臨海学校2016~見よ!別府湾は熱く燃えている!!

    作者:J九郎

     別府湾の海底で、何かが赤々と燃えていた。
     赤く輝くそれは直径1メートルほどの球形で、宝玉のようにも何かの巨大な卵のようにも見える。
     よく見れば、その赤い塊は一つだけではなかった。
     別府湾のそこかしこに、同様の塊が点在しているのだ。その数は、おそらく数百に達しているだろう。
     異様な景観の中を、あり得ない大きさに育った魚たちが、狂ったように泳ぎ回っていた。
     
    「嗚呼、サイキックアブソーバーの声が聞こえる……。大分県の別府湾の海水が温泉のようになっている、と」
     集まった灼滅者達に、神堂・妖(目隠れエクスブレイン・dn0137)は陰気な声でそう告げた。
    「海が温泉? どういうことだんべか?」
     聞いていた叢雲・ねね子(中学生人狼・dn0200)が首をひねる。
    「……原因はおそらく、海底に出現した、ガイオウガの力の塊。この塊は40度前後の熱を持っていて、周囲の温度も40度前後にあげる力があるみたい」
     そして、この状況を解決する為、別府湾の糸ヶ浜海浜公園で臨海学校を行う事になったらしい。
    「……ガイオウガの力の塊は鶴見岳に運び込めば、ガイオウガに吸収されて消滅するみたい。……ただ、サイキックで攻撃するとイフリート化して襲い掛かってくるから注意して。……ガイオウガの力の塊の引き揚げ作業は深夜に行うから、昼間は海水浴を兼ねて、海底の探索などをしてくれればいい」
    「なんだか楽な仕事ずら」
     ねね子の反応に、妖は真面目な視線を返す。
    「……別府湾では海洋生物が活性化していて、中には巨大化してしまったものもいるみたい。灼滅者にとってはなんでもないけど、一般人には危険かもしれないから、出来ればこれも駆除してきてほしい」
    「上等ずら! おっきくなった魚を捕まえて、キャンプの夕食にするんだべ!」
     どうやらねね子は早くも魚料理に思いを馳せているようだ。
    「……ちなみに、臨海学校のスケジュールはこうなってる」
     そう言って妖が取り出したのは、臨海学校のしおり。中を覗いてみれば、

     ・8月22日(月)
     午前:羽田空港から大分空港へ、別府観光をしてからキャンプ地である糸ヶ浜海浜公園に向かう
     午後:糸ヶ浜海浜公園到着
     午後:別府湾で海水浴(ガイオウガの力の場所確認)
     夕食:飯盒炊爨(別府湾の生命力の強い海産物を食べよう)
     夜 :花火
     深夜:ガイオウガの力の引き上げ

     ・8月23日(火)
     未明:ガイオウガの力を鶴見岳へ輸送(有志)
     朝 :朝食、後片付け
     午前:別府湾で海水浴(危険そうな海産物の捜索と駆除)
     昼 :大分空港から武蔵坂に帰還

     このように記されていた。
    「……別府湾への事件の対処も兼ねてるけど、せっかくの臨海学校。楽しめるだけ楽しんできて」
    「おう、任せるずら!」
     ねね子が得意げに胸を叩き、灼滅者達は各々配られたしおりに目を通していくのだった。


    参加者
    両角・式夜(絞首台上の当主様・d00319)
    獅之宮・くるり(暴君ネコ・d00583)
    沢崎・虎次郎(地獄の厨師・d01361)
    間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)
    ストレリチア・ミセリコルデ(白影疾駆の呑天狼・d04238)
    烏丸・伴(ブラッククロウ・d04513)
    天瀬・ひらり(ひらり舞います・d05851)
    水沢・安寿(花色天使・d10207)

    ■リプレイ

    ●いざ、別府湾へ!
     大分県日出町にある糸ヶ浜海浜公園。
     夏の日差し照り付けるその地に、今、学生寮『股旅館』の一行が降り立った。
    「海が熱くなって生態系が狂っては敵わぬな。一般人や食卓が危機に晒されてはいかん!」
     視界一面に広がる別府湾を眺めていた一同を前に、そう力説するのは、股旅館の父こと獅之宮・くるり(暴君ネコ・d00583)だ。
    「そうっすね。海の幸豊富な海は人類の宝。その生態系が壊れてしまうのをみすみす見逃す訳にはいかないっすね!」
     さっそく、母こと沢崎・虎次郎(地獄の厨師・d01361)が大きく頷く。
    「ただでさえ地球の温暖化の影響で海水の温度が上昇してるっていうのに、さらに温度が上がったら大変なことになっちゃうよね。で、どうするの?」
     スカート付きのワンピース水着の上からパーカーを羽織った水沢・安寿(花色天使・d10207)の問いかけに、くるりは大仰に頷くと、
    「ともあれまずは腹ごしらえだ!」
     ひらひらフリルのビキニ姿で仁王立ちし、高らかにそう宣言したのだった。
    「いぇーい! 海だぁーっ!!!! 美味しい食事の為全力全開でいくぜぇええ!!!」
     直後、真っ先に海に飛び込んでいったのは、間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)だった。ESP『水中呼吸』を駆使し温泉状態の海に潜った爽太は、
    「海の幸と言えばもちろん……タコだぁああっ!!!!」
     周囲を泳ぎ回る巨大化した魚介類には目も向けず、タコを探してひたすら潜航していく。
    「ねね子さん、この度は臨海学校へのご案内、誠にありがとうございますわ」
     一方、ストレリチア・ミセリコルデ(白影疾駆の呑天狼・d04238)は同道してきた叢雲・ねね子(中学生人狼・dn0200)に一礼していた。
    「……さて、挨拶はこのくらいにして、狩りです! 一緒に狩りに行きましょうっ!」
     見ればストレリチアの狼耳はわさわさ動き、尻尾はちぎれんばかりに振られている。彼女の水着は尻尾を出すためにお尻の股上が浅くなっているので、尻尾を振ると柔らかく鍛えられたお尻の殆どが丸見えだ。
    「よーし、美味しい海産物をゲットして皆の腹を満たしてやろうぞ! すにこ、ねねこ、準備は良いか!」
     くるりの呼びかけに、
    「ええ、準備は元より! 参りましょう、お父さんっ!」
     ストレリチアは力強く応えると、満を持して海に飛び込んでいき、
    「狩りなら、おらも負けないずらーっ!!」
     少し遅れて、スクール水着姿のねね子もその後に続いた。
    「みなさーん、頑張りましょうねー!!」
     次々に海に飛び込んでいく仲間達を、天瀬・ひらり(ひらり舞います・d05851)は手を振って見送ると、
    「さぁ! みんなでいっぱい獲ったどー! ってしましょ「そーれどぉーん!」のわぁっ!?」
     次の瞬間、思いっきり海に突き落とされていた。くるりに。
    「でっかいの釣れると良いなー」
     股旅館の仲間を魚の餌代わりにする父の姿に、
    「いやぁ、股旅館は女傑が多くて、男子は女子力が高いの多くて楽しいねぇ。それはそうと可愛い女の子は……いや、可愛い女の子が漁してるわけないよな」
     両角・式夜(絞首台上の当主様・d00319)は現実から逃避するように海から目を逸らし、調理の準備をする仲間達の手伝いに向かったのだった。
     で、海に突き落とされた張本人であるひらりはというと、
    「私美味しい! 2重の意味で!!」
     すっかり開き直って真っ赤な水着で獲物を誘き寄せようとしていた。
    「このエビさんを思わせるようなしなやかな曲線美! さぁ集まりなさいお魚さん達! そう! 言うならば私は乙姫!」
     ちょっと太めの体をくねらせ、餌になりきるひらり。彼女はまだ、背後で巨大な何かの瞳が輝いたのに気付いてはいなかった……。

    ●獲れ! そして料理しろ!
    「B級映画とかだとこういう環境で巨大ウツボとかサメ的なのが生まれたりするんだよな」
     カラスの刺繍の入った黒いサーフパンツ姿の烏丸・伴(ブラッククロウ・d04513)はしばらく海を眺めていたが、
    「……って、本当にデカいのいねぇかこれ!?」
     突如海面に飛び出した、全長10メートルはありそうな巨大なタコの姿に目を見開いた。
     水中で狩りをしていたストレリチアも気配に気づき、
    「!? 何か大きなものが跳ねた衝撃が……? 好機ですわっ!」
     狩りの獲物の出現に、勇んで鋼糸を括った槍を銛として構える。
    「よーく狙って……って、ひらりさんではありませんかー!」
     そう、ストレリチアが獲物と思い込んでいたのは、ひらりだった。だが、そのひらりはというと、何やら必死の形相だ。
     それはそうだろう、巨大なタコに追い回されていたのだから。
    「巨大なイカとかタコとかお話の中だけでお願いしますううぅぅぅ!!!」
     手足をばたばたさせて助けを求めるひらり。
     そこへ颯爽と駆け付けたのは、
    「うおおおっ、燃え上がれ、俺の心っ!」
     ひらりの恋人である爽太だった。
    「ひらり先輩に手を出すな、このタコ野郎! 今こそ、ファイアブラッドの炎を左手にやど……せない!!」
     そういえばここは水の中だった! ちょっとうっかり大事なことを忘れていたようである。
     仕方なく、右手に炎を模したバトルオーラを纏わせ、全力でひらりを守るべく、巨大タコとの死闘を繰り広げる爽太。
    「おお、やってんな~」
     そんな光景を横目に、グロード・ディアーは海辺で食材を探し歩いていた。
    「聞いた限りじゃ牡蠣やら海藻が取れるみたいだけどなあ」
    「どこ見ても岩しかないように見えるけど……見つかるの?」
     共に食材を探していた雨宮・莉都が不安そうな声を上げる。だが、それでも勘を頼りにようやく牡蠣を発見し、のみと金槌を使って岩から剥ぎ取る莉都。
    「取れた……でも1個で疲れたから後はグロード宜しくね」
     ちょっと感動しつつ、コツを覚えた莉都はグロードに次々と牡蠣の場所を指示していき、
    「よっしあとは任せろ! 美味くていいもん、出てこいこい~」
    「ほら、そっち。そこにもある」
    「おう、なんか宝探しでもしてる気分だな」
    「力入れすぎだし。不器用」
     そんなことを言い合いつつも、用意してきた籠一杯に牡蠣を取ることに成功していた。
    「ほほう、伊勢えびや鯛なども捕れるのか。これは豪勢な食事になりそうだな!」
    「またも大物発見……獲りましたわー!」
    「大漁ずらー!!」
     ウイングキャットのクィンやライドキャリバーのクー・シーを使った追い込み漁をしていたくるり、ストレリチア、ねね子の3人も、次々と獲物を浜辺に放り投げていく。
    「みんな食材調達頑張ってんなー。まあ、俺は海から捕ってきた物を右から左に流す簡単なお仕事するだけです」
     式夜は霊犬の藤と共に、放り投げられた海産物を、バケツに入れて安寿に手渡していき、
    「みんなすごいね! これならすごい料理ができそう」
     安寿は楽しそうにバケツを調理班の元へ運んでいった。
    「おーっ、続々と食材集まってるっすねー。それじゃあ、海の幸をより美味しくいただく為にもお米を美味しく炊かなくちゃ!」
     何所で売ってるのか謎な虎柄のサーフパンツに軍手を付けた虎次郎は、「海産物の料理はよろしく」と他の調理班に振ると、手早く竈の準備を整えてから米を磨ぎ始める。
    「バーベキューもできるよう下拵えしておきましょう」
    「魚は内臓を傷つけないように取り出して……。獲れたてのお魚だから、弾力が凄い……ちゃんと捌けるかな…?」
     食材の下拵えを担当しているのは、大水池・玲と芹澤・夢だ。パレオの付いた白のビキニを着た玲と、赤基調に黒のフリルが付いたビキニを着た夢は、お互いの水着を褒め合いながらも、
    「玲ちゃん、このお味、どうかな?」
    「磯の風味がよく出ていて美味しいですね、えぇ」
     時に味見を挟みつつ、夕食の準備を進めていく。
    「よーし、そろそろご飯を炊くっすよ」
     虎次郎は、薪の火加減を調整し飯盒を火に掛けると、
    「はじめチョロチョロ~」
     と定番の呪文を唱えながら、火力の調整を始めた。
    「あれ? ちょっと火力が弱いな。おい龍。ちょっと血撒いてくれ」
    「馬鹿言うな、ファイアブラッドを便利な着火材扱いすんじゃねぇ! 死ぬわ!」
     飯盒の準備を手伝っていた芹澤・龍治は即座に拒否する。
    「岩場で雲丹を取ってきたぞ。普通の白飯のほかに雲丹飯でもあったら華やかだろ」
     そんな時調理場にやってきたのは、太治・陽己だった。陽己は手早く飯盒の火加減の調整を手伝うと、鯵やカマスを焼く準備を始める。
    「家庭料理は普段から慣れてるモンで得意だが、料理人目指すよーなヤツには敵わなそーだ」
     手際よく料理を作っていく調理班を見回しながら、食材を運んできた夜鷹・治胡が呟いた。
    「せっかくだから、料理しながら勉強させてもらおーかね」
     そうして、調理班に加わりアジやちりめんの下拵えを始める治胡。
    「アジは焼く他につみれ汁やタタキ、刺身を丼に載せるのもウマい。ちりめんは巨大化してるし野菜炒めに出来るかねェ」
     作業をしながらも、治胡はどんな料理にするのが相応しいか頭を悩ませる。
     ウイングキャットのダナは、そんな調理班の面々を、尻尾に括り付けた団扇でパタパタ扇いで回っていた。
     やがて、狩猟班が一人、また一人と海から上がり始めた。気付けば日もすっかり傾いている。
    「お疲れさまじゃ。クーラーボックスに冷たい飲み物を用意している故、皆じっくり飲むと良いぞ」
     荷物番をしていた真田・舞姫が、ねぎらいの言葉と共に狩猟班の面々によく冷えた飲み物を手渡していき、
    「怪我した人がいたら、治療は任せて」
     安寿が、巨大生物の捕獲でうっかり怪我をした仲間の治療をして回る。
     夕日に照らされた海岸には、炊き立てのご飯と様々に調理された海産物の良い香りが漂い始め、
    「んん、良い匂いがしてきたのだー」
     くるりは、股旅館が誇る料理人達の作った料理をつまみ食いしようとし、
    「くー、夕食まで我慢するっすよ」
     そして虎次郎にやんわりブロックされていた。

    ●そして、夕食へ
    「さあご飯だ! 皆の者ご苦労であった!」
     折り畳み式のテーブル一杯に広げられた料理の数々を前にして、くるりが腰に手を当て一同を見回した。
    「それでは!」
    「「「いただきまーす!」」」
     いただきますの大合唱と共に、全員が一斉に料理に箸を伸ばす。
    「お刺身! 焼き魚! ホイル焼! おにぎり! うまーいうまーい!」
     くるりはさっそく料理を堪能して舌鼓。
    「ああ、活け作り! 私は活け作りがまず食べてみたいですっ!」
     ストレリチアは、鯛、イカ、伊勢海老と各種並んだ活け作りの中から、迷った末に鯛を選び、自らの口に運ぶ。
    「おいしーい! はい、ゆきちゃんもあーん!」
     ストレリチアが神崎・結月の前に鯛の活け作りを差し出せば、結月はあーんと口を開けて一口。
    「うぅん、さっすが、またたびさんなの! あ、これも美味しかったよ」
     お返しにと結月が差し出したのは、陽己の作ったカマスの塩焼きカボスがけだ。
    「これもおいしい! はい、お藤さんも、あーん!」
     ストレリチアは満足そうな顔で、もの欲しそうに尻尾を振っている霊犬のお藤にも活け作りを取ってあげていた。微笑ましい光景に、結月も思わず笑顔になり、
    「みんなでこうやって海に来たり、おいしいもの一緒に食べたり、楽しいね?」
     周囲で思い思いに騒いでいる一行を見回す。そして、その視線がある一点でぴたっと止まった。そこにあったのは、山盛りに盛られたたこ焼き。いや、山盛りという表現すら生ぬるい、常軌を逸した量だ。そして、そのたこ焼き山の前でたこ焼きを口いっぱいに突っ込んでいるのは、このたこ焼きを作った張本人である爽太だった。巨大タコとの2時間30分に渡る死闘を制し、見事タコを仕留めた後、わき目も降らずに巨大タコをたこ焼きにする作業に明け暮れ、気づいたらこの有様だったのである。
    「さあ、ひらり先輩もどうぞ♪」
     ひとしきりたこ焼きを食べて満足した爽太が、隣に座るひらりにもたこ焼きを勧める。
    「こ、これは! んー、もう見た目が既に美味しいですよね! 口でとろけて生臭さなんて無い、海の美味しさだけがダイレクトに伝わ(略」
     ひらりは幸せそうな超笑顔のまま、ものすごい勢いでたこ焼きを口に運びつつ、ごく自然にグルメリポートを開始。
    「あ、治胡姉も食べてください! 莉都も死ぬほど食えよ、ほら!」
     爽太は周囲の人間にも、次々にたこ焼きを配っていった。
    「お刺身、あら汁、ホイル焼……上手に出来ているといいのですが」
     調理班だった夢は、自らの手がけた料理の出来を心配していたが、
    「あーこのホイル焼絶品! え? 夢ちゃんが作ったの? さすが俺の妹、可愛いだけじゃない!」
     兄である龍治の反応を見る限り、出来は上々のようだ。
    「夢ちゃああああああああん!! 一仕事終えた俺に愛情たっぷり料理つくってくれてたんだねー! ひゃっほーーい!」
     さらにそこに伴が飛び込んできて、夢の作った料理を幸せそうに食べ始める。
    「あっ、リュージ! 食わないならこれ貰うぜー!」
     しかし、調子に乗って龍治の皿に乗っていた刺身をひょいパクしたあたりで、龍治の我慢が限界に達した。
    「あ、伴さんはこの辺で砂でも食ってたらどうです?」
    「へ?」
     見れば、なぜか砂浜に人一人が入れそうな穴が開けられている。
    「おおそうじゃ。舞姫、荷物番をしておる間に、穴を掘っておったのじゃ」
     舞姫が思い出したように手を叩いた。
    「いや、だからなんで?」
    「なんでって、そこに穴があって、ここにばんばんがいるなら、埋めなくちゃ!」
     式夜が、問答無用で伴を穴の中に突き落とし。そして当然のように周囲にいた皆で伴を埋め始める。
    「頑張れクロ、負けるなクロ。でもすまん、埋まったとこ超見たい」
    「埋まったら写真撮ってあげるから頑張って」
     穴埋めに参加していないクロードと莉都も、期待を込めた眼差しで見守っていて。
    「平和っていいね」
     安寿もいつもながらの光景に、にっこり笑っている。
    「これで……なんとか凌いでくださいね? ふぁいと!」
     そしてひらりは、頭以外完全に埋まった伴の口にストローをそっと差し込んだ。
    「お前らあああああ! 出せえええええ!!」
     伴が何やら騒いでいたが、
    「あ、ねね子ちゃーん、食事が終わったら、一緒に浜辺の散歩でもどうー?」
     式夜は何事もなかったかのようにねね子に声をかけており、
    「みんなー、鯵の冷や汁もあるっすよー。夏は冷汁ご飯も良いすよー」
     虎次郎は飯盒炊飯の合間に作った冷や汁を配り始める。誰の耳にも、次第に悲痛になる伴の叫びは届いていないようだった。
     そんな騒ぎを遠巻きに眺めながら、一人食事をしていた陽己の隣に、安寿がちょこんと腰かける。
    「今日はお疲れさま。手伝いに来てくれてありがとう」
     そして、自分が握ったおにぎりをそっと手渡そうとした。その心遣いが嬉しくて、陽己は安寿のおにぎりをもった手を両手で握ってしまう。
    「あ……」
    「ありがとう」
     俺の為に握ってくれたのかとか、直接持ってきてくれたのかとか言いたいことはいっぱいあったけれど、口から出たのは感謝の一言のみで。
    「あとで2人でお散歩でもしようか?」
     安寿がそっとそう提案すれば、
    「皆にばれないように抜けないとな」
     陽己も小声でそう返した。
     その後、ストレリチアの発案で(埋まった伴の横での)スイカ割りが催され、大いに盛り上がった夕食会は幕を閉じたのだった。
     なお、あれだけあったたこ焼きも、いつの間にかきれいさっぱりなくなっていたという。
     ちなみに夕食後、一人ナンパに赴いた式夜は数時間後、
    「なんの成果も得られませんでしたー!!」
     と泣き崩れた姿が目撃されている。

    ●深夜のお仕事
    「そんじゃ、ちょっとガイオウガの力の回収に行ってくるか」
     その日の深夜。海上に浮かべたボートから海に飛び込んでいったのは、藤のワンポイントの入った黒いハーフパンツの水着姿の式夜。その後もひらりやストレリチア、爽太ら水中呼吸を持つメンバーが中心となって海中に潜っていく。
    「慎重に頼むっすよー」
     海上に浮かべたボートの上では、虎次郎と安寿が重しを付けたロープを垂らし、潜る仲間のアシストをしていた。くるりは、漁網を使用して一網打尽を狙う算段のようだ。
    「あー、食べたら攻撃に該当してしまいそうなのが口惜しいですねー」
     赤く発行するガイオウガの力の塊を抱えながら涎を垂らすひらり。
    「はーい、鶴見岳こちらですよー」
     式夜は軽口を叩きながらも、一個一個力の塊をボートまで引き上げていき、ストレリチアは邪魔になりそうな魚を威嚇し追い払っている。
     幸い、余計な妨害も入ることなく、ガイオウガの力の塊の回収は無事に完了したのだった。
    「これで、臨海学校の一番の目的も終了だべな」
     ねね子が安堵したように砂浜に大の字に寝そべる。
    「……はて、そういえば何かを忘れているような」
     ボートからガイオウガの塊を下ろしながら、くるりが首を捻った。

     同時刻。
    「おいコラ! 引き潮で死……がああああ!? 鼻に海水が……水中呼吸無しがアダになった! 痛ァ!? 誰だカニ置いてったの!! だ、誰か助けてえええええええええ!!!」
     夕食会を行った砂浜では、埋められたまま忘れ去られた伴の悲痛な叫びが木霊していたという。

    作者:J九郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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