臨海学校2016～ひと夏の思い出を、別府で

■リプレイ

●海底探索
　海中に差し込む太陽の光が、別府湾の海底を明るく彩っている。
　キラキラと光を反射する水面を背に、野乃・御伽（アクロファイア・d15646）は海底へと潜水。
（「陽射しは暑いけど水中は気持ち良いな」）
　眼前に広がる海中の世界に、火炫・散耶（柔き綵花・d05291）も目を見張る。巨大化したスズキの群れが、悠々と泳いでいった。
（「いけませんね、つい目移りしてしまいます」）
　散耶のウェーブの髪が、海中の光を受けて朝焼け空のように柔かく広がっている。
　ほの暗さが増す海底では、月村・アヅマ（風刃・d13869）は、赤い輝きの前にいた。このガイオウガの塊の引き上げが、臨海学校の目的でもある。
（「ここなら目立たないし、移動させてまで隠す必要はないか……」）
　防水仕様のライトで周囲を照らすアヅマのもとへ、御伽と散耶が近づいてくる。
　間近で見るガイオウガの塊に、散耶は息を呑んだ。
（「私どもには計り知れぬ、驚異的な力ですね……」）
　命を育むものの象徴である大地。それがガイオウガそのものなら、この現象も頷けると、散耶はしばらく、その赤い輝きに見入っていた。
（「ったく、ガイオウガってのは本当型破りだな」）
　突然発生した力の塊は、一体何を意味するのか、なぜ炎獣に変化するのか。御伽はそんなことを考えながら、塊に近い岩に釣り糸を固定する。糸の先には目印用の浮き。
　海面へと上っていく浮きに、星見乃・海星（虹の彼方の海の星・d28788）がゆったりと近づく。その姿は、人間大の巨大なヒトデ。
（「本当に海に潜るのは初めてで、楽しいかも……」）
　海星の星形の腕からは管足が楽しそうにうごめき、その隙間からは大イカの触腕のような、薄桃色の帯が長く伸びている。
（「……海星ちゃん、活き活きしてるね」）
　ルーチェ・ペンドリーノ（流れ星を見つけた・d32717）は、海星が見える位置を保ちつつ、赤く輝くガイオウガの塊を確認。
（「海星ちゃんと一緒に臨海学校、何して遊ぼうかな」）
　ガイオウガの力の引き上げはもちろん真面目にするつもりだけれど、それはそれとして。ルーチェとしては、今日これからが楽しみでたまらない。
　久瀬・雛菊（蒼穹のシーアクオン・d21285）は、ヘッドライトの明かりを頼りに海底を探る。海底はだだっ広く、泥が巻き上がると見通しは悪くなる。だからこそ、しらみつぶしに、根気よく。
　たまに泳ぐのをやめて見渡せば、見たことのない海中の光景が目の前に広がる。
（「あそこで泳いでる大きいアナゴ、焼いたら何人分になるんかなぁ」）
　海中の光景を楽しむ雛菊の視界に、やがて、ガイオウガの赤い輝きが入ってくる。雛菊に先立ち、塊を観察していたのは、深海・水花（鮮血の使徒・d20595）。
（「このガイオウガさんの力の塊を見たら、エンジュさんは複雑な気持ちになるでしょうか」）
　赤い光は、先日、水花が雛菊らと学園に連れてきたイフリートを思い出す。一緒に遊べたらと思うが、やはり、学園外への連れ出しは危険すぎる。
（「エンジュさんには、何か美味しい物をお土産として買っておく事にしましょう」）
　浜辺では、一足早く戻ったハリー・クリントン（ニンジャヒーロー・d18314）が、ビニールシートを広げていた。クーラーボックスには冷たい飲み物。
「夏だ！　海だ！　水着のおなごでござるー！！」
　腰に手を当て、声高らかに宣言するハリーの赤フンが潮風になびく。
「ガイオウガの力の塊の回収作業は手早く終わらせて、皆で一夏のあばんちゅーるを楽しむでござるよ！」
　口元を隠す赤いスカーフと同色の、目に眩しい赤いフンドシだった。

●みんなでスイカ割り
　ガイオウガの塊の場所を確認した後は、臨海学校のお楽しみタイム。
「あーっと、もうちょい右。いや、左」
「頑張ってくださいまし、久瀬様」
　スイカ割りに挑戦中の雛菊。御伽や散耶の声、そして、ウイングキャットのイカスミの鳴き声を頼りに、スイカの位置を探る。
（「ふむ……そろそろここ辺りかな？　スイカは」）
「一撃で決めるんよ……穴子唐竹割りっ！」
　大上段から竹刀を振り下ろす。中心こそ外したものの、スイカに斜めのヒビが入る。
「イカスミちゃん……にゃーにゃーだけじゃ解らないんよ」
　イカスミはくりっとした丸い目で、きょとんと雛菊を見返している。
「新しいスイカと交換しますね。こちらのスイカは、早速みんなでいただきましょう」
　競泳用水着に白いパーカーを羽織る水花は、氷水入りバケツから次のスイカを取り出す。割れたスイカを手際よく切り分け、塩は各自のお好みで。
　ビーチパラソルの下で休む散耶は、スイカを一口食べ、口元をほころばせた。
「定番とは申しますが、実際体験するのは初めて故、ドキドキいたしますね」
「初めてですか。それならぜひ、スイカを割る側にもなってみてくださいね」
　水花はそう言いながら、スイカを食べ終えた散耶へ、ウェットティッシュを手渡す。
「お気遣いありがとうございます、深海様。はい、一度は挑戦してみたいと思っております」
　散耶の前で、雛菊から竹刀を受け取った御伽が立ち上がる。
「っしゃ、任せろ。こういうのは得意だ」
　御伽がスイカからかなり離れた場所で竹刀を構える一方、ハリーの視線はそれとは関係なく、あちらこちらへさまよっていた。
「水着のおなごは良いでござるなあ……」
「どこ見てるのさ、クリントンさん」
　あからさまに鼻の下を伸ばすハリーに、ジト目になるルーチェ。
「まあ、いいけどね。僕だって、気にならないわけじゃないし」
「水着姿は、夏服とまた違う魅力があるでござるよ。特に胸元、言ってしまえばあのオッパ……」
「――ルーチェくん、お待たせ」
「海星ちゃ……ぁ、わわ……うわ！」
　ルーチェの心臓がどくんと跳ねる。
　人間形体の海星は、学園祭の時の、水色の水着に着替えていた。
（「ちょ、ちょっと背中見えててダイタンかもだけど……」）
　――ドキドキさせてあげないとダメだよ、海星ちゃん。
　友達にも、そんなふうに言われたから。
「み、海星ちゃん……」
　ルーチェの心臓が、ばくばくと鳴っている。
　年上の恋人で、つき合ってようやく半年。最近は、照れながらも堂々と手を繋げるくらいにはなったけれど……水着姿は、別格だった。
「ルーチェ殿、どうなっているでござる！？　何も見えぬでござるよ！」
　ルーチェに両目を塞がれ、ハリーがじたばたと身をよじる。
「月村もやろうぜ、スイカ割り。せっかく臨海学校なんだしよ」
　見事にスイカを割った御伽は、海から上がってきたアヅマを手招く。
「それじゃ、一回だけやってみます」
　時間いっぱいを海中捜索に費やす予定――今も、小休止に来ただけというアヅマは、それでも、誘いに応じて素直に竹刀を受け取る。
「月村くん、そのまま真っ直ぐなんよ！」
　雛菊の声は声として、アヅマは目隠し前の位置関係を頭の中に描く。波の音や人の声から適当に見当をつけ、すたすたと前へ。
　感覚頼みで一気にスイカに近づき、竹刀を振り下ろせば、固い軽い手応えが手に届く。アヅマは目隠しをずらし、結果を確認。
「あー。ちょっと力みすぎましたかねー」
　――スイカは、食べられる部分がないくらい、粉々に割れていた。

●砂浜で楽しく
　浅いところで水遊びの、ルーチェと海星。波を追ったり、水をかけ合ったり。
「やったなー！」
「あはは、ルーチェくんが怒ったー！」
　潜って近づき、ルーチェに水をかけ、海星は波打ち際を逃げ出す。ルーチェも笑顔で追いかける。浜辺で追いかけっこ。大きくあいた海星の白い背中が、ルーチェには目に眩しい。
（「……なんかこれ、すごく恋人っぽい気がするね」）
「海星ちゃん、つかまえた！」
「わ、わぁ……っ！？」
　テンションの上がるままに海星に追いつき、勢いのままに抱きしめる。砂に足をとられ、密着したまま、２人、もつれるようにバランスを崩す。
「る、ルーチェくん、そんなところ……！」
「……ぁ……」
　ざーん、と響く波音。
　海星の声を遠くに聞きながら、ルーチェは抱きしめる腕に力を込めたまま。

「いかにも臨海学校、という雰囲気でござるなあ」
　ハリーは砂に埋まった状態で、平穏にひたっている。砂の合間からはみ出した赤フンが、潮風にひらひらとなびいていた。
　ビーチパラソルの下では、割ったスイカが次々と、皆のお腹に収まりつつある。
「海水浴中でも熱中症になることはありますから、水分補給もしてくださいね」
　飲み物を配ったり、汚れた場所を拭いたりと、水花はこまめに気を配っている。
「スイカも残り少ないですね。私も一度割りましたし、散耶さん、やってみませんか？」
「……では、頑張ります」
　散耶は意を決して立ち上がる。
「はい、イカスミちゃん。新しいスイカの設置、宜しくなんよ」
　雛菊からスイカを渡されたイカスミが、スイカを低位置まで運んでいく。
　水花に目隠しをされながら、散耶は緊張気味に竹刀を握りしめた。
「無事に辿り着いて割れますでしょうか……」
「大丈夫、わたしたちがしっかり誘導するんよ、イカスミちゃんも応援しとるしな」
　雛菊の言葉が心強い。
　目隠しで視界を遮断すると、周囲の情報が急速に遠ざかる。何回転か体を回すと、方向も距離も、一層あやふやになる。
「右、右。もっと思いきって右なんよ」
「こ、此方でございましょうか……？」
　散耶は誘導に懸命に耳を傾け、恐る恐る前へ進む。スイカのありそうなところに当たりをつけて。
「……それでは、一刀入れさせて頂きます」
「火炫ちゃん、行きすぎなんよ！」
「火炫、待て、一度とまれ！」
　竹刀を振り下ろす直前、雛菊と御伽の声がした……が、制止の声は一瞬遅く。
「あ待って待って、拙者の頭は西瓜ではないでござる」
　首から上だけを砂から出し、のんびりくつろいでいたハリーの頭上で、散耶は竹刀を振りかぶり――。
　……竹刀の先端はハリーの耳をかすり、砂浜に叩きつけられた。

　散耶が無事に割り終えたスイカの一片を咀嚼しながら、アヅマは地図の情報を確認し直す。単独で探索を続けるアヅマは、既に海底と砂浜とを何往復かしてした。
　引き上げは深夜。限られた時間と光源の中で、スムーズに進める必要がある。
　地図には、他のメンバーが見つけたガイオウガの塊と、その位置も書き込まれていた。
「野乃先輩。これで問題ないか、見てもらえればと」
「どれどれ。……おっ、こりゃすげー、見やすいじゃん」
　アヅマの地図を見て、御伽は感嘆の声をあげた。
　今すぐにでも引き上げに行きたいが、ガイオウガの塊は太陽の熱でイフリート化するため、深夜を待つ必要があるという。
「単なるエネルギー体がなんでイフリートに……ダークネスって人間が闇堕ちした姿じゃねーの」
　ふと呟き、御伽はそのまま動きをとめる。これまで関わって来たイフリート達の言動と行動が、次々と脳裏に閃く。
「もしかして……、そういうことか？」
　……いくつかのピースを繋いだとき、御伽の中で、点が線になったような気がした。

●引き上げ
　深夜。ガイオウガの力の引き上げは開始される。
　日中と同様、水中呼吸のサイキックや、潜水具を用いて、海中へ。
（「やっぱ、夜の海ってだいぶ暗いな」）
　網の袋にガイオウガの塊をそっと押し込みながら、御伽は海面を目指す。
　今回の作業が終わったら、一つ確かめたいことが出来た。御伽自身、確証はなく推理に過ぎないが……何かつかめるかもしれない。
（「あ、野乃さん、ちょっと待って」）
　御伽を引きとめ、ルーチェは網からこぼれかけた赤い輝きを安定させる。触れても何ともないようだが、それでも少し緊張する。
　水花はスキューバダイビング用のライトで、作業中の手元を広く照らす。
（「昼間から変わりはなく、周囲に危険もないようですね」）
　日没後の海中は闇に覆われている。地図の記憶や、目印の浮きが頼りになる。
　ハリーは網の一端を持ち、一方へと広げる。試してみたが、この塊はアイテムポケットには入らなかった。
（「海星殿、そちらを頼むでござるよ」）
　ヒトデ形体になった海星が、ハリーから網の反対側を受け取り、塊を包める位置まで移動する。
（「うっかりサイキックを使ったりしないよう、注意しないとね」）
　ハリーと海星は、ガイオウガの塊を刺激しないよう引き網で包み込む。塊を動かしやすいよう、散耶が、怪力無双で運搬を安定させる。
（「この様な場所にガイオウガの力が浸み出すなど、いよいよ復活の兆しにございましょうか……」）
　とはいえ、この海には人の営みがある。早急に在るべき場所へと戻さねばならないと、散耶は運ぶ手に力を込める。
　朝日が昇るまで、まだ時間は充分あった。
　浜辺の拠点では、アズマが引き上げたガイオウガの塊をチェックしていた。海から上がった雛菊が、魚捕り用の網かごを砂浜におろす。そこには小さめの塊が入っていた。
「今運んでいる分で、確認した分は全部なんかな？」
「そのようですな。これを輸送班に渡して、一区切りかと」
　雛菊はクーラーボックスから飲み物を取り出す。温泉並みの海水で暖まった体に、冷えたドリンクが気持ちいい。
　臨海学校はまだ一日ある。朝食をとったら、きょうはこれから、危険生物の駆除作業と、海水浴の時間。
「今日も楽しい臨海学校になるんやろなぁ」
　雛菊に同意を示すように、イカスミが一声、にゃー、と鳴いた。
　楽しい時間をみんなで過ごして、臨海学校の思い出をたくさんつくろう。

作者：海乃もずく	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年8月23日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 3／キャラが大事にされていた 5
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