りんごモッチアとお医者さん

    作者:聖山葵

    「りんごは医者要らずと言われてるもちぃ」
     だから、かわりにショタっ子達にお医者さんごっこしてあげるのはわたくし白岩・りんごの役目もちぃなと少女は呟いた。いや、それをただの少女と言っていいモノか。りんごの果肉に赤みを帯びさせたような色の餅で素っ裸の上に医者の着る白衣だけ身につけた少女の姿を作ったかの様なフォルムのそれがご当地怪人であると東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)は知っていた。
    「何度目だろ、こういう変な人に遭うのって……」
     そして遠い目をする。秋田の山中、遠くにりんご畑が見えるこの場所で、ご当地怪人が何をしていたかは分からない、ただ。
    「……見たもちぃな?」
    「え?」
     少しの間遠い目をしていたのが拙かったのか、声で我に返ればご当地怪人は桜花の方を見ており。
    「女の子に興味はないが話を聞かれたとあっては捨て置けませんもちぃ」
     いかなる理由かお教えいただきませんともちぃとそのご当地怪人は片腕の指を触手に変える。
    「待って、あたしは」
    「問答無用もちぃ」
     弁解しようとする桜花が伸びてきた触手から助かったのは、そばにライドキャリバーのサクラサイクロンが居たからに他ならない。
    「あ、危なかったぁ。……ありがとね、サクラサイクロン」
     跨る愛機を軽く一撫ですると桜花はその場をあとにしたのだった。


    「……と言うことがあってね」
     驚異的なことに桜花は襲われることなく離脱出来たらしい。
    「えーと、じゃあ今回は」
    「うん、触手使いってだけであたしも嫌な予感しかしないけど、餅族だし放っておけないかなぁって」
     エクスブレインでない桜花には件のご当地怪人が闇もちぃ一般人かを知る術はない。だが、山中でやばい発言をしていたご当地怪人りんごモッチアを放置してはお医者さんごっこされてしまうショタッ子が出てしまうかも知れないのだ。
    「とにかく、今ならあの辺りにまだ居るかもしれないし……」
    「いいけど……青森に続いて秋田かぁ」
     協力してと言う桜花に承諾して見せた鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)はりんごのシーズンなのかなと呟く。
    「ま、いいや。えーと、それで、相手は触手を使ってくるんだったよね?」
    「あたしが見た限りでは。だけど、ご当地怪人だし、ご当地ヒーローのサイキックも使えると思うよ」
     ちなみに、件のご当地怪人に出会った場所は人気のない山中である為、泣こうが叫ぼうが助けは来な、もとい人よけの必要は無いのだとか。
    「時間もまだお昼前だし、明かりも要らないと思うけど」
     そんな明かり時間帯から触手って清純派としてはどうかと思うの。
    「そんなことあたしに言われても……って、今の誰?!」
     反射的にツッコんでから桜花は周囲を見回すが、回りにいたのはきょとんとした顔の灼滅者ばかり、幻聴だったらしい。
    「と、とにかく、りんご餅を持っていけば気を惹くことは出来ると思うから」
     闇もちぃ一般人を救出するには、戦ってKOする必要がある為、救うにしても退治するにしても戦闘は避けられない。
    「触手を使う相手と戦うのに協力してって、ちょっと気が引けるけど、あたし一人じゃかなわないし」
     力を貸して欲しいという桜花の要請に幾人かが頷き。
    「ショタ、かぁ」
     中学生だからオイラはセーフだよねと和馬は呟くが、それはフラグにしか聞こえなかった。
     


    参加者
    辻堂・璃耶(六翼の使者・d01096)
    墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)
    秋風・紅葉(大人への階段昇ったかも・d03937)
    イルル・タワナアンナ(勇壮たる竜騎姫・d09812)
    二階堂・薫子(揺蕩う純真・d14471)
    東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)
    白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)
    蕨生・藍(小学生七不思議使い・d37141)

    ■リプレイ

    ●収集つくかな
    「……女子に興味ないりんごってだけで、ものすごい違和感。でも魔王と違って安全そうでよかった」
     視界に再び見つけたりんごモッチアの姿を入れつつ、東屋・桜花(もっちもち桜少女・d17925)は安堵の息をついた。いつも酷い目に遭っていると言うのに感じられる余裕はご当地怪人当人から女の子に興味はないと言われたからか。
    「な、何で桜花ちゃんはこうも業の深い事件ばかり引き当てるんだろう……」
    「桜花ちゃんと触手ってもう約束された展開しか見えないよね……」
     もっとも、お気楽なのは当人を含む自分は狙われないだろうと思う灼滅者達のみ。桜花を眺めた墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)と秋風・紅葉(大人への階段昇ったかも・d03937)は顔を見合わせると言語化するならそんな感じの表情を貼り付けていたし、もたらされた情報に困惑する者もいる。
    「でもりんご餅よりも僕たちにつられそうな相手って、どういうことなんでしょう……? しかも、お医者さんごっこで触手……?」
     蕨生・藍(小学生七不思議使い・d37141)には上手くイメージ出来なかったのだろう。こてんと首を傾げ。
    「薫子お姉ちゃんのお手伝いに来ました。二階堂の家で使用人見習いしてる、三笠悠樹です」
     他の皆さんとは初めましてだよねと周囲を見回しつつもぺこりと頭を下げて挨拶したのは、応援の灼滅者の一人なのだろう。
    「ちゃんと挨拶できたよ、お姉ちゃん」
    「偉いですの!」
     くるっと向きを変えて戻ってきた使用人見習いの頭を撫でつつ二階堂・薫子(揺蕩う純真・d14471)が褒めるところまでは平和な時間だったのだと思う。
    「って、あの顔、りんごちゃん!?」
    「あれ? なんか、りんごちゃんに似てない……?」
     ご当地怪人の顔がはっきり確認出来るまで近づいたところで、顔を青くしたり震え出す者が出始め。
    「りんごさんにそっくり……!?」
     驚きのあまり足を止めたのは、白臼・早苗(静寂なるアコースティック・d27160)。
    「確かにりんごさんにそっくりですね。……いつもお世話になっているだけにちょっと気が引けますが、なんにせよ、被害が出る前に私達がなんとかしませんと……」
    「あー、うん。オイラもそう思いはするけどさ……」
     これへ同意しつつも真剣な表情で決意を固める辻堂・璃耶(六翼の使者・d01096)に鳥井・和馬(中学生ファイアブラッド・dn0046)は遠い目をしていた。
    「こう……ショタが此度のエサに必要とのことじゃからのぅ」
     和馬の肩にポンと手を置きつつニヤニヤ笑っているイルル・タワナアンナ(勇壮たる竜騎姫・d09812)がそうさせたんじゃないかと思う。
    「餅よりショタ好きだからって、……ショタを釣りに使うのは。でも、白岩さんがそれじゃないと反応しないなら。……うーん」
     持ってきた意義を問うかの如く手に持ったりんご餅を見つめていた早苗は、囮である年少の異性三名を気遣わしげに見やる。
    「藍は大丈夫? 確実に狙われると思うけど……頑張ってね?」
    「あ、えっと、大丈夫です……皆さんを守るためですから」
    「本当に危ない時は庇うから」
     丁度その一人こと藍が桜花と言葉をかわしたいた。これからご当地怪人と接触を図るのだろう。腕の中には、説得用のりんご餅がしっかりと抱えられていた。

    ●接触、そして
    「触手でお医者さんゴッコ? ……一体どうやるんじゃ?」
     近づいて行く生贄組三名の背を眺め、イルルは興味津々だった。
    「この位置なら変なことにはならないですよね……」
     騎士風の戦闘衣装に身を包んだ璃耶も後方だからか、余裕はあり。
    「改めて見ると、りんごに瓜二つだね。感想はどう、りんご? それにいちごたちも」
     そんな空気だからこそだろうか、応援の灼滅者達を振り返って桜花が話を向けたのは。
    「あれが白りんごちゃんか。そっくりねー」
    「りんごさん……本当に妹のりんごそっくりですね」
    「似てます……?」
     感嘆の声を上げつつ認めるいちごたちに二人の絶望は何処か困惑しているようにも見えたが、仲間達の見解はだいたい同じ。
    (「りんごさん……? 別人ですのね……!」)
    「よく観察して、差を見出すのも一興じゃな」
     声に出そうと出すまいと顔が口程にモノを言ったり、イルルに至っては何やら楽しそうに本物とモッチアを見比べていたりし。
    (「不穏な空気を感じて参戦してみたら、まさか黒岩姉妹が関わっているとは……」)
     物影で危険な香りがしますわねと漏らしたのもきっと応援の灼滅者なのだろう。
    「あら、どな……」
    「「こ、こんにちは」」
     接触を図った面々にりんごモッチアが気づいたのがこの直後。挨拶する藍達を見たりんごモッチアはすぐさま言った、いけませんわねもちぃ、と。
    「「えっ」」
    「まだ夏で外は暑くなりもちぃわ。熱中症になっていないかの確認だけでもしないといけませんもちぃ」
     微笑み、聖女を思わせるような雰囲気を纏いつつも、指の幾本かを触手に変え、その先端が舌圧子や聴診器の形へと更に変化した。イルルの抱いた疑問の答えが提示された訳ではあるが、果たしてそれをお医者さんごっこと言って良いものか。早苗の危惧したショタ版魔王スキルと言うのがこれなのか。
    「……あれ、あっ違う!? ごめんなさい!」
     その早苗はうっかりご当地怪人似の誰かに銃口を向け射撃しかけ真っ青な顔をしていたがトリガーを引く前に謝ったのでセーフと思いたい。
    「お医者さんごっこしたいなら、触手じゃなくて、人に戻ってやればいいんじゃないかな?」
     流石に見ていられなかったのか、桜花が口を挟んだ時。
    「私と黒岩のいちごちゃんだって瓜二つで、双子の美少女アイドルユニットなんてやってるわけだし」
     応援を含む数名の灼滅者は誰と誰が似ているという話題に興じていた。
    「わたくしとりんごさん、それにいちごといちごさんの4人並んだらすごそうです」
    「こうもちぃ?」
    「確かに、壮観というか何というか。それで、こちらがショタを食うりんごさんですか。……いちごさんを食うりんごさん……いやいやいや」
     りんご餅色の肌のご当地怪人を見て唸った桐香は連想したモノに頭を振る。
    「そもそもいちごさんは合法ロリですし、ショタは関係ないはず……はっ!? いちごさんは……もしかしてショタを食べる方?」
    「食べませんよ?! 何言ってるんですか?!」
     ガバッと顔を上げた桐香に風評被害を受けた方のいちごがツッコミを入れたのは無理もない。
    「いちごちゃんなら私はショタ的にもありだと思うなー?」
    「いちごさん何をっ?!」
     だが、周囲を囲むメンツは四人中唯一の男子に優しくなかった。
    「りんごちゃんもそう思うよね?」
    「ありですもちぃね」
    「いちごならありですわね」
     二人纏めて話を向けられれば、両者は顔を見合わせると双方とも真顔で告げたのだから。
    「私もありなんですかっ?! って、ちょっと待って、りんごっ?!」
    「そんな、ToLOVEるの相手にショタまで入れようとしているなんて……でもどんなあなたでも私は大好きですわ。自信を持って……! ほら、おっぱい揉んで、元気出して?」
    「酷い誤解してますよね? と言うか、揉みませんよ! そもそも、何故自然にそっちの人まで混じってるんですか!」
    「「あ」」
     混沌だった酷すぎる混沌だった。
    「と言うか、他のみなさんは――」
     我に返り、周囲を見回したのは、誰だったか。
    「誤解だよ? 邪魔するつもりもショタを取るつもりもないよ?? っ」
    「いやいやいや、違うよ! 独占なんてしてないから……! う……」
    「えっ」
     視界に飛び込んできたのは、何もない場所で身もだえし、のたうつ犠牲者が二名。
    「悪いけど、小さい子に見せられないようなお医者さんごっこはおしまいだよ……」
     一体何があったと問うより早く、触手に絡まれた生け贄三名を助けようと片腕を巨大化させ由希奈は殴りかかるも。
    「仕方ありませんもちぃね」
    「ひゃぁぁぁぁっ!?」
     胸の前で手を組み祈るりんごモッチアの足下、出現した何かに呑み込まれたのだった。

    ●惨状のなかに
    「あの、どういうことなんでしょう? 何故、由希奈さん達はスカートの中に手を入れたり、その、自分の胸を……揉んだり、とか」
     もし、藍が自由であれば問うたかもしれない。その答えを一つの単語で説明するなら、トラウマである。早苗達を呑み込んだのは、影喰らいもどきだったのだろう。
    「ちょ、なんでそんな胸の方に触手を回すの……やぁっ!?」
    「ああ、由希奈ちゃん……」
     触手と苦手意識を持つ相手と同じ顔のご当地怪人が敵であったことで、きっと自分にしか見えない触手で自分を襲うりんごモッチアと抗っているのであろう由希奈に紅葉は遠い目をしつつ敬礼を送った。
    「そっか、顔は同じでも趣向は反対なんだ」
     つまり、白い方に女の子を襲えと言うのは、黒い方に男の人を襲えと言うようなモンである。必要に駆られれば嫌々やった、かどうかは定かでないが、トラウマを与えれば、各々が作り出した当人にしか見えない敵がその辺を引き受けてくれる訳だ。だったら任せてしまえばいい、その分自分の趣向にあった相手と好きなことをできるのだから。
    「そうでなくても触手は男の子達で塞がってるもんね」
    「にゃぁぁぁぁぁ?! 触手なんでー?!」
     紅葉は納得すると、とりあえず、見えない触手を解こうとして自分のもっちあ(名詞)を鷲掴みしてしまっている桜花に歩み寄った。
    「ふふふ。って、こっちに」
     もちろん、桜花をもっちあもっちあするためだったが、ようやくもっちあ(名詞)に手が触れた瞬間、下からせり上がってきた何かに飲まれたのだった。
    「きゃっ……!? こ、こないで下さい」
     そんなこんなで被害は拡大の一途を辿っていた訳だが、離れていたからと油断して同様に呑まれた璃耶の側に歩み寄る人影が一つ。悶えつつ璃耶の漏らした声がそをさしたようにもとれたが、おそらくは偶然だろう。
    「ひゃっ……! なにこれ……触手が、服に入り込んで……あうぅ」
     悲鳴は上がるが、服に触手など実際には入り込んでいない。突っ込まれてるのは黒い方の手首から先だけであった。
    「で、でも、りんごさんにされていると思うと、こう……」
    「璃耶さん? わたくしがなんですって?」
    「えっ」
     トラウマと重なっていたせいで当人に気づかなかったというのも、おそらくは璃耶の災難だったと思う。
    「由希奈さん、今助け……くっ」
     そうしてトラウマが猛威を振るう中、恋人を助けようとしたとある灼滅者の行く手を阻んだのは、触手。下手に動けば捕まると思ったのだろう。
    「……えい」
     足を止めた男の方のいちごの背へ手で触れ、勇気を持って押し出した人がいた。
    「ちょ、押さ、うわぁっ」
     ただし、触手へ捕まる方向に、だから抗議の声が聞こえて、触手に絡みとられたかの人は由希奈の上に倒れ込む、なんか胸を鷲掴みにする形で。
    「んっ……い、いちごくんまで……って、何で胸揉んでるのっ!?」
    「由希奈さん、すみまでっ、ちょ、アリカさ」
    「へ、変な声出ちゃうよぉっ……! だ、だめぇっ……!」
     トラウマに恋人と触手、ここぞとばかりに悪戯しようとする数名も加わってよい子には見せられない状況になりつつある中。
    「大丈夫でしたの?」
    「怖かった、怖かったよぅ……」
     触手の行く手が分散した怪我の功名か、多大な犠牲と引き替えに悠樹が触手から解放されるが、余程怖かったのか、薫子の腕の中で泣きじゃくり。
    「大丈夫、大丈夫です……の。ってあれ?」
     しきりに撫で、落ち着かせようとしていた薫子は気づく、ニョロニョロしたモノが巻き付いていることに。
    「あっ、しまっ……ひゃあぁっ!?」
     抱きしめる薫子を剥ぎ取ろうとしたのか、諦めて纏めて触手で絡め取ろうとしたのかはわからない。
    「お、お姉ちゃん、ごめんねっ、大丈夫?!」
    「だ、大丈んぅっ」
     全然大丈夫そうに聞こえない悲鳴が上がるも、それどころでは無い者が居た。
    「やっぱり白りんごも魔王じゃないかー?!」
     まず、桜花。ただ、襲ってるのは白じゃなくて黒の方ですと教える余裕がある者は居らず。
    「ちょ、何故に妾まで~!?」
    「可愛いものをめでたいというのは慈しみの心の発露であると同時にわたくしに課せられた務めですもちぃ♪」
     聖女然とした表情で言い切ったご当地怪人の触手に追われるのは、イルル。ボーイッシュな出で立ちにしていた為、あらかた堪能したりんごモッチアに目を付けられたのだろう。
    「あぶないぞよ! ……色々な意味で」
    「そんなことはありませんもちぶっ」
     イルルと共に、ディフェンダーとして被害が出るのを少しでも遅らせようとしていたライドキャリバーのティアマットがぶちかましをかけるも、一歩遅い。
    「ひぅんっ!? ちょっ、絡む絡むぅうっ!?」
     獲物を捕まえた触手は一通りイルルの身体をまさぐり。
    「あら、ハズレですもちぃね」
     ぺいっとそのまま解放する。やっぱり女性はノーサンキューらしい。
    「嫌ーーっ!! 私は新しい世界の扉は開いてないのー!」
    「ひっ!? いやっ、触手だめだって……! 違うから違うから!」
     ただ、トラウマの方は本物の嗜好など関係ないとばかりに紅葉達を襲って悲鳴をあげさせていたが。
    「ぷはっ、早苗姉ちゃん達大丈夫?」
     流れが変わったのは、口から触手の先っぽを吐き出した和馬の招く、優しい風。
    「ふう……なんとか致命傷で済んだみたいね」
     汗をかいたのか、全身ぐっしょり濡れたまま片手で霊犬のマカロを撫でた紅葉が身を起こし。
    「お、お嫁に……いけなくなりかけたですの……でもゆーきくんがいてくれてなんだか気合も入ったですの! ありがとうですの!」
     触手の感触が残る場所を押さえながらも薫子は悠樹に微笑みかけた。状態異常によって引き起こされた惨状なら、癒やし手が数名機能することで覆せるのだ。ここからは灼滅者達が追い込む番だった。
    「残念ですもちぃ。もっとゆっく」
    「この戦いが終わったらりんご餅を一緒に食べましょう! 戻ってきたら僕のことを好きにしてもいいですから、モッチアのままでいるのは絶対だめです!」
    「え」
     流石に遊んでいられないと思ったのか、身構えたりんごモッチアだったが、藍が叫んだ直後、動きが止まり。
    「ひどい目にあった……許さないよ!」
     ぐっと拳を握り込んだ桜花は地面を蹴る。スカートの中が涼しかった、トラウマの触手を引き剥がしたつもりが自分でパンツを脱いでいたから。
    「普段黒りんごにやられてる分もまとめて――」
     桜餅キックでお返しするつもりだった、だが。
    「加勢します!」
     璃耶の飛ばした激しく渦巻く風の刃が追い抜いた直後。
    「もちゃべっ」
    「うにゃーー!? あ」
     めくれ上がったスカートを抑えた腕を太ももが跳ね上げバランスを崩す。
    「あちゃぁ」
     思わず顔を手で覆ったのは誰だったか。今日もその元モッチアは派手に転けた。もちろん、それで灼滅者達の攻撃は終わらない。
    「倒させてもらいますの!」
    「もう、許さないからっ!」
    「……りんごモッチアさん、恥ずかしい格好になっちゃったらごめんなさい!」
     サーヴァントと応援を含めれば十九名も居るのだ。はっきり言って、数の暴力だった。容赦ない集中攻撃は降り注ぎ。
    「もちゃべっ、ふふ、お見事もちぃわ。ですけれど、心に闇がある限り、わたくしは蘇……もちゃべっ」
     満身創痍ながらも余裕の有りそうな笑みを浮かべたご当地怪人は途中で力尽き、ポテッと倒れると人の姿へと戻り始めたのだった。

    ●戦いのあとに
    「も、もうお嫁に行けない……」
     失ったモノが大きかったのだろう。
    「由希奈さ、わぁっ」
    「きゃああっ」
     さめざめと泣く由希奈の元へ近寄ろうとしたその恋人は、何もない場所で蹴躓くとそのまま由希奈を押し倒した。
    「いちご兄ちゃんは相変わらずというか、うん、何だろ」
     平常運転とでも言えば良いのか。きっと甲斐性と言う文字には「いつものやつ」とルビが振られているものと思われる。
    「うぅう……酷い目に遭いました……。恋人にあんな場面見せられません……」
    「うぅ、帰ったら思いっきり甘えねばっ……」
     ただ、今回の犠牲者は一人ではない、璃耶は真っ赤な顔のままであったし、確認された上ポイ捨てされたイルルも涙目であった。と言うか、むしろ犠牲者枠に入っていない灼滅者の方が少数派な気がする。
    「ですけど、りんごさんがこれで最後とは思えませんの。ひょっとしたら、第二第三のりんごさんが……」
     男性も女性も行ける口、赤岩・りんご。人外専門、青岩・りんご。人類にはまだ早すぎた、趣向が未来に行きすぎている時岩・りんご。
    「あたし、疲れてるのかな……」
     五人に増えた見知った顔が戦隊モノの様にポーズをとり、背後で爆発の起こる様まで想像して遠い目をしたのは、特撮の好きな元モッチア。
    「第二、第三とか……触手はもうこりごりです……え、ええ、こりごりですとも!」
     とんでもないと璃耶が首をブンブン振る中。
    「「わたくし色々複雑なのですわ」」
     何とも言えない表情で、二人のりんごは声をハモらせた。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年8月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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