巨大蟹行進曲

    作者:飛翔優

    ●行進曲は夜空の下に
     月を映す海原が、穏やかな波音を奏でている海岸線。道路を照らす僅かな電灯の残り香が砂浜を映し出している静かな夜。
     ライドキャリバーのヴァグノを傍らに控えさせ、シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)は語り出す。
    「この砂浜を、巨大な蟹たちが行進している……そんな噂を聞きましたの」
     ――巨大蟹の大行進。
     夏に旬が訪れる種もある蟹。今の時期も蟹料理を出す店で有名なこの地。
     蟹をたくさん食べたい、と願う者が多かったのか。それともたくさんの蟹料理に対して冗談を飛ばしただけなのか……由来はさておき、こんな噂が生まれた。
     夜、砂浜を巨大な蟹たちが行進する。宛もなく、目的もなく。
     その中には沢山の身が詰まっていると思われるが……決して近付いてはならない。
     蟹たちは近づくものに襲いかかる。人間など、鋏で切られて食べられてしまうだろう……。
    「調べたところ、都市伝説だということが分かりましたの。そして、それは後少しの時間が経てば現れますの」
     故に、砂浜で待機して更新してくる巨大蟹を迎え撃つ。それがおおまかな流れになるだろう。
    「姿が巨大な蟹ということはわかってますの。ですが……それ以外は不明ですの」
     予想されることといえば、蟹にふさわしい攻撃を行ってくるだろうことだろうか。
     いずれにせよ、実際に相対してみてから判断することが多い戦いとなるだろう。
     以上で説明は終了と、シエナは締めくくる。
    「蟹料理……戦いの終わったくらいの時間でも経営している場所があるようですの。ですが、まずは安全を確保しないといけませんの。ですので、頑張りましょう」
     巨大蟹を打ち倒すためにも……。


    参加者
    古室・智以子(花笑う・d01029)
    フレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)
    仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159)
    仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171)
    クレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)
    シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)
    十六夜・朋萌(巫女修行中・d36806)
    末羅・黒正(高校生殺人鬼・d37118)

    ■リプレイ

    ●砂浜を進む巨大蟹
     満天の星に囲まれて、輝きを増す夏の月。全てを映す水面は風に吹かれてゆらり、ゆらりと揺れながら、砂浜を優しく濡らしていく。
     人の寄る辺となるものは、月明かりの他には道路を淡く照らす街灯だけ。
     車のエンジン音も聞こえぬ道路の端。暗闇に脚を取られてしまわぬよう多くの者が明かりを灯す中、フレナディア・ヘブンズハート(煉獄の舞姫・d03883)は小さく首をかしげていく。
    「行進するだけの蟹が何で人に被害を出すのかしら? 誰かがそんな噂でも付け足したのかしらねー」
     都市伝説・巨大蟹の大行進。蟹で有名なこの地の砂浜を、巨大な蟹が行進している。近づくものに襲いかかり、鋏で斬って食べてしまう……といったもの。
     誰が噂を流したのか、誰が噂に付け足したのか。今となってはわからないと、フレナディアは肩をすくめてこれからの事に意識を戻した。
     その頃には各々準備も完了し、人払いの力を用いた上で砂浜へと降りて行く。
     闇を照らしながら進む先、いきものの気配はない。足音も砂に吸い込まれ……ただただ波音だけが世界を満たし、灼滅者たちを導いて……。
    「っ!」
     半ばまで歩いた頃、不意に地響きが伝わってきた。
     仲間たちと共に立ち止まり、仮夢乃・聖也(小さな夢の管理人・d27159)は地響きの強い方角……道路側の砂浜へとライトを向けていく。
    「……え?」
     光の中、赤いボディが照らし出された。
     続いて、四本の脚がせわしなく動いているさまを発見した。
     明かりを集中させてみれば、車サイズの巨大なボディ。それに似合わぬつぶらな瞳を輝かせながら、右へ左へ少しずつ角度を変えながら行進している三匹の巨大ガニ。
     都市伝説・巨大蟹の大行進が顕現していて……。
    「うわー……おっきいねー、想像の五、六倍はあるよ……」
     聖也の傍らで、仮夢乃・蛍姫(小さな夢のお姫様・d27171)が、呆然とした様子で呟いた。
    「……はっ」
     その一言で我に返ったか、聖也は金色の龍が装飾された豪華な杖を握りしめる。
    「蛍姫っ! 油断せずいくですよっ!」
    「うん! バッチリ倒しちゃおう!」
     蛍姫が元気な返事をする頃、灼滅者たちの準備は整った。
     巨大蟹たちも灼滅者たちに気づいたのか、鋏を鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。
     砂浜の平和を守るため、そして名産である蟹を求める戦いが開幕する……。

    ●美味しい香りに抱かれながら
     これだけ大きいとすごく食べ応えがありそう。
     どことなく弾んだ調子で呟いたシエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)は、脚に炎を宿しながら真ん中の個体に肉薄した。
    「大人しくわたし達に食べられるですの!」
     足元へ到達するとともに蹴りを放ち、関節部へと打ち込んでいく。
     揺るがぬ蟹に炎を与える中、ライドキャリバーのヴァグノが機銃を撃ち始めた。
     更にはクレンド・シュヴァリエ(サクリファイスシールド・d32295)が距離を詰め、盾領域を広げながらの体当たりを仕掛けていく。
    「食べるにしても、まずは火を通してからだ!」
     一本の脚へとぶち当てて、視線を引くことに成功した。
     直後、ビハインドのプリューヌが霊障を放ち、巨大蟹を揺さぶりはじめていく。
     一方、末羅・黒正(高校生殺人鬼・d37118)はビハインドの木洞子に近接攻撃をしかけるよう命じながら、巨大蟹の進路とは反対の方向へ回り込む。
     せわしなく動かしている脚に刃を差し込み、断ち切った。
     それでもスピードが落ちない巨大蟹もろとも、古室・智以子(花笑う・d01029)が芥子の花の意匠が施されている漆黒の縛霊手を用いて放つ結界が閉じ込めていく。
    「……思ってたより、ずいぶんと大きいの。火を通せば、食べてもいいって言ってたけど、どうしよう?」
     どことなく冗談めかした調子で呟きながら、結界に注ぐ力を強くした。
     巨大蟹たちが動きを止めていく中、蛍姫は真ん中の個体の正面へと回りこむ。
     力にいっぱいに跳躍し、刃が黄金色に淡く輝いている槍による螺旋刺突を繰り出した。
    「っ! 流石にかたいね!」
     硬い甲羅とぶつかり合い、腕がしびれるのを感じながら勢い任せに退いた。
     後を追いかけるかのように、巨大蟹たちが脚をせわしなく動かしはじめていく。
     クレンドはプリューヌと共に、何が来ても良いよう最前線へと躍り出た。
     直後、巨大蟹たちは結界を破り駆けていく。
     一体はクレンドに、一体はプリューヌに。
    「っと、一体逃した! 体当たり、そっちに行くぞ!」
     巨体を活かした体当たりを受け止め、衝撃を殺すために後方へと下がりながら、左側の個体が駆け抜けていった先に警告を飛ばした。
     聞きながら、フレナディアは羽衣を用いて巨大蟹の体当たりを受け流す。
    「ありがとう、助かったわ」
     クレンドにウィンクを飛ばしながら魔導書を開き、ページを捲り、禁呪を詠唱し始める。
     ページをめくる手を止めると共に言葉を区切り、巨大蟹たちを指し示した。
     巨大蟹たちの体が炎上し、芳しい匂いを漂わせはじめていく。
     夜闇に、よく目立つ存在と化していく。
     炎に抱かれている蟹の中心を狙い、聖也は得物に魔力を込めながら跳躍した。
     なんか知っている蟹と違う動きをしている気がする上に突進もしてきたけれど、関係ない。
    「何とかしてしとめなければ! 自慢のフォースブレイク! そして希望の夢の鞘剣で切り刻んでやるのです!」
     真ん中の巨大蟹の胴体に、銅鑼を叩くかのようなしぐさでフルスイング。
     インパクトと共に魔力を爆発させ、巨大蟹の動きを止めていく。
     彼我が動きを緩め一息つけるようになった段階で、十六夜・朋萌(巫女修行中・d36806)は優しい風を招いた。
    「炎か打撃が有効かと思います」
     治療の力を届けると共に、もともとの蟹の性質に基づいたアドバイス。
     智以子は小さく頷きながら、縛霊手を握りしめて跳躍。
     真ん中の巨大蟹の中心を、勢い任せにぶん殴った!
     大きく揺さぶると共に霊力を放ち、巨大蟹の体を縛めていく。
     速やかなる討伐を果たすため、全力を尽くして攻めていく……。

     横歩きしながらの突撃は加護を砕き、口から吐く泡はよく滑る。鋏に囚われたなら身動きできなくなり、その鋭利さは防具を斬り裂く刃になる。
     全身を凶器と化して襲いかかってくる巨大蟹の攻撃を、朋萌は余すところなく観察。
    「呼吸のための泡を飛ばすとか、さすが都市伝説ですね。デタラメです」
     ぼやきながらも治療の力を使い分け、戦力維持及び上昇に尽力していた。
     シエナは白き炎の加護を受け取りながら、チェーンソー剣をうならせる。
     真ん中の巨大蟹に狙いを定め、食べやすい形に下ごしらえすると意気込みながら走りだし……。
    「この程度なら軽く避けて反撃しちゃ!?」
     ……いつの間にかばらまかれていた泡に脚を取られてすっ転ぶ。
     勢いのまま巨大蟹の目の前へと到達し、砂を掴みながら立ち上がり……。
    「え?」
     ……チェーンソー剣を振り上げようとした時、巨大蟹の鋏が縦横無尽に閃いた。
     波風の訪れと共に、数多の布が散っていく。
     ヴァグノが慌てた調子でライトの向きを変えていく中、妙に体が涼しくなったのを感じていた。
     されど気にした様子はなく、そのまま真ん中の巨大蟹に斬りかかる。
     回転ノコギリと殻がぶつかり合い激しき火花を散らす中、智以子もまた距離を詰めようと砂を蹴る。
    「ひゃう!」
     着地点に泡がばらまかれていたのだろう。脚を取られ、尻もちをつく形ですっ転ぶ。
    「あいたたた、足が滑ったの……なに? これ、泡?」
     地面に指を這わせ、どことなくヌメついている液体を目の前へと持っていく。
     雫滴る指先を見つめた後、自分の頬に触れてみた。
     同様の液体が付着していることを知り、肩を落としていく。
    「んにゃぁ……ベトベトになっちゃったの……」
     心を体を癒やすため、朗らかなる歌声を響かせる。
     聞きながら、そしてヴァグノが周囲をせわしなく駆けまわる中、シエナは無数の赤薔薇の蔦が寄り集まることによって形成された深緑の帯を真ん中の巨大蟹に向けて解き放った。
     帯は誤ることなく巨大蟹の中心を捉え、僅かに仰け反らせる事に成功する。
     反撃の意志は衰えぬか、泡を激しく吐き出し始めた。
     朋萌は小さなため息を吐きながら、新たな風を招いていく。
    「戦況には概ね問題はありませんね。この調子で……」
     畳みかけていけば問題ない、落ち着いていきましょう……と、黒正に呼びかけた。
     万全の状態を保ちながら、灼滅者たちは攻撃を続けていく……。

     開幕から、身を焼き焦がし続けてきた巨大蟹たち。殻には焦げ目ができはじめ、香りもより美味しそうなものへと変わっていた。
     フレナディアはお腹を鳴らしながら、最も傷ついている真ん中の巨大蟹に肉薄する。
    「さーて、コンガリ焼いたあとはどうなるか……」
     瞳を細めながら炎に染めた足を振り上げて、胴体へと叩きこむ。
     激しく体を揺らした巨大蟹は力を持たぬ泡を吐きながら仰向けに倒れ、跡形もなく消え去った。
     試食する暇もなく消え去った様を前に、黒正は帯を翼のように広げながらひとりごちる。
    「どうやら食べられそうにはないな。残念だ」
     ならばせめて早々に討伐して店に食べに行くのが得策と、帯で巨大蟹たちを絡めとり動きを封じた。
     木洞子が霊障を重ねる中、聖也が蛍姫に視線を送っていく。
    「次はあいつを狙うですよ!」
    「わかったよ!」
     頷き合い、聖也と蛍姫が走りだす。
     示されるがままに仲間たちの攻撃が集う中、蛍姫が高く、高く跳躍した。
    「まずは、わたしから!」
     頂点に達すると共に月を背負い、巨大蟹の目と目の間めがけて落下の勢いを載せた螺旋刺突を繰り出した。
    「次は私が!」
     穂先が突き刺さった瞬間に、聖也は魔力を込めた得物を叩き込む!
    「……」
     一呼吸の間を置き、魔力を爆破。
     激しく揺さぶられた巨大蟹は穂先の突き刺さった場所から亀裂が広がり、砕けるとともに消滅した。
     残る一体へと、フレナディアが向き直る。
    「ほんと、匂いは美味しそうなのに……」
     お腹をくうと鳴らしながら、緋色の刀身を持つナイフに炎を走らせた。
     夜闇に華麗な演舞を描きながら、より大きな炎が燃えている場所へと近づいていく。
     自らもその炎の一部とならん勢いで、ナイフを殻に突き立てた。
     小さな穴が空いていく。
     炎が青に変わっていく。
     来た時と同様の舞を描きながら退いていくフレナディアを、巨大蟹は少しずつ角度を変えながら追いかけはじめた。
     進路上に、クレンドが立ちふさがる。
     仕方ないとばかりに吐き出してきた泡を、赤き盾より生じる防衛領域で戦場の外側へと受け流した。
    「さて、そろそろ終わらせようか」
     勢いのままに紅く巨大な十字架を地面に突き立てて、全砲門を解放。
     至近距離から数多の砲弾を打ち込む中、プリューヌが霊障を放ち巨大蟹を強く揺さぶっていく。
     その巨体が前へ、後ろへとふらつき始めた時、蛍姫の放つ帯が巨大蟹を後ろに突き倒した。
     すかさず黒正が距離を詰め、足元に到達すると共に跳躍した。
    「これで……!」
     大きな剣をおもいっきり振り上げて、頂点に達すると共に振り下ろす。
     勢いを載せた刃にて、巨大蟹を両断した!
    「……」
     ほかほかの身を視界に収めた時、その巨大蟹もまた跡形もなく消えていく。
     残されたのは灼滅者たちと、平和を取り戻した夜の海辺。そして、お腹をくすぐる蟹の香り……。

    ●蟹料理を求めて
     戦いによって掘り出された箇所を埋め、各々の治療を行い……程なくして、事後処理を終えた灼滅者たち。
    「食べられない蟹は、もう要らないの。さぁ、わたしたちのほんとの戦いはここからなの♪ いざ行かん、敵は目前なの♪」
     智以子は蛍姫の手を取って、笑顔を送り合いながら予め定めていた蟹料理の店を目指して全力ダッシュ。
     希望者も後を追い、無事、蟹料理の店へと到達した。
     席につき、注文して待つこと数十分。
     くうくうとお腹を鳴らしている灼滅者たちの前に、鍋に刺し身にちらし寿司……様々なかに料理が並べられていく。
     全ての料理が揃った後、声を揃えて頂きます。
     朋萌はシンプルな茹で蟹に手を伸ばし、口の中へ運んでいく。
     噛む度に、染み出てくる蟹の旨み。
     口の中を満たす蟹の香り。
     朋萌は頬をゆるめ、手を当てていく。
    「ウニも美味しかったですけど、カニも美味しいですぅ」
    「刺し身も美味そうだが……」
     一方の黒正は刺し身に手を伸ばした。
     弾力ある身に口元を持ち上げながら、醤油をつけて口の中に運んでいく。
     小さくうなずいて飲み込んだ後、再び刺し身へと手を伸ばした。
     さなか、シエナは目の前の器を持ち上げていく。
    「おかわりですの!」
     求めたのはちらし寿司。
     待つ間、口に運ぶは蟹鍋か。
     蟹がふんだんに使われている料理の数々を楽しみながら、灼滅者たちは疲れを癒していく。
     蟹の香りに満ちるこの場所で。
     暖かな空気に抱かれながら……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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