ガイオウガの意志~望郷音色アカトラミサキ

    作者:空白革命


     臨海学校の別府湾高熱化事件はソロモンの大悪魔フルカスの儀式によるものだった。フルカスは無事灼滅されたが……。
    「フルカスの最後の言葉から、ガイオウガの意思統一が灼滅者の敵対派と協調派で分裂していることがわかったの。
     今まで敵対していたのだし敵対側が優勢だったんだけど、臨海学校でガイオウガの力の塊を返したことで協調側が強まって、今では意思統一に抵抗してるみたい」
     それも長くは続くまい。
     このまま放置すれば敵対側に意思統一され、ガイオウガという全なるイフリートが改めて敵に回ってしまうだろう。
     だがそんな事態を座視できない者が存在した。
    「あらためて紹介するね。アカトラミサキ……今回意志を伝えるために力を尽くしたいって申し出てきた、協力者だよ」
     カーテンを開くと、虎の面を被った和服の少女があぐらをかいて座っていた。
     
    「ぐるる、がう……」
     アカトラミサキはもともとろくに会話というものをしてこなかったイフリートである。
     だがそれだけに、言葉を超えたコミュニケーションが一部の灼滅者たちとの間でできあがっていた。
     そんなアカトラミサキが発した、ごく僅かな言葉がこれである。
    「シャクメツシャ、テキ、チガウ」
     逆に言えば、これ以外は何も言わなかった。
     暫く待ってみても、用が済んだとばかりにその場に寝転んでしまうばかりだ。
     きわめて端的で率直な内容だが……これで、しっかり伝わるだろうか。
     さておき、天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は説明を続けた。
    「今からアカトラミサキと一緒に鶴見岳に行って貰うね。
     説得するのはいいんだけど、ガイオウガから敵対派の意志が分離してイフリート化することが分かってるの。集中攻撃を受ければさすがに持たないもんね。
     だから、説得が済むまでアカトラミサキを護衛して欲しいの」
     この作戦中に敵対することになる分離体イフリートについては、カノンが適切なメモを持たせてくれている。数は2体だそうだ。
     ちなみに、集中攻撃のリスクをさけるべく同様の作戦をとっている別チームとは離れて行ない、連携はできない。
     2体のイフリートを灼滅するか、説得終了まで守り切れば成功となる。
    「自分から申し出てきたイフリートの意志を無駄にはできないよね。みんな、ちゃんとアカトラミサキを守ってあげてね」


    参加者
    夢月・にょろ(春霞・d01339)
    久織・想司(錆い蛇・d03466)
    城・漣香(焔心リプルス・d03598)
    中川・唯(高校生炎血娘・d13688)
    フェリシタス・ロカ(ティータ・d21782)
    足利・命刻(ツギハギグラトニー・d24101)
    迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)
    赤暮・心愛(赤の剣士・d25898)

    ■リプレイ


    「山場だなあー! めっちゃ緊張するー! ミサキちゃん、緊張してるっ?」
     中川・唯(高校生炎血娘・d13688)は、そばを歩くイフリート・アカトラミサキに声をかけた。
     炎を纏った巨大な虎の姿をしたイフリートである。喉をぐるぐると鳴らすことで応えたようだが、なんて言っているのかはさっぱり分からなかった。
     反対側からも語りかけるフェリシタス・ロカ(ティータ・d21782)。
    「頑張ります、よ?」
     その語りかけに応じて、というわけではないが。
     ぴたりと足を止め、アカトラミサキはじっと何かを見つめていた。
     気になって視線の先へ寄ってみると、激しい熱風に思わず二人は後じさりした。

     溶岩の海とでも言おうか。中を溶岩が渦巻いている。
     おそるおそる覗き込んでみる赤暮・心愛(赤の剣士・d25898)。
    「大きい渦と小さい渦が……なんだろう? 喧嘩してるのかな」
    「というより、統合されかかっているという様子ですね。これがガイオウガの意志、なんでしょうか」
     これだけ大きなものを相手にするとは、と改めて呼吸を整える夢月・にょろ(春霞・d01339)。
     アカトラミサキはその様子を黙って見つめている。
     説明しておくべきだろう。にょろは渦を眺めながら言った。
    「私たちはアカトラミサキさんを守ることを優先しますけれど、私たちが一人でも倒された時は相手を灼滅する方針でいます。それだけはお伝えしておきますね」
     反応を伺ってみたが、さして変化は無い。
     同胞の灼滅に関して敏感な者もいれば、無頓着な者もいるということだろうか。
     アカトラミサキがそこに無頓着なのはこちらとしては助かる話なのかもしれない。
    「まあ、言葉は足りずとも思いは届きますよアカトラちゃん。ファイト」
     小首を傾げてグッドラックのジェスチャーをする久織・想司(錆い蛇・d03466)。
    「そうそう、ミサキちゃんがオレらをどう思ってるのか伝えてくれれば充分だよ」
     城・漣香(焔心リプルス・d03598)もにこやかに付け加えた。同意を求めるように振り返る。
     迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)はそれに応えるようにして頷いた。
    「灼滅者のこと、どう思うとる」
    「……」
     アカトラミサキは炎次郎たちをぐるりと見回した上で。
    「ぶったぎりたい」
    「……ああ、うん」
     そういう子やったなあと思いつつ、それでもこうして力を尽くしてくれている事実にも感じるところはある。
     にっこりと笑う足利・命刻(ツギハギグラトニー・d24101)。
    「戦闘は気にしないで、説得に集中してて。焦らんでも大丈夫やから。頼んだで!」
     アカトラミサキは頷き、そして人間形態へと変身した。
     巨大な刀を地面に突き立て、着地。
    「がいおうがさま、みんな、きけ」

    ●獅子と虎
     溶岩が爆発したように、巨大な柱がたちのぼる。
     柱の中から、まるで魔法のように二つの獣が飛び出した。
     巨大なライオンと虎。
     仮称ゴールドライガーとシルバータイガーである。
    「早速来たで――足利流威療術、臨床開始!」
     命刻が無数の注射器を取り出すのと、ゴールドライガーが大量の火炎弾を乱射してきたのはほぼ同時だった。
     放物線を描いて飛来する無数の火炎弾。常人が受ければ死は免れないほどの凶悪さだ。
     対して命刻は無数の注射器を空中へと放出。
    「キツそうやけど、頑張っていかんとね。今や!」
    「はい――!」
     にょろが刀を抜き、逆手に振り込む。
     刃を振ることは『祝(はふり)』につながるとされている。巻き起こる風が悪しきものを払うのだ。
     今回払うのは、降りかかる炎そのものだ。
     激しく吹いた風が命刻の注射器を割り、治癒液を広く散布させる。
     そこへ直接降り注ぐ炎の弾。
     思わず反応しそうになったアカトラミサキを、にょろは手を翳して制止した。
    「大丈夫、きっと気持ちは通じます」
    「わかり合うことはできるはずなんや。アカトラちゃんたちみたいに!」
    「ワメクナ、ニンゲン!」
     そう吠えたのはシルバータイガーだ。
     燃える牙を剥きだしにし、アカトラミサキめがけて飛び出してくる。
     間に割り込む炎次郎と唯。
     それぞれ抜いた刀を交差させると、食らいつこうとするシルバータイガーの牙を上下同時に受け止めた。
     一瞬は弾いた顎の力が、徐々に押し返されていく。
    「こんの――手伝って!」
    「まかして!」
     入れ替わるように滑り込む漣香。彼の剣がシルバータイガーの顎に食い込んだタイミングで、唯は漣香と炎次郎の肩を使って跳躍。頭上をとると、自らの身体からわき出した炎を一気に放出させた。
     広がるような火炎放射から、徐々に細く絞ったビーム放射へシフト。
     攻撃を嫌がったシルバータイガーはその場から飛び退こうとするが、漣香と煉が素早く追撃。霊障波と制約の弾丸が乱射され、シルバータイガーはジグザグに飛び退きながら回避にかかった。
     更に距離をつめにかかる炎次郎。
    「敵対する意思のことも正直俺はわからんでもない。俺だって未だにイフリートと分かり合うことに抵抗はある。お前らイフリートと殺し合うことにためらいもないわ。でも、仲間や同志の言葉を蔑ろにするほど俺は屑でもない! だから、同胞の言うことを信じてくれ! アカトラミサキが必死にお前に語りかけとる言葉を無視するなんて承知せんで!」
     シルバータイガーたちへ、というよりは敵対派への言葉だ。
     言葉と共にシルバータイガーを追い詰めていく。
     火口ギリギリへ追い詰めたところで、シルバータイガーは彼を打ち払うための策に出た。と言っても、炎の刃を作って振り回すというものである。
    「交代です」
     炎次郎と入れ替わるように割り込んだ想司が殺意のブレードを繰り出し、炎のブレードを跳ね上げる。軌道を変えて逆側から刃が迫る――が、しかし。
    「悪いンだけど、やらせませんヨ?」
     いつの間にか割り込みをかけていたフェリシタスが剣でもってはじき返した。
     二人は一瞬だけアイコンタクトをとると、それからも高速で迫る無数の斬撃を左右に分かれて弾き返していく。
     そこへ横合いから飛び込んでくるゴールドライガー。
     激しい突進にフェリシタスたちは一気に吹き飛ばされるが、それを心愛のダイダロスベルトがキャッチした。
     回り込んで回復支援を始める霊犬ミナカタ。
    「大事なお話の途中なの、邪魔しないで!」
     刀を地面に突き立て、癒やしの風を巻き起こす心愛。
     一方のゴールドライガーは炎の翼やたてがみを大きく広げ、二人の間に強い牽制空間が生まれていく。
     心愛は説得に苦戦しているアカトラミサキを振り返り、ぎゅっと刀を握りしめた。
    「みんな、頑張って耐えて!」

     アカトラミサキの説得にいかほどの効果があるのか。それは溶岩の渦を見れば何となく察しはついてきた。
     大きな渦の動きがやんわりとしたものに変わっていき、大して小さな渦が周囲の溶岩を巻き込んで勢力を増している
     味方の回復に専念しながらも、命刻は状況的な追い風を感じていた。
    「根性やで、持っとき!」
     命刻の投げてよこした包帯を受け取り、唯は腕や足に素早く巻き付けた。
    「振り切っちゃう、よ!」
     足踏み一つで大地を踏み割り、炎の足跡をつけながら走り出す唯。
     狙いは手負いのシルバータイガーだ。
     まずは剣を握り込み、跳躍。
     回転しながらの大上段斬りはしかし、剣を加えてへし折られる形で防がれた。
     が、それで動きが止まる彼女では無い。素早く剣を手放し、地面を転がりながら側面へ回り込む。
     脇腹への掌底。からの全力火炎放射。
     腹を突き破る熱線放射にシルバーファングはよろめき、続けて繰り出した炎の回し蹴りで強烈に吹き飛んだ。
    「レーヴァテイン……いや、バニシングフレアか? なんてぶっ放し方するんやあの子」
     地面を転がるシルバータイガー。
    「もういっぱつ!」
     更なるダッシュをかけようとしたその矢先、横からゴールドライガーが割り込んできた。
     側面衝突。それもトラック並の物理エネルギーでもって唯を吹き飛ばした。
     そこへ体勢を取り戻したシルバータイガーまでもが加わり、襲いかかっていく。
    「まずっ……唯のフォローに行って!」
    「ミナカタ!」
     急いで煉を走らせる漣香。続いて霊犬ミナカタも回復支援に飛び出す。
     しかし長く続いた戦いで、回復と防御を重視した鉄壁の陣形と言えども崩れ始めている。
     その隙を食い破るように、シルバータイガーは唯の脇腹を切り裂いた。
    「うっ……」
     顔をしかめ、膝を突く唯。
     これ以上の戦闘は無理だ。
    「アカン、これ以上は無理やで……!」
     トドメをさそうとするシルバータイガーに割り込むように唯を抱えて転がる命刻。
    「アカトラちゃん!」
    「……まだだ」
     鉄壁の陣形は長持ちさせるためのもの。しかし一箇所でも崩れればそこから次々に食い破られてしまう。
     ひたすら防御の硬くなったゴールドライガーと牙を凶悪なまでに鋭く研いだシルバータイガー相手では、もう猶予は無いに等しかった。
    「いくよ、皆」
     刀を手に取り、炎を纏わせていく心愛。
    「ですが……」
     踏ん切りが付きづらい様子だったにょろも、仲間のためにと言い聞かせて歌の調子をかえていった。
     逆手に握っていた刀をくるりと返し、兵士を鼓舞する歌へとシフトしていく。
    「今より、灼滅に移ります。準備を――!」
    「敵対するつもりはありません、が。仲間を喪うわけにもいきませんね」
     そう言いながら、想司の顔は笑っていた。
     激戦の中で彼の心に火が付いていたのだ。
     頬に流れる血をぬぐい、血の混じったような殺意を腕にぐにゃぐにゃと纏わせていく。
    「このイフリートは反対派の意志が具現化したもの。灼滅すればそれだけガイオウガの統合意志から反対派の勢力が減ることにもなりますから――ね」
     想司が身構えたその時には、ゴールドライガーの側面へ回り込んでいた。
     殺意に満ちた手を突き込む。防御を重ねていたゴールドライガーの表皮を無理矢理にはぎ取り、鱗のように連なった装甲部分を次々に引きはがしていく。
    「美味しく食べてアゲル……」
     そこへ飛び込んだのはフェリシタスである。
     影業を複雑に変化させると、むき出しになった肉体を複雑に切り裂いていく。
     傷口から吹き出た血が即座に炎となり、まるで爆発でも起こしたかのようにふくれあがっていく。
     炎を破るように飛び込み、ゴールドライガーを切り裂く心愛。
     彼女の炎がゴールドライガーを包んでいく。
    「ごめんね!」
     強烈な蹴り上げ。それによってゴールドライガーは大きく吹き飛び、バウンドしながら自らの炎の中に消えていった。
    「灼滅、したんか……」
     ふと溶岩を見る。すると、これまでの流れが逆転し、大きな渦の勢力が急に強まっていった。
    「後には引けんな」
     振り向くと、シルバータイガーが牙を広げて飛びかかってくる所だった。
     高速スウェーでかわしにかかる。
     その動きを追って頭を正確に噛み潰そうとするシルバータイガー。
     が、その顔面に漣香の影業が大量に巻き付き、逆方向へと引っ張った。
     細く息を吐く漣香。腕や頬からは僅かに炎が上がっているが、それもみな彼の血だ。
     霊障波による援護射撃を受けながら、漣香はかけだした。
     剣が手元に生まれる。
     刀を大きく翳した炎次郎と飛びかかる漣香。その二人を同時にしのぐだけの余裕は、今のシルバータイガーには無かった。

     崩れ、倒れるシルバータイガー。
     アカトラミサキは心なしか肩を落とした様子で、皆へ振り返った。
    「うまく、できなかった」
    「ミサキちゃん……」
     ねぎらいとなぐさめの言葉をかけようとした所で、ぐらぐらと大地が振動する。
     仲間の肩を借りて立ち上がった唯が、火口を指さした。
    「見て、イフリートが……!」
     少しずつ溶岩からイフリートが生まれ始めている。
    「ガイオウガの復活が始まってしもうたんか」
    「協調派の皆さんは、どうなったんですか?」
    「きえて、ない。すこし……」
     火口を覗き、刀をその場に置くアカトラミサキ。
    「ここにも、いる」
    「アカトラミサキ……」
    「おさえておく。にげて」
     アカトラミサキはそれだけ言うと、ひとっ飛びで火口へとダイブした。
     すぐにエネルギーに分解され、溶岩の一部へと混ざっていくアカトラミサキ。
    「アカトラミサキさん……!」
     飛び出そうとするにょろを、想司がぐっと掴んだ。
     新たに生まれたイフリートが次々に飛び出しては、こちらに威嚇の姿勢をとっている。
     命刻もフェリシタスも、炎次郎も心愛も、どうこの場を切り抜けるか考えながら身構えた。
    「様子がおかしいよ。襲いかかってこない」
     漣香の言うとおり、イフリートたちは何かに縛られているようにこちらへその場から動かなかった。
    「アカトラミサキだ! それに協調派のみんなが押さえてるんだよ!」
    「なら、逃げるのは今しか無い、ね」
     一目散にその場から撤退する灼滅者たち。
     そんな中で、唯は渡しそびれたストラップを、ぎゅっと握った。
    「迎えに来るから、きっと」
     炎はあがる。
     大きな戦いの予感とともに。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2016年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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