月の兎がこんにちは

    作者:飛翔優

    ●月の綺麗な丘を目指して
     空を遮るものなど何もない。煌めく星々に抱かれて、月が優しく輝く夜のこと。明るいうちならば街が一望できるという丘を目指し歩く中、竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)は語りはじめていく。
    「聞いたのは噂。あの、丘と月に関する……」
     ――月の兎の招待状。
     それは、お月見の日が近づいてきた夜の事。月が綺麗に眺められる場所として有名な丘の上で、月を見つめていると現れる。
     月の上に住んでいる兎たちが。あなたを、月のお餅つき大会へと誘うため。
     兎たちは可愛らしく、腰につけているお餅も非常に美味。けれど、けっしてついていってはならない。
     兎たちは人を連れて行く方法は知っていても、人を返す方法は知らない。もしもついていってしまったなら、戻ってくることはできないだろうから。
    「そして、それが都市伝説と化している事が判明しました」
     お月見の時期が近づくにつれて、丘の上で月を眺めようとする者も増えてくる。そうなれば、被害者が出てしまうことは確実。
     そうなる前に、解決しておく必要があるだろう。
    「兎たちがどういう戦い方をしてくるかはわかりません。だた、餅つき兎ですから、杵を武器としてくる……みたいな予想は立てられます」
     また、臼を持ち持ちをひっくり返す……といった役目を持つ兎もいるだろう。それがどういう攻撃につながってくるのかは分からないが、予測の足がかりにはなるかもしれない。
     以上で説明は終了と、藍蘭は静かな息を吐く。
    「餅付き兎……というだけなら可愛らしいけれど、害をなす存在なら話は別。頑張って、解決しましょう」
     人々が、安心してお月見を行えるように……。


    参加者
    竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)
    水無月・飛鳥(俎板・d00785)
    繭山・月子(絹織の調・d08603)
    双海・忍(高校生ファイアブラッド・d19237)
    四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)
    遠夜・葉織(儚む夜・d25856)
    シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)
    十六夜・朋萌(巫女修行中・d36806)

    ■リプレイ

    ●綺麗な月に誘われて
     蝉に変わり、世界を飾るコオロギたち。耳を澄ませている星々を、月を鮮やかに輝かせ、夜を優しく抱いていた。
     丘の上を目指す中、繭山・月子(絹織の調・d08603)は空を仰いでいく。望月には届かぬきらめきに、そっと目を細めていく。
    「……今夜の月も淡い銀色の光を放ってきれいですね」
     もっとも……と肩を落とした。
    「月見団子は一年に昇る望月の数をお供えすることが煩わしいです。今年は、はてさて、いくつなのでしょうか、十二以上はあるでしょうけれど」
    「そうですね。今年は十二個で良いかと思います。余談ですが、再来年は十三個になるかもしれません」
     水無月・飛鳥(俎板・d00785)は静かな息を吐き、淡い銀光から目を反らす。
     静かな風が吹き抜けた。
     木々がざわめいていく。
     ただよい始めた土草の香りを感じながら、四刻・悠花(高校生ダンピール・d24781)は樹木の間に目を向けた。
    「……もう秋なんですね。月の兎さんに会えるというのも、ちょっと風流かな」
     瞳の中、揺れているのは小さな花。
     今は眠り続けている、名前も知らない白い花……。

     丘の上へと到達した灼滅者たちは、シエナ・デヴィアトレ(ディアブルローズルメドゥサン・d33905)のライドキャリバー・ヴァグノが運んできた荷物の中から臼を取り出し、広場の中心に置いた。
     更には杵に、水の入った桶……ホカホカのもち米も放り込み、餅つき大会が始まっていく。
     ぺったんぺったんぺったんと、リズミカルに育てられていく白い餅。汗を流しているシエナと竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)、調子よく餅をひっくり返している月子や飛鳥を眺めながら、遠夜・葉織(儚む夜・d25856)は一人思い抱く。
     月よりやってくるという兎たち。月へ連れて行く方法は知っていても、返す方法は知らないという。
     ならば、自力で帰ればよいだけのことだろうか。
     そんなことを考えながら、自身もまたつきたての餅を食べるためのフレーバーを準備し始めていた。
     着々と準備が整っていく気配を感じながら、シエナは杵を振るっていく。月子と共に、餅を突き続けていく。
    「ぺったん! ぺったん! ぺったんですの!」
     ひとかたまり目の餅ができあがった頃、己等以外の気配を感じ取った。
     崖の方角へと視線を向ければ、そこには……六匹の兎たちが立っていて……。
    「遠路遥々ごくろうさまですの。あなた達も餅つきとお月見に来ましたの?」
     シエナが手を止め、誘いの言葉を投げかけた。
     続いて、竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)もまた口を開く。
    「皆さん、綺麗な月が出ていますので、餅つきとかしてみませんか?」
     続いてシエナと月子に視線を向け、頷きあった。
    「それ、ぺったんぺったん……タイミングを合わせて下さいね」
    「……」
     兎たちが顔を見合わせていく。
     首を大きくひねった後、再び灼滅者たちに向き直ってきた。
    「餅つきだったら月でもできるよ。だから、一緒にお月様で餅つきしようよ!」
     あくまでも、餅つきは月で……ということなのだろう。
     双海・忍(高校生ファイアブラッド・d19237)が肩をすくめ、武装する。
    「一緒に餅つきできればよかったのですが……仕方ありませんね」
    「ほんとう、一緒に餅つきできたらよかったのに……」
     同様に、十六夜・朋萌(巫女修行中・d36806)は武装した。
     夜闇をかげろうの如く揺らめかせ、前衛陣に加護を与えていく。
     一方、葉織は兎たちの中心へと飛び込んだ。
     四体が杵、二体が臼を構えていくさまを確認しながら、刃を振り回していく。
    「餅が固くなってしまわぬうちに終わらせなければな」
    「ヴァグノ、荷物を置いたら最前線に向かって欲しいですの」
     シエナはヴァグノに指示を出しながら、ギターを弾き始めていく。
     都市伝説として顕現してしまった兎たちを倒すため、自らの力を高めていく……。

    ●月の餅つき大会を望んだ兎たち
     人を餅に見立てたかのように、杵を振り上げていく兎たち。
     すかさず悠花が歩み出て、棒を回転させながら振り回す。
     振り下ろされた杵を弾きながら、戦闘に位置する杵を持つ兎の懐へと入り込んだ。
    「人をさらっちゃったりするのは、いただけないのですよ」
     紅蓮のオーラを纏わせた一撃を、脇腹の辺りに叩き込む。
     兎たちの注目が悠花に集まっていく中、飛鳥は臼を持つ兎めがけて影を放った。
    「仲良くできればよかったのですけどね」
     叶わぬ願いを口にしながら、右側の臼を持つ兎を飲み込んでいく。
     直後、もう片方の臼を持つ兎の目が輝いた。
     月子が動きを止めていく。
     瞳から光が失われ始めていく。
    「お餅、つかなきゃ……大切な役割だ……」
     杖から力が抜けそうに鳴った時、ナノナノのアウリンの放つハートが月子の体に吸い込まれた。
     呼吸が正常なものへと戻っていく。
     瞳にも光がやどり始めていく。
    「……ありがと、アウリン」
     安堵の息を吐きながら杖を掲げ、激しき雷を降り注がせた。
     雷が影に閉ざされた臼を持つ兎を照らしだす。
     輝きの影に隠れ、葉織が背後へと回りこんだ。
     黒い刀身の本差しを、居合一閃。
     臼を持つ兎の脚を斬り裂いて、動きの自由を奪い去る。
     晴れることのない影にも抱かれ続けているその兎に狙いを定め、飛鳥は放つ輝くビームを!
    「……きっと、良いお餅を突いてくれたのでしょうけど……」
     叶わぬ夢と、消えていく気配を感じながらため息を吐き出した。
     そんな彼の元に向かおうとした杵を持つ兎を、悠花が棒を突き出し留めていく。
    「あなたたちの相手は私が務めます」
     杵を弾き、後方へと押し戻した。
     棒と杵がぶつかり合い、乾いた音を奏でていく防衛戦。
     蚊帳の外で残る灼滅者たちと相対している臼を持つ兎は、シエナに視線を向けていく。
     その瞳が輝いた時、シエナの瞳がぼんやりとしたものへと変化した。
    「無性に餅つきを再開したくなってきましたの……」
     虚ろに語りながら、杵のような杖を振り上げる。
     最前線へと躍り出たヴァグノを視界に収めながら。
     すかさずアウリンの放ったハートがシエナの心を少なか、月子は臼を持つ兎に狙いを定めていく。
    「可哀想ですが……お覚悟を」
     杖に魔力を込めながら、臼を持つ兎のもとへと向かっていく……。

     臼を持つ兎が、散り際に投げてきた白い餅。
     腕で防いだ朋萌は、小首を傾げながら一口食べてみる。
    「美味しいのに、勿体ない……」
     勿体ないお化けが出るだろうと思われる、美味しいお餅。もしも危険がないのなら、沢山の人に振る舞われていたかもしれない美味しいお餅。
     口から漏れるため息は、残念と思う心の現れか。いずれにせよ……と、悠花と相対し続けていた杵を持つ兎たちへと向き直り、影を刃に変えて解き放つ。
     さなかには忍が風を招き、朋萌の動きを鈍らせていた餅を消し去った。
    「この優位を保ち、戦っていきましょう」
    「狙いは外しませんょ、この攻撃を食らいなさい!」
     優しい風を感じながら、藍蘭は戦闘に位置する杵を持つ兎めがけて影を放つ。
     影に飲み込まれていくその個体をよそに、最後尾に位置していた杵を持つ兎は飛鳥に襲いかかった。
     オーラで固めた両腕をクロスさせて受け止めながら、深く息を吸い込んでいく。
    「七輪で焼き醤油をつけて食べる餅は至高!」
     叫び声と共に押し返し、その兎をよろめかせた。
     さなかには月子が杖を空に掲げていく。
     戦闘に位置していた個体に、雷を浴びせかけていく。
    「……ごめんなさい」
     杵を掲げたまま、消滅を始めていくその兎。
     次は……と忍は大地を蹴る。
     剣に炎を走らせて、右側に位置する杵を持つ兎に向かい振り下ろした。
     切っ先が肌をかすめたなら、その体は激しく炎上し始める。
     炎を中心に、朋萌は符による結界を構築した。
    「動かないでくださいね。すぐ、終わりますから」
     結界に閉ざされ、身動きを取ることができない兎たち。
     すかさず藍蘭が距離を詰める。
     炎の中に、注射針を差し込んでいく。
    「……」
     液体を注入されたその兎は、炎を消しながら地に伏した。
     消滅していくさまを確認した後、灼滅者たちは残る二体へと向き直っていく。
     残る二体もまた、結界に動きを封じられていた。
     程なくして、左側の個体も消滅する。
     残る杵を持つ兎の懐には、シエナが入り込んでいく。
    「終わらせますの」
     言葉とともに、杖を思いっきりゴルフスイング。
     空中に打ち上げられた兎を目指し、ヴァグノが小石を用いて跳躍した。
     鋼のボディをぶちかまし、その兎を崖の柵へと叩きつけた。
     全身ボロボロになりながらも、脚を震わせながらもなお、立ち上がろうとしていくその兎。
     影が差したのは、葉織が歩み寄ったから。
    「……」
     見つめ合いながら、刀を八相に構えていく。
     杵を持つ兎が腕を振り上げるしぐさを見せた時、冷たく見据えながら振り下ろした。
     杵が砕ける。
     兎が地に伏せていく。
     刃を鞘へと修める頃……其の兎もまた、跡形もなく消滅して……。

    ●地上の人の餅つき大会
     治療、戦いによって生じた穴などの修復。そして何よりも、餅の状態を確かめ安堵の息を吐き出した灼滅者たち。
     おおまかな作業を終えたなら、餅つき大会の再開だ。
     ぺったんぺったんとつかれた後、臼から取り出されていくお餅。それらはちぎられた後、きなこやごま、あんこに大根おろし……様々なフレーバーを施される。
     少し早めの十五夜を、楽しむ時間が訪れる。
     お餅片手に月を眺め、藍蘭は一人呟いた。
    「月には兎が居る……例え都市伝説じゃなくても、ロマンチックですよね」
    「……」
     頷きながら、忍は湯気立つお茶を差し出した。
    「おったかいお茶をどうぞ。サーヴァントさんの分もありますよ」
     美味しいお餅に、暖かなお茶は欠かせない。
     受け取り口にした朋萌は、ほっと息を吐き出した。
    「やっぱり美味しいですね、つきたてだからなおさらです」
    「月の兎さんたちのお餅も食べてみたかったですが……」
     仕方ないと首を振りながら、悠花はお餅を口にする。
     自分たちが作ったお餅を。
     兎たちが餅つきしているだろう月を眺めながら。
     優しい夜に抱かれながら……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年9月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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