臨海学校2016~力の球体 幻獣の粒子

    作者:夏雨

    ●別府湾に浮かぶ球体
     大分県の別府湾に位置する海中に、数百はある魚卵のような赤い球体が漂っていた。その球体は直径1メートルほどの大きさで、生物のように熱を持っていた。
     不可思議な球体の影響で別府湾の温度は急上昇し、まるで温泉のようないい湯加減。そんな状態でも海の魚たちは元気に泳いでいる。むしろ球体が周囲に及ぼす作用で成長が促進され、異常な巨大化を遂げている。

    ●臨海学校のお知らせ
     赤い球体の正体は、海底から染み出したガイオウガの力の塊だと判明した。そこで今年の臨海学校では、ガイオウガの力の塊を引き上げる作戦を実行することとなった。力の塊を回収することで、別府湾の異常事態は収束するだろう。
     臨海学校の開催地は、別府湾に面する糸ヶ浜海浜公園。武蔵坂学園が貸し切った公園内でキャンプを行う。大型キャンピングカー、ログキャビン、テントでの宿泊など、自由に施設を利用することができる。
     臨海学校の概要について説明していた暮森・結人(未来と光を結ぶエクスブレイン・dn0226)は、力の塊についての注意点を話す。
    「見た目はでっかいイクラの粒っぽいけども、取扱注意の物騒な代物なんよ。こいつはサイキックによる刺激でイフリートへと変化する。太陽の熱を受けても同じ結果になるかもしれんから、引き上げ作業は深夜にやってもらうよ」
     回収した力の塊は鶴見岳まで運ぶことでイフリートにはならず、そこに眠るガイオウガに吸収されて消滅するという。
    「ガイオウガのお漏らしを俺らが処理すんのー? まったく世話が焼けるねぇ」
     そうぼやく月白・未光(狂想のホリゾンブルー・dn0237)に対し、「もっとましな表現をしろ」と結人はあしらう。
    「まあ、いろいろ楽しみもあるからいいけどね」
     未光はそう言って臨海学校のしおりを眺める。

    ●臨海学校のスケジュール
    ●8月22日(月)
     午前:羽田空港から大分空港へ、別府観光をしてからキャンプ地である糸ヶ浜海浜公園に向かう
     午後:糸ヶ浜海浜公園到着
     午後:別府湾で海水浴(ガイオウガの力の場所確認)
     夕方:別府湾の海産物(現地調達)で夕食調理
     夜 :花火
     深夜:ガイオウガの力の引き上げ

    ●8月23日(火)
     未明:ガイオウガの力を鶴見岳へ輸送
     朝 :朝食、後片付け
     午前:別府湾で海水浴(危険そうな海産物の捜索と駆除)
     昼 :大分空港から武蔵坂に帰還

    「ガイオウガの力の影響で巨大化してる魚って……食べて大丈夫なの?」
     未光は怪訝そうに尋ねた。
    「有り得ないでかさってのはキモいけど、その分脂がのってるかもしれんよ。マダイとか、スズキとか、アジとか……」
     現地に行けない結人は半ばどうでもよさそうに答え、あることを思い出して言い添える。
    「あ……厄介な奴もいるんだ。うまい魚を狙ってるのは君らだけじゃないんよ。沖合で巨大なサメっぽい魚影も目撃されてるから気をつけてね」
    「なにそれ!? あのサメ映画をリアルで体感できちゃうじゃん!」
     一般人にとっては未光のようなことを言っている場合ではない。危害が及ぶ前に駆除する必要があるだろう。例えどれだけ巨大でも、ただのサメなら灼滅者の敵ではない。
    「いろいろ面倒かもしれんけど、せっかく大分まで行くんだから楽しんできなよ」
     鶴見岳まで運ぶ苦労を考えながらも、結人は楽しい臨海学校を強調する。
    「あえてイフリート化させて灼滅すればガイオウガの戦力を削ることもできるけど、どうするかは各自の判断で頼むよ」


    参加者
    石嶋・修斗(日向のぬくもり橙執事・d00603)
    御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)
    咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)
    水野・真火(水炎の歌謡・d19915)
    イヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)
    ノイン・シュヴァルツ(黒ノ九番・d35882)
    加持・陽司(炎の思春期・d36254)

    ■リプレイ

    ●VS海の幸
     大分空港に到着した武蔵坂学園一行は別府観光を楽しんだ後、キャンプ地の糸ヶ浜海浜公園へと向かった。
     目の前に広がる遠浅の海岸から少し離れた沖まで泳げば、海中深くに漂う赤い球体を目撃できる。数百はある直径1メートルほどの球体はまばらに海を漂い、その間を巨大な魚影が泳ぎ交う。ガイオウガの力の塊の影響を受けて巨大化した魚たちには驚愕するが、性質は普通の魚と変わらない。 モリを突き立てようとすれば逃げていくが、普通のモリで仕留められるほどの大きさでもない。かと言ってサイキックを使用すれば力の塊に飛び火しかねない状況だ。
     昼間の炎天下、温泉のような温度になってしまった別府湾ではのぼせそうになるくらいだったが、夕日が差し始める頃には最適な温度になりつつあった。
     キャンプでの夕食の材料を調達しようと張り切って海に潜るものもいれば、砂浜から投げ釣りに挑戦する者もいた。
     咬山・千尋(高校生ダンピール・d07814)は月白・未光(狂想のホリゾンブルー・dn0237)と連れ立って釣り竿を手にし、 大物を狙って釣り糸の先を見つめていた。大きな当たりは何度かあるものの、釣り糸の方が耐え切れずに切れてしまう。それを繰り返してただ待つことに飽きた未光は、次第に集中力を欠いてきていた。
    「予想以上に難しいな」
     そういう千尋はエサを釣り針に付け直し、竿を振り下ろして沖の方へと釣り針を落とす。
     一方で未光は釣り糸から視線を外し、潮干狩りに専念しているイヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)、鑢・真理亜(月光・d31199)、華上・玲子(鏡もっちぃこ・d36497)の3人の姿を見つける。
     3人そろって大胆な水着からこぼれんばかりの豊満な胸の持ち主であることから、未光はつぶやく。
    「おっぱいは類を呼ぶか」
     未光は釣りそっちのけでついつい水着の3人に見惚れていた。
     千尋がしばらく構えていると、何かが釣り糸を引っ張る感触が竿を持つ手に伝わる。リールを巻こうとした瞬間に強い力で引っ張られ、竿を持ったまま転んだ千尋は浅瀬の上を引きずられた。
     気づいた未光によって千尋はすぐに助け起こされ、全身ずぶ濡れになりながらも竿を離さずに獲物を引き上げようとする。
    「お……重いぃー!」
     未光も一緒に釣り竿を握り、協力して大物に挑む。
    「ぬをおおっ! 1匹ででかくなったみたいに泳ぎやがって……おとなしくバーベキューの材料に――」
     2人がかりでもずるずると引きずられていく勢いに対し気張る未光だったが、ピンと張っていた釣り糸はもう限界を迎えて引きちぎられた。釣り糸が切られた瞬間、引き合っていた2人は浅瀬に尻もちをつく。
     何度も逃げられ続けてしびれを切らした未光は釣り竿を放り出し、着ていたシャツを脱ぎ捨てて黒いラインが入ったオレンジ色のサーフパンツの水着1枚になると、
    「食材のくせに生意気な! エラから手ェ突っ込んで内臓抜いてやんぞ、ゴルァッ!」
     水上を跳ねた魚影を目指して、沖の方へと勢い良く進み始める。
    (「下に水着着ててよかった……」)
     千尋は海水でビショビショになって張り付いたシャツと、遠ざかる未光の背中を交互に見つめた。

    「大量もっちぃ♪」
     玲子は熊手を手にしてイヴや真理亜と一緒に砂を掘り進め、次々と見つかるハマグリやアサリをバケツに放り込んでいく。
    「いっぱいあるな! 網で焼いたり、味噌汁にできるな」
     夕食を楽しみにしているイヴは、うきうきした表情で砂浜を掘る。一方で、手が止まっている真理亜の視線の先には、沖へと泳ぎ出す未光の姿があった。真理亜の様子に気づいたイヴは、意味深な笑みを浮かべて夕食の話題を振る。
    「誰かさんのためにも、おいしいバーベキューにしないとな」
     真里亜はイヴの一言にはっとして、砂浜を掘り返し始める。
    「貝もいいですが、新鮮な魚を釣ってきてもらえるとありがたいですね」
    「おお、こっちは大量だな」
     千尋はずぶ濡れになった状態で貝類が山盛りになったバケツを覗き込む。
     一緒に潮干狩りに混ざりながら、千尋は手の平よりも一回り大きいハマグリを見比べながら言った。
    「この辺の貝も特大になってる気がするな」
     やけになって素手で魚を捕りに向かった未光のことが気になり、千尋はふと沖の方に視線を向けた。丁度その時、未光は巨大なキスのエラを引っつかんで砂浜へと歩みを進めていた。キスの大きさは2人でやっと抱えられるほどのもので、ガイオウガの力の影響を大いに受けているようだ。
    「やったな、月白先輩! 刺身何人前できるかな?」
     未光の成果を喜び駆け寄っていくイヴの前で、キスは威勢よく体を躍らせて周囲の海水や砂を跳ね散らす。
     未光がしっかりエラをつかんでキスを捕まえていると、
    「鮮度を保つために、しめます」
     真理亜はカードから解き放った刀で取れ立てのキスをしめにかかる。エラの後ろ辺り、尾の付け根に暗殺者のような手さばきで深く切り込みを入れられたキスは、パカッと口を開けたまま動きを止めた。切り込みから大量に流れ出た血によって足元の海水が染まっているのを目にした玲子は言った。
    「別府湾が血の海にっ!」
    「ええ、そうです。きちんと血抜きをするので手伝ってください」
     驚く玲子に対し、真理亜は淡々と血を洗い流そうとする。自身よりも大きい魚を抱えようとする真理亜を未光は制し、
    「俺がやるよ。水着に生臭さが移っちゃう――」
     小学生の割に大人びている真理亜は、未光に向かって行儀よく「ありがとうございます」と一礼した。すると、顔をあげた瞬間に未光に頬に触れられ、真理亜は驚きながらも乙女らしい表情を見せる。「ん、魚の血が飛び散ってた」と、さりげない様子で言った未光は、苦笑しながら言い添える。
    「あ……俺の手、生臭かった?」
    「いえ……ありがとうございます」
     どこかしおらしい雰囲気になる真理亜の様子を、イヴと玲子は微笑ましい気持ちで見守っていた。

    ●花火と2人
     キャンプ場で皆で海の幸をありがたく調理し存分に味わった後は、ガイオウガの力を回収する深夜になるまで自由行動。だが、夏の夜といえば花火である。夏を彩る風物詩を体験しようと、浜辺には花火を持ち寄った多くの生徒たちが集まり始める。
     北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)と水野・真火(水炎の歌謡・d19915)も花火を楽しもうと浜辺までやって来た。
    「よっしゃ、せっかくだし花火楽しもうぜ、水野。楽しめるように沢山買ってきたからさ」
     手持ち花火のセットを開封して、葉月はカラフルな見た目の花火を袋の上に並べる。
    「どれからやる? やっぱ線香花火はシメだよな」
     真火は線香花火を避ける葉月に同意しながら、様々な柄の花火を物色する。その中で水玉柄の筒がついている花火を手に取り、楽しそうに笑顔を見せて、
    「これだけあれば、たくさん遊べますね」
     1人1人が手にする花火のこよりに次々と着火され、色とりどりの火花が輝きを放っては消えていく。もうもうと上がる花火の煙を、風が海の方へと押し流していった。
     葉月と真火の2人は煙に囲まれないよう注意して花火を楽しむ。束の間の勢いで火花を放つ花火を次々と取り換え、散っていくまでの輝きを波の音を聞きながら眺めていた。
    「こんなふうに、誰かと夏を過ごすのは初めてです」
     葉月の持つ花火に火を移してやると、真火はふとつぶやいた。
    「北条さんとこれて、良かったです」
     真火の一言に対し、葉月ははにかんだ笑顔を向けながら「そりゃあ、よかった」と答えた。

     臨海学校の夜を楽しく過ごす生徒らが集まる浜辺では花火も佳境に入り、打ち上げ花火の準備が始まっていた。
     夕食後に待ち合わせていた加持・陽司(炎の思春期・d36254)とノイン・シュヴァルツ(黒ノ九番・d35882)は人の集まる浜辺を避け、2人きりになれる場所を目指す。
    「……力の引き上げ、上手く行くと良いですね」
     陽司と並んで展望台のある高台へと歩くノインは、深夜に決行される予定の回収作業について触れる。
     デートという初めての状況に緊張しながらも、ノインは話題を探そうと頭を働かせる。
    「ガイオウガとは、一体どんな姿をしているのでしょうね。今回の現象は何か原因があるのでしょうか? それとも単なる生理現象のようなものとか……まだまだガイオウガについては私たちもよく知りませんし――」
     淡々と話してはいるが、内心では「まったくデートらしくない話題です!」と焦りを募らせるノイン。
     絶え間なくしゃべるノインを見つめ続け、切り出すタイミングを計っていた陽司は「ノインさん」と名前を呼んで立ち止まった。
    「て、手ぇつなぎません……か? こ、こういう時くらい自分がリードしますよ?」
     照れ臭い気持ちがにじみ出ている陽司から差し出された手を、ノインは目を丸くして黙って見つめた。やがておずおずと手を伸ばし、そっと陽司の手を握る。
    「あ、ありがとう、ございます……」
    「暗いから、足元気をつけてください」
     優しく手を引いてくれる陽司の顔を気恥ずかしさでまともに見れないまま、ノインは連れられるがままに展望台の下までやって来た。
     浜辺ではしゃぐ生徒らの喧騒が高台までかすかに聞こえ、打ち上げ花火があがる瞬間をカウントし始めていた。
    「あ、花火、上がるみたいですよ」
     ノインは初めて見る花火に心躍らせ、思わず陽司の手を引っ張って1番眺めのいい場所へと移動する。
     ヒューという花火の笛の音が響き、夜空へと上がる煙の軌道が見えた。連続で点火された花火が次々と打ち上がり、夜空に浮かんだ鮮やかな閃光が2人の顔に光を落とす。
     「すごいですね、陽司さん」と、ノインは花火のように輝く笑顔を陽司に向ける。花火の美しさに心奪われたノインは、いつの間にか緊張していたことも忘れていた。
     陽司は花火よりもノインの横顔に見とれていた。花火が上がり続ける夜空に視線を戻したまま気づかないノインに向けて、陽司は真剣な思いで言った。
    「綺麗だよ。……うん、とっても。二人で来て良かったって……そう思ってる」
    「はい、とっても綺麗な花火――」
     ふと陽司に視線を向けたノインは、じっと見つめ返す陽司の台詞の意図を察し、心なしかいつもより男らしい表情にまたドキドキさせられる。
    「……私も、来れて良かっ、た」

     手持ち花火を遊び尽くした葉月と真火は、シメの線香花火を楽しんでいた。
     葉月は「臨海学校ももう終わるな……」と、しんみりとした表情で線香花火の火を見つめながら言った。
    「――でもまだ大仕事が残ってる、うまくやり遂げないとな」
    「上手くいくと良いですね」
     何気ない会話を続けながらも、線香花火を見つめる2人はどちらの花火が長く燃え続けるか真剣に競い合っていた。
    「あ、でっけぇフナムシ!」
     葉月が真火の足元を指差してウソの指摘をすると、真火は信じ込んでうっかり花火を落としてしまった。その様子を見て大笑いする葉月に対し、不機嫌な様子の真火はふざけた調子で言った。
    「さっきの言葉、撤回します!」
    「えぇ? ひでーなぁ」

    ●引き上げ作業
     すかっり夜も更け、かがり火のたかれた浜辺ではいよいよガイオウガの力の引き上げが実行されようとしていた。
     用意されたゴムボートを水深のあるところまで運び、管制役を務める葉月と沖合に出向く者が定員まで乗り込み、沖合を目指す。
     地引き用の網を新月状に広げ、浜辺へと一気に力の塊を引き上げる段取りになっている。できるだけ多くの力の塊を網の中に寄せ、網の範囲に入って来てしまった巨大化した魚たちを追い払う。
     葉月がボートの上からアウトドア用のサーチライトで海中の球体を照らし、石嶋・修斗(日向のぬくもり橙執事・d00603)は千尋、イヴらと共にその光を頼りに作業を進める。水中で力を発揮するESPを存分に活用し、作業は順調に進んでいた。
     陽司、ノイン、真火らと網の引き上げを担う御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)は、葉月の乗るボートの周囲に目を凝らしていた。いない方が作業に支障が出ずに済むのだが、サメに出会えるのを楽しみにしていた裕也はつぶやく。
    「サメってどこにいるんだろ? やっぱり寝たりしてるのかな?」
     修斗たちと一緒に沖合に出た未光は、網の端を持って浜辺まで泳いできた。網を引き上げる準備を整え、浜辺にいる班は海からの合図を待って待機する。
     海上へと顔を出した修斗が手を振って合図を送ると、浜辺の5人は力を合わせて網を引き始める。掛け声を出し合いながら、ESPの力を借りてずっしりと思い漁網を引き寄せていく。
     網の中ですし詰め状態になっていた大量の球体が海面から上がり始めると、複数の球体が雪崩を起こして浜辺に転がり出す。中には球体の間に紛れてびちびちと跳ねる小魚の姿や、海藻、ゴミなども含まれている。球体が遠くへ転がらないように、陽司はボールを止めるように足でせき止めた。
     できるだけ球体に触れないようにするため、あらかじめ用意してもらった発泡スチロールのケースに入れて浜辺から持ち運ぶ。鶴見岳への輸送を手伝う修斗は、借りたキャンピングカーを浜辺のそばまで乗りつけた。
     皆で車までの往復を繰り返し、球体を積めるだけ積んでいった。トランクも後部座席もいっぱいになったところで、修斗は運転席に乗り込む。そして当然のように裕也も助手席に乗り込んだ。どこかそわそわした素振りで早速シートベルトをかける裕也。裕也は修斗の運転する車に乗るのは初めてで、楽しみにしていたことの1つでもあった。
    「修斗が眠くならないように、俺もちゃんと起きてるから。何かしゃべってた方が眠くならないよな」
     鶴見岳までの道のりを運転する修斗を気遣う裕也に対し、修斗は微笑みながら言葉を返す。
    「ありがとうございます。もちろん、居眠りなんてしませんよ。しっかり安全運転で行きますから」

    ●噛まれても平気だし
     鶴見岳まで車を何往復かさせ、輸送役を担った生徒らのお陰で速やかに力の塊を別府湾から運び出すことができた。
     臨海学校最終日の朝。朝日が昇る別府湾は、元の姿を取り戻したように見えた。しかし、危険はまだ潜んでいた。波間に見えた背びれの主を放っておく訳にはいかない。
    「サメを! 見に行こう! というか、サメを撃退しないとな!」
     巨大化したサメを間近で見てみたいと、朝食後水着に着替えて意気揚々と沖合いを目指す裕也。執事である修斗は主人である裕也に付き従い、共にサメの駆除に向かう。
     昨夜は未明まで作業が続いたが、目標へと突き進む裕也は元気そのものに見える。
    「映画とかのあの怖いサメみたいなのかなぁ……修斗修斗、楽しみだな!」
     目に見えてはしゃいでいる様子の裕也に対し、修斗は少し険しい顔付きになり、周囲を警戒しながら言った。
    「楽しみより心配です。くれぐれも怪我をしないよう気をつけてください」
     修斗は裕也のそばを離れず、いつ危険が迫ってもいいように構えていた。
     しばらく泳いでいた裕也は、海面から突き出た背びれが近づいてくることに気づく。裕也は思い切ってサメの背びれにつかまり、海面を滑るように移動し始めた。
    「ねえ! 見て見て、修――」
     少し目を離した好きに背びれと一緒に海に潜っていく裕也を見て、修斗は慌てて海中へと追いかける。
     裕也よりも3倍は大きいサメにしがみつく姿があっという間に遠くなり、修斗は焦って追いつこうとしたが、サメの方が暴れ出して裕也を振り離す。
     急に日差しが遮られて海面を見上げれば、更に10倍の大きさはあるような2匹のサメが修斗の頭上に迫ってきた。修斗は瞬時に判断を下し、2匹を攻撃対象とする。水中でも性格に放たれる逆十字のオーラが2匹を切り裂き、その体は4頭分に分かれてしまった。
     もう1匹のサメは相手をよく知らずに、修斗のそばへと戻ろうとする裕也に牙を向いた。

    「全く、貴方という人は……怪我の治療をする身にもなってください」
     噛まれた右足の治療を受けながら、裕也はおとなしく修斗の小言を聞き入れる。足の治療に対して「ありがとう……」と礼をいいながらも怒られてしょんぼりした様子の裕也。
     修斗はため息をこぼしながら、
    「まさかサメに乗るとまでは思いませんでした――」
    「うん、すごく楽しかった♪ やっぱりサメって皮膚がザラザラなんだな!」
     反省しているのかいないのかわからない反応を返され、修斗は苦笑してつぶやいた。
    「目を離す隙も与えてくださらない……いつもですけどね」

    作者:夏雨 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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