海だというのに、その日の別府湾には何故か湯気が立ち上っていた。さながら巨大な温泉のように。手を触れれば、実際温泉のような良い湯加減になっていることに気付くだろう。その湯気の立つ海面を、ざばーーーん!! といい音を立てて巨大な魚影が跳ねる。よほど元気が有り余っているのだろうか。海に潜った後も、盛んに尾びれを振りながら激しく泳ぎ回っていた。一匹だけではない。何匹も、何種類もの魚が、しかもそのうちの何匹かは通常のサイズよりもはるかに大きくなって、力強く温まった海水の中を泳ぎ回っている。その海底には、不気味な塊がいくつも、赤く輝きながら漂っていた――。
「大分県の別府湾が温泉になっています」
「はい?」
「正確に言うと、別府湾の海水が温泉のようになっています」
「……はぁ」
そう言われてもよく分からない、と桜田・美葉(桜花のエクスブレイン・dn0148)の話を聞きながら首を傾げる榛原・七月(廃墟と悪戯・dn0228)。それは他の灼滅者も同じだった。海水が突然温泉になるなんてそんな。
「もちろん、自然現象ではあり得ませんよね? 原因は海底に出現したガイオウガの力の塊……です」
美葉も説明を加える。サイキック・リベレイターの照射により、ガイオウガの力は高まっている。今回の事件もその関係で発生したものといえるだろう。聞けば、別府湾の海底からガイオウガの力の塊が染み出しているのだという。
「ガイオウガの力の塊は直径1mくらいの巨大化したイクラみたいな外見で、40度前後で暖かく、周囲の温度も40度前後にあげる力があります。それがなんと、数百個も海底を漂っているんです……」
「あー、それで温泉みたいにあったかくなっちゃってるんだ。魚とか大変そうだねー」
説明を聞いて納得した七月がうんうんと相槌を打つ。その相槌に、美葉は緩くかぶりを振った。
「いえ、確かに温泉化していると聞くと、海の生態系への影響が心配になりますが……ガイオウガの力は大地の力。生命を活性化させる為、絶滅などの危険はなく、かえって元気になったり巨大化したりし始めているそうです」
「あれ、そうなんだ。それならむしろいいこと……でもないか」
「ええ、放っておくと漁師の人や近隣住民が危険になるかもしれませんしね。ですから、その力の塊を回収しないといけないんですが……何しろ数も多いですし、捜索範囲も広いですし。人手が必要だ―ってことで、別府湾の糸ヶ浜海浜公園で臨海学校を行う事になったんです」
どうかご協力をお願いします、と美葉は被っていた麦わら帽子を押さえて深々と頭を下げた。
ちょうど手が空いていたらしい七月が頬杖をついて尋ねる。
「ふ~ん……で、その力の塊を回収してどうすればいいの? 攻撃して灼滅するとか?」
「いえ、力の塊をサイキックで攻撃するとイフリート化して襲い掛かってきます。尤も、ガイオウガの戦力を減らす為に、敢えてイフリート化させて灼滅するという方法もありますが……力の塊のまま鶴見岳まで運べば、ガイオウガと同化して消滅するので。この方法を選べば、戦闘も発生せず安全に臨海学校を楽しむことができます」
美葉が分かりやすいように黒板に概要を書きながら説明する。ああちなみに、と書きながら振り向いた。
「どちらにしても、ガイオウガの力の塊の引き揚げ作業は深夜に行う事になりますから。日中は海水浴などをしつつ、海底の探索などを行ってください」
「深夜に? なんで?」
「日中に行うと、引き上げたガイオウガの力が太陽の熱を受けてイフリート化してしまう危険性がありますから……夜遅くに仕事してもらうというのも、心苦しいですけどね」
美葉が肩をすくめる。なお、引き上げたガイオウガの力の塊を、鶴見岳に運ぶのは有志に任せる事になるそうだ。運ぶ人は気を付けて行って下さいね、と注意する。それと、と思い出したように付け加えた。
「先ほども言ったように、海の生き物達がガイオウガの力の塊の影響を受けて活性化しています。中には巨大化してしまったものもいるし……もちろん灼滅者の皆さんの敵になるような相手ではありませんが。一般人の方にとっては危険かもしれないので、出来るだけそれも駆除して欲しいんです」
活性化した海洋生物は、総じて脂が乗っていて美味しいようなので、駆除ついでにキャンプの夕食などにして食べるのも良いかもしれませんね、と美葉が小首を傾げて言う。ある意味役得かもしれない。
「やっぱり今年の臨海学校もダークネス絡みになってしまったとはいえ、今回はイフリート化させない限り危険のない任務ですし! 事件を解決しつつ、臨海学校も是非、楽しんできて下さいね!」
最後に美葉がにっこり笑って激励する。灼滅者達の選択によっては戦闘なしで終えることができる臨海学校というだけあって、心配性な美葉も今回ばかりは楽天的になっているらしい。と、七月が手を挙げた。
「ねぇねぇ、どうせ別府行くんだったら観光したい人もいると思うんだけど。してもいいの?」
その質問に、美葉は大きく頷く。
「もちろん! 別府観光の時間もちゃんとスケジュールされてますよ!」
「そっかぁ。じゃぁ観光ついでに廃墟探していい? あるかどうか知らないけど」
「ダメです」
参加者 | |
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椿森・郁(カメリア・d00466) |
天峰・結城(全方位戦術師・d02939) |
泉・星流(箒好き魔法使い・d03734) |
北沢・梨鈴(星の輝きを手に・d12681) |
星河・沙月(過去を探す橙灯・d12891) |
柿崎・法子(それはよくあること・d17465) |
居木・久良(ロケットハート・d18214) |
近衛・九重(大学生七不思議使い・d33682) |
●別府湾海温泉浴
北沢・梨鈴(星の輝きを手に・d12681)の眼前に広がるのは青い海。なのに、そこには湯気が立ち上っていた。まるで広大な風呂のようだ。エクスブレインから聞いていたとはいえ、場違いな光景に梨鈴は目を丸くする。
「ガイオウガの力ってすごいですね……早く元の海に戻さないと、です」
その風景を前に、湧き上がるのは決意と使命感。そのためにも、まずはガイオウガの力の塊の場所を確認しないと、と梨鈴は仲間と共に海に足を踏み入れた。その背中に、天峰・結城(全方位戦術師・d02939)は
「私は海岸で待機していますね。力の塊の場所等、分かったらお声がけ下さい」
と声をかける。
「分かりました! よろしくお願いしますね」
丁寧に頭を下げ、梨鈴はいざ海の中へ。もちろん役割は真面目にこなすが、海そのものもとても楽しみで。梨鈴の胸はワクワクと高鳴る。潜ってみれば、冷たいはずの海水は温泉のように温かく、なんだか不思議な感じがした。
(「海と温泉を同時に楽しめるなんてすごい経験なの」)
思わず零れる笑み。水中呼吸も使いながら、白を基調としたスカート付きのAラインワンピースの水着でしばし、海中遊泳を楽しむ。海の中は普段見る世界とは違っていて、なんだか見ているだけでも楽しい。と、梨鈴の目の前をうねるように巨大な魚影が横切った。続くように何種類もの魚が、元気よく尾びれをくねらせながら泳いでいく。
(「お魚……本当に元気いっぱいなの……」)
その光景に感動さえ覚えながら、忘れずに海の生き物達の変化を調査する。そして。海底に目を向け、赤く輝く塊に目を留めると、さらに深く潜って近づいた。直径1m程もあるそれは、まるで海底に揺蕩う巨大なイクラのよう。数百個あるとは聞いていたが、実際見ると本当にすごい数だ。これを回収するんだ、とくらくらしながらも、その塊がだいたいどの辺りにあるのかや、塊の形の詳細、塊がある場所の特徴、地形などを頭にメモする。それにしても暑い。ずっと入っているとのぼせそう、と梨鈴は作業を一旦中断して地上に向かう。
海から上がると、「お疲れ様でした」と結城がよく冷えた飲み物を差し出してくれた。待っている間に用意してくれたらしい。それだけではなく、手作りのカレーや焼きそばも食べられるように準備しておいてくれた。料理が特技だという彼らしい。ありがとうございます、とお礼を述べて食べた梨鈴の瞳が輝く。
「美味しいです! 天峰先輩はお料理上手なんですね……」
尊敬の視線を向ける彼女に、どうしまして、と結城は微笑み返す。それから、梨鈴が水中マップに書き込んで見せてくれた塊の場所や、他の仲間達からの情報をまとめて地図に書き込んでいった。そして、
「ふむ、力の塊があるのはだいたいこの辺りですか……となると、効率的な順路は……」
と、集まった情報を元に仲間達と額を集めて相談する。情報のまとめ役がいると分かりやすい。
(「リリももっと、頑張らなくちゃ……!」)
梨鈴もさらなる情報を得るため、再び海へ。と、調査の途中でまた巨大魚に出くわした。しかも活性化した影響で興奮でもしているのか、真っすぐにこちらに向かってくる。咄嗟にその場を離れようとするがしかし、回り込まれてしまった。仕方ない、とマジックミサイルで迎撃……するとあっさり倒れた。見れば、巨大化しているとはいえ、日々の食卓でもよく見かける魚だ。食べられそうだったので、情報と一緒に持ち帰る。それを見た結城は
「これで夕飯に一品増やせましたね」
と笑った。
●花火
「暗いし足元気をつけて。はぐれないように行こうか、手を貸して」
「うん」
頷いて、椿森・郁(カメリア・d00466)は修太郎の手を取る。つないだ手が嬉しくて、郁は微笑んだ。歩きつつ、二人はとりとめもない話をする。
「花火を英語で言ったら「FIREWORKS」らしいんだけどさ」
「ふぁいやーわーくす……火の仕事? って言うのか知らなかった」
「うん、でもWORKSとか味気なくない? 「花」って表現しちゃう日本語は趣があるなって思うんだよね」
「空に広がる感じ花っぽいもんね」
郁がそう返した瞬間、ぱぁっと夜空が明るくなって、大輪の花が花開く。
「ああほら始まった。綺麗だなあ」
「ほんとだ」
見上げる夜空、轟く音と共に様々な色の花が開いては散っていく。見ているだけで圧倒されそう。水の傍だと水面にも光が映ってさらに華やかだ。
「近くだとやっぱ音大きいよね。ねえつばきもりさんきこえるー?」
と、修太郎は一番音の大きいタイミングで、聞こえるか聞こえないかギリギリのラインを狙って声を出す。「あついー」とか「かき氷食べたいー」とか。その様子に、郁は笑った。
「うんきこえてる! 唇の動きとかでもわかるから普通の声でも……」
「好きだよー、ぎゅってしたいなー」
続いて、音に被さるように聞こえてきた小さな声に、郁はちょっと赤くなる。
「ねーそーゆーのはもったいないから……もっと静かなところで」
と、修太郎を引き寄せ耳打ち。
「……あれ、わかっちゃった?」
とぼけたように笑う修太郎。少しくらい伝わったら楽しいなんて考えていたけれど。バッチリ伝わっていたよう。
同じ景色を二人で分け合って。
「今年も一緒に来れてよかった」
零れた郁の言葉に、修太郎も頷く。
「じゃあ依頼頑張ってきて。そのあとにまた、ゆっくり」
「うん」
名残惜しそうに手を絡めて、離して。ここから、一番大事な仕事が始まる。
●引き上げ
昼間は青かった海の色は、夜闇を映したかのように暗い。辺りはしんと静まり返って、波の音だけが響く。変わらないのは未だ湯気が漂っていることぐらい。その光景に、星河・沙月(過去を探す橙灯・d12891)は呟いた。
「夜の海って、昼間とはまた違った感じなんですね……」
同時に零れる欠伸。一応昼間に寝ているとはいえ、眠気に襲われそう。頑張らないと、と軽く頬を叩いて気合いを入れ直した。
「海が温泉みたいになってるのかー。温泉好きだけど海水はべたべたしそう!」
ロープや網、ゴムボート等準備しながら言う郁に、沙月も頷く。
「ガイオウガの力って、こういう効果もあるんですね……大事になる前に何とかしないといけませんね」
それにしても、と沙月は首を傾げた。
「……臨海学校って、毎年こんな感じなんでしょうか?」
「臨海学校にダークネスが絡むのは、この学園では『よくあること』だよ。まぁ、今回は割と平和な方だと思うけどね」
柿崎・法子(それはよくあること・d17465)は肩をすくめて答える。一方で。
「海にはいかない……クラゲ投げられる……」
何かトラウマでもあるのか。引き上げ作業を前に、近衛・九重(大学生七不思議使い・d33682)は青い顔をしてぶつぶつ呟いていた。
「航海にしっぱいして海のもずく…じゃなかった藻屑になっちまったことあるしさぁ~」
などとぼさぼさの頭を抱えているが、ほら吹きの彼女のこと、真偽の程は分からない。しかしどちらにしても安全確保は大事。ロープを強く岩に結んで命綱にしようそうしよう、と一人納得して結びつける。さらに!
「じゃーん。現代ニッポンがほこる貝殻水着を着てオイタゾ。これで力の塊が暑苦しくても安心!」
とセクシーな水着姿を披露! だが誰も見ていなかった。皆の視線は梨鈴や結城らが調査してまとめた地図の方に。思わず突っ込み入れた九重も交え、全員で内容を共有し、ルートを確認しあう。さらに、結城が人数分、ダイビング用品の水中ライトを始めとした方位磁石やマグネットボード、フィンとゴーグルを用意して渡してくれた。
「水中では自身の位置確認や会話での意思疎通が不可能になりますのでね」
「天峰さんさすが、準備いいね」
居木・久良(ロケットハート・d18214)が感嘆の声を上げる。準備を済ませたら、海岸で待機する法子以外、せーのざばーん!
事前情報で場所が分かってるだけに、スムーズに力の塊のある場所まで辿り着ける。赤く輝くその形・色・艶……まさしく巨大化したイクラと呼ぶに相応しいその姿。しげしげと眺めた泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)は思う。
(「確かに……こんなのが数百個もあれば、イクラと表現したくもなるな……」)
単純に色・形だけの話ではなく。それらがいくつも集まっているからよりイクラらしく見えるのだろう。そのイクラの周りに灼滅者達は展開した。まずは主として結城と九重が周囲の確認兼警戒をする。無論活性化した海洋生物がこちらの事情を汲んでくれるわけはなく。灼滅者や塊の傍で激しく泳ぎ回っていた。中には人間が珍しいのか、ちょいちょいちょっかいをかけてくるものもいる。うざったいですぅ、と心中で悪態をつきつつ、九重は指さして仲間に伝え、百鬼夜行を放った。結城も鏖殺領域やヴェノムゲイルで迎え撃つ。その間に、梨鈴は準備したライトと網を使い、刺激しないようそっと塊を引き上げた。沙月も水中呼吸を使い、仲間と手分けして、網を使って丁寧に引き上げる。星流も同様にして引き上げ作業に加わった。ある程度駆除し終わった結城も、力の塊に衝撃を加えないよう確実に作業する。一旦息継ぎして戻ってきた九重も光の確保をしつつ、網にひっかかった力の塊を網かごに放り込んでいった。
(「水の中で呼吸気にせず行動できるのって面白いね」)
水中呼吸を使う郁はそう思いつつ、大きい網を広げ塊を包んで引き上げる。自由に動ける分作業は丁寧に。
(「サイキックで攻撃したりしなければ大丈夫なんだよね。防衛本能みたいなものかな。今は眠ってる感じ?」)
と、引き上げながらなんとなく塊の温かさを掌で触って確かめてみる。ガイオウガの力は大地の力。火山や噴火のイメージがあるけれど。
(「海の生き物が活性化するなら、私達も長く触れてたら何か変わったりするのかな?」)
なんて思ったり。尤も、今のところ何か変わったような感じはしない。その傍ら、久良は目星をつけていた力の塊のところに向かい、網に入れて。殊更に丁寧に、心を込めて運んでいく。
一方、海岸で待機していた法子は。
「ガイオウガの力の塊……イクラって言われているけれどどうなのかな?」
と一人想像を巡らせていた。そんなところに、塊を引き上げてきた仲間達が戻ってくる。並べられたそれは。
「うん、イクラだね」
法子も納得のイクラ具合だった。それぐらい集まった。
「これだけあればもう大丈夫かな?」
星流が集まった塊を眺めて呟く。
「そうだね。それじゃ、鶴見岳に運んでくるよ」
法子も頷き、怪力無双を使ってまとめてゆっくり運んでいく。輸送用のトラックなど学園で用意してくれれば、と思ったが、別の班がキャンピングカーを使って運ぶというので、それに便乗することにした。尤も、積める数にも限界がある。乗せられない分は人力で運ばなければならない。
「たくさんあると鶴見岳まで運ぶの大変だよねー。行く人がんばって!」
激励する郁に、
「うん、行ってくるよ」
久良は手を挙げて応える。出発を待つ力の塊達に、手のひらを当てて郁はなんとなく話しかけてみた。
「こんばんは。ガイオウガのとこに連れて行くから一緒に来てね。ガイオウガのとこに還っても、出来たらなるべく一般人の人は巻き込まないでいてね」
と。伝わったかは分からない。ただ、月明かりを受けて赤く煌いていた。
●護送
鶴見岳への道を、事前に地図やネット、そして知ってる人に詳しく訊いて。なんとなく把握した九重は、張り切って力の塊を乗せたリヤカーを引いて歩いていく。一方、他班のキャンピングカーに一緒に乗せてもらった法子は周囲を警戒しながら護衛に当たった。他ダークネスの襲撃がないとは言い切れない。そう考えるのは久良や和弥も同じ。トレッキングシューズを履き、灯りを用意し、周辺を警戒しながら進んでいく。それでも、と歩きながら和弥は久良に向き直った。
「気を抜くつもりは無いけれど、護送がてらちょっとお話しようか。いやまあ寮で顔合わせてるし、この場で改めて話すべき事って別に無いけども」
「う、うん、そうだね」
久良も微かに頬を染め、どこかぎこちなく持ってきた飲み物を差し出す。
「若桜さん、付き合ってくれてありがとう」
「いえいえー、別所のイクラ引き上げ作業も済んだし大丈夫」
ゆるゆると手を振る和弥に、久良は思い切って言う。
「最初に会ったときから大分経つけど、もう若桜さんの方が強いくらいだね。俺ももっと頑張らないと」
「あー、もうそんなになるっけ。けど、そんなに焦らなくてもいいんじゃないかと」
首を傾げる和弥に、久良はいいや、と首を振る。
「俺、守らなきゃならないものとか、守りたいものが増えてきてるから、もっと頑張らないとって思うんだよね」
「そっか、守りたいものかぁ」
その言葉に、和弥は空を仰いで思う。久良にとっては、あるいは学園に連れてきたイフリートも守りたいものなのかもしれない。彼と同じく、イフリートを学園に誘った身としては、こういう機会には彼等の事に思いを巡らしたりもする。そうすれば、自然と零れる言葉。
「ねー、イフリート達とは、この先どんな関係になるんだろうね。って、それは自分達次第か」
久良も頷く。
「うん。イフリートとは、ずいぶん縁が深くなっちゃったな。大事な友達もいるしね。真っ直ぐなところは本当にいいなって思うし、今までのイフリート達の信頼に応えるように、精一杯誠実にやろうと思うよ」
「だね。そういう意味では、完全にアチラ次第になるガイオウガの外見なんか気になるね。カッコイイかな。やっぱデカいのかな」
「どうなんだろうねー」
なんて、話をしているうちに鶴見岳麓に辿り着く。結果的に襲撃などはなかったが、警戒できたのはよかっただろう。後は力の塊をガイオウガの元に返すだけ。九重はリヤカーから網かごに力の塊を移し、怪力無双を使って担いで登っていく。夏の夜のことだし、力の塊そのものも熱いけれど。暑かったら脱げばいいやと楽観的。どーせ誰も見てないし。
しかし、登る傍から力の塊は溶けるように消えていく。特に投棄ポイントなどがあるわけではなく、鶴見岳に運び込めば自然と吸収されるものらしい。それに気付いた九重は、それじゃぁと力の塊を掴んで投げまくった。
「たくさんパワーつけてガイオウガフルパワーで復活してほしいですぅ」
とワクワクした面持ちで。ガイオウガに力の塊返してスサノオとの戦いを盛り上げよう! なんて物騒なことも口走っているが、そうなるかどうかはこれからの灼滅者の動きにかかっている。
さすがに投げたりはしないが、法子も吸収される力の塊を見ておく。イクラを潰したように吸収されるのかなと考えたりしていたが、実際は溶けて小さくなっていくようだ。消えていく塊を見送りながら、法子はポツリ呟いた。
「ガイオウガの目覚め……それがどういうことになるかは分からないけれど……いい方に進むといいね」
法子の言葉にうん、と頷いて。久良も精一杯気持ちを込めて、消えゆく力の塊を見送った。
●危険生物駆除
ガイオウガの力の塊は引き上げた。それでもまだ海には、その影響を受けて活性化したり、巨大化したりした海洋生物がいる。というわけで。星流と沙月は仲間と共に、駆除のため再び海に飛び込んだ。水中呼吸を使って海中を泳げば、あちこちに巨大な魚影や、異常に活発に動き回る生物が見える。イルカ程も肥大化した魚を目にして、沙月は目を見開いた。
(「わ、すごく大きいです……。でもしっかりと倒さないとです」)
決意を込めて放った彗星撃ちが、巨大魚を貫く。霊犬の紅蓮も続いて、六文銭射撃でまとめて活発化した生物を撃ち抜いた。星流も箒型のマテリアルロッドで激しく泳ぎ回る魚達のいる地点を指し示す。と、突如魚達が凍り付いた。指定した地点周辺に存在する敵全ての体温や熱量を、急激に奪い去る、恐るべき死の魔法。この場面では、危険生物達の捕獲と冷凍を同時に行える、中々便利な魔法でもある。さらに星流は、暴れまわる巨大魚に向かって「業」を凍結する光の砲弾を放った。危険生物とはいえど、元より灼滅者の敵になるような相手ではない。サイキック一発で面白いほどよく捕れた。あらかた駆除を終え、陸に戻ってみれば大漁。その結果を見て、沙月は歓声を上げる。
「わぁ、たくさん捕れましたね……! ところでこれ、持って帰ってもいいんでしょうか? 美味しそうだって言ってましたし」
「うん、この量ここで食べきるのは無理だろうし……折角だから、学園にいるイフリート達にお土産代わりに何匹かもっていくか?」
星流はそう提案する。これらの生物もある意味、ガイオウガの力の産物と言えるもの。持っていけたらたぶん、喜ぶんじゃないかと。その提案に、沙月も大きく頷いた。
「そうですね! きっと、喜んでくれると思います」
もちろん、それ以外の相手に対するお土産にもなるだろうし。そうと決まれば、と沙月は持ち帰る用に用意しておいたクーラーボックスに捕れた魚等を詰め込んでいく。
巨大なイクラのようなガイオウガの力の塊から始まった、今回の臨海学校。沢山の海産物も手に、灼滅者達は帰路に着いたのだった。
作者:ライ麦 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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