ガイオウガの意志~キミが告げるモノ~

    作者:佐和

    「フルカス、灼滅できた」
     集まった灼滅者達を前に、八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)はまずその事実を告げた。
     ガイオウガの力が別府湾に流れ出していた、臨海学校の事件。
     それはソロモンの悪魔・フルカスの儀式によるものだったとは皆も知るところだ。
     そして、そのフルカスを討つべく灼滅者達は向かい。
     灼滅と共に、ガイオウガの意志を確認することができたのだという。
    「ガイオウガ、敵対と協調、2つの気持ち、ある」
     イフリートと敵対してきた数多くの事例。
     休火山を活性化していたイフリート全ての灼滅や、昭和新山でのスサノオへの加勢。
     それらから、灼滅者を敵とする意志がガイオウガには強くあり。
     しかしその一方で。
     多くのイフリートが灼滅者に友好的な思いを持ってガイオウガの元へと向かい。
     別府湾の力の塊の全てがガイオウガへと返されていて。
     灼滅者と協調を望む意志も強くなっているらしい。
     まだ意志の統一には少し時間がかかる。
     だが、今のままでは。
    「……敵対で統一、されると思う」
     その予想を口にしながら、秋羽はしゅんと俯く。
     でも、すぐに顔を上げて。
     予想された状況を察知したのはエクスブレインだけではない、と告げる。
     そして教室の入り口に視線を向けると、炎が揺らめいていた。
     いや、それは炎のように紅色になびく毛並みを持つ大狼。
     集まる皆を見回す瞳は、穏やかに青く輝いていて。
    「……ツイナ」
     灼滅者の誰かがその名を呼ぶと、イフリートは応えるように小さく頷いた。
    「イフリート達、ガイオウガ、説得したい、って」
     秋羽も優しい青瞳を見つめながら、説明を続ける。
     学園に保護されている全てのイフリートが、ガイオウガを説得すれば灼滅者との協調も可能かもしれないと、申し出てくれたのだという。
     その言葉を肯定するようにツイナは優しく灼滅者達を見渡して。
    「ムサシザカ、ワガママデ強イ。ダークネスモ仲間ニナレバ、大切」
     ガイオウガに伝えたい思いを披露するように告げた。
     ……間違ってはないけれども、何だか微妙な感じです。
     思わず顔を見合わせる灼滅者達に、秋羽も察して。
    「説得の方法、教えても、いいと思う」
     灼滅者達に丸投げしました。
    「ガイオウガいる、鶴見岳。イフリート、襲ってくる」
     そしてそのまましれっと説明に戻ります。
     説得のため鶴見岳に向かうと、灼滅者との敵対を望む意志がガイオウガ本体から分離し、イフリートの姿となって説得を妨害しようと襲い掛かってくるという。
     思いを伝えられるところまで近づくと現れるので、説得開始の合図とも言えるのだが。
     現れるイフリートは2体。ツイナだけでは数の差で負けてしまう。
     そこで、灼滅者達に護衛をお願いしたいのだという。
     襲い来るイフリートは2体ともキツネのような外見で、周囲に狐火を漂わせている。
     灼滅者との協調を強く否定する思いを持っているため、説得には応じない。
     だが、灼滅することで、ガイオウガから敵対の意志を減らすことができる。
     しかし、同胞であるイフリートを灼滅する光景が、ガイオウガにどういう風に受け止められるかは分からない。
     そして、ツイナが意志を伝え終われば、邪魔をする理由がなくなるので、2体のイフリートはガイオウガの元へ戻るという。
    「ツイナの護衛、できれば、手段は問わない」
     灼滅して、ゆっくり思いを伝えるもよし。
     持久戦の最中に思いを伝え、誰も倒さないのもよし。
    「……ツイナを、皆の意志を、よろしく」
     秋羽はそう結ぶとぺこりと1つお辞儀をして。
     倣うようにツイナもすっと頭を下げた。


    参加者
    小坂・翠里(いつかの私にサヨナラを・d00229)
    リヒト・シュテルンヒンメル(星空のミンストレル・d07590)
    天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)
    久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)
    友繁・リア(微睡の中で友と過ごす・d17394)
    イヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)
    ルイセ・オヴェリス(高校生サウンドソルジャー・d35246)
    有馬・南桜(星屑の剣士・d35680)

    ■リプレイ

    ●想うモノ
     鶴見岳山頂を目指す道行き。
     かつて登ったそこを、ツイナは再び進んでいた。
     だが今回は独りではない。
    「ツイナさん、久しぶりっす!」
     以前と変わらず元気に挨拶をくれた小坂・翠里(いつかの私にサヨナラを・d00229)。
    「僕のこと覚えてる……?」
     少し心配そうにしながらも、そっと優しく撫でてくれたリヒト・シュテルンヒンメル(星空のミンストレル・d07590)。
     穏やかに会釈を交わした友繁・リア(微睡の中で友と過ごす・d17394)と。
    「また共闘だな」
     どこか嬉しそうに笑いかけてくれた天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)。
     ツイナが最初に灼滅者を知った、石和の源泉で出会った仲間達。
     そして。
    「今度は、ツイナから名乗る番だよ」
     励ますように何度も名を呼んでくれた久成・杏子(いっぱいがんばるっ・d17363)。
    「ツイナさんが私達を信じてくれたのだから」
    「その心意気を汲むためにも、守り切らなきゃな」
     仲良く視線を交わし、頑張ろうと決意を固める有馬・南桜(星屑の剣士・d35680)とイヴ・ハウディーン(怪盗ジョーカー・d30488)。
    「ボクは嬉しいんだ。だって、ツイナがボクらにわがままを言ってくれた」
     ルイセ・オヴェリス(高校生サウンドソルジャー・d35246)は、困難なはずの要求に、純粋に喜びだけを見せてくれて。
    「ボクらは、わがままを言い合える仲になれたかな」
     問いには首を傾げてしまったけど、その笑顔が曇ることはなかった。
     ツイナと思いをぶつけ合った、この鶴見岳で出会った仲間達。
     そんな灼滅者達は、道中も多くを話しかけてくれた。
    「ねえ、ツイナ。ツイナはどんな食べ物が好き?」
     他愛ない話題を投げかける杏子は、緊張を解そうとしているようで。
    「学園を楽しめたかしら? どんなものを見てもらえたかしら?」
     リアは思い出を呼び起こし、これからの準備をしてくれて。
    「ツイナは、私達や学園に、どういう思いを持ってくれてるかな。
     どうして『協調したい』と思ってくれたのかな」
     黒斗が優しく緩やかに、思いの方向性を示してくれる。
    「そんなツイナの思うままを、ガイオウガに伝えていって欲しい」
    「君が自分で思って、感じて、考えたことをそのまま伝えるといいよ」
     リヒトも穏やかに言葉を重ねた。
     何かを伝えて欲しいと頼むのではない。
     伝える言葉を押し付けるでもない。
     あくまでツイナとしての意見を、ツイナの言葉で正直に伝えて欲しいと灼滅者達は願う。
    「難しい言葉じゃなくても伝えられる。思いはきっと伝わるから」
     深く考えすぎることはないからとリアは落ち着かせるように微笑んで、ね? と傍らのビハインド・星人に顔を向ける。
    「私も蒼に何か伝えるときは、いつもそのままを伝えるようにしているっす」
     翠里は霊犬と一緒にツイナの周囲を走り回って見せた。
    「ゆっくりでいいよ。
     ツイナが伝えたい事、思う事、その言葉をそのままガイオウガさんに話してね」
     大丈夫と言う杏子の隣で、ウィングキャットのねこさんがきゅっと両目を瞑って。
     リヒトの足元から、霊犬・エアレーズングが励ますように一声吠える。
    「その間、襲ってくるっていうイフリート達を抑えるのはボクらの仕事だからね」
    「時間はしっかりつくるっす!」
     安心させるように頷くルイセに、翠里も元気に手を挙げて見せた。
     そうして山頂が近づいて。
     皆すぐにその変化に気付く。
    「何か暑いな」
     以前ツイナを止めた時には感じなかった熱気にイヴが疑問符を浮かべる。
     その原因は、火口から噴出していた溶岩。
     すでに火口周辺は溶岩の海と化し、渦巻いていた。
    「ガイオウガの復活が近い、というのは本当のようですね」
     劇的な変化にリヒトが呟く。
     よく見ると、渦には大きなものと小さなものとがあって。
     数少ない小さい渦が、数も多く大きな渦に呑み込まれようとしていた。
    「これが、ガイオウガさんの意志……?」
    「あの小さい渦達が、オレたちの仲間なんだな」
     何となくそれを感じ取って、南桜とイヴが皆に確認するように言葉にする。
     小さい渦が全て呑み込まれてしまえば、ガイオウガの中から協調の意志は消えてしまう。
     漠然とそれを察して。
     でも、今はまだ在る小さな渦に灼滅者達は希望を見て。
    「オレたちはそこに賭けにきたんだ!」
     イヴが睨み据えた先。
     大きな渦を背に、2体の狐型イフリートが姿を現した。

    ●伝えるモノ
    「さあ、ツイナ。君が思うように、君の言葉で。
     ……ボクらは、待ってるから」
     ルイセがかけた声を合図とするように、桜と橘の紋を持つ狐イフリートが炎を放つ。
     炎の奔流に呑まれながらも翠里はシールドを張り、蒼の瞳が輝いた。
     だが、身構えはしたものの、翠里は狐達へ武器を向けない。
    「イフリートは倒さないっす!」
     それは皆で決めたこと。
     説得を申し出てくれたツイナも、目の前の2体と同じイフリートだから。
     志が異なるとはいえ同胞が倒れる姿は見たくないだろうと。
     それに、同胞を倒すことがツイナの気持ちを踏みにじることになる気がすると。
     ガイオウガのこともだが、ツイナのことを想って決めた、防戦。
    (「大変でも、皆さんと一緒ならきっと……!」)
     負傷を覚悟し、難しいと認識しながら、翠里は仲間と共に立つ。
    「この熱さがボクらに対する拒絶なら……凌いでみせるしかない」
     ルイセも黄色にスタイルチェンジした標識を振るいながら、告げた。
    「もっと熱い炎で焼き尽くしたら、遺るのは灰と恨みと哀しみだから」
     これがボクのワガママと、挑むように不敵に笑う。
     サーヴァント全てと灼滅者の半数をディフェンダーに置き、ルイセの他にリヒトと南桜もメディックに据えた、完全な防衛陣形。
    「……“みんな”……お願い……」
     攻撃手に回ったリアの囁きにその影が人の形を取り、桜狐へと向かい行くが、狙うのはダメージではなくBS付与。
     黒斗も動きを鈍らせんとダイダロスベルトを伸ばし捕縛を狙い。
     リヒトは最初だけと輝ける十字架を降臨させた。
     イヴも鞭剣を橘狐に撒きつけ、その動きを押さえようと試みる。
    (「兄ちゃんが言ってた、覚悟を決めて望む戦い……」)
     不殺の意志。命かけて抜く刃。
     兄の口癖は、今まであまり理解できなかったけれども。
     ツイナと関わって、何となく、その重みが分かった気がする。
    (「覚悟……相手憎まず、灼滅ではなく」)
     南桜も同じ言葉を思い出しながら、守るために帯を広げる。
     垣根を越えて、新しい関係を築いていけるように。
     猛攻に耐え、ツイナを庇う。
     その思いに応えるように、灼滅者達の背の向こうで、ツイナは言葉を紡いでいた。
     すらすらとはいかないけれど。
     自分の思いを。自分の言葉で。
     ゆっくりとだが大切に、心を伝えていく。
     大きな渦は依然として多く大きく強いけれども。
     渦になっていなかった溶岩が少しずつ、小さな渦に合流しているように見える。
     きっとツイナの言葉がガイオウガへ届いているのだろう。
     そして、灼滅者達も戦う最中に声を上げていた。
    「僕達はただ傷つけあうだけの関係じゃない」
     祝福の言葉を口ずさむ合間に、リヒトは狐イフリートへと思いを向ける。
    「話を聞かせて。僕達も話そう。
     そうしてお互いに少しずつでも理解することができるはずだ」
     狐達はその声に反応することなく、変わらず炎を繰り放つ。
     目の前の2体は、ガイオウガの中にある敵対の意志。その具現。
     だから説得できる相手ではないと告げられていて。
     だから皆は言葉を投げかけていた。
    「ガイオウガさんの心は、今、両極端な思いで揺れ動いてる。
     でもそれは、イフリートを憎む人もいれば仲良くしたい人もいる、そんなあたし達武蔵坂学園と同じなの」
     護符で守りを固めながら、杏子も狐へ話しかける。
    「どちらの気持ちも、簡単に壊しちゃいけない大事なもの。あたしはそう思うの」
     大切な人を殺されて、イフリートを憎む人。
     同胞を倒されて、灼滅者を憎むイフリート。
    「誰かを大切にしたり仲間を思う気持ちは、お互いに同じなんだ」
     だからこそ、と黒斗は繋げる。
    「私達は一緒に歩いていけると思うし、そうしていきたい」
     友達として。
     大切な仲間として。
     黒斗は願うように言葉を紡ぐ。
    「……複雑かもしれない。割り切れないかもしれない。
     けど……私達は貴方達と共に戦いたい……」
     リアも、星人が放つ霊撃と息を合わせ、操る影に思いを乗せ、託していく。
     脳裏をよぎるのは初恋のイフリートの姿。
     もういない彼が何を望んでいたのかは分からない。
     でもきっと、ガイオウガと灼滅者との協調は彼も願っただろうと思う。
     勝手な思い込みと言われたら否定はできないけれど。
     リアが惹かれた彼ならば、きっと……
     そう信じて、リアは狐イフリートに、そしてその先に居るガイオウガに向き合う。
    「共に戦う……その未来の為に、ツイナの邪魔は絶対させない。
     そして、お前達を倒しもしない」
     赤く揺らめく炎に焼かれながら、黒斗も真っ直ぐに双狐を見据えた。
     その思いを支えるように、リヒトは希望の旋律を奏でる七色の光輪を盾として。
     ルイセはマスクメロン型のギターを響かせ、南桜も必死に回復の手を向ける。
     翠里と杏子がサーヴァント達と立ちふさがり。
     リアの影が、イヴのバベルブレイカーが、進み来る狐達の足を止める。
     皆が願い、望み。ツイナも協力してくれた。
     その思いこそが……
    「私達はワガママだからな」
     黒斗はにっと笑って見せる。
     構わず尚も炎を放とうとした2体の狐は、だが、何かを感じたかのように顔を上げると、唐突に踵を返し、走り去った。
     困惑も刹那、狐達が戻った先にある溶岩から次々とイフリートが生まれ出す。
     気温もさらに上がっているように感じられるのは、気のせいだろうか。
     山頂の変化に戸惑う中で。
    「……ガイオウガ、復活スル」
    「ツイナ!」
     声に皆は振り向いて、真っ先に杏子がその名を呼ぶ。
     リアはツイナにダメージがないことを確認し、無事守りきれたことに安堵の息をついた。
    「大分早いっすね」
     まだ30分どころか20分も経っていないはずと翠里が首を傾げるけれども。
    「思いは伝えられた?」
     リヒトの問いかけに、ツイナはしっかりと頷き返してくれた。
     山頂までの道中、楽しい会話に織り交ぜたアドバイスは、ツイナの役に立ったようだ。
     でも、とイヴは溶岩を見る。
     小さかった協調の意志たる渦は、大きな渦に抗う態勢を整え、あっさり呑み込まれることはもうないように思える。
     しかし逆転できるほど大きくはなっておらず、2つの意志は拮抗しているようだった。
     敵対か。協調か。
     相反する心が惑うような、そんな渦の攻防を南桜は心配そうに見つめて。
     そこに、ツイナの声が降る。
    「協調ノ意志、守ル」
    「だめなのっ!」
     とっさに杏子が反対したのは、ツイナが最初、何の為に、今いるこの場所を目指していたのかを思い出したから。
    「何度でも言うよ。
     私は、ツイナに死んで欲しくない」
     黒斗も睨むようにツイナを見据え、あの時の言葉を繰り返す。
     ツイナがガイオウガにその身を捧げ、融合すれば、ツイナが持つ灼滅者への好意もガイオウガに溶け込むだろう。
     そうすれば協調の意志がより強まるかもしれない。
     けれど。
    (「それじゃ『ツイナ』がいなくなる。それじゃ駄目なんだ」)
     ルイセは思いを伝えるように、ツイナの身体にそっと手を当てる。
     そんな皆の反応をツイナは静かに見回してから。
     緩やかに首を横に振った。
    「ツイナトシテ、ガイオウガノ為ニ、在ル」
     繰り返される、決意の言葉。
     あの時『ツイナである』ことを選んだ、その思いは変わっていないと伝えるように。
     紅色の柔らかな毛をなびかせて、ツイナはそっと視線を下げる。
    「クロト」
     呼ばれたことに驚いたように顔を上げた黒斗の赤眼を覗き込むように見つめて。
    「リヒト。ミドリ。リア。キョン。ルイセ。ナオ。イヴ」
     ゆっくりと順に皆の名を呼びながら、それぞれの姿を青瞳に映していく。
     守る戦いを経た彼らは皆、例外なく傷だらけで。
     だけどその顔に浮かぶのは痛みではなく、ツイナを、仲間を心配する想い。
     ツイナは添えられたルイセの手を鼻先で優しく外し、1歩距離を取って頷いた。
    「スバル。オトギ。ミオ。ヘキサ」
     そして空を仰ぎ見て、この場に居ない仲間達の名を続けてから。
     再び、灼滅者達を、見つめる。
    「ツイナモワガママ」
     どこか微笑むように優しく瞳を細めて。
    「アリガトウ」
     穏やかに告げると。
     ツイナは踵を返し、迷うことなく走り出した。

    ●告げたモノは
     伸ばした手は紅色の毛の1房すらつかめず空を切り。
     呼び止める声にツイナはちらりとも振り返らず。
     南桜達の前から、炎狼の姿は遠ざかっていく。
     すぐに追いかけようとした足を止めたのは、群れを成すイフリート。
     そして、その向こうにある火口で溶岩が大きく盛り上がり、巨大なイフリートへと姿を変えようとしていた。
     イフリートの王、ガイオウガ。
     大地の化身とも言われる眠れる王の目覚めの時。
     だが、イヴ達にそれをゆっくり眺める時間はなかった。
     王を守るかのように次々と出現するイフリート達は、敵意を剥き出しにし、唸り声を上げてルイセ達を威嚇してきたのだ。
     傷だらけの翠里達に、複数のダークネスと戦う力は残っていない。
     そもそも、リア達よりもイフリートの数は圧倒的に多いのだから。
     このまま攻撃されたなら、逃げることすら難しいだろう。
     そう誰もが感じ、冷たい汗が流れたが。
     イフリートは、金縛りにあったようにその動きを止める。
     進もうとする動きを押し止めるかのような、不自然な硬直。
     攻撃しようとする意志と、攻撃を止めようとする意志。
     2つの相反する動きがせめぎ合っているかのように。
     それを見たリヒト達は、ガイオウガに背を向け、山頂から駆け降りた。
     灼滅者に協調する意志が……それを守りに行ったツイナが、イフリート達を抑えてくれていると理解したから。
     黒斗達は真っ直ぐに鶴見岳を後にして。
     熱さが薄れる山の麓まで辿り着いてから、ようやく振り返る。
     噴火するように燃えて見える鶴見岳。
     その紅色を杏子達はじっと見つめて。
    「ツイナ……」
     名を呼ぶ声は、嘆きや悲しみにではなく、決意に染まっていた。
     
     ……必ず、また会おう。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 10/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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