臨海学校2016~紅玉沈む海にあそぶ

    作者:篁みゆ

    ●温泉のような海で
     海水の温度が上がった――それはすぐに漁師たちの耳に入り、別府湾の生態系が心配された。
     しかし漁師たちの心配をよそに、40度前後の海の中でも魚は元気に泳ぎまわり……いや、前よりも動きが活発になったようにすら思えた。時折目を疑うような巨大な魚が見られたりもしている。
     この怪現象が海底に沈む巨大な赤い石が原因だとは、誰も知らなかった。
     

    「待ちに待っていた者もいるだろう。臨海学校の説明をするよ」
     集まった灼滅者たちに、神童・瀞真(大学生エクスブレイン・dn0069)が告げる。
    「……今年もただの臨海学校ではないのですね……?」
     恐る恐る尋ねた向坂・ユリア(つきのおと・dn0041)に瀞真は苦笑を返して続ける。
    「大分県の別府湾の海水がね、40度前後の温泉のようになってしまっているんだ。この事態を解決するために、別府湾の糸ヶ浜海浜公園で臨海学校を行う事になったんだよ」
     海水温の上昇の原因は海底から染み出したガイオウガの力の塊だ。直径1m位で、イクラのような赤い色をしている。
    「ガイオウガの力の塊は鶴見岳に運び込めば、ガイオウガに吸収されて消滅するようだね。ただ、サイキックで攻撃するとイフリート化して襲い掛かってくるので注意が必要だよ」
     瀞真は和綴じのノートに視線を落として続ける。
    「ガイオウガの力の塊の引き揚げ作業は深夜に行う事になるので、日中は海水浴などをしつつ、海底の探索などを行ってほしい。海洋生物が活性化しており中には巨大化してしまったものもいるようだね。灼滅者の敵では無いけれど、一般人には危険かもしれないので、出来れば駆除してほしいかな」
     活性化した海洋生物は、総じて脂が乗っていて美味しいようなので、キャンプの夕食にもってこいかもしれない。
    「今回の臨海学校は、別府湾の海底に沈んでいるガイオウガの力の塊を探し出して引き上げ、処理する事が目的だよ。あえてガイオウガの塊に攻撃を仕掛けない限りは戦闘は発生しないので、安全な臨海学校になるだろうね」
     スケジュールとしてはこんな感じだよ、と瀞真は一枚のプリントを差し出した。

     ・8月22日(月)
     午前:羽田空港から大分空港へ、別府観光をしてからキャンプ地である糸ヶ浜海浜公園に向かう
     午後:糸ヶ浜海浜公園到着
     午後:別府湾で海水浴(ガイオウガの力の場所確認)
     夕食:飯盒炊爨(別府湾の生命力の強い海産物を食べよう)
     夜 :花火
     深夜:ガイオウガの力の引き上げ

     ・8月23日(火)
     未明:ガイオウガの力を鶴見岳へ輸送(有志)
     朝 :朝食、後片付け
     午前:別府湾で海水浴(危険そうな海産物の捜索と駆除)
     昼 :大分空港から武蔵坂に帰還
     
    「事件を解決しつつ、臨海学校を楽しんできて欲しい。あと、ガイオウガの力の塊を鶴見岳に運ぶのは有志に任せる事になるけれど、気をつけるんだよ」
     そう告げ、瀞真はノートから顔を上げて少しの間、間をおいた。そして再び口を開く。
    「ガイオウガの戦力を減らす為に敢えてイフリート化させて灼滅するという方法もあるけれど……行うかどうかは各自の判断に任せるよ」
     何より、楽しんで無事に帰ってきてくれること、それが瀞真の望みだろう。


    参加者
    陰条路・朔之助(雲海・d00390)
    一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)
    二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)
    一橋・聖(空っぽの仮面・d02156)
    姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)
    狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)
    暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)
    若草・みかん(スィートネーブル・d13977)

    ■リプレイ

    ●暖かな海に
     何となく、潮の香りが強い気がする。それが水温が上がったことによるのか、海辺に近づいたからかは別府観光を終えて別府湾の海水浴場についたばかりの灼滅者たちには分からないが。ただひとつわかっていることは、水中にあるガイオウガの塊を取り除けば、この海は通常に戻るということだけ。
    「ガイオウガの力の塊……どんな感触なのかしら。きちんとガイオウガのところに返してあげたいな」
    「まぁアカハガネを学園に連れ帰った身としては、頼まれ事はきっちりやりたいもんだよな」
     海を見ながら呟いた若草・みかん(スィートネーブル・d13977)の言葉に、サングラスの奥の瞳を海面に向けた一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)も呟くように反応を見せた。
    「ええ……きちんと還してあげたいですね」
     狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)の呟きには複雑な思いが宿っている。ナミダ姫の一件があった今、それより前に灼滅者たちが説得したり言葉を預けたイフリート達の助けになれるということを、とてもうれしく思うのだ。
     敵ではない、力になると説得した者たちもいたことだろう。だが結局のところああなってしまったのだ。複雑な関係や交渉の上に決定した方針であるため償うというのは少し違うが、何かできることがあるというのは救われるもの。
    「直接人を害するモノではないようですが……付近に影響を与えるとあっては、早々に回収しなければなりませんね」
    「そうですね。夜になったらスムーズに回収しませんと」
     姫条・セカイ(黎明の響き・d03014)と向坂・ユリア(つきのおと・dn0041)が顔を見合わせて頷きあった。
    「暴雨と狩野、陰条路も車と網の手配ありがとな。俺は追加で借りられねぇか地元漁師に交渉してみるんで、塊の位置確認は頼んだ」
    「……ん」
    「おう、任せとけ」
     暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)と陰条路・朔之助(雲海・d00390)が智巳の言葉に答え、二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)も静かに頷いてみせた。
    「智クン、アタシも一緒にいくよ!」
    「そうか?」
     貸してもらえたらお礼に自分のアイドルCDをプレゼントして営業するつもりの一橋・聖(空っぽの仮面・d02156)が、智巳と行動を共にすることを宣言。一同はそれぞれ海辺で散った。

    「わぁ、海ってひろくておっきいのね……」
     改めて海と向かい合って、みかんは感嘆の声をあげる。
    「んー……良い天気。日焼け止めは、ちゃんと塗った?」
    「大丈夫なのよ、きちんと塗ったわ。心配ありがとなのよ」
     赤くならぬよう気を付けないと、と心配するサズヤの気持ちが嬉しくて、みかんは微笑んでみせた。その時ふと、大事なことを聞き忘れていたことに気がついた。
    「サズさんは泳ぎは得意? 折角だから泳ぎながら探し物、すれば一石二鳥なのよ」
    「海水浴、問題ない。25mまでは泳げる」
     みかんの問いに頷いたサズヤだったが、躊躇うように付け加える。
    「……危なくなったら、助けてほしい」
     その言葉に、みかんの表情がぱあぁっと輝いた。普段は頼りっぱなしの自分ができることが見つかって、嬉しいのだ。
    「ふふ、大丈夫、なにかあったらあたしが助けてあげるわね。だいだいも、ね」
     ナノナノのだいだいに視線を向けると、ナノ! という元気な返事が聞けて。みかんは波打ち際まで小走りで近寄った。足が海水に触れると――。
    「わぁ、本当に温水プールみたい……これはこれで素敵だけれど、なんだか海に来た! みたいな感動は半減しちゃうのね」
    「……温水プール」
     後を追ったサズヤも足を浸して。ちょうどいい水加減と呟いてそのまま腰のあたりまで海につかった。
    「確かに……海といえば冷たい印象。だいだいも入れ……」
     サズヤの言葉を、顔にかかった飛沫が遮った。見ればいつの間にか彼より沖へと進んだみかんとだいだいが、はやくはやく! と手で水をかけてきていた。お返しに、と少し水を返しながら、サズヤもみかんたちのそばへ寄る。足のつかないところでは無理はできないが、浅瀬から少し沖くらいならなんとか潜れそうだ。対してみかんはちょくちょく潜っては、そこそこ深そうな場所から顔をあげていた。
    「だいだいも……泳げるのか」
    「ナノ!」
     泳ぐというより浮かぶのだろうと思っていたサズヤにとっては、自分より上手いかもしれないだいだいの水中での動きは意外だった。真似するように潜ってみると、透明で綺麗な水の向こうの方に、魚の泳ぐ影が見える。普通だったらこの距離からは見えないのかもしれないそれも、魚が巨大化している今、意外に目につくのだった。
    (「あ、あれかしら?」)
     何度目かの潜水で、みかんは岩の陰をそっと覗いた。そこに見えたのは、自然のものには見えぬ赤い塊。
    「はふっ……サズさん」
     海面に顔を出してサズヤのいる位置までスイスイと戻る。
    「ん? 見つけた?」
    「ええ。あの岩の陰にひとつ」
    「場所、覚えておこう」
    「今度は三人でいっしょに泳いで探しましょうよ」
     みかんの提案にサズヤもだいだいも頷き、ふたりと一匹は飛沫を上げて海を堪能するのだった。

     空と海が茜色に染まる頃、海辺のそこここでいい匂いが漂いつつあった。
    (「雪ちゃんがカレー作るって言うし、あたしもお手伝いー♪」)
     ゲットした海産物を抱えて聖が雪紗の元へと向かうと、彼女はすでに自分が運んだ海産物を調理し始めていた。
    「やっぱり、飯盒炊爨といえばカレーだよね♪ 何手伝えばいいかな?」
    「では、残りの材料を切るのを手伝って欲しい。ところで……」
    「あ、智クン?」
     雪紗の隣で包丁を手にした聖は、彼女の問いの先を察知して声を上げた。先程まで一緒に海産物を追いかけていたはずの智巳の姿が見えないのだ。
    「なんか海から全然上がってこないんだよねー。ほっとく?」
    「出来上がりにはまだ時間がかかる。それまでに上がってくればいいと思う」
     噂されている彼が今、銛を手に巨大魚とバトルしていることをふたりは何となく察知しているが、よもやご飯より海底のウツボとの熱血バトルのほうが大事になってしまうところまでは想像できていなかった。
    「ねえ雪紗ちゃん、もう煮込み始めてからだいぶ経つ気がするけど、まだ? おなか減ったよー」
     目の前の鍋はだいぶ前からぐつぐつと煮立っている。ご飯の炊けた香りと鍋の中身の香りがなんともお腹を刺激して。昼間泳ぎまわったこともあって、聖のお腹は今にも鳴りそうだ。アイドルとして、お腹がなってしまうのは恥ずかしいかオイシイかどちらだろうか。
    「お腹が減った? もう少し待ってくれ。あと2時間は煮込まなければ……」
    「2時間!?」
     料理は苦手ではないが、カレーには一家言ある雪紗は、カレーの煮込み加減に熱中していた。聖が思わず声を上げる。
    「そんなに待てないよ~」
     弱々しく抗議の言葉を紡ぐが、雪紗の行動は揺らがない。困った。困り果てて聖のお腹は今にも悲鳴を上げそうだった。

    ●夜の花と秘密の運び手
     夏の夜空に花が咲く。
     艶なしの黒地に艶のある黒糸で鎧のように描かれた文様が、花火の光を受けて暗闇に光る。真紅の帯を締めたその姿は、浴衣であるのに彼愛用の鎧を着ているように見えた。
    「正流は体格が大きいからシンプルなのが似合いますね。今夜の正流も素敵です」
     花火のよく見える位置へ、人混みから正流に守られて歩きながら、律希はそっと彼の姿を見つめる。白地に菊の花、淡い紫やピンクで描かれたそれに藤色の帯、結い上げた髪に菊の髪飾りをあしらった律希。正流が視線を落とせば、白いうなじが視界に入った。
    「や、水着姿も良いですが……浴衣姿もステキです♪」
     彼女が凄く大人びて見える。昨年よりも綺麗な浴衣姿に、鼓動が早る。
    (「ガイオウガの絡む事件に心落着かぬ日々を過ごしてますが……たまには息抜きも必要ですね」)
     ファイアブラッドである正流としては、やはりガイオウが絡みの事件は気になるもので。そんな彼の様子を律希は察知している。
    (「正流は少なからずガイオウガの影響を受けているはず……気を逸らされているみたいで、ガイオウガにちょっぴり妬いてしまいますね」)
     ここからなら見やすいだろうと足を止めたふたり。律希は思わず正流の大きな手を取って、ぎゅっと握りしめた。彼が何処かへ行ってしまう気がして――それを繋ぎ止めておきたくて。何も告げずともぎゅっと握り返されたことに嬉しさを感じる。
    「わ、わ、今のすんごい大きかったですね!」
    「や、これは大きい! たーまやー!」
     特別な人と見る花火は特別なものになる。花火の美しさに感嘆の声を上げながら、正流はそっと律希の横顔を盗み見た。
    (「やっぱり綺麗だな……」)
     花火に照らされた彼女の横顔が美しすぎて、そっとその頬に唇を落とす。
    「花火も綺麗ですが……律希も綺麗です♪」
    (「俺だけの……大輪の花だ……」)
     律希も正流を見上げて、一瞬、花火のことを忘れる。爆音に周囲の音がかき消されて、まるで世界でふたりだけのよう。
    「二人きりになるとくすぐったい言葉を紡ぐ正流のこと、大好きですよ」
     真っ直ぐな思いを言葉にのせて、彼の元へと。

     周りはカップルだらけだ。そのことに緊張しつつ、はぐれないようにと朔之助と史明は手を繋いで花火を見に来ている。
     長い幼なじみ期間を過ごした後、去年のクリスマスに恋人同士になったふたりには初めて迎える恋人としての夏。手を繋いだことは何度もあったけれど、恋人としてとなるとむず痒いような照れが先走ってしまう朔之助。
    (「迷子防止という大義名分がなくても手を繋げる関係になった筈だけど、未だに理由をつけて手を繋ぐのは、幼馴染暦が長すぎたからかな」)
     だが史明としてはちょっと悔しい。だからこっそり繋いだ手を恋人繋ぎに変えた。
    「ちょ、こ……これ……!」
    「そうだね、花火綺麗だね」
     一瞬固まった後に発された朔之助の異論を孕んだ言葉、それも予想済みなのだろう、史明は断固として異論は認めぬとばかりに押し切ろうとする。結果、恥ずかしいとはいえなくなって、朔之助は花火に集中することにした。史明の作戦勝ちだ。
    「わぁ……」
    「あ、僕、今のやつ好きだな。最後にバチバチジュワーッ、て音がするやつ」
     花火が上がるたびに小さく声を漏らす朔之助に、史明は何気なく呟くように言葉を紡いだ。彼の好きだという花火を覚えておこうと朔之助が強く思った直後、好きな花火を聞かれて。
    「あ、僕は最後の方に上がるでっかいやつが好きだなー」
    「ああ、一際大きく綺麗に咲いて、皆を魅了する所、朔に似てるよね」
    「おう、ありがとう!」
     照れを押し込んでさらっと言ってみせた史明の言葉に、朔之助は満面の笑みで答えた。その笑みを見た瞬間、史明は確信する。
    (「……あ、これ絶対分かってないやつだな?」)
    (「でっかくて迫力ある、ドーンとしたやつが僕に似てる? ……つまり、逞しいって事か! 史に逞しいと、頼りにされてる。これからも史の事は僕が護るぞ!」)
     喜々として花火を見上げる朔之助は、史明の思った通り分かってなかった! この鈍感キング、と憎々しい思いを眼力に込める史明だったが。
    (「……こっちの事全然見てない!!」)
     朔之助は花火に夢中で、その横顔があまりに嬉しそうだったから、せめてもの仕返しにと史明は繋いだ手に力を込めた。

     深夜に再び集合した9名は、それぞれ昼間に目星をつけておいた塊の場所の情報を共有する。ブイを浮かべたり水中利用できるGPSを設置したりと方法は様々だが、複数の塊を発見できたようだった。
    「ここは手分けいたしましょう。水中呼吸を持っている方々で網をかけ、怪力無双を持っている方々を中心に引き上げ、周りに注意を払う人員も必要かと思います」
     セカイの提案に反対する者はいない。彼女の用意したヘッドライトを受け取り、ユリアが口を開く。
    「私が周囲の注意にあたりましょう。何か異変があれば、皆様にお知らせします」
     そして水中呼吸持ちのみかん、朔之助、雪紗、セカイ、翡翠が交代で海へと潜り、塊へと網をかける。固定が完了したことを確認して雪紗が海面へ顔を出し、残りのメンバーに合図をする。怪力無双持ちのサズヤや智巳が中心となり、皆でひとつずつ塊を引き上げていく。水中からの押し上げや怪力無双を利用したため、通常よりもスムーズに回収は進んでいった。
    「……カメラ回しても映らないド深夜に地引網するアイドルって何なんだ……?」
     思わず呟いた聖だったが、引き上げには一生懸命だ。
     用意できたトラックの荷台に、次々と赤い塊が乗せられていく。闇夜にもなお赤赤しいそれは巨大なイクラのようで、触れたら本物のイクラのようにぷにぷになのだろうかとみかんの好奇心を刺激した。
    「僕たちが見つけたのはこれで全部か?」
    「恐らくそうだね」
     事前の目撃情報と数を確認しながら、朔之助の問いに雪紗が頷く。
    「智クン、頼んだよ!」
    「おう、任せな」
     聖の声掛けに応え、トラックの運転席に乗り込みながら智巳は呟く。
    「こんな時のために免許取っといてよかったよ、全く」
     念の為に他の班の護送担当者と連絡を取り合い、出発を合わせる。
    「先にガイオウガの元に向かった方々みたいに、私達の気持ちを伝えてくれると嬉しいですね」
    「じゃあ行ってくる」
     塊に触れてそっと呟いた翡翠が手を離したのを確認して、智巳はトラックを動かす。他の8人はトラックが見えなくなるまで見送って、それぞれ宿へと向かった。

     智巳は他勢力の襲撃を十分に警戒しつつも、夜のドライブを楽しみつつ鶴見岳を目指す。他の班の護送担当も十分に警戒しているだろうから、何かあれば連絡が来るだろう。尤も、変な徴候があれば連絡が来る前に気付けたほうがいいのには変わらないが。
    (「アカハガネとか学園にいるイフリート達もこの合宿に連れてこれりゃ、いい気晴らしになったんだろうけどな」)
     そう簡単にはいかないことは智巳もわかっている。だから。
    (「ま、精々土産話でもしてやらなきゃなァ」)
     これからの出来事も含めて、土産話を持ち帰りたいものだ。
     夜のドライブの後、鶴見岳へと辿り着いた智巳。トラックを降りて荷台を見てみると、塊は溶けるように小さくなっている最中だった。少しずつ吸収が始まっているのだろう。そのままでもいずれすべて吸収されそうだったが、智巳はあえて溶けかけの塊を荷台から下ろした。そして大地に吸収されていくさまを見守る。
    「さぁて、戻るかねェ」
     すべてが解けるように吸収されたのを見届けて、智巳は再び運転席へと乗り込んだ。

    ●飛沫弾ける海で
     翌日。午前中の海水浴兼危険生物駆除の前に、砂浜に敷いたシートの前でくつろぐ女子が三名。
    「ふふっ、臨海学校といえば毎年戦闘などで慌ただしい事が多かったですし……こうやってゆっくりできるのは珍しい気がしますね」
    「夜更かししたので少し眠いですけれどね」
    「でもようやく心からゆっくりできる気がします」
     上が白、下が赤でお尻が隠れる程度の袴調のパレオを巻いたビキニを着用しているのはセカイ。白黒のバイカラーの三角ビキニを着用した翡翠は少し眠そうに横になっている。ユリアは薄い桃色地にピンクの花がらの入ったホルターネックのビキニを着て、微笑んだ。
    「そろそろ参りましょうか」
    「そうですね」
     三人は連れ立って海へと潜る。翡翠がイカロスウィングで動きを止めた危険生物に、セカイとユリアがとどめを刺す。暫くそれを繰り返していくと、他の班も駆除に参加していたこともあって、ほどなく近くで危険生物を見かけることはなくなった。これで安心して遊べるというもの。
    「きゃっ!」
    「ユリアさん、油断しすぎです」
     浅い所でユリアに水をかけて、セカイが笑う。
    「……ちょっと日差しが厳しいですね……っ!?」
     自らの身体に水をかけていた翡翠の顔に、水が飛んできた。ユリアがセカイに放ったお返しの水が、近くにいた翡翠にも飛んだのだ。
    「やりましたね?」
     悪気がないのは互いにわかっている。これはお約束みたいなもの。気がつけば三人できゃっきゃっと笑いながら水の掛け合いが始まっていた。日差しに輝く飛沫がとても眩しく、彼女たちを惹き立てる。
    「はぁ……はぁ……。少し休憩がてら、綺麗な貝殻でも探しませんか?」
    「いいですね」
    「シーグラスやきれいな貝殻がたくさん見つかれば、シークラフトに使うのもいいかもしれません」
     セカイの提案に翡翠もユリアも乗り気だ。海での拾い物は、アイデア次第で素敵なものへと生まれ変わることもできる。
     砂浜の暑さを感じながらも、掘り出し物を見つけて見せ合えば、その素敵さに心躍り、僅かな羨ましさから探し物への意欲が増す。気がつけば、三人の手の中にはたくさんの『たからもの』が溢れていた。
    「綺麗ですね」
    「ええ、いいお土産ができました」
    「素敵なお土産ですね」
     笑顔、あふれる。

    「…みかん、楽しかった? 俺は、楽しかった」
     楽しかった臨海学校ももうすぐ終わる。サズヤに聞かれたみかんの答えは、ひとつだけ。
    「えへへ、とても楽しかったのよ」
     答えは、同じ。
     きっとみんな、楽しい時間を過ごしたことだろう。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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