臨海学校2016~あついぞでかいぞ別府湾!

    作者:朝比奈万理

     今年の夏は史上最も暑いと予測が立ち、やはりうだるような熱波が日本に居座る。
     この暑さでも、さすがに海が熱くなるなんてことはありえない。
     が、別府の海は違った。
     ゆらゆらと海面に上がるのは湯気で、海水温度は40度。この周辺の海の異変は、海水温の上昇にとどまらなかった。
     別府湾に面した海釣り場では、たくさんの釣り客が海に糸を垂らしていた。
    「父ちゃん、じいちゃん! 糸が引いた!!」
    「リールを巻くんだ、ひろし!!」
    「うん!」
    「ダイスケ、ちゃんとひろしを支えるんじゃ! ワシは網で掬うぞ!」
     ワクワク顔で釣竿を握ってリールをくるくる巻く息子の後ろで、父親も竿を支えてやると、そのすぐ隣で老人が網を構える。
     釣竿のリールを巻けば巻くほど、息子の握る竿が左右に振れて大きく撓る。
    「これは大物だぞ! ひろし、がんばれ!!」
    「うん、父ちゃん!」
     海中の魚影がギラギラ光り輝く。親子と祖父の汗がきらきら光る。
    「いまじゃダイスケ、ひろし! 持ち上げるんじゃ!!」
    「えいやっ!!」
     竿を振り上げてやっと引きずりだした獲物をみて親子は、いや、周りの釣り人も思わず目を丸くする。
     宙を舞ったのは、クサフグ。
     フグは一般人じゃ捌くことが難しい魚で、大きいもので15センチ程度。いつもなら釣り上げてしまったらため息交じりで海に帰す代物だ。
     だけどそのフグは違った。風船のようにぷくーと膨れるその姿は、特大のバランスボール。
    「で、でかくね!?」
     巨大クサフグは青空に悠々と浮かぶ風船のようだ。
     ――と、ぶちぃと釣り糸を引きちぎると、たぷんと海面に落ちる。
     いまだぷっくり膨らんでたぷたぷと浮いているその姿は、まるで何かのアクティビティのフロートのようだった。
     あついぞでかいぞ別府湾。

    「大分湾の海が、いい湯加減らしいぞ」
     うさぎのパペットに持たせたうちわをパタパタさせて、浅間・千星(星導のエクスブレイン・dn0233)が汗で引っ付く前髪を掻き上げた。
     こんなに暑いのに、海まで熱くなるとは。とボヤキ節だ。
     原因は、海底に出現した『ガイオウガの力の塊』。それをどうにかするため、今年の臨海学校は別府湾の糸ヶ浜海浜公園で行うことになったのだ。
    「ガイオウガの力の塊は1メートルくらいのボール状で、表面温度は40度程度」
     そいつを鶴見岳に運び込めば、ガイオウガに吸収されて消滅するようだが、サイキックで攻撃すると、イフリート化して襲い掛かってくるらしい。
    「ガイオウガの力の塊の引き揚げ作業は深夜に行う事になる。なので日中は海水浴などをしつつ、海底の探索などを行ってほしい」
     また、ガイオウガの力の塊の影響で海洋生物が活性化し巨大化してしまった個体もいるらしい。
    「これらは皆の敵ではないが、一般人には危険かもしれないので出来れば駆除してほしい」
     そう告げた千星は。「あっ」と頭を上げた。
    「活性化した海洋生物は、総じて脂が乗っていて美味しいと聞いた。なのでキャンプの夕食にもってこいかもしれないな」
    「おおお、おさかな……」
     それを聞いた千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)が思わず言葉を漏らす。
     同時に花近のお腹が「おさかな食べたい」とばかりに鳴ったのは、周りの灼滅者と彼との秘密ということで……。
    「今回の臨海学校は、別府湾の海底に沈んでいるガイオウガの力の塊を探し出して引き上げ、処理する事だ。敢えて攻撃を行わない限りは戦闘は発生しない安全な臨海学校になるだろう」
     そう告げた千星はプリントを左手に持つと、ピットさばき。
    「臨海学校のスケジュールだが」
     8月22日。
     午前に羽田空港から大分空港へ。別府観光をしてから、キャンプ地の糸ヶ浜海浜公園に向かう。
     午後に糸ヶ浜海浜公園に到着。その後、別府湾で海水浴がてらガイオウガの力の場所を確認。
     夕食は飯盒炊爨。このときに海産物を料て食せるようだ。
     夜には花火を楽しんで、
     深夜にガイオウガの力の引き揚げ作業を行う。
     翌日、8月23日。
     未明にガイオウガの力を鶴見岳に運搬。
     朝は朝食と片付け後、
     午前中に別府湾で海水浴がてら、危険そうな海洋生物の創作と駆除を行い、
     そして昼頃、大分空港を発つ。
    「ということになっている」
     プリントを読み上げた千星は顔を上げると、教室内を見渡した。
    「ガイオウガの力の塊を鶴見岳に運ぶのは有志に任せる事になるが、ガイオウガの戦力を減らす為に、敢えてイフリート化させて灼滅するという方法もある」
     運搬か灼滅かは各自の判断によるだろう。
    「何よりも、別府湾の事件を解決しつつも臨海学校を楽しんできてほしい」
     と千星は、いつものように自信に満ちた笑みで灼滅者を送り出した。


    参加者
    垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)
    詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)
    神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)
    八重沢・桜(百桜繚乱・d17551)
    庭月野・綾音(辺獄の徒・d22982)
    七篠・零(旅人・d23315)
    秋山・梨乃(理系女子・d33017)
    茶倉・紫月(影縫い・d35017)

    ■リプレイ


     夕方。
     別府湾の海水に映りこむ空の色も、オレンジの色へと変わるころ。
     海中では灼滅者たちが、泳いで魚を捕らえていた。
    (「逃がさないんだよー! 待て待てー!」)
     垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)は、ガイオウガの力によって大きく元気になった魚を泳いで追いかける。
     シンプルな水着で海中を行く庭月野・綾音(辺獄の徒・d22982)と七篠・零(旅人・d23315)は水中呼吸を使って、息の合った連携を見せていた。
     水中ライトで暗くなりつつある海中を照らして、零が岩場まで魚や海老やイカを追い込めば、岩場の陰に隠れていた綾音が銛で捕らえる。
     こうして捕まえた小さめの魚介類は、腰に下げた大振りな魚籠に。
     大きな魚は麻縄の網で絡めて捕らえ。
    (「大きいお魚、花近君たちも喜ぶかなー」)
     零は陸上で待つ仲間を思って、ふと笑んだ。
    (「がっ、がうーっ!」)
     毬衣がもふもふイフリート水着の爪で巨大魚を引っ掛け、トドメとばかりにお腹に噛み付き。
     地味目の黒い競泳水着を色っぽく着こなしている秋山・梨乃(理系女子・d33017)も、魚やもさもさと異常繁殖を起こしている海藻を引っこ抜く。
     ……キャンプ場の炊事場ではグループの仲間と姉が料理に取り掛かっているはずである。
     適材適所。大事! 逃げてきた身としては、何としても成果を挙げねば!
     海藻を抜く梨乃の手にも力がこもる。 
     炊事場では、詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)と、八重沢・桜(百桜繚乱・d17551)が魚以外の食材の下ごしらえをしていた。
    「メニューはどうしましょう?」
     動きやすいようにカジュアルな服装の桜が問うと、沙月は口元に手を当てていたが、くるくると白いパーカーの袖をまくり始める。パーカーの中には青を貴重とした水着が覗く。
    「悩んだんですけど、臨海学校といえばカレーなので、シーフードカレーを作ってみようかと」
    「カレー、いいですねっ」
    「折角なのでサラダも海らしく海藻サラダにしてみましょうか」
     いつも自炊をしている沙月の料理レパートリーは、豊富だ。
    「シーフードカレーと海藻サラダ、海の幸いっぱいだね♪」
     炊事場の炉から声を上げたのは、Tシャツとハーフパンツに猫耳パーカー姿の千曲・花近(信州信濃の花唄い・dn0217)。桜が持参した新潟米がおいしく炊けるよう、彼女のご当地心が皆を笑顔に出来るよう、火加減を見守る。
    「おっきいの獲れたー! 料理よろしくだよ!」
     仕留めた巨大魚を抱えて毬衣がぺたぺたと炊事場にやってくれば、零と綾音、梨乃もそれぞれ捕らえた魚介や海藻を炊事場の調理台に並べる。
    「わ、たくさんですねっ。お疲れ様ですっ。ありがとうございますっ」
    「皆さんありがとうございます。魚もこれだけあれば、串焼きや網焼きにしてもいいかもしれませんね」
     桜が感嘆の声をあげて捕獲を担った仲間を労うと、沙月は目の前に並んだ魚を見定めた。
    「新鮮なお魚だし、お刺身も食べてみたいなー」
     ゆるりと笑んだ零が一品料理をリクエストする中、梨乃を待っていたのは、出刃包丁を握った姉・秋山・清美(お茶汲み委員長・d15451)。
    「梨乃、逃げましたね」
     笑顔の後ろに怖い影が見えるのは、何でだろう……!
    「べ、別に料理が苦手だから逃げてたわけではないぞ。そ、それぞれ得意な事をする方が合理的なのだ!」
     もっともな言い分を並べる妹・梨乃に、清美は小さくため息をついた。
    「まぁ、たくさん獲ってきてくれましたから許しましょう」
    「じゃぁ、魚を捌きましょうか」
     と、沙月と清美は、丁寧に魚介を捌いていった。
     出来上がる料理のいい香りの種類が増えていく。
     獲れたて新鮮なお刺身がテーブルに並ぶと、色とりどりの野菜と海藻のサラダがテーブルに花を添える。
     綾音が蒸らし終えたごはんを人数分のボウル型の紙皿に盛っていけば、沙月がカレーを丁寧に盛り付けていく。
     カレーのスパイスとハーブの香りに、シーフードがほのかな潮の香りが漂い、零が火の番をする串焼きの魚も、こんがりと香ばしく焼けていく。
     テーブルで全員分の割り箸を準備をしている毬衣の鼻にも、香りは届く。
    「美味しそうな香りがしてくるんだよー」
     出来上がった料理を運ぶ花近を呼び寄せたのは、桜が作ったアラ汁。出汁のうまみが湯気となって鼻腔をくすぐる。
    「おいしそうだね」
    「花近さん、味見して頂くことはできますでしょうか……」
    「うんっ」
     おたまで掬った汁を紙コップに流しいれた桜の頬は薄紅色。少し緊張気味だ。
    (「……お味、大丈夫かどきどきです……」)
     紙コップを受け取ってゆっくり啜った花近は笑顔でほぅっと息をついた。
    「おいしいっ」
    「本当ですかっ? よかったです……!」
     お墨付きに桜も安堵の笑顔。
    「桜ちゃん、いいお嫁さんになるねっ!」
     思わぬ言葉に再び頬が染まる桜の顔を見て、自分の言葉をリフレインした花近もはっと顔を赤らめたのは、アラ汁だけが知っている。
     ――程なくして。
     すべての料理がテーブルに乗り、いただきますの挨拶とともに皆そろって食べ始める。
    「新鮮なお魚はやっぱり美味しいんだよー」
     毬衣が脂が乗ったお刺身を幸せそうに頬張ると、綾音も串焼きの魚にかぶりつく。
    「本当に美味しいね。幸せー」
     魚介が好きな綾音にとって、今日の料理はすべて美味しい。
    「お姉ちゃんの料理は美味しいのだ」
    「梨乃やみなさんが、たくさん獲って来てくれたおかげですよ」
     幸せそうに食べる梨乃をみて、料理の腕を振るってきた清美も思わず笑顔。
    「皆で食材を獲ってご飯作って食べるのって、ちょっといいよねー」
     海藻サラダを頬張った零が笑むと、花近もうんうんと頷いた。
     アラ汁を啜って、沙月もほっとした表情を見せる。自炊の毎日なので、人に作ってもらった料理がとても体と心に染み入るのだ。
    「シーフードカレーもとっても美味しいっ」
     ごろっと大きいイカやエビや野菜は、中辛味のカレーに負けない存在感。
     美味しそうに頬にてを当てる綾音に、毬衣がうんうんと頷く。
    「カレーも美味しいけど、ごはんもおいしいんだよ」
    「ごはんは新潟のお米なんですよ」
     おいしそうにカレーとごはんを頬張る仲間たちの笑顔に、桜も幸せいっぱいだ。 
    「本当に、みなさんで食べるご飯はおいしいですね」
    「ねっ。美味しいし楽しい♪」
     焼き魚の身を端で丁寧にほぐして口に運ぶ花近。口いっぱいに潮の香りとうまみが広がる。
    「お魚、楽しみにしてらしたようですから、いっぱい食べてくださいね」
     桜が笑むと、花近は顔を赤らめた。教室内での呟きもお腹の音も全て――。
    「聞かれてたんだ……」
     恥ずかしがる彼を尻目に串焼き魚にがっつく毬衣。
    「お魚美味しいんだよー。お代わり!」
     たくさんの魚料理とシーフードカレー。そしてアラ汁に海藻サラダ。
     みんなでわいわい楽しく食べる。零いつものようににっこり笑んだ。
    「みんなが喜んでくれて、よかった」
     幸せな時間は、別府のマジックアワーとともに緩やかに過ぎていった。


     夜の闇も刻々と深くなっていき、別府湾の空にもきらきらと星が瞬く。
    (「しーくん、折角誘ってくれたのだから、今日は甘めな態度を……」)
     薄紫の浴衣に着替えた神乃夜・柚羽(燭紅蓮・d13017)が、ハーフアップにした黒髪を白いリボンとともに揺らしてその場所に着いた。
     だけど彼を前にすると恥ずかしさが先行してしまって、表情も硬くなってしまう。
     茶倉・紫月(影縫い・d35017)はそんな彼女を目の当たりにして、小さく息を呑んだ。
     浴衣姿、そしていつもとは少し違う髪形。
    (「可愛い。可愛い」)
     我が世の春。いや、今は夏。
     と、柚羽の手を引く紫月。彼女の後ろを行く人の波が、彼女を流して持って行ってしまわないように、大切に。ほんの少し、強引に。
     自分の後ろの人波に気が付いて、自分を護ってくれる優しい手。柚羽は繋がれたその手を、ぎゅっと握り返した。
    「ずっと離さないでくださいね」
     喧騒に掻き消されそうな小さな声も、わざと。柚羽がちらりと紫月を見上げると、彼は小首をかしげた。
    (「しーくん、聞こえてないですよね?」)
     大好きな女の子の声だ。聞き逃すはずがない。
     だけどあえて聞こえないふり。
     聞こえたって言ったら、恥ずかしがりやの彼女はすごい勢いで否定しだすから。
     だけど、柚羽の小さな呟きは、紫月の心の中で大切にリフレインされている。
     不意に二人の顔を赤々と照らしたのは大きな花火。
     揃って空を見上げれば、またひとつ、真っ暗な夜を照らす大きな花の輪。
     その花の前では星も輝きをひそめ、喧騒すら歓声に変わる。
     さりげなく自分に寄りかかってきた柚羽に、紫月は思わす彼女を見た。
    「なに見てるんですかっ。花火を見てください」 
     空を指して自分も花火を見上げる柚羽。
     本当は顔真っ赤。だけど花火の明るさが柚羽の頬の赤みを色を消して行く。
    (「手を繋いでいるだけじゃ、足りないんですよ」)
     そう、ずっと触れていたい。でもちょっと恥ずかしい。
     行動は正直になれた。だけど、恥ずかしさが勝ってしまって、態度が正直になれない。
     もう少し素直になれたら……。
    (「ごめんねしーくん。素直じゃなくて」)
     繋がれた手と寄り添った肩に伝わる暖かなぬくもり越しに、柚羽は打ちあがって行く光の線を目で追いながら心の中で呟いた。
    (「本当に素直じゃないんだから」)
     そんなところが可愛いし、好き。
     だけどたまに見せる、こうして自分に寄り添ってくれる部分は、行動で甘えてくれる部分はとても大好き。……愛おしい。
     繋いだ手と寄りかかる肩の暖かなぬくもりを感じながら、紫月は夜空に咲く花火を見ながら小さく笑んだ。
    (「ゆーさん、もっと素直になってくれてもいいのに……」)
     ね。
     と言わんばかりに、空には大きな花が咲く。


     昼間の海水浴中に灼滅者が見つけたのは、直径1メートルほどの巨大な球体だった。
     それが何個も何十個も海底に鎮座している。
     念のため。と、柚羽は殺界を形成させて、人払いを済ませた。
     灼滅者たちは、ボールネットの形状の網を用意していた。網の部分は海中で作業に当たる灼滅者たちが抱えながら海に入り、紐の部分は陸上で引き上げに当たる灼滅者たちがそれぞれ手首に巻き付ける。
    (「イクラ……じゃない。これがガイオウガの力の塊なのか」)
     ヘッドライトの先にあるそれはまるで、大きなイクラのよう。紫月は大きな網で其れを包みながらも、テレビのバラエティ番組で観た芸人の顔が頭から離れないでいた。
    (「一般人の方に被害が出ないよう、手早くお仕事を済ませましょう」)
     作業しやすいよう、競泳用の水着を着用した紗月は、網に入れた力の塊を細心の注意を払いながら引き上げていく。
     零は網に入れた力の塊を、ゆっくりと波打ち際まで押していく。
    (「ガイオウガの力の塊、触ってると暖かくて、なんか気持ち良い」)
     衝撃を加えないように、そっと。
     綾音は力の塊と網の間に、クッション代わりの海藻を挟む。この気配りは女子ならではであろう。
    (「とんでもない力があるのだな、ガイオウガは」)
     ゆっくりと波打ち際ぎりぎりまで力の塊を運ぶ梨乃は、改めてその力の凄さを感じる。
     水面が近くなることによって浮力を失い、どんどん重くなっていくガイオウガの力の塊。作業限界を見極めて海中の灼滅者は、次の力の塊へと引き返す。
    「おーい、引き揚げてくれ!」
    「わかりました」
     海面に顔を出した梨乃の合図に清美が応え、海岸にいた灼滅者たちがそれぞれ手首に巻き付け、ピンと張った網の紐をゆっくり引いていく。
    「ガイオウガ、いっぱい一気に力を貰いすぎて溢れさせちゃったのかな? 人間も一度にたくさん詰め込んだら取りこぼすもんね」
     たくさんのイフリートがガイオウガと一つになっただろう。ガイオウガとイフリートを想い毬衣がつぶやくと、柚羽は小さく頷き。
    「サイキックや日光の熱で刺激するとイフリート化する力の塊……。闇堕ちを介さずダークネスが増える事が出来る事例がまた増えましたね……」
     一体何が作用しているのか。思案しながらも柚羽は、作業現場をライトで照らしていく。
    「壊したり落としたりしないよう、呼吸を合わせてそーっと引き上げないとなんだよー」
     紐を握りしめる毬衣。着ぐるみのしっぽががんばるぞと言わんばかりに揺れる。
     隣では桜が海中に伸びる直線を見据えて、紐を手繰る。
    「朝日の前に。ですよね。頑張りましょう」
    「そ。明るくならないうちに、鶴見岳に運んでちゃんとガイオウガに還さなくちゃ、なんだよ。せーのっ、よいしょー! がぅー!」
    「よいしょっ」
     花近も併せて声出して、慎重に紐を手繰り寄せた。
     こうして用意した網の数いっぱいまで力の塊を引き上げた灼滅者たちは、護送を担う別の班の灼滅者に力の塊を大切に引き渡した。
     出発してゆく護送隊を見送りながら、梨乃がつぶやく。
    「ガイオウガが復活した時、情勢がどう動くのだろうな……。今、考えても仕方ないか」
     その時にならないと解らないことだらけだけど、その時々で自分にできることを精いっぱい頑張ろう。
     力の塊が見えなくなるまで、灼滅者たちは護送隊を見送った。
     それぞれの想いを胸に、別府の夜は更けていく。
     おいしいごはんと楽しい時間も、輝く花火と胸のときめきも、キラキラとした夏の思い出に変わるように。
     ガイオウガの力の塊も、鶴見岳に無事に還りますように――。

    作者:朝比奈万理 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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