「8月に入って夏本番、といった感じですね。夏といえば怪談、幽霊、そして都市伝説。この浜辺にも、怪しい気配がしてきたようですよ……」
雪乃城・菖蒲(虚無放浪・d11444)がそう言いつつ仲間を連れてきたのは、海水浴客で賑わう浜辺だ。
浜辺はもうすでにたくさんの海水浴客で賑わっている。
「この辺りでおかしなことが起きるという噂を聞いて、調べていたんです。どうやら白昼堂々現れる都市伝説がいるようですね……」
菖蒲が調べたところによると、海水浴客が遊んでいるところに大量のハンガーやマネキンでできた巨大な怪人が出現、海水浴客の水着を剥ぎとってしまうという事件が起きているらしい。
さらに水着を剥ぎ取られた海水浴客は、無理やり別の水着を着せられてしまうようだ。
「なかなか不埒な都市伝説ですが、おかしなことにその場の全員が被害にあったわけではないようです。聞きこみをしてみたんですが、どうやら襲われたのは去年の水着を着用していた人のみだったようなんです。新作水着の販促でもしたいんでしょうかこの都市伝説……」
さらに調べによれば、この都市伝説が出現するのは浜辺に100人以上の海水浴客がいるときのみのようだ。
「当然都市伝説が出現すれば大混乱が起きるでしょう。まずは的確に避難誘導をして一般人を安全を確保するのが先決でしょうね。あるいはこちらに都市伝説をおびき寄せるとか……色んな意味でリスクが高そうですが……」
「では、わかっている範囲で今回の都市伝説の戦闘能力を予想してみましょうか。まず、水着を剥ぎとってくるとのことですが、おそらく正確に去年の水着を着ている人だけを狙ってくるものと思われます。厄介なのは、見た目だけだは誰が襲われるかわからないことですね。また、これだけ大量の被害者が一度に出ているということは一気に大量の水着を剥ぎ取れるといいうことだと思います。……まったくはた迷惑な敵ですよね」
さらに菖蒲は、新しい水着を無理やり着せてくるという点にもなにかあると考えているようだ。
「おそらくですがこれ、着せられた人を拘束、悪くすれば操る能力があったりするんじゃないでしょうか。もしそうだった場合は、戦闘、避難誘導に加えて操られた一般人への対処もしなくては……」
「今回は夏ならではの都市伝説といった感じの相手ですね。とはいえ、このままでは平和な浜辺が色んな意味で大変なことになってしまいますので、ぜひとも皆さんの力を貸していただきたいです」
参加者 | |
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アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392) |
幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437) |
水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324) |
新堂・柚葉(深緑の魔法つかい・d33727) |
立花・環(グリーンティアーズ・d34526) |
夏真っ盛りの8月半ば、この浜辺も海水浴客でいっぱいになっている。
その中に混じって、5名の男女の姿があった。
「去年の水着を着ているもののみを狙ってくる都市伝説か。男性物だとほぼ判別は不可能だな……。うむやはり男の水着は褌に限る!」
周囲から色んな意味で注目されているアレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)は、鍛え上げられた鋼のような肉体に赤フンの上からサーフパンツ着用という出で立ちだ。
「桃も去年の水着だけど……うん、なんとか着られるね!」
イエローのビキニ姿の幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)は、砂浜の上でくるりと回って自分の姿を確認している。
「いやー……うん、去年の水着をかぁ……うん、はた迷惑なことには変わりないし、とっとと殴り倒しておこうか……」
テンション高めの二人に対して、去年のアロハを着てきたらしい水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)は、なんだかいかにも「さっさと終わらせて帰りたい」という顔をしている。
「あっれー? 旭くんもしかしてー、『推理者である菖蒲さんは知り合いだが、参加されてなくてかえってよかったかなー』とか思ってるぅ?」
「ぎくぅっ! そ、そんなことはないよ?」
桃琴に図星を突かれたのか、裏返り気味の声で答える旭。
「海水浴客を狙う卑劣な都市伝説ですか。なぜこのような形で出現したのかとか興味がないとは言いませんが……しっかり灼滅していきましょう」
真面目な表情で沖のほうを見据える新堂・柚葉(深緑の魔法つかい・d33727)は、白のビキニに包まれた抜群のスタイルが注目されているのにはまるで気づいていないようだ。
「ん……やっぱり去年の水着だから、ちょっときついかな……。環さんは大丈夫ですか?」
「去年の水着……ええ、問題なく入りますよ特に体型変わってませんし。……って、そこで沈黙されても……その、何だ、困る」
「だ、大丈夫ですよ環さん! その、そういう需要もありますから!」
「ウンソーデスヨネー」
柚葉の不器用なフォローに、緑のストライプの入ったおとなしめの水着の立花・環(グリーンティアーズ・d34526)ハイライトの消え失せた瞳で答える。
時間はもうすぐお昼をすぎる頃。
周囲を見れば、海水浴客の数はだんだん増えてきている。
「100人以上集まったら、都市伝説が出現するのだったな……そろそろ、か?」
そう言って沖のほうを見やるアレクサンダー。
沖の方では、泳ぐ海水浴客のさらに向こう側で、トビウオでも跳ねているのか、小さな波しぶきが上がっている……いや、違う!
「みんな、どうやらお出ましのようだぞ!」
波しぶきを上げているのは魚ではない、無数のハンガーとマネキンだ!
ハンガーとマネキンは空中で組み合わさり、いびつな人型になっていく。
都市伝説・ゴーストマネキンの出現だ!
水しぶきを上げて着地したゴーストマネキンは、不気味な唸り声をあげる。
怪物の出現に、浜辺の歓声は一気に悲鳴に変わった。
「みなさーん! 落ち着いて! でも急いで避難してくださーい!」
逃げようとする海水浴客の波に揉まれながらも、桃琴が声を張り上げて避難誘導を試みる。
同時にアレクサンダーが砂を蹴立てて突進、ゴーストマネキンの進行を食い止めにかかる。
「ここから先は進ませんぞ!」
アレクサンダーの強烈なタックルを、ゴーストマネキンは真正面から受け止める。
しかしゴーストマネキンはタックルを受けつつも、その口に当たる部分から大量のハンガーを吐き出した。
「き、来ましたね! 乙女の柔肌はそう簡単には披露しませんよ!?」
周囲を飛び交うハンガーをソニックビートで撃墜しつつ、環は中段に移動、逃げていく一般人の援護に回る。
灼滅者たちは囮となってハンガーを引き付けるが、なにせハンガーの数は多い。
ハンガーは容赦なく一般人にも向かっていく。
「よ、予想以上に数が多い! 柚葉さん、そっちに行ったぞ!」
旭の斬撃をすり抜けた数本のハンガーが、ラブフェロモンで海水浴客を誘導していた柚葉の方に向かう。
「き、来ちゃダメですっ!」
後ろを肩越しに確認しつつ、柚葉はダイダロスベルトで飛来するハンガーを叩き落とす。
しかし、次から次へと飛んで来るハンガーに、次第に対処しきれなくなってきた。
ひときわ大きな悲鳴が上がり、海水浴客の中の数人の水着が剥ぎ取られ始めた。
同時にゴーストマネキンは新しい水着を吐き出した。
水着を剥ぎ取られた海水浴客たちは、逃げるまもなく無理やり新しい水着を着せられてしまった。
途端、逃げようとしていた足取りを反転し、ゴーストマネキンと戦っている灼滅者の方に走っていく。
「こ、これ、操られてるの!?」
距離を取ろうとした桃琴だが、操られた海水浴客に足にしがみつかれてしまう。
「ぬううん! これ以上一般人を操らせはせん! ふんっ!」
ゴーストマネキンと組み合っていたアレクサンダーは、自分の体をその下に潜りこませ、一気に持ち上げた。
「ぬうおりゃあっ!」
天高く放り投げられたゴーストマネキンは、盛大な水柱を上げて海に転落する。
ハンガーの勢いが弱まった隙に、避難誘導班の柚葉と桃琴が大多数の海水浴客を安全圏へと避難させるが、去年の水着を着てきたと思しき数十人は、ゴーストマネキンの射出した新しい水着に拘束されて操られてしまっている。
「柚葉ちゃん、次は操られた人たちをなんとかしよう!」
「は、はい!」
そう言って二人が海の方を振り向いた瞬間、水柱とともにゴーストマネキンが大ジャンプ、二人の前に砂を巻き上げて着地した。
「来たな怪物め! さぁ、勝負だよ!」
素早く構えを取った桃琴が、ゴーストマネキンが振り下ろしてきた拳を迎え撃つ。
自分の顔面ほどもある巨大な拳にも怯むことなく、桃琴は自ら踏み込み間合いを殺す。
ゴーストマネキンの懐深くに飛び込んだ桃琴は、肩を当ててその腕を弾くと同時に、鋭い踏み込みから肘を繰り出す!
「破っ!!」
砂浜を震わせるほどの震脚から放たれた一撃は、見事ゴーストマネキンの腹に命中、重い音とともにゴーストマネキンはくずおれた……と思いきや、口からハンガーの群れを吐き出した!
「わっ、わっ!」
至近距離にいた桃琴はその攻撃を回避できず、まともに食らってしまう。
飛んできたハンガーがビキニの結び目に引っかかり、持って行かれてしまう。
「きゃんっ!? びっくり……でも止まらないよ!」
それでも桃琴は攻撃の手を緩めようとしない。
片手で胸元を隠しつつ、さらに踏み込んで頂肘の一撃を加える。
「これを使えいっ!」
今度こそ砂浜に倒れ伏したゴーストマネキンの向こうから、アレクサンダーが辛うじてバスタオルを投げるが、その巨躯は水着で操られた海水浴客に今にも埋もれてしまいそうだ。
「御免っ!」
群がってくる海水浴客を当身で無力化しようとするアレクサンダーだが、なにせ数が多い。
「大丈夫か!?」
「こっちは問題ない! 旭は都市伝説を押さえてくれ!」
もがきながらもそう言うアレクサンダーを一瞥し、旭はのそりと立ち上がったゴーストマネキンに向き直る。
片腕を巨大な砲身に変化させ、その無防備な背中に向けて光線を撃ちこむ……その瞬間、がくりと体制を崩してしまった。
放たれた光線は、ゴーストマネキンの肩先をかすめるにとどまった。
「なっ、何っ!?」
足元を見ると、いつの間にか数人の海水浴客が旭の足にしがみつき、その動きを封じようとしている。
「旭さんっ!」
環が助けに入ろうとするが、一般人相手では迂闊に攻撃を仕掛けることはできない。
やむなく引き剥がしにかかるが、操られているせいか苦戦を強いられてしまう。
「ふぎぎぎ、離れてくださ……うわこっち来たっ!」
そこへ間髪入れず、ゴーストマネキンの撃ち出した無数のハンガーが襲ってきた。
「くっ、ふざけた相手の割には、なかなか厄介ですね……!」
妖の槍、鐵断を振り回して飛んで来るハンガーを迎撃する旭だが、ハンガーは弾き飛ばしてもブーメランのように戻ってきて、再び襲い掛かってくる。
さらに、操られた一般人に足止めをされた二人に向かってゴーストマネキンが物凄い勢いで突進してきた!
「わわわっ、こっちは取り込み中ですってば!」
海水浴客にしがみつかれながらも、環はソニックビートでゴーストマネキンの突進を妨害しようと試みる。
対するゴーストマネキンは防御しようともせず、真正面から突っ込んできた。
ソニックビートをまともに食らい、体を構成するマネキンやハンガーの破片を撒き散らすゴーストマネキンだが、それでも止まらない!
「うぐ……っ!」
「きゃああっ!」
ゴーストマネキンの体当たりをまともに食らい、大きくふっとばされる旭と環。
なんとか起き上がるも、その時にはすでに上空からは無数のハンガーが襲いかかってきている!
「癒しの言の葉を、あなたに……!」
瞬間、後方に控えていた柚葉の手から放たれた癒やしの力を帯びた光が、間一髪二人を回復させる。
ダメージの回復した二人は素早く後退しながら、襲ってくるハンガーを迎撃する。
しかしハンガーの一部は向きを変え、今度は柚葉の水着を剥ぎ取ろうと襲ってきた。
「や、やらせませんよ!」
飛び交うハンガーをアンチサイキックレイで撃ち落としつつ、なんとかこらえる柚葉。
一方ゴーストマネキンは新しい水着で海水浴客を操り、灼滅者たちを拘束しようとしてきた。
「そうそう同じ手は食わんぞ!」
しかし、灼滅者側もただやられてはいない。
旭が群がる海水浴客を引き付けながら、アレクサンダーに目配せする。
「今だっ!」
「応よっ!」
素早い手加減攻撃で操られた海水浴客を気絶させたアレクサンダーは、そのまま数人を怪力無双で担ぎ上げ、安全圏へと運んでいく。
「もう手下は減ってきたよ? このまま一気にやっつけちゃうんだからっ!」
上半身にバスタオルを巻いた桃琴がゴーストマネキンに果敢に攻撃を仕掛けようとするが、操られた一般人が減ってきたとはいえ大量のハンガーに邪魔されて、なかなか間合いを詰められない。
「桃琴さん、援護します!」
後方に位置した柚葉が、ハンガーの群れに向かってアンチサイキックレイを連射、数個のハンガーを撃ち落として弾幕に穴を開ける。
さらに中段に位置した環がゴーストマネキンの足元にソニックビートを撃ちこみ、動きを封じようと試みる。
足元の砂を深くえぐられ、ゴーストマネキンの両足が一気に膝のあたりまで埋没した。
「そのまま埋まっちゃいなさい!」
動きが鈍ったと見るや、桃琴は身を低くして猛然とダッシュ、一気に間合いを詰める。
「だあああっ!」
気合一閃、鋭い飛び蹴りがゴーストマネキンの腹部に突き刺さり、その体がくの字に曲がる。
しかしゴーストマネキンは、悲鳴の代わりに口から大量のハンガーを吐き出した。後方の二人を狙っている!
二人はとっさに身をかがめてやり過ごすが、ハンガーはブーメランのように戻ってきて背後から二人を襲った。
とっさに身をかがめる二人だが、猛禽の如き勢いで迫ってきたハンガーに水着を奪い取られてしまう。
「きゃあああーっ! 助けてアニメとかでよくある謎の光!」
思わずかぶっていた麦わら帽子でガードする環だが、それはそれで危ない格好になってしまっている。
一方柚葉は、両手で胸を隠してその場にうずくまってしまった。
「やっ、やぁぁん……見ないで、ください……」
眼鏡の奥の大きな瞳を涙でうるませる柚葉の艶姿に、そばで見ていいた環は思わず生唾を飲み込んでしまう。
「ゴクリ……いやゴクリじゃないだろ私。ちょっと誰かー! 私の柔肌が大ピンチなんですけどー!」
その声に答えたのは、よりによってゴーストのマネキンの方だ。
砂浜から強引に脱出したゴーストマネキンは、地響きを立てて突進してきた。
「あはは……何を思ってそんな無体を働くのかは知るつもりもないけれど、断ち切らせて貰うね?」
その背中を追うのは旭だ。
ゴーストマネキンは鐵断を頭上に構えた旭に振り返ると、口からハンガーを射出してきた。
それを後方から追いついたアレクサンダーのキャリバー・スキップジャックがガードする。
「はっ!」
気合一閃、スキップジャックの影からジャンプした旭が、穂先を下にして眼下のゴーストマネキンを狙う。
対するゴーストマネキンは両手をクロスさせてガードしようとするが、その両腕を環のソニックビートと柚葉のアンチサイキックレイで弾かれてしまう。
「もらったぁっ!」
ガードをこじ開けられたゴーストマネキンの眉間に、穂先が深々と突き刺さる!
同時にゴーストマネキンの体を構成していた大量のハンガーとマネキンがぼろぼろと崩れ落ち、数秒後にはその体は完全に崩壊してしまった。
「ようやくおとなしくなったか……やれやれ、とんでもない敵だったな……」
深く息をつき、つぶやく旭。
「あー……それはそうと男性陣の皆さん。ちょーっと向こう向いててくんないかな。あ、それとも見たい? 見たいの~?」
「もぉ、桃琴さんたらやめてください……! や、見ちゃダメですっ!」
「事務所からNGが出てるんで、過度の露出はダメダメなんです。というわけでちょっと着替えてきますねー」
言いつつ女子更衣室へと消えていく女性陣を見送る旭の顔は、少し赤い。
「はーっはっはっは! 青春だな!」
そのかたに無意味に手を置きつつ、なぜか高笑いを上げているアレクサンダー。
旭はもう一度つぶやく。
「ほんと、とんでもない事件だったよ……」
作者:神室樹麟太郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2016年8月22日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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