修学旅行2016～青く澄みきる竜宮城

■リプレイ

●sunlight & Blue
　澄み渡る青を背景に泳ぐ、彩り豊かな魚たち。
　呼吸すら忘れる程に見惚れた結衣奈は、思わず「綺麗だね～」と口を動かすけれど……こぽり、声にならず零れる泡に苦笑して。
　手を繋ぎ共に寄り添う明彦と、互いの背中に指で文字をなぞり、想いを伝え合う。
　魚たちとも仲良くなれた。折角だからそろそろ記念の写真を、と二人が思った所で通りかかったのは花深だ。
『写真をお願いします！』と書いたボードを結衣奈が見せると、サムズアップして快くカメラマンを担った。
　シュノーケルを取れば、笑顔もはっきり写ることだろう。
　餌で魚たちを呼び寄せ、二人で戯れる――その瞬間を、カメラがすかさず写真に収める。
　そして結衣奈がぎゅっと明彦へ抱きつき、『青色の竜宮城にて！』と大きく書かれたボードを掲げて。
　――シャッター音が鳴り響く。
　青の海に咲き広がるのは、二人の楽しげな笑顔。

「この格好だと翡翠さんのボディラインもくっきり見れていいですねぇ♪」
「どこを見て何の感想をー！？」
　翡翠のウェットスーツ姿を舐めるようにじっくり目で堪能し、りんごはにっこり微笑んで。
　そんなりんごの一言に、翡翠は顔を真っ赤に染め上げる。怒ろうとするものの――花園の姫君はさらりとかわして翡翠の手を引き、二人で一緒に海の中へ。
　混じり気のない青い海面に心奪われていた翡翠は、いつの間にか海に潜っていることに気づき目をぱちくり。
　周囲には、蒔いた餌につられてやってきた沢山の魚たち。そして、パシャッパシャッとシャッター音が海中に響く。
　手にしたカメラでりんごが撮り収めるのは、青の洞窟の風景、海を泳ぐ魚たち、そして翡翠の魅惑的なわがままボディライン……。
「ふぇ……な……なんでー！？」
　私ばかり撮らないで一緒に写りましょう！　と翡翠が誘えば、肩を組み仲良くシャッターを押して。
「花園の乙姫様と一緒に写れました♪」
「乙姫なら翡翠さんの方だと思いますけどね？」　
　麗しき二人の乙姫は互いに笑い合う。最後の一枚は、洞窟を背景にして――。

「シュノーケリングだって！　素潜りと何が違……」
　シュノーケルやマスクなどの道具を手に取り見つめ、心愛は「違ったね！」と笑って改めて装着。
　さあ、準備ができたなら。まばゆい朝の日差しを帯びる、涼やかな青の中へ――。
「みなさーん、準備は出来やしたか？　忘れ物はないっすね。それじゃ、ダイブするっすよ」
　部長たるギィの声を合図に、【天剣絶刀】の面々は海へ潜り込む。
　見渡す限りの広大な青に、紫桜里は瞳を大きく瞬かせる。
「真っ青で神秘的ですね。本当に竜宮城にいるみたい……」
　感嘆の溜息を吐けば、小さな泡がこぽりと零れた。
　洞窟へと近づくにつれ、海中はその彩りをさらに増してゆく。
（「この海、オレと同じ色してる。綺麗だなー」）
　何処までも果ての見えない青を目の当たりにし、翔は親近感を覚えた。
　するとその時、こちらへ向かってくる無数の小さな影たちが見えた。
　その正体は、色とりどりの熱帯魚たち。仲睦まじく群がり、訪問者たちを温かく出迎える。
「わあ……！　魚が沢山いるね、さすが海！」
　きょろきょろと、心愛が忙しなく海の中を見渡す。
　魚の名前は分からないけれど、数多くの魚たちが舞い泳ぐ様は圧倒される。
「それじゃ、餌を撒きやしょう」
　ギィの一声で、皆は各々配られた餌を魚たちに与え始めた。熱帯魚はそれぞれ喜び、彼らの元へ擦り寄ってくる。
　紫桜里が餌を掬って差し出せば、一匹の魚がちょんちょんと啄む。
（「こうしてると、熱帯魚を飼いたくなっちゃいます」）
　掌が少しくすぐったいけれど、魚の姿に愛おしさを覚えた。
　ひとしきり魚たちと戯れ、皆は洞窟の奥へと泳ぐ。
　翔の視界いっぱいに広がる海の青――それは己に棲まう『蒼』の力とは似て非なるもの。
　デモノイドの蒼は人を傷付けるものだが、この海の色は人を癒やす『青』なのだと想う。
（「今度は兄ちゃんとか家族皆と一緒に来たいな」）
　そう願いながら、海中へ向けてシャッターを切る。
　――記念の水中写真は、今日という日を永遠に残すもの。

　ゆらゆら、水の中を揺蕩うようにゆるやかに泳ぐのは『吉祥寺キャンパス中学２年I組』の三人だ。
　朝陽が差し込む洞窟の中へと辿り着けば、三人は海面から浮き上がって。
「わふっ！！」
　光溢れる洞窟と青い海の景色に惚れ惚れし、ガルは顔を出すや否や活き活きと一吠え。
　２本の尻尾を隠していなければ、きっと大きく振り続けていたことだろう。
「……すごい、景色……です」
　寡黙なリヴィアも圧倒され、想いを漏らす。その神秘的な光景は、眠気も瞬く間に醒めてしまうほど。
　保もまた、「……わぁ」と小さな感嘆の声を零した。両手で掬えば、海水そのものが青色かと錯覚してしまいそうになる。
「光が透き通って、青に包まれてるみたい……ボクも、青に染まってる？」
　嬉しそうに二人へ訊ねれば、ガルもリヴィアも微笑み返す。
　それからも、皆で洞窟を探検すべく奥へ奥へと泳ぎ始める。
　保は岩壁を伝い、隙間から漏れ出す仄かな光を探して。潜ってみれば、青い空間に真っ白な砂の底。
（「底は、真っ白な砂やねぇ……お魚さんの群れが、きらきらしてるよ」）
「わうー！　保、リヴィア、あそことっても綺麗、だよ！」
　ガルが一層目を輝かせ、気に入った場所を見つけると二人の手を引いてゆく。
　ひとしきり探検を楽しんだところで、最後は三人での記念撮影。
　仄かな微笑を浮かべ、リヴィアはカメラのレンズをじっと見つめる。
　くまーがいないのは残念だけれど――この体験も、クラスメイトとの大事な思い出。

　初めてのシュノーケリング。
　沖縄へ来たのだから、やっぱり海に潜りたいと悠花は楽しみに待ち望んでいた。
　写真で目にするような美しい景色。日差しが海の青をより濃く照らし出す、朝や昼が理想だろう。
　防水仕様のカメラを持参し、準備は万端。
　照りつける太陽の下、悠花は記念の写真を撮るべく、いざ、青の洞窟へ――。
　この日の為にとシュノーケリングの器材とウェットスーツを店で借り、遥はさっそく海の中へと潜ってゆく。
　色鮮やかな珊瑚に目を奪われ、視界のあちらこちらには楽しげに泳ぎまわる熱帯魚たちが。
　真昼の海は何より青が映えて見えて、沖縄の海を心ゆくまで堪能することができた。

「最後の修学旅行ってのも、ちと寂しいもんだな」
　教育学部の級友たる青年へ、御伽は静かにそう想いを紡いだ。
　最初で最後に花深と来れて良かった。そう率直に告げられて照れ臭くも、「そいつは光栄だぜ」と御伽へ親しげに微笑み返す。
　行こうぜ、と声を掛けたのちに海の中へと身を湛ませる。
　洞窟の青は噂に違わぬ鮮やかな彩を成し、それと共に静謐に満ちていて――静かな泡となだらかな波の音が支配する。
　漏れ出す美しい光は、洞窟の割れ目からか。

　――世界がこんなに綺麗なら、俺はずっと見ていてぇ。

　毀れた言葉は、泡と共に掻き消えた。
　決して届かなくとも、御伽は遠い光へめがけて腕を伸ばす。　
　彼が見つけた魚と戯れていた花深も、己の無力さを感じ眸を伏せた。学園の行く末は、何者も見通せはしないからこそ。
　嗚呼せめて今だけは、青い世界に微かな感傷を隠して。


「あのとき榛名さんに泳ぎ方を教えてもらって、もうバッチリなのです。水なんて、怖くないのですよ」
　目の前に広がる海を見て、ぴく、と些か震えながらも、志途はそう強がってみせた。
　そんな彼女の様子を見やり、玲は茜色の瞳を穏やかに細めると同時に、夜のプールでの出来事を想い返す。
　あの時とは違い、今は朝。それにプール以上に広大な海での遊泳になるけれど――。
「二人とも、練習が実る時なのです。思いっきり楽しみましょう！」
　朝陽に照らされ煌めく海のように、瞳をかがやかせ榛名は活き活きと二人へ声を掛ける。
　折角の修学旅行。こんな時だからこそ、はしゃぎ過ぎるくらいが丁度いい。
　三人揃って海の中へと潜り込み、珊瑚のもとへ。
（「素敵な場所ですね……なんだか現実ではない様な、不思議な感覚です」）
　クマノミがそっと珊瑚の隙間からひょっこり顔出した。
　榛名が志途の肩にそっと触れ、クマノミを指し示す。
　青の海に映える、鮮やかな赤。美しくも小さくて可愛いと思いほっこりし、志途たちが餌をあげようとすると――、
「たた、沢山来たのです！？」
「コラもやし！　ど、どどどーにかするのです！」
　もやし――もとい、玲は二人の様子を見守りつつも、困ったように微笑んで。
　彼の機転でなんとか魚たちを分散させ、青の海を背景に記念撮影。
　瞬く間に過ぎゆく楽しい時間に、志途も満足げに笑みを綻ばせる。
　三人で写真に写るため。もやしが逃げないように、と彼女はカメラを持つ玲の腕をしっかり掴んだ。
　仲良しで羨ましい限りなのです、とほんわり和む榛名に対し、玲もまたゆるやかな微笑みを返して。
「蓬野さんも仲良しの一員ですから、ね？　志途さん」

　生まれたばかりのまばゆい朝焼けを帯びて、澄み渡る青は遥か彼方の空のよう。
「水面近くも良いけれど、底からの景色も別格だと思わない？」
　翠葉の娘を誘うように笑みを湛える成海の眸は、果てなく吸い込まれそうな海の色に似ていて。
　もう地上へ戻れなくなって終いそう――イコは微笑み返す。海の女神さまのいざないは、乙姫の美貌が霞んでしまうほど尊いもの。
　息をひそめて、深く、深く。ともに海の底へと。
　ゴーグル越しから望む海面は、ゆらめくカーテンか。はたまたオーロラの如き光のヴェールか。
　心震わすほどの美しさ。顔を見交わすだけで、想いは同じだと通じ合って。
　ふわり、イソギンチャクから顔を覗かすクマノミを見留める成海。
　朝ご飯の時間だったかしら？　水面へ泳ぎ、ぱらり餌を撒く。一匹、二匹……無数に訪れる小さな魚たち。
　まるで竜宮城からのお出迎えのよう。
　イコの銀眸が星のように瞬く。朝陽よりも鮮やかな青よりも、ひときわ煌めく笑顔と共に。
（「ふふ、やっぱり成海先輩は、女神さまだわ」）
　――鮮やかな鱗のドレスを纏っているよう。
　成海の手にしたカメラが、小さなシャッター音を響かせた。

●Midnight Blue
　幻想の洞は、夜の帳がおろされてもなお光を湛え続ける。
　ライトを消し、夜光虫の輝きを頼りに海の中へその身を沈めるのはアルコと紫鳥だ。
　紫鳥が手を引き、瞬く星々のような光をひとつひとつ指で指し示していく。
　まるで、星空の中を廻るよう。
（「――素敵だな」）
　思わず、アルコはぽつりと言葉を漏らしそうになるものの、声は海の中で聞こえる筈もなく。
　けれど代わりに、繋いだ手を強く握り返した。己の想いを視線で目配せすると、彼女にも通じた様子。
　静謐なひとときを、こうして二人で過ごすことが出来る。
　この光景を写真に収めることすら忘れそうになるほど、夢中になる紫鳥。
（「息の続く限り、この星空を眺めていたいな」）
　ぼんやり見渡す彼女の後ろから、存在を確かめるようにそっと優しく包み込むのは。
　――夜の海の寂しさを溶かす、アルコの温かな腕。

「よろしければ、一緒に探検してくださらない？」
　楚々とした声音でルージュは青年へ誘いをかける。
　トロピカルビーチ以来だっけか、と懐かしげに微笑む花深。夜光虫たちの光が飾る海の中へ、そっとふたりで潜り込んで。
　不思議な光景を間近に見て、ルージュが想い出すのは故郷の星空だ。
　光だけの世界か、あるいは銀河の中か――流れ星のダンスのようだと紡げば、
「綺麗な喩えだな……ルージュ、詩人になれそうだ」
「ふふ、私は美術学部よ。今の気持ちを絵に描いてみたいわ。――花深さんは、大学で何を学んでいるのかしら？」
　きらめく星々の中。会話が弾み、楽しい時間は思い出へとなって。

　シュノーケルの準備を終え、玉緒は夜の海の中へとその身を沈める。
　敢えて、ライトは灯さずに。無数の夜光虫たちが彩なす光が、この幻想的な風景を創りだすから。
　海というより、まるで宇宙遊泳。夜の静謐さがまた一段と、心に滲む疲れを洗い流してくれる。
　重力に逆らい、飛ぶように泳ぐ感覚はなんとも心地良い。そっと、玉緒は目を伏せた。
（「今だけは……今だけはダークネスとか、灼滅者とか、色々なしがらみを忘れましょう」）
　幻想の風景に心癒され、明日へと生きる活力となるからこそ。

（「……流石に時間が危うかったな」）
　真栄田岬へ到着と同時、純也は腕時計を確認する。
　西表島で星砂採取を終え、なんとか夜の準備には十分に間に合った。
　借り受けた器具は一式装備し、夜光虫が多く棲まう海域へ着いたのち、純也は水中ライトを消灯した。
　夜の青に包まれた海の中。淡い輝きを放つ夜光虫たち。
　腕を動かし、指でうち一匹を軽く弾いたりなど、夜光虫を観察し始める。
　発光の違いも注意深く見やり、淡々と、純也は新たな発見を探しつづけた。

「なるほど、これは確かに――優美ですわねぇ」
　その美しさにうっとり見惚れて、ルウは紫の瞳をすっと細める。
「本当に綺麗ですね」
　冷都がそっと夜光虫ごと海水を掬えば、両の掌に小さな宇宙が生まれた。
　呑み込まれてしまいそうな程の幻想的な世界。けれどはぐれてしまわぬよう、冷都はルウの傍に居て。
　時折、ルウがとんとんと彼の肩を軽く叩き、美しい洞窟の姿を見つけてはジェスチャーで示して。
　逆にお返しのため、冷都もまた新たな光景を探してゆく。
　共に過ごす時間は瞬く間に過ぎてゆく――。
　楽しく、美しく。一生の思い出になるような素敵なひとときが。

　手にした水中ライトで海を照らし出せば、浮かび上がる無数の魚たちは豊かな色彩に溢れていて。
（「ほわー、熱帯魚さんがいっぱいです」）
　りねの瞳いっぱいに映るのは、想像以上の『きらきら』に満ちた夜の海。
　――るりかおねえさん、お魚さんは食べられないですよ？
　きょと、とそのまま視線をるりかへ向けて、にっこり笑みを咲かせる。
　そんな彼女へ「流石に美味しそうとかは思ってないよ、うん」と云うように、るりかは笑顔を返して。
　カメラを取り出し、水中で記念撮影。お魚を呼び寄せて楽しげに遊ぶりねの姿。
　そしてりねからのお願いで、互いにくっついて仲良く２ショット！
　さあ、たくさん写真として収めたなら。
（「夜だけの楽しみもバッチリ堪能しなきゃね」）
　そう最後は敢えて明かりを落として――。
　無数の夜光虫の輝きを眺め、二人は楽しい想い出をゆっくりと反芻する。
　また遊びに行きたい――それは偶然か、幻想の洞の導きか。二人の想いは一つだった。

作者：貴志まほろば	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2016年9月15日 難度：簡単 参加：28人 結果：成功！
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