしょうか?」
「そうだよきっと!」
やったねと、二人でキャッキャ。ブイを浮かべれば、任務も完了!
ちょっぴりファンタジックな大冒険は、二人の思い出。
●BANGOHAN!
湾に落ちる茜色。
潮風に着流し揺らし、竿背負って。狐面を腰に従える諫早・伊織(灯包む狐影・d13509)は、何処か懐かしい景色に溶け込むように。
「綺麗やねぇ……」
ふと足止め、日を映し炎のように揺らぐ海面と、宵が差してゆく海色の深さに、留守を預かる灯ともいうべき相方の瞳を重ねた。
「イフリート、いうかガイオウガの生命力の賜物、かねぇ――」
本日の戦利品を見ながら、土産もこしらえてやろうかと、伊織は仄か唇に綻ぶ彩を差した、ものの――瞳の輝きを見るに、どことなく複雑な想いが揺らいでいるように見える。
溢れんばかりの生命力の恩恵は、善悪を選ばないのだから。
「さてなに作ったりますかねぇ……」
さくさくと、砂を鳴らしながら。先にかまどに火をくべてくれているチームの元へと。
「ホントにどの位大きいんでしょうねー」
なんて言いながら、銛担いで和やかに海へと消えていった十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)と供助。二時間たった今、彼らのまな板には勝利の証、ぴちぴち跳ねまくっている普段の二倍はある鯵、鰈、鯖、海産物の数々!
「大漁っすね、センパイ」
包丁持ちながら、ほっくほくの笑顔している狭霧。刺身や海鮮丼にしたら絶対に美味いっすと、腹から綺麗に刃先を入れて。新鮮ぷりぷりの身を見ているだけで、みんなで食べる晩御飯が楽しみでしょうがない。
狭霧の手元を覗いた後、手際よく刃を入れていた供助が。
「つかさ……ここに昼捕まえたシャコが……」
こんにちはしている独特なフォルム(しかも巨大)に、狭霧硬直。
挑戦、する? と尋ねる供助。空気読んだように、シャコがシュッシュとパンチ繰り出し。
波の音をやけに遠く感じながら狭霧は天を仰いだ。
「他んお人らとも協力してごはんとか作るんは楽しそうやね」
その人の家の味、土地の味。これだけ人がいると、食の彩りも楽しいものになりそうやねと伊織。
器用に魚の鱗を処理してゆく姿を見て居たレキが、伊織さんって京風の味付け得意そうですよねって、完全イメージで会話して。伊織はくすくす笑いながら、繊細に刃を引きつつ、お土産用の魚の処理。
「なんかリクエストあるんやったら、言うてなぁ。料理苦手な人おったら手伝いますぇ」
ことことと音を立てるかまどからしてくるいい香り。
そろそろご飯も炊き上がりそう。
「いやー、自分で捕って捌くと美味しいっすね! やっぱり新鮮な魚は味が違う」
シャコなんていなかった。
狭霧はもりもり刺身をお口に運ぶ。しかも皆でお皿を囲むなら、自然と生まれる会話、やっぱりこういった雰囲気が好き。
そのお刺身を勧められ、供助もパクリ。
「うめえ! じゃこのシャコの山葵醤油も食ってみ」
やっぱりシャコがいなかったなんてことは無かった。笑顔のまま固まる狭霧、冗談だと笑いながら供助は自分でパクリしつつ、引き上げ前に、パワーつけて行けよと美味しい平目を差し出して。
「ありがとうございます、センパイ」
気遣いに感謝しつつ、まずは平目を頂いて。
狭霧は思いきって供助の手作りシャコ料理、恐る恐る口に入れたら。
「……美味しい!」
山葵の爽やかさと、取れたてのシャコの触感と旨みは格別。
気が付けば、すっかり日の落ちた浜辺。
そろそろ、花火が始まる時間――。
●昇花
濃紺の空に華やかな光が綻んだ。
一緒に見つめているというのに、夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)は落ち付かない様子で。
いつも通り言葉などなくてもいい――のに。だからこそ、余計な事を考えてしまう。
(「アイツにはしたのに、シキには出来てなかった……」)
必要ないと思っていた。キスなんてなくても、自分たちの誓いは揺るがないはずだ、と。
(「けど誰よりも囚われてたのは俺だ――」)
見ているのが儚いものであるなら尚更、あの時聞かされた詞貴の寿命の話が浮かんで。
誓いさえも蝕む世の無常。歯痒い思いは消え去ることはなく――。
隣を見る。
相も変わらずの顔が、刹那的な輝きに浮ぶ。だから余計に、迷ってなんかいられないのだ。
(「オマエがいなくなるかもしれない、その前に」)
せめて自分が少しでも、繋ぎとめられる楔になれるなら――。
手をきつく繋ぐ感触に、詞貴は視線を向けた。
落ち付かないのは知っていたから、治胡自身がそれをまとめるまで、下手に言葉を向けたりしなかった。
「いつもオマエからだっただろ」
今日は俺から、と笑う治胡の表情。
(「不器用な笑みだ。不安が隠せていない――が」)
そういう所も愛らしいと、詞貴は思う。
「お前は存外受け身だからな」
何をしたいか、何を怖れているか、全てわかっていてもそれについて語るには、今、詞貴にも治胡にも言葉が足りない。
だからそこには気付かないふり。あのさァと顔伏せつつ零す一言にどれだけの葛藤があったのかも。
「目、閉じて」
無愛想に頼んだかと思えば、不意打ちだのかわすだの、何かにつけて言い訳のような文句のような言葉をつらつら並べるものだから。
今は望みの儘に目を瞑る。
ほんの僅かな距離にすら、躊躇いがちの唇が触れたなら。
引き寄せ、熱くかわし、そして耳元に囁く。
――お前程色鮮やかに燃え咲く物はないから。
着替えてくるね、とだけ伝えて。コテージへと戻っていった葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)と一旦別れて。
待ち合わせなんて久し振りのような気がするのは、いつも一緒の時間が多いからだろうか。けれど一人待つ新鮮さも、たまにはいいねとエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)は思いながら。その愛らしい姿が現れるのを待っている。
「えあんさん♪」
そんなエアンの背中、人ごみの中でだって見間違ったりすることはないから。折角結った髪が崩れないように、ゆっくりめに走っていたのに、振り返るその柔らかな微笑に思わず、おまたせ♪ と元気よく飛び込んじゃって。
「もも、転ぶよ」
エアンは受け止める様に手を伸ばし、引き寄せて。腕の中から見上げるいつものあどけない顔も、結いあげた髪のせいか大人っぽくて。紺地に、淡い光を描く蛍が舞い、月の光のような柔らかな帯を流しているのも、いつものふわふわ優しい雰囲気とはまた違う新鮮さ。
「浴衣も似合ってるね」
昼間の水着も勿論、というのは言外に含め。
「えへっ♪ えあんさんにそう言われると嬉しい」
浴衣に込められたおねだり――秋に蛍狩りに行きたい気持も、気付いてくれているといいな、なんて。
当り前のように指を絡ませ、花火がよくみえる見える場所へと。
天へ咲く大輪、零れる煌めきは波の揺らぎに黄金色を引いて。
打ちあがる美しい刹那の美を、エアンと百花は魅入る様に。
「綺麗だな……」
エアンが独り言のように微か呟いたなら。百花は絡めた腕の力を少し強めた。
弾ければ消えてゆく輝きと一緒に、エアンの声まで消えてしまいそうだったから。
感触に気付き、傍らの百花を見下ろして。その淡い頬を染めては瞬く間に消える刹那の輝きに、ふと、考えてしまう――。
(「いつまで一緒に居られるんだろうか……」)
永遠なんてこの世に存在するのだろうか。言葉は美しく、想いが純粋なものであればそれはきっと尊きものであるのに――咲いては消える花の煌めきを、君と見ているというのに漠然と浮かぶ不安、幸せすぎる故にある失う事への怖れ、なのだろうか――。
「えあんさん」
そんな不安をかき消す様に、花火とは全く違う、消えない笑顔は其処に在って。
「ねぇ、もも」
「なぁに? えあんさん」
「秋になったら、蛍狩りに行けたらいいね」
「うんっ……♪」
咲き乱れる炎。散りゆく光の雨を近くに感じながら。
絡めた腕から伝わる熱を、二人は感じながら。
新しい思い出を重ねゆく――。
●日輪の珠
「あそこだな」
光源の反射を確かめながら、先頭を泳ぐ迫水・優志(秋霜烈日・d01249)。事前に設置した蓄光式のブイを目指し、闇が溶けた海を泳いで。
近づけば、暗黒の海の中に仄かに灯る焔の輝き。それは海底に光る星、まるで小宇宙のよう。
「……ホント、太陽が墜ちたみたい」
狭霧は、炎が揺らぐように、穏やかな波の揺らぎに揺れる赤とも橙ともとれるその塊を下に見ながら独りごちた。
太陽をイメージするままに、生命に生き生きとした活力を与えてはいるのだろうが。どうも色々な組織にとって奪いやすく利用しやすいという点から、その力を狙う者もいるという事実。
「こんな物騒な太陽なんて真っ平御免っすよ」
「お天道さんは、空にあるので充分ですわ」
さっさと引き上げましょという、狭霧と伊織の声が微妙にハモったりして。
「細心の注意はらっていきましょうや。ボートへの引き上げはオレがやりますえ」
浮力の手助けがある海中より、引き上げる時の方が力仕事。伊織は引いてきたゴムボートに載せる仕事をメインに。
次々と水音を立てて消えてゆく、仲間の背。ちょっぴりどきどきしているフリル。
「うぅ……さすがに昼と夜とでは、海は違いますね……」
「僕、泳ぐのは得意だからっ!」
レキはなんかあったら、すぐに合図してとお姉さんらしく。
「じゃ、せーので行こ」
羽柴・陽桜(ココロアワセ・d01490)もレキと一緒に頷き、そしてその手を繋ぐために海面へと手を延ばしたなら。
遠い海岸の灯に闇色に艶めく水の糸が際立つ。
(「この絡んだ糸が解けた時、最後にこの手に在る糸は何でできているんだろう――」)
陽桜は指の隙間からほどけてゆく様を見ながら、どうか、ガイオウガとココロが繋がった一本の糸であればいいのに、と。
暗い海の中でも、やっぱりその背を見失う事なんてない。
あとを付いてゆくように、一生懸命海底を目指す百花を、エアンは気遣うよう振り返れば。光源を弾く鱗と泡の向こう、泳ぐ彼女は人魚みたい。
――疲れていない? 大丈夫?
指でサインを描いたら。
――へいきよ、えあんさん♪
すぐに返ってくる指先に、エアンは微笑み返して。
程なくして辿り着く、力の塊の姿。まずは一つと、優志は注意深く抱え上げる。
(「どうだろうか?」)
出来る限り身軽に集め回りたいのが本音。優志はエアンのアイテムポケットへと差し出してみたが、
(「――難しいみたいだね」)
もしやイフリートでもあるからかなと、エアンは思考し、けれどポケット自体は引き上げ道具の持ち歩きにとても便利でしたとフリル。
ならば、一つ一つ伊織の待つ海上へ運ぼうとしたら。
巨大なシャコがコンニチワ☆
これも駆除なり朝ごはんなりにしなければならない相手。お勤め頑張る、という百花の気合いは良かったものの……無駄に足をざわざわさせ、自慢のジャブで威嚇中のシャコさんの視覚的テロ!
「……えあんさんっ あの脚、やっぱりダメっ」
鳥肌浮かべつつ、百花はエアンの背中へ避難!
美味しい発見はしたものの、リアルで動いているのはやっぱりアレだなと、遠い目の狭霧。
そんなシャコをアッパーの一撃のもと沈めたのは他ならぬ治胡姉さんだった。
も一つ落ちているそれへ、そっと触れた治胡の指先に伝わる熱。
(「これは、誰かだった魂、そのものの輝きだったりするのかね」)
自害したイフリートはガイオウガへと至り――それから染みだしたこの塊を刺激すれば、イフリートと化す。
(「そう言う意味では、ソロモンやらに奪われるてのは、魂を奪われているってことになるのか……」)
純粋な力の塊を抱きしめながら。全なる一の幻獣の性を、身の奥に感じるには十分だった。
●焔、届けて
深緑が天を覆い、梢の隙間から瞬く光は今にも落ちてきそうなほど空は澄んでいる。
陽桜はレキと一緒に、運搬のお手伝い。有志たちが事前にトラックやリヤカーなどの用意をしてくれたから。それに乗らなかった分を二人で抱えつつ頂き目指す。
「まるで宝石ですね。しかもこんなにたくさん」
陽桜が振りかえったなら、艶めく塊が幾つも並ぶ様。すっごく綺麗と溜息漏れる。
「あたし達、何だか盗賊団みたい?」
「ホント、深夜だし、人目を忍んでいるし、ね」
二人は顔を見合せながら、くすり。
「レキちゃん、あたし、臨海学校に参加する前に、二人の炎獣さんをお見送りしてきたの」
お二人とも、とても素敵な方だったと話す陽桜。
「炎獣さん二人はしっかりお話を聞いてくださる方だったんだよ」
「うんっ。陽桜ちゃんの顔見ていたら、感触良かったんだなってすぐわかるよ」
ここに勇気を貰ったの、とはにかむように話す陽桜は、少しだけ前よりも前向きな心を持っているようにレキには見えたから。
「いつか、ガイオウガさんとも一緒にお話できたらいいなって。もしも、最終的に仲良くする事はできなくて戦う事になったとしても、その機会は欲しいなって――」
気が付けば、辿り着いた頂。
ほんのりと月明かりわ弾く塊を見つめながら、陽桜は思う。
全なる一の幻獣って、どういうことなんだろう。
どうしてイフリートは、ガイオウガさんの一部なんだろう。
この塊を返すことによって、どう変わってゆくのか――今はまだあの深夜の海のように何も見えないけれど。
「いつかまた、お会いしましょうね?」
大地に溶け消えてゆく一つの塊へと言葉を送りながら、陽桜はそれを願った。
●海と君と
砂浜へと向かいながら、昨日はお疲れさまと労いを掛けてくれる美夜へ、優志は微笑みを返しながら。有志らが目的を遂行できた報告を聞いたなら、残り僅かな臨海学校をお姫さんと、真っ当に気がねなく楽しむだけ。
程良い場所を見つけて、ビーチパラソルを開いてあげる優志。勿論美夜の為、なのだけど。見るからに準備運動をしている美夜を見て、一瞬優志は意味を飲みこめなかった。
そんな視線に気づいたのかストレッチしながら、肩越しに。
「もうカナヅチじゃないってとこ、優志にきっちり見せてあげる」
こっそり練習してたのよねと言いながら、優志の手を引き小波へと足を入れて。
「俺のお姫さんは努力家だなぁ……」
泳げない美夜をビーチに置いてく心配しなくていいから、そんな頑張り屋な彼女が愛おしい――なんて思っていたら。
「ほら、優志……手、ちゃんと掴んでて」
スタートの手助けくらいは言われるまま。けれど、かなりぎこちないバタ足の後の、なんとなく前に進んだ泳ぎっぷりを大進歩とばかりの得意顔で言うものだから。
(「これはもう暫くは美夜をビーチに置き去りにする心配しなきゃいけないな……」)
思わずくすくすと零しつつ、そんな事を思っていたら。
「……すごく心外な事思われてるような気がしてならないんだけど?」
むすっとした美夜が、優志のほっぺをむにっと摘んで。
「美夜、俺、何も言ってない……」
まいったな、なんて思っても口に出しませんけれど。
「顔が言ってました」
女の勘の鋭さを目の当たりにした瞬間。
強くなり始めた日差しをパラソルで避けながら、二人は冷たい飲み物で一休み。
「そう言えば美夜って以前別府温泉行ってるんだな……」
その頃には顔も名前も知らなかったお姫さん。巡り合うことは日常的にある小さな縁が、末永きものであること等、人生の中で如何ほどあるのだろう。
「なんだか不思議な感じだよな、そう考えるとさ」
今では何よりも強い想いで繋がっている彼女へと、優志がそう零せば。時々考え方がおじいちゃんみたいなのよねと呆れる美夜。
「今は今を楽しむの」
もう片方のほっぺもむにっ。
「ああ、そうだよな」
確かなものなんてない。けれど今確かにある二人の時間。穏やかな波の音をバックに、優志は美夜へと寄りそって。時の許す限り、今はこの海を君と。
作者:那珂川未来 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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