紛れ込み爺さん

    作者:聖山葵

     気がついていると人数が一人多い、ある意味良くあるタイプの怪談だった。


    「たださ、誰が増えたメンバーかはすぐわかる訳よ」
     増えているのは一人の老人。
    「で、遊びにしろ飯の準備にしろなんか参加して来んだけどさ」
     手はプルプル震えていて危なっかしいことこの上ない。
    「や、それ別の意味でこえーよ、想像したら見てらんねぇよ」
    「だろ、で最終的にはやらかすんだよ、その爺さん」
     キャンプ場の片隅で側に座る青年と話すもう一人の青年は言う、爺さんの転倒やら何やらに巻き込まれてその場に居合わせた面々が怪我をしたりするのだと。
    「そりゃひでぇな」
    「おお、この人数で良かったぜ。人数が一定以上だと混じってくるらしいからな」
     それが本当に怪談だと思ってい二人は知らない。「紛れ込み爺さん」が都市伝説として実体化してしまっていることなど。
     

    「つー訳で、都市伝説が現れました」
     都市伝説とは一般人の「こわーい」という気持ちの塊がサイキックエナジーと融合して生まれる暴走体。バベルの鎖を持っている為、灼滅者でなければ対処できないっぽいのだ。
    「場所はとある山のキャンプ場。大人数が楽しんでると寂しいのかそれに紛れ込んで、結果的に大惨事を巻き起こすってはた迷惑な爺さんが今回の都市伝説です」
     都市伝説自体に悪意はないようだが、放置しておくのは拙い。
    「さすがに被害を出す訳にはいかないでしょ、じゃ説明行きまーす」
     四人以上の人間が協力しつつ楽しげに何かをやり始めることで都市伝説の老人はいつの間にかメンバーに加わっているという。
    「場所についてはキャンプ場の中ならどこでも良いかな。バーベキューでもボール遊びでも何でもいいらしいので、開けた場所でしりとりとかオススメ」
     火を使う料理や身体を動かす運動と比べて大きな被害が起こりづらいからとエクスブレインの少女は説明する。
    「ま、それでも入れ歯がとんできて顔面にぐらいのレベルの惨事は起こすと思うけどね」
     噂に反った行動をとるのが都市伝説なのだから。
    「で、おじいさんは攻撃されるとロケットハンマーのサイキックに似た攻撃手段で反撃してきます」
     どこから取り出したのか手に持つ杖を使って。老人の動きはへっぴり腰で足下もおぼつかない動きだが、まるでそれが擬態であるかのように確実に敵対者へ攻撃を仕掛けてくるとのこと。
    「まー、相手の数は一人だし、きっと何とかなるよ」
     そんじゃ頑張ってねー、と手を振る少女に見送られ、灼滅者達は教室を後にする。
     都市伝説を討伐する為に。
     


    参加者
    斑目・立夏(双頭の烏・d01190)
    比奈下・梨依音(ストリートアーティスト・d01646)
    珠瀬・九十九(藍色ナインテイル・d02846)
    ルーシア・ホジスン(ウラワザの魔女・d03114)
    藤木・友(リバーウィロウ・d04442)
    黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)
    因幡・結城(目付きの事は皆まで言うな・d07570)
    ロザリア・マギス(死少女・d07653)

    ■リプレイ

    ●おじいさん
    「早朝の澄んだ空気って最高ね」
     秋の山。若干の肌寒さを感じさせる空気の中で黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)はキャンプ場内の開けた場所に足を踏み入れた。
    「ぐっもーにんぐじゃみなのもの!」
     寝ている者がいれば同じ台詞と共にたたき起こすつもりだったルーシア・ホジスン(ウラワザの魔女・d03114)が現れ、他の面々も集い始めて。
    「紛れ込みお爺さんデスカ」
    「変なじーさんも居たもんだよな」
     ロザリア・マギス(死少女・d07653)の呟きに比奈下・梨依音(ストリートアーティスト・d01646)は頭をかきつつ応じ。
    「キャンプ場での楽しいひと時に大惨事を加える……なんてはた迷惑な都市伝説だよ、おぃ」
    「人々が楽しく過ごしている時に、水を注すような真似をする都市伝説は、たとえお爺さんのような姿であろうと成敗してさしあげますわ」
     口元を引きつらせ遠い目をした因幡・結城(目付きの事は皆まで言うな・d07570)の言に頷き、ぎゅっと拳を握って宣言したのは、珠瀬・九十九(藍色ナインテイル・d02846)。
    (「寂しかとは解らんじゃなかばってん、迷惑すぎるとはちぃとでけんね。お仕置きせにゃならんかねぇ……」)
     藤木・友(リバーウィロウ・d04442)にしても、エクスブレインの依頼を受けてキャンプ場まで足を運んだ以上、しなければならないことは分かっていた。
    「じーさんを速攻で成仏させることで、あとの時間はキャンプで遊べるという寸法です! ちゃっちゃとやりましょー」
     全ては、キャンプ場の平穏とこの地に訪れる人々の為。ルーシアの言が一見エゴまみれなのはきっと気のせいだろう。
    「しりとりが良かち言われたけん、素直にすっかね」
    「まっ、サクッと終らせてバーベキューだぜ」
    「それじゃ、最初は『しりとり』の『り』からね」
     アドバイスに従いつつも一部アレンジをくわえて、始められたのは記憶型しりとり。出されたワードを全部覚えるタイプのしりとりである。
    「せやったらオーソドックスにリンゴにしとくか。ほな、しりとり、リンゴで」
     微妙に不穏な歌を口ずさみつつ何やらメモをとるルーシアをスルーして、斑目・立夏(双頭の烏・d01190)が一つめのワードを口にし。
    (「まぁぶっちゃけ暗記系で攻められると苦手ばってん……まぁ、ここは誘き寄せるためにも楽しむとすっかな。」)
    「藤木さん」
    「ん?」
    「あなたの番ですわよ?」
     呼ばれて自分の番であることを理解した友が口を開く。
    「意外と流れ早かね。ばってん……」
     流石に一巡では出てこないか。しりとりから始まった言葉はどんどん繋がって、やがて十六個目のワードになった時。
    「って! 噛んでもうた。もう一回や、もう一回!」
     爺さんが紛れ込んだ訳ではなく、立夏がしくじって二回目に突入し。
    「しりとり、リンゴ、ごま、漫画、ガーベラ、ラスク、車、豆、めだか……あーと、この次なんだっけか……」
     中断した一回目がある分記憶するのもややこしい。
    「思い出した。蟹、庭師……で次は舌だぜ」
    「舌、かのぅ。……うーむ、じゃったらわしは……はて、四つめは何じゃったか」
    「いや、それ教えちまったらゲームになんねーだろ」
    「そりゃ、そうじゃのぅ」
     首を傾げる老人は梨依音に指摘されてはたと膝を打ち。
    「って、そやないやろ!」
     ツッコミを入れたのは立夏。
    「OH! そうだった。このるーる、じーさんには大変だぜ! だいじょーぶかっ」
    「や、気遣いするとこでもあらへん!」
     一応ルーシアは気遣っていると見せかけて戦闘の為に距離を詰めているのだが、ボケともとれる流れに立夏は再びツッコまざるをえず。
    「……そうですわね、語尾を同じ文字で合わせたり、少々意地悪な感じで進めましょうか」
    「ちゃうわ、しりとりはもうええっちゅうに!」
     三度目のツッコミをした時には結構息が切れていたような気もする。
    「ウォー・タイム!」
     ポケットから取り出したカードを頭上に掲げ、ロザリアがビハインドであるテクノの登場シーンを演出しちゃったりなんかしている時。
    「で、爺さん誰やねん!」
     はようやく言うことが出来たのだ。戦いに突入する前しておこうと思ったツッコミを。

    ●正義
    「しっかしなぁ、ジーさんの登場見損ねたぜ」
    「盛り上げるポイントの前に出てこられたのも計算外でしたわ」
    「しかしまあ都市伝説ってのはみんなこんなもんなのか?」
    「ふぉ?」
     呟く梨依音と九十九の視線の先で、都市伝説の老人が首を傾げていた。
    「と言うか、何かやらかすまで待つんじゃなかったのか?」
     決行時間、攻撃を仕掛けるタイミング、全員一致を見ないのはままあることなのかもしれない。
    (「BBQの大切な食材を落とされてしまうかもしれない。火種を大きくして、森に移ってしまうかもしれない。ボール遊びをすれば、進路に割り込んで来て、避けようとして足を挫くかもしれない。これじゃ、せっかくのキャンプも台無しよ!」)
     結城が戸惑う中、摩那は静かに一見無害そうな老人を睨み付ける。
    (「キャンプ場から笑顔を消さないために、悲劇を未然に防ぐためには都市伝説からキャンプ場を守らねばならないのよ」)
     故に摩那は正しい。プルプル震えてるおじいちゃんを虐待する訳ではないのだ。
    「紛れ込み爺さんは許すマジ」
    「ひょ?!」
     当人には悪意のない都市伝説なだけあって突然の展開に老人は驚くが、灼滅者達から見ればこの流れは想定内だ……ったと思う。
    「テクノ、仮面を。挨拶代わりデス!」
    「うひょぉぉぉっ?!」
     ロザリアがテクノをけしかけると同時に影の触手で老人を絡め取り。
    「そこまでです」
     ルーシアの撃ち出した漆黒の弾丸は爺さんの膝を貫く。
    「悪ぃな、ジーさんっ」
     更に梨依音が触手に老人の背後をとってブリッジするようにその上半身を叩き付ければ。
    「な、なんと過激な遊びじゃ、わしはわしは……ふぅぅ」
    「違うわっ!」
    「ほげっ?!」
    「っと」
     ガンナイフをもったまま踊りつつ立夏が裏拳でツッコミ、友が激しくギターをかき鳴らす様を視界に捉えて慌てて飛び退く。
    「うぬぅ、最近の遊びは過激すぎてついて行けぬわい」
    「流石に楽々勝利、とはいかないようですわね」
    「ああ見えても都市伝説ってことなんだろうな」
     むっくりと身を起こす老人は流石に行殺されてはくれぬようで、九十九の言に応じつつ結城が味方へシールドを分け与える間にどこからか杖を取り出した。
    「あれは――」
     高速演算モードに突入した摩那が瞳に映したのは、危なっかしい足つきで進みながらも何とか杖を振り上げた老人の姿。
    「おっとっとっとぉっ!」
     振り下ろされた杖が打つ地面を起点に衝撃が走った。
    「大丈夫ですか」
    「どうってことないデス」
     なんだかんだ言って老人も戦う気になったのか、それとも攻撃された時点で反撃のタイミングを窺っていたのか。衝撃を受けつつもロザリアはにやりと笑って見せ、霧を展開して味方を癒す。
    「油断したらあかん」
     都市伝説の攻撃は軽視出来るレベルのものではない。
    「まだあれを隠してる筈や」
     だが、立夏は他にも警戒しておくことがあった。
    「い、入歯攻撃とか喰らいとう無いねんからな!」
    「ばってん、エクスブレインは――」
     攻撃手段として使ってくるとはよーらさんと友は指摘してみるが、やって来てもおかしくない気がするのは、何故だろう。
    「のさんなぁ」
     嫌な顔をしたのはきっと入れ歯が飛んでくるところでも想像してしまったのだろう。流石に歌姫を思わせる歌声の方にまでげんなりとした感情は反映されなかったようだが。
    「ともかく、長引かせる訳にはいかないわ」
     入れ歯的な意味でも、用意してきた食材を無駄にしない為にも。
    「そうだよな。肉が待ってんだ」
     にっと笑みを作った梨依音は高いテンションのまま都市伝説へつかみかかり。
    「多少余裕がありますわね……援護致します」
    「ほぎょぉぉぉ?!」
    「あっ」
     投げ飛ばされ、バスタービームの突き刺さった爺さんを九十九は激しく渦巻く風の刃で切り裂く。だいぶ薄くなっている老人の貴重な髪が何割か削られたような機がしたが相手は都市伝説、きっと気にしてはいけない。
    「わしの髪、髪がぺあばっ」
     頭を触って呆然とする老人を押しつぶしたのは、巨大化した結城の腕で。老人虐待を疑われかねない戦闘はまだ続く。

    ●挫けぬ心
    「なかなかしぶといジーさんだ」
     あれから梨依音は何度投げ飛ばしただろうか、老人はボロボロになりつつもまだ立っていた。
    「確か前の敵は……ってか、俺年寄りとしか戦ってないような気がするぞ」
     雷を宿したアッパーカットが綺麗に決まっても尚。
    「わしは、まだやれるまだやれるんじゃぁぁ」
     今にも倒れそうに見えて、倒れても起きあがって向かってくる。
    「まさに根性デスネ」
    「いや、根性言うか、酷いビジュアルやで」
     立夏やロザリアの伸ばした影の触手に絡み付かれた姿で。
    「これが、じーさんと触手のコラボレーションかっ」
    「わけくちゃわからん」
     とりあえず、長々と存在させて良いものでないのは確定だろう。
    「じーさん、スタァァーップ!!」
     ルーシアが止めたいのは絵面的なものか、老人な都市伝説自体か。
    「ひょええぇっ」
    「ばってん、そいで終わりじゃないけん」
     漆黒の弾丸が都市伝説の身体をかすめ、回避行動によろめいたところを先程訳が分からないと柳川弁で言っていた友がバイオレンスギターを激しくかき鳴らし、生じた音波を叩き込み。
    「うぎゃ」
    「終わりにさせて貰うわよ」
     キャンプ場の平和を守るためにもと続けながら、摩那は緋色のオーラを宿した日本刀を上段に構える。
    「まだじゃ、まだわしはやれるんじゃ」
     迎え撃とうとプルプル震えつつ杖を振り上げた都市伝説は気づかなかったのだろう。
    「テクノ」
     霊障波を放つ体勢を作ったビハインドが自分を見ていたことに。
    「ひょわっ?!」
     想定外の方向から撃ち込まれた攻撃に一瞬、動きが止まり。
    「清き浄化の風よ……」
     九十九の招いた風が流れゆく中。
    「頃合いや」
     斬りかかる摩那の動きにあわせるように立夏が地を蹴った。
    「いくで」
     情熱の篭った振り付けのダンスはある意味老人を送る為の舞で。
    「う……ぐぁ」
    「終わりデス」
     立夏が踊りながら振るったガンナイフに切り裂かれよろめいた都市伝説は、次の瞬間影の触手に絡め取られ、果てた。
    「何というか、ひでぇフィニッシュだ」
    「勝ちは勝ちデスヨ」
     何はともあれ、都市伝説は倒されたのだ。

    ●お待ちかねの
    「……さて、これで心置きなくバーベキューが楽しめますわ」
     九十九は、先程までの何かを全て忘れ去ったかのような笑顔を浮かべ。
    「せやな。鉄板の組立とか力仕事は任せてや?」
     立夏も笑顔で応じる。
    「旧校舎でゲットしてきた作業着でかまど作りもばっちりだぜ!!」
     おかしな方向にテンションが振り切れてしまってるように見える結城は、身につけた作業着をまるでコマーシャルか何かのように強調しつつ朝食の準備に取りかかる。
    「キャンプ場といえばバーベキュー、バーベキューといえば欠かせないのが火起こしッ!! 俺に任せろぉー!!」
     竈が完成したからのテンションアップか。
    「フゥーハハハ……火起こし火力調節なら任せろぉー!! 唸れ俺のESP!!」
     自傷行為に走るなり傷口から炎を吹き出させて。
    「肉、ここに置いておくで」
    「よっしゃー、網でも鉄板でもどんとこーい! なんか戦闘時より輝いて見える感じ。気のせいだよねっ!!」
     嬉々として準備をする男が二人。
    「ロザリアは下拵えをするのデス」
     ロザリアも手伝いを申し出、やがて肉の焼ける美味しそうな匂いが漂い始める。
    「いいかとりあえず肉だ肉をよこせー!」
     叫ぶ小学生が一人。
    「へい、カール! にくにく!」
     そこに加わり追加注文する中学生女子。
    「ああ、もちろん食うだけじゃないぜ? ちゃんと材料とかもって来たぜ」
    「そうではなくて……」
     今気づいたという様に顔を上げた梨依音が視線で箱を示してみせるが、九十九の言いたいのは別のこと。
    「皆さん、お肉ばかりではなく野菜もちゃんと摂ってくださいね?」
     栄養バランスは大切。
    「あ、もちろん野菜も食うねんけどな! でもやっぱ肉や肉……て! ひ、独り占めしてへんで!」
    「じゃあこれは貰って行くぜ」
    「私も頂く、白人の食いっぷり見せてやろう」
     弁解めいたことを口にすれば、立夏の前から一気に肉が消え。悲鳴が上がったような気もするが気のせいだろう。
    「こうして戦友になったのも何かの縁、大事にしていきたいとこたいね!」
     仲良くかどうかはさて置き、美味しそうにBBQを味わう仲間達を眺め、友は自身の言葉を噛み締めるように頷いて。
    「そうね」
     同意しつつ摩那はほどよく焼けた肉を口へと運ぶ。
    「それにしても、キャンプで食べるBBQは最高だわ」
    「火の取り扱いには気をつけつつ、やね!」
    「任せとけー!! 肉の焼き過ぎも見逃さねぇー!」
     友の注意へ相変わらずのテンションで応じる結城を眺めながら、摩那が二切れ目に手を出せば。
    「あ、日が昇るデス」
     少なめに盛ったバーベキューを良く味わうよう少しずつ食べていたロザリアが東の空を指す。白み始めた山の向こう側が静かに輝き始めていた。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年10月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ