ガイオウガの意志~守るべきもの、伝えるべきこと

    作者:聖山葵

    「聞いているかも知れないが、臨海学校の事件はソロモンの大悪魔・フルカスの儀式だったらしい」
     その元凶たるフルカスも灼滅に成功したと聞いてはいるのだがねと続けた座本・はるひ(大学生エクスブレイン・dn0088)は君達に向き直る。
    「そのフルカスが最後に言い残した言葉によると『ガイオウガの意志が、灼滅者と敵対するか協調するかで分裂している』とのことでね」
     灼滅者と敵対する事で統一されようとしていたガイオウガの意志だったが、臨海学校の一件で全てのガイオウガの力を鶴見岳に運んだことにより、協調を望む意志も強まり、灼滅者と敵対する方向での統一に抵抗しているのだとか。
    「とはいえ、これまでにイフリートと敵対してきた事例も多くある。このまま何もしなければ『灼滅者と敵対するという意志で最終的に統一される』と予測されていることも明かしておこう」
     だが、これを察知して良しとしない者が居た。
    「ちょうど今、入り口に待たせている。入ってきてくれ」
     扉を開きその少女は現れたのは、はるひが言及し、教室の外に向かって声をかけた直後。
    「みぃ」
     猫の手では開けるのも閉じるのも難しそうな扉を器用に閉めて一声鳴いたイフリートの少女の名はチャシマ。
    『ガイオウガ、すれいやート戦ウ、チャシマ、嫌』
     だから、鶴見岳に向かいガイオウガを説得したいとチャシマは訴える。ただ、説得内容は考えているのかと君達が水を向ければ、イフリートの少女は困った顔で左右に首を振った。
    『みぃ……チャシマ、難シイコト苦手』
    「ふむ」
     意志はあるけどノープランというか説得文句については完全に白紙と言ったところか。
    「それでも伝えたいことはあるんじゃないかと私は見るがね」
     とははるひの弁。
    「そう、例えば……クロキバ」
    『み……クロキバ! すれいやー、クロキバ助ケテクレタ!』
     はるひがわざとらしく洩らした単語が誘い水となったのだろう。切り口など全く無かった説得内容にようやく基部の様なモノが出来。
    「あちらはあちらで考えはじめたようなので、こちらも話をしよう」
     腕を組んで考えはじめたチャシマを横目で見たはるひは君達を手招きで呼び寄せる。
    「チャシマは鶴見岳に向かい、ガイオウガに意志を伝えようとするつもりだが事態はそうすんなりと進んでくれるモノでもない」
     はるひ曰く、チャシマがガイオウガへの説得をしようとした場合、灼滅者との敵対を強く望む意志がガイオウガ本体から分離しイフリート化して襲いかかってくることが予想されるのだとか。
    「チャシマもイフリート。同胞に対して襲撃を敢行するほどの強硬派は少数だが、説得中に襲撃されれば持ちこたえるのはおそらく厳しいと私は見ている」
     故に説得中の護衛が必要不可欠となるのだがね、とはるひは言い。
    「そう言う訳で、君達にこの護衛を頼みたい」
     そこで一端言葉を止めると、ただしと付け加えた。
    「護衛をするとなると決めておいた方が良いことがある。襲撃してくるであろうイフリートを灼滅するか否か、だ」
     前者にはガイオウガの意志から強い敵意を消し去ることが出来、早期に撃破出来れば護衛の時間も短くて済む。
    「半面、同胞の灼滅された光景をガイオウガの意志に見せることにもなる。無論、これは後者を選べば説得が終わるまで耐え切るだけで良いのだから避けられる問題でもあるがね。説得にはそれなりの時間を要すると思われるのだよ」
     時間にすれば三十分前後だろうかとははるひの弁。
    「尚、襲撃してくるイフリートは二体ほどだ」
     戦場は鶴見岳の火口に近づく山中となり、この時他の説得に向かったイフリートの護衛をする灼滅者達との連携は出来ないモノと思った方がよい。
    「連携出来るほど近くにいればイフリート四体が片方を集中攻撃することも考えられるのでね。それに灼滅するか護衛し続けるかの方針でもめることもあり得る」
     つまり、分散しての行動となっているのもわざとと言うことなのだろう。
    「襲撃してくるイフリート達はどちらも猫型。ファイアブラッドのサイキックに似た攻撃と回復手段を持ち、片方がジャマーを受け持ち、ディフェンダーのもう一方に守られつつ直接攻撃以外で相手を疲弊させる戦い方をしてくるだろう」
     この辺り、守りを得意とするチャシマを意識しての戦法なのか。ともあれ、君達が襲撃してくる二体のイフリートを灼滅するか、意志を伝え終わるまで護衛すれば作戦は成功となる。
    「意志を伝え終えてしまえば、襲撃側も邪魔をする理由はなくなるのでね」
     時間切れまで守り切れたなら、襲撃側のイフリートは再びガイオウガと合体して姿を消すのだとはるひは説明する。
    「護衛については以上だ。あとはチャシマによる説得だが……」
     イフリートはあまり説明が上手くない。アドバイスするなり素早い意志の伝え方をレクチャーするのも良いかも知れないなと付け加え、はるひは君達を送り出した。


    参加者
    ジュラル・ニート(メトロシティ市長・d02576)
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)
    野良・わんこ(握った拳は対話ツール・d09625)
    園観・遥香(天響のラピスラズリ・d14061)
    小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)
    狗ヶ原・詩稲(ブラッドキャット・d22375)
    清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)

    ■リプレイ

    ●再会
    「私は優雨です。あなたの名前は?」
     まるであの日の出会いを再現するかのように。
    「み……」
     聞き覚えのある声で名を呼ばれたイフリートの少女は振り返り、小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)を見。あの時は人語を話せなかったが、今は違う。
    「お久しぶり~、えーと……チェシャー? じゃなかった、チェシュメ、でもなくて、茶杓でもない、えーと、えーと……そう、チャシマちゃん。元気してたー?」
     そんなチャシマへ声をかけ、苦戦しつつも名前を思い出すのに至ったのは、明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)。一年と三ヶ月近い時間をおいての再会であることを鑑みれば、幾つか間違えかけたことさえ無理もないのか。
    『にぃ、チャシマ、元気。ダカラ、ガイオウガキット説得スル』
    「頼もしいですね。よろしければ、これをどうぞ」
     強い決意を瞳に込めて頷くイフリートの少女へ微笑みつつ優雨が差し出したのは、以前気に入ってくれたモノ。
    『み、エビ天!』
    「えい」
    「みっ!」
     覚えていたのか瞳を輝かせ寄ってきたチャシマへ、唐突に抱きつき。ビクッと肩を跳ねさせつつも暴れる様子のないイフリートの少女へ、問う。
    「ガイオウガは貴女にとってどのような存在なのですか?」
     と。
    『みぃ……ガイオウガハ、ガイオウガ。チャシマ、難シイコト苦手』
     イフリートらしいと言えばイフリートらしいのか、困った顔をしたチャシマは言葉が見つからなかったらしい。
    「こういうのは頭の中で考えるのではなくて、声に出してみるとまとまるものですよ!」
    『声ニ出ス……』
    「そうそう」
     野良・わんこ(握った拳は対話ツール・d09625)の言葉を反芻するイフリートの少女に難しい事は私もよくわからんけどと言いつつジュラル・ニート(メトロシティ市長・d02576)が頷いて見せ。
    「言葉だけじゃなく身振り手振りをつけると伝わりやすいですし、お話しやすくもなると思うんです」
     実際自分も身振り手振りを交えつつアドバイスを贈るのは、園観・遥香(天響のラピスラズリ・d14061)。いつの間にか、ガイオウガの説明ではなく、説得の為のアドバイスへ変わってきていたが、それはそれ。
    「そんなわけでお腹が減ったから友達の印もかねて血がほしいのチャシマちゃん。ささ、首だして♪」
    「み?」
     どういう訳なのかとかツッコミどころを満載にしつつ、狗ヶ原・詩稲(ブラッドキャット・d22375)が何やら言い出せば呑み込めていないのかチャシマは首を傾げ。
    「み」
    「いいのか?」
    『オ腹減ッタナラ、仕方ナイ』
     少し考えてから首を縦に振る様へ清浄・利恵(華開くブローディア・d23692)が問うも、イフリートの少女は割り切ってしまったようであり。
    「うはーい、それじゃいっただっきまー熱ぅぅぅぅ?!」
    「まぁ、ファイアブラッドが闇堕ちしたのがイフリートだしな」
     ある意味予想通りなオチだった。
    「とりあえず、これを食べるといいの」
     そんなアクシデントも小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)がチャシマに振る舞うべく持ってきていたミルクソフトクリームが意図とは違う形で役に立ち。
    『みぃ、冷タクテ甘イ……』
    「気に入って貰えて良かったの。それじゃ――」
     自分の分を舐めるイフリートの少女にこくりと頷いた美海はもふもふどうぞと猫に変じた。

    ●そして現地
    「あー、そう言う……って、そうじゃないですね」
     チャシマをもふもふしたいと思っていた遥香にとって逆に自分がもふられると言う発想は想定外だったのか。
    「倒さないように戦うのは初めてですけど、園観ちゃん達もやられちゃう訳にもいきませんし……気を引き締めなきゃです」
     それでも真面目な空気を作るとぎゅっと拳を握り締め、視線をもふられている方からもふっている方へとやる。
    「クロキバの指示やガイオウガに関する本能とは関係なく、ボクらとの接触で思った事や感じた事を素直に伝えてほしい。偽りはすぐわかるだろうし、良い事も悪い事もね」
    『み、嘘判ル、判ル』
    「あの時チャシマちゃんが吸収されてたら、ガイオウガはチャシマちゃんかもしれない。でもチャシマちゃんのチャシマちゃんだから私はいいの。だから胸張ってチャシマちゃんとして言いたいことを言ってくるといいのさ。この先はチャシマちゃんしか出来ないイフリートや私たち皆を助ける言葉の戦いだよ」
    『にぃ、すれいやー、イフリート助ケル、チャシマ、シタイ』
     腕の中に美海を抱えつつもしっかり利恵や詩稲のアドバイスを聞いて応じつつ、鶴見岳の火口へ向かう。
    「緊張したら火をいう文字を手に三回書いて飲み込むといいですよ」
    『み? 火?』
    「リラックス、リラックスですよ~」
    『ふみっ、ク、クスグッタイ……』
     途中で追加のアドバイスを貰ったり、肩を揉まれたりしながらも。
    「で、ここが火口ですか……何というか、凄いね、軍師殿」
    「ナノナノ」
     辿り着き、広がる溶岩の海を視界に収めつつ同意を求めたジュラルの声へナノナノの軍師殿が鳴いた。
    「ふむふむ、だとするとあれがガイオウガの意思だったりするのですかもね」
     言いつつ遥香が見るのは溶岩の海にある二つの渦。
    「一時はどうなるかと思ったが、なんとか最悪の事態になる前に辿りつけたか……」
     全体の五割を占める渦に一割程度の渦が呑み込まれようとしているこの渦達が灼滅者へ敵対するか協力するかと言う意思のせめぎ合いを示しているなら、まだ望みはあるのだ。
    「しかし、ガイオウガとはこれ程桁外れの存在だったのか。他の勢力が狙う訳だ。……チャシマ」
     デモノイド寄生体を軽装鎧の様に同化させると、呟きの最後でイフリートの少女の名を呼んだ利恵は言う。
    「少々きついが……耐え抜いて見せるよ、だから……」
     と。
    『リエ……』
     何を言わんとしたかは察せたのだろう。
    「ま、アタシゃ結果がどーなろうとチャシマちゃんを恨んだりしないから、ここはひとつ思う存分にガイオウガと語り合ってって頂戴な」
     内輪もめの解決のお手伝い、今回の仕事をそんなものと見なし、メンドくさいわねぇと嘆息しつつも瑞穂は立ちつくすチャシマの肩に手を置く。
    『ミズホ……』
    「じゃ、こっちも準備始めますか、っと……クロキバさんの事のついでに、今まさに友好の為に頑張って耐えようとしている我々の事もよろしくお伝えください」
     交通標識を担いだジュラルは言うべき事を言うと、軍師殿とナノナノを呼ぶ。
    「チャシマなら良い感じに説得できるの。自信持ってなの」
    『みぃ……ガイオウガ!』
     美海のエールに頷いて一鳴きしたイフリートの少女は前に進み出ると溶岩の海へ呼びかけた。
    『すれいやー、戦ウ、駄目!』
     いきなりの直球で。
    『『フシャアアアッ』』
     灼滅者いるのだ、ある程度何しに来たかは察していたかも知れない。だからこそ、直球の主張が飛び出した直後だった。大きな渦から分離したモノが二つ炎の猫へと変わると着地するなり、前足を振り上げ、飛びかかる。
    「チャシマちゃんに近づけさせはしません!」
    「彼女の伝えたい事は決して阻ませない。どうしても邪魔をしたいなら、ボクを突き崩してからにするんだ」
     遮るよう自らの身を縦にしたのは、わんこと利恵。
    「……話しあおうと言っているのに何故攻撃を仕掛けて来やがるのか。そういう暴力的なのってよくないと思うの」
    「わざわざ邪魔をするために襲撃してくるということは、それだけ焦っているのでしょうね」
     黄色標識にスタイルチェンジさせた交通標識でチャシマを庇った味方の傷を癒やすジュラルの言葉に応じたのは、優雨。
    「折角ですから手を止めてお話しでもしませんか?」
    『『フーッ!』』
     話す相手を変え、飛びかかってきたイフリート達に声をかけて見るも、先方にその気はないらしく。
    『フギャッ』
    「っ……なら、尚のことここが勝負所だ」
     仕方ありませんねと射出した帯に炎猫の片方が貫かれれば、利恵が生命維持用の薬物を取り出し、大量に投与しつつちらりと溶岩の海を見る。サイキック・リベレーターの影響なのだろう、尋常ならざる火口の様子はガイオウガの復活が時間の問題であるかのようにも見える。
    「んむ、復活しちゃったらこうやって悠長に説得なんて出来なかったでしょうしー」
     邪魔はさせられませんねと契約の指輪から魔法弾を遥香が放ち。
    『ぶみっ』
    「チャシマには指一本触れさせないの。……そう言う訳で、Wにゃんこ、暫く一緒にじゃれ合うの」
     顔面にくらって前足で顔を押さえたイフリートを見据えたまま、巨大なオーラの法陣を展開した美海は言う。
    「まずは守りを固めないとね!」
    『みぎゃあ』
     そちらに気をとられでもしたか。次の瞬間、白光と共に詩稲から放たれた一閃が猫イフリートに炸裂し。
    『……フゥ、フシャアアアッ』
    「流石に堅い方だけあって、メンドくさそうねぇ」
     悲鳴は上げたものの殆ど何事もなかったように起きあがり再び威嚇する炎猫の姿を見て、瑞穂は気怠げに漏らしたのだった。

    ●守る戦い
    「きっついような気がするけど、ま、まあ耐えきるだけだし何とかなるやろ多分、きっと」
     なんて思っていた時期が私にもありましたとジュラルは遠い目をする。
    「えうー! 仕方ないとはいえ防御ばかりはつらいですー」
     視線の先にいるのは、前足でわんこをべしっと叩くにゃんこ、もといイフリート。
    「まーったく、忙しいわねぇ。医者冥利に尽きるってモンだわ」
     すかさず温かな光をそんなわんこに照射し、傷を癒した瑞穂がほぅと吐息を漏らす。
    「お話しする気になりましたか?」
    『フゥゥゥッ』
     灼滅者達の攻撃によって動きに幾分か精彩を欠き、何かに動きを制約されたかのように飛びかかろうとする動きを止めることもあったが、優雨の呼びかけに応じる様子は見せず。
    「攻撃を苛烈にせざるを得ない理由は、おそらくあれでしょうね」
     優雨が示した先、溶岩の海では、大きな渦の動きが最初に一同が見た時よりも弱まり、幾人かの視線が集まる中で、渦に加わっていなかった溶岩の一部が小さな渦の方へと移動し、小さな渦の勢いを微量ながらも強めた。
    『すれいやー、クロキバ、助ケテクレタ。チャシマ、守ッテクレタ! 力ノ塊、返シテクレタ!』
     それをもたらしたのは、溶岩に向かって今も訴え続けているイフリートの少女であり、間接的になら説得するチャシマを守って支えている灼滅者達でもあった。一方が欠ければ、説得は成り立たない。
    「その調子です、チャシマちゃん! このまま逆転するですよー」
    「んー、それは流石にちょっと無理じゃないかしら」
     声援を送るわんこと冷静に状況を見て否定する瑞穂。幾ら盛り返してきたとは言え渦の大きさは当初五割を占めていたモノの方が遙かに大きい。もちろん、だからといって猫イフリート達がチャシマの説得を捨て置ける訳ではなく。
    「ではちょっとお手を拝借。縛りますよん」
    『フギッ』
     ちょっかいを出そうとした片方が詩稲の伸ばした影に絡み付かれ、跳躍に失敗してお腹から地面に落ち。
    「っ、イフリートと武蔵坂の間にいた、彼女のこれまでの事を思えば、これくらい!」
     もう一方のジャンボ肉球レーヴァテインは腕を交差させ、チャシマの前に飛び出した利恵が受け止める。
    「ナノナノ~」
     そんな利恵を軍師殿が癒やし。
    「うおおお、おとなしく仲間になってわんこにもふもふされるのです!」
    「にゃー」
     反撃に出たのは、わんことウィングキャットのキハール。
    『ぶみっ』
     超硬度の拳と肉球のダブルパンチがイフリートを怯ませ。
    『フゥゥゥッ!』
     先程攻撃を影の触手に阻害された炎猫は威嚇しつつ周囲を見回す。どうにかして現状を打破しようと考えたのかも知れない。
    「っ」
     その視線が、遥香に止まったのは、たまたまか。それとも前衛のねばり強さを思い知らされたからか。
    「お祖母ちゃんから習った園観式鉄扇術……極意は舞うように……敵の攻撃をいなす事……」
    『フシャアアアッ!』
     両者の膠着は、焦れたイフリートが地を蹴ったことで壊れた。
    『ミ゛ヤアッ』
     炎を宿し振り下ろされる前足の熱気が、遥香の頬を撫で、ギリギリを通り過ぎて、地面を叩いた。
    「おおっ……やってみるものですねー」
     身をかわした遥香はそのまま華麗に舞うが、うん、まぁ。
    「攻撃が単調だものねぇ」
     一撃の付与する炎で敵を焼こうと同じ攻撃ばかり繰り出せば、見切られもする。猫イフリート達のとった戦法は明らかに悪手だった。
    『フーッ!』
    「……やっぱりイフリートは、もふもふなの」
     忌々しげに唸るイフリートを前に手加減攻撃で触れた相手の感触を思い出し、美海はポツリと漏らす。はるひの情報通りなら、耐える時間はもうすぐ残り半分と言ったところか。
    「えっ」
     だと言うのに、その時は、訪れた。

    ●少女はゆく
    「にゃ、にゃに、これ?」
     溶岩の表面が波立ち、産まれてきたのは何体ものイフリート。
    『ガイオウガノ復活、始マッタ』
    「チャシマちゃん?」
     周囲を見回し一歩退いた詩稲へ答えたのは、先程までガイオウガを説得していたイフリートの少女だった。
    「お疲れさまなの」
    『言イタイコト、伝エル、早ク済ンダ。すれいやー達ノオ陰』
     早速近寄ってきた美海にもふられるも気にせずイフリートの少女はアリガトウと告げ、若干面目なさそうに言葉を続ける。
    『ガイオウガ、すれいやー、仲良クスル意思、消エナカッタ。ケド、すれいやー、敵ト見ル意思、残ッテル』
    「主導権をとることも出来なかった、ってことかな? まぁ、あれだけ差があれば――」
     完全に掌握するというのは無理があったのだろう。
    『タダ、すれいやー、外カラ働キカケ、すれいやー敵ト見ルガイオウガノ力、削グ、チャシマ達、表出テクル事、デキル』
    「チャシマ、達?」
     チャシマをもふる美海の手が止まった。
    『みぃ……チャシマ、すれいやート仲良クスル意思、一緒ニナル。仲良クスル意思、マダ、弱イ。守ラナイト、駄目』
    「そっ、そんな、チャシマちゃん! 駄目です、帰りましょうよ!」
     わんこが血相を変えるも、幾人かの灼滅者は察した。瞳に宿る意思を変える術がないと言うことを。
    「前は駄目だったけど、今日はどうかな?」
    『アリガトウ……すれいやー、急イデ、ココ、離レル』
     何かを堪える様にして利恵が差し出した肉の盛られた容器を受け取るとイフリートの少女は警告を残して火口へと駆け出した。
    「チャシマちゃぁぁぁん」
     わんこの叫びが響く中、火口の溶岩が盛り上がり、巨大なイフリートを形作り始める。同時にあちこちからイフリートが産まれ始め。
    『グルル……ッ』
     威嚇し、今にも灼滅者達めがけ駆け出さんがばかりだったイフリート達が急に動きを止める。
    「……チャシマ達が抑えてくれているのか」
     攻撃しようとしては硬直するイフリート達に何が起きているのかを理解すれば、出来るのはただ一つ。
    「……帰りましょう」
     チャシマの意思を無駄にせぬよう山を下りることだけだった。


    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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