臨海学校2016～海の幸とガイオウガ

■リプレイ

●海水浴
　眩い日差しの中、白い砂浜を駆け、青い海へと水着姿の灼滅者達は飛び込んでいく。砂浜には幾つもの足跡が残る。
「力の塊の引き上げか……重要作業だ。絶対に成し遂げてみせる！　……まぁ、それはそれとして折角、臨海学校って来たんだし楽しめるところは楽しまなきゃね？」
「せっかく、だもん、やることもするけど、存分に遊ぶの」
　今は全力で遊ぼうと望月・一夜（漆黒戦記ナイトソウル・d25084）が水辺に誘うと、吉武・智秋（秋霖の先に陽光を望む・d32156）も笑顔で浅瀬に入り、温かな海水を掬いあげると一夜に向けて飛ばした。やったなと一夜も智秋に向けて反撃する。
「まずはガイオウガの塊を探そうかな。時間はあるからのんびりしっかりと探すね」
　泳げない東屋・紫王（風見の獣・d12878）は、入念に準備運動をすると浮き輪を着けて海へと入る。
「ファイアブラッドなアレソレで潜らなくても、近付いたらわかるとか無いかな……ダメか……」
　感知できないかと目を閉じてみるが、何も感じる事はなく諦めて沖へと進み始める。水中呼吸できるから溺れる事はないだろうと、紫王は恐る恐る海面に顔を突っ込み、覗き込むように海中を調べ出した。
　浅瀬では一夜と智秋はビーチボールを膨らませ、互いにトスし合って遊び始めた。
「あ、足が海に、結構難しいぞ……！」
「……水、あるから、動きにくい、けど、こういうのも、楽しいよね……どのくらい、続くかな？」
　水の流れに苦戦しながらも２人のラリーが続く。
「よーっし、こっちだ……うわ、わっぷ！？」
　上を見ながらボールを追いかけると、押し寄せる波に足を取られた一夜が前のめりに転んだ。
「だいじょう、ぶ？」
　慌てて智秋が駆け寄ると、ぶはっと顔を砂だらけにした一夜が顔を上げる。それを見て思わず智秋の顔が綻み、互いに笑いあった。
　他の灼滅者達はガイオウガの塊まりを探しながらも、海に潜ってダイビングでもするように、海中の世界を楽しんでいた。
「この光りかな」
　海底に赤く光るものを見つけた紫王は、水中で呼吸しながら潜り、１ｍ程のイクラのような赤い玉を見つけた。
「正解みたいだね」
　そして間違わぬように場所をチェックしておく。
「じゃあ次は向こうを探してみようかな」
　紫王は他にも無いか探すため浮き輪でバタ足をしながら進む、だが波に流され違う方向へと動き出した。
「へへっ、どうだ！　体力は負けてねぇぜ？」
「運動は、得意じゃない、の……」
　一夜と智秋はビーチボールで遊んだ後、沖まで泳いで競争していた。ブイに先に触れた一夜が得意げな顔をし、智秋は疲れた顔でぷかぷかと浮いた。
「あ、赤く光ってるの……力の塊、見つけたの」
　智秋が姿勢を変えたとき、その真下に赤く光る物体を見つけた。
「お、本当だ。お手柄だな智秋！」
　一夜も海面に顔を突っ込んで確認すると、光っている物が見える。それが探していたガイオウガの塊だった。
「光ってるから、簡単に見つかる、かも……」
「じゃあどっちが多く見つけられるか競争だ！」
　２人は次の遊びを思いつき、ガイオウガの塊を探し出した。
「波が強いな……ちょっと、そっちじゃ……」
　その横をぷかぷかと浮いた紫王が波に流されていった。

●巨大魚介類
「臨海学校いやっほー！　キャンプ！　BBQ!」
　焼けるような日差しの中、住矢・慧樹（クロスファイア・d04132）が叫びながら海に飛び込んだ。
「熱っ、本当完全に温泉だなコレ。なんか不思議な感じ。ガイオウガの力ってすげーな」
　海に足を入れた科戸・日方（大学生自転車乗り・d00353）が、その温泉のような海水の温度を確かめて可笑しそうにはしゃぐ。
「誰がいちばんの大物を獲ってくるか、競争なの！」
　準備運動もそこそこに、古室・智以子（花笑う・d01029）が銛を手に海へと駆け出した。
「よっし、それじゃあ海産物獲りに行くぜっ」
　それに続いて張り切った日方も銛を手に沖へと泳ぎ出す。
「なに、大物捕獲競争だと！？　よっしゃ、受けてたつぜ！」
　がばっと海から顔を出した慧樹がやる気満々で腕を上げた。
「長いエモノの扱いは慣れてるからな、負けねーぜ！」
　陸に戻った慧樹も銛を拾い上げ、もう一度海へと駆け出した。
「みんなで美味しい魚を獲ってきてね！」
「大漁を期待してるわよ」
　そんな仲間達の背中を見送り城守・千波耶（裏腹ラプンツェル・d07563）と玉城・曜灯（紅風纏う子花・d29034）が手を振る。そして自分達は料理をする為に器具の準備を始めた。
　水中呼吸をしながら日方は楽しそうに魚達と泳いでいると、遠目に大きな影を見つけた。そっと近づくが、影は気配に感づいたのかするりと逃げてしまう。
「ごぼごぼっ、くそっ逃げられた！」
　口惜しそうにしながらも、日方はもう一度チャンスを求めて追いかけるように泳ぎ出した。
　智以子が獲物を探して海中を泳いでいると、突然影が海面からの光を遮った。見上げれば人よりも大きな巨影を見つける。何本もの長い腕に三角の頭。大きなイカの姿がそこにはあった。
「見つけた！　ついにイカ発見なの！　いざ、勝負なの！」
　智以子は勇んで銛を手に泳ぎ出した。それに気付いたイカは方向転換しようとするが、そこで追ってきていた日方とぶつかり弾かれる。その隙に智以子は接近し、銛を振りかぶった。
　魚を獲りに向かってから暫くして、慧樹が一番に戻ってきた。
「デカいヤツ仕留めたぜー！」
　見せびらかせるように１ｍを超えるアジを慧樹は掲げる。
「えっ、なんだそのデカイ魚、コツ教えろ！」
　同じく戻ってきた日方が獲物を見て目を丸くして詰め寄る。その手にある50cm程のカレイと比べれば大きさは歴然だった。
「イカを倒した……の」
　自分よりも大きな巨大なイカを引き摺った智以子が陸に上がると力尽きて膝を突く、体にはイカの足が何本も巻きつき、水着がずれてイカを取ると危ない状態となっていた。
「すごいわね。これは料理のし甲斐がありそう……あっ、でもわたしイカさばくの苦手だから、誰かお願いね？」
　水着を元に戻しながら千波耶がそのイカを剥がすのを手伝う。
「わぁ、捌き甲斐のありそうなのを獲ってきたのね」
　その巨大魚介を前に曜灯は目を細めた。
　テーブルの上にはさまざまな食材が並んでいる。置ききれない魚介類はブルーシートの上に並べられていた。
「イカがたくさんあるし、イカリングとか、シーフードカレーとか作るわね。夏って言えばカレーだし！」
　楽しそうに千波耶が鍋で炒めておいたタマネギに水を入れる。そして油の入ったフライパンを加熱し始めた。
「あたしは海産物を捌いていくわ。イカを捌くのも任せて」
　曜灯が手馴れた様子で包丁を手にする。そして見事な手際で魚をおろし始める。
「ご飯炊く係は任せろ！　俺、米炊くの割と上手いんだぜ」
　自信満々に慧樹が米を研ぎ始める。
　まな板をトントントンとリズミカルに叩く音がする。どんどん魚介類が切り分けられ、店で売っているような形へと変化していった。
「ありがとう。じゃあカレーに使う分を貰うわね」
　千波耶が魚介を受け取り、軽く炒めると煮立った鍋に入れていく。カレールウを入れると、食欲の湧くスパイスの香りが周囲に漂った。
「フライにするならアジは開きにするわね、食べやすいサイズにカットしておくわ。ソースとタルタルもあたしが作るから」
　ささっと曜灯が魚に包丁を通し、身を切り分けていく。巨大な魚はあっという間に切り身へと変わった。
「鮮魚はやっぱりお刺身よね」
　続けて曜灯は獲れたての新鮮な魚を薄く切り取り刺身にしていく。そして更に花びらのように並べた。
　海がオレンジに染まり始めると、魚の焼けるいい香りが立ち込め、灼滅者達の胃を刺激する。テーブルには刺身、そして網焼きと出来上がった美味しそうな料理が並んでいた。
「ご飯にたっぷりルウをかけて……これで完成ね！」
　千波耶がテーブルにカレーの入った皿を並べる。その横にはイカリングや魚を揚げた大皿も盛られていた。
「みんなに行き届いたわね」
「さぁみんな、召し上がれ」
　給仕した千波耶と曜灯が見渡し全員に行き渡ると、いただきますと早速食べ始める。
「あー、メシ本当うまいっ。皆で獲って作って食べるのって、何かいいよなー」
　幸せそうに日方は頬一杯にカレーを詰め込む。そして上に乗っけた魚のフライに齧りついた。
「最近は戦闘とかばっかしてた気がするから、こうやって皆でワイワイするのって、すっげー楽しい」
　大勢で食べる食事は格別だと、日方は満面の笑みを見せた。
「イカとの戦いは思い出したくないの、でも美味しいの」
　イカとの戦いを少しトラウマのように思いながらも、智以子は味わってイカフライを食べる。
　紫王、一夜、智秋も魚介の料理を味わい、笑顔で美味しさを表現していた。
「夜は海で一仕事あるし、しっかり食べないとな」
　慧樹が仲間の皿にお代わりのご飯をよそっていく。
　この美味しい魚介が今回の事件の最大の利点だろう、お腹一杯になるまで灼滅者達は海の幸を味わった。

●引き上げ
　暗い海に月の光が反射する頃、食事も終わり一休みしていた灼滅者達が動き出す。手にしたライトで海を照らし、水着姿で潜る準備をする。
「楽しんだ分も、しなきゃいけない事も頑張らないとな！」
「ちょっと食べ過ぎたかも、まあ腹ごなしにはいいか、行くぜー！」
　気合を入れた日方はロープを手に海中に勢い良く潜る。慧樹もその後に続いて潜っていった。
「食後の運動にはちょうどいいかもね。それじゃあ調べておいた場所へ向かうよ」
　浮き輪をした紫王は、昼間探しておいた場所へ向かってバシャバシャと水を蹴って進み始める。
「夜の海は、昼とは違うの、迷わないよう気をつけて行くの」
　夜は視界が悪く、海はどこも同じように見える。智以子は間違わないよう、方向を確認して海へ入った。
「こう暗いと視界が悪いわね、こっちでサポートするわ」
　曜灯がライトを照らし、仲間を誘導するように海に光を当てた。
　深夜の海中は昼とはまた違う様相を呈している。深い暗闇に閉ざされ、昼間とは違う生き物とすれ違う。そんな中、灼滅者達はライトを照らしながら深く沈んでいく。すると暗闇の中に赤く光る玉の存在が見える、闇の中輝く玉は昼間よりもはっきりと見て取れた。
　海底に転がる直径１ｍくらいの巨大化したイクラのような外見をしたガイオウガの力の塊を目前にする。
「イクラだな、でっけーイクラ」
「ホントにイクラそっくりだな。さ、チャチャっと終わらせようぜ！」
　日方と慧樹はロープを解けぬよう固く結びつけた。そして日方は海面に顔を出す。
「引き上げてくれー」
　陸に向かって日方が声をかける。
「分かったわ。それじゃあいくわね！」
　凄まじい力を発揮して千波耶がロープを引き上げる。釣りの糸を引くように、ずりずりと陸へと引っ張り揚げると、その先端に括りつけた丸い玉が砂浜に現われた。
「今の海の生物の巨大化を考えると、大きくなったイクラかと思ってしまうわね」
「このサイズのイクラだと、生んだ鮭はとんでもない大きさになりそうね」
　イクラそっくりだと千波耶と曜灯が観察して、２人で左右から持ち上げてみた。
「気をつけてリアカーに乗せるの」
　近場に沈んでいたガイオウガの塊を抱えた智以子が、よたよたと海から戻りリアカーに乗せた。
「こっちもロープを結んできたよ」
　沖の方から戻って来る紫王が手を振って合図を送る。
「食べて遊んだ分は働かないとな、力の見せ所だ！」
「思いっきり、引っ張るの。よいしょっ、と」
　一夜と智秋が力一杯ロープを引いた。だが智秋が力を入れ過ぎて後ろに倒れそうになるのを一夜が支える。
「あ、ありがとう、なの」
「ちょっと強すぎたな」
　顔を赤くした智秋を一夜がそっと立たせる。そして程々の力で２人はロープを引き寄せ、赤い玉を陸へ揚げた。赤い巨大イクラのような玉がリアカーに乗せられていく。
「上手い上手い、この調子で次々引き上げようぜ」
「コツが、分かってきたの」
　一夜と智秋は仲間が結び終えたロープを、息を合わせて仲良く引き上げていく。
「まだあるからロープを結んでくるね」
　そう言って紫王がロープを手にまた海へ戻る。コツを掴んだのか、浮き輪で上手く波に乗って移動していた。
「こっちも行くぜ」
「食べた分は働かないとなー」
　日方と慧樹も次のガイオウガの塊を獲りに海へと飛び込んだ。
「わたしも手伝ってくるの」
　智以子も手を貸そうと海を泳ぎ出した。
「夜の海も綺麗なものね。星も良く見えるし、小さい頃の家族キャンプを思い出すわ」
　曜灯は仲間に変える場所を教えるようにリアカー周辺にライトを設置し、満天の星空を見上げた。
「どうやら邪魔も無く終わりそうね」
　念のため周囲を警戒した千波耶は、異変のない平和な海辺にそう呟いた。

●一日の終わり
　調べていた場所からの回収を終え、潜っていた灼滅者達が戻り、疲れきったように砂浜に座り込んだ。砂浜には幾つものガイオウガの塊が置かれたいた。赤い光が集まり、照明のように輝いている。
「はい、いくら夏でも夜の海だから体を少し温めてね」
　曜灯は疲労回復効果があるという温かなバーブティを、海から上がった仲間に振舞う。仲間達は感謝の言葉を伝えながら紙コップを受け取り、それを飲んで体を休める。
「昼間見つけおいたのはこれで最後かな。この近辺にあるガイオウガの塊はこんなものだね」
　よっこいしょと最後の赤い玉を紫王がリアカーに乗せた。
「意外とあっさり終わったな」
「後は、これを運ぶだけなの、最後まで、油断はしないの」
　アクシデントも無く終わったと、一夜と智秋はリアカーに乗せ終わったガイオウガの塊を見下ろす。それは本当にイクラに似た物体だった。１ｍもあるイクラなら随分と食べ応えがあるだろうなと食卓に並ぶのを想像した。
「輸送中にうっかり落とさないように気をつけるの」
　智以子が落ちないように、リアカーにロープを巻きつけて赤い玉を固定する。
「よし、行けっぶんぶん丸！」
　慧樹が指示を出すと、ライドキャリバーのぶんぶん丸がリアカーを引き始めた。
「こっちよ。足元に気をつけて」
　曜灯がそれを先導して、道をライトで照らして歩き出す。
「ガイオウガが復活したら、他の勢力も含めて、どうなるんかな。一般の人の所とかに変な影響出なきゃいいけど」
　その力の塊だけでこんな事態が起きるのだと、日方は心配そうに平穏な海を眺めた。
「すべてのイフリートを吸収して目覚めたガイオウガって、世界にたった一人で寂しくないのかしら」
　千波耶は今日という仲間達との楽しい一日を思い返し、一人ではきっとこんなに楽しむ事はできなかっただろうと、寂しい景色を想像する。
　これが終われば臨海学校の一日目は終わる。きっと明日も楽しい日になるだろうと、灼滅者達は笑みを浮かべて歩き出した。

作者：天木一	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年8月23日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 3／キャラが大事にされていた 2
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