湯気の上る海の水面を、それはばしゃばしゃと跳ねつつ進む。
「何だよ、これは……」
砂浜に呆然と立ちつくし呟く少年が目にしたのは魚なのだろう。だが、トビウオのように海面を跳ねる魚でもなければもっと小さいサイズで成長限界を迎える種の魚の筈だった。
「大分県の別府湾の海水が温泉のようになったらしい」
君達の前に現れた座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は洗面器片手にバスタオルを巻き付けただけの姿でそう告げた。
「原因は海底に出現したガイオウガの力の塊だ。そして、この状況を解決する為、今年の臨海学校は別府湾の糸ヶ浜海浜公園で行う事になった」
つまり、例によって今年もごくふつーとは違った臨海学校になるということなのだろう。
「もっとも、このガイオウガの力の塊は、鶴見岳に運び込めばガイオウガに吸収されて消滅する。ただ運ぶだけならば、それ程荒事になることはないと言っても良い」
ただし、サイキックで攻撃するとイフリート化して襲ってくる物騒な一面も持っているらしいが。
「まぁ、そもそも力の塊の引き上げ作業は深夜に行われる」
日中は海水浴をしつつ海底の探索を行ったり、力の塊の影響で活性化及び巨大化してしまった海洋生物を駆除したりして過ごせばいいとのこと。
「活性化した海洋生物は総じて脂がのり、美味しいようなのでね」
駆除ついでにキャンプの夕食に活用するのも良いかもしれない。
「つまり、力の塊に攻撃でもしなければ本格的な戦闘とは無縁の安全な臨海学校になると言うことだ」
もっとも活性化した海洋生物も居るのではるひはお留守番と言うことらしいが、それはそれ。
「日程としては、22日の午前中に飛行機で大分へ移動、別府観光をして同日午後にキャンプ地である糸ヶ浜海浜公園へ到着、そのまま海水浴を兼ねたガイオウガの力の場所確認を行い、夕飯は飯盒炊爨」
海水浴の時に捕った海洋生物があれば、この日の夕飯に使い、夜は花火を楽しんだ後で深夜にガイオウガの力の引き上げを行う。
「未明には引き上げた力を有志で鶴見岳へ輸送、朝食後かたづけを経て23日の午前中も別府湾で海水浴だな。この時、一般人には危険そうな海洋生物の捕獲と駆除も出来れば行って貰いたい」
立つ鳥跡を濁さずとは違うが、活性化した海洋生物の中でも危険そうなモノが残っていては一般人の手に余る。
「駆除のあと、お昼には大分空港から出立……ですか」
日程表を見つめていた倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)へはるひは首肯して見せた。
「武蔵坂に到着し次第、解散の流れになると見ている」
ならば、問題は何処に重点を置くかだ。
「最初から最後まで全力では疲れてしまうと言うこともじゅうぶんあり得ると思うのでね。それはそれとして……引き上げるガイオウガの力だが」
ガイオウガの戦力を減らす為、敢えてイフリート化させて灼滅するという方法もあるとはるひは言った。
「個人的に言わせて貰えば気に入らないが、そう言う方法もあるということだ。行うかどうかは君達の判断に委ねる」
はるひが同行しない以上、戦闘になっても問題はない訳だが、決断するのは君達だ。
「私からは以上だ。楽しい海浜学校になることを祈る」
そう締めくくり、はるひは説明を終えたのだった。
参加者 | |
---|---|
アルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674) |
シグマ・コード(デイドリーム・d18226) |
望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143) |
アリソン・テイラー(アメリカンニンジャソウル・d26946) |
カーリー・エルミール(元気歌姫・d34266) |
ウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784) |
雪嶋・義人(雪のような白い餅をこの手に・d36295) |
穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442) |
●海と戯れ
「……ふぅ」
潮の香りと寄せては返す波音の中、ポツンと佇んでいたアルゲー・クロプス(轟雷ノ鍛冶士・d05674)は小さくため息をつくと、視線を海へと戻した。
(「……まさか海に影響が出るとは思いませんでしたね」)
一見普通の海と変わらないと言うには少し無理のある別府湾はあちこちから湯気が立ち上り。
「アルゲー」
「……葵くん」
名を呼ばれて振り返れば、こっちなんだぜと手を振る望山・葵(わさび餅を広めたい・d22143)の姿。
(「夏休み中の臨海学校だ、遊ぶんだぜ!」)
せっかくの臨海学校なのだ楽しまなければ損だろう。それは視界に入るクラスメートについても同じ筈であり。
「……まずは場所の確認に行きましょうか、その後で遊んでも遅くはないですし」
「あー、そうだな。ならとっとと済ませて遊ぶんだぜ!」
冷静に指摘するアルゲーの言葉に頷いた葵の足が、寄せてきた波を沈むことなく踏む。
「ESPですか……」
「おぅ。そんじゃ行ってくるんだぜ。……あ」
便利なものですねと続ける倉槌・緋那(大学生ダンピール・dn0005)に手を振った葵は、思い出したように付け加えた。戻ってきたら遊ぼうと。
「ええ、私で良ければ」
「約束なんだぜ!」
「……あ、待って下さい」
承諾する緋那へ笑顔を見せて先を行くクラスメートをアルゲーは追うように海へと入って行き。
「わ、結構熱いや。って、もうあんな所まで行ってる……ちょっと急ごっか、アルゲーさん」
「……えっ」
思わず振り返ったが、そこには誰もいない。恋する自身が聞かせた幻聴だったのか。
「……そうですね。夏はまだ終わりじゃないですし」
この間のようにまた誘えばいい。
「アルゲー、こっちの方っぽいんだぜ」
「……はい」
顔を上げたアルゲーは沖の方で手を振るクラスメートに応えると泳ぎだし。
「イクラの周りって熱そうだな、火傷に気をつけるんだぜ」
やがて辿り着いた場所の周囲は葵の言を裏付けるかのように湯気が立ち上る。
「……では、潜ってみますね」
おおよその見当がつけば、後は水中呼吸出来るアルゲーの出番だった。無事、ガイオウガの力の塊を二人は発見し。
「ただ泳ぐのもいいけどせっかくならバレーとかビーチフラッグとか海らしいもので遊びたいんだぜ」
「なんとかなるかもしれませんね」
返ってきて緋那と合流したが唸れば、少し待って下さいと席を外した緋那が即席の旗とビーチボールを手に戻ってくる。
「じゃあ、始めるんだぜ!」
ビーチボールが空高く打ち上げられ、始まるビーチバレー。
「やっぱり海は楽しいな!」
「……普通に泳ぐのもいいですが、お土産用に綺麗な貝殻とかも見つけたいですね」
砂浜でひとしきり遊び、身体についた砂を流すのも兼ねて海に入った葵が笑顔を浮かべれば、波間から顔を出したアルゲーは浜辺の方を振り返る。楽しい時間にも終わりはやって来る。お土産を受け取る思い人の姿を思い浮かべ、一人の乙女は密かに顔を赤く染めたのだった、水着姿の写真をこっそり撮られていたことにも気づかずに。
●豊漁と夕食
「フィィィィィィィッシュゥゥゥゥゥ!!」
海面から放物線を描いて飛んできた魚が、アリソン・テイラー(アメリカンニンジャソウル・d26946)の足下に落ちた。
「ドーモ、魚=サン。アリソン・テイラーでござるネ!」
合掌し挨拶する様はまさに忍者めいていて、つり上げた夕食候補=サンから針を外したアリソンは針の先に餌を付けると再び海へとスロウした。
「何を隠そうニンジャは海釣りにおいてもイチリュー! このくらいお茶の子サイサイでござるネ!」
赤いビキニに包まれた身体を半ば隠す白いパーカーを風になびかせたまま、得意そうな顔を引っ込めるとスゴイシンケンに竿の先、水面の波紋へ目をやった。
「獲物ヒットせり、慈悲はなしヨ! イヤーッ!」
次の瞬間、糸に引かれ空を舞った魚が飛んでくる。先程のモノもだが、通常なら考えられないサイズであった。
「エルミール殿、そちらのリザルトはいかがでござるかナ?」
「んー、とりあえず、これぐらいかな~?」
そんな、海釣り忍者と化したアリソンの質問に答えたのは、貝やら何やらの一杯入った容れ物を持ち海から上がってくるカーリー・エルミール(元気歌姫・d34266)。
「ガイオウガの力の塊ってのも見たよ。巨大イクラみたいで美味しそうだったな~。でも、食べれないんだよね。残念」
「ふふん、だったらそのパートも色々キャッチすればノープロブレムネ! そして、これはサスケにプレゼントヨ!」
やや憮然とするカーリーに釣り竿を示して笑んだアリソンは取り出した釣果の一匹を霊犬のサスケ・サルトビへ差し出した。
「さー、フィッシングをアゲインネ!」
そして、霊犬のビミョーな顔を気にせず魚を加えさせると、釣りを再開し。
「沢山捕れたら言ってね、ボク怪力無双で運ぶから。それじゃあ」
カーリーも声をかけると、海で獲ったモノを持って立ち去り、美味しそうな匂いが立ち上り始めたのは暫し後のこと。
「ふー、お腹減った……あ」
海に入っての収穫を抱えて何度目かの上陸を果たしたカーリーは揺れる炎を見て足を止めた。爆ぜて音を立てるのは魚から滴った油。
「ドーモ、エルミール殿。ディナーの準備はほぼコンプリートヨ! 一本いかがでござるかナ?」
「いいの?」
スタイルの良い身体を屈め、火の側に立てかけてあった魚の串をアリソンが引き抜くと大きな胸を弾ませてカーリーが即座に食いつく。
「オフコース、ヨ!」
この時、カーリーの凄まじい食欲についてアリソンが認知していたかはわからない。
「わぁ、美味しいなぁ。脂ものってて最高ーっ」
「イヤーッ! っ、サスケもちょとヘルプでござるヨ!」
楽しい夕食の時間、火の側にはひたすら海産物を焼く忍者の姿があったとかなかったとか。
●日は落ち、その後
「……ふふ、夏、ですねー」
夕顔の柄の浴衣を着た眠兎が夕の風に目を閉じる。
「そうだね」
目を開けるまでもなく甚平を着た梟の声がすぐ側に居ることを教えてくれて。
(「――ちょっと、良いふいんきでしょうか? ドキドキ、してもらえると、良いのですけれど……」)
目を開ければ、団扇を持つ手の反対に線香花火の束を揺らす梟が居た。
「せっかくの夏なんだし、楽しんだってバチは当たらないよ♪」
他にも花火に来てる人は居るみたいだからねと示された先にはポツンと立つ人影。
「仕事はちゃんとやるけど、それ以上に今日こそ……!」
夜空を見上げ、決意を胸に人影こと雪嶋・義人(雪のような白い餅をこの手に・d36295)は拳を握り締めた。
「絶対ドジっておかしな事にならないようにしないと……」
ブツブツ呟きつつ明らかに待つのは、淡い慕情を抱いた憧れの先輩。
「あ……先輩!」
水色の浴衣姿を見つけ、手を振って出迎えるまでに時間はかからなかった。そして、会場に花火が上がり始めたのは、更に少ししてのこと。
「綺麗だね、先輩」
答えを求めた訳ではないのだろう。見上げた空からちらりと憧れの先輩に視線をやると、空に咲いた花に照らされた顔で義人は微笑む。
「今日は来てくれてありがとう。先輩と一緒に見たかったんだ」
と。
「オレも、先輩がいつも支えてくれてたから、だからここまでこれたから……」
「何だか嬉しいですね。今年初めに雪嶋さんをお救いできて、最初は側にいて守らなければと思っていたものの……」
拳を握って自分を見る後輩の義人に、日々逞しくなっていく貴方を隣で見てきたこの7ヵ月間はと続けたセカイは口元を綻ばせ。
「……ふふっ、わたくしにとっても一番充実した日々だったかもしれません」
「……先輩」
内心の変化に、自身の仄かな想いに気づかぬセカイの顔を花火が照らせば義人は息を呑み。
「せ、先輩。オレ……!」
一瞬の呆然自失から立ち直るなり、足を一歩前へ踏み出した。告白するならここだと思ったのだろう。
「って、わぁっ」
その結果、足を滑らせた義人は咄嗟に先輩の浴衣を掴んですっ転び。
「えっ……きゃあっ」
浴衣がずり落ち大きく肌を晒した事に気づいた先輩は自身の身体を抱くように隠して悲鳴をあげた。が、これで終わりではなかった。
「……ご、ごめんっっ、こんなつもりじゃっ?! っと、わぶっ」
慌てて浴衣を手放し義人は頭を下げるも転倒した時に脱げかけてた履き物と砂に足を取られ、思い人の豊かな胸元に顔面を埋めると相成ったのだ。
「なるほど……今日はこういう事がしたかったと?」
「ち、違、こんな事したかったわけじゃなくて」
「……猛省してください!」
どうしてこうなるんだよと絶叫したくなりつつも弁明しようとする義人が聞いたのは、思い人の冷たい声。身体を離そうとして柔らかな何かをにぎにぎしてしまえば、そんな反応も仕方なくだから気づかなかった。
「……本当に、目を離せないんだから」
小声でポツリと漏らされた声には。
「……夏も、もう盛りを過ぎたでしょうか」
ただ、言えることがあるとすれば、会場は花火以外の花が育ったり咲く場所でもあるようで、賑やかなハプニング発生現場から離れた静かな場所で線香花火の火ではなく照らされる梟の顔を見つめ、眠兎は呟く。顔の熱さはきっと夏のせい。
「「あ」」
もう一つ、理由に出来そうな近くの花火ではない打ち上げるタイプのそれが夜空に大きく花を咲かせた。
●さるべーじ
(「アカハガネに『頼んだ』なんて言われたら、きっちり回収運搬するしか無いな」)
波に揺られるシグマ・コード(デイドリーム・d18226)は目を隠す前髪越しに仲間達を見つつ言葉を探し、最終的にやるかとだけ言って行動を開始した。
「準備しておいて良かったわね」
自分で用意してきたゴムボートの縁に手を置き、水面を見つめていたウィスタリア・ウッド(藤の花房・d34784)も縁に腰掛ける姿勢を作ると六尺褌のみを身につけた身体を滑るように海へと入れた。
「帰りは泳ぎね」
行きは空だったから乗ってきたものの、そもそも用意したそれは力の塊を引き上げる時の浮力の足しであり、可能なら運搬するためのもの。首尾良く行けば、人と乗る余裕は消失することだろう。
「……周囲の確認はステロに頼んでおきますね」
「ミーもサスケに海上で警戒しつつスティして貰っておくでござるヨ!」
二名のサーヴァントを船上に残す形で他の灼滅者達も動き出す。
「……はぁ」
花火の下でやらかした誰かは傷心にため息をつきながら。
「白雪?」
「っ、あ、ああ」
どことなく思い詰めた表情の穂村・白雪(無人屋敷に眠る紅犬・d36442)は、シグマに名を呼ばれ我に返ってからではあったが。
「このほぼ真下なのね?」
「そうなんだぜ」
「ふぅん」
何名かが念のために持ってきた水中でも使える明かりが光条を差し込む海面で仲間に確認をとったウィスタリアが赤いアイラインの描かれた顔で水面下に視線をやると、水中で呼吸を可能とした灼滅者達が潜って行く姿があり、最後尾に白雪の姿もあった。
「お化粧は大丈夫でしょうけど、早く済むに越したことはないわね」
腕を通すは、潜行組が端を持つロープの束。女物を身に付けるサービス精神なんて無いわよぉとケラケラ笑ってはいたものの、ノーメイクではないからか、呟きながらロープを送り出し。
「たしかにイクラだな、これを持ってくのも大変そうだぜ」
水中で大きな球体にロープをかけていた葵は、手を動かしつつも水面を仰ぐ。
(「……こういう時はドジらないのに、なんで」)
順調に力の塊を縛れたことにやるせなさを隠せない様子の義人だったが、おそらく力の塊がイフリートになった場合非女性型になる塊だったのだろう、体質的に考えて。
「……上がってきましたね」
「思ったよりライトでござるネ」
ロープがかかった力の塊は水面に残った面々の手によって引っぱられ、徐々に全貌を明らかにし出し。
「やっぱり巨大イクラみたい。美味しそうなのにな~」
「イクラっぽいのが生まれる…………ガイオウガって……鮭?? ンな訳ないか」
やがて海面から顔を出したそれを見て、カーリーが唸ればウィスタリアは首を傾げてから頭を振る。
「とりあえず、全部載せるのは無理そうね」
「となると、一個一個の重さは体積分の水より少し軽いぐらいかな」
「……でしたら、残りはゴムボートに括って行けば良さそうですね」
作業はほぼ順調だった。
「……あれで最後だ」
「そっか、白雪姉ちゃんもお疲れさまなんだぜ」
「いや……」
最後に上がってきた白雪がどことなく元気のないことを除けば。
「じゃあ、戻ってこれ焼こうよ? 夜のおやつに」
「おやつって、何時の間に?」
ともあれ、無事力の引き上げは完了しこぼれイクラのゴムボート盛りもどきを作った灼滅者達はゴムボートへ捕まりつつ陸へと帰還する。後は引き上げたモノを鶴見岳へ還すだけだった。
●かえるもの、かえらぬもの
「人は依頼の成功に褒美が欲しいものだろう」
今年は自主的に同行してやろうと尊大に言い放ったのは、シグマについてきた有無であり、力の塊を積み込んだ荷車を牽引するのは、白雪のライドキャリバーであるクトゥグァ。
「ダークネスも進化しているのかな。闇堕ちなしで生まれるなら争う理由も一つ減るし、良い前兆かも」
「しかしまた闇堕ち以外でも殖える闇か。魚介類じゃないんだな? ……癒しは得られるのか?」
準備は終わり、動き出した荷車を後ろから押しつつ、シグマは口の端をつり上げれば、同行者は首を傾げ。
「有無」
私の手が要らんなら手伝わんぞと言いつつも片手を荷車に添えていた恩人の名を呼ぶと、シグマは取り出した海鮮串焼きやら飲料水やらを差し出す。
「なっ」
「いや、臨海学校気分出るかなーと思って。大丈夫だって、臭みの少ないやつにしたから! ほら」
あっけにとられた様子の有無の両手が塞がる勢いで持たせると、自由になった手で再び荷車を押す。
「あの辺り、かな?」
割と賑やかな道中だった。だが、目的地がある以上終わりも訪れる。護送を行う灼滅者は他にも居たのだ。
「ふむ、目的地に近づくと勝手に溶けて消えていく訳か」
興味深げに見やる中、三人と一台で運んできた力の塊も他の灼滅者に倣うよう地面に置けば溶けて消え。
「行った、か……」
シグマ達を先に帰した白雪は自身も引き返す振りをして物陰に潜んだ。
(「昭和新山での戦いに挑む時決めていたことがある。この戦いでイフリートを一人も救えなかったら私の命を捧げようと」)
声には出さず心の中で吐き出される独言は聞く者もなく。
(「一方的な虐殺に加担した自分が許せなかった。一般人を守るため仕方なかったと言い訳したくない。共に戦おうと説得してきたのに彼らを裏切り殺した、それはまぎれもない事実」)
語りつつ待つは、自分達とは別に力の塊を運んできた灼滅者達の帰還。
「っ」
続けた声のない告白。奪った命の数には程遠いけど人一人分くらいは返したいと言う決意の元闇に堕ちようとするも、何かが抑制したか、まるで理に反するから出来ませんとでも言うかのように闇落ちすること能わず。
「それすら出来ないのか……いや」
白雪の脳裏を過ぎったのは一人の仲間の表情。怒られてこいとでも言うことなのか。
「帰る、か」
還れぬのでは、返せぬのでは意味がない。ポツリと呟いた白雪は物影を出て、帰路へとついた。
●危険は避けて楽しい海を
「一仕事終えた後の水遊びっていいわよねー。ねえ、義姉さん?」
同意を求めたウィスタリアの言葉に白装束姿の雪緒は短くええと応じてから、寄せた波へ足を一歩踏み出した。六尺褌をしめたウィスタリアが水しぶきを上げつつ幼女を義姉さん呼ばわりする姿は見知らぬ者が遭遇すれば二度見しても不思議ではない光景だったが、二人にとってはこれがデフォルトなのだろう。
「細身なのに綺麗な筋肉の付き方してますね」
とだけコメントした義姉に「あら」だとか「嫌だわ」とかい言いつつちょっと嬉しそうにウィスタリアはくねくねと身体を捩りながらクロスグレイブを振り下ろし、海面に一部分だけ姿を見せていた巨大貝を粉砕する。分銅を横に倒したようなソレは通常の大きさならイモガイと言う名で呼ばれる有毒生物だ。
「とりあえずまた一匹駆除成功ね。駆除のついでに、食べられそうなヤツがいたら冷凍してお土産にしましょー」
「賛成です、駆除ついでに晩御飯のおかずが狩れれば文句なしですね。こうして全力ではしゃぐ体力があるのも若いうちだけですし、楽しまねば損です」
周囲を見回すウィスタリアへ同意して見せた雪緒はウィスタリアを追う形で海へ入って行き。
「……おや、これはプカプカとかわいらしい」
「……って、ねえさあああん!!」
海面を漂う青いプニプニしたモノを見つけふと足を止め、指でつつき始めた義姉を何気なく振り向いて見つけたウィスタリアは叫んだ。
「どうしたんですお藤さん?」
「それ毒クラゲ! 活性化してなくても普通に危険生物!! 素手で触っちゃダメえええええ!!」
「ふふ、大丈夫ですよ、仮に刺されても死には……ンギャアアァ!!」
バベルの鎖によってたいしたダメージにならないのは事実。だが完全に無効化できるわけでもない。
「……灼滅者でも痛いものは痛いですね」
絶叫を辺りに響き渡らせた雪緒は真顔で呟くと、一つ教訓を得て浜辺に戻るのだった。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年8月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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