●都内某所
人身事故が多発する線路があった。
この辺りでは、頻繁に人身事故が起こっており、たびたび電車が止まるという事態に陥っていたらしい。
それでも、駅員達の涙ぐましい努力によって、致命的になるほどの大幅な遅れはなかったようだ。
しかし、電車に飛び込んでバラバラになった人の体の一部が見つからなかったケースもあり、駅員達の頭を悩ませる事がしばしばあったようらしい。
そのせいで駅員達の中には、『ひょっとして、誰かが体を持って帰っているのでは?』、『そ、そんな馬鹿な!?』、『いや、今まで亡くなった人達が、失った部位を求めて彷徨っているとしたら……』と言った感じで噂が広まり、都市伝説が生まれてしまったようである。
「急いでいる時に、この手の事故は遠慮したいところだな」
なるべく言葉を選びながら、神崎・ヤマトが今回の依頼を説明した。
今回、倒すべき都市伝説は、事故で亡くなった人達の体が固まって出来たような不気味な奴。
何となくウニ的なモノを想像すると、イメージしやすいと思うが、あまり考えすぎるとウニが食えなくなるから要注意だ。
コイツは人間の手足に異常なほどの執着心を持っており、獲物を見つけると物凄いスピードで転がって飛び掛かり、ブチブチと引きちぎって自分のものにしてしまう。
おそらく、お前達が行く頃に線路の上で誰かの死体を漁っている可能性が高い。
既に亡くなっている以上、助ける必要はないが、駅員達が死体を探しに来るかも知れないから、その対策だけはしておいてくれ。
また、都市伝説は獲物に飛び掛かる時、ヒトデのように広がって弱点を晒す。
これはホオズキでいうところの実のようなもので、沢山の人の頭が固まって出来たものだ。
獲物を襲う時以外でもたまに思い出したようにニュッと顔を出すから、その時に狙っても構わないと思うが、確実に中心核を狙うのならば、誰かが囮になる必要がある。
まあ、その場合は命の保証がないから、最終手段だと思って依頼に挑んでくれ。
参加者 | |
---|---|
稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450) |
九条・已鶴(忘却エトランゼ・d00677) |
大松・歩夏(影使い・d01405) |
若生・めぐみ(癒し系っぽい神薙使い・d01426) |
エルヴェティス・アヴェニール(コテコテ関西フランス人・d01842) |
御剣・榛歌(オトニトラワレシモノ・d06139) |
能登谷・勲(人間スクラッププレス機・d06594) |
京堂・秦(スカーボイス・d08945) |
●失った身体
「いつの間にか生まれた都市伝説より、実際に起こった国鉄三大ミステリーの方が怖い。それはそうと、人身事故を起こすと鉄道会社に超高額な賠償金を請求されるんやてな。その影響で実は結構、潤ってた……。なんて事無いやろな、この鉄道会社」
全身に鳥肌を立たせながら、エルヴェティス・アヴェニール(コテコテ関西フランス人・d01842)が都市伝説の確認された線路に向かう。
賠償金については調べても色々な説があるため、ハッキリと断言する事は出来なかったが、人身事故が原因で電車が止まり、多くの利用者に損害が出ている事を考えると、賠償金がまったく請求されないとは考えにくかった。
だからと言って超高額な賠償金を請求されたとしても、現実的に考えて支払う事が出来ないため、こちらの可能性も低そうである。
どちらにしても、この件に関してはジックリ調べてみないと、答えが出ないように思えた。
「そういえば、こういう伝承って色々ありますね……前に似たような都市伝説も出たらしいですし……」
似たような都市伝説があった事を思い出し、若生・めぐみ(癒し系っぽい神薙使い・d01426)が口を開く。
実際に、都市伝説の中には似たような話もあるのだが、必ずしも同じような姿になるとは限らないようである。
「実体化した都市伝説……、もしかすると、こういうのって言霊の力なのかもね」
警戒した様子で辺りを見回しながら、稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)がボソリと呟いた。
現在、電車は人身事故が発生したため停車中。
事故が発生した現場は、それほど遠くない。
この場所で都市伝説が確認された事を考えると、その傍にいる事は間違いないだろう。
「……ウニか。想像するには容易いけど、それが人間の体の塊だと思うと流石に遠慮したいなぁ……。それに、死体を漁って自分の一部にしようとするのも気味が悪いしね。なるべく早めに倒してさ、駅員さんを安心させるとしようか」
仲間達に声をかけながら、御剣・榛歌(オトニトラワレシモノ・d06139)が線路を歩いていく。
しばらくするとトンネルが見えてきた。
それはまるで榛歌達を地獄に誘うかのように、トンネルの中が漆黒の闇に包まれている。
一度、足を踏み入れたら、二度と現世には戻れない。
そう錯覚してしまうほどの深い闇。
「ウニにしても血にしても、生臭ぇのはどーにもなぁ……。しっかし、此岸に居たくねーつって飛び込んだんだろーに……。んな形で拘束される事になるなんざ、思ってもなかったろーよ。……全く以て、皮肉なもんだ」
深い溜息をつきながら、能登谷・勲(人間スクラッププレス機・d06594)が懐中電灯のスイッチを入れる。
それでも、暗い。真っ暗と言う訳ではないが、足元がようやく見れる程度の明るさしかない。
「うわああああ!」
その時、誰かの悲鳴が聞こえた。
「どうやら、この先のようだね」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、大松・歩夏(影使い・d01405)が走り出す。
悲鳴が聞こえた場所が近づくにつれ、辺りに漂う強烈な死臭。
一瞬、手遅れかと思ったが、駅員は何とか無事。
腰を抜かしつつも、這うようにして逃げていた。
「うわぁ……、話に聞いとったけど、生で見ると更にグロテスクやな……。あ~、キモイ、キモイ。こんなん1秒でも長く見たないから、さっさと倒してオサラバしよか」
暗闇の中で蠢く都市伝説を見つけ、エルヴェティスがドン引きする。
幸い、都市伝説も死体の興味があるらしく、バラバラに散らばった自殺者の体を集めるのに夢中のようだ。
「これ以上、誰も来ませんように……」
祈るような表情を浮かべ、京堂・秦(スカーボイス・d08945)がサウンドシャッターを使う。
それに合わせて、歩夏が殺界形成を展開し、都市伝説との戦闘に備えた。
「ねぇ……君の手は、足は。何の為の物? ……なぁんて。聞くだけ無駄かもね」
都市伝説に語りかけながら、九条・已鶴(忘却エトランゼ・d00677)がクスリと笑う。
その間も都市伝説はバラバラになった死体の手や足を掴み、何度も付け替えて具合を確かめていた。
おそらく、転がって移動する時や、飛び跳ねる時に不都合がないのか、確かめているのだろう。
「……よし。それでは、始めるとしようかッ!」
眼鏡を外して笑みを浮かべ、榛歌がゆっくりと大鎌を構える。
次の瞬間、都市伝説が新たな手足を求めるようにして、いきなり襲いかかってきた。
●駅員
「祈願、封印解除!」
右手の人差し指と中指で挟んだカードを顔の前にかざして目を閉じ、めぐみが叫び声を響かせてカッと目を見開き、スレイヤーカードを頭上に掲げて解除する。
それを見た駅員が『い、一体、何が起こっているんだ!?』と悲鳴をあげた。
駅員が驚くのも、無理はない。
立て続けに予想外の事が起こり、そのすべてが常識で判断する事が出来ないのだから……。
そのせいか、ナノナノが心配そうに見ているが、駅員の方は怖くて声が出せないほど怯えている。
「……ったく。これじゃ、戦えない」
都市伝説と対峙しながら、歩夏が悔しそうに唇を噛む。
ただでさえ、トンネルの中で戦うため、行動が制限されているというのに、駅員がいるのでは全力では戦えない。
それに駅員を守っておかねば巻き添えを食らって、戦いの最中で命を落としてしまう事だろう。
しかも、都市伝説が死体の手足を回収し終え、今度は歩夏達の体を狙っている様子。
「させるものか!」
駅員を庇うようにして陣取り、秦がライドキャリバーのスミスと連携を取りつつ、都市伝説めがけて、ズタズタラッシュを炸裂させた。
それでも、都市伝説は諦めない。
自分のコレクションを増やすため、レアな手足をゲットするために……!
「悪いけど、うちの手足はあげられへんで。諦めてアンタは物言わぬ肉塊になりや!」
手足を交互に前に出して物凄い勢いで迫ってきた都市伝説を迎え撃ち、エルヴェティスが一気に間合いを詰めて黒死斬を叩き込む。
その一撃を食らって都市伝説の手足が宙を舞ったが、再び拾ってリサイクル。
「そっちが都市伝説なら、私はプロレス界の伝説よっ!」
赤を基調としたリングコスチューム姿で、晴香がエルボースマッシュ(鋼鉄拳)を放つ。
だが、都市伝説はパァッと花の如く開いてダメージを軽減し、そのまま晴香を取り込んでバラバラにしようとした。
「ひょっとして、あれが弱点か。折角の弱点、逃すには惜しい」
沢山の頭が集まって出来た塊を見つけ、榛歌が近距離からブラックウェイブを仕掛ける。
その途端、都市伝説が身の危険を感じ、その場から勢いよく飛び退いた。
「……逃げるなら、今だよ。まぁ、死にたいのなら別だけど……」
都市伝説を牽制しつつ、已鶴が鏖殺領域を展開した。
その言葉を聞いた駅員が怯えた様子でコクコクと頷き、這うようにして逃げていく。
「これで少しは戦いやすく……なるといいんですが……」
思ったよりも厄介な相手だと思いつつ、勲が都市伝説にロケットスマッシュを叩き込む。
そのたび、都市伝説は吹っ飛んで千切れた手足を回収し、何事もなかった様子で攻撃を仕掛けている。
やはり都市伝説の中心核……弱点を破壊しなければならないようだ。
●都市伝説
「まぁ、弱点さえ分かれば、楽勝だね」
含みのある笑みを浮かべながら、已鶴が都市伝説ティアーズリッパーに放つ。
そのたび、都市伝説が拾った体の一部を付け直しているが、何度も同じ事を繰り返しているせいで明らかに不自然な形になっていた。
「そんな事を言って、身体を持っていかれるなよ」
軽く冗談を言いながら、歩夏が都市伝説の注意を引く。
それに気づいた都市伝説が歩夏の手足を奪うべく、次々と手を伸ばしてきた。
「この一撃、果たして貴様に耐え切れるか?」
歩夏と入れ替わるようにして突っ込み、榛歌が都市伝説にデスサイズを炸裂させた。
すぐさま都市伝説がそれを受け止めようとしたが、指が千切れてバラバラに散らばっていく。
「根性だけは認めるわ。でも……、ツメが甘いわね」
都市伝説に反撃する隙すら与えず、晴香がアッパー掌底(抗雷撃)を叩き込む。
それに合わせて勲が神薙刃を放ち、已鶴がデッドブラスターを仕掛ける。
「行け、スミス!」
都市伝説の死角に回り込み、秦がスミスに指示を出す。
その指示に従ってスミスが都市伝説に突撃し、まるで花が開くようにして、中心核があらわになった。
「危険牌と都市伝説を切る時は、思い切りが大事や。悪いけど、うちの手足はあげられへんで。諦めてアンタは物言わぬ肉塊になりや!」
都市伝説の中心核めがけて、エルヴェティスが居合斬りを放つ。
その一撃を食らった都市伝説が断末魔を響かせ、まるで花火の如くボンと弾け飛び、辺りに散らばって溶けるように消滅した。
「……南無三!」
自殺者と思しき肉塊の前に立ち、勲が心の中で習わぬ経を読む。
いつの間にか、物陰で駅員がこちらの様子を窺っていたが、おそらく彼が必要としているのも、この肉塊であろう。
「あの都市伝説を見とったら、なんかウニが食べたくなってきたわ。どや、みんな。1皿100円の回る寿司で、ウニを食べて帰らへん?」
グゥッと腹を鳴らしながら、エルヴェティスが仲間達を食事に誘う。
だが、誰も目を合わそうとしない。
思い出すだけでもリバースするような状態で、そんなところに行けば大惨事。
……大惨事以外の結末がひとつも浮かばない。
「それでは、駅員さんのお仕事の邪魔にならないうちに帰りましょう」
引き去った笑みを浮かべ、めぐみがサッと背を向ける。
先ほどの言葉は聞かなかった事にしよう。
そう心の中で思いつつ……。
めぐみ達は寿司屋の事には一切触れず、その場を後にするのであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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