臨海学校2016~海底の魔眼

    作者:九連夜

    「おやっさん……あれ」
    「ああ。儂もここで漁をやって50年になるが、こんな奇妙なのは初めてだなあ」
     新鮮な魚の宝庫としても知られる九州、別府湾。その海上に浮かぶ漁船の上で、若い漁師と初老の漁師の二人組が心配そうに言葉を交わしていた。
     初老の漁師がふと身をかがめて船縁から身を乗り出すと、指先を水につけた。
    「見ろ、ちょいとした温泉だ。水温がここまであがりゃ、魚なんぞまともに生きていけるはずもねぇんだが……ほれ、あの通りさ」
     声と共に派手な水音が響く。まるでトビウオのように空中に躍り上がったのは地元特産の鯖の群れだ。
    「このまんまならまだいいが、もっと異常が進んだらどうなるかわかりゃしねぇ。しかし……原因はあれだろうなあ」
    「おやっさんもそう思いますか」
    「ああ」
     漁師二人は並んでじっと海面を、いやその先の暗い海の底を見つめる。その視線の先にあるのは、まるで闇に光る魔物の眼のような、無数の赤い何かの群れ……。
     
    「お集まりいただきありがとうございます。それでは恒例の臨海学校について説明させていただきます」
     五十嵐・姫子(大学生エクスブレイン・dn0001)はほんのりした笑顔と共に、教室に集まった灼滅者たちに告げた。
     今年は九州、別府湾の糸ヶ浜海浜公園で行われると決まった武蔵坂学園の夏の行事、臨海学校。単なる臨海学校では済まず何かしらダークネス絡みの事件が発生することも恒例だが、今回もその例に漏れず、ちょうど活動が活発化しているガイオウガ対策を兼ねるのだという。
    「別府湾が温泉化するという異常現象が起きていまして、その原因が海底に発生した大量のガイオウガの力の塊です。ひとつひとつが直径1メートルぐらいの半透明の赤い球体で……まあ、巨大なイクラだと思っていただければ結構です」
     しかしその巨大イクラが周囲の生物相に多大な影響を与えている。幸いなことにガイオウガの力は大地の力であり、生命を活性化させる方向に働くので、水温が上がっても海洋生物が壊滅したりはしない。しないのだが。
    「むしろ魚が巨大化したり、動きが非常に激しくなったりする形で影響が出ています。灼滅者の皆さんにとっては特に脅威ではありませんが、地元の方々の迷惑になりますので、速やかに異常の原因を撤去してください」
     具体的には1グループでひとつ、力の塊を海底から引き上げてほしいのだという。太陽の光の影響で塊が活性化することを防ぐために作業は夜間に実行、あとは封印した上で有志が鶴見岳に移送する。鶴見岳に持って行けば塊はガイオウガと同化して消滅、さほど大きな力でもないので、ガイオウガ自身を大きく強化するとかそういう心配はなさそうだとかなんとか。
    「わざと攻撃すればイフリート化して戦闘になります。生まれたばかりで今の皆さんの実力からすれば勝てない敵ではありませんが、水中戦になると何かとやりにくくなるのでその辺はご注意ください」
     怪我でもすれば翌日のイベントも楽しめなくなる。そう言うと、姫子は再び笑顔になった。
    「まあ、やることさえやっていただければ、あとは臨海学校を楽しんでいただいて結構です。お魚さんが巨大化しているのも、考えようによっては美味しくいただけるチャンスですしね。駆除するにしても、ハンティングと考えれば楽しめるでしょう」
     また別府市は観光名所も多く、臨海学校の会場となる糸ヶ浜海浜公園にはさまざまな施設も揃っている。いくつかのパンフレットを皆に示すと、姫子は笑顔のまま軽く頭を下げた。
    「ルールを守った上であとは自由に楽しんでくださいね。それではよろしくお願いします」


    参加者
    望月・小鳥(彼誰の星屑カムパネルラ・d06205)
    御火徒・龍(憤怒の炎龍・d22653)
    ロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・d24010)
    明鶴・一羽(朱に染めし鶴一羽・d25116)
    水無月・詩乃(汎用決戦型大和撫子・d25132)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    響塚・落葉(祭囃子・d26561)
    ベルベット・キス(偽竜の騎士・d30210)

    ■リプレイ

    ●22日午後、別府海岸
    「ふう」
     昼なお暗い海の底から、一気に光輝く水面へ。一般人なら決して出来ない急浮上で海面に顔を出すと、ロジオン・ジュラフスキー(ヘタレライオン・d24010)は抜き手を切ってゆっくりと岸の方へと泳ぎ始めた。
    「ああ、調査が終わりましたか。海底の様子はどうでしたか?」
     猫科の動物のように体を震わせ、体表の水分を弾き飛ばしてから砂浜に上がってきたロジオンに、ビーチパラソルの影から姿を現した明鶴・一羽(朱に染めし鶴一羽・d25116)が問いかけた。
    「『力の塊』の現物を確認しました、ほぼ情報通りです。海底はそれほど深くはありませんでしたが、思いのほか、光が差し込まないものですね……あれなら海中でイフリートになってしまうこともないでしょう」
     ロジオンは海中の光景を思い浮かべ、苦笑しながら言葉を継いだ。
    「もっとも、私を餌と勘違いしたらしい巨大魚にはだいぶ追い回されましたけれどね。危険はないとはいえ、つい本気で逃げてしまいました」
    「頼んでいたアンカーは?」
     一羽の横で、広げたノートパソコンに何かのデータを打ち込んでいた御火徒・龍(憤怒の炎龍・d22653)が問いかける。
    「海底に打ち込んできました。私が持って行ったブイに結びつけて、そちらに蓄光塗料を塗っておきましたから、深夜になれば目印になることでしょう」
    「……確認しました」
     GPSと連動させたPCの画面にそれらしい光点が浮かんでいるのをチェックした龍は、ふと思い出したように横を向いた。視線の先には、少しくたびれた感じの漁網の山。海底の状況の聞き込み調査のために地元の漁師たちのところを回った際に、彼が入手したものだ。
    「あれは使えますか? 不要品を分けてもらったので若干、破れていますが」
    「大穴があいていなければ大丈夫です」
     明快な回答を聞いて龍はPCのふたを閉じた。
    「これで回収の準備は完了ですか。じゃ、俺もちょっと泳いできます。変化した生き物の分布も調べておきたいし」
     細身ながらに鍛えられた体を跳ね起きるように立ち上がらせ、海原に向かって走って行く。
     その一方。
    「うーん、このチープさがたまりませんね」
     目的地点の偵察もかねた軽い遠泳をこなし、疲れた体を砂の上に落ち着けた水無月・詩乃(汎用決戦型大和撫子・d25132)は、海の家の焼きそばを優雅な手つきで割り箸で掬い上げた。目を細めて口中に広がる微妙な味を思いっきり堪能する。
    「海水浴といえばこれですね。柘榴さんはいかかですか?」
    「あとでいいよー。えいっ!」
     叫び返した黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)は元気なかけ声と共に、腰の辺りの水を両手で大きく跳ね上げる。その水しぶきをまともに浴びた響塚・落葉(祭囃子・d26561)は顔の辺りをぬぐうとニヤリと笑った。
    「やってくれたのぅ。お返しじゃあ!」
     両手を大きく広げて水を掬い……と見せかけて繰り出したのは蹴りだった。水中から伸びた足の先から水の塊が放たれ、柘榴の顔面を直撃する。
    「っぷはっ! 落葉ちゃん卑怯!」
    「ほめ言葉と思っておこうかぁ!」
     そのままきゃわきゃわと水遊びを続ける二人を笑顔で見守る詩乃の上にふと、影が落ちた。詩乃は首だけを傾けて相手の姿を確認する。
    「あら明鶴さん。泳がないんですか?」
     アロハシャツ姿の一羽は肩を軽くすくめた。
    「荷物番も必要ですからね。それよりも」
     彼は落葉と揚羽が戯れる光景を微笑を浮かべて眺めたあと、砂浜を見回した。
    「小鳥さんとベルベットさんは? MM出張所のメンバーで遊んでいると思っていたのですが」
    「ええと」
     詩乃は視線を宙に向け、右の人差し指を頬に当てた。
    「確か、花火を買いに行くと言っていましたけれど」

    ●22日20時、別府海岸
     そこは戦場だった。
     ただただ広い荒野(すなはま)に砂塵が舞い、真剣な顔で向かい合う少年少女灼滅者の対決に茶褐色の彩りを添える。
     ベルベット・キス(偽竜の騎士・d30210)。
     望月・小鳥(彼誰の星屑カムパネルラ・d06205)。
     それが二人の名前だった。
    「負けないよ……ささき! 今日でキミの伝説を終わらせる……!」
     先に口を開いたのはベルベットの名を持つ少年だった。宿命の相手をあえて愛称で呼びつつ、手の内を見せぬように背の後ろで己の得物を構える。少女も真剣な表情で応じた。
    「さぁ、ベル、いざ尋常に勝負です! ……伝説なんて作った覚えはないですが」
     お芝居が面倒くさくなったのか、後半は妙に冷静な投げやり口調で言うと、少女は手にした大量のロケット花火に一気に火を点けた。
    「これが、地上の星というものです!」
     炎の赤、閃光の黄、闇に輝く青に不穏に光る紫。色とりどりの花火は宵闇に幾条もの残光を刻みつつ流星の如く地上を翔け、少年に殺到する。それを予期していたベルベットは横っ飛びに跳んでかわすと、お返しとばかりにジャンプ一番、大きく振った手から時間差をつけてロケット花火を打ち返す。かがんで避けた小鳥は即座に箒にまたがり上空待避、さらに空中で一回転しながらカラースモークを投げ落とす。
    「空を制する者が世界を制するのです!」
     高らかに叫ぶ小鳥に向かって対空砲よろしくロケット花火が打ち上げられるが、全て華麗にかわされ、逆に発射地点に手持ち花火の雨が降り注いだ。
     いずれも絶対に真似をしてはいけない危険行為だらけだが、バベルの鎖の加護を受ける灼滅者にとっては単なるお遊びに過ぎない。やがて着地した小鳥の周囲にネズミ花火がまき散らされ、動きが止まった一瞬にロケット花火が打ち放たれる。それを首を振って躱した小鳥は接近戦に切り替え、手持ち筒に火を点けると疾風の勢いでベルベットに迫った。
     そんな応酬がさらに続き、やがて二人は肩で息をしながら砂浜にへたり込んだ。手持ち花火が尽きたのだ。
    「はー……楽しかった。熱かったケド」
     ベルベットはよろよろと立ち上がると、小鳥と肩を並べる位置に座り直した。
    「やっぱり箒で空爆が最強でしたね。……そういえば」
     小鳥は軽く相手を睨んだ。
    「ネズミで囲んだあとのロケット、あれ、わざと外したですね?」
    「え? そんなことないよ。腕が上がったんじゃないの?」
     ベルベットはとぼけて聞き返す。
    「ふん。まあいいですけれど」
     そろそろ任務の時間と呟いて立ち上がりかけ、少女は少年の顔を見た。
    「どうしたですか、ベル…… 帰らないですか?」
    「……あ、えっと」
     少年は思わず口ごもり、代わりに少し腕を伸ばして少女の手を握る。
    「……星でも見てかない? ほら、すごい綺麗」
    「ん」
     ベルの言葉に小鳥は空を見上げた。大分の夏の夜空は首都圏とは比べものにならない清澄さで、天空を覆う夜の虹のような姿の天の川がはっきりと見えた。
    「確かに綺麗な星空ですね……銀河鉄道はなさそうですが」
     唇に指を当て、少女は悪戯っぽく笑った。
    「それでいーの。カムパネルラ、行っちゃったら困るもん」
     先だってクラブの演劇で小鳥が演じた役に引っ掛けて、ベルベットは小声で言い返した。
     それきり沈黙が落ちた。
     無言のまま、ただ小さな手と手をつなぎ合わせて。
     少年と少女は夜空を見上げる。

    ●22日深夜、海底
    『なんだか爆発するか、拾ったらHP回復しそうな見た目してるですね』
     真剣勝負の花火デート(?)から一転、夜の別府湾に潜った小鳥。ロジオンが設置したブイを手がかりにたどり着いた『力の塊』を前にして、彼女は水中会話用のホワイトボードにそんな感想を書き綴った。
    『ホントだ、なんかあったか……気持ち悪ぅー』
     ベルベットがぺとりとその表面に手を当てて顔をしかめる。とりあえずアイテムポケットに入れられるかを試してみるが、サイズオーバーのようだ。
    「ほら、そこどいて!」
     これはボードではなく身振り手振りでのアピールだ。可愛らしいビキニの水着姿に額には水中用のライト、右の肩には小柄な体には似合わぬ太いロープがぐるぐる巻き。それが柘榴の『力の塊』回収スタイルだった。海底の窪みに収まった状態の球体を動かすため、泳ぎながらロープを縦横にかけて固定する。
    『うむむ……近くに寄るとやはり、でかいの!』
     水中呼吸のESPを持たない落葉は少々苦しげで、その動きもかなりぎこちない。しかしライトに照らし出された半透明の巨大球体を間近で見ると息苦しさより好奇心が勝るのか、その薄く赤く輝く表面を軽くつついてみたりする。ちょっと考え、一言書き足したボードを皆に見せる。
    『いくら、少し美味そうじゃな?』
     好奇心ではなく、食欲が原動力だったらしい。
    『食べるわけにはいかぬかの?』
    「任務中に冗談は無しです。柘榴さんを手伝ってください」
     泳ぎ寄った一羽は身振り手振りと何より仏頂面でそう告げると、彼女の肩を叩いて作業への協力を促した。
    『食いしん坊の響塚さんでもこの大きさは無理ですよ。手を出して食べ残すのはガイオウガさんに失礼だと思いませんか?』
     どこまで本気かわからぬ笑顔とともにそう書Hと、詩乃はもう一方のロープを握る。その後ろにベルベットと小鳥がつき、逆側には一羽、落葉、柘榴が並ぶ。
    『回収を開始します』
     ボードを掲げて球体の後ろに回ったロジオンが海底に足をつけ、腰を落として号令をかける。口から吐き出す泡が発声の代わりだ。
    「1、2の……」
    「「「さんっ!」」」
     皆の口から立ち上る泡と共にロープに引かれロジオンに押された球体は、一瞬抵抗した後にごろりと転がり、龍が広げた漁網の中へと収まった。龍は網の口を閉じ、『塊』に巻いたままのロープと絡め合わせて運搬態勢を整える。
    『砂浜まで持っていけば任務完了です』
    『うまくいきましたね。さて、落としたり流されたりしないよう、慎重に確実に』
     龍とメッセージを書き交わしたロジオンの持つライトの光を、その時何かが横切った。
    『訂正。任務は続行です』
     潜水用ゴーグルの奥の眼鏡をどこか危険な感じに光らせ、龍がボードに書き殴った。
    『明日はイクラの代わりにお魚さんでHPを回復です!』
     そう書いた小鳥の視線の先でUターンをかけたのは巨大な鯛。夜の暗い海の中をゆったりと泳ぎ回っている。
    『うん、がんばって駆除しよう!』
     ベルベットは小鳥の文字の下に自身の文字を書き添え、闇の中に泳ぎ去る銀の鱗を見つめた。明日の昼食のメニューを見る目つきだった。

    ●23日昼前、別府湾海中及び浜辺
     そこは再び戦場だった。
    「いいやつだけ持ってきてください! 残りは残念ですが海底に捨ててくるか炭になるまで焼却処分です! 仕分けは任せます、急いで!」
     砂浜の片隅から、どこか切羽詰まった一羽の声が響いた。手にした包丁はまな板の上で華麗に躍って魚を三枚に下ろしその横ではクルセイドソードが小刻みに動いて鱗を剥がしている。霊犬スクトゥムの役目は捌いた魚の運搬だ。
     危険生物を駆除して大パーティ! というのが彼らの計画なわけだが、修学旅行の予定では海産物(?)を味わう飯盒炊爨は22日に設定され、23日は駆除作業がメインだ。午後には帰りの飛行機に乗らねばならず、限られた時間の中で計画を実現するなら時間との競争になる。
     とりあえず海に潜って巨大鰺の群れを見つけた一羽が除霊結界を広げてその動きを止めて、詩乃が鏖殺領域に取り込んで文字通りに一網打尽。その釣果を抱えて二人は陸に戻って調理開始、他の面々が続いて釣果の拡大もとい駆除作業にあたりつつ完成した料理を適宜つまみ食い。そんな分担で闘いは開始されていた。
    「うむ、何もかもでかいのじゃ……! しん・海産物というやつじゃな!」
     落葉はボートの上から巨大魚の群れる眼下の海を見下ろし高笑いを上げる。
    「しかし我らの敵ではない! そのよく育った海の幸、我らの糧としてくれるわー!」
     鬼神変で水面をぶったたいて牽制し、イカロスウィングを広げて群れの逃げる方向を誘導する。水中に飛び込んでもそれを繰り返し、魚たちを誘導した先には……。
    「いまじゃぁっ!」
     落葉の合図と共に水中に五芒星が浮かび、直後に走った何条もの雷に撃たれて巨大魚たちは逃げるまもなくその場で果てた。
    「狙い通りだね、落葉ちゃん」
     水中の洞窟の中から柘榴が姿を表した。
    「うむ」
    「でも何の魚だろ、これ」
     自分の身長と同じぐらいの魚を苦労して回収しつつ、柘榴は首をかしげた。
    「ま、いっか。誰かが知ってるよね」
     だが浜に上がると、戦場は激しさを増していた。
     龍もロジオンも両手に抱えるようにして巨大魚を抱えて上陸し、無造作に調理待ちの列に放り出していく。
    「残念ながら調理に手間をかける時間がない……」
    「設備もありませんしね」
     少々残念そうな表情の一羽に対して詩乃は忙しく働きながらもあくまでマイペース。
     通常サイズの魚は内臓を抜いたあと、串に刺してそのまま炙り焼き。巨大魚は三枚に下ろしてぶつ切り、即席コンロで網焼き。ロジオンは駆除作業の合間に熱々のそれに豪快にかぶりついては、口から湯気を吐き出しながら再び海へと走って行く。
     ほとんど粗塩を振っただけの簡単調理だが脂の乗った魚の焼ける匂いが周囲に漂い、皆の食欲をさらに刺激しつつあった。
    「ねえ、なにこの魚」
     どん、と柘榴が机に置いた巨大魚を見て一羽が弾かれたように顔を上げた。
    「鱸(スズキ)が来ましたか。刺身にしたいところですが……」
    「もうみんな揃って食事でいいんじゃないの?」
    「落ち着いて食べるですよ!」
     指についた鯖の脂を舐め取りながらベルベットの提案に、小鳥が両手を挙げて賛成する。
    「しかし、まだ駆除作業が……」
     言いかけた一羽を龍が遮った。
    「大物はだいたい狩りましたよ。かなりの分は海中に捨ててきましたしね。それに……」
     怪魚を相手に随分暴れてきたらしく、不敵な笑みと共に龍は不自然に背中に回していた腕を前に出して、己の釣果を衆目に晒した。
    「これでもまだ言いますか?」
     赤い鱗も鮮やかな、それは1m近い大きさの真鯛だった。
    「わかりました。捌き終わったら食事にしましょう」
     一羽はあっさり降参した。
    「了解です。ではこちらをどうぞ」
     詩乃が悪戯っぽい調子で言い、持参の風呂敷包みからご飯の入ったタッパを取り出した。
    「朝食の残りをいただいてきました。炙った鯛を混ぜて鯛おにぎりにしましょう」
     おお、と歓声が上がった。詩乃は笑ってもう一つタッパを取り出した。
    「こちらは酢飯です。合わせられる魚は……」
    「鯛と鱸に鰺、あとは」
    「こいつもよろしく。ハマチじゃな」
     駆除に紛れて捕った大ぶりの魚を、落葉が無造作に提供する。
     かくしてメニューににぎり寿司が加わった。

     思い切り食べて、遊んで、笑う。まるで普通の学園の、普通の学生たちのように。
     そんな風にして灼滅者たちの臨海学校――ひとときの休息の時は終わり、やがてまた、闘いの日々が始まる。

    作者:九連夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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