ガイオウガの意志~炎獣は再び山頂を目指して

    作者:海乃もずく

    ●ガイオウガの最終意思――敵対か、協調か
     木陰で揺れるオレンジレッドの尻尾が、教室の窓から見える。
     ひょこひょこ動く尻尾から視線を転じ、天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は、教室に集まった灼滅者達をベッドの前へと手招いた。
    「今回はね、ガイオウガの説得に行くイフリートの護衛をお願いしたいんだよ」
     ガイオウガと武蔵坂学園の関わりは長い。直近では臨海学校。そしてソロモンの大悪魔、フルカスとの戦い。
    「今年の臨海学校は、別府湾に散らばるガイオウガの力の塊の回収だったんだけど。そもそもガイオウガの力が散らばったのは、ソロモンの大悪魔・フルカスの儀式によるものだったんだよ」
     30名の灼滅者がフルカスに戦いを挑み、灼滅を果たしたことは記憶に新しい。
    「フルカスの最期の言葉から、現在のガイオウガについてわかったことがあるの。ガイオウガの意志は、今、灼滅者と敵対するか、協調するかの瀬戸際だって」
     ガイオウガの意志は、一時は敵対で統一されかけていた。しかし臨海学校の件もあり、協調を望む意志も強まっている。しかし、イフリートと敵対してきた事例も多く、このままでは灼滅者と敵対するという意志で統一されるだろうと、カノンは言う。
    「それでね、この件について、学園で保護していたイフリート達が――」
     そこまでカノンが話した時に、窓際から声がした。
    「カノン、待ツ、飽キタ。俺モ、話ス」
     学園が保護したイフリートの一匹――エンジュが、窓から教室内へと、するりと飛び込んできた。
     
    「俺、ガイオウガ、説得スル」
     カーテンの影に半身を潜めたまま話すエンジュ。ヒョウに似たシルエットが、カーテン越しにほんのり光る。
    「ムサシ坂、美味シイ物、教エテクレル。トモダチ、多イ、楽シイ。ミンナ、一緒、飯食ウ、ウレシイ」
     エンジュは、自分にかけられた言葉を思い出しながら話しているように見える。
    「俺タチ、ムサシ坂、ワカリアウ、デキル。俺、ムサシ坂、トモダチ。ガイオウガモ、トモダチ、ナル」
     その説得スタイルは理論や損得に乏しく、主として相手の情感に訴えるもので。
    「倒サレタ、同胞、イル。ソレデモ、ワカリアウ、デキル……。……アー……」
     ――しばしの沈黙の後、エンジュの声に困惑が混じる。
    「殺シ合ッテ、同胞、タクサン、灼滅サレタ。……俺タチ、ソレデモ、トモダチ、ナレル?」
     もっと考えてみる、と座り込んで首をひねるエンジュ。
     カノンが灼滅者達へと向き直り、説明の続きを引き取った。
    「エンジュくんの説得、今のままだと、心もとないかも。説得の方針はこのままでも、もっと効果的な言い方とかを教えてあげられたら、いいんじゃないかな」
     

     あともう一つ、とカノンは説明を続ける。
    「みんなには、襲撃側の敵対派イフリートから、エンジュくんを護衛してほしいの」
     というのは、エンジュが鶴見岳でガイオウガに意志を伝えようとすると、灼滅者との敵対を強く望む意志がガイオウガ本体から分離し、イフリート化して襲ってくるからだという。
     襲ってくるイフリートの数は2体と多くはないが、ガイオウガに意志を伝えている最中に攻撃を受ければ、エンジュは耐えきれないだろう。
    「エンジュが意志を伝え終わるまで護衛を続けるか、敵対するイフリートを灼滅してしまうか。どちらにするかは、任せるよ」
     意思を伝え終われば妨害の理由はなくなるので、襲撃側のイフリートは、再びガイオウガと合体して姿を消す。
     意思を伝え終わるまでは、約30分。
    「護衛するなら、かなりの長期戦になるね。説得の仕方を教えてあげることで、意思を伝え終わるまでの時間を短くできるかもしれないよ」
     襲撃してくる2体のイフリートは、大型犬をさらに倍のサイズにしたような姿をしているという。ポジションはスナイパーとクラッシャー、どちらもファイアブラッドと護符揃え相当のサイキックを使うという。
    「敵対するイフリートは、灼滅者との協調を強く否定する意思を持っているの。だから、返り討ちにして灼滅すれば、その強い敵意をガイオウガの意思から消せるよ」
     ただ、灼滅者がイフリートを灼滅すれば、ガイオウガ本体の意思は、その光景を目にすることになる。その結果、ガイオウガ本体の意思が、灼滅者と敵対する方向に傾くかもしれない。灼滅するにしても、戦い方が鍵となるだろう。
    「サイキック・リベレイターの影響で、もうじきガイオウガは復活するよ。それまでに、わたし達にできることをしていきたいね」


    参加者
    日向・和志(コメディ限定フェニックス・d01496)
    冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)
    法螺・筑音(流転せし蛇乃環・d15078)
    深海・水花(鮮血の使徒・d20595)
    久瀬・雛菊(蒼穹のシーアクオン・d21285)
    富士川・見桜(響き渡る声・d31550)
    加持・陽司(炎の思春期・d36254)
    庭井・大河(二代目大依羅の朱雀・d36701)

    ■リプレイ

    ●鶴見岳のふもとで
     熱気が強まる鶴見岳。山頂では溶岩が噴出し、吹き下ろす熱波がエネルギーの高まりを伝えてくる。
    「それじゃ、エンジュくん。もう一回、最初からまとめるんよ」
     久瀬・雛菊(蒼穹のシーアクオン・d21285)は白板に絵を書きながら、エンジュの言いたいことを聞き取り、わかりやすくまとめていく。
    「コンガラカッテキタ。話ス、難シイ」
     鼻の上にしわを寄せ、ヒョウに似たイフリート、エンジュはがりがりと地面をかく。
    「言葉には力があるんだ。エンジュくんの気持ちや思いをたくさん込められる言葉は、きっとあるはずだよ。だから、その言葉を一緒に探そう」
     私も一緒に悩んであげるから、と富士川・見桜(響き渡る声・d31550)がエンジュに寄り添う。
     その様子を、庭井・大河(二代目大依羅の朱雀・d36701)は、感慨深げに見ていた。
    (「イフリートにも、私達を理解してくれる人がいる……灼滅者とダークネスは相成れないわけじゃないって事ですよね。それが例え宿敵でも……」)
    「おーい、皆さん方。もうそろそろ行かねえと出遅れるぜ」
     日向・和志(コメディ限定フェニックス・d01496)の声にも気づかず、一心に白板を見入るエンジュ。
    (「護衛なんて滅多にない依頼だからな。いつもと勝手が違うから気ぃ引き締めないとな」)
     和志達の目的は、エンジュの護衛とサポート。学園に身を落ち着けていたイフリート達が、ガイオウガを説得するために山頂を目指す。
    「エンジュ、友達の輪って知ってるか?」
     思考の糸口になればと、法螺・筑音(流転せし蛇乃環・d15078)が口を開く。
    「友達ってのは、ダチのダチからダチに変わってくもんなんだろうよ。そうやって、輪のように繋がってく……」
     筑音の言葉に、冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)が頷いた。
    「エンジュ、俺はお前がツクの友達だから、手助けしたいと思ったんだ。『友達の友達』を信じたい気持ちは、きっとガイオウガにもあるさ」
     だから、灼滅者を信じるエンジュ自身の気持ちを、ガイオウガに話せばいいと、翼は続けた。
    「俺ノ、気持チ、伝エル。友達ナッタ、コト……」
     考え込むエンジュを見守る深海・水花(鮮血の使徒・d20595)の瞳には、物思わしげな色がある。
     加持・陽司(炎の思春期・d36254)の気遣わしげな視線に気づき、水花は呟くように自身の考えを口にする。
    「……本当は、エンジュさんには、安全な所に居て欲しいんです。でも、エンジュさんの意思は大事にしたいから」
     水花の気持ちに共感する部分を感じつつも、陽司は勤めて明るく答えた。
    「これが終わったら、みんなで美味いもんでも食べに行きましょう。エンジュが何を食べたいか、自分が聞いておきますよ!」
     その言葉が事実になるようにと、他ならぬ陽司自身が、強く心に願っている。

    ●ガイオウガの意志
     鶴見岳の火口は、溶岩の海が轟音を立てて渦巻いていた。
    「ガイオウガ……一体どんな存在かと思っていましたが、想像以上です」
     大きな渦と、小さな渦と、それ以外の溶岩の激しい流れ。大河の目には、大きな溶岩の渦が、小さな渦を呑み込んでいるように見えた。
    「ツク、どう思う?」
    「ああ、悠長にしていられねえな。これがサイキック・リベレイターの効果ってやつなのか……」
     膨大なエネルギーを目の当たりにして、翼と筑音が視線を交わす。この様子では、ガイオウガの復活は早いのかもしれない。
     大きな渦の一つが、激しく噴き上がる。奔流の中から飛び出す、敵意の炎塊。2体のイフリートは、大型犬を更に大きくしたような姿をしていた。
    「モウ、ガイオウガ、説得、届ク」
     低く身構えるエンジュの腕には、赤い鉢巻きがたなびく。
     ――お互いに傷つけ合う関係は、もう終わりにしましょう――
     そう願いを込め、水花が巻いた鉢巻き。赤い地には、笑顔のエンジュと、水花たち灼滅者の絵が描かれている。
     エンジュが吼える。小さな渦たちが勢いを得たように動き出した。それを打ち消さんとばかりにエンジュへと突進する、2体のイフリート。
     エンジュの説得と、灼滅者の戦闘が、同時に始まる。
    「援護は任せな、存分に暴れてこい、翼」
    「サンキュな! さぁて、暴れさせてもらおうか!」
     筑音が掲げるロウソクの黒煙が、翼の力を強化する。筑音という心強い鞘の存在があるから、翼は剣として、一切の迷いなく前へ進める。
    「ツクが助けたい相手なら、俺にとっても助けたい相手だからな!」
     翼の光線弾を受けながらも、敵イフリートは濁流のような炎を広範囲に展開。
     エンジュを焦がす炎を、陽司のダイダロスベルトが吹き散らし、熱炎の流れを遮断した。ライドキャリバーのキツネユリが機銃掃射で牽制する。
    「エンジュ!」
     エンジュ自身の気持ちを後押しできるようにと、陽司は力強く声をかける。
    「俺たち……今、こうして友達になれてるだろ? だから、ガイオウガとも友達になれるさ!」
     エンジュが頷き、瞳が力強さを増す。説得を邪魔しようとするイフリートの前に、和志が割り込んた。炎の漏れる鋭い牙と、和志の交通標識がぶつかり合う。
    「エンジュ、お前が思ったこと、感じた事をそのままガイオウガにぶつければいい。他のことは俺たちに任せろ。何とかするさ」
     力強く交通標識を青く閃かせる和志へと、注意を向けるイフリート。そこにアナゴのシルエットが二重、三重に巻き付いていく。
    「まずは動きをとめるんよ!」
     ご当地ヒーロー・シーアクオンに変身した雛菊の足もとでは、火明かりを受けた影が、波のようにうねる。海産物をかたどる影の中から、アナゴの影が伸び上がっていた。
     ウイングキャットのイカスミも、イフリートの背に飛びつき、肉球を叩きつける。
     後方に下がるイフリートが放つ業炎は、水花が受けとめる。水花の体は、帯の鎧で覆われていた。援護が間に合ったと、大河はほっと息をつく。
    (「入学して初めてのお仕事が、かなりの大役を任されることになりましたね……」)
     大河は気を引き締め、援護と状態異常の付与を目指す。
     炎と刃が彩る戦場を、見桜の歌声が響き渡る。仲間の傷を癒し、防御と護衛に徹する戦いを、より長く続けるために。
    「私は、ガイオウガとも友達になりたいんだ。死ぬ気でがんばるよ!!」
     エンジュや、他のイフリート達とも友達なれた。彼らの気持ちに絶対に応えたい。
     想いを抱きしめ、見桜は歌う。祈るように、慈しむように、優しい歌を紡ぎ続ける。

    ●護衛
     疲弊が重なる長期戦。
     エンジュが説得を重ねる中、どちらの渦にも加わっていなかった溶岩流が、小さな渦へと合流していく。
     その意味をおぼろげに感じながら、陽司は前線へと癒しの矢を飛ばしていく。
    「俺はッ! お前らともダチになりてぇんだよ! だから、ちょっと位話を聞きやがれ!」
     雛菊はバスターライフルを構え、照準を合わせる。思い出すのは、以前に出会ったダークネスの彼のこと。
    「エンジュくんを彼の二の舞にしてたまるかっ! 助けられなかった彼の分も、守ってみせるんよ!」
     大口径のライフルから、白く輝く魔法光線が射出される。魔力の衝撃が、イフリートの胴に大穴を開ける。
    「全力でいくぜ!」
     翼の跳び蹴りが、イフリートの動きに制限を加えていく。がんじがらめの状態異常。
    「ムサシ坂モ、考エ、タクサン。デモ、仲良クシタイ者、多イ」
     エンジュの説得がとぎれとぎれに聞こえる。和志は回復専念への切りかえ時をはかりながら、赤色標識で相手の眉間を殴りつけ、関心を引きつける。
    「俺を全力攻撃で倒さなきゃ、エンジュには指一本触れないぜ?」
     イフリート達の注意は、ほぼ和志へと集中している。炎の流れが和志を巻き込み、それだけではおさまらず、前衛をひとまとめに焼き尽くそうとする。
     敵イフリート達の傷口から漏れる弱々しい炎が、血のように流れ、地面に触れる前に消えていく。
    「誰一人だって倒れさせないよ」
     満身創痍のイフリートへ、見桜は回復の歌を届けようとする。
     ――けれど、見桜の向けた回復は、イフリート達からは拒まれてしまう。
     同じ頃にイフリートを回復させようとしていた水花も、見桜と同じ結果に直面していた。
    「敵対している私達からの癒やしは、受け入れてもらえないんですね」
     ガンナイフで攻撃を受けとめながら、水花は表情を曇らせる。
    「……戦イ、終ワル、仲直リ。大事ナノハ、将来ノコト……」
     エンジュの必死の説得が、燃え盛る炎の向こうから聞こえる。
    「今のエンジュさんの言葉、私の助言ですね。役に立ったかは分りませんが」
     大河はしばらく前から、殺傷力のサイキックは使わず、加減をしながら交通標識をふるっている。
     それでも弱ったイフリートにはかなりの痛手らしく、一匹が転倒する。しばらく動かなかったが、再び立ち上がる。それは、灼滅者でいえば凌駕に似た状態に近い。
     イフリートの炎流は、初撃と比べると見る影もない。霊犬の加是が炎の壁を斬り裂いて駆け抜け、斬魔刀で斬りつけた。
     鋭い爪を振り下ろすイフリートへと、翼は鋼鉄拳を叩き込む。超硬度の拳はイフリートの顎を砕き、灼滅の決定打となった。はらりと火の粉が舞う。
     護衛を目的として戦う中での、結果的な灼滅。
     前後して、もう一体のイフリートも灼滅され――その瞬間、溶岩の状況が一変した。
    「大きな渦のほうに、流れが逆流してねーか?」
     筑音の指摘どおり、どちらの渦にも加わっていなかった流れが、急速に大きな渦へと合流し、大きな渦が勢いを得ていた。
     しばらく後、溶岩の様子を見守っていた雛菊が、緊張を解いて振り返る。
    「もう大丈夫かな。流れも戻ったし、小さな渦も保ち直したんよ」
     雛菊の言う通り、灼滅直後の逆流は、徐々におさまってきていた。内心で雛菊は呟く。
    (「一歩間違えていたら、今のが、全体の状況を悪化させたかもしれんなぁ」)
    「エンジュ。仕方なかった……灼滅したくねぇとは思っていたんだが」
     筑音のフォローにエンジュは視線の頷きで返し、再び説得へと戻っていく。

    ●噴火のとき
     異変は唐突に起きた。
     時間ぎりぎりの説得が終わろうかという頃、周囲の気温がさらに上昇し始めた。
    「溶岩の中から、次々とイフリートが出てきます! 火口の奥からも、あそこからも!」
     肌を灼く熱さの中、陽司が注意を促す通りに、続々とイフリートが出現する。
    「イフリートだけじゃない、まるで、溶岩全体が動き出そうとしているみたいですよ」
    「まさかとか思うが、ガイオウガが復活するんじゃねぇか?」
     筑音の言葉を、説得を終えたエンジュが肯定した。
    「ガイオウガ、復活、始マッタ」
    「薄々そうかとは思ったが、早ぇな」
     筑音は、鶴見岳に到着した時の、溶岩の激しい動きを思い出していた。あの時点で、ガイオウガの復活は間近に迫っていたのかもしれない。
    「説得、済ンダ。ガイオウガノ意思、協調、残ッタ」
     エンジュの言葉に、見桜や雛菊の表情が明るくなる。
     ……でも、とエンジュは言葉を続けた。
    「敵対ノ意思、強イ。協調、弱イ。ガイオウガ、意思、マダ、敵対」
     エンジュがさらに言おうとした時、地響きが大きくなり、灼滅者達の足もと近くまで地割れが広がってきた。火口近くにいた翼が、半ば呆然としながら口を開いた。
    「すげぇな。溶岩が丸ごとイフリートになりかけてるぜ」
     地鳴りが響く中、表情を険しくして和志が言う。
    「これ以上留まるのは危険だ。一旦山を下りて、後のことはそれからだ。エンジュもそれでいいな?」
    「イヤ、俺、ココ、残ル。ガイオウガ、合流スル。ソレデ、協調ノ意思、強クナル」
    「おい、エンジュ!?」
     予想外の答えに、和志はエンジュを見返す。
     溶岩どころか火口全体が盛り上がり、巨大なイフリートが姿をあらわす。回りからは、次々と新しいイフリートが生まれていく。息が詰まりそうになる、逆巻く高熱の風。
     いつの間にか、巨大なイフリートが、灼滅者を強くにらみつけている。その瞳からは、苛烈なまでの敵意が感じとれた。
    「今、ガイオウガ、敵対。俺、ガイオウガ、押サエル。スグ、山、下リロ」
     見桜が首を振り、エンジュへと手を伸ばす。
    「だめだよ、エンジュくん。エンジュくんが残ってくれたときは、本当に嬉しかったんだ。ここで諦めたくないよ!」
    「富士川先輩の言うとおりなんよ! ここを降りる時は、みんな一緒なんよ!」
     雛菊の胸によぎる、過去の光景。もう繰り返したくない思い。
    「俺、残ル、カッコイイ。見桜、雛菊、悲シイ顔、ゴメン。――皆、トモダチ」
     そう言ったエンジュは火口へ身を躍らせた。腕から外れた赤い鉢巻きが、熱風に舞い上がる。
     ――押サエル、時間、長クナイ。急ゲ。
     火口から出現した巨大なイフリートは、唸り声をあげ灼滅者を威嚇する。前足を振り下ろそうとする、そこでぴたりと動きが止まる。全身が小刻みに震えている。
     その様子は、攻撃しようとする意志と、攻撃を止めようとする意志が、せめぎ合っているように見えた。
    「脱出しましょう。エンジュさんが押さえてくれているうちに」
     強烈な力が荒れ狂う中、大河は脱出できそうな場所を見つけ、皆を先導する。
     ガイオウガの力が押さえられているうちに、灼滅者達は下山する。
     水花は手元に残された赤い布を見る。去り際、エンジュの腕から外れた赤い鉢巻き。
    (「エンジュさん、私は信じています。また、皆で仲良くご飯を食べられる日が来ると」)
     ……焦げた布地に描かれたエンジュの笑顔が、水花を見つめ返していた。

    作者:海乃もずく 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ