鋼の咆哮

     夕日が差し込む廃工場は、鉄錆びた臭いが満ちている。
     オレンジ色の光は巨大な得物を手にした少女と、その足元に転がる男を優しく照らし出していた。
     少女は柔らかく微笑む。
    「だって、私は強いもの」
     少女は柔らかく微笑む。
    「だって、あなたは弱いもの」
     少女は柔らかく微笑む。
    「だから、あなたは私に負けたの」
     足元の男は動かない。
     さわりと風が少女の黒髪を揺らした。
     
    「美少女と巨大な武器は浪漫だ――と言った奴がいるが、そりゃただの物騒な奴だよな」
     ぽんぽんとルービックキューブを放って遊びながら、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は集まった灼滅者たちを見回す。
    「余計な話は省くぜ。アンブレイカブルが暴れてやがる。そいつの名前は山城・しぐれ。見た目は華奢な高校生で、長い黒髪のセーラー服美少女だ」
    「戦士はつかないんだな」
    「つかないな。で、得物はばかでっかい鉄骨のバケモンみたいなもんだ。自分がねぐらにしている廃工場に招いては、それを軽々と扱って相手をぶち殺している」
    「軽々とぶち殺しているのか」
    「ぶち殺しているな。ま、最初はそこにたむろしている自称最強の不良グループの噂を聞いて腕試しに向かったが、予想以上に弱かったのと廃工場ってのがいい隠れ家になると思っていついちまったようだ。実際近隣の不良どもが集まっては殴り合いくらいはしていたらしい」
     まぁなんとなく事情は飲み込めた。
    「前述の通り得物は巨大な鉄骨だ。無敵斬艦刀に似た能力を持っている。それから、そいつはストリートファイターと同等の力を有している」
    「つまり、無敵斬艦刀のストファイなんだな」
    「無敵斬艦刀の……なあおい、俺はいつまでこのやり取り続けるんだ」
     いい加減うんざりとしてヤマトが顔をしかめる。
    「相手はアンブレイカブルだ。お前たち全員でかかってようやく勝てるかどうか、ってとこだな。だが必ずしも倒さなきゃならないわけじゃない。相手が満足すれば暴れることはなくなるだろ」
     ふとヤマトは首の辺りをかしかしと掻く。
    「そいつは卑怯なことを嫌うが、それが戦略なら納得する。不意打ちをかけようが集団で襲いかかろうが気にはしない。むしろ、そうまでしないと自分の相手にならないんだと思って喜ぶだろうよ」
     相手からは不意打ちなどは仕掛けてこないということか。
     それに対してフェアに行くか、それとも作戦を練って勝負するか。それは灼滅者たちの判断に任されるだろう。
    「相手がひとりだからって多勢に無勢なんて思うなよ。油断せずにかかってくれ。……お前たちのことを信じていないわけじゃないが、一応な」
     ふっと笑って、ヤマトは灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    藤原・茉葵(朱立葵燈炎・d00730)
    無堂・理央(中学生ストリートファイター・d01858)
    アウレール・フィードラー(Arcadiaholic・d01927)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    天護・総一(唯我独尊の狩人・d03485)
    笙野・響(青闇薄刃・d05985)
    及川・翔子(剣客・d06467)
    紅月・瞳(戦闘狂いの白兎・d09522)

    ■リプレイ


     黄昏色に染められた廃工場は灼滅者たちを優しく誘う。
    「彼女はいないようですね」
     薄く笑みを浮かべた天護・総一(唯我独尊の狩人・d03485)は確かめて言った。
     往時にはどのような営みが行われていたのだろうか。天井や壁ははがれ落ちその用を成さず、錆びついた骨組みが影を落とす床は、不自然に赤とも黒とも取れる色をしている。
    「仕方がないわね。来るまで待ちましょうか」
    「まさかどっかで死体を増やしてんじゃねぇだろうな」
     着物の裾を慣れた仕草でさばきながらの及川・翔子(剣客・d06467)の言葉に一・葉(デッドロック・d02409)が眼鏡の奥の瞳を細めて軽薄に笑った。
     相手はアンブレイカブル。強さを求めるダークネスだ。強者を見つけるために戦いに興じ、その末に犠牲者を出してしまう。
    「どんな形であれ、お姉さんがもう人を傷つけないよう、私たちで終わりにしよう……ね」
     自信なさげに言いながら、考えが甘いかもしれないけどと藤原・茉葵(朱立葵燈炎・d00730)は思う。
     負ければきっと満足してくれるだろう。問題は、負けてくれればだが。
    「やるしかないよ。頑張ろう」
     戦いを前に充分に体をほぐしながら無堂・理央(中学生ストリートファイター・d01858)が不安げな茉葵を励ます。
     アンブレイカブルに家族を殺された理央は、護るために強くなり護るために戦うと誓った。
     今回の相手もまたアンブレイカブル。既に犠牲者を出している相手を許すわけにはいかない。
    「まあ」
     柔らかな声がした。
     いつの間にか現れた、夕日に照らされ穏やかに微笑む少女が灼滅者たちにそっと腰を折る。
     ささやかな仕草にも揺れる黒髪が縁取るその顔は柔らかな笑みをたたえ、華奢な身を包むセーラー服の彼女の手には巨大な鉄骨。
    「いらっしゃいませ。お誘いした覚えはないのだけど……?」
     不思議そうに首を傾げる少女へアウレール・フィードラー(Arcadiaholic・d01927)がぐっと拳を掲げて見せる。
    「アンタが山城だな。アンタをぶっ飛ばしに来た」
    「どうして?」
    「そんなものはアンタが強ェから、で十分だろう?」
     ざりっと音を立てて攻撃態勢を取るアウレールの言葉に彼女はこくりと首をかしげた。
    「他の方もそうなのかしら?」
    「ええ。はじめまして、お嬢さん。挑戦者です」
     彼女のそれとは違う自信に満ちた笑みで総一は名乗り、葉がかけていた眼鏡を胸ポケットへとしまう。
     端に落ちていた廃材に魔力を与え移動手段として用いて浮かび、紅月・瞳(戦闘狂いの白兎・d09522)は少女へ宣言する。
    「戦いたいというならわしらが相手になろう。ぬしの望んだ戦いで灼滅するのじゃ!」
    「最強を求める……武人としてのその気持ちは解るけれど」
     漆黒の髪を掻き上げ、笙野・響(青闇薄刃・d05985)がまっすぐに少女を見据えた。
    「……闇に落ちた時点で心が足りていないわ」
     茉葵がスレイヤーカードを掲げる。
    「リミッター……解除。本気で……戦います」
     音もなく現れた殲術道具を見て、彼女――山城・しぐれは微笑み自らの得物に手をかけた。
     一瞬でぞくりとするような殺気が放出され、灼滅者たちを威圧する。
    「では、いきましょう?」


     翔子が日本刀と解体ナイフを手に斬りかかり響が小刀を振りかざし呪いの毒風を放つも、しぐれが振り上げた鉄骨がそれを容易に防いでしまう。
     総一はビームを放とうとするが、その身に力を宿すことができない。
    「あら?」
     サイキック活性化のミスに彼女は気付いたようだった。総一は舌打ちしサイキックソードから光の刃を放つ。
     攻撃を鉄骨で防いでみせたしぐれは灼滅者へ首をかしげるが、それならそれでと微笑みかける。どうやら不興を買った様子ではなさそうだ。
     しぐれの虚を突き葉が漆黒の弾丸を撃ち込み、彼女は避けるのが遅れ被弾する。
     わずかに眉をひそめたところにWOKシールドの障壁を展開させた理央が拳を叩き込んだ。
    「ぐっ……!」
     ごづん、という鈍い音。しぐれを捉えた拳はすっと構えられた鉄骨をもろに殴ることになり痺れるような痛みが伝わってくる。
     痛い。が、戦うには問題はない。
    「逃がしゃしねェぜ!」
     鮮やかな翠の瞳をまっすぐに向けアウレールが両手に集中させたオーラを放つ。
    「ええ、逃げなどしないわ!」
     しぐれは歓喜の笑みで応え、鉄骨を振るってオーラを受け止めるも完全には防ぎきれない。
     防ぎはするが逃げはしない。だって、逃げたら戦えないもの!
    「何ともすさまじいことじゃのう……」
     戦いに対する執着に気圧されながらも瞳は腕を異形化させて殴りつけるがこれもさらりとかわされてしまう。
     拳に雷をまとわせた茉葵が小柄な体でしぐれの懐に飛び込んだ。
     迅雷の勢いで繰り出されたアッパーカットをぱしりと軽く手で受け止めて、しぐれは彼女を見つめる。
    「私たちは今までの人たちと比べてどう……かな」
    「どうって?」
    「……その、強さ、とか」
     おどおどとした茉葵の問いにアンブレイカブルは、まるで今日の服装のコーディネートを問われたかの如き穏やかさでくすくすと笑う。
    「もしも今までよりも強くなければ、あなたは死ぬのかしら?」
    「!!」
     ごっ。
     巨大な鉄塊が襲う。直撃を受けた少女の体はぐらりと揺れた。
     無敵斬艦刀を支えにかろうじて立つがその衝撃は計り知れない。
    「茉葵さん!」
     庇うように日本刀を振るう翔子のその後ろ、響が少し照れを含んだあまやかな声で癒しの歌を歌う。
    「大丈夫!?」
    「……う」
     優しい旋律が苦痛を和らげ、茉葵はけふと息を吐き何とか姿勢を直した。
     アンブレイカブルはただ強さを求める。相手が強くなければどうするか? 分かりきったことだ。
     茉葵の問いはまったく無粋なものだった。
    「命懸けで戦いなさい。それで死んだらその程度、死ななければその程度ということだわ」
     まだ足元のおぼつかない獲物へ、華奢な少女のアンブレイカブルは笑う。
    「ならばあなたのその命をいただきましょう」
     サイキックソードを構えて総一がしぐれへと斬りかかる。
    「満足させるだけでもいいと言われましたが、少なくとも私はあなたを灼滅する気全開ですよ?」
    「まあ……素敵な申し出ね」
     サイキックエナジーの刃を鉄骨で受け華やかに微笑む。
    「あなたのその自信たっぷりなところ。私は好きよ」
     世界を黄昏色に染める光が彼女の黒髪に踊り、さながら髪飾りのようだ。
     だが、彼女の落ち着いた色とは対照的に派手なフラミンゴピンク色に髪を染めた葉が、風の如き速さでしぐれの死角へ回り込み縛霊手を振りかざす。
     不意のことに避けることも防ぐこともできず、急所を抉られしぐれは鮮血を散らした。
    「よう、あんたしぐれってんだってな」
     ぴっと縛霊手についた血を払い葉が言う。
    「この季節にぴったりの良い名前だな。……降らせる雨が血の雨ってのがおっかねぇが」
    「では攻撃の雨のほうがいいかしら?」
    「そいつも勘弁してほしいね。それに通り雨ってのは、直ぐ降り止むもんだ」
    「まあ」
     血のしたたる傷口に手を当て少女は微笑んだ。ぼたぼたと鮮血がしぐれの手からこぼれ落ちるがその表情も、その声も、まったく変わらず柔らかいものだった。
    「あなたが私を止めるの? それとも、私があなたを止めるの?」
    「ボクたちがあなたを止めるのさ!」
     叫んで理央がシールドバッシュを繰り出す。
     長い三つ編みと豊かな胸を揺らしての一撃をしぐれはその体で受け止めた。
    「それなら止めてみせなさい。あなたが止まる前に」
     どんなに傷ついても、膝を突いても、命が燃え尽きるまで戦えと、そうアンブレイカブルは求めている。
     柔らかな微笑とは正反対に圧倒されそうなほどの殺気と闘志を放ちながら。
    「エラいこと言ってくれるじゃねェか」
     秋に入り気温は涼しくなったというのにアウレールの額に汗がにじむ。
     ともすればくじかれそうな気を奮い立たせて放ったオーラキャノンがしぐれをまっすぐに撃ち、
    「力任せのぬしの攻撃などおそろしくないわ!」
     瞳の招いた刃の風が荒ぶり切り裂く。
     立て続けの攻撃を防ぎきれず傷を増やしながらもしぐれはいっそうに笑みを浮かべた。
    「ならばかかってくるといいわ。恐れずに、さあ!」
    「い、言われなく、ても……!」
     姿勢を直した茉葵が気を引き締めるように小さく叫びガトリングガンを構える。
     激しい炸裂音を上げて叩き込まれる連射をしぐれは鉄骨を振るって防いだ。
    「子供だからって負ける気は……ないから……」
     最前問いを口にした少女ははっきりと彼女への戦意を表した。
     それを称えるようにしぐれが優しく微笑む。
    「そうよ。それでいいの。あなたは私と戦うのでしょう? それなら負けるなんて、弱いなんて考えないで」
     でもね、と鉄骨を地に突き付ける。
    「私は強いの。あなたたちよりずっと。だから私は負けない。負けないのよ!」
     宣言とともにその傷が癒えてゆき、彼女の内にある魂が烈火の如く燃え上がる。
    「然り――我は最強なり!!」
     巨大な得物を手に咆哮するその姿はまさしく戦神。
     灼滅者たちは圧倒されそうになるがそれを振り払いしぐれと対峙する。
    「面白いじゃない。相手が強ければ強いほどワクワクするわ」
     銘もなき日本刀をすいと中段に構えて翔子は不敵に笑うと、緋い着物の裾をさばき重い一撃を振り下ろす。
     しぐれの構える鉄骨が掲げられがづっと鋼同士が火花を散らし、鈍い悲鳴を上げた。
     鉄骨を通じて感じる重厚な感覚にくすりと笑う。
    「相手が強ければより昂ぶるの。あなたたちだって強い相手と戦いたいでしょう?」
    「そうね。でもそれだけでは駄目なのよ」
     闇に堕ちてまで求める強さなど何になるだろう?
     響は応え小刀から毒風の嵐を放つが、振るわれた鉄骨の勢いに散らされてしまった。
     地を蹴り総一がしぐれへ光刃を振り抜くと、しぐれが構える得物をすり抜け触れられるほどにまで近付き、一息に少女を貫く。
    「んっ……」
     じわりとセーラー服に赤がにじみ、しぐれの唇から初めて苦鳴がこぼれた。
     にぃと総一の口元が揚々と吊り上がる。
    「言ったでしょう、私はあなたを灼滅する気だと」
    「……ええ。でもまだ」
     とんと総一の肩を叩いてしぐれは距離を取る。その口端から伝う紅い雫をぬぐった。
    「今のはちょっと痛かったわ」
     笑ったのは強がりではなさそうだ。決して軽くはないダメージを負ってはいるが、それでも致命傷ではないのだろう。その証拠に鉄骨を持つ手は震えることもなく、その表情は苦痛に歪むこともなかった。
    「一撃ぶち込まれても『ちょっと』かい。とんでもねぇな」
     苦笑しながら葉が撃ち出した漆黒の弾丸を彼女は得物をすいと動かし軽々と弾く。先ほどのダメージなどまったく感じられない軽快な動きだった。
     その懐へ流れるように滑り込んだ理央の裏拳がその脇を撃つ。かふっ、と息が吐き出された。
     苛立ちを含んだ視線を理央へ向け、べったりと血を含んだ長い黒髪を払いアンブレイカブルは嬉しそうに笑う。
    「少しも傷つかない戦いなんてつまらないわ!」
    「んじゃしっかり受け止めろ、よッ!」
     裂帛の声を上げ、鋼に匹敵するまでに鍛えられた拳を叩きつける。
     アウレールの渾身の一撃を受けたのは鋼と狂気じみた笑み。
     そして少女のアンブレイカブルに叩きつけられたのもまた鋼だった。
    「わしらはおぬしの懐に踏み込んでおるぞ。どうじゃ?」
     無敵斬艦刀を叩きつけた姿勢のまま瞳がしぐれへ問うと、彼女は血に濡れた顔で首をかしげた。
    「それがどうかしたかしら?」
    「おぬし、自分の領域に踏み込まれてなんとも思わんのか?」
     瞳が飛行手段として用いている廃材は、このアンブレイカブルがねぐらとする廃工場のものだ。
     自分の世界を侵されて何らかの思いはあるかと考えていたが、しぐれにとってそれは瑣末なことですらない。
    「ここはただ便利だから使っているだけだわ。都合がよければ別にどこでもいいのよ。……それよりも」
     ぱちぱちとまばたきをする。
    「あなたはそこから降りてこないつもりかしら?」
    「ぬっ……」
    「残念だわ」
     視線を逸らし鉄骨を彼女目がけて振り下ろす。彼女の問いに迷っていた瞳は、それをまともに受けてしまう。
     否、
    「馬鹿野郎! ……がッ!!」
     瞳を庇いその攻撃を受けたのはアウレールだった。
    「っく、流石に重てェ……が、俺を倒すには足りねーなァ!」
     決して軽くない打撃に血を吐きながらもアウレールはファイティングポーズを崩さない。
     その闘志にアンブレイカブルは笑みを浮かべ、そして翔子が突き出した刃に膝を突いた。


    「素敵だわ」
     全身を血に染め、少女は笑う。
     まだ戦うのか――身構える灼滅者たちに、しかしアンブレイカブルは首を振る。
    「とっても素敵。私が膝を突くなんて」
    「では……?」
    「私の負けね。……今は」
     柔らかな笑みなのに、血に濡れたその顔は凄絶だった。
    「あなた、私を灼滅すると言ったわね。それは次の機会までお預けね」
     手の甲で血をぬぐって声をかける。向けられた総一は笑みで返した。
    「いいでしょう、今回はここまでにしてあげます。ですから今度会う時までにもっと精進なさい」
     すっと自分の胸に手を当てる。
    「私も、今度はあなたを灼滅できるぐらいまで鍛えてきますから」
    「楽しみだわ」
    「あの、お姉さん……」
     おどおどと声をかける茉葵にしぐれは首をかしげた。
    「本当に……もうやめるって約束してくれる?」
    「今はね」
    「じゃあ……お姉さんは本当に……人を傷つけることが楽しい、の……?」
     恐る恐るの問いに首を振る。
    「私はただ、強い相手を望むだけよ」
    「その結果が傷付けることになっても、ってェことか」
     アウレールが溜息をつく。それで死なせてりゃ世話ねぇぜ、と葉も呟いた。
     鉄骨を軽々と手に、優雅に腰を折ってアンブレイカブルは笑う。
    「今はさようなら。またいつか戦いましょう。私を満足させてくれた、素敵な方々」
     灼滅者たちへひらりと背を向け、崩れ落ちた壁の一点から廃工場を後にする。
     去った後を真摯な表情で見つめるアウレールの肩を叩き、瞳がにこりと微笑む。
    「さきほどはありがとうの。助かったわ」
    「あァ? ……ん、まァな」
     どこか照れて曖昧に応えるアウレールにくすりとし、ふと理央は考える。
     灼滅者であっても闇に堕ちダークネスとなる。もしもそこから戻ることができなければ……?
     そら寒い想像に顔をしかめた。
    「さて、帰りましょ。もうすっかり暗くなっちゃったわ」
     翔子の言葉に一同はようやく時刻に気付く。
     秋の時間は駆け足だ。世界を黄昏色に染めていた夕日はもう沈みかけ、次第に夜が訪れようとしていた。
    「真っ暗になる前に帰らないとね」
     んー、と背伸びをして響も頷く。
     誰からともなく出口へ足を向け、残された廃工場にはただ沈黙が落ちる。
     灼滅者たちの戦いの跡は、ただ彼らの心の中に残されていた。

    作者:鈴木リョウジ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年11月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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